黒狗の森
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/29 13:27



■オープニング本文

●黒狗の森
「紗代、あまり遠くに行ってはいけないよ」
「はーい」
「特にあの森には近づいてはいけない。黒狗が出るからね」
「分かってるよう」
 心配そうな父に、少女は笑顔を返して。

 家を出てから数刻。
 紗代は、黒狗の森を目指して歩いていた。
 父にはああ言われたけれど、どうしても行かなければいけない理由があったから。

 あの森には、病気の母に効く薬草がある。
 そう、父達が話しているのを聞いた。
 だから。

 どうしても、薬草を見つけて帰らなきゃ。
 それで、かかさまに元気になってもらうんだ――。

「薬草、どこかな……」
 きょろきょろと辺りを探る少女。
 木の根元を覗いたり、石をひっくり返してみたり……。
 そんなことを繰り返していた矢先。

 ザザザザザ……。

 聞こえたのは土が崩れる音。同時にガクリと傾く身体。
 薬草探しに夢中になっていた彼女は、足元の変化に気付くことができなかった。
「あっ。ああ」
 崖とも言える急斜面に取られる足。
 身体が支えきれなくなった紗代は、そのまま斜面を滑り落ちて行き――。

「いたたたた……」
 斜面を転がり、あちこちぶつかりながら地面に投げ出された少女。
 起き上がろうにも、足が痛くて思うようにいかない。

 ……どうしよう。
 そんなことを思った時。
 ぺろ。ぺろり……と。足に何か冷たいものが当たって。
 振り返るとそこには。
「ひっ……」

 ――あの森には近づいてはいけない。黒狗が出るからね。

 目の前にそびえ立つ、黒い大きな犬に、紗代は父の言葉を思い出して。
 ただ、震えることしかできなかった。

●開拓者ギルドにて
「……娘を助けてください」
 疲れた顔で、そう切り出したのは二十代半ばに差し掛かろうかという男性。
 佐平次と名乗った彼は、大きく一つため息をついて。
「私の娘で、紗代という子なのですが、『花を摘みに行く』と言って家を出て行ったきり、戻って来ないのです」
「……行先に心当たりは?」
 開拓者の問いに、佐平次は恐らく『黒狗の森』に向かったのでしょう……と応えて。
「『黒狗の森』? どういうところなんですか?」
「我々が住んでいる村の近くに、黒狗と呼ばれる、大きなケモノが棲んでいる森があるのです。黒狗は文字通り、黒い大きな犬なのですが」
 紗代は、何らかの理由でそこに向かったらしい。
 自分達で探しに行ければ良かったのだが、何しろ相手は大きなケモノである。
 遭遇しないで済めば良いが、うっかり出会ってしまった場合は――。
 ごく普通の暮らしを営む人間には荷が重いだろう。
 開拓者達に依頼が来るのも頷ける。
「もちろん、紗代に生きて帰って来て欲しいと思っています。が、黒狗もいますし……もし万が一、死んでいるようなことがあった場合は……遺品でも構いません。娘を連れて帰って来て戴けませんでしょうか」
 大したお礼も用意できず、申し訳ないのですが……と続けた佐平次。
 ありったけの財産なのだろう。決して多いとは言えない文の入った袋を、開拓者達に差し出す。
 そんな佐平次に、彼らは安心させるように強く頷いて。
「……分かった。引き受けよう」
「ああ……。ありがとうございます! どうか、娘を……よろしく、お願いします……」
 父の悲痛な願い。それを叶えるのも、開拓者の役目なれば。
 佐平次は涙を滲ませて、深々と頭を下げた。


■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
マックス・ボードマン(ib5426
36歳・男・砲
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
輝羽・零次(ic0300
17歳・男・泰
アルバ・D・ポートマン(ic0381
24歳・男・サ
ラサース(ic0406
24歳・男・砂


■リプレイ本文

●本当の理由
「出発しましょ? 急いだ方がいいわ」
「そうですね。その通りなんですが……」
「確認したいことがある。ちょっと待って貰っても良いだろうか」
 早々に準備をし、出立しようとした熾弦(ib7860)を引きとめたヘラルディア(ia0397)とラサース(ic0406)。
 先を急ぐ。それは確かに熾弦の言う通りなのだが、何も知らないまま行くのも危険が増す――。
 そう判断した開拓者達は、佐平次にもう少し詳しく話を聞くという決断を下した。
「ご心痛の所を申し訳ないけれど、いくつかお話を聞かせて頂戴?」
 気遣うような賀 雨鈴(ia9967)の声に、下げ続けていた頭を上げた佐平次。
 私に分かることであれば何なりと……と、答えた彼に、アルバ・D・ポートマン(ic0381)は頷く。
「じゃァ聞くが……紗代は森に花を摘みに行ったンだよな。間違いねェか?」
「はい。そう言っていたのですが……」
 彼の色眼鏡越しの目線を受け止めて、首を縦に動かした佐平次。
 それに、マックス・ボードマン(ib5426)はうーん、と考え込む。
「そもそも花ってのがねぇ……。このあたりの森じゃ、もう花が咲くほど暖かくなってるのかい? 比較にならんかもしれんが、私の国だとようやく雪が消えたかどうかぐらいなもんでね」
 ようやく春の足音が聞こえてくるという時分。
 日も届かぬという森であれば、街中より寒いはずだ。
 そんな地に、花が咲いているものなのだろうか?
 輝羽・零次(ic0300)も、拭えぬ違和感を抱きながら続ける。
「親父さん、ケモノがいるから危ないって話はしてたんだろ? それでも行ったってことは……何か理由があるんじゃないのかな」
「ああ。花のために危険を侵すとも思えない。……その森には何かあるのか?」
「何か知っているなら……些細なことでもいいわ。教えて欲しいの」
 彼の言葉に続く、畳みかけるようなラサースと雨鈴の言葉。
 目的が分かれば、探す手掛かりになるかもしれない。
 そんな開拓者達の意図を感じたのか。佐平次はふう、とため息を漏らして、開拓者達を見渡す。
「仰る通り、現在咲いている花があったとしても非常に少ないはずです。……これは、私の予測でしかありませんが。恐らく、娘は薬草を探しに行ったのだと思います」
「薬草、か」
 短く呟いたハイネル(ia9965)に、佐平次は頷き、ぽつぽつと語り出す。
 彼の妻――紗代の母でもある彼女が長く臥せっていること。
 先日、黒狗の森に、妻の病に効く薬草があるという話が出たこと。
 その話は紗代に知らせずにいたはずなのだが、どこかで聞いていたのかもしれないこと。
「そう……。紗代君はそれで……」
「それでも親を想う処は……良い方なのですね」
 やり取りを聞いていた熾弦から漏れる呟き。
 少女の優しい気持ちに、ヘラルディアの心も温まったけれど。
 その切実な願いが、悲劇を呼んでしまうのだとしたら――。
 沈痛な面持ちの佐平次。ハイネルは表情を変えぬまま、彼を見つめる。
「哀然、実際に可能性としてあるとはいえ、現場に行かずして死んでいた場合を語るのは……我等のみで良い」
「そうだなァ。それが俺達の仕事だし、な」
「ああ。必ず見つけてくるから待っててくれ」
「……言いづらいことを聞いてしまって申し訳なかったわね」
 軽い調子のアルバと、生真面目に請け負った零次。そして、雨鈴の見せた細やかな気遣い。
 そんな彼らの様子に、佐平次の表情に少し安堵が混じり。どうかよろしくお願いします、と再び、深々と頭を下げ――。
 開拓者達は先を急ぐ。
 約束を、現実に変える為に。

●少女の行方
「紗代ちゃんはもうすぐ10歳。いなくなった当日は赤地に黄色の絣模様の着物を着ていたそうよ。薬草は『黒狗の森』にある、ということしか分かってないみたいね」
 聞き込み内容を書きこんだメモを読み上げつつ、足を動かすのを忘れない雨鈴。
 開拓者達は、遅れた分を取り戻すかのような猛然としたスピードで、黒狗の森を目指して歩いていた。
「詳しい場所も分からないのに探しに出たのね……。無茶するわねえ、まったく」
「本人は慣れていらっしゃるつもりだったのでしょうね……」
 はぁ〜とため息をついて天を仰ぐ熾弦の横で、ヘラルディアも頷く。
 本人としても、ちょっとそこまで行って戻って来るつもりだったのだろう。
 現実は、そう甘くはなかった訳だが。
「……となるとだ、基本的には子供の足で行ける範囲ということになるかね。無論不測の事態に陥っていなければという事になるが」
「そうだな。後は、薬草が生えていそうな場所……というところか。森に慣れているならば、彼女もそういったところに重点を置くだろう」
 マックスとラサースの的確な推測に、同意を返す零次。
 そうしている間も、彼の目線は地面を行き来して。
「時間が経ってるっていっても普段は人の通わない場所だ。小さな女の子だって事を差し引いても必ず痕跡はあると思う」
「……帰って来ない、ともなりゃァ怪我をしてる可能性も高いだろう。まァ、着物が赤ってのは不幸中の幸いだったかもなァ。緑の中の赤は、さぞや目立つだろうし」
 色眼鏡越しの俺でも見えるくらいにはな……と苦々しく続けたアルバ。
 そうね、と頷いた雨鈴がぽつり、と呟く。
「無事だと、いいのだけど……」
 漏れ出たのは開拓者達の共通の願い。
 そうこうしている間に、黒狗の森へと入ったのか。
 まばらだった木々は密度を増し、茂る木々が天を覆い。
 目に見えて変わった光景に、ハイネルはむう、と唸る。
「鬱然、やはり暗いか」
「やっぱり明かりが要りそうね。……そういえば、これどうやって火をつけようかしら」
 松明を持ったまま首を傾げる熾弦。
「そういや火種ってどうしたっけ」
 零次の言葉に、自然とヘラルディアに集まる仲間達の目線。そう、巫女である彼女なら火をつける術があるはず――。
「あ。すみません。今日は持ってきてないです」
 申し訳なさそうに言う彼女に、開拓者達はどうしようかと考え込み。
 続く沈黙。それを破ったのは、マックスの一声だった。
「あー。それなら……誰か、荒縄持ってないか?」
「はい。ここに」
「ちょっとそれ貰っていいかね」
 荷物から荒縄を出し、どうぞ、と差し出す雨鈴。
 それを受け取ったマックスは愛用の銃を持ち出すと、手慣れた動作で火薬を抜き、基部を荒縄に近づけ空撃ちを始め。
 カチッカチッという音が何度かした後、焦げたような匂いが立ち込める。
「……火、着いたわね」
「良かったです」
「ああ。これで何とかなるな」
 熾弦とヘラルディアの持つ松明に、荒縄から火を移して、マックスは安堵のため息を漏らす。
「さて、明かりはついたが……さすがに色眼鏡掛けてちゃァ仕事にならねェな」
 舌打ちして、眼鏡をずらしたアルバ。
 青々とした苔を身にまとい、その枝を天高く伸ばす木々。
 仄かに照らされた森は何だか不思議な感じで、この状況でなければ『美しい』と思えたかもしれないが――今の彼らにとって、それは障害でしかなく。
 が、季節柄、下草がほとんどないのが幸いして、足元は良く見渡すことができた。
「これなら、足跡が残っていそうだな。後はケモノが大人しくしていてくれることを祈るばかりだが……」
「……現状、まれにではあるが知恵を持つ獣も居る。気を抜かずに行くぞ」
 ラサースが身を屈めて、足元を確認する一方。依然表情を変えぬハイネル。
 短い言葉とその生真面目さが無愛想な印象を与える彼だが、今はそれに頼もしさを感じて。
 開拓者達は頷き、深い森へと突き進む。

 続く沈黙。
 来た道を迷わずに戻れるよう、ラサースは樹に白墨で印を描き、雨鈴は根元の地面に矢を突き立てる。
 彼らは、必要最低限のしか言葉を交わさなかった。
 森に棲むというケモノを刺激しない意味も勿論あったけれど。
 何か動く音や、ちょっとした変化も、見落とす訳にはいかなかったから。
 揺れる松明の火。何本目かになるそれを手に持ったまま超越聴覚を使う熾弦。
 もしかしたら、明りを見て反応した紗代君の反応を拾えるかもしれない――。
 そう考えた彼女は、耳を澄ませ、神経を集中する。
 一方。零次とアルバ、マックスとヘラルディアは地面を這うように凝視し続けていた。
 子どもが登れそうにない高い場所は避け、迷いこんでしまいそうな隙間や、足を取られそうな凹みと言った部分を重点的に探して行く。
 スキルという補助があるにせよ、基本は目視でしか探索できない以上、人海戦術になるのはやむを得ない。
 そして、ケモノが現れたらすぐに対応できるよう、ハイネルは周囲を警戒する。
 紗代を見つける前にケモノに出会い、諍いになるのはどうしても避けなければならない。
 何より探索で無防備になりがちな仲間達を、いざという時守れるように。
 そんなことを続けること数刻。幸い、ケモノに会うこともなく。
 そんな中、変化を見つけたのはマックスだった。
「……あれは、何だろうな」
「何かありましたか?」
「ああ、ほら。あそこだ」
 松明を持ってやってきたヘラルディアに、地面を指差す彼。
 斜面になっているそこに、不自然に地面が削られている部分があるのを見て取ったラサースは、バダドサイトを使い、遠視を試みる。
「……いるな。人と、大きな……ケモノだろうか、あれは」
「紗代! 大丈夫か!?」
 その言葉を聞くや否や、弾かれたように斜面を下りて行く零次。
「ちょっとー! 1人で行ったら危ないでしょー!」
 こうなっては静かにしている意味もない。零次を追う雨鈴。
 仲間達も急いで後に続く。
 駆け下りた先。そこには、地面にぐったりと横たわる赤い着物の少女と――。
「黒狗……」
 呻くような彼女の声。
 身の丈2mと言ったところか。巨大な黒い犬は、身じろぎもせず開拓者達を見つめる。
 向こうから仕掛けて来た場合でも、可能な限り攻撃せず、受け流すと決めていた。
 お互い一歩も動かず。続く睨み合いの中、弱々しい少女の声が響く。
「待って……お願い、その子を殺さないで……」
「紗代さん? 動いては……」
「その子、何もしてない。紗代をずっとみててくれたの……」
 少女が無理をせぬよう、声をかけたヘラルディア。
 それを遮るように続いた紗代の声に、零次が目を丸くする。
「は? ホントか? 大丈夫なんだな?」
「うん。だから、おねがい……」
「分かった、分かったから。静かにしてなきゃダメだぞ。ラサース、後頼んでいいか?」
「承知した」
 黒狗から目を反らさずに呟いた彼に頷いたラサース。
 ケモノが動く様子がないのを悟ると、素早く少女の元へ歩み寄り、抱え上げる。
「さ、こちらへ。手当をしましょうね」
「私も手伝うわ」
 2人がヘラルディアと雨鈴に導かれて行ったのを、止めるでもなく見つめる黒狗。
 そこに、盾のようにハイネルが立ち塞がる。
「引け、獣。不要な殺生をするのは好かん」
 ここで引かねば戦いも辞さぬ、と。
 静かな決意を漲らせる彼に、おー怖ェ、とアルバが肩を竦めて見せる。
「……紗代を見ててくれたンだってな。あんがとさん。怖ェ兄貴もいることだしよ、今日のとこはお家に帰ってくンねェかな……ってな感じのことも伝えて貰えるか?」
「分かったわ」
 それに頷き、心の旋律を奏でる熾弦。
 ――あなた達の縄張りへ踏み入ってしまってごめんなさい。私達はその子を連れ戻しに来ただけ。争う気はないの。
 そんな彼女の思いと、アルバの思いを込め、切々と。
 それを理解したのかまでは分からなかったが……黒狗はゆっくりと立ち上がると、踵を返し、森の中へ消えて行った。

●願い
 黒狗が立ち去った後。開拓者達は、紗代の介抱に当たっていた。
 足から出血し、食物を摂っていなかったせいもあり若干弱ってはいたが、ヘラルディアと雨鈴の治療と、ラサースが出した食事のお蔭で、幾分元気を取り戻していた。
「1人で怖かったろ? 助けに来るのが遅くなってごめんな」
 まず真っ先に頭を下げたのは零次。
 お兄ちゃん悪くないよー! と慌てる紗代に、雨鈴と熾弦が微笑む。
「それにしても、女の子1人でこんな暗い森に入るなんて……何かあったの?」
「お姉さん達に教えてくれないかしら」
「あのね、かかさまが病気なの。ずっと、ずっと寝てて苦しそうなの。ととさま達が、ここにくれば、かかさまの病気に効く薬があるって、話してたから……」
 優しいお姉ちゃん達の声に、素直に受け答える紗代。
「母親のためか……しかし、心配をかけてはいけないな」
「そうだぞ。お前の親父さん、そらもゥえらい心配してたんだぜ?」
 諭すようなラサースとアルバに少女はしゅーんとして、謝罪の言葉を口にする。
「でも紗代ね、どうしても薬草、探したくて……。ねえ、お姉ちゃん達、一緒に薬草探してくれない?」
「そうですね。でも……」
 開拓者達が一緒であれば、きっと薬草は見つけられる。ヘラルディアもそう思う。
 だが、それに耐えられるほど、紗代の体力は残っていないように見えた。
「薬草は逃げないよ。まずは身体を休めてはどうかな」
「まずはお父様に無事な姿を見せてから……ね?」
「えー……。紗代、大丈夫なのにー」
「心細かっただろうに、良く頑張ったな。さあ、一緒に父親の元へ帰ろう」
 マックスと雨鈴に言い含められて、ちょっと不満そうだった紗代だったが、ラサースに抱え上げられ、頬を染める。
 ハイネルも何か言葉をかけようと思ったらしいのだが……思いつかなかったらしい。
 無言で、紗代の頭をぽんぽん、と撫でた。

「黒狗が見ててくれた、か……」
 村に戻る道すがら、考え込む零次。
 真っ先に黒狗と対峙したが、あのケモノから敵意は感じなかった。
 黒狗が何故、紗代を守るような行動を取ったのかまでは分からなかったが……。
 ハイネルの言うように、ある程度の知恵を持ち合わせているのかもしれない。
「薬草を探しに来るなら、また会うことになるかもしれないわね……」
 今度は敵にならないことを祈るわ……と。雨鈴は淡々と呟いた。

「何とお礼を申し上げたらいいか……」
 開拓者ギルドで1人待っていた佐平次。
 紗代を引き渡すと、嬉しさのあまり涙を浮かべ、開拓者達に何度も何度も頭を下げた。
「もーいーって。紗代もあんま親父さんを心配させてやるなよ」
 気恥ずかしくなったのか、横を向いたままひらひらと手を振るアルバに、仲間達から笑いが漏れ……。
「あ、お姉ちゃん達、紗代との約束忘れないでよね」
 そして、念を押すような少女の言葉に、開拓者達は強く頷いた。

 こうして、開拓者達の活躍により少女は無事救出された。
 そして、少女の抱える切なる願いを叶えるのは、また別な話。
 開拓者達の手に委ねられることとなる――。