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■オープニング本文 「親父、強い開拓者はいるか?」 とりあえず、天儀の開拓者ギルドで、熊のように厳つい男は、受付の男は低く響く声で問いをかけた。 「強いです」 「どれくらい?」 「巨大なアヤカシとタイマン張れるクライ」 受付の男は多分これくらい出来るだろう、という勢いだけで語り出した。 うそはついていないが、それは強力な開拓者でさえ、個々人の才能と投資がうまくいった上での、逸話になるような『得意分野』に関してである。 まかり間違っても、駆け出しの開拓者が行えば、死体も残らないような強大さ、だからこそ“逸話”である。 それを聞いて男は『熊』と名乗った、名は体を表すとはまさにこの事であろうか? 「依頼は単純だ。2年前から開拓をしている俺の住んでいる村の近くに山がある。山菜摘みに行くのもはばかられる難所だ」 そこの庄屋の家に去年、矢文が刺さった。 汚い、黒っぽい『何か』で描かれたそれは、8人の未通女を寄こせ(と、山の地名、奥まった洞窟が記されていた)。寄こさなければ毎日一人ずつさらって食う。 そして、それは現実となった。 二匹の大猿の姿を見た女が居た、口の周りを血肉で装飾した、純白のやせこけた大猿、しかも腕が異様に長く膝のあたりまで伸びていたという。 無造作に娘の足を持って振り回す。 それだけで娘の太ももは骨盤を剥がれ、血肉筋神経をたなびかせながら、オモチャのように飛んでいったという。娘はショック死。放り出された足首は思い切り握られ、黒く変色し、骨が砕けていた。 2回目の襲撃で村は折れた。 くじで決めた少女達が棺桶に入れられて(棺桶は樽型の時代である)、洞窟の前に安置された。 そして、6日後──。 『腹一杯になった、来年、また来る』 と矢文が庄屋の玄関先に刺さっていた。 それから一年。 再び、未通女を寄こせ、という矢文が来た。 腕の立つ、開拓者を集めて、急いで村へと守り、善後策を考える必要がある。 熊はそう言った。 龍は行き来には使えても、大猿たちが警戒して、悲劇を先延ばしに(村には開拓者を雇い続けるだけの資産はないし、開拓者に、経験にもならない仕事をしている時間はないだろう)するだけなので、避けて欲しい。 まだ、若い龍ばかりでは戦力にならないだろう。 では、これで、と熊は前金を渡す。 銅貨ばかりというのが、生活の厳しさを思い知らせた。 「葬式代よりはましなんでな」 その金の音が第十九幕の冒険の開幕ベルであった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 簡素な塚の前で各務原 義視(ia4917)は瞑目し。 (人を食べる、とか──やり過ぎじゃないか) と、風に己の髪をなぶらせる。 しかし、アヤカシは一度協力した様に見えても、最終的には人間を『食う』ものである。 それは義視とても一重にも二重にも承知して然るべき事であった。だが、改めて現場に立てば心が揺れる。 「合力しあえば天は応えてくれる。死力を尽くすのみ」 つまり、ここの村人は合力しあって折らず、故に天は応えてくれなかったのだろう。突き詰めればそうなる。 ──いや、違う。ここの貧しき農民達が銅くさい匂いを漂わせて、いっぱいに詰め込めたもの、それは開拓者達に託された祈りではないのだろうか? (そう、私がやらずしてどうするというのだ? この開拓ギルドへの依頼を受けた中で一番の格下であるが、それでもやらねばならない) 「古典的な手段やけどな、まあお約束やろう」 酒精の匂いと共に斉藤晃(ia3071)が、自分たちの計画である、棺桶に入って、アヤカシの懐に飛び込み、逆をついて討ち果たす。言葉にすればこれだけであるが、実際に少なくない人数で行うにはかなりの手間がかかる作戦を一番大きな声で主張していた。 残念なことに晃の注文通り、棺桶を中から短刀などで切り裂いて迅速に出られる事は出来なかった。 まあ、箍をゆるく填めておけば、少し慣らした開拓者ならば、腕力尽くで破壊できる見込みである。 しかし、数多の得物を下に隠す大八車の方に負荷が懸かりそうであった。 少なくとも、棺桶を抜けて即得物を取り出す、という事には成りそうにない。 晃はしばし腕を組んで見やるが、決定的な策は思いつかない。 とりあえず自分たち大半が、男性である事を悟られないために、棺桶の内側に白粉を塗っておく。 ルオウ(ia2445)はそれを見て安堵のため息を漏らす。 「いやぁ、白粉つけて入るなんて、女みたい気持悪かったけど、こんな手もあるんだな?」 いかにも女装が似合わさなそうな、赤毛金目の快活そうな少年であった。良かれ悪しかれヤンチャ小僧であった、実際に故郷ではガキ大将だったと聞いた記憶が晃にはあった。 好奇心旺盛そうな少年であったが、とりあえず健全に発育している様であった。 それでも如何にも小柄な女サムライの輝夜(ia1150)よりは背が高い。 「白粉がどうしたこうしたなど言っておる場合か。 ともあれ、情報は1年前の物じゃからの。どのように変化しておるかは出たとこ勝負じゃ。晃、脇を開けて私らが出るより、底を抜いて、中から蓋毎、棺桶を持ち上げるというのはどうじゃ?」 「ま、それは人それぞれやろうな」 珠刀や長槍、更には斬馬刀といった大きな得物では、開拓者それぞれが、かまえ終わるまでのタイムラグが大きい。 泰拳士ならいざ知らず、サムライが大きく関わっているこの一党では、大きな得物が必須となってくるのだ。 「最も『無手』であろうと『大筒』を使おうと、いくさは『戦変万華』。これを奉じる我の咲かす武勲は変わりがない」 「わいは酒があればええわ──輝夜の言うことは難しうて、ちいとも判らへん」 「どちらも難しい。全て勝利すればかまわない──違うのか?」 墓場から掘り起こしたばかりに見える、柳生 右京(ia0970)凄絶な美貌を縁取る総髪姿を現した。 「拳にも大筒にも興味はない。ただ、この刀でどれだけの獲物が斬れるか──私の人生は無駄なくできている。故に刀をどこに置くかが大きな論点となる。だから、そこまでは輝夜が受け持ってくれ。私の出番はそれからだ」 金色の目が虚無を感じさせるように滲む。 「どれ程の相手か‥‥実に愉しみだ」 「これまた昔ながらの迷惑な事態ね。早々に始末しましょ」 陰陽師の葛切 カズラ(ia0725)がちょっと買い物しましょ? 程度の重みで、自分たちの依頼を断言する。 「そうだよな〜早いに越した事はないしな?」 そう言うと、棺桶の様々な解体しやすさを互いに考え合っているが、左右の晃、上下の輝夜に対して、新機軸を打ち出した。 上下左右全部が外れればいいである。 勿論、視覚を保持できるように、崩壊しない程度に穴を開けておく。 確かに大きな発想の転換であったが、大八車で移動する際に崩壊しないか? それが大きな懸念事項となった。 ともあれ、彼女のアヤカシへの対策として、村の若い娘の身につけていたものを匂いで分析できる個体への対処とする。 確かに匂いくらいはかぎ分けられるかもしれない。 棺桶からは単に出やすいように細工をすれば良い、朝比奈 空(ia0086)はこの論争にたいしたネタを持ち込めなかった。 (挟み撃ちにならなければどうにでも──) そして、しとしととみぞれ交じりの雨の中を冒険者達は各々の工夫を施した棺桶の中に入って洞窟へと向かっていく──らしい。 誰も下調べをしていないので、本当にその洞窟へと向かっているのは判らないのだ。 そして、暗転して、祭壇の前に短い獣脂のロウソクが照らす空間の中、一同の緊張が高まっていく。 ルオウの指がこつこつと棺桶を叩く。 少年の鋭い五感がふたつの影の接近を告げたのだ。 「生け贄だ」 「生け贄やな」 「わしが、みっつ」 「おれが、みっつ」 「のこったひとりは──」 「のこったひとりは、はんざきに──」 空は位置を把握して、棺桶を飛びだして。仲間と自分のスキルを十分に生かせ、尚かつ相手から唐突に攻撃を食らわない間合いを保つ。 晃が咆哮した。 だが、得物を取れない、自分の攻撃力では引き寄せきれない──かと、思えたが、一体が棺桶の蓋を貫いて、一撃を浴びせる。右腕が異様な方向にねじ曲がりながら、アヤカシは晃を棺桶から『引っこ抜いた』。圧倒的なリーチと腕力。サムライのパワーに負けないパワーを持つ。 「パワー比べと行ったろかぁっ!!」 晃の小麦色の肌が真っ赤にふくれあがる。 分が悪い。 明らかに力負けしているのだ。 「おんどりゃああ!」 晃の声に重なる言葉。義視の声である。 「──律令の如く急ぎ行え」 少年の念に操られた無数の呪符が、アヤカシにまとわりつき、急速に動きを封じていく。 「邪魔すんな!」 肩の骨が外れそうになる、しかし晃は叫んだ。 「後は斉藤さんが勝ってから、聞きます」 空のひとさしひとさしが晃を癒しの力で包み込んでいく。 そこで奇声をあげたアヤカシが晃を振り回し、空と義視を巻き込む。 ふたり共に肋がおれていく。 しかし、そこまで。 逆転していったアヤカシと晃のパワーバランスは、異音と共に終焉を告げた。 「ふん、これで酒が旨く飲めるっちゅうもんや」 「それより、斧を──」 義視の言葉に晃は軽く首を振り。 「勝つのはわかっとる。横から油揚げをかっさらうのは関心せえへんな」 輝夜は不本意であった。 自分自身が攻撃を引き受け、同時にいなそうというのは中途半端に晃にかっさらわれた。 別に手柄を横取りされたのが不本意ではない。仲間の盾になれないのが残念出会っただけである。 ふたりで『咆哮』を二重に使わずとも、ひとりが足止めできていればいい、そしてその役目は自分の義務だと思っていたのだ。 現に、鞭を撓らせる様にして、浴びせかけられる一撃を凌ぐのに精一杯。この痛みは自分だけで受けていればそれでよかった。 肩の辺りに負担がかかっている。このまま脱臼すれば、最早押し切られるだろう──そう、誰かが。 くしゃ。 そんな音がして、一尺ばかり、刀身がアヤカシの肋の下を厚重ねの刀身が突き出した。 「──少し遅れた」 右京が八尺近い、斬馬刀で背中からアヤカシを突き通している。 そのまま刀身はアヤカシの二の腕を突き通して、大八車に縫い止めていた。 「餌に牙を向けられるのは初めてか‥‥猿?」 瞬間奇声が上がった。 自らを刻む事を重々周知で、突き立った刀身毎、大八車を振り回す。 吹き飛ぶ仲間達。 カズラは自分の仕掛けた地縛霊をアヤカシ達が配置していたことに、自分がその破壊力に巻き込まれたことで初めて把握する。 体を締め付ける、粘液まみれの触手。 「私の式神がこんな程度の能力で終わっていいわけないわ。もっと威力を!! もっと火力を!!!」 ともあれ、ルオウは輝夜を体で受け止めると、立ち直る。 「止血剤在るから、使ってくれよ、な?」 言って、珠刀『阿見』に気力を集める。 そのまま一見一足の間合いを超えた。 払い抜けの一刀である。 「どうだっ!?」 「──詰めが甘い」 いつの間に刀身を鞘に収めたのか、右京が居合いの一撃で半ばまで胴を斬り込み、大地へと節させた。ルオウからは右京が斬馬刀を抜刀し、鐔鳴りの音を立てさせるまでが一挙動にしか感じられなかった。 後に一同は後顧の憂いを経とうと、洞窟の中を探したが、成果は特になかった。 義視が練力の回復次第、皆を回復してくれたが、それでも戦いで消費した体力を回復しきれるものはいなかった。 こうして、ひとつの悪習が断たれた。 これが第十九幕の閉幕ベルの鳴った次第である。 |