【遊島】お忍びの双子王
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/24 15:43



■オープニング本文

●無人島発見
 某日、とある商隊の飛空船が泰国南方にて難破し、偶然に小さな無人島に漂着する。海岸で修復を行った数日の間に訪れる者もなく、おそらく完全に無人の島なのだろう。温暖な気候は野外での寝起きも苦にならぬ程。
 帰国後、商隊は無人島の発見を届け出る。
「……風光明媚なだけかな、と思い、からくり主体の調査団を送ったところ、これが意外と面白い所のようなのです。できれば早めに再調査したいのですが……」
 泰国は動乱の終結直後で、すぐに全面的な調査を行う余裕はない、と春華王は柔和な表情で言う。さっぱりした格好は御忍びゆえで、今は春華王と呼ぶべきではないのかもしれないが。
「なるほど、それで開拓者に調査をと? それはありがたく。皆も喜びましょうぞ」
 大伴老は、察したように笑みを見せた。いかに貴重な宝珠を蔵しているとはいえ、無人島の調査など来年でも良いし、危険も少ないのだから依頼を出す必要性も少ないし、少人数で十分なはずだ。つまりこれは、依頼の形を借りて風光明媚な無人島でのんびりしていい、泰国からの開拓者への礼……というようなものだろう。


●お忍びの双子王
「ご、ごめんね。隼人。こんなことになってしまって……」
「いえ。とんでもありません」
 しきりに詫びる歳若い王に答えつつも死んだ魚のような目を向ける星見 隼人(iz0294)。
 その先方では、王の片翼が目を輝かせて周囲を見つめている――。
 石鏡の双子王、布刀玉(iz0019)と香香背(iz0020)は、隼人と開拓者達を伴い泰国の無人島へ向かう船の上にいた。


 時は少し遡る。
「ねえ、お兄様。泰国に無人島が見つかったんですって」
「へえ。そうなんですか?」
 何やら楽しげな妹に、書類に目を落としたまま答えた布刀玉。
 お茶を運んできた侍女達にお礼を言って、香香背は椅子に座り直す。
「ええ。噂に聞いたんですのよ。何でも、未知の生物が沢山いるとか……! ねえ、隼人。その話は本当なの?」
 優雅な動きで湯呑みを手にして、笑顔を向けてくる香香背。
 自分が呼ばれた理由はこれか……と思い至って、隼人は頭を垂れる。
「はい。確かに今そのような話が出ていますね。泰国より、島へ上陸の許可もあったとか……」
 その言葉に目を輝かせる香香背。お茶を一口飲むと、徐に口を開く。
「わたくし、新たな『もふもふ生物』を探したいんですの。兄様、一緒に行きましょうよ」
「……香香背。僕達が行こうと思ったら、まずは泰国の春華王にご許可を戴いた後、お礼を持って、ご挨拶の儀をしてからになるよ? 泰国はこの間、大規模な戦があったばかりだし、あまり負担をかけるのもどうかな」
 一国の王が他国を訪問するともなれば、行く方も、迎える方も様々な準備が必要になる。
 布刀玉の最もな言葉に香香背は一瞬萎んだが……すぐに顔を上げる。
「そうですわ! お忍びで行けば宜しいのではなくて? 一般人なら出入りしても構わないのでしょう?」
 王の言葉にお茶を噴出しかけた隼人。いやいやいや……と全力で首を横に振る。
「見つかったばかりで何がいるのかも分からない場所です。何かあったらどうされるおつもりですか!」
「大丈夫ですわよ。もふもふの生物と戯れたら直ぐに帰りますわ」
「ですから、その生物がいる場所が危険なんです!」
「香香背、あまり隼人を困らせてはいけないよ」
「でも……」
 まあまあ、と妹を宥める布刀玉。それでも食い下がる香香背に、隼人は大きくため息をつく。
「行かれるのでしたらせめて、護衛をお連れ下さい。大事な御身に何かあっては、この隼人、石鏡の国の民に顔向けが出来ません」
「……護衛をつけたらお忍びにならないではありませんか」
「えーっと……そうだ。どうせなら開拓者の皆さんに一緒に遊んで戴いたら? 彼らは沢山冒険に行っているし、僕達の知らないことを沢山知ってるんじゃないかな」
「そうですよ。香香背様がお望みの『もふもふの生物』も、開拓者が一緒なら見つかる可能性も上がるかと思いますが」
 布刀玉と隼人の言葉に、満足気に頷いた香香背。
 こもふらさまの紫陽花を膝に乗せると、花の顔に笑顔を浮かべる。
「……そうね。そういうことなら一緒に行っても宜しくてよ。ただし、手配はなるべく早くお願いね?」


 隼人は走った。
 香香背の気が変わる前に、協力者を確保しなければならない。
「頼む! 一緒に遊島に行ってくれ! 大至急!」
「……へ?」
「何だ。どうした?」
 彼の突然のお願いに驚いて頷く者、たまたま居合わせた者――。
 こうして突然に、開拓者達は遊島に向かうことになるのだった。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 鬼島貫徹(ia0694) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 明王院 千覚(ib0351) / 无(ib1198) / ケロリーナ(ib2037) / ミリート・ティナーファ(ib3308) / 長谷部 円秀 (ib4529) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 神座早紀(ib6735) / 音羽屋 烏水(ib9423) / 宮坂義乃(ib9942) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / 徒紫野 獅琅(ic0392) / ジャミール・ライル(ic0451) / 火麗(ic0614) / 庵治 秀影(ic0738) / リト・フェイユ(ic1121) / 衛 杏琳(ic1174) / 虎星(ic1227) / 斯波・火懿李(ic1228) / 花霞(ic1400


■リプレイ本文

「一緒に来てくれってそういう事か……」
「一国の王様がお忍びで外国旅行だなんて、平和ね」
「付き合わせてしまい、本当にすみません……」
 遊島に向かう船の上。
 納得した、というように頷く宮坂 玄人(ib9942)に、くすりと笑う花霞(ic1400)。
 生真面目に謝る布刀玉に、ミリート・ティナーファ(ib3308)が苦笑する。
「……布刀玉くんは悪くないんじゃないかなぁ」
「そうよ。おにいさまは悪くないのー」
 ててて〜と駆け寄り、布刀玉にむぎゅっと抱きついたケロリーナ(ib2037)。
 馴染みの少女に、彼は笑みを返す。
「ありがとう。……香香背、最近外に出ていなかったからね。良かったら遊んであげて貰えるかな」
「もちろんだよー!」
 ケロリーナに続いて抱きついてきたミリートを慌てて受け止める布刀玉。
 ――こうやってじゃれてるとこ見ると、普通のお子様と変わらんなぁ……。
 そんな事を考えた庵治 秀影(ic0738)。ふと、思いついた事を口にする。
「そういうお前さんは、最近息抜きしてんのかい?」
 その問いに少し考えた後、首を横に振る布刀玉。
 そんな彼に、ケロリーナがめっと言いながら人差し指をぴっと立てる。
「おにいさま、ちゃんとお休みしないとダメなのよ?」 
「私達がお守りします。折角の機会ですから、のんびりなさってくださいね」
「うんうん。私も丁度退屈してたし。付き合ったげるから安心なさいな」
 明王院 千覚(ib0351)と花霞の言葉に、布刀玉は少し申し訳なさそうな顔をして頷いた。
「隼人はかの双子王と面識があったんじゃなぁ」
「……お前、俺を何だと思ってるんだよ」
「ん? 隼人は隼人じゃ」
 べべん、と三味線をかき鳴らす音羽屋 烏水(ib9423)に、ため息をつく星見 隼人(iz0294)。
 隼人自身に全く気取った部分が無い為忘れがちだが、石鏡の貴族である彼は当然ながら、王に仕える身な訳で……。
「宮仕えも大変だなぁ」
「すみません……」
 しみじみと言う羅喉丸(ia0347)の横で何故か謝る柚乃(ia0638)。
 彼女の相棒である提灯南瓜は、今日もご機嫌で隼人の頭の上に鎮座ましましていた。
「その子、可愛いわね。名は何と言うの?」
 後ろから聞こえてきた声に振り返った柚乃。声の主が香香背である事に気付いて、驚きつつも続ける。
「あっ。えっと……クトゥルーです」
「そう。いい名ね。どうして隼人の頭に乗っているの?」
「くぅちゃん、星見さんの頭が気に入ってしまったみたいで……」
「紫陽花だけでなくこの子まで……隼人ばっかりずるいわ!」
 ぷんぷんと憤慨する香香背に、でっかい冷や汗を流す柚乃。
 紫陽花の事も、クトゥルーの事もたまたま偶然が重なっただけなのであるが……八つ当たりに耐えないといけないあたり、やっぱり大変だなあと羅喉丸は思う。
 そこに割って入ったのは、烏水の相棒であるもふらさま。
 いろは丸の姿に、香香背は目を輝かせる。
「某、いろは丸と言うもふ。よろしくもふ。ところで、何か食べ物はないもふか?」
「あら、お腹空いたの? 確かお菓子があったわ。ちょっと待って。……紫陽花も食べる?」
「食べるもふー!」
 甲斐甲斐しくもふらさまの世話をする香香背に、くすりと笑う神座早紀(ib6735)。
 先ほど挨拶は済ませたが、もう一度丁寧に一礼する。
「香香背様、本当にもふらさまがお好きなんですね」
「ええ。紫陽花も本当は私が引き取りたかったのに、隼人が預かりものだからダメだって言うんだもの」
 むすーとした顔を見せる王の片翼に、遠い目をする早紀。
 ……このこもふらさまを預けたのは自分達だったりする訳なんですが。
 とりあえず、その話も後でお聞かせしよう。
 そんな事を考えつつ、もふらさまの世話を手伝う。
「もふらに目を輝かせる姿はなんとも愛らしいものじゃの」
 己の相棒を撫でる香香背に、にんまりと笑う烏水。
 王とはいえ、年頃の女子である事が伺えて……斯波・火懿李(ic1228)もうんうん、と頷く。
「そうですね。我が殿と気が合うやもしれませぬ」
 彼の主は気丈でしっかりしているが、その実は歳相応に幼く、一度言い出したら聞かない。
 そんなところがええ、もう。そっくりであらせられる……。
「火懿李、何か言ったか?」
「はい。素晴らしい主にお仕え出来て光栄と申しました」
 小首を傾げる衛 杏琳(ic1174)に、何食わぬ顔で答える火懿李。
 その言葉に、彼女の顔がみるみる赤くなる。
「な、何を急に……」
「御主人様ー。顔赤いよー? お熱あるのー?」
 ひょいっと顔を覗き込み、おでことおでこを合わせる虎星(ic1227)。
 杏琳は更にアワアワと慌てる。
「虎星、大丈夫だから……」
「ご主人様、無理はダメだよ! 暖かくしてるの!」
「……おぬしの主も愛らしいのう」
 更ににんまりと笑う烏水に、火懿李は当然です、と頷いた。
「しかし、もふもふ……ですか。もふもふとは具体的にどんな感じなんですかね」
「うーん。もふらさまみたいな感じかな?」
 ふむ、と腕を組む无(ib1198)に首を傾げる天河 ふしぎ(ia1037)。
「そうだなあ。もふもふって言ったら、やっぱりなぁ……」
 そう呟いたジャミール・ライル(ic0451)の目線の先。
 そこには、火麗(ic0614)の豊かな胸があって――。
「……そうよね。王様のご所望とあれば仕方ないわよね。うん。モフるのも仕事のうち……って、ちょっと。あんたどこ見てんのよ」
「いやいや。いいもんだなーっと思ってね。それももふもふじゃない?」
 本音と建前が入り乱れる火麗のたわわな果実を注視したまま笑顔で続けるジャミール。
 それでも、彼女が動じる様子はなく。からだつきが美しい火麗は、こういう目線を向けられるのに慣れているのかもしれない。
 その間に、すっと割って入った紫ノ眼 恋(ic0281)。青い隻眼で彼を睨みつける。
「こら、ジャミール殿! 女性に失礼な真似をするんじゃない!」
「恋さん、お知り合いの方ですか?」
「ああ。こいつは女性を見るといつもこんな感じでな……」
 首を傾げる徒紫野 獅琅(ic0392)に頷く恋。それにジャミールは肩を竦めて見せる。
「心外だなー。綺麗なものを愛でてるだけさ」
「ジャミール殿の場合は、それが行き過ぎなのだ。ちょっとは自重するがよい」
「えー。おにーさん、我慢はしない主義なのよねえ。あ、もしかして妬いてるの?」
「そんな訳あるかーー!!」
 のらりくらりとかわすジャミールにわなわなと震える恋。
 それを、まあまあ、と火麗が宥める。
「ありがとね。あたしは気にしないわ。……まあ、目の保養させてあげた分は働いて貰うけど?」
「そうだね、期待に添えるように程々に頑張るとしようかな」
「……獅琅殿、絶対こいつは見習うなよ!」
「はい。分かりました!」
 言葉に反して剣呑な目線を向ける火麗に、にっこり笑みを返すジャミール。
 恋の言葉に、獅琅は素直に頷き……。
 そんなやり取りを、嘆かわしいと言わんばかりに鬼島貫徹(ia0694)が首を振る。
「貴様ら甘いな! 新たなもふもふ生物が、もふらや人の胸ごときで済むはずがあるまい!」
 もふもふ生物……それはきっともふらさまを超える毛並み。
 この我にこそ相応しき手触り。
 双子王? 彼らの事情など知った事ではない。
 この我が、もふもふ生物を愛でたいから探すのだ。
 もっちもちでもっふもふな生物よ、待っておれ。
 必ずや見つけ出し、思う存分モフってくれようぞ……!
 暫く黙り込んでいたかと思いきや、突然フハハハハハ! と高笑いをした貫徹。
 そんな彼を見て、からす(ia6525)がぽつりと呟く。
「……あの者は大丈夫なのか?」
「あまり見ない方が……」
「よっぽどもふもふ生物が楽しみなんだねー」
「私も楽しみです。出会えたら素敵! ね、ローレル」
「そうだな」
 からす同様、あくまでも冷静な礼野 真夢紀(ia1144)に反して、ふしぎとリト・フェイユ(ic1121)、彼女の相棒ローレルののんびりとしたやり取りが続き……。
「皆ー! 島見えてきたよー!」
 船中に響き渡るリィムナ・ピサレット(ib5201)の声。
 それが、遊島到着を知らせる合図となった。


 遊島は風もなく、気温も少し涼しいくらいで丁度いい。
「うーん。これならお弁当作ってもってきても大丈夫だったかしら」
「マユキ。おみず、みつけた」
「ありがと、しらさぎ。じゃあ、その近くに竈を作りましょうか」
 早速湧き水を発見してきた相棒のからくりに、荷解きしながら笑顔を向ける真夢紀。
 竈を組むために大きな石を集め始めた二人のところに、千覚が急ぎ足でやって来る。
「お二人は行かないんですか?」
「ええ。ここで皆の昼食を用意しようかと思って」
「お疲れ様です。お手伝いできる事あります?」
「しらさぎもいるし、ここは大丈夫ですよ。千覚さんも皆と一緒に行ってらして下さい」
「でも……」
「ほら、早く行かないと皆行っちゃいますよ!」
 心配そうな千覚の背をぐいぐいと押す真夢紀。
 友人も心配だが、王達の護衛もしなくてはいけないし……。
「じゃあ、何かあったらすぐ呼んで下さいね?」
 その言葉にこくりと頷く真夢紀。千覚も頷き返すと、慌てて仲間達の背を追う――。
「じゃーん! 見てー! 可愛いあたしがもっと可愛くなっちゃった♪」
 猫の着ぐるみを身に纏い、くるりと回って見せるリィムナに、あんぐりと口を開けた羅喉丸。
 彼女は、てへっと舌を出す。
「これなら、もふもふちゃんに仲間だと思われるかなって」
「なるほど。形から入る訳ですね」
「甘い! そのような着ぐるみ、もふもふのうちに入らんわ! 真のもふもふというのはな、こういう事を言うのだ!」
 无がうんうんと頷く横で、フンッと鼻で笑う貫徹はやぎの着ぐるみ装着済。
 考える事は同じだったらしい。にゃんことやぎの揃い踏みが何ともシュールだ。
「えーと。正直どちらも変わらないんじゃないか」
「面白いからいいんじゃない?」
 ぽつりと真実を呟く玄人に、笑うジャミール。
「失礼ですにゃ! リィムナはこんなに可愛いのに!」
 それにぷんぷんと憤慨するのは、リィムナの相棒ヴェローチェ。
 からくりなのにハァハァ言いながら主人の身体を怪しい手つきでまさぐる。
「ちょっ、こら。ダメ……落ち着け!」
「あああ! くぅちゃんダメ!」
 ズビシッと相棒をドつくリィムナ。それに便乗してドつこうとする提灯南瓜を、柚乃が慌てて止める。
「こりゃまた、長閑でよき場所じゃなぁ」
「本当に。泰にこのような場所があるなんて……」
 目の前の混沌とした状況を全力で聞き流す事にしたらしい。機嫌良く三味線をかき鳴らす烏水に、頷く杏琳。
 つい先日まで、故郷の一大事で気を揉んでいたというのに。
 今日はその故郷で、こうして遊ぼうというのだから不思議なものだ。
 くすり、と笑う彼女に、火懿李が首を傾げる。
「殿。どうされました?」
「ふふ……お前たちのお蔭だなと思って」
「う? 何が?」
「いや、なんでもない。さあ、もふもふ探しをしよう!」
 キョトンとする虎星の手を取り、森を目指す杏琳。
 ケロリーナもそれに続けと言わんばかりに香香背と手を繋ぐ。
「香香背おねえさま、一緒にいくですの!」
「勿論よ、ケロリーナ!」
 にっこりと笑い合う二人。立ち止まったままの布刀玉をミリートが覗き込む。
「布刀玉くんも、行こう」
「あの、でも……良いんでしょうか」
「泰くんだりまで来てお留守番じゃつまらないでしょ?」
「大丈夫です。私達も一緒ですし。ね、おとめ?」
 戸惑う布刀玉に言い聞かせる花霞と早紀。
 早紀の相棒の鋼龍は、任せなさい……とでも言いたげに吼える。
「そーいうこと! ほらほら! こういう状況も楽しまなきゃ!」
 がっしと布刀玉の腕を掴んだミリート。
 反論する隙を与えず、彼を引きずっていく。
「ったく、落ち着かねぇ嬢ちゃん達だ。しょーがねぇなぁ」
 森へ突撃していく仲間達をクククと笑いながら追いかける秀影。
 先に安全確認をと思ったが、こう範囲が広くては全て見て回るのは難しい。
 いざ危なくなったら首根っこ引っつかんで待避させりゃいいか……。
「わわわ。皆、待って下さいー!」
「リト、慌てると転ぶぞ」
 仲間達を慌てて追いかけようとするリトの手を、流れるような動きで支えるからくり。
 ローレルの優しさに、リトはほんのり顔を赤らめた。


 ここは樹がまばらだが、先に行くともっと木々があるらしい。
 晴れ渡る空に、太陽が心地良く、深い緑もまた美しい。
 どこからか、小鳥の囀りが聞こえてくる。
「……頼んだよ、キャラ」
「任せるアル。友好はまずお菓子からネ」
 目の前でふわふわと揺れる提灯南瓜に袋を差し出すからす。
 キャラメリゼはそれを受け取ると、森の奥へと消えて行く。
「玄姉ちゃん、もふもふの生き物と仲良くなれるかな?」
「さてね。その為にもまずは見つけないとな……」
 嬉しそうな人妖の輝々に、森を見据えたまま呟く玄人。
 王命である以上、手を尽くさなければ……。
 そう続けた彼女に、相棒の輝々も頷く。
「もふもふちゃんを必ず見つけるぞ♪」
「見つけますにゃ♪」
「フハハハ! 負けるかッ」
 そして、その横を追ったり抜いたりしている着ぐるみ軍団と一体のからくり。
 騒がしくしては逃げられる、と言うのも共通の認識らしく、決して走ったりはしない。
 が、競争している為、歩きにも関わらずものすごい速度になっている。
「おーい。はぐれるなよー」
 果たして羅喉丸の声は彼らに届いているのだろうか?
「もふもふはいねぇがー。もふもふはいねぇがー」
「いねがー! いねがー!!」
「しー! 大きな声出したらダメだってば」
 更に、正面を突き進みながら謎の呟きを繰り返す火麗。
 何故か釣られて同じ言葉を繰り返すひみつの口を、ふしぎが慌てて塞ぐ。
「……や、野犬が出たりは、せんじゃろうか」
「何だ、烏水。怖いのか?」
 キョロキョロと周囲を伺う烏水に、ニヤリと笑う隼人。
「そんな訳ないわい!」
「ははは。そうだよな。開拓者だもんなー」
 ジト目を向ける烏水に、悪い悪い、と隼人が手を合わせる。
 ……本当はちょっぴり苦手だったりするが、それは秘密だ。
「蓮華。上空から探索してもらっていいか?」
「分かった。何かあったらすぐ呼ぶように」
 主の声に頷き、ふわりと空へ上がって行く人妖の蓮華。
 羅喉丸は歩幅と方位磁石を併用し、簡単な測量をしつつ地図を作成していた。
 これがあれば、今後ここに来る時も、帰り道も困らないはずである。
「ふーむ。ここの辺りは清浄なようだね」
 ド・マリニーを掲げて唸るからす。
 この辺りは精霊力が強い反応を示している。アヤカシの気配もない。
 そう続けた彼女に、羅喉丸は地図に目を落としたまま答える。
「念の為、精霊力の流れも書いておこうか」
「うん。玄人殿にふしぎ殿。動物達はどうかな?」
 二人を振り返るからす。玄人とふしぎは、心眼と人魂を駆使し、周囲を探索する。
「いるにはいる……。が、小鳥のようだな。木の上に止まっている」
「足跡も色々あるね。これはうさぎと、ネズミかな……?」
「その場所も教えてくれ。地図に書く」
 羅喉丸の言葉に頷く二人。地図は少しづつ、詳細なものになっていく。


「やっぱり。木の実を食べた形跡があるわね」
「近くにはいないようだな」
 落ちていた木の実を拾い、呟くリトに、周囲を伺うローレル。
 彼女と相棒のからくりは、植物が多いところ……特に小動物の食糧となる木の実が多い場所を中心に探索していた。
「珍しい植物も沢山あるわね。生き物は駄目でも花や木の実なら持って帰っても大丈夫かしら」
「どうかな。毒があるかも分からん。未知のものである以上、ギルドの許可を得てからの方がいいと思うが……」
「やっぱりそうですよね……」
 がっくり肩を落とす彼女。
 ふと、目の前に広がる緑色の世界に、リトは目を細める。
「何だか懐かしいなあ……」
「何がだ?」
 首を傾げる相棒に、リトは微笑を向ける。
「私ね、あなたと出会うずっと前、こんな森に住んでいたのよ」
 彼女の故郷である森も、こんな風に様々な緑や木の実、花に溢れた美しい場所だった。
 そう、瘴気に侵されるまでは……。
 帰りたくても帰れぬ故郷。懐かしさに目を閉じる。
「リト」
 名を呼ばれ振り返ると、差し出される見た事の無い淡い藤色の花……。
「……毒はない、と思う」
「ありがとう、ローレル。でも困ったわ。折角貰ってもこれじゃ持って帰れないじゃない」
「そうか。それでは別なものを探そう」
 郷愁に浸る彼女を心配したのか、不器用な優しさを見せる相棒に、リトの心がぽっと温まった。


「うーん。見当たりませんね」
「そうだな。もふもふが動物であればどこかに巣があるのだろうが……」
 目的の生物は水辺の付近にいる、と目星をつけた恋と獅琅は探索を続けていたが、見かけるのは小鳥ばかり。
 獅琅はよいしょ、と近くの木に腰掛ける。
「とりあえず腹ごしらえしましょうか」
「そうだな。恋、腹減ってるだろうし」
「なっ……!? あ、あたしは大丈夫だぞ!」
 あわあわと慌てる恋から聞こえるグゥ〜という音。腹の虫は正直らしい。
 言わんこっちゃない、という顔をするからくりの白銀丸を睨む恋。
 獅琅にまあまあ、と宥められて座らされ、手におにぎりを持たせられ。
 一連の動きがあまりにも滑らかで、彼の慣れを感じさせる。
「ああ、どうせなら酒も欲しいなぁ」
「そんなものありませんよ、当たり前でしょ。おにぎりとお菓子で我慢しなさい……って、こら夜鈴、お前のじゃないぞっ!」
 ぽつりと呟く恋と、ご飯を狙う相棒の駿龍を同時にやり込める獅琅。
 恋は獅琅の事を弟と思い、張り切ってお姉さんぶろうとしているようだが、全く上手く行っていない。
 ――恋さん、結構頼りないところあるからなー。俺がしっかり見ておかなくちゃ……。
「大丈夫だぞ。きっと見つかる。これを食べたらまた頑張ろうな!」
 黙っている獅琅を、もふもふ生物が見つからない不安からだと思ったのか、胸を張って張り切る恋。
 獅琅の苦労は、まだまだ続きそうだった。


「ちょっとごめんね。通してね?」
 木の枝を退けて進む度に、木々に断りを入れる優しい虎星の心遣いに感心する杏琳。
 手を繋いで先行する姫君とお供を、火懿李が後方で穏やかに見守っている。
 生き物は水なしではいられないもの……という杏琳の言葉で、三人は湧き水や川と言った水場を中心に探索していた。
「ねえ、ご主人様。もふもふの子って、どんなのがいるのかなあ♪」
「そうだな……。虎星や師に似た可愛い子かな?」
 首を傾げる虎星に考えながら答える杏琳。
 その言葉に、虎星は目を輝かせる。
「だったらご主人様に懐くはずだよ! フーも師も、ご主人様大好きだもん!」
「そうですね。師は主人を差し置いて殿をお慕いしていますからねえ」
 ふふふ、と笑う火懿李に顔を曇らせる杏琳。
 師は、火懿李の管狐で、本来彼に仕えるべきものだ。
 それを取ってしまったようで、何だか申し訳なく思う。
「すまん、火懿李」
「いいえ。全く困っていませんよ。今のままでいてくれた方が助かります」
「呼んだー?」
「おかえりー。もふもふはいた?」
 その声に応えるように、杏琳の懐からしゅるっと現れた管狐。
 続いた虎星の問いに首を振る
「もふもふは見なかったけど、周囲探索してきた。危ない事なかったよ。殿ー。疲れた。褒めてー」
 報告しつつ、杏琳に甘える師。彼女は微笑むとよしよし、と管狐を撫でる。
「二人とも、お腹は空いていませんか」
 頃合ですね、という呟きと共に火懿李が出して来たのはお弁当箱。それに目を丸くした杏琳は、くすくすと笑う。
「あいかわらずお見通しだな、手作りか?」
「勿論ですよ。愛情込めて作らせて戴きました」
「わーい! お弁当、たべたーい!」
 笑顔の火懿李に万歳三唱の虎星。それに、杏琳の笑みが更に深くなる。
「よし。では腹ごしらえが済んだら、もっと奥へ行ってみるか」
「うん! フー、頑張る!」
 盛り上がる二人。
 この子達が疲れきる前に帰ってこないといけませんね……。
 火懿李はそんな事を考えながら、姫君達が座る為の敷物を広げた。


 探索班がもふもふ生物を探す一方、護衛班は双子王を警護しつつ、色々な話を聞かせていた。
「……以前龍脈の調査に行った時の事です。瘴気を浄化する精霊がいるのでは? と思って呼びかけたら出てこられたのが紫陽花様だったんですよ」
 語る早紀に、へえ、と唸るジャミール。秀影もうんうんと頷く。
「この子、早紀ちゃんが見つけたんだ」
「もふらさまは精霊力が溢れた場所で生まれるって言うわなぁ」
「そうですね。紫陽花ちゃんは龍脈生まれって感じですか」
 柚乃の言葉に頷く早紀。思い出したようにぽん、と手を打つ。
「そうそう、紫陽花様の第一声は『お腹すいたもふー』だったんですよ」
「……もふらって本当、食いしん坊よね」
「あはは。可愛い〜」
 肩を竦める花霞にくすくすと笑うミリート。香香背の腕の中で鎮座ましましていたこもふらさまは、アワアワと慌てる。
「早紀! 変な事教えちゃダメもふよ!」
「え。だって本当の事ですし。可愛いじゃないですか」
「恥ずかしいもふ!」
「大丈夫だよー、紫陽花ちゃん。誰だってお腹すくのよ? ね、おねえさま?」
「え? ええ、そうね」
 笑顔で香香背を見たケロリーナ。
 何だか妹王が肩で息をしているような気がして、彼女が心配そうに首を傾げる。
「……香香背おねえさま、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。なんて事ないわよ、これくらい!」
 強気な香香背。その額を、早紀がそっと拭う。
「汗がこんなに……疲れていらっしゃるのでは?」
「大丈夫? 俺も疲れちゃったし、ちょっと休憩いれてもらおっか」
「そうですね。あそこに川がありますし、そこで休憩しましょ」
 さり気なく誘導するジャミールに頷く柚乃。香香背はぷうっと頬を膨らませる。
「大丈夫だったら!」
「無理してもいい事ないわよ。もふもふ生物を前に力尽きたいの?」
 花霞にぴしゃりと言われてぐぬぬと唸る彼女。
 言葉はつっけんどんだが、気遣った上での事だと言うのは分かる。
 ミリートはくすりと笑うと、布刀玉を振り返る。
「布刀玉くんは大丈夫?」
「はい。僕こうみえて、歩くのが日課なので」
「あー。そういえばそうだったね」
 その言葉に頷く彼女。
 そういえば石鏡の兄王は、健脚の持ち主として有名だった。
 そうなった理由は、妹に振り回されている結果と聞いた気がしたが……。
「お兄様ったら暇さえあれば神宮内を歩き回ってますものね」
「気分転換にいいんだよ。香香背もやればいいのに」
「あたしはそんな暇があったら大もふ様のお世話をしたいの!」
 続く兄妹達のやりとり。聞き覚えのある単語に、ケロリーナが顔を上げる。
「そういえば、大もふ様は元気なの?」
「ええ、また大きくなられて、毛並みも素晴らしいわよ」
「そっかー。ケロリーナも会いに行きたいなぁ。香香背おねえさまと一緒に!」
「……そうね」
 無邪気な笑みを向けてくる妹分に、香香背は穏やかな微笑を向けた。
「はーい。お茶が入りましたよ」
「どうぞ」
 千覚と无から配られたお茶でほっと一息つく仲間達。
 柚乃はふと、頭に浮かんだ疑問を口にする。
「そういえば……双子王ご自身の縁談はないのです?」
「僕達は……そういうのはまだですね。薦められる事は勿論ありますが……」
 湯飲みを見つめながら言う布刀玉。
 布刀玉も香香背も、年頃になりつつある。
 その辺は、色々とあるんだろうな……とミリートは考える。
「まあ、急ぐ事はないんじゃないかな」
 励ますように肩を軽く叩く彼女に、布刀玉は頷き。
 そして川をじっと見つめていた秀影が口を開く。
「ほれ、お嬢ちゃん達。川の中見てみなぁ」
「……あ。お魚が泳いでますね」
「ありゃ虹鱒だなぁ。塩振って焼くと美味いんだぜぇ」
 川を覗き込み、目を輝かせた早紀に、頷く秀影。
 香香背はすっくと立ち上がると徐に服の裾をたくし上げ、ばしゃばしゃと川の中へ入っていく。
「ちょっと、何やってるのよ!?」
「捕まえてあげるわ。こう見えても魚を捕まえるのは得意なのよ」
 慌てる花霞に、にっこり笑い返す妹王。
「けろりーなもやるのー!」
「あたしもー!」
 それに続いたケロリーナとミリートに、ジャミールと秀影がクククと笑う。
「突然水浴びなんて大胆なお嬢さん達だね」
「その意気だ。捕まえられたら焼いてやるぜぇ。頑張りなぁ」
「わー! お水つめたーい!!」
「あっ! 逃げた!」
「そっちに追い込んで!!」
「着替え、持ってますか!? 身体を拭くものは……!?」
「ええと。いざとなったら男性陣に脱いで戴いて、それを使いましょう!」
「そうね。仕方ないわよね」
 一気に賑やかになる川辺。突然の事態にばたばたと用意を進める早紀に、続く柚乃と花霞の容赦の無い一言。
「ああ、もう。本当にごめんなさい……」
 そして布刀玉が、申し訳なさそうに服を脱ぐ準備を始めていた。


「うーん、見つからないね」
「これ以上進むと明るいうちに戻れなくなるぞ」
 落胆するふしぎに、淡々と事実だけを述べる羅喉丸。
 手を尽くして探してはいるが、もふもふ生物は見つからない。
 が、手ぶらで王達の元へ帰る訳にもいかない……。
 烏水もうーんと考え込むと、三味線を構え直す。
「こうなったら、小鳥の囀りで動物を寄せてみるかの?」
「そだね。やってみようか」
 頷くリィムナ。仲間達が相談しているところへ、ふわふわと提灯南瓜が寄って来る。
「ただいまアルー!」
「ああ、キャラ。おかえり」
「からす! 約束どおり連れてきたアルよ!」
「うん。お疲れ様」
 戻ってきた相棒を動じる事なく労うからす。
 仲間達の目線は提灯南瓜の隣に浮いている生物に釘付けだった。
「……何、あれ」
 誰からともなく出た呟き。
 無理もない。そこにいたのは、見た事もない生物だったのだから。

 大きさは一尺程だろうか。
 卵型の身体に、円らな目。猫のような三角の耳。全身、淡い桃色の柔らかそうな毛で覆われている。
 そこに申し訳程度についている小さな手足。
 背中からは小さな羽根が生えていて、それを必死にパタパタと動かし、ふわふわと浮いていた。

「キュー?」
 小首を傾げた桃色のもふもふ生物は、着ぐるみを着た貫徹を仲間だと思ったのか、ふわふわと寄っていき、頭をすりすりと摺り寄せる。
 挨拶行動だろうか。その手触りに、貫徹が感動に打ち震える。
「おおお……想像に違わぬ至高のもふもふっぷり! 良いぞ!」
「ずるいー! もふもふちゃん、こっちおいで? そっちの怖いおっさんより、あたしの方が可愛いよ?」
「姿だけでなく鳴き声まで可愛いってどういう事なの……!」
 地団駄を踏むリィムナに、桃色の毛玉に魂を打ち抜かれ、がっくり膝をつく火麗。
 場が混沌とする中、我に返った烏水が懐からクッキーを取り出す。
「おお、そうじゃ。儂、お菓子を持っておった。おぬし、食べるか?」
「キュー! キュー!」
 ひときわ大きな声で鳴く桃色のもふもふ。どうやら喜んでいるらしい。
「あたしもお菓子持ってるよ。良かったら食べな」
「キュー! キュー!」
 続いたからすの声に、更に嘶いたもふもふ。
 そして、あちこちから聞こえてくる似たような鳴き声。
 先ほどの声は、仲間達を呼び出すものだったのか。
 気がつくと、白や水色、緑色……様々な体毛色のもふもふ生物が寄って来ていた。
「キュー」
「キュー」
「見ろ! あんなにいっぱい……! すごく可愛いぞ」
「抱っこしてもいいのかな? 撫でても大丈夫かな?」
「ええ、見ていますよ。良かったですね」
 目を輝かせる杏琳と虎星に、満足気に頷く火懿李。
「ふふ。人懐っこいのねえ。木の実は食べられる?」
「……ここは無人島だろう。人間を知らんのだろうな」
 初めて会う生物に、花のように微笑むリト、それに反してローレルは冷静に動物達を分析し……。
「すごい! 玄姉ちゃんすごいよ!」
「ああ。色々な色がいるんだな……」
 そして、こちらは相棒である輝々が感動し、主である玄人が淡々としていた。
「うーん。確かにもふもふだけど。やっぱりこっちの方が可愛いよなあ」
 そういいながら、もふもふ生物と恋の尻尾を見比べる獅琅。
 恋は背中に冷たいものを感じて後ずさる。
「や、やめるのだ獅琅殿!! 狼は決してもふもふではなく誇りたか……」
 逃げる暇も、最後まで台詞を言う隙も与えられず、モフられる彼女の黒い尻尾……。
 ぎゃああああああああ! という恋の悲鳴が森にこだました。
「……こんなにいたらさすがにお菓子足りないよ」
 集まってくるもふもふ達に手持ちのお菓子が尽きそうになり、困り顔のからす。ふしぎは少し考えたあと、思い出したように顔を上げる。
「えっと。確か真夢紀ちゃんが皆のご飯作ってたよね」
「よし、そこまで連れて行こう。誰か行って知らせて来い!」
「あたし行って来るわ!」
「あと香香背様も呼んで来るんじゃ」
「了解!」
 羅喉丸と烏水の号令に、火麗と玄人が走り出す。


「真夢紀ちゃん、いる!? あのね……」
 言いかけて、その場にがっくり膝をついた火麗。
「こらっ! つまみ食い禁止っ!! 食べた分は働きなさいっ!」
「キュー!!」
「……マユキ、これナニ? アヤカシ?」
「多分原生生物よ。敵意はないみたいだし、使えるものは使いましょ……って、あら? 火麗さんどうされました?」
「ごはん、もうできるよ」
 ――火麗が走りこんだその先には、3匹のもふもふ生物におたまをふりふり配膳をさせている真夢紀の姿があった。


 こうして、無事もふもふ生物を見つけた開拓者達は、心行くまでその毛並みを堪能した。
 真夢紀の作った美味しい食事は、殆ど彼らのお腹に消えてしまい、香香背は最後まで連れて帰りたいと騒いだけれど。
 また来よう、と心に誓って。
 開拓者達は遊島を後にするのだった。