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■オープニング本文 ●襲撃 開拓者ギルド総長、大伴定家の下には矢継ぎ早に報告が舞い込んでいた。 各地で小規模な襲撃、潜入破壊工作が展開され、各国の軍はそれらへの対処に忙殺され、援軍の出陣準備に手間取っている。各地のアヤカシも、どうやら、完全に攻め滅ぼすための行動を起こしているのではなく、人里や要人などを対象に、被害を最優先に動いているようだ。 「ううむ、こうも次々と……」 しっかりと守りを固めてこれらに備えれば、やがて遠からず沈静化は可能である。が、しかし、それでは身動きが取れなくなる。アヤカシは、少ない労力で大きな被害をチラつかせることで、こちらの行動を縛ろうとしているのである。 「急ぎこれらを沈静化させよ。我らに掛けられた鎖を断ち切るのじゃ」 生成姫がどのような策を張り巡らせているか、未だその全容は見えない。急がなくてはならない。 ●強襲 ガラガラガラガラ……。 道に響き渡る荷車の音。 食糧、酒、薬草、武器……様々な物を積んで、それらは進む。 「あともう少しだな」 「ああ、早いとこ届けてやらんと」 男達の呟き。 彼らは今、五行国で戦う開拓者の為の物資を運んでいる。 本来ならば、飛空船や、龍を駆る開拓者に輸送を依頼するべきなのだろうが。 アヤカシが跋扈し、各地で戦乱が起きている今は人手も、物も足りないのだ。 さあ、急ぐか……と、道に目をやると。 「……なんだ? あれ」 ドドドドドド……。 先に見えるは土埃。 角を生やした小さなヒトが、凄い速度で迫って来て。 「……小鬼共だ!」 「何でこんなとこに!?」 「知るか! とにかく逃げろ!!」 突然の事態に荷を捨てて、猛然と走り出す男達。 小鬼達自身は、一体どれくらいの人間を追い払ったか覚えてはいなかったけれど。 かれこれ6組目の荷車を追い払うことに成功していた。 「開拓者求む。至急、小鬼の一団を退治されたし……か」 開拓者ギルド。1枚の張り紙を見て呟く開拓者。 小鬼は、文字通り身体の小さい鬼型のアヤカシである。 1体はさしたる強さではないのだが、小鬼達もそれを自覚しているのかは分からないが徒党を組む習性がある。 更に、厄介なのは赤い小鬼がいたという目撃情報だ。 赤小鬼は小鬼に比べ臆病ではあるが知恵があり、烏合の衆である小鬼を統率することができる。 ただの小鬼の群れと思うと痛い目を見るかもしれない。 小鬼達は道を歩いている人間を片っ端から追い払っているようなので誘き寄せるのは難しくない。 現れる道も広い為、戦い易くはあるが……問題は数。 6体いたとか、10体いたとか色々な情報があってハッキリしない。 慎重を期して事に当たった方が良さそうだ。 諸君の健闘を祈る。 |
■参加者一覧
輝羽・零次(ic0300)
17歳・男・泰
エリス・サルヴァドーリ(ic0334)
18歳・女・騎
レオニス・アーウィン(ic0362)
25歳・男・騎
山中うずら(ic0385)
15歳・女・志
霧島毅臣(ic0409)
52歳・男・武
エドガー・バーリルンド(ic0471)
43歳・男・砲
八壁 伏路(ic0499)
18歳・男・吟
リドワーン(ic0545)
42歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●戦へ向けて 春の足音が聞こえて来そうな麗らかな日。 しかし、集まった開拓者達の表情は厳しく。 「戦の時分だ、補給を断たれるのは痛いな」 「彼の地での戦は今、苦戦しているようですし……支援物資が届かないとなれば、戦闘はより困難を極めるでしょうね」 ぽつりと呟いたレオニス・アーウィン(ic0362)に、頷くエリス・サルヴァドーリ(ic0334)。 そんな2人に、山中うずら(ic0385)はうーん、と首を傾げて。 「小難しいことは良く分からんけどとにかくアレだ。鬼どもを全部殺せばいいんだろう?」 「……まあ、端的に言えば、そうなるな」 大雑把な彼女の談に、表情を変えずに答えたリドワーン(ic0545)。 過去の経験上、戦場には慣れているが、開拓者としての仕事は初めてとなる。 肩慣らしをさせてもらうとしようか……と続けた彼の横で、八壁 伏路(ic0499)が盛大なため息をついて。 「わし、面倒なことキライ。おぬしらに任せていいかの?」 「へ? 何だって?」 ギョッとして、すかさず突っ込んだのは輝羽・零次(ic0300)。 彼の黒い目が明らかに『お前何しに来たの?』と言っていて。伏路はちょっと顔を赤らめる。 「……懐が寂しくなったのじゃ。仕方なかろう?」 「日銭がなきゃ生きていけねえもんなぁ。……おう。ただいまっと」 そこに荷車を引いて戻ってきたエドガー・バーリルンド(ic0471)。 ギルド員に交渉し借りてきたらしいそれに、どっこいしょと腰かけて。 「騎士の兄ちゃん、頼まれてたモン貰って来たぜ」 「地図が手に入ったのか? それは有難い」 放るように渡された袋を受け取り、首を傾げたレオニス。 地図が入っているだけにしては袋が大きすぎるし、何より重い。 袋を開けてみると現場周辺の地図の他、今までに運ばれた物資の目録、狼煙銃、ロープ、あと人数分の握り飯が入っていて。 「荷車借りる時にな、初心者ばっかだってギルド員の姉ちゃんに話したら、色々オマケつけてくれたんだ」 「まあ。それは感謝しなくてはいけませんね」 祈るように腕を組んだエリスに、まあな、と事もなげに頷くエドガー。 ここまで色々配給されたのは、彼の話術による部分が大きかった訳だが、本人にその自覚はないようで。 「で、だ。本題だが、荷車が襲撃受けた場所、大体だが聞いてきたぜ」 エドガーの話を受けて、地図を広げるレオニス。 小鬼が現れたという場所に、印をつけていく。 「……ふむ。この辺りに集中しているようだな」 地図を覗きこむリドワーン。 五行国への道。長く続くそれの一ヶ所に、6つの点が集まっていて。 「ふーん。ってことは、小鬼達はこの付近に潜んでるってことか?」 「その可能性は高いだろうな」 腕を組む零次に、レオニスが頷いて。 「小鬼共の数はハッキリしねえが、剣と鎧を身に着けてたって話だったぜ」 「よっしゃ! やりがいがあるじゃねーか! 前衛行かせてもらうぜ!」 続いたエドガーの言葉に、腕を天に突き上げたうずら。そんな彼女に伏路の目がキラリと輝いて。 「おお、それはありがたい。わし、痛いのは嫌いだから後ろの方でいいかの」 「いいぜ! 男を守るのは女の努め……あたしの剣で絶対守ってやるからな!」 「そうですわね。騎士たるもの、男性だけでなく全てを守らねば」 「いや、そういう問題じゃないだろう……」 ビシッと胸を張るうずらと真顔で頷くエリス。 冷汗を浮かべてツッコむレオニスに、エドガーは豪快に笑って。 「面白いお嬢ちゃん達だな。楽しめそうだ。……って、お前ら何て言ったっけ?」 「俺はレイジ。輝羽 零次だ。よろしくな」 「わしは……名乗るの面倒だからヒミツでいいかのう」 「……おい。そろそろ行かなくていいのか」 仲間達を宥めるようなリドワーンの静かな声。 それに、仲間達も頷いて。銘々の持ち場についた。 ●道を遮るもの 道に吹き渡る風。 遮るものは何もないそこを、鋭い眼光で見渡すリドワーン。 小鬼達の出現位置が特定できたら、先行する。 そう決めていた彼は、それを実践した。 荷車で移動する仲間達が『表』なら、彼は『裏』だ。 敵を確実に捕捉するのに、自分の能力は役に立つはずだから。 そんなことを考えながら、鏡弦を使い、神経を集中する。 「ふむ。小鬼達はまだ現れていない、か」 小鬼達は恐らく、荷を狙っているのだろうが。 さしたる知恵を持たぬ彼らが考えたとは思い難く。やはり気になるのは赤小鬼の存在だ。 赤小鬼は臆病な性質と聞いた。小鬼を駒として動かし、彼自身は安全な場所にいるのかもしれない――。 ならば、と。罠伏りで、1つ1つ着実に罠を仕掛け、己の『仕事』をこなしていく。 一方、『表』の彼らはというと。 ガラガラガラガラ……。 「うー。鬼はまだか!?」 「まあまあ、お楽しみはこれからってな。焦りなさんな」 何度目かのうずらのセリフ。 刀の切れ味を試したいのか、うずうずしている彼女を宥めながら、荷車を引くエドガー。 荷車に、ギルドからの支給品や自分達の武器を載せ、いかにも『救援物資を運んでいます』とでも言うように。 開拓者達は、広い道をゆっくりと進んでいた。 「まあ、もうすぐ小鬼の出現地点だ。こうしていればいずれ現れるだろう」 「そうですわね。ところで……八壁殿はどこか具合でも悪いのですか?」 2人並んで荷車を押しているレオニスとエリス。 やけに大人しい伏路が心配になったらしい彼女の問いに、返って来たのは規則正しい寝息。 荷車の上で物資を装っていた彼。揺れが心地良かったのかそのまま寝てしまったらしい。 「おいおい。仕事中だぞ、起きろ……ん?」 伏路の肩を揺さぶる零次。視界の端に、妙なものを捕えて目を凝らす。 道の向こう。近づいて来る蠢く何か――。 「土埃、だよな、アレ」 「来たか。……狼煙銃を使うぞ。良いか?」 「お願いします!」 レオニスの確認に素早く頷いたエリス。 荷台から素早く狼煙銃を取り出すと、その拍子に伏路も転がり落ちて。 「あだー!? 起こすならもうちょっと優しくしてくれんかのう」 「そういうのはレディに頼むこったな」 そう言って荷台に駆け登るエドガー。 高い位置から見下ろせば、敵の位置も確認し易いだろう、そう思ってのことだったが。 ――ビンゴ! 一人呟く彼の目に、確かに見えるは土埃の中の人影。小さい角が生えた頭の数を、1、2、3……と数え始めて気が付いた。 「……赤小鬼がいねぇな」 「マジかよ。どっかに隠れてるってことか?」 「かもな」 呻くように呟いた零次にエドガーは短く答えて。 こうしている間にも小鬼達が迫ってくる。 悩んでいる時間はない。 「斬ってもいいか?! いいんだよな!?」 「あーもー。仕方がないのう……」 そんなことをしている間もうずらのボルテージはどんどん上昇。 ぶつぶつと言いながらも起き上がり、伏道は華麗に、仲間達を鼓舞する舞を舞う。 そこに響くは――。 ドン! 鈍い音。漂う火薬の匂いと共にレオニスから放たれた閃光。 それは放物線を描いて、土埃の中に吸い込まれて――。 「ギャー!?」 突如飛び込んできた眩い光に、パニックになる小鬼達。 完全に出鼻を崩され、四方八方に散らばって行こうとする彼らの足元に、足止めするように矢が降り注いで。 「小鬼の数は全部で16! 赤小鬼は後方だ! 逃がすな!」 「了解!」 「参ります!」 次の矢を番えながら叫ぶリドワーン。 それに応えるように、レオニスとエリスが走り込む。 狼煙銃で混乱した小鬼達。 それを突破し、先に赤小鬼を屠るというのが当所の目的であったが……敵の手数も多く、なかなか前に進ませてはくれない。 「うおおおお! お前ら全員ぶっ殺ーーーーす!!」 そんな中、不穏なことを叫びつつ鬼神の如く刀を振るううずら。 作戦とか、頭を使うのはあまり得意じゃないけれど。 自分のやることはただ一つ。 目の前の敵を全員叩き斬ることだけ――。 受け流し、横踏などを駆使し、攻撃を浴びせ続ける。 「ガーーー!!」 そこに響く、赤小鬼の怒声。 何を言っているのかは分からないが、どうやら小鬼達に指示を送っているらしいことだけは理解できて。 その声にハッとした小鬼達。うずらの気迫に押され気味だった彼らも反撃に転じる。 「大丈夫か!?」 「援護します!」 小鬼達に囲まれ始めたうずらを、庇うように立ちはだかるレオニスとエリス。 2人の目的は赤小鬼を屠ること。もちろんそれもあったが、それだけではない。 仲間達を守る。それが、何より優先されるべきこと。 彼の盾によって小鬼の攻撃は弾かれ、代わりにエリスの鋭いユニコーンヘッドが小鬼の身体に突き刺さる……! 混戦だった。 「小鬼達を囲い込め!」 「分かりました!」 「逃がすかってんだーーー!」 レオニスの指示に頷くエリスとうずら。 直線的なエリスの槍と、右へ左へ、剣で薙ぎ払うレオニスの動きは何だか対象的で。 連携が取れた動き。囲まれぬよう細心の注意を払いながら、1体1体、確実に小鬼を屠って行く。 うずらは相変わらずヒャッホー! とか叫びながら、活き活きとした様子で小鬼達を斬り続け。 伏路は前衛の者達が傷つく度に、風の精霊の力を借り、回復に努めていた。 「ちっ……。様子見なんて柄じゃねえんだけどな……」 そんなことを呟きながら、戦況を見守る零次。 本当なら、駆けて行って小鬼を蹴散らしたいところなのだが、彼には、果たしたい目的があって。 その為にはもう少しの辛抱……と。 ジリジリする彼に、エドガーが声をかける。 「おい、零次。お前あっち回り込めそうか?」 「そうだな、今なら……」 彼の問い。戦況から目を離さず答える零次。 うずらとエリス、レオニスが囲い込んでいるお蔭で、小鬼達の動きを封じることができている。 この好機を狙えば、赤小鬼に迫ることが出来るかもしれない――! 「リドワーンが先に向かってるはずだ。俺も同時に出る」 「……分かった!」 合図と同時に駆け出す2人。走り込んだ先には、赤小鬼に向かって矢を番えるリドワーンがいて。 「……なんだ。来たのか。あれくらい俺1人で倒してやったものを」 「馬鹿言うな。美味しいとこ持ってかれちゃたまんねぇよ!」 軽口を叩き合うリドワーンとエドガー。 そんな会話がある間にも、赤小鬼に叩き込まれる矢と銃撃。 「ハァァアァ!」 逃げる暇さえ与えられない赤小鬼。 そこに駆け込んできた零次の頂心肘が、赤小鬼に決まって。 「ギャアアアアアア!!」 響く断絶魔。黒い塊が空気に溶け、赤小鬼が身に着けていた鎧が地に落ちる。 その様子を察知した小鬼達。 司令塔を失い、パニックに陥ったのか。 散り散りに逃げて行こうとする彼らだったが、そんな状況で足元の罠に気付くはずもなく、次々と転んで。 「逃げる者を追うのは騎士道に背きますが……捨て置くわけにはいきません」 「ぶっ殺ーーーす!!」 そこに追撃をかけるエリスとうずら。 レオニスが剣を収める頃には、道は静寂を取り戻したのだった。 ●積荷の行方 「うわ。こんなにあるのかよ!」 呆然とするうずらの目線の先は、道の脇に打ち捨てられている荷物の山。 小鬼退治を無事に終えた開拓者達は、早速小鬼達が奪ったと言う荷物を探して……それ自体はすぐに見つかったのだが、問題はその量。 荷車6台分だけあって、なかなかの量であった。 「全部揃ってるか?」 「……いや、食糧品がねぇみたいだな」 荷物の埃を払いながら問う零次に、目録を片手に答えたエドガー。 アヤカシが食べたのか、野生生物が食べたのかまでは分からなかったが、干し肉や糒と言った食糧品が消えてしまっていた。 が、鎧や武器といった装備品、薬草の類は、ほぼ損傷ない状態であることが分かった。 「無事なものがあって良かったです」 荷の状態を確認し、笑みがこぼれるエリス。 「……さて、これはどうする? 運ぶのか?」 「その方が良いだろう。この物資を待っている者達もいるだろうからな」 腕を組むリドワーンに、頷くレオニス。 それに、伏路が不満そうな顔をして。 「え〜。わし、帰ろうかと思っておったんじゃがのう……」 「まあ、そうツレないこと言うなって。ここで頑張っとけば、報酬はずんで貰えるかもしれないぜ?」 エドガーに肩をポン、と叩かれて、表情が変わる伏路。 ああ、そうだ。報酬。報酬がもらえれば、滞納した家賃を払った上に美味しいお菓子が買えるかもしれない……! 彼の頭を巡る皮算用。その様子に、零次がクククと笑って。 「よし、じゃあ行こうか!」 荷車に、物資を詰め込むだけ詰め込んで。貰った握り飯を頬張りながら。 開拓者達は五行国へと歩みを進めた。 こうして、小鬼達を無事に撃破し、物資を送り届けた開拓者達。 五行国の者達に感謝され、ちょっと誇らしい気持ちで帰路についたのだった。 |