六月の花婿
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/19 01:02



■オープニング本文

 ひょっとしたら誰かが記録を残しているかも知れないが、魔の森にいるものとは別に、アヤカシが現れる事は知られている。
 知名度は雪が降る事を知っている、程度。
 そして、ジルベリアで唐突に現れたアヤカシがひとりの若者の行く手に若干の影響を及ぼしていた。
「アヤカシ退治という事でよろしいでしょうか?」
 開拓者ギルドの支部で、天儀の民である受付は反射的に質問した。
 その言葉に、長身の青年『クリフ』は、頷くと、言葉を切り出した。
「森に出たというアヤカシを退治するのが目的ですが、同時にうちの村の村長が僕がリエルに──あ、村長の娘で僕と言い交わしている仲ですが、彼女に相応しい人物かどうか、人あしらいの力量を計る手段としようという意向です。
 本当は結婚の前に村の男は、夜に森を突っ切って、その向こうにある祭壇にロウソクを点して来ることで、度胸を示す習慣なのですが」
 しかし、その浅い森にアヤカシが出たという。狼を二回り大きくした様な巨躯。何かの魔法めいた攻撃や、精神に干渉する能力は確認されていない。
 尚、1匹で居る所しか確認されていない。
 発見場所は水場。
 森の炭焼き小屋の主が見た。遠目からとはいえ、森の中にいる事に危機を感じて現在は村に逗留中である。
 娘の結婚に乗り気でない村長が、クリフの力量を計るとして、このアヤカシ退治を差配する事を結婚の条件とした。
 クリフは気の知れた村の者と退治に乗り出すのではなく、開拓者を使う事でアヤカシを退治。それを以て村長から結婚を認めてもらいたいと受付に切り出した。村には実害はまだないし、開拓者を雇う資金は自腹であり、何ら恥じる事はない、少なくともクリフにはやましさはない。
 そして、今ここにいる。
 真顔で受付は言葉を続ける。
「戦いを有利に進めるなら、龍も使えますよ。少々お高くなりますが」
 値段を聞くと、クリフは眉間にしわを寄せる。
「でも、自分の資金に見合った内容ではありませんね。そこまですると、リエルと結婚式の予算の枠内で収まりそうにありませんので」
「それなら、通常の依頼という事で受理します」
 こうして宴の支度は始まった。
──第37幕の開拓が幕をあげる。


■参加者一覧
守月・柳(ia0223
21歳・男・志
薙塚 冬馬(ia0398
17歳・男・志
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
白梟(ib1664
17歳・男・志
シルフィール(ib1886
20歳・女・サ
リン・ローウェル(ib2964
12歳・男・陰


■リプレイ本文

 髭をいじくりながら、オラース・カノーヴァ(ib0141)は呟いた。
「やれやれ、テーブルマナーに疎い奴はこれだから──後、もうひとつ、いや二つかな? 考えられる事がある」
 水辺で穴熊を食い散らかした死体を調べて、彼は自分の意見を開帳した。
「まず、炭焼き小屋の人間が視認できる範囲までこのアヤカシに近付いたにも関わらず、気付いた痕跡はない。狼を模した形にも関わらず、感覚は鋭くない。この位置も炭焼き小屋の親父から聞いていた場所だ。行動半径は広くない」
 オラースの半分程度しか歳のいっていない様に見える少年、白梟(ib1664)は首を傾げながら、自分の見解を述べる。
「つまり、このアヤカシは水場から大きく離れない。食事も時間をかけない、という事なんだよね」
「合格」
 一団の輪の中に入る様にして、周囲に気を配る──程度しか出来る事のないクリフに、青い帽子を被り、左目を眼帯で覆い、残った右目は黄金の少年のリン・ローウェル(ib2964)が鞘ごとナイフを渡す。
「初依頼で死人を出す訳にはいかないからないな。とりあえずこれを持って行け」
 クリフは済まなそうに受け取る。一応自分なりの備えとして、大振りで厚重ねの短刀を持っているが、腕に自慢のある開拓者ならいざ知らず、一般人が持っていても重いだけの代物だ。
「おやおや、俺の分は受け取らないで、リンのは受け取るんだ」
 オラースが帽子をいじりながら、冷やかすように言うが、クリフにしてみれば精霊の短刀はどうにも理解が出来ず、志体を持っていない自分が所持していいのかという躊躇いがあったのだ。
「センスの差だ」
 先達に対し、勝ち誇ったようにリンは言い放つ。
 その裏側で。
(結婚に条件か‥‥。何処の世も世知辛いな、ただしクリフはこんな危険を冒してまで条件を成し遂げようというのだから、是非とも結婚にたどり着かせたい。少なくとも自分が選んだ専門家の意見を聞く気はあるようだし)
 紅い髪に挿したいくつもの飾りを直しながら、守月・柳(ia0223)はたもとを直す。ついでに腰に挿した脇差しと長脇差しを確認する。
 左右で濃淡の違う青い瞳に、黄色人種の肌、縛って背中まで伸ばした茶色い髪といった無国籍な雰囲気を漂わせる自己認識『三枚目』な薙塚 冬馬(ia0398)は、自らの血の繋がっていない兄弟を浮かべながら──。
(結婚かぁ、俺は今のところ興味がないけどな。つうか年齢順からして義兄貴からだろうけど‥‥あれは絶対にしそうにない。まあ年齢順に結婚しろ、とかいう法律はないけど、し辛いよな、相手とか)
 シルフィール(ib1886)はクリフと微妙に前線に立つであろう仲間の距離を測りながら──。
「どうして、私が他人の結婚進めるようなしなきゃらないのか不満だけど‥‥それはまあ置くとして」
「え、えと結婚に反対とか?」
 クリフがシルフィールの呟きに反応する。
「幸せな結婚もあれば、真逆の結婚もあるという事──私に対しては質問は却下します。
 とりあえず、娘さんとの結婚で、安易に村人に頼らず、開拓者ギルドに依頼したのだから人並みの頭と、年からして地道に金を蓄える計画力はまああるのでしょ。
 結婚生活、それはそれで、村長の娘という事にまつわる各種事情の政略結婚でも、あんまり粗末な扱いでなければ祝福のひとつもしてあげたいわよ」
「では、よろしければ結婚式にご来席いただいても」」
 言って水際の騒動の方にシルフィールは踵を向ける。
「みんなで幸せになりましょう」

 柳の『心眼』が大型の生物気配を捉えた。
 3人ほどが炭焼き小屋の親父から聞いた話を総合すると、大きさからはあっている。ついでに数も一体だ。
 オラースはクリフの肩を叩く。
「戦いで、アヤカシが排除される様子、確かに見届けてくれないか? Now It Show Time!!」
(狼シャーベットにできないのが残念だぜ)
 アストラルロッドの周囲に魔力が集積し、雷が産み出される。鼓膜を激しくシェイクしながらも、ツンとした匂いが強化される。
 脇腹が炭化していき、アヤカシの絶叫が轟く。術そのものの練り込み、志体持ちとしての能力に、増幅する宝珠の三つが高いレベルで揃えられる──そして。
「もひとつオマケってか」
 雷が走り、アヤカシに更に手痛い消耗を追わせる。
 その間に前衛が走り込み、クリフがアヤカシを退治した事を報告出来るように、ベストをつくす。
 端的に言えば、タコ殴りだ。
 白梟の珠刀が、集まった精霊力に呼応する。更に集まった精霊力を纏まった形として、炎をまとった刃を創り出し、雷の次は炎か、とばかりに攻め立てる。
 攻撃はオラースの一撃がなければスムーズには当たらなかっただろう。
「ふたりの結婚のために!」
「若いですね」
 白梟の言葉にシルフィールが大きな隙を造り、次の攻撃の呼び水とする。
 そこへアヤカシが火事場の糞力で予想以上に早い一撃を繰り出し、彼女の髪が数本ちぎれる。だが、リンが式札により瘴気から形を変えて創り出した式神が、鎖となり一瞬の戒めとなった。
 途中に介入はあったとはいえ、シルフィールの思惑は大体達せられた。
 だが、やけになった所で冬馬を突き破ろうと突撃をかますアヤカシの体当たりは冬馬は受け流す。精霊の加護がなければ、クリフまでは遠くない距離だったろう。
「やれやれ──」
 柳が炎を纏った脇差しと長脇差しを同時に納める。
 アヤカシが地面に倒れ伏し、瘴気となって分解し始めた。
 カウンター気味に決めるつもりだったが、皆が皆、美味しい所を他人に譲ろうとし合い、結局彼が確実性を認められ最期のとどめとなる次第であった。
 経過は色々あった。しかし、クリフからの依頼は達成された。

 柳の提案で若者のキモダメシの祭壇にも蝋燭を点す。まだ陽は明るく、ぼんやりとした炎だ。
 白梟少年は串団子を一同に配る。
 幾ら開拓者とはいえ、戦えば腹が減る。それに旨いものを断る者はいなかった。
 シルフィールは味わいつつ。
「この森のアヤカシが一匹と決まったわけじゃない。でも、気配もないものを探し回るより先にやることがあるしね」
 冬馬は確認すると、大きく頷き。
「真面目に彼女と幸せにな」
 とクリフの背中をどやしつける。
「また──やろうじゃん、冬馬」
 と冬馬にオラースは声をかける。
「または早い。結婚式を見届けるまでが仕事の内だ」

 こうして結婚式が始められた。柳が繊細な横笛の音色を織りなしながら、白装束に包まれたふたりが『皇帝』の名に於いて、結婚を宣言する事を宣言。指輪を交換した。
 それを機会に結婚式という名の、新郎新婦をひたすら出汁にする騒ぎは始まり、若い連中はかなり暴走していた。
 その中、リンが村長の脇に人がいない事を確認すると──。
「結婚式にアヤカシ討伐を試金石に出すとは親莫迦も困ったものだな。力量を確かめるのなら、他の方法をもあっただろうに──」
「私はこの状況で結婚を申し込みたい、そうクリフくんが言い出した事が、彼の運命だと思ったのだよ。村に逆境が起きなければそれに越した事はない。だが、事実は残酷だ。大体森を抜けるだけで当人の危機管理能力の何が判る? 幸せを維持できない相手に、大事な娘を嫁には出せない」
「人の幸せなぞ、正直どうでもいい。悪くは──ないが」
 少年はそう言って周囲を見渡す。喧噪の中に入らなければ、仲間達とはすぐにあえないだろう。
 宴は夜を徹して行われた。
 開拓記第37幕閉幕。