フレッドくん開拓日誌１
マスター名：成瀬丈二
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| ■オープニング本文 俺の名はフレッド・バナー。ジルベリアの魔法使いだ。俺自身は納得がいっていないが、開拓者ギルドの名簿風の表記をすると陰陽師という事か？ 一応、治癒符と呪縛符、吸心符を実戦で使う自負はある。 最近まではジルベリアの学問所で、同世代の一般人──要は子供という事だ。俺はまだ１０歳なのだから──の教育に努めていた。今では神楽で開拓を請け負う事になる、はずだ。 そもそも開拓と言えば一般的には、アヤカシを退治する事らしい。 しかし、今度、俺が記録係──そうだ、この事をはっきりしておかないとな──として、ジルベリアの針葉樹の森に分け入る。そして、そこに費用を投入してまで、開拓するに値するか検分をしろ、というのが開拓者ギルドに人集めの報を出したという訳だ。 もちろん、最終目的はあるが、後述する。 発起人にして開拓団の団長はルーク・イナスント。 ベテランの開拓者であり、分類は志士だそうだ。昔は血塗れの狼という異称で呼ばれていたという。本人は若気の至りだったと言っている。自己申告では雁金は使えるらしい。 ともあれ、今は３０代で投資生活を送る事にしたらしい。 バンダナを巻いて、背中に刀を差している。 とはいえ、あまり３０代には見えない。貫禄がないのではなく、若作りなだけだ。 当人曰く、サムライは力に傾き、泰拳士は決定打に欠ける。そこで中庸を取った、という事だそうだ。 ちなみに娘もいる。名前は『緋（あけ）』というそうだ。結婚相手に関しては何も言わない。 無理して聞く必要もないし。 そのルークに持ち込まれた投資の一環が今回の開拓行。 何があるか判らない場所は、何が出るか判らない、だから投資するんだそうだ。 スポンサーの意図通り、鉄や宝珠が出れば、元は取れるのだろう。この世界にはそれら以外の未知の呪術的な要素を含んだ鉱物もある、とルークは言う。 とはいえ、そんな保証はどこにもない。 俺だったら、同じ投資金を確実に位置が判り、安全が確保されている場所に投入するだろう。 ９０パーセントの成功率で１パーセントの利率の報が、ほにゃららパーセントで莫迦莫迦しい利率の投資はしたくない、というよりそれは博打だ。 まあ、森だから木は斬り出せるだろうが、運ぶ為の大きな河はない。森を出た所で他の河と合流しているが、それを動かす訳にはいかないだろう。 湿度は低いが、気温も低い。うかうかしていると、冬将軍に追いつかれかねない。 絶望的な事に、少なくとも空から森を見て、何かがある、という報告は受けていないそうだ。 そもそも龍も飛空挺も通わない所だ。辺境だし。 見て判る所に何かあるかは判らない。とはいえ、多分、瘴気とか魔の森はないだろう。 少なくとも開拓者の足でその森を迂回するには十日かかる。そこを──そう森は名前すら決まっていないんだ──馬で二日かかる街道を目処にして開通させるのがスポンサー達のご意向であり、ルークの最終目標だ。 俺の役目はその一部始終を連ねて、後の世に悪口の羅列を残す事だ。 皮肉屋？ 毒舌家？ よく言われる事だ。 さておき、ルークは人数を少なくして開拓者ギルドに持ち込み、馬などの出入りの難しい、森の中での機動力を維持するつもりだという。 龍などは費用対効果の関係上、ルークは使わない、というよりスポンサーのご意向だそうだ。 ここまで書いた所でルークが呼んでいる。何でも、開拓者を集めたら酒場で結団式をしたいそうだ。 まあ、開拓に行って、喧嘩別れ、途中でちりぢりになった挙げ句、投資した金額がおじゃんになるよりは、和の方が大事か。 締めの言葉は────開拓記第八章開幕。 |
■参加者一覧
天津疾也（ia0019）20歳・男・志 
北条氏祗（ia0573）27歳・男・志 
小椋 真理子（ia0984）19歳・女・志 
玲璃（ia1114）17歳・男・吟 
菫（ia5258）20歳・女・サ 
アリア・レイアロー（ia5608）17歳・女・弓 |
| ■リプレイ本文 開拓の幕が上がる。場所は某酒場。一番槍は──。 「初めまして。私はアリア・レイアローと言います」 と挨拶をする女性だった。 「これからの森林での生活では皆さんのサポートをしたいと思ってます。どうぞ宜しく御願いします」と抱負を述べる、如何にも温厚そうなアリア・レイアロー（ia5608）という人だ。 彼女は礼儀正しく、人を不快にさせないのは、決まり切った宮廷作法ではなく、人間としての余裕に俺は見て取れるからだろう。 「後は皆さんと一緒に和気藹々と食事でも出来れば嬉しいです」 「こちらこそ若輩者だけどヨロシク」 俺も卓に盛られた食事より、彼女の挨拶の方に興味をそそられた。 「いえ、こちら──」 言ってこちらを振り向いた所で彼女は座布団（そう、ここは天儀の首都なのだ）に足を取られてバランスを崩す。 助けるのは、一見して隻眼に見える女性、菫（ia5258）だった。どうもプレッシャーを感じる。隻眼ではなく、全体的な印象がだ。 「‥‥幸運も負担は皆で分け合うもの、ですしね」 「そう言っていただけると嬉しいです、改めてよろしくお願いします」 「気にしないで、まあ信頼というものです」 菫はあまり喋り馴れていない、口調だ。 「未開の地の開拓か、開拓者らしいいい仕事ですね‥‥不謹慎かもしれませんが──少し楽しみです‥‥出来るだけの事はします。以降、よろしくお願いします」 玲璃（ia1114）が目の前にとっくりなどをそろえて、いつでも配膳できる準備を整えていた。その上で一礼する。 「巫女の玲璃と申します。よろしくお願いいたします」 紅い瞳の少女であった（と、思ったら後に少年である事が判明した）。 端的に挨拶をすませると、小椋 真理子（ia0984）が挨拶をする、女性にしては結構な長身だ。 端的な一礼だ。 最後から二番目に北条氏祗（ia0573）が姿を見せる。如何にも武人と言った趣がある。 「調査の成果も勿論だが、開拓者の実力を見せてやろうぞ！」 と、勢いよく挨拶して、皆に活を入れるかの様に拳を振り上げる。 そんな彼だが青い、目が異国情緒を醸し出していた。 個人的には、誰に開拓者の実力を見せるのだろう──アヤカシとかは勘弁して欲しい──かが気になった。 それを受けて、天津疾也（ia0019）は飄々と、あるいは計算ずくなのかは自分には判らない人物だ。 眼鏡と銀髪という取り合わせよりも、その奥の瞳が金銭的好奇心に輝いているのが見て取れる。 「ほな、採算とって金儲けにいそしむために、しっかり金のなる木を探すで」 もちろん、金のなる木とは比喩だろう。だが、あったら欲しいな。どうせ、金一オンスを取るのに、金一ポンドの投資が必要な代物と、相場は決まっているだろうが。 ともあれ自分が守銭奴らしいと周囲から認識しているらしく、堂々と彼は金儲け第一主義を主張。 それを正面から主張できるだけの実力の裏付けがあるようだ。非常にありがたい。 俺も開拓が赤字になって、自分が持ち出すのは勘弁してほしいものだ。 「では、最後になるが、ルーク・イナスント。皆の力を借りる身だ。森の中で、大黒字を出して、左うちわの生活を行いたい」 あの〜、自分はパスですか？ 「では、リーダーとして、最初の仕事をさせてもらおう。成功を精霊に祈って──乾杯！」 少々の酒が入っても、開拓者は普通は酔わないものだ。俺の所に酒は於かれてなかった。慣例か法制かはしらないが酒は１４になってからという事だ。 ルークも興が乗ってきたのか、おもむろに上半身をはだけて、宝珠に念じる。 「宴会芸──妖精の炎の舞！」 『火魂縛舞』を発動。全身が炎に包まれる。 本来は得物ひとつに行う術だが、全身に展開した為か、周囲に炎は引火しない。 まあ、威力や攻撃力の増加も伴ったりしない（と、噂で聞いた）から、ハッタリだけのだろう──。 真理子は周囲の仲間に酌をして色々な事、まあ人生の歴史だろうを言葉の端々から尋ねようとしていたものの。菫の目の傷に関しては、進展があがっていない模様。 依頼を受けた動機は、男性衆は大きくは自己研鑽とフロンティア精神。 ルーク隊長は必要以上に酒を飲まず、真理子の言葉に言を左右にして、ほほえんで答えない。 一方、女性は『秘密』そのものが目当ての人が多い様だ。 アリアの様に、昔から狩りや毒草について教わっていた、というオープンな面があったのはまあ『例外』だろう。 もっとも３人中１人がそうだったからといって『例外』というのはバランスを欠いた物言いかも。 こうして俺の日記はいったん記録を閉じる。 翌日、午前１０時頃、一行は様々な荷物を抱えて──主に氏祗の差配による所が大きかったのだが、精霊門をくぐって、ジルベリアに進む。 それから更に、しばしの日数を経て、街道が大回りしている、うっそうと茂った森を観た。 壮観であり、針葉樹独特の匂いが立ちこめている。旅人は大きく迂回する街道を選択している様だ。 それが原因で森の向こうが発達し辛いから、森を貫通して、街道を造る、というのが『最終目標』としてあげられている。 下生えはあまり多くない。 氏祗が昼を中心として街道候補の地形をチョイス、植物、鉱物資源をしようと切り出す。手帖にインクと羽ペン。白地図は基本装備で、その他諸々の装備は、貸し出しの際に交わされた書類があるから、そこを確認して欲しい。 俺自身の意見では街道候補地選定と、名物探しは虻蜂取らずになる可能性が大きいのではないかと感じられる。 辰砂や丹砂とかもあればいいとか、言っていたけど、あれはどちらかというと、泰の方で売れるのかな？ 俗に言う仙術とかの延命長寿などの薬の原料かもしれない（後で聞いた話だと化粧品の原料にも使えるとの事。まあ、若い内だから、それを糧に成長する事にしよう）。 一行はコンパスを片手に進んでいく、帰還は一日程度を目処にするという話。 あちこちを掘りながら（帰りは何もないにしろ）、一日で進むとなると、到達できる距離は志体を持っていても限度がありそうな気がする。 負傷に関しては巫女さんがいるから大丈夫だろう‥‥多分。 「これも確実な安全のため‥‥ですね」 菫さんは色々思う所があるらしいが、俺には判らない。 動植物の知識に関しては狩人生まれだというアリアさんが十二分にフォローできるだろう。 すくなくともジルベリアで育ったというのはマイナスにはならない筈だ。 まあ、簡単に言おう。みんな街道とレアなもの探しに旅立とうとして、どこから入るべきかでひと揉めした。 ルークが、一応意見調整した、水質調査を行いたいというアイディアがあり、それを行う為、水たまりや沼などを探索する事を含めていたようだが、正直どれだけ時間がかかるのかは判らない。 しかし、森の中を流れ、外で他の河と合流している無名の河があり、そこまで行って一端水質調査をするのではどうか？ と、事を荒立てない様に確認。 少なくとも一日で未開の土地を調査しつつ、なおかつ迷わずに進むには、何らかのランドマークが必要であり、コンパスと志体持としての優れた才能があっても、限定はされる。前にも書いたが。 アリアさんから、スープの出汁の素を取ってきます、とにこやかに宣言。 確かに精霊門からの行程で、彼女の造ったスープは美味しかった。なんて言うか母親の味かな？ まあ、あまり両親とはやりとりをしていないから想像だけど。 閑話休題。森から出ている河（分類しやすい様に名前をつけるか？）を調査した玲璃さんが何かの違和感を感じた様だ。 一応、大河と合流している地点も確認。こちらは特に変わったものは感じなかった。 つまり、森の中には何か、水に溶けるものがあるのではないか？ という推測が皆から打ち出される。 それだけを取ると宝珠ではないだろう。宝珠が水に溶けたら、開拓者は困る。 ともあれ、河をランドマークにして、数時間進むと、アリアが何度か注意を喚起する。肉食獣も草食獣も不自然ではない範囲で、生存している糞や足跡などの痕跡もあり、熊のマーキング（背伸びをして、高い位置の木の幹を爪でえぐって、自己の縄張りを主張する）が複数。小型の草食獣（リス、ネズミから鹿程度）。 十数頭の狼群れらしき足跡も確認できた。 街道の邪魔者という可能性は大きい。 とりあえず川沿いは志体持ちなら（苦労はするけれど）突破するのは不可能ではない。 しかし、このルートは一般人向けには起伏が大きすぎて、道に迷わないという点ではアドバンテージがあるけれど、多少コストがつき、使いづらいというデメリットはあった。 勿論、途中で掘削、調査はするが、あまりに珍しいものはなかった。 菫が彼女の見知らぬ野草を観ては、周囲に確認をとっていたが、天儀では（単に見ないという点で）珍しいかもしれないが、ジルベリアでは普通の植生だと言われて、微妙に表情を変えていたという。 一日という範疇では活動して目当ての品は出てこなかった。 玲璃が水質を確認した所、塩分が多いのではないか？ という言葉が出てきた。 みんながその前提に立って水質を確認すると、確かに大河に合流する前の川の水には塩の風味をかすかに感じる。 俺もそう味わった。 疾也の頭の中でそろばんが弾かれた。 怒濤の弁舌がほとばしる。 「この河の上流が、あるかどうかは知らへん。けどな、この河の源流が森の中にあったら、少なへん可能性で、塩鉱があるという事にならへんか？ まあ、宝珠だの宝石だののヒカリモンがないという可能性はなくなった訳ではないやろうが、とりあえず、塩鉱がありそうな場所いうたら、木々の少ない所やないか？ 塩気が効き過ぎている所やな。そすれば元々街道にしやすい所いう条件と、名物の取れる可能性を両立できるやんか？」 じゃあ、どうやって、木々の少ない場所を探すのだろうか？ 「考えろ」 ルークはそう言って、アリアさんのスープの最後のひとしずくを飲み下した。 狙っていたのに。 「という事で団長。木々の少ない、塩鉱になりそうな場所探しを始めるという事でよろしゅう頼むわ」 「問題ない」 アリアさんの経験からすると、生物は塩分を定期的に取るらしい、という所だそうだ。 次回は足跡追いからか？ という方針が決まった所で、俺の日記のペンを置く。 ──開拓記第八幕閉幕。 |
