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■オープニング本文 ●観光立村 吹く風は涼しく、爽やかで、晴れ渡る空が美しい。 少し高いところに作られた神社から、輝く海が見えて……今日もお客さんが、沢山やって来そうだ。 「なあ……。お前、大丈夫か? 今日は休んだ方が良いんじゃないのか?」 「大丈夫にゃよ。それより、子ども達を沢山休ませてやって欲しいのにゃ」 最近働き詰めで、あまり遊べていないからにゃ……と続けた母猫又。 その三毛の毛並が、何だかパサパサに荒れているような気がして村人は顔を顰める。 母猫又は盗みこそ働いたが、それ以外食事を獲る手段を知らなかっただけで、生来生真面目な性格であったのかもしれない。 この神社に住み、労働の対価として食事を与えて貰うようになってからは、母猫又も仔猫又も一生懸命働いてくれている。 猫又達のお蔭でこの村はいい方向に変わった。 ――ただ、急激に変わり過ぎて、村人達もどう対応して良いか分からないのだ。 自分達が力不足であるが故に、彼女達が苦労をするのは見ていて辛いし、何とかしてやりたいと思う。 そう願っていた村人は彼だけでなく。 様々な村人が、村長の元へ談判に訪れていた。 ●働きすぎた猫又 「お願いします。猫又達を休ませてやりたいのです。お手伝い願えませんか……」 開拓者ギルドにやって来たのは、『猫又神社』がある村の村長だった。 「猫又達を休ませたいって……どういうことですか?」 「はい。実は……」 首を傾げる開拓者に、村長は深々と溜息をついて――。 ――季節は春だっただろうか。 開拓者達はとある漁村で盗みを働いた母猫又を懲らしめ、5匹の仔猫又と共に就職先を世話したことがある。 彼らの就職先であるその村は、猫又達の住まいと働く場所を提供する為に『猫又神社』を建立し、更にその後、『猫又喫茶』を開店した。 6匹の猫又を祀る村としてじわじわと知名度を上げつつあったそこは、猫又が店員を勤める『猫又喫茶』の開店で更に知名度を上げることとなった。 元々海の幸が豊富で、美味しい魚料理が提供出来たことも相俟って、客足はうなぎ上り。 村の財源も潤い、喜ばしい限りであったのだが……。 連日やってくる沢山の客の相手をし、休みなく働き続けた仔猫又達は疲労で倒れてしまった。 村人達は自分達の迂闊さを反省し、『猫又喫茶』の休業日を設け、猫又達に休暇を与えるようにしたのであるが、『猫又喫茶』が休みの日にも、観光客はやってくる。 疲れて寝ている仔猫又を触ろうとしたり、遊ぼうとしている仔猫又に声をかけ、長時間拘束しようとしたり、『仔猫又が接客してくれるまで帰らない』と店先でゴネる。 開店したらしたで、猫又達を独り占めしようと接客を妨害したりと、とにかく困った客が増えてしまい――。 仔猫又の体調を心配した母猫又は、仔猫又達を極力住居から出さないようにし、1匹で観光客の相手をするようになった。 このままでは、母猫又もいつか疲労で倒れてしまう。 そうなる前に何とか、猫又達にゆっくり休んで貰いたい――。 「それで、開拓者様にご協力を願えないかと思ったのです」 「なるほどね〜」 「猫又さん達、随分頑張ってたんですね……」 猫又達の苦労に、熱くなる目頭をそっと押さえる開拓者。 それに村長もうんうん、と頷く。 「私達も猫又達に無理をさせるのは本意ではないのです。そこで、猫又達の代わりに、お客様のお相手をして戴けないかと思いまして」 「え、でも、客は猫又達が目的で来るんだろ? 俺達が相手で満足すると思うか?」 「そこを何とか……」 ぺこぺこと頭を下げる村長。開拓者がぽつりと口を開く。 「……1日私達が店員をやったところで……根本的な解決を図らないと……また猫又さんが倒れる結果になりますよね……」 「そうですね。そこも何とか考えてあげたいところですね……」 「私どもは漁業しかやって来なかったもので、接客のことはさっぱりで……。出来ましたら、そこの辺りもご助言戴けると助かります」 むむむと考え込む開拓者達に、深々と頭を下げる村長。 そうだった、と思い出したように顔を上げる。 「そういえば猫又達、まだ名前が決まっておらんのです。村をお救い戴いた開拓者の皆様に名づけ親になって戴きたいと村民一同願っております。是非、こちらも合わせてお願い致します」 こうして、猫又達の労働条件改善は、開拓者達の手に委ねられた。 |
■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
ユエン(ic0531)
11歳・女・砲
リシル・サラーブ(ic0543)
24歳・女・巫
紫上 真琴(ic0628)
16歳・女・シ
黒憐(ic0798)
12歳・女・騎 |
■リプレイ本文 「一難去ってまた一難ってヤツだよね、これって……」 ついこの間出来たばかりの猫又喫茶が大混雑になってるっていうから驚きだよね。いや、驚いている場合じゃないんだけど……。 遠い目をしてどこかで聞いた台詞を呟く紫上 真琴(ic0628)。 そして、キョトンとする仔猫又達の前で、ユエン(ic0531)はだばだばと滂沱の涙を流していた。 毛並がパサパサで、疲れ切った母猫又があまりにも哀れだったのと、ねーにゃが友達を連れて来てくれた! と駆け寄ってきた仔猫又があまりにも愛らしくて涙腺が決壊したらしい。 「……随分無理をしましたね」 母猫又の身体を湿らせた布で拭いて、毛並を梳いているリシル・サラーブ(ic0543)。 お手製の猫又用クッキーを振る舞いながら、黒憐(ic0798)は少し痩せてしまった彼女をそっと撫でる。 「仔猫又さんたちも……猫又さんも……よく頑張りましたね……」 「お客さんは大事だから、お願いには全部応えないといけないにゃ」 されるがままで胸を張る母猫又。その台詞に、滋養強壮に良いという酒を振舞おうとしていた蓮 神音(ib2662)の手が止まる。 「そんなことしてたら倒れるに決まってるじゃない!」 「そうですよ。無理なことは無理と言ってもいいんですよ?」 もふもふしたい衝動を相棒の仙猫に窘められ、代わりに相棒をモフりつつ声をかけるアーニャ・ベルマン(ia5465)。 どうやら、村人だけでなく猫又達の意識改善も必要なようで……。 「とにかく。俺達が何とかするからさ。今はゆっくり休みなよ。子ども達もな」 「休むより遊びたいにゃ……」 「分かった。後で遊んでやるよ」 仔猫又達に請け負ったクロウ・カルガギラ(ib6817) 隣に立つヘラルディア(ia0397)が緋色と浅葱色の袴を手に微笑んでいるのを見て、恐る恐る口を開く。 「……それ、俺も着るのか?」 「大丈夫です。クロウさんは神主さんということで、男性用の袴ですね」 どこかズレた返答をする彼女。 作務衣で済ませる気満々だったクロウ。どうやら拒否権はないらしい。 そんな二人にリシルはくすっと笑いを漏らし……仲間達に向き直る。 「まずは制度を整えるところから、ですね」 「そうだね。お客さんが来る前にやっちゃおう」 ぐっと拳を握りしめる神音。村人達も真剣な顔で頷き……。 こうして、開拓者と村人、母猫又による『第一回猫又神社改善会議』が始まった。 「今までは、営業時間中は猫又達に全員いてもらい、お客様も入れるだけ入れていたと。間違いありませんね?」 優しく問いかけるヘラルディアに頷く村人達と母猫又。 それに、漸く涙が止まったユエンが首を傾げる。 「そのやり方は空いている時はいいですけど、混んでいる時には向かないですよね」 「一日の営業時間をいくつかに区切って、猫又さん達に交代制で勤務して貰うのは如何でしょうか」 「あとは……必ず休み時間を設ける、交代の時、組み合わせの固定化しないようにするとかかな」 リシルと神音の意見に頷く総員。そんな中、真琴がはいっ! と挙手をする。 「いっそ予約制を導入するのはどうかな? その日にどれくらい人が来るか分かると計画立てやすいし、お客さんもイライラしなくて済むんじゃない?」 「そうですね……。それなら、それを鑑みて……猫又さん達の交代表と……自己紹介文と似顔絵を……猫又喫茶の中と外に貼ってはいかがでしょう……」 「あー。そうすれば、お客様も予約時間の判断つきやすいですよね。よし。私、自己紹介の似顔絵と、注意書き描きますよ! これでも絵は得意なんです!」 続いた黒憐の声に、ぽん、と手を打ったアーニャ。善は急げと、紙に羽ペンを走らせる。 「労働の基本はそれでいいと思う。あとは、猫又喫茶を利用する上での規則だな」 そう言うクロウが出して来たのは一枚の半紙。 そこには、勢いのある字でこう書かれていて……。 猫又達に勝手に触らない。触って良いのは猫又達の方から寄ってきて、猫又の許しを貰た場合のみ。 猫又達が驚くので、大きな声は禁止。 「基本はこんなところか。他に何かあるか?」 「……あとは……お仕事中の猫又さんと……休暇中の猫又さんに……判り易い目印をつけた上で、休憩中の猫又さんには接触厳禁……とした方がいいですね……」 「そうだな」 「それも描いといた方がいいですね」 黒憐の意見を書き足すクロウ。 アーニャもまた、人の心を和ませるような優しくて、面白みのある絵と字を描き込んで行く。 そうしている間に、彼女は猫又神社の裏手の一部を柵で囲い、お客様立入禁止の猫又専用の運動場にしたいと提案し、村人達の了承を得ることが出来た。 「後は、観光客の分散化を狙う方策ですね」 いつの間にやら進行役になっているヘラルディア。 ユエンの手に、ぐっと力が入る。 「ユエンは、宿屋を作って欲しいと思うのです。あとあと、お土産の充実です!」 遠くから観光に来たのに、目的の猫又に会えなかった時の失望。 ごねたくなる観光客の気持ちも良く分かる。 ユエンだって仔猫又に会えなかったら暴れたくなると思う。 だって猫又様は愛らしいんですもの! びば猫又! ぶらぼー仔猫又! 熱弁を揮うユエンに、リシルが笑いを漏らしながら続ける。 「喫茶とは別に、海鮮を主体とした食事処や、干物などを売るお土産屋もあると良さそうですね」 「あと、漁業体験とかあっても楽しいかも」 私もやってみたい……と続けた真琴に、神音もうんうんと頷く。 「それなら猫又喫茶の待ち時間も、お客様退屈しないで済みそうね」 「神社内でおみくじも良いかもしれません」 「それならすぐ用意出来そうですね……。アーニャさん……お願いできますか……?」 「任せてください☆」 リシルの提案を受け、すぐさま提案する黒憐。 アーニャの返事に、村人達から感動の声が上がる。 「宿屋やお土産屋さんは設備の準備もありますし、今すぐは無理かもしれませんけど……今後の展望として、是非お願いしたいのです」 「なるほど。我々ではとても思いつかない方策です。分かりました。対応してみます」 ぺこりと頭を下げるユエンに、請け負う村人達。 クロウは頷くと、彼らと母猫又に向き直る。 「いいか? 村の人達もそうだが、猫又達も嫌だと感じたことは、声に出して断って良いんだぜ。その方がお客さんのためにもなる」 「そうですよ。無理をしたら長続きしないものですね」 「……素敵な観光地にするためには……時には勇気も必要なのですよ……」 「さすが開拓者様! 参考になります……!」 ヘラルディアと黒憐の談に、湧き上がる村人達。 そんな中。すごい勢いで筆を進めていたアーニャの手が止まる。 「……どうしたの?」 「猫又さんの名前……決めないと、これ以上描けないんですが……」 首を傾げる神音に、困り顔のアーニャ。 あー……と呟き、開拓者と村人達は顔を見合わせて……。 結局。 母猫又には美色、長男ヨシツネ、次男ゴイシ、長女は月白、次女リーファ、三男には雲という名がそれぞれつけられることとなった。 「わあ……すごい人だね」 「人員整理始めた方が良さそうだね。行こう……って、あれ? なんでくれおぱとらがいるの?」 目を丸くする真琴に頷き、振り返った神音。 人妖を連れて来たはずが、後ろにいたのは仙猫で……。 問われた神音の相棒は、不機嫌そうに尻尾を揺らす。 「失敬な! 妾を掴んで連れて来たのはおぬしであろう」 急いで出立してきた為、どうやら間違えてしまったらしい。 神音は一瞬遠い目をした後、すぐに相棒に目線を戻す。 「あのー。接客お願いしてもいいかな」 「何故妾がそんなことをせねばならぬ」 「後で美味しいお魚御馳走するからさ。ここの村の魚、美味しいんだって」 「……僕が失敗するのを見るのも忍びない。協力してやろう。べ、別に魚に釣られた訳ではないぞ?」 ぷい、と横を向き、尻尾を振るくれおぱとら。 相棒の説得に成功して、神音は安堵の溜息を漏らす。 「じゃあ、ラヴィもお客さんの誘導をお願いね」 巫女服姿が愛らしい羽妖精は、真琴の言葉にこくりと頷くと客の間をひらりひらりと飛んで声をかけて行く。 「じゃ、手筈通りに頼むぞ……って、黒憐は?」 「猫又さん達の運動場を作ると言って、外にいかれましたよ」 大急ぎでおみくじを設置いていたクロウに、喫茶内の掃除をしていたヘラルディアが笑顔で答える。 ……そういえば、裏手から駆鎧の動く音がする。 「リシルさん、もうちょっと上で……そうそう、そうですー」 「こんな感じでしょうか」 「はい! いいですねー!」 「じゃあ残りも貼っちゃいましょう」 笑顔のアーニャとリシルの手にあるのは、アーニャお手製の沢山の注意書き。 ぐーぐー寝ている猫又の絵に、『休んでいる子はそっとしておきましょう』の字。 きゃいきゃい遊んでいる猫又の絵に、『猫又にとって遊ぶ時間は大切です』の字。 困り顔の猫又の絵に、『お目当ての子がいなくても、他の猫又だって可愛いよ』の字。 どれも、とても素晴らしく良く描けている。 二人は、和気藹々と出来上がった注意書きや勤務表を貼り出して行き……。 その一方。 「ううう……。愛々。しばらく離れ離れですけど、泣かないで下さいね。ユエンもぐっと我慢しますから……」 「あのなあ。離れるったって接客の間だけだろうが。あんたはいちいち大袈裟なんだよ」 「だってーーーー」 「俺を四六時中抱きしめて、良く飽きないな……」 「飽きるはずないじゃないですかっ。猫又さんは抱っこすればするほど味が出るんですよっ」 「俺達はスルメかよ……」 再びだばだばと涙を流すユエンに、呆れ顔をする仔猫又。 彼女は念願の相棒、猫又を手に入れたのだが……愛情が強すぎるが故に、別な意味で苦労をしているようだった。 「接客をする猫又さんはポザネオさん、愛々さん、くれおぱとらさん、あとはうちのミハイルです」 「それでしたら……五組様まで受け入れをお願いします……。それ以降は……予約を取って戴いて……混雑が酷い時は……1時間で完全入れ替えを行うようにしましょう……」 「了解ですね」 巫女姿で、頭から猫耳を生やした姿のアーニャに、突貫工事を終えた黒憐がきびきびと指示を出し、ヘラルディアが客の整理に当たっている真琴にそれを伝える。 黒憐のみ、猫耳は自前だが……接客に当たる女性陣は皆、巫女姿に猫耳が生えていてとても愛らしい。 「お客様三名様ご案内でーす! いらっしゃいませー!」 「いらっしゃいませー!」 店内に響き渡る真琴の元気な声に、応えるように声を張る店員達。 「猫又神社へようこそ参られました。神主から、皆様へお願いがございます……」 浅葱色の袴を身に纏ったクロウが恭しく頭を下げ、客へ諸注意を伝えると、席へ案内する。 そんなことを何回か繰り返しているうちに、店内は客でいっぱいとなった。 ……観光客が、猫又達を目当てにやってくるというのはどうやら本当らしい。 自分に注がれる熱い目線でそれを感じることが出来る――。 客とつかず離れずの位置で、そんなことを考えるポザネオ。 ミハイルはすっと立ち上がると、客に愛想よく歩み寄る。 「やあやあ、いらっしゃい♪」 こういうのは柄ではないのだが……これくらいの演技ができないようではエージェントの名が廃る。 「おっと、そこの観光客! 抱くなら俺にしとけ」 そこに、ぴょこぴょこっと躍り出た愛々。 小さい身体の割に、飛び出した台詞は渋くて……そのギャップに、客はめろめろのようであった。 猫又さん達が休んでる間にお客は減ったなんて事になったら困る……と本気で心配していた神音。 くれおぱとらが上手に客を捌いているのを見て笑顔になる。 「意外とやるじゃない」 そう呟き、腕まくりをする神音。 彼女の担当は厨房だ。お料理は割と得意だし、相棒に負けぬよう心を込めて作らなきゃ……。 「神音さん……甘味セット2つに三色団子……お願いします」 「お茶がなくなりそうです。追加お願いしますね」 「はーい!」 そこに聞こえて来た黒憐とヘラルディアの声。 神音は元気に答えると、早速調理を開始する。 「これ以降のお客様は、ご予約の時間までお待ちください。お待ち戴く間、今日だけの限定特典を是非お楽しみ下さいね!」 猫又神社の外で、テキパキと客を捌く真琴とラヴィ。 真琴からウィンクで合図されて、リシルは頷く。 「……ごめんなさいね、ラエル。ちょっとだけ、協力お願いしますね」 主の声に、クェ……と短く鳴いた走龍。 それが『大丈夫よ』と言っているように聞こえて、リシルは相棒の頭を撫で……意を決して声を張り上げる。 「本日はご不便をおかけして申し訳ございません。これより本日限定、走龍の体験騎乗を開始いたします」 その声にわっと群がる観光客を、真琴と羽妖精のコンビが再び誘導する。 「急がないで―。順番に並んでくださーい!」 「最後尾はこちらでーす! お待ち戴く間、猫又おみくじはいかがですかー?」 「猫又ミサンガもありますよー」 続くさり気ない売り込みに、客の財布も緩む。 「ううう。愛々ー。猫又さまー」 その頃ユエンは、猫又と離れる試練と、必死に戦って……いやいや。 店の裏でせっせとお土産品である『猫又神社ミサンガ』を制作していた。 早く終われば終わっただけ分、愛しい猫又達に早く会うことが出来る。 そう考えると、制作にも力が入るというもの。 「……待ってて下さいね!」 しゅばばばば、と。目にも止まらぬ早業で次々とお土産生み出されて行く――。 開拓者達と相棒達が接客を始めて暫く立った頃、店の一角が急に騒がしくなった。 「いやーん。この子可愛いー! 猫又って本当に尻尾が2本なのね」 「なんで眼鏡かけてるの? 取っていい?」 「お客さん、それはちょっと勘弁願えませんか……」 女性客二人に突然尻尾と眼鏡を掴まれるも、優しく抗うミハイル。 それに、客は憤慨した様子を見せる。 「何よ。いうこと聞きなさいよ!」 「お客様、大きな声は禁止ですよ」 そこに割って入ったクロウ。注意をされ、客は更に興奮する。 「うるさいわね。抵抗したこの子が悪いんでしょ。私達は客よ。黙って従いなさいよ!」 「……あなた方はご自分の身分がお解りになられていないようですね」 「……? 何よ。身分って」 「ここでは猫又様が神様。お客様は参拝客です。これ以上、御神体に無体を働く場合はこちらを退出して戴くことになります」 客にキッパリと告げるクロウ。驚く彼女達に、黒憐が畳みかけるように続ける。 「……良いですか。……猫又さんたちは好意でこの神社に居てくれているのです……。貴方達が問題を起こして……猫又さんに嫌気が差して別の地に行ってしまったら……こうやって触れ合って和む事など出来なくなるのですよ……」 「……なあ。俺達だってよ、人間と同じように疲れる事もあるし、して欲しくないと思うことだってある。自分が嫌だと思ったことを、俺たちにしてもいいなんてないだろ?」 「……ごめんなさい」 彼女とミハイルに言われ、自分達がどれほど理不尽なことを強いていたかようやく理解したらしい。 顔を赤くして俯いた客に、クロウは頷いて……。 「お分かり戴けたなら、それで構いません。猫又様から自ら構って戴けるような、愛されるお客様を目指しましょう」 お手本になるような、輝く営業スマイルでにこやかに締めくくった彼。 その様子を見ていた他の観光客達から、拍手が沸き起こった。 「にーにゃ、ねーにゃ。遊んでにゃー」 開拓者と相棒達の仕事が終わるのを大人しく待っていた仔猫又達。 走ってこちらにやってくる彼らに、クロウから笑みが漏れる。 「そうだな。約束してたもんな。何して遊ぼうか?」 「あ、私もやるー! 玉投げはどう?」 「私も混ぜてくださーい!」 はいはーい! と元気に挙手した真琴とアーニャ。 そんな主に、ミハイルは深々とため息をつく。 「ったく、アーニャは子どもだなあ……」 「だって目の前にふかふかな子達がいるんですよ!? この機会を活かさないと!」 「はいはい。あんまムキになるんじゃねえぞ」 「分かってますよー」 主従のやり取りを微笑ましく見ていたリシルは、新しい運動場へ駆けてゆく仔猫又達の背に声をかける。 「後で毛並を梳いてあげますからね。疲れたら無理せず戻って来て下さいね」 「新しい遊び場所、気に入ってくれて良かったですね」 「そうだにゃ。ホントに助かったのにゃ。ありがとにゃ」 お茶を飲みつつ、しみじみと言うヘラルディアに頷いた母猫又。 その背を、神音がそっと撫でる。 「お母さんが無理して倒れたら子供達も悲しむから、体を大切にしてね」 神音にはもうかーさまがいないから……と続けた彼女に、母猫又はハッとした顔をして――。 「神音。このマグロの刺身とやらはなかなか美味いの。もっと持って参れ」 「くれおぱとら、あのねえ……。このお魚は、村の人達のご厚意で分けて貰ったんだよ? ワガママ言っちゃダメだよ」 「我儘とは何事か。妾は当然の権利を主張したまで」 続くくれおぱとらと神音のやりとり。 これでは、どちらが主だか分からない。 「愛々、会いたかったのですよ〜! 猫又さん達も元気になって……良かった……」 「あー……。はいはい。分かった。分かったから落ち着けよ」 感極まったのか三度じょぼじょぼと涙を流すユエン。 愛々は彼女の腕の中で、深々と溜息をつき……。 「美色さんも抱っこしていいですか……?」 「うん。いいにゃよ」 「ありがとうですううううう」 続く母猫又と主人のやりとりに、愛々はもう一度溜息をついた。 「……という訳でですね……。宿屋の設備としましてはこんな感じで……あとは……猫又のお守りや、猫又の姿絵もあると……喜ばれるかもしれません……」 仲間達がそんなことをしている最中、黒憐はひたすら村人達に新設の設備や名産品の内容について指示をしていた。 許可を貰ったら即実現。さすが猫又神社相談役。素晴らしい実行能力ですね。 こうして、開拓者達の活躍により猫又達の生活は守られた。 開拓者達の提案通り、村人達は宿屋やお土産屋などの設備の建設に着手。 猫又喫茶の店員達の教育も同時に進められたとか――。 |