【修羅】鬼、狙う。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/04 11:46



■オープニング本文

●鬼達の葛藤
 精霊門の彼方に封じられていた儀――陽州が解放され、人間は修羅と共に歩む道を選ぼうとしている。
 しかし和議の為に立てられた人間と修羅の使者、双方が何者かによって殺害された。
 これの犯人はアヤカシだという目撃情報があり、真偽を見定める為にも神楽の都の開拓者ギルドでは開拓者を募り、アヤカシ討伐に赴く者達が集まっていると聞く。
 だが‥‥。
「これが朝廷の策略でないと何故言い切れる!?」
 修羅のとある一党が苛立ちを爆発させた。
 五〇〇年前の出来事を直に知る者は無くとも、あの時を知る者から口伝えに聞いた過去は、彼らに人間を憎ませるには充分過ぎる。
 共に歩めるならばと、修羅の王・酒天が間に立って執り成そうとするから人間と共存しようと考える同族も出て来たが、この場に集まる修羅の本音は「そんなふざけた話があるか」だ。
「友好的なフリをして今度こそ俺達を根絶やしにしようとしているのかもしれん!」
「人間はそういう連中だ!」
「だったらやられる前にやってやろう‥‥っ」
「やられる前に、か」
 一人の修羅が笑う。
「それこそ人間の常套手段だ」と。
 ――間もなく、これ以上は人間の好きにさせてなるものかと考える彼らの狙いは朝廷への影響力が有ると思われる二人の人物に絞られた。
 大伴定家と豊臣雪家。
 聞けば今回の和議に関し近々二人が直接会う機会があるという。
 場所は開けた庭園に面した座敷。修羅達ならば、その機に二人を暗殺する事は容易に違いなく。



 修羅の青年が神楽の都へ急いでいた。
 彼は、仲間の密談を偶々耳にしてしまったのだ。
(ダメだ‥‥っ)
 彼らの怒りは判る。
 恨み、憎しみも、その所以も、他人事ではないから。
 それでも彼は思うのだ。
 憎しみの連鎖などあってはならない、戦は絶たねばならないと。
(修羅が人間を殺せば過去の戦が繰り返される‥‥っ、そうして今度こそ本当に絶たれるのは修羅の一族かもしれないのに‥‥っ)
 止めなければならない、絶対に。
(早くこれを誰かに知らせて仲間を止めて貰わ、ない、と‥‥――)
 不意に青年の足が止まった。
 彼は肝心な事を忘れていた。
 それを『誰』に話すのか。
 人選を間違えば暗殺を企てたという、その計画だけで修羅の一族を滅ぼす理由にされてしまう。
「‥‥っ」
 誰を信じ、誰を頼ればいいのか青年にはまるで見当がつかず、もはや立ち尽くすしかなく。
 そんな彼が『彼ら』に遭遇したのは、ともすれば修羅一族の未来を照らす光りだったのかもしれない。
 彼らは大伴公、豊臣公、それぞれの家臣。
 正に修羅の一党が暗殺計画を企てた会合、その打ち合わせで会っていた二人だったのだから。



●大伴公の使者から
「大伴公の暗殺、ですか?」
 余りに突拍子のない話に、ギルドの受付員はぽかんと口を開ける。
 だが、確かに朝廷を快く思わない者にとっては、大伴公の暗殺は確かに有効であるかもしれない。
「とはいえ実際に行われてしまえば、それこそ朝廷内が大きく揺れる。しかも相手は修羅の一族の者‥‥心象が悪くなる程度で済むはずがない」
 と、依頼人である――正確には代理になるが――男は言う。
 それもそのはず、修羅一族とは漸く会合ができる程度に交流が持てたばかりだ。その矢先にそんなことになれば、それこそ全面的な戦争になってもおかしくない。
「それで‥‥ギルド側としてはどう対処すれば宜しいのですか?」
 受付員の言葉に、依頼を持ってきた男は若干眉を潜めた。
「‥‥修羅とは和議を結ぶ――それが朝廷の意思だ。我々も暗殺を企てている修羅に対しても平和的な解決を望んでいる。出来れば説得を。説得が難しければ捕獲を。捕獲後に朝廷側で身柄を預かり、説得を続ける。だがもし、説得も捕獲も困難な場合には始末もやむを得ず‥‥その場合には彼らを『アヤカシとして』討伐せよ、とのことだ」
「! ‥‥それは‥‥」
 聞き分ければヨシ。
 さもなくば消せ。
「‥‥大伴様はご存知なのですか?」
「無論。だからこそ開拓者たちに頼むのだとおっしゃっておられたぞ」
 どうやら信頼はされているらしい。
「説得するにしても‥‥何か決め手がなければ難しいですね」
 この状態で襲ってくる相手は思考が理想やら反発やらに支配されているため、説き伏せるのが至極難しい。
 まして相手は頭を狙ってくるような思考の持ち主だ。そう簡単には説き伏せれないだろう。
「まぁ最悪捕縛するだけで良いのだ。何とか頼む」
 そう言って依頼人の男は深々と頭を下げた。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
トィミトイ(ib7096
18歳・男・砂


■リプレイ本文

●捕縛。
 大伴公暗殺計画。
 その報せは開拓者だけではなく、当然朝廷にも流れている。
 勿論暗殺を食い止めたのは、今回集まった七人の開拓者たちに他ならないが、今後のことを考えれば朝廷側の人間が動くことは何ら不思議はなかった。
「大儀であった。よくぞ食い止めてくれた」
 朝廷よりの使者である男は、そう言って礼を述べた。
「食い止めたわけではない。ただ、望む事柄が同じであったに過ぎぬ」
 神妙な面持ちで喪越(ia1670)は頷く。
 その様子を隣で見ていた酒々井 統真(ia0893)は、眉を潜めて苦い表情を浮かべた。
「‥‥何か?」
「いや‥‥どーもそのしゃべり方っつーか‥‥慣れねぇ」
 表情を崩さぬまま言う喪越に、統真は頭をガシガシと掻きながら呟く。
「ふ‥‥細かいことは気にするな。望むのはただ一つ――らぶあんどぴーす、そうだろう?」
「言ってる事の意味のわからなさだけは前と変わらないことはわかった」
 コメカミを押さえる統真に、肝心の喪越は「悲しき哉」と呟いて静かに目を閉じた。
 コホン、と使者の男が咳払い。
「して、その女が問題の暗殺者、か?」
 先程から身じろぎすることなく静かに座っている、頭からツノを生やした女――彼女こそが大伴公を狙った暗殺者であった。
「捕縛したと聞いていたが‥‥?」
 ただ単純に座っているだけの暗殺者を前に、男はじろりと一行を睨み付ける。
「その子にもう危険はないわ」
 賀 雨鈴(ia9967)が放った言葉に、男はぴくりと眉を上げる。
「何故そう言い切れる? 大伴公の命を狙ったのは事実なのであろう?」
「確かに彼女は許されざる事をしました‥‥しかしそこには理由があります。それらを解消することは到底できませんが、少なくとも彼女は選んでくれました‥‥僕たちとの未来を」
 男に答えるような形で、千見寺 葎(ia5851)は小さく、しかし力強く頷く。
「‥‥理由はどうあれ――」
「お願いします。一人の人間として‥‥共に歩むことを願う者として。彼女にも余地を与えてください」
 言葉を遮るように、普段のおっとりさからは想像できないような強い意志を全面に、白野威 雪(ia0736)は言った。
 さすがの男もここで一旦言葉を止める。
「戦争になれば人間も修羅も市井の人間を巻き込む事になるのが嫌なのよ、みんな、ね」
 若干の苦笑を交えた葛切 カズラ(ia0725)は、そう言って肩を竦める。
 それは彼ら開拓者にとっても、そして暗殺者にとっても同じことだった。関係のない者まで巻き込むことは望んでいない――だからこそ暗殺という手段に出たのだから。
「それに、面白い話も聞けたと思うぜ?」
「そうですね。僕たちの話も聞いて戴けるのでしたら‥‥少し変わるかもしれません」
 にやりと笑う統真にコクリと頷く葎。
「ちっ‥‥これだから朝廷の人間は‥‥」
 聞こえないように小さく呟くトィミトイ(ib7096)の肩に、雪がそっと手を乗せる。
 振り返ったトィミトイの瞳を、雪の瞳が捉える。
 じっと視線を逸らさない雪にトィミトイは溜息を一つついた。
「‥‥わかっている」
「そうですか」
 にこりと微笑みを浮かべる雪。
「ふむ‥‥事情はわかった。では報告をしてもらおうか」
 男の言葉に一同は頷きを返す。

 時は少し遡り――

●襲撃。
「そっち行ったぞっ!」
「わかったわ! ‥‥思った以上に見難いわね‥‥!」
 統真の怒鳴る声に、雨鈴がこちらも大声で答え、鮮やかな紅と白の弓を構える。
 一行が大伴公の影武者と共に屋敷に入るときを狙い、突如辺りを白い煙が包み込んだ。
 決して警戒を怠っていたわけではない。
 しかし発見は寸前になってしまった。
 狙う人間が決まっていた以上、それを確実に屠るために周囲の意識を削ぐ。常套といえば常套の手段だ。
 そしてこの目くらましのような煙がまさにそれと言えるだろう。
「そういやシノビにこんな技あったっけな‥‥」
「えぇ、ただ敵味方問わず巻き添えを食うので使いどころが難しいのですが‥‥」
 舌打ちするトィミトイに苦笑しながら葎が答える。
 接近には気付かなかったことから、相手の技量は高いのだろう。確かにシノビの技には一瞬だけ時を止めるものも存在する。志体持ちにとっての一瞬――接近するには十分だ。直後にこの煙。ここまでは仕方がない。
 だが、確かに煙は視界の邪魔にはなる。しかしそれだけで崩れる開拓者ではない。
「‥‥む!? そこか!」
 意識を集中させていた喪越はかっと目を見開くと、符を大伴公の影武者の乗る輿に投げつける。
 煙を割って人影が現れるのと同時――輿と人影の間に黒い壁が出現する。
 カチリ、と乾いた音が響き、開拓者たちが一斉に動き出した。
 音に反応して真っ先に接敵したのは統真。ぼんやりと映し出される人影に、統真は大きく息を吸い込む。
「お前の相手は――俺がする!」
 轟と唸る声は一瞬煙を揺らめかせる。
「っ‥‥!」
 相手は思わず標的を統真へと変更。その手から小さな刃が放たれる。
 咄嗟に身をひねる統真。その隙に接近した人影は煙の中に鈍色の銀を閃かせる。
「させねぇっ!」
 割り込んだのはトィミトイ。両手から振るわれた黄金に輝く太刀は煙を一瞬切り裂く。
 乾いた音と共に人影が一歩後退。
「いらっしゃい」
 不敵な笑みを浮かべるカズラの声。同時に影は自身の周りを飛来する小さな蟲の群れを見た。
 蟲たちは素早い動きで次々と影の身体に張り付かんと影に迫る。
「くっ‥‥!?」
 影は距離を取ろうとするが、どうやら蟲の放つ毒のせいか身体が思うように動かない。
 錫杖の鳴らす、しゃらん、という音が聞こえる。
「酒々井様っ!」
「任せろっ!」
 煙を裂きながら飛び出した統真。噴き出る蒸気のような気を纏い瞬時に接近した統真はそのまま握り締めた拳を突き出す。
 鈍い音が響き渡り、十字に組んだ腕と拳がぶつかる。
 膠着。
 その影目掛けて一筋の矢が飛来――雨鈴だ。
 力を緩めて身を引いた影は動きの鈍った身体で辛うじてそれを避ける。といっても元々確実に狙ったわけではないのだが。
 だが体勢には無理があったようだ。がくりと膝を落とした影。その視線の先には――喪越。
「その得物‥‥使えなくしてやろう」
 声と共に放たれた符はその形をゆるりと液体のような物に変え、そのまま影の腕元に貼りついた。
 慌てて剥がそうとするもときすでに遅し。
 手にしていた武器は瞬く間に劣化してしまった。
「はい、これで終わりね」
 いつの間にか近付いていたカズラの小さな式が影の手足の自由を奪う。
 起き上がろうとするも、それが叶うことはなくその場で倒れ伏した。

●想い。
 煙が晴れる。
 残ったのは開拓者七人と大伴公の影武者を乗せた籠、そして倒れ伏す一人の女性。
「くっ‥‥殺せ!! しくじったとあらば最早これまで!」
 恨みの篭った視線を開拓者に向ける女性。その頭には歪な角。
 その様子を、一同は静かに見下ろしていた。
 少しの間をおいて。
 雪がそっと女性に近付くと、その肩にそっと手を乗せ目を閉じる。
「な、何を――」
 淡い光が雪を包み、その光は徐々にその範囲を広げていく。
 やがて近くの者を巻き込んだ光は収縮し、再び雪の中へと戻っていった。
「これでもう大丈夫ですよ」
 にこりと微笑む雪に、しばし呆然とした表情を浮かべた女性。
 だがすぐにその視線を鋭くし、目の前で微笑む雪を睨み付けた。
「何のつもりだっ!?」
「見ての通りです。少々荒っぽくなってしまいましたので、傷を治させていただきました。女性にとって傷は良くはありませんから‥‥」
「だから何の――」
 女性の言葉を、雪の肩に手を乗せた統真の視線が遮る。
「俺にはあんたらの気持ちなんてのはわからねぇ。今回だってただ守りたいってので闘ったに過ぎないからな」
 そう言ってちらりと雪に視線を送る。
 自身が想いを寄せる女性の親友――彼が全力を賭けて守るのにこれ以上の理由など必要ない。
「貴様らの状況など知ったことか!」
「あら、貴女のやってることは自分たちの仲間にも危害を加えてるようにしか見えないけど?」
「‥‥何‥‥?」
 飄々とした口調でさらりと言ったカズラに、女性は憎憎しげな視線を向けた。
「貴女がやったことは、一歩間違えば戦争になることよ」
「それがどうした!? 我らは貴様ら人間とは――」
「戦争が起これば関係のない人がたくさん犠牲になるわ。貴女はそれが望みなの?」
「そ、それは‥‥っ」
 若干語気を強めたカズラに、女性は思わず言葉を呑む。
「だ、だが我らは正しいことを――」
「一部の者の衝動で、多くの者が窮地に立たされる! 死の危機に瀕する! そんな事が正しいものか!」
 まるで咆哮かと言わんばかりに叫ぶトィミトイ。
 彼自身朝廷に対していい感情を持ってはいない。以前の戦では彼は間違いなく敵側であったのだ。
 そんな彼だからこそ、どこか自身と重ね合わせるような部分が、この女性にはあるのかもしれない。
「そんなのが正しいはずが‥‥ないんだ‥‥!」
 呟くトィミトイの表情は俯き加減のせいで窺うことはできない。
「さてもさても。過去に縛られるとは愚かしきや。さりとて過去が無くば今も無し。難しき哉」
 朗々と、まるで演目を読み上げるかの如く言葉を紡ぐ喪越。
「俺自身、政治の話などに興味はないし、人間側の面子なんぞそれこそ修羅の知ったところではないだろう。だが、今回の暗殺が成功したとして、人間と修羅の関係が悪化し戦争になる。それで満足なのか?」
 女性は答えない。
「一体、何をしたいのか?」
 喪越が問うのは着地点。修羅と人間が相容れないままで、その先に何があるのか、ということ。
 考えれば考えるほどに、その先は見えない。
 黙って聞いていた葎はそっと女性の傍に屈みこむ。
「僕たちには、修羅の皆が何故人間に恨みを持つのか、そこはわからないのです」
「そうね。五百年前って言われても、私たちにはピンと来ないわ」
 苦笑を浮かべる雨鈴は「でもね」と続ける。
「未来に生きる人――私達の子孫達まで同じ争いを繰り返したら悲しいと思うわ。貴女‥‥自分の子に恨みを抱いてほしい?」
 女性は黙っている。ただ、その瞳に先程までの勢いはない。
「もし猶予を頂けるなら‥‥五百年前の話をお聞かせ願えないだろうか」
 自分達にも知る機会を――そう思った葎の何気ない言葉。
 しばしの沈黙。
 やがて、女性がゆっくりとその口を開こうとしたその時。
「‥‥!! 皆さん、気を付けてください!」
 叫んだのは雪。
 一斉に身構える一行。
「‥‥どうした?」
「今、結界に一瞬だけ反応がありました」
 統真の問いに、表情を引き締めたまま雪は答える。
 念の為にとアヤカシの気配を探っていた雪。暗殺を阻害した後も、その警戒を続けていたのだ。
「‥‥もう反応はないみたいね」
 同じように弦を弾いて気配を探っていた雨鈴はふうと息を吐き出した。
「貴様ら‥‥何のつもりだ‥‥?」
 驚いたような表情を浮かべる女性に、雪はにこりと微笑み。
「私達は危害などを加えるつもりはありません」
「そうよ。こっちはこれでも平和主義なのよ。全滅とか皆殺しとか民族浄化とかはしない予定になってるはずよ。そうでしょう?」
 雪に続けてカズラが輿の方へと声を掛けた。
 特に返事はない、が、大伴公であれば少なくともそのようなことにはならないだろう。
「あくまで我らとの共存を願う、ということか‥‥?」
「さっきからそう言ってるじゃない。まぁすぐに信じろなんて無理は言わないわ。でもね、もっと今を見てから判断しても、いいんじゃないかしら?」
 カズラの言葉は女性の胸を深く抉った。
 見えていなかったようで、その実自分は何を見ていたのか――
「にしてもこのタイミングでアヤカシ‥‥? どっかで聞いたような話だな‥‥」
 苦々しい表情を浮かべるトィミトイ。
「今回の一件、アヤカシが絡んでいるかもとは思っていたけど、もしかしたら暗殺に失敗した彼女を消しにでも来たのかしら?」
 アヤカシの反応があった方角を見据えながら雨鈴は呟いた。
「狙ってはいたのかもしれないね。でもこちらの気付きが早かったから逃げたとすれば‥‥」
 厄介だね、と葎は肩を竦める。
 念の為にと再度結界を張った雪は、ふと腕組み状態のまま考え込む統真の姿が気に掛かった。
「どうかなさいました?」
「ん? あぁ‥‥ちっと今回狙われた人間の選出が気になってな」
 歯切れの悪そうな統真は、やがて「あーわかんね!」と頭を掻くと、女性の方へと視線を向けた。
「なぁ、ちっと聞きてぇんだけどよ。今回の計画って、誰が立てたんだ?」
「誰だと? それは我らの同士だが‥‥あ」
 今更何を、と言わんばかりに統真を見た女性。だが言いかけて、何かを思い出す。
「そう言えば‥‥人間と相容れぬという考えは元々あったものだが、この計画自体は‥‥見知らぬ者だったな。同族であったことは間違いないが‥‥」
「見知らぬ‥‥? 面妖な」
 眉を潜める喪越。確かに一般人含めた全ての者の顔まで覚えることは到底出来ないが、作戦を立てる程の地位にいる者の名を覚えることはさして難しくはない。絶対数が少ないからだ。逆に言えば、その地位の者で顔を知らぬ者がいたとなれば――
「ここ最近、人に化けるアヤカシなんてのもいたみたいね」
「人に化けれるならば、あるいは修羅にも‥‥」
 雨鈴と葎は互いの顔を見合わせた。
 アヤカシがこの一件に――そうなってくれば事件はこれだけでは終わらないはずだ。
「ったく。厄介になってきたぜ‥‥」
 溜息交じりの統真の言葉は、今の一同の心境を代弁したと言っても過言ではなかった。

●終えて。
「ふむ。なるほどな」
 朝廷よりの使者は報告を聞き終えると小さく頷いた。
「我々も一通り話を聞かせてもらい、その上で上の人間が判断はするだろうが」
 男はコホンと咳払いをする。
「女性の身柄はなるべく善処するように伝えよう」
 ほっと息を吐く開拓者たち。
「もし本当にアヤカシが絡んでいるとなれば、再びギルドに連絡が行くやもしれぬ。その時は‥‥力を貸してくれ」
 そう言って男は女性を立たせると、そのままその場を後にする。
 と、女性がふと開拓者たちの方に振り返る。
「‥‥あんたらを見て‥‥私も少し、考えようと思う」
 小さく、聞き取れるかどうかの声量で呟いた女性は、そのまま男に引き連れられて去っていった。
 すぐには変わらないだろう。
 だが、変わる切っ掛けは出来たのかもしれない。
「‥‥帰りますか」
 誰かが言った。
 どこか心地よい疲労感を身体に覚えながら、一行は帰路についた。

 〜了〜