略奪しに来た六人の花嫁
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 不明
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/18 00:07



■オープニング本文

「エルドハイド様! 何処に!」
「エルドハイド、出てこい!」
 開拓者ギルドの付近で軍馬に跨った、ウェディングドレスを身に纏ったふたりの影が、鞭とか錫杖を振り回しながら声を上げる。
 そのエルドハイドなる人物は開拓者ギルドの貴賓室にいた、さすがにここまで侵入するのは剛柔いずれであれ、壮絶なまでの達者だろう(突破された、されないに関して公式な記録がある訳ではないが)。
「では、依頼内容を整理します。エルドハイド・クラーケン様?」
 受付嬢が契約内容を示す資料を開き、蜜柑箱を被ってふるえている青年の姿を見やる。
「まず、依頼としてはクラーケン氏族の政略上、可及的速やかに、近隣六つの氏族の名家からの求婚者を娶る様に求められている。これはクラーケン様の氏族では、風習として、六つの氏族から同時に娶る事は認められている。法律上は問題ありませんが──エルドハイド様の一身上の都合により、独身でいたい」
「せめて二十代になってから、結婚したいです。十四で結婚するのはちょっと──それにみんな怖い──」
 エルハイドは志体持ちではないが、求婚者は皆、志体持ちである。
「まず、求婚者のひとりアベリア様、一キロ先の的を打ち抜ける弓術士」
「目つきが怖いです。なんて言うか、人が死んでも動じそうにない、という感じで」
「デルリア様は吟遊詩人ですね。その死人も目を覚ますとまで称される竪琴の使い手、特にレバートリーは愛」
「結婚しても割り切る。浮気をしてもいい、自分も浮気をするから、と公言する方は、さすがに──」
「血縁を重視するタイプの氏族では受け入れにくいでしょうね。デルリア様の氏族の方が上の位置になるのですから、公言通りの事はするでしょう。次のモーント様。巫女──普通な評価では?」
「書類を確認してください。その子は10歳です、悪友達からロリとかペドとか言われるのは間違いありません。即座に娶れですから」
「婚姻したという書類にサインをするだけで、肉体関係を強要するとかではないのですのに?」
「自分が納得いかないんです」
「‥‥では、騎士のグライア様。彼女はあなたに異常なまでの執着を見せている。自分以外を娶らせる位なら、相手を殺して、エルハイド様と心中する、とまで言い切っている。きっと、結婚すれば相思相愛になれますよ」
「本気で言ってますか?」
「──では、魔術師のアルパさん。この方は普通に見えますが?」
「持参金を持っておらず、更に結婚した相手を次々と、薬物の実験対象にするのです。今回で五番目の結婚になる、不幸な事が相次いだので」
「最後になるのがサムライのマルリーデ。この方は持参金を大量に準備。その代わり、浮気も何も一切許さず、他の女性と視線を合わせただけで、全力でパンチを入れます。以前、城門を貫通し損なったという噂も聞いてます。
 サムライなのに素手で戦うって」
「で、具体的にどういう依頼ですか?」
「試練と称して、それぞれ選りすぐりの開拓者と一騎打ちをしてもらいます。開拓者ギルドはきっと、この依頼に応えていただけますよね」
「六年間の自由を得るためですか、経費は如何様になりますが」
 蜜柑箱ごしに桁の数を教えられエルドハイドはしくしく泣き出し(?)
「契約します、必ず勝ってください」
「ちなみにオプションで龍も使えますが? 龍と一緒にいると開拓者のモラルも上がりますよ?」
「サインします。結婚なんてしたくないですから」
 戦いの条件は開拓者に委ねられた。
 決まっている条件は一対一のみ。それ以外は、それぞれの開拓者が勝敗条件を決めた戦いのルールを決める。
 どんな滑稽なものでも、どんな陰惨なものでも、開拓者が任される。
 逆に言えば、そこで開拓者個人のプライドが試される。
 その代わり、開拓者がふたり以上負けると、桁外れにややこしい事態になる。
──開拓史第三十二幕開幕。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
鷹碕 渉(ia9100
14歳・男・サ
今川誠親(ib1091
23歳・男・弓


■リプレイ本文

 ある氏族の後継者がいた。彼には6人の求婚者がおり、互いに厄介すぎる関係を気付いていた。
 あるものは愛を与えるために、あるものは地位に、あるものはそれしかしらぬが為、あるものは富貴を求めて、あるものは妻である事そのものに、様々な思惑の為、開拓者ギルドに逃げ込んだ後継者を追う。
 結婚のための試練と称して、開拓者と戦わせ、希望的観測に後継者は身を投じた。
 これが開拓第32幕の開幕である。

 斉藤晃(ia3071)が炎龍『熱かい悩む火種』をどう思っているかは、ここで言及する事はないが、『熱かい悩む火種』にとって晃は食事と戦いを持ってくる側面が強い存在であった。今日は両方とも準備してくれそうである。
「やれやれ、14で結婚ぐらい普通やろ? 我が儘なこっちゃで」
 と苦笑を浮かべるが、普通の線引きは当人による。晃とはエルドハイドは結婚観は違うらしい、とりあえず晃もエルドハイドの倍はありそうな見た目だ。恋愛観は人それぞれ、独身でも既婚でも、開拓者の依って立つ所は違う。
 如何にも気怠げな背中に鞍を装着すると、『熱かい悩む火種』は身震いした。
 今日は旨いメシが食えそうだ。
 晃は軍配を取る。
「一番、行くで」
『熱かい悩む火種』は厩舎を飛び出し、空中に舞い上がった。
 神楽近くの空き地で戦う事になっている。
 それなりに開けているが、近くには茂みもある。
「4年の差ぐらい普通やろ。結婚したくない言い訳が、友達に何ぞ言われるなんぞ男らしくもないわ。まあ、それに雇われるのだから、云々するのはスゴイ勢いでどうでもようなるがのう」
『熱かい悩む火種』は応えない(逆に応えたら、それはそれで恐ろしいモノが、あるが)。しかし、前方に騎龍に跨った、モーント嬢がいた。普通の開拓者レベルならかなりの質の武具、宝珠を身に纏っているが、強化され確かな相棒となっている晃の武具とは『格』が違う。
「なんであのぼんに興味があるねん?」
「産まれたときから決まった事です。エルドハイド様に嫁ぎ、良妻賢母となり──」
「ああ、判った、判ったわ。つまり、てめぇは自分で考える事を産まれたときから放棄しとるんやな──すこし、頭を柔らかくしたろうか。だから、てめぇには『手加減』せぇへん」
『熱かい悩む火種』が咆哮をあげると同時に晃の手にある斧が唸りを上げる。
「手が遅いで!」
 咄嗟に盾でかばったモーントであったが、晃の赤い目に射すくめられ、慣性の赴くまま、鞍から転げ落ちた。
 もちろん、命綱は付いているが、晃はそれを斬り落とす程、鬼ではない。
「やれやれ、大車輪かましたろうかと、思ったがそこまでいかへんか、見極めはつかんのう。これで──あのぼんに色々突っ込もうと思うたが、そのタネにもならんわ、しゃあない──勝ったから、祝い酒呑んで、祝い酒呑んだら、そのまま寝るか、やれやれ」

『血の宴』を思い出す──などと、口にはしないものの、柳生 右京(ia0970)は、彼の心に潜む深淵を想起させる──金色の彼の目とは裏腹に──かの如く黒い龍『羅刹』に合図を送った。
 羅刹の深紅の目が一瞬瞬くと、大空に舞い上がった。
「凄腕のサムライと死会えるのだ。話は──する必要はあるか?」
 マルリーデは分厚い筋肉と、鍛えられた鋼で鎧われた体格、そして澄んだ青い目で自らの騎龍を上空に舞い上がらせた。
 求婚者の振りかざす得物は赤ん坊の頭位はありそうな握り拳であった。
 だが、それも力量のひとつ。サムライとして生きるのに体力に全てを注ぎ込んだ存在。端的に示すのが。
「城門をも打ち抜く手腕──」
 その言葉が引き金にマルリーデと右京は無造作に死線、一足一刀の間合いを超えた。 鋭い鋼が激突する轟音が響く、更に天では炎が上がった。『羅刹』はその炎すら楽しんでいるかの様に、漆黒の巨体をうねらせて、上空を占めつつ、急降下の機を伺う。
「見せてもらおう」
「──!」
 大地では互いの腰に響く、激しい手応えを両者は感じる。
 正面からぶつかり合う、斬馬刀と鉄拳。
 否、手応えのみならず、互いに手首も脱臼しかねない一撃であった。圧倒的な破壊力同士がぶつかり合った衝撃はただではすまない。
 しかし、限界まで鍛えられた斬馬刀の破壊力は手甲を粉砕する。
 無造作に右京は腰の業物を振り捨てる。
「得物が戦いについてこれない悲しさだな──使うか? もう少し戦い合いたい」
「もう少し──か」
 マルリーデはようやく口を開いた。
「身体はがたがただ。だが、申し出は受ける。しかし、次で──終わりだ」
「──委細承知」
 ふたりは改めて向き合う。まるで肉食獣が互いの獲物を狙うかの様な、血のにおいを孕んだ、そんな野生を感じさせた。
 『羅刹』の炎に包まれた獣毛が地に落ちた。
 とんぼの構えの右京がそのまま斬馬刀を振り下ろす。
 気力による集中は右京の本気を示す。
 最短軌道で野太刀は振り下ろされた。
 マルリーデの目が見開かれる。
 様々な骨の砕ける音。マルリーデはその場に崩れ伏した。
(業物の銘刀より、戦場往来の野太刀の方が上か──まるでこの戦いそのものを示しているかの様だ)
 右京は口に出しては。
「峰打ちだ──まだ正気なのでな」
 懐紙で斬馬刀に拭いをかけると、『羅刹』を背に従え、倒れ伏したマルリーデを後に、右京は悄然と去って行った。

 鷹碕 渉(ia9100)はエルドハイドの意向と、何が嫌なのかを確認していた。
 弓術士のアベリアには感情移入する隙間を見いだせない。
 吟遊詩人のデルリアにはお互いの愛情を前提としない関係を構築して、尚かつ氏族の長になる自信がない。氏族という施政だけに拘泥する訳ではないが、血縁関係が怪しい、次世代の領主は問題を残す。
 巫女のモーントはまだ彼女を氏族の掟には縛りたくない、というより無条件に自分に愛情を寄せる、こちらからの愛情は必要としない姿勢が理解できない。
 グライアは潤沢な経済力で氏族は栄えるが、自分の自由な生き方の放棄を強制させる。浮気をする訳ではないが、少しは自由があってもいいのではないか?
 魔術師のアルバは、自分が彼女の7人目の夫が生まれるまでのつなぎにはなりたくない。単純に命が惜しい。証拠がないが──。
 マルリーデはクライアと似た様な方向だが、自分にのみ寄せられる愛情が、子供を持ったとき、愛せるか? という大きな疑問が残る。自分だけに注がれる愛情は、家族に向けられるか? もちろん、乳母などを考えるが、それでも、母親として振る舞えるかが非常に怪しい。妻になる事はできたとしても、だ。
「‥‥‥‥‥‥‥難儀な話、と言うべきか」
 そんな思いを抱きながら渉は炎龍『焔猛り』に指示を出す。
 デルリアの緋色の炎龍が炎を吐き、間合いを詰めてくる。
「回避に徹して──」
 不満の意志を押さえつつ空中に舞う『焔猛り』だが、次々と直撃を受ける事で、鱗が未成熟な龍は高度を維持していられなくなる。
「降伏するなら今の内。終わってからではもう遅い。困った事にあなたの龍はまだ弱い」
 デルリアが近接してこず、『焔猛り』は消耗する一方。
「‥‥‥‥‥‥‥結婚しても割り切る。浮気をしてもいい、自分も浮気をするからとは‥‥‥‥‥‥‥言うに事欠いた外道の極みと言えよう。‥‥‥‥‥‥‥貴公が唄うのは愛ではない」
「愛を欲する者だけが愛を歌うのではないわ、売れるから歌うのよ。私は──愛が欲しくて結婚する訳ではない。あなたのしているのは根本的な勘違い、でも見透かされたのは少し寂しいかな」
 言って、騎龍を虚空へと行く。聞こえてくるメロディーは切ないまでの響きであった。

 今川誠親(ib1091)は今の一番を見て、自分の力がかの女傑達にどこまで対決できるか、冷静に考えざるを得なかった。自らの弓術も完成しているとは言えず、自らの鍛え上げたアーバレストが異様に重く感じた。
「Alexander君──拙者は君を裏切らない。あの贅沢な──もとい、哀れな方の為に、一キロ先の的を打ち抜ける弓術士、拙者はどこまでやれるのか」
 普通の開拓者でもそこまでの腕を持つのは才能、経験、運が必要とされるだろう(運も才能の内という考え方もある)。
 だが、アベリアとの対峙は誠親にひとつのメリットがあった(他のものはあまり、その権利を行使しなかったのだが)。
 この試練の条件はこちらが選べる。つまり、零距離からの攻撃に全てを賭けたい誠親は可能な限り短い距離で戦いを始められるのだ。
 駿龍『Alexander』の翼が素早く羽ばたき、アベリアの間合いを盗む。
 もちろん、アベリアの炎龍も炎を吐くが、『Alexander』は意に介しないかの様に、距離を詰める。
 誠親はアーバレストの引き金を引く。撓められた鋼鉄の弓が原型を取り戻そうとする反動は、一本の太矢に集約される。
 この矢はアベリアの右胸に突き刺さった。
 動脈からの血がアベリアの胸を赤く染める。
 騎乗されていた龍は、主の身の保全の為、逃走した。

「行くで、疾風」
 天津疾也(ia0019)がこの事件では唯一の俊龍乗りとして、参陣する。
「まー結婚ちゅうのは、多かれ少なかれ周囲を巻き込んだものになるもんやが、いやはや、大変やな、一族がかかわるとなると。
 相手もなんともまあ評価に困る奴らばかりやしな」
 次男坊である身故、気楽な恋愛が出来る立場の疾也は、気軽に愛龍『疾風』の真上に跨る。
「じゃあ、グライアはん、行くで」
 グライアは騎士としての本領と、炎龍の間合いの両方を活かそうとするが、疾也と疾風の阿吽の呼吸と、スピードに翻弄される一方となってしまう。
 疾也が合図すると、疾風は羽ばたき、衝撃波を打ち込んでいく。一瞬止まっても、次の瞬間には体力を振り絞って、間合いを取る。
 本来得意なのは絡め取る様な戦いであったが、疾也疾風はこういう戦い方も出来るのだ。
 卑怯な──とのグライアの叫びに疾也は鼻にかかった眼鏡を直して。
「うわぁ、相性最悪やな。まあ、狙っとらんとまでは言わへんけれど。頭つこうただけや。──勝たないかん訳もあるんやで。実は、わてもエルドハイドさん目当てやからな(ウソやけど)」
 と軽く挑発を入れてみる。心の声は自分ツッコミである。
 拍車で炎龍の鱗の未発達な脇腹を激しく蹴りながら、もはや何を言っているのか判らないほど、激情したグライアが回避軌道などもせず、最短距離で突っ込んでくる。
 乞食清光の柄に手をかける疾也。
 突進に対して、逆に突進。
「──秋水」
 実用一点張りの刃がグライアの甲冑の隙間を貫いた。
 血しぶきすら出さない。
 軍配は疾也に上がった。
「やれやれ‥‥その程度の腕では愛を語るには10年早いで、顔を洗って出直してこいや」

(なんかすごい女の人ばっかしだなぁ‥‥もてるんだなぁ、でも俺もこんな目にあったら──まあ、自分で戦うか)
 ロートケーニッヒを従えた、ルオウ(ia2445)と対峙した、アルパに向かって──。
「俺はサムライのルオウ! よろしくなー」
 と声にする。アルパの微妙に浮かべた笑みが消えていった。
「サムライが魔術師を相手に力で訴えるのはよくないと思うし、納得もしてくれないだろう? 相手もしてくれないと思うけど。勝負方法は、他人や生き物、物に手を出す事なく、どんな手段を使ってもいいから、1時間以内で俺に降参させる事」
「じゃあ、この薬とかも使えない──」
「薬かい、呑んでやるよ」
 懐から幾本か瓶を出して、諦めたかの様な表情を浮かべたアルパの迷いを無視して、ルオウはひと瓶飲み干す。
「え?」
 ルオウは何かめまいがして、身体が熱くなってきた。

 そして──気が遠く。

 気がつくと、ロートケーニッヒが心配そうにのぞき込んでいた。
 全身汗だくである、服というか甲冑は纏めておかれている。鎧あてなどの服飾部分は新しいものに取り替えられている。
 何か気怠い疲れがあった。
「一時間経った?」
 太陽の位置から類推するルオウ。
「ルオウ君の勝ちでござるよ」
 ルオウが自分より小さな渉に声をかけられる。
「は?」
 意識がないのに、どうやって勝ったのかルオウには不思議であった。
 敗北者のアルパがかいつまんで説明する。
 瓶の内容は魔法で造った媚薬である。
 しかも、瓶を割って周囲に散布するタイプである。
 アルパの心づもりは、周囲に媚薬を散布して混乱の内にルオウを倒すつもりであったが、その『原液』をルオウが飲み干して、理性が吹っ飛び、潜在力解放で大暴れして、アルパが恐れを為して『降参』するまで抱きつき続けたのである。
 この疲労はその薬の反動だそうだ。
 汗もたっぷり掻いた。
 感覚としては平衡感覚の失墜のない、二日酔いといった所か、とにかく無性に疲れている。
「疲労回復はゆっくり休んで、たっぷり食べる」
 アルパはここまでストレートな人間にであったのは初めてで、若さとかそういった垣根を乗り越したルオウに感動した、らしい。
 近くの開拓者達が(この勝負で博打があったらしく、そこで順当に設けた連中もいるようだ)が傷などを治し、名勝負を褒め称えた。

 八重桜の咲く、樹の下でひっくり返った蜜柑箱と、礼金がエルドハイドの達筆な礼状と共に置かれていた。
「せっかちな依頼人やな──さて、酒を飲むために桜はまだ咲いておったか」
 晃はそういって、杯を傾けるのであった。
 これが開拓記第32幕の締めである。