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■オープニング本文 「死んでも死に切れん」 神楽の開拓者ギルド受付の前で、男はそう言った。 鋼の塊から削りだした、殺しても死にそうにない風体である。名を赤寅(あかとら)と言った。昔は開拓者ギルドの一員として活躍したという風聞がある。 徳利からあおると、依頼を切り出す。 昔、古代の陰陽師の作った迷宮を突破した事がある。しかし、その迷宮に唇を動かさずに声だけ出して、侵入者に謎かけをする彫像があり、その彫像の謎かけに答えなければ、宝の間に続く扉は開かれないというのだ。 もちろん、赤寅は謎かけに答えられなかった。 故に──宝の間に続く扉の脇の石壁を物量作戦で粉砕。謎かけに答えることなく、宝物庫へ進入し宝物を入手。さらに迷宮を隈無く探して、かなりの量の宝物を入手。石像は放置で現在に至る。 「俺は間違ってはいない。知恵だけが全てでは無いはずだ。時には蛮勇こそが勝利への近道になる─」 「昔話を伺うのが依頼、という事ではないでしょうね?」 「もちろん。依頼はその彫像の出した謎かけの正答を知りたい。具体的に言って、その迷宮に行って、謎かけに答えて欲しい。俺が最後に立ち去る時も彫像は依頼の言葉を繰り返していた」 危険も富もない。昔を割り切れない男が、好奇心を満足させる。それだけの依頼であった。 その謎とは次の文句である。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 『それ』を作る者は、それに用がない 『それ』を買う者は、それを使わない 『それ』を使う者は、それを見も感じも出来ない 『それ』は何か? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「なーに、昔のこだわりが捨てきれないだけだよ」 「では、依頼書を開拓者に出しましょう。きっと、解けますよ」 赤寅は徳利をあおった。 ──開拓記第十五章開幕 |
■参加者一覧
久万 玄斎(ia0759)
70歳・男・泰
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
佳乃(ia3103)
22歳・女・巫
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
クォル・T(ia8800)
25歳・男・シ |
■リプレイ本文 彼女は詠った。 『それ』を作る者は、それに用がない 『それ』を買う者は、それを使わない 『それ』を使う者は、それを見も感じも出来ない 『それ』は何か? そして、その謎に応えるものはいなかった。 今日までは──。 それが開拓の始まりであった。 過去の開拓者が迷宮であったという、謎かけをする謎の彫像。 それにあった開拓者は謎解きをせず、宝物庫の扉を破壊して、内部に潜入した。 しかし、時が過ぎ、その開拓者はその謎かけの答えを知りたい、開拓者ギルドで人を集めた。 人数は多くない。それでもその開拓者『赤寅』は応えを知りたいと欲した。 少々の興味と、金銭的な打算。待ち受けるかもしれない危険を秤にかけた開拓者はギルドで契約を交わし、神楽の都を旅立った。それからしばしの時が流れ──。 四半世紀前なら、その迷宮は確かに人跡未踏だったかもしれない(と言っても、謎かけをしてくる像の設置者はいた訳だが)、とはえ今は軽く足を伸ばせば届く程度の田舎にすぎなかった。 少し昔を見るような目で、巨漢のサムライ、斉藤晃(ia3071)は朱麓(ia8390)に遠慮無く話しかける。 呼ばれた方、悪い言い方をすれば『ヒョウタン』、好意を持って語るなら、非常にメリハリのついたプロポーションである。 「依頼では初めてやな。よろしゅう頼むで。なぞなぞみたいな頭使うんは苦手やのがなぁ‥‥」 茶色い瞳で、朱麓はあっけらかんと答える。 「苦手な事をやるのは個人としては成長の機会。でもねー開拓っていう舞台の中でははた迷惑だよ。まあ、今回は何もないみたいだけど。考えもなしに来られるのは、残したモノが、いるモノとして勘弁な──」 「わしはただの呑んべえエロ親父や。難しいことはようわからん。お前の話はわからん。わかんのや。酒があればそれでええんや」 「あたしにもね、判んない事も幾つかあるよ? 謎解きとは別に、だけどさ。護るのも、壊すものも強さというなら、あたしは前者になる‥‥べきなのかね?」 「呑べえの戯言や、全ての応えはそこにあるんやろうな」 「おやおや、枯れ木も山の賑わいとはいうものの、おぬし少しは考えてはどうかのう?」 悩む(?)晃に、久万玄斎(ia0759)はかれた声をかける。 玄斎は見た目は好々爺である、頭に霜を頂き、趣味よくのばした髭も白い。 「女性の事を無碍にするのは良くないのう。事につきあいがあっては。無ければないで、袖擂りあうは多生の縁と、趣があるが──」 ふむふむと、髭を触りながら玄斎は朱麓に声をかける。 「一句浮かびそうだったが、いかんせん忘れてしもうたのう。ま、いずれは」 佳乃(ia3103)が奥ゆかしげに声をかける。 「わたくしは判りませんけど、玄斎さんは短歌か俳句でもひねりますの?」 「道楽道楽」 まだ、隠された道楽はあるが、それはこの場では語られないだろう。 赤マント(ia3521)はそんな皆を急かす。 「早く!もっと早く!!限界なんぞ飛び越えろ!こうしている一秒たりとも開拓は待っててくれないぜ、とにかく、開拓にはスピードが足りない」 赤いマントを太陽のコロナの様に身にまとい、ほとばしる言葉は一同をせき立てる。 これも彼女が生を受けた地方の習わしらしい。赤い装束で頭から足まで固めるのも、その信仰とも一般人には受け取れるだろう。 とにかく早く。 「遺跡はチンケそうだけど、しゃべる彫像は面白そうだぜ。早くお目見えしてみたい!玄斎のご隠居もお迎えが来る前に、てみたいだろう? さあ、急ごう、急がなければ、置いていく!」 口元から僅かに白く輝く歯をのぞかせながら、シノビのクォル・T(ia8800)がいつもの様ににやけて見える表情を浮かべていた。彼の興味があるのは人間そのもの。 開拓者というエキセントリックな一団は何度観察しても商いものであった。 それなりの身長があるはずだが、猫背のためか、背を伸ばすと、第一印象と違うように感じられる事も珍しくはなかった。 「行くよー!」 遺跡沿いの斜面を滑りながら、赤マントが遺跡人突入した。 「‥‥」 「玄斎殿?」 「‥‥?」 住乃は玄斎に話しかけた。 でも、無言。 玄斎は黙って鼻血を出していた。 赤マントマントの目繰り上がり具合が、玄斎のキャパを超えていたのだろう。 そして、遺跡の中に一同は突入する。晃は何かヒントはないか、のぞいてくると、勝手に独自の行動をとった。 とりあえず、適当に出番を順繰りにして、応える事にする。 縦と杖を持ち、いくさ装束に身を包んだ女性は英知よりも、勇気を感じさせる雰囲気を持っていた。 頭の中で声が響く。 その文句も想定通りであった。 とはいえ、石像の向こうにある宝物庫への道は無惨なまでに破壊されていた。 「ふむふむ。それはおぬしの言葉にあるように、作ったものは使わず、買ったものは生きている間は使わず、使っているときは死んでいるので、見る事も感じる事も出来ない。まあ、そろそろ自分もお迎えが来そうなので、骨を埋める場所を探さねばならんが、どこかにいい場所はないものかのう?できれば山がいいのじゃが、埋葬する連中は大変そうじゃな、そもそも‥‥」 「え、墓地じゃなかったの!じゃあ、女の色香とか‥‥ごめん言ってみただけ」 赤マントも同じ事を考えていたのだが、先に応えられて落胆の色を隠せない。 「やっぱり一番にすべきだったー!」 と、玄斎が話が脱線しまくりで、応えているが、次を選んだ。 「ここはあたしが行くね」 甘酒を飲み干すと朱麓が『ザシャァー』という効果音と共に立ち上がる。 「あたしの出番だけど‥‥前もって言っておくけど、多分間違っていると思うからあまり期待はしないでおくれよ?」 言って彼女は石像に向かい合った。 「──あたしが思うにこの答えは『言葉』だと思う。 なぜかって言うと、ことわざに『売り言葉に買い言葉』ってのがあるだろう? それに喧嘩をした時だって喧嘩の文句を買うわけだしさ。 んで、更に言うと『言葉』は文字にしない限り、見る事も感じる事もできない‥‥。 これで『買う者』と『使う者』の答えにつながると、あたしは思う訳よ。 だけど、この先は考えていないから、あたしの解説はここまで。じゃあお次の人宜しく頼むよ」 彫像は反応しなかった。 「あはは‥‥やっぱりそうは簡単に解ける問題じゃなかったか──」 「え、墓地じゃなかったの!」 赤マントも同じ事を考えていたのだが、先に応えられて落胆の色を隠せない。 「やっぱり一番にすべきだったー!」 住乃は一歩進み出て。 「謎かけは良くわかりませんが、作ったのが陰陽師との事で、最初は『知恵』かとも思いました。 知恵を作る者は、既に身につけている以上、それ自体は必要としない。 知恵を買っても、使いこなせなければ使えない。 そして使うときに見たり、感じたりするものではない、と──。 ただ、2番目がしっくりこないのですよね。 では、考えを変えてみて『恨み』とでも応えておきましょうか。 買う、作る、は兎も角『使う』と言うか、どうか甚だ疑問でございますがどちらかといえば、私のようなひねくれ者の回答相応しいかな、と。 ‥‥あるいは、正解などないのかもしれませんわね。 そもそも迷路を造ったこと自体、余興のようなもんでございましょうし。 力業で壊せるような壁であれば、それを守るにしては不必要な程に手が込んでおりますし。 もしかしたら、謎かけで誰かが困るのを見て喜ぶ、私のようなへそ曲がりが作ったもの、だったら、そういう考えとも思えてきますの」 「ん〜‥‥答えは棺桶かな?」 『正解である宝物を得よ』 ぼそりとつぶやいたクォルの発言、そして返答に一同の視線が集中する。 「は?」 扉はきしみながら開こうとするが、途中で破壊された部分でひっかかり、動きが止まる。 「まず、使う者」。 『それ』を使う本人が見も感じも出来ない、という状況に陥っているってことだよね? 『それ』を使う人がそんな状態になって必要であり、且つそんな状態ででつか使うもの‥‥。 いや、そんな状態だから使うものだとすると、恐らく『それ』を使う人は全員同じ『見も感じも出来ない』状態の人じゃないかなーと予測。 で、『買う者』 そんな状態の人がわざわざ『それ』を使用するんだよね?しかも他人が買っているところからすると、買いに行きたいけど、買いに行けない、となると使う本人は動く事も出来ないのかな。 でも、買いに行く人も大変だよねー。 最後かな? 作る者。 作る人は『それ』を作っているけど、そういう状態の人が使うなら、この人は使わない人──それに用が無い人──だってすぐに判るからね。 だって動けるし、作るには目で見れないと不便だろうからね。 つまり『見も感じも出来ない、動けもしない』人が使うもの、としたら棺桶という事になったんだよ。 いくら自分で作っている物だとしても、生きている内に入りたくないよね〜。 自分も生きている内に入るのは勘弁だよ」 手と手が打ち合わされる音。異音に異変を感じた晃の拍手であった。 「すごいわー、考える事は同じやったけど、変にヒント探しに行った分、遅れたわ。てめぇ、すげぇやつだぜ。あー、一年分脳味噌使ったけど、落ちがこれかい? よし、赤寅の旦那に早く教えてくれるんだぜ」 「発進!」 赤マントが先陣を切る。 「さて、うまい酒を飲みに神楽に戻ろう」 開拓記第十五幕閉幕。 |