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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― カミーユ・ギンサ。それは特殊な兵装を使用する、女性開拓者の名前である。 財を成した商家の娘であり、何不自由なく育ち、一般人として結婚し幸せな家庭を築くという選択肢もあった彼女であったが、自由を守りたいという動機から開拓者となり、戦う道を選んだ。 未熟な腕を磨く日々。そして、人と戦う……ひいては殺す覚悟。いずれは避けて通れない試練にぶち当たった時、カミーユは気づいてしまったのだ。 『あの人に認められたい。あの人に近づきたい。あの人に……愛して欲しい』 自由を守るためというお題目を掲げてはいたものの、その実自分の欲望のために動いていた。それを口実に人の命を奪おうとした。 なんて偽善。なんという独善。それを自覚してしまったカミーユは、依頼をこなしながらもだんだんと塞ぎこむようになっていったのだった。 「……フライハルトが使えなくなった?」 「……はい。今まで当たり前のように使えていたのに……急に、どう動かせばいいのかわからなくなってしまって……」 カミーユの友人でありギルド職員の西沢 一葉は、カミーユの不調を見抜きちょくちょくケアをしに彼女の家を訪ねていた。 フライハルトとは、カミーユが使う例の特殊兵装。パズルのように組み換えて様々な形態をとる、『自由』の武装。 カミーユは特殊な才能で、それをあっという間に変形・分離をさせることができた。しかし今はそれができないという。 理由は明白。精神的なものからだろう。 事情を知るだけに、一葉は安易に頑張れとか落ち込むなとは言えなかった。 解決策はある。しかしそれには大きなリスクも伴い、ともすればさらにカミーユを落ち込ませ今度は家から出ることすらしなくなってしまうかもしれない。 一葉はふと、ギルド職員の後輩のことを思い出す。 あの真っ直ぐさ。あの運命の出会いを羨ましく思う。それでも……やはりカミーユは、踏み出さねばならない。 「……ねぇカミーユ。やっぱり答えを貰わないとダメよ」 「で、でも……わたくし、恐いんです。断られることよりも……断られてしまった後のことが。断られた後、どのような顔であの方と接すればいいのかわかりません。どんな言葉を交わせばいいのか……ましてや、自分が諦めきれるのかどうか。自分がどうなってしまうのか分からなくて……恐いんです……!」 げに恐ろしきは恋心。告白してその恋が成就すれば万々歳だが、そうでなかった時は? 可愛さ余って憎さ百倍となるのか。諦めきれず、ずるずると不毛に思いを重ねるのか。 箱入り娘のカミーユには、そういった時の感情の処理の仕方がわからない。一途であるが故、純朴であるが故に、残念でしたとさらっと諦めることができないのである。 しかし、一葉は『友人』だった。時には厳しく、ピシャリと言い放つ。 「あなたは想いを告げるという自由を選択した。なら、その結果をきちんと受け止める責任があるでしょ。自由っていうものには常に責任がつきまとう。責任を取らない自由はただの自分勝手よ」 「…………厳しいですのね」 「慰めて欲しいなら他の人をあたって、どうぞ。私はあなたが立ち直れる方法を考えて、それを告げただけ」 「……友人だから?」 「そ。友達だからこそね」 一葉の笑顔を見て、カミーユは本当に久しぶりに……くすりとだが笑った。 自由の騎士が、自分勝手の騎士になっては困る。自らの責任は自分にしか精算できないのだ。 だから、ようやく決意する。返事を貰おうと……。 「ちなみに、依頼を一つ持ってきてるの。星の一欠片って知ってる?」 「はい。伺ったことはあります」 「その星の一欠片を落とす星座アヤカシの一匹、画架座ピクトルを退治する依頼ね」 「画架座……また随分とタイムリーですわね……」 「まぁねー。このアヤカシは手が二本ある、四本足の動く画架に白いカンバスが乗ってる姿をしてるの。で、通常攻撃では絶対に死なない。専門家の意見では、乗っかってるカンバスに何かをかき込めば死ぬんじゃないかって言われてるわ」 「そんな曖昧な……。何かって何をかけばよろしいんですの?」 「それは現地で頑張って調べて頂戴。これはお仕事よ。やるからには私情は後回しにしてきっちりやってもらうけど大丈夫?」 「……はい。折角一葉さんが持ってきてくださったのですから、必死に頑張りますわ」 自由であるということは、自由であるように呪われていることである。誰かがそんなことを言っていたらしい。 人が人である限り、その呪いから解き放たれないというのであれば……せめてその責任は全うしたいものである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
スチール(ic0202)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●心のままに 「愛とは諦めた瞬間終わるもの! 今振られようとも! 最終的に勝てば良かろうなのですわ! そう……最終的にお姉様が私の隣に居れば、私の勝利ですのよ!」 接敵する前の僅かな時間、伏し目がちなカミーユに各務 英流(ib6372)が声をかけていた。 いいことを言っているような気がするが、各務の想い人は女性なのであまり参考にならないかもしれない。 「カミーユさん、貴方もこう考えてみては如何かしら……『恋敵さえ居なくなれば万事解決』と」 「そ……そうですわよね……恋敵さえ、いなくなれば……」 各務の言葉に、すぅっとカミーユの瞳からハイライトが消えていく――― 「ちょぉっと待ったぁぁぁ! ダメ、ダメだってばカミーユ! 気をしっかり持つんだよー!?」 「バーロー! 素直で人を信じやすいこいつに妙なこと吹き込むんじゃねェ!」 アムルタート(ib6632)にガクガクと揺すられるが、カミーユはトリップしたまま、まだ戻ってこない。 グーで各務の頭を小突いたのは鷲尾天斗(ia0371)。どちらもカミーユとは縁のある友人である。 「うふふふふ……そうですわよね……わたくしには、頑張る自由も―――」 「センチメンタルやってんじゃないよ!」 背後からカミーユを蹴り飛ばし、地面に突っ伏させたのは何 静花(ib9584)。華麗に着地し腕組みをしながら呟いた。 「私はああいうの(色恋沙汰)は苦手だ……。だが病的なのはもっと苦手だ!」 「久々にグッジョブだと思います。立てますか、カミーユさん」 「……しかしまぁ、あのお嬢さんが立派になったと思いきやこれか。心の傷は流石に私と鎧でも守れない」 どうやら今のショックで流石に正気に戻ったらしい。緋乃宮 白月(ib9855)に手を貸してもらい立ち上がったカミーユは、わりといつものカミーユであった。 カミーユの対人特訓に付き合ってくれたこともあるスチール(ic0202)も、色恋沙汰に揺れる乙女心のフォローは難しいと肩を竦めたのだった。 そんな一同を少し離れたところで眺めているのは、真亡・雫(ia0432)と雪切・透夜(ib0135)。 「……さて、皆がやれることをやれるよう頑張らないとね」 「そうだね。まずはアヤカシ退治が最優先だから」 カミーユを見つめる雪切の優しい視線は、すぐに戦いのための鋭い視線に切り替わった。 森の中をてくてくと歩いてくる四本足で腕が生えた画架。そしてそれに乗った真っ白なカンバス。 他のメンバーも目標の接近に気づき、戦闘態勢を取る。 「あ、その……少々お時間をくださいまし」 慌ててフライハルトを変形させようとするカミーユであったが、やはり上手くいかない。 「慌てなくていいですよ。ゆっくり参戦してください」 「カミーユ、君には色々足りないが、何よりも覚悟が足りない! そう、色んな覚悟! だから頑張れ!」 緋乃宮とアムルタートから暖かい言葉をもらうが、それが返ってカミーユを焦らせた。 ダメなのに。足を引っ張ってはダメなのに……! しかし、そんな逡巡は戦場において邪魔でしかない。 焦れば焦るほど、フライハルトも恋のパズルも絡み合いこんがらがっていく。 しかし優先されるべきはカミーユではない。アヤカシ退治だ。 特殊な耐性を持つ星座アヤカシ……画架座ピクトル。まずは動きを封じなければ撃破の青写真も描けない――― ●軌跡を画け 画架座ピクトルは、前情報通りの強さであった。即ち、弱くもないが強くもない。 スピードもパワーも開拓者たちのほうが圧倒的に優位なのは誰の目にも明らかであったが、やはりダメージすら受けない不死身の耐性は厄介である。 それともう一つ……画架座最大にして唯一の技、カンバスカッター。これが予想以上に恐い。 「来ます! 避けて!」 真亡が戦慄しながら周りに注意を促すと、画架座はあからさまな動きでカンバスを手に取りぶん投げる。 カンバスというからにはやはり厚みがあり、物を切断できるようには到底見えない。しかしそれは、長い年月を生きてきたであろう太い樹木をあっさりと両断しなぎ倒す程の切れ味を見せていた。 「……あれ、受け止められます?」 「とてもではないが無理だ」 緋乃宮とスチールのやりとりからも明らかだが、飛来するアレに組み付いて……とか武器で打ち落として……というのは推奨できない。 本体と繋がっている状態のカンバスに何かをかき込まないと死なない画架座。あまりヒュンヒュン飛ばされると、辺りの自然環境にもよろしくないだろう。 「このままじゃこの辺りの木がなくなってしまう……。上手く機能してくれるといいんだけど……!」 真亡はすがるような気持ちで彫刻室座のメダルを発動させる。 すると周囲に真っ白な板状の物が無数に現れ、およそ20平方メートルほどの空間で一同を閉じ込めた。 「やった! やってみるものですね」 願った通りの効果が出て思わず拳を握る真亡。しかし次の瞬間、自分が疲労で立てないことに気づく……! 「……こ、この白い板……もしかして、僕の錬力や気力で……!?」 やはりこんな大掛かりな効果にはリスクも伴うのか。閉鎖空間を作ったことで、真亡は一人でろくろく歩くことすらできない状態に陥ってしまったのだった。 「だいじょぶだいじょぶー♪ 私に任せて〜♪」 「皆さん、真亡さんの救護を」 ぽんと真亡の肩を叩き、アムルタートと緋乃宮が前に躍り出る。 アムルタートが選んだのは馭者座。発動させた直後、彼女の足に小さなエネルギー体の車輪のような物が出現する。 一方、緋乃宮はが選んだのは山猫座。 猫の獣人が山猫座のメダルを使うとどうなるのか? 緋乃宮自身も興味があったようだが、結果は…… 「おぉぉぉぉぉ!? このメダル凄いよー♪」 アムルタートが念じたままに加速や減速をする車輪。まるで氷上を滑っているかのように、アムルタートは地面をすいすい進みくるくる回る。 「……凄いんですが……凄くないです。困ります」 見ると、先ほどまで緋乃宮がいた場所に、可愛らしい真っ白な子猫が。 つまり緋乃宮は山猫座の力で完全な猫になってしまい、喋る事こそできるが技が一切使えない。こういうマイナス効果も出るかもしれないと恐れられていたが、実戦の最中起きると辛い。 「まったくもう、世話が焼けますわね!」 「気が乗らないが使うしか無いか。ノウマク、サラバタタギャテイビャク……」 各務と何が真亡と緋乃宮のフォローに入り、メダルの力を解放する。 各務はイルカ座、何はテーブル山座。状況をひっくり返せるとよかったのだが…… 「……変化ありませんわね。何さんの方は?」 「……テーブル山だ」 「はい?」 自身のメダルが現状で役に立たなそうな能力であると判断した各務は、何の方に期待を寄せた。しかし何は明後日の方向を見つめてボソリと呟くだけ。 その視線の先には……先ほどまではなかったはずの、どこにでもありそうなテーブルが一脚。 「………………テーブルさん?」 「うぉぉぉぉぉ! この、クソメダルが! クソックソ!!」 掘削作業のトラウマは回避できたが、戦闘中に何の変哲もないテーブルが出てきたからなんだというのか。 何は思わずメダルを地面に叩きつけて地団駄を踏んだ。 「危ない!」 雪切の声で我に返った何と各務。二人めがけてカンバスカッターが襲い掛かる! 間一髪のところで緋乃宮と真亡を抱きかかえて避ける二人。カンバスカッターはそのまま慣性の法則を無視してブーメランのように舞い戻り、本体と合体する。 「くっそー! こうなったら……兄ロリ、例の作戦で行こう!」 「そりゃ構わねェが……チェーンが切断されちまったら元に戻んなくなったりしねェだろうなァ?」 鷲尾が使っているアンドロメダ座の効果は、所持している武器を分割しその間を伸縮自在の錬力でできたチェーンで繋ぐこと。一見壊れたようにも見えるが、くっつければきちんと元に戻る。 が、それはチェーンで繋がっていればの話。星座の力、チェーンを失えば分割した武器は…… 「わたくしがフライハルトで回転を弱めます。その隙に、鷲尾さんはメダルの力で捕縛を!」 「あれ? フライハルト、まだ盾形態のまんま?」 「上手く変形できないので、いっそ盾のまま有効活用しようと思います」 「ハッ、そいつは思い切ったな。嫌いじゃァない。そんじゃ一丁やりますかァ!」 変形できる武器を変形されるのは自由だが、変形させないのもまた自由。 馬鹿の一つ覚えのようにカンバスカッターを飛ばしてくる画架座に対し、カミーユとスチールが立ちはだかる! 「スチールさん!? あなたの盾では……」 「わかっている。だから私の盾はお前の盾の裏から支える。騎士の先輩を舐めるなよ」 「はいっ!」 カミーユのフライハルトには強化の宝珠が14個も使用されており、その耐久力は変形などをするくせに極悪に高い。変形しない普通の武器よりも遥かに高く、生半可な攻撃では傷ひとつ付かないのだ。 飛来するカンバスカッター。冗談みたいな見かけと違い、触れれば全てを切り裂く恐ろしさがそこにある! しかし真正面に立ったカミーユとスチールは、盾を重ねあわせそれを真っ向から受け止めた! ギャリギャリと耳障りな音を立てるカンバスとフライハルト。一人なら吹き飛ばされてしまいそうなこのぶつかり合いも、スチールが支えてくれる。負ける理由などない! 「カミーユ、こっち飛ばして!」 馭者座の車輪で地面を滑ってきたアムルタート。その言葉に、カミーユたちはカンバスの進行方向をアムルタートの方へと変更させた。 大分弱まったとはいえ、人を切断するくらいわけはないだろう。アムルタートは迫り来るそれを華麗なステップで迎え、馭者座の車輪で蹴り飛ばし更に方向転換、鷲尾の方へ流す。 ただ蹴っただけではない。カンバスと車輪がぶつかった瞬間、車輪を逆回転させて地味に回転を弱めていた! 「ここまでお膳立てされたら頑張らないわけにゃァいかないぜ。堪えろよ、アンドロメダチェーン!」 エネルギー体の鎖がカンバスを捉え、その回転を止め切断能力を殺す。 画架座は慌ててカンバスを戻そうとするが、時すでに遅し。 「チェックメイト。生きのいい画架というのは初めてだけど、ね」 アヘッドブレイクで画架座の背後まで一気に移動した雪切。 画架座は逃げようにも真亡が創りだした彫刻室空間に阻まれそれができない。 雪切の手には、太く頑丈な荒縄が握られている――― ●画かれたもの 画架座の本体及びカンバスを捕獲し、太い樹木に厳重に括りつけた開拓者たち。すでに画架座は動くこともままならず、カンバスを切り離すこともできない。 後は『何をかけば死ぬか』である。 「愛を知らない悲しいアヤカシ。私の愛の力で遥かな眠りの旅を一筆奏上ですわ」 筆で大きく『愛』と書き込んだのは各務。すると画架座は苦しそうに体をよじろうとするが、完璧に拘束されていて思うように動けない。 とりあえず書かれた文字は5分ほどですぅっと消えてしまった。どうやら文字類は苦手なようだが死にまでは至らないらしい。 その後も水墨画であったりアートっぽいものであったりと絵を描いてみるが、どうやら通用していない様子。 ならばやはり餅は餅屋。頼りになるのは絵心を知る者……その名は雪切透夜。 「破壊不可の敵。それなら絵では?」 人間の言葉を理解しない知能の低いアヤカシ。しかしそれ故に本能で危険を察知したらしい。 カンバスは絵を描くための物。画架はそれを支えるもの。その有り様が絵で破壊されたなら。 数分後……真っ白だったカンバスには、陰影で上手く描かれた『破れたカンバスに見える絵』が刻まれた。 雪切が筆を置くと同時に画架座は激しく痙攣し、絵から破れが広がるようにして崩壊、黄金のメダルを一枚残し、瘴気へと還っていったのだった。 ネタが割れてしまえばなんだそんなことと言った具合だが、流石は絵描き。雪切の発想は大したものである。 さて……アヤカシを無事撃破した一行は、雪切とカミーユだけが少し離れたところで話をするというのでその場で待機していた。 カミーユはまだまだ伏目がち。しかし意を決して雪切の目を真っ直ぐ見た。 「……お返事……いただけますか?」 「……はい。僕には愛した女性がいます。ですので、カミーユさんとのお付き合いは出来ません」 優しく。それでもきっぱりと、雪切はカミーユの想いを受け入れられないと宣言した。 カミーユは動揺し、所在無さげに胸の前で手を組む。 雪切はそんなカミーユに近づき、『でもね』と付け加えながら抱き寄せた。 「僕を好きだと思ってくれた事は、本当に嬉しいのですよ。あの故国で僕を必要としてくれた人は、唯一の友達だけでしたもの。向けて頂いた気持ちは、とても大切なものです」 「でも、わたくし……それを理由に、人を傷つけようとしました。命を奪おうとしました。そんな、汚れた想い……」 「カミーユさんは自身をしっかりと省みていました。痛みを伴って認める事は、決して容易ではないのですよ……。顔を上げて、胸を張ってください。卑下することなんて何一つない。貴女は、勇気のある女性です」 「うぅ……雪切、さん……!」 「透夜、だよ。名前で呼ばれる方が性に合ってる。カミーユは……どうかな?」 涙伝う頬を優しく撫でる雪切。カミーユは未だに心の整理がつかないが、抱きしめられた雪切の胸から心臓の音が聞こえることに気づき、ゆっくりと落ち着いていった。 「……透夜、さん。やっぱり、あなたは優しい人です。そして、とても酷い人……」 「そ、そうかな……」 「……愛人でも……などと言い出すのはみっともないですわね。真摯に受け止めてくださって……そして、しっかりと拒否してくださってありがとうございました。これからも、良き友人であり良き先達であってください」 「うん。僕に出来うる限りで」 そう言って、雪切はカミーユの元を離れた。 入れ替わりにやってきたアムルタートと鷲尾は、カミーユの雰囲気で彼女がフラれたことを察する。 「もー、ひっどいんだから! フッたのに抱きしめるとか残酷すぎだよ!」 「止せよお子ちゃま。大人の恋ってのにはなァ、理屈じゃねェこともあんのさ」 「ぶーぶー! ねぇ、大丈夫? カミーユ?」 雪切の背中を見送り、アムルタートたちをみつめていたカミーユの瞳から涙がこぼれ落ちる。その喉から出るのは、悲しみの嗚咽だった。 「わたくし……本当にあの方が好きでした……! でも、あの人やそのお相手を憎むこともできなくて……! 明日にはいつものわたくしに戻りますから……今は……今だけは……!」 「……うん。泣いていいよ。カミーユ……」 「うぅ……うわぁぁぁぁぁ……!」 年下のアムルタートに抱きしめられ、カミーユは暫くの間涙を落とし続けていた――― |