【勿恋】忘れぬ声。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/31 14:05



■オープニング本文

●すれ違い。
 神楽の都。
 秋の色が濃くなり、一層過ごしやすくなった街の中を、とある一団が歩いていた。
 都の往来、しかも昼時とあって多くの人が街中を歩いている。
 一見すれば商人風の男たち。しかしどうも様子がおかしい。
 真昼間だと言うのにまるで人目を避けるかのように、辺りに気を配りながらこっそりと歩いているのだ。
 勿論それがかえって怪しいということに本人たちは気付いてはいないようだが。
 その一団の中、一人だけ全く意に介せず堂々と歩く男がいた。
 どこか風格の漂う男は、自分の周囲にいる仲間たちを見やって溜息を一つついた。
(こんなのでよく密輸とかやってるよな‥‥)
 胸中で一人愚痴りながらも、男は無言でついていく。
 そう、彼らはとある武家屋敷が抱える密輸集団。
 運ぶモノは様々で、中には非常に危険なモノも混じっていたりするらしい。
 男はその中でも、万が一に備える用心棒のような役割にあった。
 当然、腕にも自信がある。
(神楽に来てから、もう結構経ったな‥‥)
 男はふと、空を見上げた。
(‥‥あの子、元気にしてっかねぇ‥‥)
 呟く男は、何かに導かれるように視線を移す。
 その視界に一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、自分が過去一度だけ惚れた女性の、珍しい髪色を捉えたような気がした。
 慌てて視線を泳がせるも、そんな色はどこにも見当たらない。
(まさか、な‥‥そりゃそうだ。今頃はジルベリアにいるはず‥‥第一見つけたとしても、殺されてやるぐらいしか俺にはできねぇしな‥‥)
 かつて一度だけ、自分が想いを寄せた女性。
 自分とは不釣合いなほど、美しい女性だった。
 しかし彼は任務のために事件を起こし、彼女はその居場所を失った。
 その後、彼女の姿を見ることなく、彼はすぐ天儀へと戻り、再び転々と渡り歩く日々に戻った。
 そう、それっきり――
「――さんっ!?」
 どこかで自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
 懐かしい、そして暖かい声――
(ったく、どうかしてんな‥‥これじゃガキと変わらねぇじゃねぇか)
 幻覚に次いで幻聴まで聞こえてきた、と男は自身の疲れを感じ、溜息をつく。
「おい咲崎、ぼけっとしてんじゃねぇ! さっさとコレを運んじまうぞ!!」
「‥‥わぁったよ」
 急かされて男は再び歩き出す。
 その足元に、小さく勿忘草が佇んでいた――

●開拓者ギルド。
「商品の奪還、ですか?」
 依頼内容をしたためた紙に目を通しながら、ギルドの受付嬢――名瀬奈々瀬は呟いた。
「あぁ。屋敷から盗まれたんだ‥‥大業物の刀なのに‥‥」
 依頼人である男はそう言って悔しそうに唇を噛む。
 彼は北面の武器商人だそうだ。
 何でも先日名刀と呼ばれるほどの刀を手に入れたそうなのだが、それを賊に奪われたらしい。
 その後賊は捕まったのだが、肝心の刀は既に売却して、今は神楽のとある屋敷に運ばれたのだとか。
 困り果てた商人は、私財を投げ打ってこうしてギルドに依頼をしにきたのだ。
「刀さえ取り戻してくれればいいんだ! 頼む!」
 懇願する男に、奈々瀬は「わかりました」と呟くと、手元の依頼紙に文字を書き始める。

 こうして次の日、刀奪還の依頼が開拓者ギルドに並ぶこととなった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
郁磨(ia9365
24歳・男・魔
羽流矢(ib0428
19歳・男・シ
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫
アーニー・フェイト(ib5822
15歳・女・シ
玖雀(ib6816
29歳・男・シ
仁志川 航(ib7701
23歳・男・志


■リプレイ本文

●表門。
 神楽某所にある屋敷を前にして、闇に紛れた四つの影が静かに様子を窺っていた。
 小さな影が二つと、青年らしき影二つ。
「物取りですか‥‥こういうのも無くならないものですね」
「まぁよからぬことを考える人はどこにでもいるものですからね」
 小さく呟いてはふと息を吐いた繊月 朔(ib3416)に、三笠 三四郎(ia0163)は苦笑を浮かべる。
「そうですね‥‥アヤカシも厄介ですが、こういうのも困りものです」
 屋敷の入り口に視線を向けた朔。言いながらも自身がアヤカシの関与の可能性を捨てきれず、そっと目を閉じると周囲に結界を張り巡らせる。
「‥‥どうでしたか?」
 瞬時に何をしているのかを理解した三四郎が朔に問いかける。
「いえ、どうやらアヤカシの類ではないようです」
 静かに首を振る朔に、三四郎もほっと胸を撫で下ろす。
「そうですか。でも確か用心棒がいるんですよね。そちらは十分気をつけなくてはいけませんけど‥‥」
「ある意味アヤカシよりやりにくいですしね」
「そ? あたしは人のほうがやりやすいかもなぁ。だって騙しやすいじゃない?」
 にしし、と悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべるアーニー・フェイト(ib5822)に、郁磨(ia9365)もまたへらりと笑みを浮かべて頷いた。
「そうだねぇ〜、騙されたーってわかったときの人の顔とか、たまらないよねぇ〜」
「お? わかってんジャン」
「お二人とも‥‥程ほどにしてくださいね?」
 何だかよくわからない感覚を共感する二人に、朔は思わず苦笑を浮かべた。
「わかってますよ〜。それにしても‥‥大業物を盗むなんて、大層な事しますねぇ〜」
 相変わらずののんびり口調のまま、どこか呆れたような笑みを浮かべる郁磨。
 確かに刀の中でもかなりの上物を堂々と盗み出したのだ。下手をすれば簡単に足がついてしまう。
「盗品ねぇ‥‥売れればいい稼ぎなんだろーけどさー。さばくのムズいし、あたしたちがここにいるみたいに、足がついちゃしょーがねぇよなぁ」
 アーニーの言うことは尤もである。
 どんなにいい品物を盗んだとしても、こうも簡単に特定されるような物は、結局買い手がつかないのだ。
 勿論、売ることを前提にしている場合は、だが。
「何にせよ、依頼通り取い返しませんと、ね」
 三四郎の言葉に三人は頷き、静かにその身を屋敷の中へと滑らせた。

 屋敷の中は本宅が一つと裏手に小さな蔵のような物が一つあるだけの、至って簡素な作りになっているようだ。
 事前に下調べは済んでいることもあり、目的の物は大して苦労せずに見付かりそうだ。
 しかしそれは相手側にとっても同じこと。つまり――
「おい待て!?」
「くそっ、侵入者だーっ!」
「奴はどうした! 早く呼べー!」
「ダメだ、裏口の方に人手回ってんだよっ!」
 口々に叫ぶ屋敷内の人間。屋敷を護るという意識はあるようで、それぞれ刀を手にしているものの、やはり一般人というところだろう。
「やれやれ‥‥まぁただ盗むだけなら私の出番はないでしょうから、漸く少し役目が回ってきたのでしょうか」」
 言いながら三四郎はスラリと刀を抜き放つ。
「ふふー。用心棒の人が来るまでは〜、俺もコレで闘おうかな〜」
 相変わらずの笑みを浮かべたままの郁磨は、持ち慣れた杖の代わりに忍刀「暁」を握り締めた。
 相手が武装していると気付いた屋敷の人間は大慌て。取り合えず囲もうとしている者もいれば、ただわたわたと走り回る者もいる。
 勿論それを利用しない手はない。
「ん、それじゃあたしらはブツを探しにいくから、足止めヨロシク!」
「すみませんがよろしくお願いしますっ」
 ひらひらと手を振るアーニーとぺこりと頭を下げる朔。二人はそのまま混乱に紛れて屋敷の中へと姿を消す。
「‥‥どうやら用心棒はいないようですね」
 三四郎は周囲に鋭い視線を張り巡らせるが、どこを見ても腕の立ちそうな者はいない。
「ん〜、まぁそのうち出てくるかもしれませんし。出てきたら考えましょう〜。それに‥‥」
 徐々に狭まる包囲網を見回した郁磨は、そこで口の端を僅かに上げた。
「悪い子にはお仕置きが必要でしょ〜?」
「‥‥誰かじゃありませんけど、程ほどにしといてくださいよ」
 どっちが悪い子なのかと言いたくなるような笑みを浮かべる郁磨に、三四郎は再び大きな溜息をついた。

●裏門。
 屋敷裏門。
 表側が何やら慌しくなっていた頃、裏門でもちょっとした騒動が起きていた。
 表と同様裏門より侵入を試みた開拓者四人。
 羽流矢(ib0428)が手引きすることで可能な限り迅速に潜入をするつもりだったのだが、その前に一人の男が立ちはだかったのだ。
「ったく、何かしら手を出してくるとは思ってたが‥‥まさか開拓者雇うとはなぁ」
 溜息交じりに出された男の言葉にやる気はほとんど見えない。
 が、その立ち姿に隙らしき隙は見当たらないことから、男が腕利きであることだけはわかる。
 恐らくこの男が一番の障害にはなるのだろう。
「はぁ。早速当たり引くって、ついてないのかな」
「いーじゃねぇか。手間が省けたと思えば」
 もっさりとした黒髪をがしがしと掻きながら呟く仁志川 航(ib7701)は、嬉しそうに口端を歪める玖雀(ib6816)をちらりと見やる。
「何でそんなに喜んでるんですか? 普通ここってもっとこう‥‥悔しがったりするとこじゃないんですか?」
 呆れ半分疑問半分、と言った口調で問う航。
「ん? 強い奴と闘えるってのは楽しくないか?」
「えー‥‥面倒は避けたほうがいいでしょ。九竜さんもそう思いません?」
 声を掛けられた九竜・鋼介(ia2192)は「そうだな」と小さく呟いた後――
「面倒はごめんどぅ」
 瞬間、一行はまさしく時が止まったような錯覚を覚えた。
「えっと‥‥」
 どう言葉を掛けていいのか迷う航を余所に、当の本人は全く気にする様子もなく目の前の敵に刀を向ける。
「さて。手堅くいくつもりだったんだけど‥‥まさか最初から見付かるとは思ってなかったな。ひょっとして同業者かな?」
 頭巾の奥の瞳を男に向け、羽流矢はそっと懐に手を入れる。
 と、男の姿が忽然と消えうせた。
 一瞬の判断――羽流矢は勘だけで右方に飛ぶ。同時、羽流矢のいた場所を一筋の鈍い光が薙いだ。
「お? 避けられたか‥‥同業者ってなぁそういう意味かぁ」
 どことなく気の抜ける声の男。
 だが開拓者たちにとっては不気味でしかない。
 男はそのまま体勢を整えきれていない羽流矢を狙う。
「させるかよっ!」
 声と同時、瞬時に男の後方に身を躍らせた玖雀が手にした礫を弾き出す。
 高速で撃ち出された礫を、男は翻す身とその手に持つ刀で払う。その間に羽流矢は体勢を立て直し後方へ飛ぶ。
「お前の相手はこっちだぁっ!」
 地を揺るがす勢いで放たれた九竜の声に、男は思わず視線を向ける。
 ピィー‥‥ピィー‥‥ピィー‥‥
 鳴り響く笛の音。三度の音は仲間内で決めた強敵の出現の合図。
「これで向こうには伝わったはず‥‥!」
 誰にともなく呟いた羽流矢は呼子笛を懐にしまう。
 相手はどうやら同業者、それもシノビの類。
「闇に紛れるってわけにもいかない、か」
 と、その羽流矢の傍に、弾き飛ばされた玖雀が着地する。
「大丈夫かい?」
「ふん、こうでなくちゃ面白くねぇ‥‥!」
 言いながら口から垂れる一筋の血を強引に拭い去る玖雀。
「まぁあくまで時間稼ぎだしね。表組が上手く刀を取ってくれればそれで――」
 羽流矢の言葉を乾いた音が遮り、鋼介と航が押し返されてくる。
「っ! ‥‥これぞほんとの同士討ち‥‥って洒落にもならねぇ‥‥正直キツイぞ」
 鋼介の口から思わず苦笑が零れる。
 と、ここで男は突如刀を下ろした。
 訝しげな視線を送る四人に、男は一瞬迷うと――
「なぁお前ら‥‥ここは引いてくんねぇかな? 俺もあんまし面倒なことにしたかねぇんだわ」
 突然告げられた宣告。
「自分で何を言ってるのかわかってるのか?」
 鋼介の言葉に男は「勿論」と肩を竦めた。
 そこで羽流矢が一瞬だけ視線を這わせる。その意味を受け取った仲間はこくりと頷いた。
「‥‥少し、考えさせてくれないかな? これでも一応仕事だし、さ」
 困ったような表情を浮かべる羽流矢。
 勿論真意は別にある。時間を稼ぐことができれば、目的は仲間が達するだろう。ならば闘わずとも足止めをすればいい。それが視線の意味。
「それにしても‥‥なんか、腕はたつみたいだけど、こんな役割で満足かい?」
 問い掛けたのは航。その言葉に一瞬だけ、男の眉が動く。
 彼にしてみれば純粋な問い掛けだったのだろう。
「例えば金稼ぐんだったら、もうちょい、人に話せる仕事がいいと思うけど?」
 言い終えると同時――男の身体から強烈な殺気が放たれる。
 先程までの雰囲気はどこへやら、男はぎろりと航を睨み付けると、ゆらりと刀を構えた。
「‥‥あれ? 何かマズイこと言いました‥‥?」
 突然の豹変に言った航の頬に一筋の汗が流れる。
「少なくともあの男には、良くはなかったみたいだな」
 玖雀は獰猛な笑みを浮かべて刀を構える。彼にとっては強敵と戦えるのは余程嬉しい部類に入ると見える。
「――来ますよ!」
 周囲の緊張が弾けるその瞬間――屋敷内に長い笛の音が鳴り響いた。

●屋敷内。
 表より侵入したアーニーと朔は、時折遭遇する武装した男たちを適度に薙ぎ倒しながら屋敷内に侵入。
 男たちが慌てて向かう先についていったら、刀はあっさりと見付かった
「何だ、随分アッサリしてるね。ラクショーラクショー」
「な!? き、貴様ら――げふぅ」
 声に驚いて振り返った男に鞭の一撃。
「テカゲンしてるから安心しなよ」
 言いながら鞭を巻き取るアーニーに、男たちはそれぞれ得物を構える。
「何モンだてめぇら!?」
「そう言われて名乗るヤツ、いんの? でもまぁ今回はサービスってことで――」
 にやりと笑みを浮かべたアーニーは、隣にいた朔の肩にそっと手を乗せる。訳がわからずかくりと首を傾げる朔。
「あたしたちは天儀の山猫――怪盗ワイルド・キャットよ」
「‥‥えぇぇぇっ!? 聞いてないですよっ! というか私まで巻き込まないでくださいよぉ〜!」
 いつの間にか自分も含められていることに、若干の恥ずかしさもありわたわたと手を振る朔。肝心のアーニーは「いーじゃん♪」と笑みを浮かべる。
「ちっ‥‥賊風情が調子に乗るなよ!」
 舐められていると思ったのか、男たちが一斉に二人に襲い掛かる。
 しかしそこはたかだか一般人。開拓者の敵ではない。
 振り下ろされた刀をひょいと避けたアーニーは翻す身で回し蹴りを放つ。吹き飛ぶ男。
「なっ‥‥こ、こいつらバケモンか!?」
「こんなか弱いオトメを捕まえてバケモンとか失礼だねー。だいたい賊はどっちだって話よ」
 軽口を叩くアーニーだが、その身のこなしはまさしく山猫。男たちの振るう刀を軽々と避けていく。
「お、おい、コイツ強いぞ‥‥! もう一人のほうを狙え!」
 明らかに分が悪いと悟ったのか、今度はどこかいじけてた様子の朔に狙いをつけ始める。
 その朔はというと。どこか黒いオーラを纏ったまま、ゆらりと霊刀「カミナギ」を構える。
「巫女と思って舐めないで下さいねっ! 私だって、カミナギくらい振るえるんですよ!」
 若干涙目の朔は、男たちの刀をカミナギで受け止めると、そのまま弾き返して薙ぎ払う。
 情けない悲鳴を上げながら男たちは倒れ伏す。
「にっしし、これで立派な山猫だね♪」
「うぅ‥‥不本意です‥‥」
 かくりと肩を落とす朔を見ながら、アーニーは手に持った笛を勢い良く吹いた。

●再び裏門。
 鳴り響く笛の音に男は慌てて振り返る。
「ちっ‥‥アンタらは囮、か‥‥」
 舌打ちする男は目の前の四人をぎろりと睨み付けるとと、すぐに反転。一路屋敷の方に身体を向けると一気に地を蹴る。
「ここは‥‥通しませんよ!」
 立ち塞がったのは屋敷の中から現れた三四郎。
 男は勢いそのままに「どけっ!」と叫ぶと刀を抜き放つ。
 乾いた音と共にぶつかり合う刀。
 だが防御に全力を置いた三四郎は容易に抜くことはできるはずも無く。
 男の刀を受け止めた三四郎の後ろから、更に飛び出す一つの影。
「アンタ‥‥俺達と戦うより、もっと大事な事があるんじゃないですか!?」
 叫ぶ郁磨の翳した杖から放たれる白き光弾。
 身を捻って光弾を避けた男は一旦その場から距離を取る。
「知った風な口を‥‥!」
 郁磨を睨む男に先程までの余裕はない。
「何か、怒ってますね‥‥?」
「えーと、原因はわからないんですけどね‥‥」
 苦笑する航に一瞬視線を送った三四郎は再び視線を男に戻す。
「まぁ‥‥ちゃんと観察さえすれば五分には闘えるでしょうけど」
「へぇ、随分自信がおありのよーだ」
 三四郎の言葉に男はにやりと笑みを浮かべると、再びその姿を消す。
 次の瞬間、三四郎は自分の首元にちりっとする感覚を覚えて思わず身を屈めた。
 銀の筋が三四郎の首があった場所を薙ぐ。
 間一髪――だが屈んだ三四郎の腹を、今度は強烈な蹴りが襲う。
 鈍い痛みと共に三四郎の表情が苦痛に歪む。
「おー、固ぇ。言うだけのことはあるねぇ」
 ぷらぷらと足を振る男に、今度は羽流矢の手裏剣と玖雀の礫が襲い掛かる。
 飛来する礫と手裏剣を刀で払い落とした男に、航と鋼介の斬撃が迫る。
 返す刀で男は受けるが、さすがに受けきることで精一杯のようだ。
「さすがに人数が多いっての‥‥!」
 軽く愚痴を零す男に、戻った三四郎が刀を思い切り振り下ろす。
 その勢いで思わず仰け反った男の腹に、郁磨の杖から放たれた光弾が命中。
 吹き飛んだ男は思わず片膝を地につけた。
 同時に、屋敷内から飛び出す二つの影。
「皆さん、目的達成ですよっ!」
 朔の声に頷きを返す開拓者たち。
「残念だが、今回はここまだな」
「そーゆーこと、そいじゃねー」
 玖雀の言葉に続けたアーニーが地面に手をつけると、辺りは一気に煙に包まれた。

●終えて。
「はぁー疲れたー」
「お疲れ。ま、無事取り返せてよかった」
 くたりと座り込んだ航の肩を鋼介がぽんと叩く。
「うぅ、怪盗になっちゃいました‥‥」
「にしし、ほら、旅の恥は何とやらとか言うし」
「そういう問題じゃありませんっ!」
 相変わらず言い合うアーニーと朔を横目で見ながら、三四郎は自身の腹をそっと撫でる。
「これが大業物‥‥」
 月光に翳した刀紋に、かつて護りきれなかった主君を重ねる。
 そして今日闘った相手を思い返し、更なる自身の躍進を静かに誓う。
「アノ人‥‥何かから逃げてるような気がしたんですけどねぇ」
 小さく呟いた郁磨。
 可能であれば説得をしたかったと考える。
「何か理由があったんでしょうかね?」
 郁磨の言葉に隣にいた羽流矢は静かに首を振る。
「まぁ無事に終わったんですから、ヨシとしましょう」
 伸びをしながら言う羽流矢。
 勿論、異論を口にする者などいなかった。

 〜了〜