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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。 最近それに関する依頼が立て続いているが、本来落とすほうが珍しいはずの星の一欠片を、依頼に入った開拓者たちは全て手に入れている。これは奇跡的な数字である。 これが単なるラッキーや偶然なのか……それとも何かを示唆しているのかは謎のヴェールに包まれたまま――― 「最初に言っておく! 薔薇はまーるーで、関係ない!」 「誰に言ってんのよ……」 「いや、とりあえず言っておかないといけないかなって。というわけで今回はいよいよ黄道十二星座の一つ、魚座、ピスケスの出陣となったようですよ」 開拓者ギルド職員、鷲尾 亜理紗と西沢 一葉。星の一欠片関連を一手に任されている二人組である。 しかしどうも一葉の反応が思わしくない。眉をひそめ、首を傾げるように呟いた。 「なんかねぇ……黄道十二星座っていうとやっぱり最後で順々に戦うイメージがあるのよ。それがこんな早期に出てきちゃう?」 「88のうち12ですよ? 確率で言えば7分の1ちょっとじゃないですか。……それに最後にまとめてだと、途中で打ち切りになっちゃった時にうわなにをするやめr」 よくわからないことを言う亜理紗を一葉が黙らせ、とりあえず依頼書を確認する。 やはりというか流石に黄道十二星座は格が違うのか、人語を解する美しい人魚の姿であるという。 三位湖のほとりに現れ、優雅に泳いでいるらしいのだが、やはりそこはアヤカシ。直接人を喰ったりはしないものの、近づいた旅人や開拓者たちを攻撃し命を奪った事案もあるようだ。 「人魚とあって、湖の中にいることが多いみたいですね。当然、岸に上がることは滅多にありません」 「黄道十二星座のアヤカシは今回初めて確認されたから、メダルが出れば世界にたった一枚の希少品ね。取れれば、だけど」 「これらも充分希少品ですけどね」 と言って、亜理紗は今まで開拓者が集めてきた星の一欠片を取り出してみせる。 どうやら開拓者ギルドで預っているらしい。一葉が拾った馭者座も含め、8枚の黄金のメダルが静かに輝いていた。 「ちなみに、どうも魅了の能力があるらしいです。男女問わず有効なようなので、お気をつけください」 ついに現れた黄道十二星座のアヤカシ。美しき人魚の姿をとる魚座ピスケスである。ピスキスでもパイシーズでもないので注意されたし。 星の一欠片始まって以来の水辺・水中戦が始まる――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●極めたる美は 「まて、人魚が女だと言う情報はどこにも無い!」 『な、なんだってーーー!!』 「……いや、最近私をそういうキャラに仕立てあげようとしていないかお前ら」 何 静花(ib9584)がやけに迫真な顔でいった仮説に、他の開拓者たちもオーバーリアクションで応える。 言った何も他のメンバーも冗談と分かってはいるのだが、打てば響くというかなんというか。 ここは集星、三位湖付近。作戦自体はすでに決めてあるので、あとは実行に移すのみ。 「解けない様に頑丈な亀甲縛りにしておきましょう。これで例え天井から吊るされても大丈夫です、問題ありません(キリッ)」 「問題大有りだァ! そんな縛り方されてたらロクロク戦えねェだろーが!」 各務 英流(ib6372)が大真面目な顔で、荒縄を手に鷲尾天斗(ia0371)にじり寄っていた。 鷲尾は囮役として最もピスケスに近づかなければならない手前、命綱は必須となる。そのため各務の行動は全体的には間違っていないのだが、個人的な恨みが混じっているので正解とは言えないだろう。 「亀甲縛りって何ー? どんな縛り方?」 「う……き、きみがもう少し大きくなったらわかるよ、きっと」 「ぶー。今知りたいのにー」 「それより、やっぱり既婚者を魅了の囮にするというのは少々気まずいですね……」 術の威力は凄くともまだまだ子供なリィムナ・ピサレット(ib5201)。どうやら聞きなれない単語に興味を示したらしい。 話を振られた真亡・雫(ia0432)は目を逸らしつつその場を誤魔化す。 まぁ妥当なリアクションであろう。10歳の子供にペラペラと亀甲縛りがどうとか教えるような人間がいたらそれこそ顰蹙ものだ。 やがて、一行は三位湖に到着する。打ち合わせ通り、鷲尾とリィムナだけで湖付近を歩かせ、他の面々は草むらなどに身を隠しつつ二人の安全確保と奇襲を画策する。 「ねーねーお兄ちゃん、聞いてー! 新しい曲覚えたのー!」 「おォそうかそうか。お兄ちゃんでよければいくらでも聞いてやるぞォ」 「……鷲尾さん、鼻の下伸びてるんだけど」 「はっ、いかんいかん。つい本性がっ!」 「奥さん大丈夫なのかなー。まぁいいや、続けるよ。それじゃ歩きながらでいいから聞いててねー♪」 途中小声でやりとりしながらも、二人は作戦通り兄妹を装う。 リィムナの奏でるフルートは耳に心地よく、のどかな三位湖の風景も相まって非常に爽やかだった。 軽やかなリズム。それでいてそよぐような優しい雰囲気。鷲尾はお世辞抜きで素晴らしい演奏だと感じたようだ。 と。その旋律の中に、かすかに鼻歌のようなものが混じっていることに二人は気づく。 しかし急に止めると不自然なので、その鼻歌がある程度近づくのを待っていた。 もう少し。あと少し。やがて鼻歌の主は、湖の中から姿を現した! 鷲尾は勿論、リィムナでさえその姿には息を呑んだ。 水に浸かっていたとは思えない、長く美しい金髪。湖の色よりなお美しい碧眼。貝殻を下着のようにして隠された胸は大きすぎず小さすぎず抜群のバランスを取り、美しいクビレの曲線はキュッと引き締まりつつ柔らかさを確信させる。 それはまさに芸術とも呼べる神話の産物。人魚と呼ばれる絶世の美少女がそこにいた。 鷲尾は言葉を失くし、リィムナは思わず演奏を止めた。それほど彼女の美は衝撃的だったのだ。 水面から半身を出した状態の人魚……ピスケスはたおやかに微笑み……そして言葉を紡ぐ。 涼やかでよく通る美しい声で――― 「あんれぇ、笛止めつまうべか? オラもっと聞きてぇだす!」 あまりに不釣り合いな、方言丸出しの言葉を――― 「何話してるんだろうな?」 「さぁ……でも、なかなか美しいですわね……」 「うーむ。流石の私もあれには心動かされるなぁ」 遠くから見ているだけの何や各務でさえ認識できるその美しさ。彼女たちにはピスケスのセリフまでは聞こえていないのが幸か不幸か。 「……お前がピスケスか」 「そんだぁ。おめぇさんたつ開拓者け? ほったら陸の話さ聞かせてけろー」 「なにこのいきものかわいい」 「やんだー、可愛いなんてば上手ぇんだからー!」 赤くなり恥じらう姿も絵になるピスケス。 事ここに至っても、二人は自分がすでに魅了されていることに気付けない。 男女問わない圧倒的な魅了の能力。それは彼女を見ただけで発動し余程の抵抗力がなければ防げない。 だから…… 「……綺麗だ……」 文字通り心奪われ、真亡も茂みから姿を現しふらふらと鷲尾たちに合流してしまう。 続けて何と各務もそれに続き、5人全員がピスケスと相対する形となる。 「すべては敬愛すべきあなたのために!」 「あぁっ、駄目です! 私にはお姉様という人が!」 「そんな、オラなんて尊敬されるようなモンでねぇだよー! むしろ、オラのほうがお姉さまて甘えてぇだぁ」 「わ……私が、お姉様……!? 新しい何かに目覚めてしまいそうですわ……!」 この圧倒的な魅力は何なのか。その源が何なのか、一行は直感的に理解していた。 おそらくピスケスには、醜いところが何もないのだ。身体的にも精神的にも。 ただただ美しい。ただただ純粋。だから、理由なしに心惹かれてしまう。 沈む夕日の美しさに理由を求める者がいるだろうか? 抜けるような雲一つ無い青空に、何故美しいと思う者がいるだろうか? 要はそれに近しい。 「よかったら教えてくれねェかなァ。この集星で発生するアヤカシたちだけが持つ、星の一欠片ってのは何なんだ?」 「何ってそらおめ、星の力だべよ」 真面目な顔で聞いた鷲尾の言葉に、ピスケスはさらっと即答した。 「オラたつアヤカスにとって、星の力は毒にも薬にもなんだぁ。自分で取り込めばその力を得て強力なアヤカスさなるす、逆におめらがその力を手に入れつまったら簡単にやられつまう。ここは星の力がすんげぇ集まり易いとこだす。人に星の力を渡さないようにすっためにオラたつが先に手さ回すて星の力さ取り込んで、封ずたモンがそのメダルだよぉ」 醜いところが全くない。それは疑心もなく、謀ることも念頭にないということ。 だから答えてしまう。本当ならバラしてはいけないこともあっさりと。 「つまり、別に無理に人さ殺さんでもオラは魚座のメダルさえ守ってればそれで使命さまっとうできるのよー。な、だからオラと遊んでけれー」 「っ……! じゃあ、なんで……」 ふっとあることに気づき、リィムナはフルートを構え安らぎの子守唄を発動する。 まるで予め計画されていたかのように、今回の参加者は5人。そして安らぎの子守唄の対象も5人まで……! 響き渡る安らかな曲が、半ば呆けている全員を覚醒させた! 「死人が出てるのよ!」 「え? え?」 「う……まだくらくらするけれど……そうだ、きみは確かに人の命を奪っている! それを許しておく訳にはいかない!」 「そのとおりだ! まったく、なんでしっかりと記憶に残るんだ。この私がアヤカシを敬愛だとぉ!? こんのジュゴンめ!」 刀を向ける真亡。拳を向ける何。開拓者たちの表情に、ピスケスは裏表なく狼狽える。 どうして自分に敵意が向けられているのか全くわかっていない。そんな顔だ。 涙さえ流して、ピスケスは弱々しく反論する。 「だ、だってさ……人間さんたつ、オラの事さ見ると眼の色変えて襲いかかってくんだもんよ。オラ、怖くて怖くて……。おめさんたちはそんな感ずがすねから安心すてただすー!」 その言葉を聞いて、真亡ははっとする。 先ほど自分は、綺麗だと口走り半分心を奪わていた。その時、彼女が欲しいと考えていたことに気がついたのだ。 それが、自分たちより耐性の低い者であったならどうなるか。 そして、この純粋すぎるピスケスがどうやって負の感情を瘴気に還すのか。 美しいものを嫌いな人間などいない。汚れのない人魚を欲しい欲しいと求める欲望と言う名の負の感情を掻き立て、無意識のうちに人間を惑わし瘴気を増やす。それが美しき魚座ピスケスであると、真亡は確信した。 「……問題は、彼女自身に罪の意識も罪を犯す気も無いこと。彼女はただ、襲われたから振りかかる火の粉を払ったにすぎないんです。その結果、人が死んだだけ……」 「美しさは罪ってかァ? そんなモンを地で行く奴がいるとはよ……」 やれやれと肩をすくめる鷲尾。 そこにいるだけで居るだけで人の欲望を掻き立て、負の感情を生むのではもはや天災のようなものではないか。 存在する限り甘い毒を振りまく人魚。例え罪がなかろうが――― 「……やっぱり、私はお姉様一筋ですわ。あなたからお姉様と呼ばれるのはお断りします」 「そ、そんなぁ! おめたつもオラのことさいずめるべか!?」 「ごめんなさい……と謝るのも偽善くさいね。悪いけどきみを野放しにはできない。きみは、美しすぎる」 美しい財宝や女性が人の心を狂わすように、ピスケスは人を無意識に狂わせる。 これ以上の被害者を出さないため。これ以上ピスケスに罪を重ねさせないために、真亡は彼女に向かって駆け出した。 「やんだよー!」 勿論、黙って斬られるピスケスではない。湖に潜って姿を隠そうとしたその時! 「悪いな。今回は活躍させてもらうぞ」 「っ!?」 瞬脚を使用した何がピスケスのすぐ後ろまで移動しており、瞬時にピスケスの身体に荒縄を巻きつけた。 しかしそれは、どこかで見たような…… 「……ここの所、横道十二星座のとかメダル集めとか段々割とどうでも良くなってきた感がある」 「そんなら見逃すてー!」 「しっかり持って帰るけどな! カリツォー!」 「うわあーーーっ!」 掛け声とともに爆砕拳を使用し、ピスケスを陸の方へ殴り飛ばす。顔を狙わなかったのはせめてもの情けか。 が。 「う! な、なにぃ……! ぐあぁーーーっ!」 何がピスケスに巻きつけた荒縄は、鷲尾に括りつけられていた命綱だったのだ。 ピスケスが勢い良く吹っ飛んだせいで鷲尾も巻き込まれ宙を舞う。 そして…… 「がはぁっ!」 何故か頭から地面に激突した。首の骨が折れないか心配である。 「何さんグッジョブです。色んな意味で!」 「逝け、魚座。ロリコンと共に……」 「ど……どこが氷の輪なんだよ……! ただの爆砕拳じゃあねーか……!」 「チッ、しぶとい。止めを刺しておきませんと」 「こらこらー! そういうのは後にしなさい後にー!」 「……後ならいいんだ……」 ツッコミを入れるリィムナに対し、真亡は苦笑いしつつもツッコまない。 こうやって馬鹿をやれる=全員が平常心でいられているのには訳がある。 一度魅了が解除された後、リィムナは続けて天使の影絵踏みを演奏し全員の抵抗力を上げたのだ。 それでも運が悪ければ再び魅了されるレベルだったのだが、幸い全員無事抵抗できた。後は念のためリィムナには演奏を続けてもらうしかない。 万が一彼女が再び魅了されるようなことがあれば、全員ピスケスに骨抜き状態に逆戻りである。 が……おそらくそんな心配はなかろう。 「あ……!」 「…………」 陸に打ち上げられてしまった魚座はもはやろくに動けない。岸辺の砂を全身にまぶし、もがくことしかできない。 そこに真亡がゆっくりと近づき、悲しそうに彼女を見下ろす。 「……ごめん、ってまた謝っちゃった。ええと、その……きみは、素敵だ。でもその美しさは危険過ぎる。そのせいで、酷い目に遭うかもしれない」 「もう遭ってるだよぉ……!」 「もっとだよ。口にだすのもおぞましいような目に遭うかもしれないんだ。きみは自分の魅力と危険性を自覚しないと駄目だよ」 「……オラに、死ねって?」 「そうした方が幸せなこともあるかもしれない。確証はないけれど」 ピスケスは美しい。美しいからこそ、真亡はこれ以上彼女に傷ついて欲しくなかった。 だから、できるだけ優しい声で。優しい瞳で意思を伝える。 何度でも言おう。ピスケスは美しい。だからこそ……美しい死を選べる。 「……わかった。優すくすてくんろ」 「うん……できるだけ」 真亡は素手で白梅香を発動し、静かにピスケスの胸に手を置いた。 その部分の瘴気が浄化され、やがてピスケスの全身に広がっていく……。 「……オラ、どうせならもっと普通のアヤカスに生まれたかっただぁよ……」 「そう? 僕は、普通の女の子の君に出会いたかったかな」 「あは……そら、いい……べ、なぁ―――」 梅の香りを残してピスケスは消滅し……魚座のメダルだけが真亡の手に残された。 多少流れは違ったが、無事に作戦通りピスケスを撃破した一行。しかし、ほろ苦さが残り素直には喜べなかった――― が。 「なんだよォ! さっきの役、俺じゃ駄目だったかァ!? このラッキースケベ!」 「な、何がですか!?」 「絶世の美少女の胸触っただろォが羨ましい! どうだ、柔らかかったか!?」 「そ、そりゃ、張りがあって弾力があって……って何を言わせるんです! そんなんじゃありません! だいたい、天斗さんは既婚者でしょう!?」 「はっ!」 真っ赤になって反論する真亡。浴びせられた言葉に、鷲尾は冷たい視線を察知する。 振り返るとそこには、口の端を大きく歪ませ、まるで笑うピエロの仮面のような顔をした何と各務が―――! 「羨ましいぃぃぃ?」 「俺じゃ駄目だったかぁぁぁ?」 「しまったァァァ! 違う、そういう意味で申し上げたのではない! 俺ァ家に帰れば亜理紗の胸を好きなだけ―――」 「魚ぉぉぉぉぉっ! それ以上は許しませんわよぉぉぉぉぉっ!」 「惚気だな!? 惚気たな!? よろしい、ならば戦争だ!」 「なんでだーーー!?」 ほろ苦い空気を払しょくするかのように始められたいつものやり取り。魚座のメダルは、それを喜ぶかのように仄かに煌めいた。 「あーあ、いい話で終わると思ったのに。でも……」 演奏で一行を助けた殊勲者、リィムナ。演奏から解放され、他の四人を眺めつつ微笑んだ。 「星の一欠片は、こういう雰囲気でいいのかもねっ!」 その笑顔は、ピスケスに勝るとも劣らないくらい魅力的であったという――― |