【十二】先生登場。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/06/26 12:22



■オープニング本文

 北面―――
 まだ国家として成立してそんなに時が経っていないこの国では、実力あるものならば受け入れるという体制をとっている。勿論朝廷を守護するために効率よく兵を集めるためではあるのだが、中には全く守る気のないただのゴロツキが紛れていることも少なくない。さらにそんなゴロツキたちが集まって一つの集団を作り上げてしまうこともある。

「さて‥‥開拓者どもが本格的に動き出したようだな?」
 暗闇の中、一つの声が問い掛ける。声から推測するに若い男のようだ。
「我等に挑んでくる者も当然現れるだろうな」
 更に別の声―――こちらはどうやら老いた男性のようだ。
「べっつにいーんじゃないのー? アタシらの邪魔になるようなら消せば」
 やる気のない声で物騒なことを言う、こちらは女性の声。
「うふふ、蛇子ちゃんやる気まんまんねー」
 こちらは口調はアレだが野太い声。
「まずは小手調べ‥‥私が行かせていただきますよ?」
 また別の男性の声が。
「ふふ‥‥頼んだよ、鼠の」
「お任せを―――」
 そう言って一つの影が姿を消した。

 開拓者ギルド。
 そこは特殊な素質を持った開拓者たちが集い、日々様々な依頼を請け負う場所。
 基本はアヤカシの退治ではあるのだが、中には盗賊退治や人助けなどの依頼もある。
「今回は変な奴が村を陣取ってるらしいんで、そいつを何とかしてくれってこった」
 頭に『粋』と書かれた鉢巻を巻いた半被姿の男はぶっきらぼうにそう言った。こんな姿ではあるが、一応ギルドの受付係だ。その男が手にした紙を集まった開拓者たちに見せる。
「北面の国にあるとある村、そこに盗賊が数人迷い込んで村人を脅してやがる。そいつら自身は大したことねぇみてぇだが、そいつが雇ったってぇ男がどうもやっかいだ」
 そう言って別の紙を机の上に置いた。
 そこには盗賊たちの情報と共に、一人の似顔絵が描かれていた。眼鏡をかけたチリチリのパンチが効いた髪形の男―――どうやらこの男がやっかいな男らしい。
「村長の娘が人質に取られて身動きがとれねぇらしい。卑怯ってなぁこいつのこと言うんだろうな」
 忌々しげに舌打ちする受付係。
「男の顔は特徴的だから間違うこたぁねぇと思うが‥‥相手は何してくるかわからねぇ。変装もお手の物らしいしな。ただし、見分け方がねぇわけでもねぇ」
「変装なのに見分けがつくのか‥‥?」
 開拓者の一人が疑問を口にする。当然だ、バレないいようにするのが変装なのだ。見分けがついては元も子もない。受付係は煙管をぷかぁっと吸うと、煙をゆっくりと吐き出した。
「だから言ったろう? 『変な奴』だって。そいつはどう変装しても変わらねぇ部分があるんだとよ」
 言いながら受付係は手元の紙の一部分を指差した。
「そいつは『ぽぽぽぽ』って笑うんだとよ。さらにどう変装しても髪型は変えれねぇそうだ。名前? そんな物はねぇらしいが‥‥一緒にいるゴロツキには鼠先生って呼ばれてたらしいぜ」
 変な奴には間違いない―――開拓者は心の中でそう断言した。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
赤城 京也(ia0123
22歳・男・サ
薙塚 冬馬(ia0398
17歳・男・志
真田空也(ia0777
18歳・男・泰
雲母坂 優羽華(ia0792
19歳・女・巫
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
御陵 花音(ia1333
15歳・女・巫


■リプレイ本文

●潜入?
 北面の某所。
 盗賊の被害にあっているという問題の村は、緑豊かな自然に囲まれた場所にあった。村自体は何て事のない極一般的な農村。だがその中心部分にある一際大きな建物―――村長の家では似つかわしくない物々しい雰囲気に包まれていた。
 そんな家に近付く影が二つ。
「‥‥何だてめぇは」
 中心の家の門前に立つ明らかに柄の悪い男が目の前に現れた人影をじろりと睨みつける。
「あ、あの‥‥えっと‥‥その‥‥」
 その迫力に押されたのかはたまたそれが地なのか、おどおどした態度で目を泳がせる乃木亜(ia1245)は顔や服に埃や煤を軽くつけてまさしく村娘という格好をしている。道ですれ違ってもきっと開拓者とはわからない程の完璧な村娘っぷり。そんな娘がおどおどしてるのだ、相手が勢いづかないわけがない。男が更に睨みを強くする。
「うちらは村長はんに言われて皆さんにお酒を届けに来さしてもろたんです」
 さすがに見兼ねたのか乃木亜の肩にそっと手を乗せ、柔らかな笑みを浮かべて言うのは雲母坂 優羽華(ia0792)。懐から一枚の手紙を取り出すと男に差し出す。訝しげに中身を確認する男。事前に村長に頼んで書いてもらった文だ、本物には違いない。が、乃木亜の胸中は不安で一杯だ。
「‥‥確かに村長の差し入れらしいな。だが今まであれだけ拒んでたのに一体どういうつもりだ、あぁん?」
 再びじろりと睨む男に、乃木亜は思わず自分の拳をぎゅっと握る。
 一方の優羽華、顔の笑みは崩さないままゆっくりと男に近寄りすっと背中を摺り寄せる。
「な、なんでぇ‥‥」
「まぁまぁ固いこと言わんと。今日くらい酒ぇ飲んで騒いでも、きっと怒られたりしぃひんやろ?」
 しな垂れかかった状態で上目遣いの優羽華は男の顎につつっとその白い指を這わせると、首筋にふぅっと息を吹きかける。効果覿面―――鼻の下が伸びきってしまっている。
「し、しょうがねぇなぁ‥‥と、特別だぞ?」
「ふふ、おおきに」
 口元から涎が零れそうなほどだらしない顔で答える男に礼を述べると、優羽華はわきわきと動くいやらしい手をするりと避けて門の中へ。それに便乗するように乃木亜もとてとてと中に入っていく。
「優羽華さん‥‥すごいですねっ」
「そのうち乃木亜はんにもできるようになりますよって」
 尊敬の眼差しを浮かべる乃木亜に優羽華はにこりと微笑んだ。

●潜伏?
 一方その頃、問題の家の周辺で先程のやり取りを眺めていた影複数。
「‥‥うまくやったようだな」
「あぁ。二人共に何もなけりゃいいんだが‥‥」
 酒々井 統真(ia0893)の呟きに頷く真田空也(ia0777)は敵の気を引くために乗り込んだ二人の仲間の身を案じていた。開拓者とはいえ女性二人―――ゴロツキ相手に安全の保証はない。
「作戦を成功させるには、まず焦らないことです。落ち着いて、合図を待ちましょう」
 柔和な笑みを浮かべて静かに時を待つ赤城 京也(ia0123)は腰に下げた二本の白鞘にそっと手をかけた。家を飛び出し自らの腕を確かめるべくなった開拓者、その機会が目の前にある。胸中に密かな熱を帯びながら京也は口の端を小さく吊り上げた。
「悪い事をする人は、許せないです」
 一際小さい拳をぐっと握り締めて大きな瞳に闘志を燃やす鈴梅雛(ia0116)は聞き取れるかどうかギリギリの声で呟くと、村の人に頼んで貸してもらった縄をぴしんぴしんと唸らせている。どうやら気に入ったようだ。
「‥‥どうでもいいんだけど‥‥あれ、外から見るとかなり間抜けだよね‥‥」
 どこか呆れた顔で屋根を指差したのはのは御陵 花音(ia1333)。一同が指差した方向に視線を移すと、そこにはヤモリの如き姿勢でピタリと張り付いている薙塚 冬馬(ia0398)の姿が。
「‥‥まぁ屋根に取り付いてて外から見られたんじゃ意味ねぇからなぁ‥‥そんなこと想定してねぇし」
 張り付いてたまにかさかさと動く冬馬を見ながら統真は苦笑する。決して本人は遊んでいるわけではないのだ。あくまで様子を伺うためにやっているのである。
「それでは突入合図がある前に最終確認を。鼠先‥‥生は御陵殿と真田殿と私が、数人いるという盗賊を鈴梅殿と酒々井殿が、盗賊の逃亡阻止に張り付いている薙塚殿」
 京也の声に名前を呼ばれた者がそれぞれに頷きを返す―――若干一名は屋根に張り付いたままだが。
「ひいなも、開拓者ですから。鼠先‥‥生は無理でも普通の人が相手なら、何とかできるかもしれないです」
「絶対突っ込んで‥‥いや、捕まえてやるんだからっ!」
 雛と花音がそれぞれに気合を入れる。
 後は潜入した仲間が合図を出すのを待つばかり。
 ―――しばしの空白。
 家の方から軽い爆発音が響き渡ったかと思うと、屋根からもくもくと煙が立ち昇る。
「合図‥‥だよな」
 煙を見ながら統真の頬をたらりと汗が伝う。煙が上がる、とは聞いていたがそれは食材が焦げる程度だと思っていた。が、どうもそれにしては煙の量も多いし匂いも変だ。そのせいかはわからないが張り付いてた冬馬の姿が見えない。
「‥‥とりあえず行きません?」
 苦笑する京也の声に反論する者は誰もなく、一行は問題の家へとその身を滑らせていった。

●合図?
「き、きゃあぁっ!?」
 鍋の中で異様な煙を放つ食材におろおろと慌てふためく乃木亜。そしてその様子を呆然と見つめる優羽華。
「‥‥料理は愛情‥‥でも愛情あってもこれはなぁ」
 最早苦笑しかでてこない優羽華はポツリと呟く。
 確かに仲間への連絡の為に台所を借りて一騒ぎ起こして知らせる、という相談をしてきた。そんなに大事ではなくとも盗賊たちを慌てさせれればそれでよかったのだ。しかし今慌てているのは盗賊だけではなく、家にいた他の人間までもが右往左往していた。
 どうしてこんなことになったのか―――事件は数刻前に遡る。
 家に潜り込んだ二人はその後村長の娘、お燐(りん)の無事を確認すると、優羽華が得意の色仕掛けで盗賊たちにお酌をして回り、存分に酒を飲ませた。
 酔いが回った盗賊たちに、そろそろ合図をと思った乃木亜が台所を借りることを提案、ホロ酔いの盗賊たちは疑うことなく快諾。ここまではよかったのだ、ここまでは。
 そう、乃木亜が謎の食材を大量にぶち込んだ挙句、大量のお酒を投入して火をかけるという暴挙に出なければ。
「どっ‥‥どうして!?」
 更に本人はそれを自覚していない。優羽華が呆れるのも無理はないというもの。
「な、何だ! 何があった!?」
 騒ぎを聞きつけて盗賊二人が駆けつけてくる。振り返った優羽華が小さく舌打ち。それもそのはず、彼女たちは今武器と呼べるものを持っていない。いくら開拓者だとはいえ丸腰では―――
「お前ら‥‥一体なにも―――」
 言いかけた盗賊の一人がかくりと崩れ落ちる。後ろから姿を現したのは統真。預かっていた白鞘でとんとんと肩を叩きながら軽く溜息をついて乃木亜と優羽華に視線を送る。焦ったのはもう一人の盗賊、いきなり倒れた仲間と統真を交互に見る。
「て、てめぇ!? いきなり何しやがる!」
 明らかに素人。見ればわかるほどの無茶苦茶な構えで刀を構える男に統真は溜息をつくと、無造作に手にした白鞘を放り投げた。投げられた白鞘を乃木亜が宙で受け取り、そのまま男に振り下ろす。二人目の男、沈黙。
「随分早う来てくれたんやね」
「へっ、そりゃあんだけでかく騒いでくれりゃあな」
 にこりと笑う優羽華に、統真は人差し指を鼻の下でくしくしさせながら言う。
「そういえば雛さんも一緒だったのでは‥‥?」
「えっと‥‥ここをこうしてー‥‥できましたっ」
 変装用の召し物の乱れを直し白鞘を腰帯に直しながら尋ねる乃木亜に、統真はくいっと後ろを親指で指差す。見ると何故か嬉しそうに気絶した盗賊を縛り上げていく雛の姿が。
「えーと‥‥何があったん?」
「わからんが‥‥何か気に入ったらしい」
 困った顔で言う統真に、二人は苦笑で返すしかなかった。

●先生登場?
 盗賊含む家の中の人間は、響き渡る炸裂音と突然噴き出した謎の香りに面食らっていた。やれ火消しを呼べだ、やれ水はどこだと騒ぎ立てる。そんな混乱に便乗して家中を駆け抜ける空也、京也、花音の三人。
 だが広いとはいえたかだが村長の家、見慣れぬ影―――まして武装していればすぐに侵入者だとバレてしまう。
「てめぇら! どっから入りやがった!」
 怒声と共に三人の盗賊が各々の武器を構えて立ち塞がる。とはいえやはり素人、構えだけでもその未熟さが露呈している。それを見た京也、自身の白鞘を抜き放つと口元ににやりと笑みを浮かべた。
「向かってきますか‥‥面白い、相手になるぞっ!」
 戦闘となるとやはり血が騒ぎ出すのか若干口調を荒くしながら、京也は向かってくる男の一太刀目を利き手を返して弾き返す。たたらを踏む男との距離を一気に縮めるとそのまま白鞘で鳩尾に突きを入れる。かはっと息を吐き出し膝を付く男。余りのあっけなさに京也はふぅと溜息をついた。
「この程度か?手ごたえのない奴等め‥‥」
 一方空也の方はもう一人の男が繰り出す斬撃の遅さに欠伸をしていた。
「おっせぇぇぇぇぇっ!」
 男の刀を身を捻ってかわした空也はその反動を利用して男の顔面に裏拳を叩き込む。己の身体を武器と化して戦う泰拳士の拳は凶器そのもの。拳のめり込んだ男が沈黙するには十分だった。
 二人の男が沈黙するまで僅か数秒―――残された男が状況を把握するには更に数秒が必要だった。
「さぁ、残すところはあなた一人よっ!」
 ビシッと男を指差す花音に動揺を隠せない男。後ろの方で空也と京也が揃って「あんた何もしてないだろ」と突っ込んでいたが花音には聞こえない。台所のほうを見に行った仲間も帰ってこないところを見て、どうやら追い詰められたらしいことを把握した男は、小さく呻いて大声で噂のアノ人を呼ぶ。
「くっ‥‥こうなったらっ‥‥先生! 鼠せんせーい!」
 男の呼びかけと同時に物陰からすぅっと姿を現す一つの影―――チリチリに巻いた頭に薄暗い眼鏡をかけ、洋装を身に纏った男。
「ぽーぽぽぽぽ。やはり現れたな開拓者どもめ。だがこの鼠、そうそう簡単に捕まるような愚かな真似は‥‥って痛たたたたっ! 何をするんだいきなりっ!」
 言葉の途中で何か小さな丸い物が飛来して思わず身を縮める男―――鼠先生。怒鳴り声を上げる鼠の視線の先には空也が豆を持ったまま固まっている。
「え? いやぁ、鳩みたいに煩かったもんで‥‥豆ぶつけたら驚くかなぁと。本当に驚くんだなぁ」
「鳩じゃないわぁぁっ!!」
 感心して一人頷く空也に全力で突っ込む鼠先生。
「何なんですかぁ〜?そのチリッチリの頭!ぶっちゃけダサいですよー!セ・ン・パ・イ♪」
 花音は滅多に見せることのない満面の笑みを浮かべて、込めれるだけの嫌味を込める。勿論相手を挑発することが目的ではある。が、彼女はもう挑発に全てをかけているような気がしてならない。だが鼠は余裕は崩さない。
「ぽぽぽぽ、何とでも言うがいい! どうせお前たちは何もできないのだから!」
 自信満々に言い放つ鼠先生、指をパチンと鳴らす―――が、何も起きない。訝しげに首を傾げた鼠は何度もパチンパチンと鳴らすが、やはり何も起こらない。
「探してんのはこいつらのことか?」
 鼠の後方、縄で縛られた盗賊が二人放り込まれる。その後から統真、雛、乃木亜、優羽華、そして救出されたお燐の姿。
「形勢逆転、だな」
 拳をゴキゴキと鳴らしながら近付く空也。他の仲間も徐々にその円を縮めていく。
 と、その隙に残った一人の盗賊がその場を離れようとダッシュで廊下を駆け抜ける。今は全員鼠先生を囲んで―――いや、全員ではなかった。走り出した男の頭上が突如メリメリと音を立てて割れ、上から一つの影が着地する。
「悪いがここは通行止めだ」
 腕を組み、男の前に仁王立ちして現れた影は冬馬だ。だがその全身は何故か煤けていており、そして何より驚いたのがその髪型。髪の毛が逆立ってツンツン頭になっている。一体彼似何があったのか―――それは彼のみぞ知る。その場にいた全員の時が止まる。だが、その一瞬の隙に鼠先生が動いた。
 まず被害にあったのは雛。彼女のすぐ傍に移動した鼠先生は手元から一匹の蜘蛛をそっと肩に乗せる。
「えっ‥‥虫っ!? ‥‥‥‥はぅ」
 視線の先に蠢く八本足の生き物を確認した瞬間、雛はふぅと気を失う。すぐ傍の統真がそれを支えて事なきを得たが、これで方位の一画は崩れることになる。だがそこは開拓者。それを埋めるかのようにすぐに立ち塞がる乃木亜。だが一瞬で距離を詰めた鼠先生、乃木亜の耳元に素早く口を近付け―――
「‥‥意外と大きいな、うしちち」
「‥‥‥‥‥‥うし、ちち‥‥」
 乃木亜、顔を真っ赤にしたままがっくしと崩れ落ちる。更に一人脱落。その後ろから再び回り込むのは花音。
「逃がすかっ!」
 叫ぶ花音に鼠先生はくるりと身を捻らせて素早く後ろに回りこむ。
 あっという間の出来事。
 全員がその動きに気付いて身を翻したときには、そこに花音が二人いた―――ただし、片方はチリチリ頭のままだ。
 先程止まったばかりの空気が今度は凍りつく。感じてないのは当の本人だけ。
「み、みんなどうしたの?」
 声もよく似ている。似ているだけに、間抜けだ。
 しばしの沈黙。
 やがて我慢できなくなった花音の肩がぷるぷると震えだす。
「お‥‥お‥‥お前だけはぁぁっ!? その髪の毛さらさらにしてやるぅぅっ!」
「あぁっ!? 痛い痛い! ちょっと何するのよっ!?」
「こ、声を真似るなぁぁぁぁぁぁっ!!」
 この後に起きたことは、その後依頼を共にした仲間に尋ねても誰一人として答えるものはいなかった。
 言えることがあるとすれば唯一つ。花音怒らすべからず―――この一言に尽きた。

●その後?
「ありがとうございましたっ」
 ぺこりと頭を下げるのは村長の娘お燐。同時に困っていた村人たちも一斉に礼を述べる。
「気にすることはない」
 多分格好良く決めているのだろう冬馬がふっと笑みを零して答える。しかし村人の視線が自分のつんつん頭に釘付けだ。彼の中で何かその髪型が気に入る要素があったのかもしれない。
「まぁみんな無事でよかったな! ‥‥って雛、お前まだやってんのか‥‥」
 にかっと笑う統真がふと視線を落とすと捕らえた鼠先生の縛り方を一生懸命考える雛の姿が見えた。
「だって‥‥蜘蛛のお返しをまだしてませんし。なかなか鼠さんぽい縛り方にならないのです」
「どんなだ、それは‥‥」
 真剣に悩む雛の姿に、その場の全員が苦笑を浮かべる。
 こうして村を荒らした盗賊と他一名は開拓者によって無事捕縛された。

 〜了〜