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■オープニング本文 キミはジルベリアを知っているか? 冬将軍に降伏し、凍てつく大地は芽を拒む。短い夏には情熱の思いをぶちまけ、そしてまた冬へと還っていく。 こんな危難の土地に住む人々の魂の縁(よすが)は皇帝陛下そのお方のみである。皇帝陛下がいるから太陽が昇り、皇帝陛下がいるから、民は生きる事を許される。 いくつもの帝朝が移り変われども、皇帝陛下の意志こそが、ジルベリアである。 そして、この帝朝の末端に生をはぐくむ人々には、今の現状が皇帝陛下のご意志である、と思考を停止させている者が多い。 まあ、多いという事と、絶対という概念は繋がっているとは、かなりの贔屓目であろう。 そして、持ち主を失い、先々代の帝朝の遺物である別荘で、この夏にひさびさに使用者が出るらしい。世紀をまたいで、永らく手入れされていなかった、邸宅を予定時間内で掃除しきるには通常の三倍のスペックが要求される。 まあ、いろんな面で。 そして、依頼人の管理人からは絶対条件があった。 メイド服である。 家事をするからにはメイド服であるべし。 何を期待しているのだろうか? きっと、この依頼人の中ではメイド即ちエロいという図式が人生の基盤に組み込まれているに違いない。 エロいのか? この石造りの緻密な3階建のこぢんまりし建物の脇に寄り添うように、扉と窓が板戸を打ち付け、無数の鎖によって封じられている塔(4階建て)を速やかに、清掃すべく選ばれた──常人の三倍のペースで仕事をこなせる者と言えば、開拓者である。 口止め料含んだ料金で、後から粛正(おっと☆)が利く程度な能力の開拓者にこそこの依頼は下された。 一番肝心な事は、うめき声が聞こえてくる塔を沈黙させる事。 かなりの可能性でアヤカシが発生した可能性が大きい。ただし、この塔の下に迷宮があるという話は聞かない。 アヤカシの中でも比較的大きくない。多分人間サイズ。俗に言う死霊の様なタイプに分類されるアヤカシだろう。 ともあれ、後から来る者がどんな者かは、尋ねるのは僭越だろう。 世の中には政治的判断という言葉があるらしい。 依頼の内容はこの別荘を清掃する事だ。 確認の為に記すが、龍は持ち込めない。 それでも開拓者は明日に踏み出すのだ。 ──開拓の第一歩。 |
■参加者一覧
夕凪 夏鈴(ia0161)
16歳・女・陰
新崎舞人(ia0309)
18歳・男・泰
織木 琉矢(ia0335)
19歳・男・巫
橘 琉璃(ia0472)
25歳・男・巫
東海林 縁(ia0533)
16歳・女・サ
明智珠輝(ia0649)
24歳・男・志
パンプキン博士(ia0961)
26歳・男・陰
天宮 蓮華(ia0992)
20歳・女・巫 |
■リプレイ本文 その別荘は世紀をまたいで使用されていなかった。 巨大なカボチャ頭と、シルクハット姿が異風を放つ、パンプキン博士(ia0961)はその別荘に赴くにあたり、信用できる人々に自分の所在を明らかにし、帰ってこない場合は、別荘清掃の依頼人のイワン氏が糸を引いている可能性が大きい事を告げていった。 パンプキン博士は更に、別荘の周囲にいる住民に人の出入りを尋ねたが、周囲の住民は特に別荘に出入りした人物がイワンと鍵を備え付けた職人以外にはいないらしい、としか判らなかった。 「考えすぎ‥‥で、あるか?」 要は無関心である。 なお、瘴気の森以外でアヤカシが生まれる事は(傍目には)珍しくない。空から雪が降るのと同程度の知名度であった。つまり、実際に雪が降らない地方でも、本や聞き語りなどで、聞いた事はあるという事。 それはともあれ、別荘の門をくぐり、パンプキン博士が、着替えの間に滑り込むと、赤毛のツインテール少女、夕凪 夏鈴(ia0161)が、爆ぜる寸前の胸を、丈の短いメイド服に包み終え、一回転して若さを見せつけた所であった。 「まぁ、何とかなりますよ‥‥」 言い終えた所で転倒し、パンプキン博士のカボチャ頭を、たわわな胸で圧迫する。 パンプキン博士は別荘に来るに当たり、3倍のスピードになるとの願を込めてカボチャ頭を赤く染め、角を付けていた。 俗習であろう。 「お帰りなさい、旦那様‥‥! 志士っ子メイド、明智珠輝と申します。掃除、退治、真剣に取り組みますよ旦那様‥‥!」 そこへ声をかけるのは、頭上の狼耳の飾りが醸し出す、妖艶さのベクトルが、人間の理解を超える限度ぎりぎりの、ディープな方向へと炸裂しまくっている、明智珠輝(ia0649)であった。 もはや、この程度で、驚くべき事でないのかもしれないが、珠輝はミニスカ仕様である。 さすがは変態という名の紳士であった。 「此方の方が動きやすいので。安心してください、無駄毛はまだ処理仕立てです‥‥!」 それなりの身の丈がある珠輝が微笑むと、迫力倍付けである(変態度は自乗)。 「着付けがまだ──」 と、言いつつ、天宮 蓮華(ia0992)の視線はパンプキン博士の頭部に釘付け。赤さが旨みを連想させていた。 「お掃除も、メイドさん変身も楽しみですわ♪ それに極上南瓜の煮付けも‥‥ふふっ」 食欲に溢れた視線から、色々な意味で危険を感じるパンプキン博士。 一方、蓮華にメイド衣装と化粧に、プラスアルファとして、ウサギの耳状の飾りを頭部にセットされた織木 琉矢(ia0335)は、鏡の前で変貌した己の姿に見入っていた。 いつもと同じ両耳の赤玉の飾りがハイライトを加えている。 「これは‥‥誰‥‥だ?」 しかし、長袖の革手袋はそのままである。 他人に明かせない傷。 その下にあるものは今はまだ秘密。 それでも、蓮華と思いは同じであった。 (パンプキン博士、何て‥‥美味しそう。でりーしゃす) パンプキン博士の危機がまたひとつ増えた所で、あえて気づかず接触。 髪に緩くウェーブを掛け、没落貴族の令嬢風に 「あらん♪ 織木ちゃん良いわあ、流石若い子は髪の張りが違うわねぇん、であーる」 「とりあえず、聞かなかった事に──」 橘 琉璃(ia0472)は微妙な面持ちを浮かべ──。 「これは部屋数多いし、広いので、掃除のやりがいありますね」 チョイスした、メイド服は、メイド服=紫色で小紋柄の着物。黒の袴にブ−ツの和風系。 却って異風を放ち、エキゾチックな空気を醸造している。 非常に基本的な事を綴っておくが、琉璃は男性である。 「ほう、これはこれは‥‥」 とイワン、忘れられているようだが、依頼人である。一般的な認識としてはエロい人らしい。そして、今『らしい』の文字が取れた。 イワンからは間取り図を受け取りながらも、塔の中にいる敵の情報を尋ねる。 「何を言ってるんです、鎖と鍵で出られないように封鎖していますから、調査するのはあなた方が初めてですよ」 「ならば、そういう事にしておきましょう」 (気付かないとは、皆さん幸せですねえ‥‥まあ知らない方が良い事もありますけど) と思いつつも唇に笑みを上せるのみ。 新崎舞人(ia0309)は、一種達観した面持ちで──。 (めいど服というのに、何を求めるのでしょう? そこに浪漫があるのでしょうか?) 赤い単衣から着替えた、ロングスカートを捌きながら、さらりと。 「変なコトしたら、容赦しませんよ」 笑いながらも男性陣に釘を刺しておくのも、忘れてはいなかった。 とりあえず、女性陣は警戒対象には入っていないようだ。 そんなアウトオブ眼中な女性陣のひとりが懊悩している。 (これがあたしの──いや、開拓者として求めていた『セイギの味方』!? 違う、何か判らないけど、絶対に違うよ!!) 東海林 縁(ia0533)はメイド服を、ジルベリア式の割烹着程度の印象しか、持っていなかったが、周囲の気迫に押されっ放しである。 「『すかあと』は動きにくくなければ長いのがいいな、足見えると‥‥‥恥ずかしいよ」 その縁の言葉に蓮華は目を爛々と輝かせた。 「新しい自分に出会える瞬間──教えてあげたい」 「いや、そんなあたし、知りたくも、感じたくもないし!」 「‥‥ふふ」 以下略。 2階のそして掃除が始まる。夏鈴は舞人、パンプキン博士、琉璃と組んで、2階の清掃に回る。しかし、清掃は程なくして迷子捜しに変わる。 迷子は夏鈴であった。 据え付けのランプに火を入れて、琉璃はイワンから提供があった、間取り図と首っ引きで、現在位置と迷子になった地点を照合する。 パンプキン博士は細かい所を凝視していたが、見いだすべきものは特になかった様だ、 いっぽう、舞人は、掃除をしておけば、目印代わりになるであろうと考えて。 タンスの裏側などの、普通は掃除しない場所を、力任せにどかし、丁寧に清掃する。 一方で夏鈴は掃除道具を携えて──。 「お掃除の基本は、高い所から埃を落としていって、最期に箒で集める‥‥でしたっけ? 雑巾掛けもしっかりやりませんと。あ、それと換気も良くしないとでしたね」 彼女が偶然、一同と合流する頃には2階は磨き上げられていた。 蓮華は1階の清掃の先頭に立ち──。 「えへへ、初めての依頼でやる気ばっちりなんだっ。終わったら3階の掃除に回んないとね」 「やる気と、勢いはほどほどにしておくべきかと?」 琉矢は換気と、物を壊さない事に重点を置いていた。主に縁のフォローであった。 仕上げの拭き掃除に入る前に、縁は小物の裏などを丹念に掃除していく。別に変わった物とか、ダイイングメッセージなどは目に入らなかったが。 「偶にはあってもいいような‥‥」 珠輝はベッドメークに勤しむ。 「互いの位置確認の為、声出していきましょう。ふふ」 「声を出すなら勝負しましょう」 「負けた際はなんでもやりますよ‥‥! ふふ」 「ならば、みたらし団子!」 琉矢は珠輝に持ちかける。真剣勝負と書いてガチンコと読む、である。 床のぞうきんがけ、クォーターマイルが始まった。 「れでぃ、ごー!」 復帰した蓮華の声と共にふたりの男は流星になる。琉矢は気力を爆発させ、ゼロの領域に突入。 そこで、おそるべき某蓮華嬢の手に依る所の、作為的な偶然が発生した。 珠輝のスカートのホックが破壊! 凄まじい勢いで背後に吹っ飛ぶスカート! もつれる脚、露わになるフンドシ! 「燃え尽き──ましたよ、ふふ」 勝利の旗が降ろされた時には琉矢は、みたらし団子の幻影をみていた。 それでも──勝負は判らない。珠輝は跳ね上がり、ミニスカパンプキン博士に詰め寄り、両手を大地から天空へとすくい上げるように、一撃を放つ。 旋風が、パンプキン教授の何も着けていない、スカート下を露わにした。 「勝った!」 負けて尚、珠輝の顔は安らかであった。 そして、館内の清掃が終わり、一同は呪符の確認をしたり、関節を軽く鳴らしたりしながら、塔に近づいていく。 火の点った松明を周囲において光源とし、鍵が次々と開けられ、重い音を立てて、戒めは解かれる。 縁が重い扉を開け放ち、叫ぶ! 「儀が呼ぶ、龍が呼ぶヒト、が呼ぶ! 切なる声に応え、“紅蓮の乙女”東海林縁がタダイマを以って、参・上っ!」 腐臭をもものともしない鋼鉄の覚悟! その中から飛び出すのは、一体の悪鬼、人の亡骸と瘴気の組み合わさったアヤカシ、ジルベリア風に言えば『グール』であった。 そこへ並外れた瞬発力により舞人が間合いを詰める。 「皆さん、フォローを宜しくお願いしますね」 と余裕すらある笑みを湛えて言った後、グールに対してはきっと睨み、告げる。 「汝が相手、我が勤めん」 鉄甲を充分に活かした裏拳から、舞いをみるかのような、流れるような攻撃。 自分が責め立てるだけではなく、周囲のフォローを期待して自分が術者達の射線を遮らない位置どり。 そこへ目がけて、夏鈴の呪縛符。別に嵐が起きたわけではないため、自在に動ける縁の力の歪み。 「皆さん頑張って下さい。ピンチすなわち、戦えないと思ってましたか?」 泰弓を浴びせかける琉璃。攻撃がやんだのを確認して、珠輝と縁が飛び込んでいく。 狂気を孕んだ含み笑いと共に、斬撃を浴びせる珠輝。無言のまま、間合いを詰めようとする縁のショートソードには確かな気合いがこもっていた。 相手が1体ならば、次の攻撃はない。 容赦は無用。 気がついた時にはグールは障気になり、大地へと吸われていった。 パンプキン博士は周囲を探索。何かウラがあるのでは? と調べていたが、何もトリックはなかった。 イワンも胸をなで下ろし、一同に感謝の席を設けよう、と言い出した。 しかし、希望するメニューが南瓜の煮付け、あるいは、みたらし団子と統一される事がなかった。 これが、開拓紀の顛末である。 |