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■オープニング本文 ●恋の始まり。 その日、北条充利は失意のドン底にいた。 「はぁ‥‥何故なんだ‥‥今回こそは必ず上手くいくと思ったのに‥‥」 呟いて溜息をついた充利は、近くにあった小石を蹴り上げる。 何故彼がここまで落ち込んでいるのかというと、時は少し遡る。 彼はとある女性に恋をしていた。 相手は良家のお嬢様。 見た目よし、中身よし、家柄よしと三拍子揃った彼女を、彼は一目で惚れてしまった。 それ以来、彼はありとあらゆる手段を使って彼女の気を引こうと頑張った。 次第に彼女の心は解れ、やがて共に食事に行く段取りまでつけたのだ。 しかし、彼女との約束の食事の日。 彼の目の前に現れたのは、数人の男たちだった。 「手前か、うちの連れにしつこく付き纏ってんのは」 その後どうなったかは語る必要はないだろう。 しかし何故そうなったのかがわからない。 「わからない‥‥僕の、ボクの何がいけなかったというんだ‥‥」 考えても考えても答えは出なかった。 と、そこで誰かが叫ぶ声が聞こえた。 片や男性、そしてもう片方は―― 「駄目です!」 凛とした声が響き渡る。 彼ほどの男になればわかる。そう、この声は―― 「美人だ‥‥っ!」 既に彼の身体は動いていた。 駆けつけてみれば一人の麗らかな女性が五人の男に囲まれているではないか。しかも男たちは武装している。 古今東西、男は常に英雄と呼ばれる者に憧れるものである。 男性の持つ英雄願望の中には、颯爽と現れて女性の危機を救い、その女性と恋に落ちるところまでを含んだ、謂わばお約束と言われる展開も勿論含まれる。 男は感じる。 今がそのときではないのか――と。 「‥事情が事情なのですわ。誰か、誰か――!」 「おい待て」 自然と口から言葉が出てきた。 一斉にこちらを振り向く男たちと、女性。 ずぎゅーん。 彼の心を表すとすれば、きっとこんな音だろう。 流れる髪は漆黒の絹を彷彿とさせるほど艶やかで。 潤んだ瞳はまるで宝石のように美しく。 その容姿は、まるで全ての物がかすんでしまうかのような輝きを放ち。 「可憐だ‥‥」 誰にも聞こえない程度に呟き女性に見惚れる充利に、女性を取り囲んでいた男たちは若干不気味さを感じつつ――勿論女性も不思議そうに見ていたが――一先ず女性から充利の方へと武器を向けた。 「誰だてめぇ!」 「名乗るものじゃあないが‥‥」 充利はふっと笑みを浮かべ、来ていた一枚の羽織を脱ぎ捨て――ずに綺麗に畳んだ。そして自身の名を告げようとした瞬間。 「面倒だ! たたんじまえ!!」 男たちが一斉に動き出した。 「えっ、あ、あの‥‥これから名乗りを――ぎぃやぁぁぁっ!?」 ずがどこばきどがごしゃ。 何の訓練も積んでいない充利はあっという間に叩き伏せられ、ごろりと地面に転がされた。 「‥‥弱いな、コイツ」 誰かが言った。 充利は傷ついた身体で何とか顔を上げると、揺らめく視界にあの女性が映る。 目を合わせた二人。そして―― 「‥あなたじゃないですわ」 突き刺さる言葉と共に女性はついと顔を背けた。 「おぅ、じーざす‥‥」 充利の意識はそこで途切れてしまった。 ●結局誘拐。 次に充利が目を覚ましたのは数刻後。 気が付けば彼は良く分からない場所にいた。 首を傾げて起き上がろうとした充利は、自身の手足が縄で結ばれていることに気が付いた。 「いよぅ、お目覚めか坊ちゃん?」 甲高い声が耳に飛び込んでくる。 見れば五人の男たちがこちらを見下ろしている。 「‥‥何者だ」 きっと睨み付ける充利。 どうやら先程充利を叩きのめした男たちではないようだが。 「ヒャッハー! 俺たちは!」 叫びながら何やら怪しげなポーズを取る男たち。 「俺は『那我零菩死(ながれぼし)』二番星隊長、落星 二郎!」 「そして俺たちが二番隊だぁっ!!」 沈黙。 「ださ――げふおぁ!?」 「へっ、痛い目みたくなけりゃ大人しくしてな!」 「も、もう十分痛いし‥‥というか何の真似だいこれは!?」 「何の真似だぁ? 決まってンだろ!」 叫ぶ充利に男――落星がにやりと笑う。 「ゆーれいだよ、ゆーれい!」 沈黙。 「‥‥は?」 「あ、兄貴! それを言うなら『ゆうかい』でさぁ‥‥」 「‥‥‥‥まじで?」 「‥‥‥‥まじッス」 再び沈黙。 「わ、わかってたしぃー! ちょっとほら、怖いぞーみたいな雰囲気出しただけだしぃ!?」 しどろもどろの落星を、周りの男たちもどう扱っていいのか困っているようだ。 「んなこたぁどーでもいいんだよ!? 取り合えず!」 びしっと充利を指差した落星。 「てめぇんトコにアレだ、きょーはくじょーってヤツを送っといたぜ!」 「なっ!?」 驚く充利。 何を隠そう充利の家は金持ちの中でも上位に位置するような名家である。 それ故に誘拐となれば大事にはなるだろう。 「どうしてボクの家を!?」 「そんなモン知るか!」 「え? じゃあどうやって‥‥?」 「‥‥どうやったんだ?」 首を傾げる充利に、何と落星まで首を傾げて手下の男を見る。 と、見られた手下の男は自慢げに。 「困ったときは開拓者って、ばっちゃんが言ってたからな!」 沈黙。 「ば‥‥ばっきゃろぉぉぉぉ!?」 次の日、開拓者ギルドに依頼が張り出されたことは言うまでもない。 |
■参加者一覧
水月(ia2566)
10歳・女・吟
ルー(ib4431)
19歳・女・志
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
獣兵衛(ib5607)
15歳・男・シ
仙堂 丈二(ib6269)
29歳・男・魔
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●いざ町外れ。 依頼を受けた開拓者たちは、それぞれ複雑な思いを抱えながら問題の蔵へと向かっていた。 「にしても身代金の要求状をギルドに持ってくるなんて‥‥理解に苦しむわね」 「なってねぇ‥‥全然なってねぇ。これは調教が必要だな」 思わず苦笑を零しながら呟くルー(ib4431)に、頭を振りながら苛立ちを顕にする仙堂 丈二(ib6269)。 「調教って‥‥この相手に? 難しいんじゃないの?」 「今回俺はこいつらに確り言い聞かせてやると決めたんだ。そのための労力は惜しまねぇ!」 北条家より預かった身代金の入った皮袋を片手に、逆側の手で握り拳を作った丈二。 その隣でしきりに頷いているのは玖雀(ib6816)。 「フン、忍ぶものがどういうもんか、身を持って教えてやるさ」 「お。どうやら気が合いそうだな」 「ふ、こちらもお手並み拝見といかせてもらうさ」 「あぁ、みっちり言い聞かせてやる」 どうやらこの二人、既に盗賊に説教する気満々のようだ。 そんな二人を横目に長谷部 円秀 (ib4529)は小さく溜息をつく。 「まぁ、どちらも困った人達ですね」 隣で水月(ia2566)がこくりと頷きを返す。 誘拐という響きから、相手にどこか凶悪さを感じている水月の表情には、どこか緊張が窺える。 「余り肩に力を入れるともたないわよ?」 ルーが水月の細い肩にそっと手を乗せる。 見上げた水月の視界にルーの柔らかな笑みが映る。それを見てどこか安心したのか、水月もその表情を和らげてすっと目を閉じる。 (皆で力を合わせれば、きっと上手くいくの) 心の中でそっと自分に言い聞かせる。 基本的に自身の言葉を発することの少ない水月だが、その芯にある感情は豊かなのだ。 「まぁ変な相手だけど、一応は人質の命のかかっていることだし、油断せずにいこう」 幾分表情を引き締めたルーは、近付きつつある待ち合わせ場所に視線を送り、すっと目を細めた。 「まずは人質の安全を確保――その後に窃盗団の捕縛、か」 「えぇ。ただ助けて懲らしめるだけならば、私達には容易いことですが‥‥」 そう言いながら円秀はちらりと隣に視線を送る。その先で水月が「どうしたの?」と言わんばかりにかくりと首を傾げる。 「いえ、ただそれだけでは勿体無いと思いましてね」 可能であればその先に繋がるような、そんな風になればいい――そんな円秀の耳に飛び込んできたのは。 「とりあえずその盗賊たちをとっちめてだな。後は捕まってるボンボンもなってねぇからな」 「男であればもう少し骨のある所を見せねぇとだよな」 盗賊たちを通り越し、既に人質である北条充利の説教までする勢いの玖雀と丈二。 円秀と水月は思わず顔を見合わせる。 「‥‥難しいかもしれませんね‥‥」 二人はかくりと肩を落とした。 ●蔵前。 目的の蔵を前にした一行。 事前に打ち合わせていたように、正面より人質の交換を持ち掛ける正面班と、隙を窺って人質救出を第一とする班に分かれる。 正面からは丈二、円秀、ルー。水月と玖雀が物陰からそれを見守る形となった。 蔵の前には、恐らくは見張りなのだろう、両肩部に星の模様をあしらった奇抜な服装の男が二人立っている。 「さて、上手く出てきてくれればいいけど」 「なぁに、相手は三下だ。呼び出せば簡単に出てくるだろ」 「まぁ確かに‥‥ちょっとおつむ足りてなさそうだしね」 丈二の言葉に思わず苦笑するルー。 「‥‥どうやら気付いたようですよ」 蔵前から得物を手に近付いてくる男二人に、円秀が小さく呟く。 「おうおう、何だてめぇらはァ!?」 恐らくは彼らの精一杯の強面なのだろう。下から見上げるように睨み付けながら声を荒げる男二人。 その余りの三下ぶりに、丈二の額に一瞬青筋が走る。 怒りで震える丈二の肩をそっと円秀が掴む。振り返った丈二にそっと首を振る円秀。 「ちっ‥‥おい、てめぇらの言う通り金は持ってきたぞ」 言いながら丈二はぶら下げた皮袋を掲げる。 中から聞こえてきた金属音に、男二人は顔を見合わせる。 「できれば人質の無事を確認したいんだけど?」 「わ、わかった! ちょっと待ってろ!」 にこやかに笑みを浮かべるルーに、男たちもどこか安心した表情を浮かべて奥へと姿を消す。 「‥‥何にも疑わずに行ったね」 「なってねぇ‥‥ほんっとになってねぇ‥‥!」 ぽつりと呟くルーに、最早我慢の限界だと言わんばかりに肩を震わせる丈二。 そんな丈二を円秀が宥める。 「まぁまぁ、好都合だったと考えればいいじゃないですか」 「そうだね。まぁ疑われたとしてもどうにかなったと思うけど」 「なってねぇ‥‥!!」 どうやら許せないところだらけのようだ。 と、そこで置くからぞろぞろと男たちが姿を現す。 笑顔のルーと、鋭い視線の丈二が正面に。 その後ろで円秀はそっと後方に視線を送る。視線の先には―― 「どうやら上手く引きずりだせたみたいだな」 小声の玖雀に、水月はコクリと頷きを返す。 建物の影に身を隠しながら様子を窺っていた二人の視界にも男達の姿が映し出された。 男六人。一人だけやたらと仰々しい格好をしたのが、恐らく連中の頭なのだろう。 「‥‥!」 水月が何かを見つけて玖雀の袖をついと引く。振り返った玖雀は水月が指差す方へと視線を送った。その先には縄で縛られた一人の青年の姿。 「なるほど、アレが人質か‥‥あの様子なら楽勝だな。準備はいいか?」 いつでも、と言わんばかりに頷いた水月は、高まる鼓動を抑えるかのようにそっと自身の胸に手を当てた。 ●攻防。 「待たせたな!」 大仰な声を上げたのは現れた男達の中でも一際目立つ服装の男。 一体どこで見つけてきたのかと呆れるほど、大量の金属類が所狭しとぶら下げられた、恐らくは鎧のようなもの。 更にそれらが霞むかのような大きな星型の模様が二つ見える。 その男を含めて六人。うち一人は人質となった北条充利だろう。その身を縄で拘束された青年が見える。 どうやら気を失っているようだ。 開拓者達が状況を確認する意味で男たちを眺めていると、彼らは何を思ったのか互いの顔を見合わせて頷きあい、自分達の位置を確認し始める。やがてそれが終わると、今度は開拓者たちに背を向ける形で並び始めた。 (何だ‥‥何か仕掛けてくる気か‥‥!?) 視線を鋭く、男達の動きに注意を払う円秀。 ルーもまた表情を変えぬまま、いつでも戦闘に入れるよう少しずつ重心を落としていく。速さを追う彼女にとって初速を生み出す一歩は命。警戒が強まる。そして―― 「天に輝く星の如く!」 一人が振り向きびしっと空を指差す。 「天を切り裂く流れ星の如く!」 また一人が振り向き、こちらも空を指差す。 「誰が呼んだか荒くれ者さ!」 更に一人。 「お、おら達‥‥つ、つよいんだど‥‥!」 またまた一人。 「そして俺様がぁ! 天儀無法の伊達男――落星二郎!」」 最後にじゃらじゃらと音を立てて振り向く男――二郎。 『那我零菩死二番隊だぁぁぁぁ!』 五人が揃って声をあげ、それぞれに思い思いの格好で固まる。 恐らく何か効果音をつけるとしたら爆発音とかをつけたかったのだろうと思えるほど、その動きは精錬されたものだった。 しばしの沈黙。 「‥‥あ、兄貴‥‥! 無反応ですぜ‥‥!」 「な、何故だ!? アレほど特訓したというのに‥‥!!」 「ど、どうしよう‥‥お、おらが噛んじまったからか‥‥?」 「大丈夫だ、気にするな!」 ひそひそと声を潜めながら――と言っても開拓者には全部聞こえる程度だが――男たちがざわめく。 「‥‥なぁ。もう我慢しなくていいか?」 「まぁまぁ、まだ人質もいますから‥‥」 「というか私たちまだ目的も言ってないんだけど」 もう限界と言わんばかりの丈二を宥める円秀と呆れ顔を浮かべるルー。三人の身体を、精神的な疲労感が襲う。 と、そこで周囲に透き通るような歌声が響き渡る。 一斉に顔を見合わせる男たち、そして一気に表情を引き締める開拓者。 数刻の間。 男の一人がふらりと地面に突っ伏した。 「な!? お、おいお前‥‥ふあぁぁ‥‥」 突然のことに慌てて声を掛けた男も、大きな欠伸と共に地に沈む。 聞こえてくる歌声の魔力に耐え切ったのは二郎と後二人。 襲い来る眠気を振り払うかのように頭を振った男たちは、慌てて視線を自身の後方――人質に向ける。 が、そこには既に人質の姿はない。 「残念だったな。遅すぎだ」 突如聞こえた声に男が振り向くと、口元ににやりと笑みを浮かべた玖雀が充利を縛っていた縄を切り落としたところだった。 「あっ! て、てめぇ!?」 手にした得物を振りかざし突進してくる男に、玖雀はやれやれと息を吐く。 男の振り下ろした刀を苦無でいなし、そのまま男の顔面に握った拳を当てる。 鈍い音と共に顔を歪め膝から崩れ落ちる男。 玖雀はそのまま荒縄で男を締め上げた。 「一丁あがりだ」 一方残った二郎ともう一人は、身代金を持つ開拓者たちのほうへと突進をかけていた。 二郎が狙ったのは視界に映ったルー。 「てめぇらぁ! 騙しやがったなぁ!?」 「いや、結局何も言ってないんだけど‥‥」 叫ぶ二郎に申し訳なさそうに頬を掻いたルーは、振り下ろされる二郎の刀をひょいひょいと避けながら、隠し持っていた剣を手に馴染ませる。 「くそっ、ちょこまかとっ!」 「着てるモノが重いんじゃないの? 尤も――」 何度目かの斬撃を避け、言葉を交わすルーはぐっと軸足と反対の足に力を入れる。入れ替わる重心。溜めた力はルーの身体を一気に加速させ、二郎の後ろに移動させた。 突然目の前から姿を消したルーに、二郎は反応できるわけもなく。 「軽くたって速さじゃ負けないけどね」 声が聞こえたのと二郎が頭部に衝撃を感じたのはほぼ同時だった。 もう一人が狙ったのは丈二。勿論身代金を目的。 構えも何もなく振り上げられた刀。 「面倒くせぇ‥‥任せた」 「やれやれ‥‥」 既に戦闘に参加する気のない丈二に苦笑を浮かべて答えた円秀。 男が振り下ろす刀を、自身が愛刀「長曽禰虎徹」でしっかりと受け止める。 「ま、今回は元より補助のつもりでしたけどね」 誰にともなく呟いた円秀は、両腕にぐっと力を込めて受け止めた刀を弾き返す。 志体持ちの力を一般人が受け止めれるわけもなく。 よろける男の傍に瞬時に移動した円秀が男の脇腹に峰打ちを当てた。 ●そして。 瞬く間に鎮圧され縄で縛られた窃盗団五人。 それらを座らせた状態のまま仁王立ちをする男――丈二。 「まずてめぇら‥‥窃盗団だよな?」 「当たり前だ!」 「じゃあ何で人しか盗んでねぇ!? その上身代金誘拐のくせに目立ちすぎてやがる! 窃盗団なら見つかったら最後だろうが!」 「え‥‥だって‥‥なぁ?」 叫ぶ丈二に顔を見合わせる男たち。どうやらこの男たち、根は小心者の類らしい。 「だってじゃねぇ! だいたい志体もちでもねぇ集団が開拓者にかなうとでも思ってるのか!? 盗むにしろ、誘拐にしろなってねぇ! そんなんじゃこんな風につかまるのが関の山だ」 完全に説教に入る丈二、黙って項垂れる男たち。まるで怒られた子供のように聞き流すことでやり過ごそうとしているようだ。 「‥‥今回は命をとらねぇが、次は――」 言葉の途中、丈二の隣にいたはずの玖雀が瞬時に男達の背中に姿を現した。 移動した玖雀は一人の男の首元に苦無をひたりと当てる。 突然襲ってきた冷たい感触に身を縮める男。その隣にいた男も思わず身震いをした。 「ふ。このざまでは‥‥命がいくつあっても足らぬな?」 にやりと笑う玖雀は、男たちを震え上がらせるには十分な迫力だった。 「わかったかてめぇら! 後な、盗むならワケ有りの金を盗め。当事者達が表沙汰にできねぇ金ならそうそう開拓者を敵に回さねぇ。あと額だ、大量に取ると刺客を呼ばれっぞ? それとな――」 延々と続けられる丈二の言葉。 最初は上の空だったような男たちだったが、いつの間にやら熱心に耳を傾けるような姿勢に変わっていた。 その様子を見ていたルーは、思わず大きく溜息をついた。 「教え込んでどうするんだろ、全く‥‥ね?」 隣で充利の介抱をしていた水月が困ったような表情でこくりと頷いた。 と、そこで充利が呻き声と共に目を覚ます。 「あれ、ここは‥‥」 「気が付いた、の?」 水月が心配そうに充利を覗き込む。 「君は‥‥?」 「もう大丈夫なの。私たち、開拓者‥‥」 にこりと笑みを浮かべる水月に、充利は漸く置かれた状況を理解したようだ。 「怪我はない‥‥?」 「え、あぁ‥‥大丈――いたた‥‥」 頭を抑える充利。どうやら頭を打ったようで少しだけ腫れがある。 水月はそっと充利の頭に手を当てると静かに目を閉じた。直後、水月と充利の身体を淡く白い光が包み込む。 同時に充利の身体から痛みが消えていく。 「有り難う」 素直な謝辞に水月の顔が綻ぶ。 「どうして、捕まってたの‥‥?」 「えぇと、確か僕は‥‥道で女性が襲われているのを見つけて、それが凄く綺麗な人で、助けなきゃって思って、でもやられちゃって。そしたら――」 「そうです。囚われていたんですよ」 充利の後ろから円秀が声を掛ける。 振り返った充利の肩にそっと手を乗せた円秀は、微笑を浮かべるとそのまま視線を窃盗団のほうへと移した。 「人を助けようとしたり、女性に良いところを見せようとするのは結構ですが、まずはそれが出来るようにならないと」 「それは‥‥そうなんですけれど‥‥僕には何の力も――」 「一人で無理なら人を連れてくる、罠やブラフをかける、そういうように頭を使う必要があります。いいですか、例えば――」 こちらはこちらで罠の張り方や、効率のいい助けの呼び方などの話が始まる。 その頃丈二はというと。 「っつーわけだ、わかったかてめぇら!?」 「へい、アニキ!」 「なっ‥‥だ、誰がアニキだこらぁ!?」 「アニキ、一生ついていきやす!」 目を輝かせて丈二の後を追う男五人。 逃げる丈二を見ながら玖雀は笑う。 「はは、モテモテだな。いっそ丈二団みたいなのにしたらどうだ?」 「てめ‥‥っ!」 「冗談だ‥‥ってだから静かに呪文唱えるなって――」 今度は玖雀が逃げ、丈二が追う。当然その後を五人が追う。 「いいですか? 人間の心理というものはですね――」 「ふんふん!」 どうやら円秀はいかにして敵を罠に嵌めるかの講義が始めたようだ。 聞いている充利の顔には真剣な眼差し。 取り残されたような形のルーと水月は、思わず互いの顔を見合わせた。 「‥‥依頼は、成功‥‥?」 かくりと首を傾げる水月の頭を、ルーはそっと撫でて微笑む。 依頼人は無事、用意したお金も無事。依頼は成功には間違いない。 ルーは一瞬だけ騒ぐ男性陣の方へと視線を向ける。 「‥‥男って、救い様がないね」 呆れた顔のルーの呟きに答える者は、誰もいなかった。 〜了〜 |