【負炎】夜をぶっ飛ばせ
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/20 01:05



■オープニング本文

 激しい戦いがあった。開拓者は様々な英雄端譚、あるいは人々の思いにのみの凝る存在となった。
 それでも、戦場で討ち漏らしたアヤカシがいた。
 この激戦では人間もアヤカシも生き残るのに必死であり、大物はいざ知らず、小物まで対処できる状態では無かった。
「──だ、だから助けてくれ、いえください」
 開拓者ギルドに風信術で呼びかける村長の言葉。それは精霊力を通じて、神楽へと続く。
 大きな屋敷に集落の人々、村長を含む、24の人々──上は足腰立たない老爺から、今年に生まれた乳飲み子まで──が生き残り、開拓者の到来を待っていた。
 亡くなった村人は、最初のアヤカシの襲撃で命を落としている。
 数は十数匹、外見は黒い毛に包まれた大型犬。しかし、口から硫黄じみた匂いと一緒に、紅いものが漏れ出している。とりあえず火を吐いたりといった事はないようだ。
 開拓者としては、下級の相手かもしれない。しかし、数が集まれば、現実的な危機がある。
 アヤカシに勝てるのは事実上志体持ちのみ。
 幸いなのはアヤカシに連携を取るだけの知性がない事か。
 しかし、トドメを刺された仲間の悲鳴を聞けば、それが自分の危地に繋がるくらいの思考はありそうだ。
 この村は一里四方の、牧畜農産が売り物の草の生い茂る内地。
 周囲はまばらな枯れかかった植物が生えている。
 村人で逃げ遅れた者はひとりものはおらず、家族近所同士で声を掛け合って、村の住職が生きている人数を確認している。
 しかし、風信器で、開拓者は自分達が討ち漏らした相手と知ると、手に手に得物を持って神楽の街を後にするのであった。
 勝利条件はアヤカシの殲滅。 
──開拓史13幕開幕。


■参加者一覧
皇 輝夜(ia0506
16歳・女・志
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
秋月 涼子(ia4941
26歳・女・巫
琴蕗 瑠佳(ia5388
16歳・女・シ
ルファナ・ローゼル(ia7550
19歳・女・弓
フィリン・ノークス(ia7997
10歳・女・弓
鳥介(ia8084
22歳・男・シ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志


■リプレイ本文

 秋の声が断末魔の苦悶を共として、自分の居るべき場所を冬に譲る、そんな時節、戦いの中のそんなひとかけらの切れ端。

 開拓者は村を救った。
 ただ、それだけの物語である。

 一日の始まりを告げる東の曙光を背に、暁 露蝶(ia1020)は、ためらいも後悔も眠れない程であった。
「私たちが取り逃がしたアヤカシ、なのよね‥‥。
 村の人たちには申し訳無い事をしてしまったわ。
 せめて、これ以上の被害が出ない様にしないと‥‥‥‥!」
 それは矜持に背く。その矜持の源が美的感覚を植え付けてくれた『あの家』か、それとも戦いという別の現実かは問わない。
 結果として、申し訳ない事をしたのだ。
 決意は鋭い刃を己に向ける。自決では──ない。
 強いて言い還るとするならば、露蝶自己の弱さに突き立てる儀式である、己も苦しみ、単なる血による戦線を構築する事だけが全てではない、現に血に苦しむものがいてこそ、中途半端な、血の臭いにだけ反応する、アヤカシに実際の標的となろうという判断。
 南側の集まりから出撃する、血の臭いで己を標的にさせ、最終的には開拓者からの猛然たる逆檄を浴びせる事になるだろう、その魁。
 
 狩人と勢子の背反した現実、それはアヤカシ達は受け入れる事が出来るだけの想像力があるのだろうか?
 紫の瞳を輝かせ、皇 輝夜(ia0506)は松明を落とし、止血用の包のみを、南の出発点から持ち出していく。当然だが、開拓者としての様々な得物も点検済み。
「──‥‥」
 自らに刃を突き立て、露蝶と同じく血を流す。
 前髪で目を隠した、ルファナ・ローゼル(ia7550)は自らが切り裂かれたかのように、居住まいを正す。
(わ、私共が‥‥ふ、不甲斐ないばかりに‥‥、村の方々に‥‥た、多大なる、ご迷惑を‥‥)

 暁に栄える流血を前に、彼フファナ──
「そ、早急に対処し‥‥皆様の、あ、安全を確保したいと──お、思います」
 ハンカチで血を縛る。慌てるだけ、端から見ると非効率的だが、人の剣、人の盾となるべき、自分には許されない。自分達の判断に多くの人の命が大きく動く、決して慌てられない悲しさか?
 続けてやけに優しげな瞳を輝夜に向ける。
「この流した血潮──利子をつけて返してやる。この村との関係はもう精算せねば」
(まるで、ただ、堅いだけの鉄ではなく、炭素を押さえた、たおやかな鋼のようにしなやなんだろう)
 思いながら、琴蕗 瑠佳(ia5388)は鉄の匂いを含んだ、輝夜をその様な印象を改めて得た。

「いくぜぃ!」
 北の血では少年が猛っていた。朝の輝きにである。
「朝が来た、つまり夜はもうぶっ飛ばされた、という事なんだな、テンション上がるぜ!!」
ルオウ(ia2445)は無数の松明を体にくくりつけ、アヤカシがこちらに来ない事を祈る。いわば、最後の切り札だ。ラオルが歳相応の少年性と、実に合わぬサムライとして、群を抜いた肉弾戦の力を得ているのは冒険毎に友人あり、とでも言うべき、屈託のなさから発想できるだろう。
 秋月 涼子(ia4941)は、そのいルオウの言葉に思わず、ツッコミを返した。
「若いのはいいねぇ‥‥早くて」
「そうだぜ、俺は早いぜ!」
 取り立てて解説せねばならないが、普通なら禁断ともいうべきシモネタである。ルオウが理解しているかどうかは別であるが。涼子は何時如何なる時でも汚れ、芸、その諸々を差し挟まなくてはいけない、強迫観念のような物がある、と彼女をしる一般人は語る。
「はーやく、せんそーになーれ」
  
 紙木城 遥平(ia0562)はにわか軍師としての自分の才、機動主体と、穴蔵に籠もる火力主体の軍を縦横に切り回して、相手との数の差をカバーするという方向で動いていた。
 かたや、フィリン・ノークス(ia7997)は村人を訪ねて回っていた。

 もちろおん最優先情報、彼女の『お姉ちゃん』に関してである。

「お姉ちゃん見たことないかな?
 こう‥‥凄く特徴的な癖っ毛だけど‥‥見かけたらおしえてね?」
 とはいうものの、知るものはおらず、村人にしても、神楽にまで行ってまで教えたいとは思わなかった。

 己の悔いを隠す天ヶ瀬 焔騎(ia8250)はようやく戦いとなって、自分の居場所を得た。
「同じように世話になった村人が襲われ、命を落としている時、自分が居合わせていながら、守れなかった命への贖罪の思いがある。
 アヤカシと戦い抜けられるのは数えられるだけの志体持ち、泰国風に言えば、仙骨だけとは判っている。子供じゃないから、精霊門がどこにでも開いてくれ等とは言えない。
 そんな事は開拓者としては幾らでもある要件だけど、今回のアヤカシに対して、許せない気持ちを抱いている」
 一方、感情論と違う方面で、鳥介(ia8084)は自分の存在意義が立っていた。
「開拓者様は大変な事ですね。まあ、自分も──ですが。
 もちろん、それに見合う環境と報酬が準備されているなら、
 その範囲で全力を尽くす。自分達は人に報酬として幾千文かを渡す。
 まあ、これだけで赤目一族の鳥介としての『分』は立ってしまうんですよね? 結構安いと思うんですけど」
 
 血の臭いをかぎ、しかし、それを単なるターゲットの無能さではなく、自分をおびき寄せる為だろう、とアヤカシは判断したらしい。
 もちろお、知性体としては、そこにトラップがある、圧倒的兵力の伏兵戦力がいると行ったかまでは判別しがたい。

 視線の中にターゲットが収まり行くのを見ながらフィリンが呟く、いや声にすらなっていない、唇が動いただけ。
(狙いを定めて‥‥今!)
 フィリンの矢がまるで精霊に導かれたかのように飛ぶ。
「先頭の一体が減速して、フィリンの視線から外れていく。
「一匹も殺せない──そんな、お姉ちゃんを見つけるまでは無様な戦いは‥‥出来ないのー!! だから──」
 番えた矢はそのまま、二位から一位に繰り上がったアヤカシを討つ!! 激しい一撃であった。
 その間、自分にとっては友である犬に似た、相手を射通す事にためらいを押し殺した瑠佳がが手裏剣を打ち込む。 
「悪く思わないでね‥‥‥‥倒すから──倒すから!──倒すから!!」
 この背後にどれだけの言葉を押し詰めているかをしっているか、それが瑠佳を知っているという何よりの証拠に違い無いのである。
 一方で、輝夜が乱刃の中、、 流し切りを交えた変幻無明な炎を帯びた太刀が、まるで足を交えて、死角無しに見える、連打を打ち続ける。
 無数の加護結界が展開され、アヤカシと開拓者の戦いは瞬間風速でアヤカシを消し飛ばす。しかし、そこで得た戦力差は練力や気力を無くしても尚、攻めに転じる事となっても、大きな財産として残る類のものであった。
 予備兵力の維持によって、アヤカシを逃さない、という段階は超えているので、ルオウなどが殺到して、鋼鉄の鎚と化して、疾く破砕していく。
 静観であった。
 ルオラがポーズを取ると、背中で最後の一体のアヤカシが爆発する!
「キメッ!」

 狩った首の数は十と三。
 空間ごとねじ切られたりした者もいるが、一応数を数えるくらいには原型を止めている。
 一匹たりともとも逃しはしない。
 アヤカシの亡骸は、天と地と諸々に紫色の深いな瘴気となって消えていく。

 一同は、しばし、村人「から歓待されて気力、練力、体力を回復すると再び、神楽へ向かう、いや──還るのであった。

「はぁ‥‥ここにもお姉ちゃん居なかったなー‥‥」

 心なしか、力のない少女の声が神楽に消えていく、その事を最後にして、開拓記第十三幕の終焉としたい。