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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 星座アヤカシを打ち倒し続け、人類はついに星の一欠片の実用化に成功した。 行動力と気力を消費することで発動するこのメダル。効果は様々だが、人により効果が違う上に不確定というのはやはり恐い。実際、マイナス面の効果も出始めている。 使える場所も、石鏡の国の一部、集星と呼ばれる地域内に限られているのが痛い。実験も現地に行かなければならないわけだ。 「はい亜理紗、質問です。『子供はどんな生き物でも可愛い』というのは正しいか否か」 「断じて否!」 「あら即答。なんで?」 「虫系の子供はだいたい可愛くありません!」 「あー……」 ある日の開拓者ギルド。 唐突にぶつけられた先輩職員からの質問に、鷲尾 亜理紗は臆することなく答えた。 亜理紗の返答に意外そうな顔した西沢 一葉であったが、理由を聞いて納得する。本当はそういうつもりで聞いたわけではないのだが、言われてみればそうかと唸ってしまった。 「じゃあ、動物系限定だと?」 「んー、それなら可愛いんじゃないでしょうか。狼だって子供のうちは可愛いもんでしょうし」 「ではそれを踏まえて今回の星座アヤカシ。小犬座カニス・ミノル、小狐座ヴルペクラ、小馬座エクレウス、小獅子座レオ・ミノルの四匹同時狩猟よ」 「わ、ジルベリア読みだとモンスターっぽい……って、いくらアヤカシとはいっても子犬とか子狐なんでしょう? 狩猟なんて言葉を使うのは大げさすぎません?」 「はいそこ。そこに認識の違いがあるのよ」 星座における『こいぬ』とか『こぎつね』などは、子供の動物を象ったものとは限らない。あくまで『小さい犬』や『小さい狐』を指すのであって、それが子供であるとは決まっていないのだ。 よく説明を聞かないで戦いに行き、返り討ちにあったハン……もとい、開拓者が後を絶たないとか。 「え、じゃあ強いんですか、この四匹」 「かなりね。見た目も山猫座リンクスの時みたいに可愛いなんて感じじゃなくて、小さいながらも獰猛な獣のそれらしいわ。ちなみに、どれも鋭い牙があるから気をつけてね」 「小馬にもですかぁ!?」 「うん。名前に騙されると痛い目を見るわよ」 これら四匹は常に行動を共にしており、獲物を察知すると集団で襲いかかり物理的に喰らう。 要は死の恐怖で絶望しろという安直なパターンではあるが、アヤカシとしてみればこれが一番効率がいい。より純粋、よりアヤカシらしい星座アヤカシ。星座にちなんだ能力を持っているかは不明である。 大型だから強いとは限らない。果たして、この激しい狩猟を戦い抜けるか――― |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●飢えた獣たち 「うわぁ……。でも愛くるしすぎて攻撃の手が鈍っちゃうような事がなさそうなのはよかったよ」 そう呟いたのは、確か神座亜紀(ib6736)だったか。 言葉通りの素直な感想だったのだが、それが戦慄に変わるのにさして時間はかからなかった。 血走ったどころか、眼球そのものが真紅に染められた不気味な目。よだれを垂らし続け、牙を剥き出しにして常に低く唸るその姿は、小さいながらも悪魔の如き様相である。 兎にも角にも接近しないことには戦えない。一行が慎重に近づき……敵がこちらに感づいた瞬間だった。 『ガァァァァァッ!!』 四匹の獣……小馬座、小狐座、小犬座、小獅子座は一も二もなく開拓者たちへと疾駆する。 喰らい尽くす。単純明快な、悪意とも敵意とも違う『食欲』だけが四重奏を奏でている……! 「速い……! 皆さん、メダルを!」 「小柄というのも意外と厄介かなと思ってはいたんですけどね……!」 緋乃宮 白月(ib9855)と真亡・雫(ia0432)は、敵の接近が予想以上に速い事に気づき、星の一欠片を使う者は早くしろと周知した。 敵は防御の薄そうな者を優先的に狙うという。ならばと囮作戦も視野に入れているが、それもきちんとこちらの体勢が整っていればこそ。 真亡と緋乃宮の切羽詰まった声に、使用する予定のある者たちは星の一欠片を発動にかかる。しかし効果が発動できるかできないかの状態で、すでにアヤカシたちは開拓者たちの目の前に迫っていた……! 「私に来た? あいつら数寄者だぞ!」 「あら。鳳凰座の効果を警戒されましたかしら……」 まず狙われたのは何 静花(ib9584)。呟いた各務 英流(ib6372)もそうなのだが、とにかくこの二人は軽装で見るからに防御力が低そうに見える。 もともとこの二人が囮役に抜擢され前に出ていたので問題はないが、その怒涛の如き接近は…… 「そんな手数じゃあなあ!」 何が使用したのは三角座。三角形をした赤青黄のプレートを発生させるもので、それらは頑丈であり盾のように使える。 近場にいた各務、真亡にも持ってもらい、三匹までは食い止めたが、小犬座だけが抜けてくる……! 「させませんよ」 アヘッド・ブレイクで瞬時に近づいてきた雪切・透夜(ib0135)が盾を構え小犬座の顔面を殴りつけるように防御する。 初撃はなんとかやり過ごすことに成功した……かに見えたが。 「止まんねェ! こいつら、本当に喰うことしか頭にねェな!?」 「いけない、亜紀が狙われてる!」 三角のプレートを持ち前の小柄な体でするりと抜け、獣たちは前進する。 目標にはこだわらない。なぜなら結局は全て喰らうつもりだから。 柔肌を晒している神座を狙い、開拓者たちの間をすり抜けるその速さ。鷲尾天斗(ia0371)と水鏡 絵梨乃(ia0191)が迎撃に回るが、それでも二手足りない! 「ひっ……!? アイヴィーバインド!」 「こちらのほうが肉付きはよろしくてよ!」 思わず短い悲鳴を上げた神座は魔法で敵を絡めとったが、それも相手の動きを完全に封じるものではない。 実力に劣る各務は自らの腕を差し出し、神座への攻撃を身を挺して防ぐ。 しかし……! 「ぎっ……! ぐ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 平原に、不意に雨が降りだした。 それは突如として……そして必然で。大粒の赤い雫が、平原を染めていく。 小獅子座の鋭い牙に噛み付かれた各務の左腕は、枯れ葉を千切るかのようにあっさりとその体から離れた。 一瞬の間もない。噛んだ次の瞬間には各務の腕が齧り取られ、獣たちは開拓者たちの後方へと走り抜けていた。 「こ、これ、は……想像、以上、に……!」 「喋らないで! ごめんなさい……ごめんなさい、ボクの代わりに……!」 「だい、じょうぶ、ですわ……。これが、あります、から……!」 そう言って、各務は残った右腕で鳳凰座のメダルを握りしめ、発動させる。 すると肘辺りから食い千切られた各務の腕が急速に自己再生を始め……神経、筋肉、骨、皮膚などを全て元通りに修復した。ぐーぱーと握ってみるが、違和感などはない。 「無茶をしますね……。いくら欠損部分が再生できても、失った血や痛みなどは消えないはずですよ」 「普段前に立つ重装甲な人達が私の後ろに……というのが嬉しくて、はしゃいでしまいました。申し訳ないのですが、あまり使える手ではありませんので悪しからずですわ」 「冗談! 何度もさせてたまりますかって!」 緋乃宮と水鏡が各務を庇うように前に立ち、再び襲い来る獣たちの迎撃に当たる。 敵の牙は想像以上に鋭く、小柄であることでスピードとトリッキーな動きがずば抜けている。 しかし、猫や犬が足元を駆け抜けていくのとはわけが違う。駆け抜けるついでに足を持って行かれそうなこの状況において、水鏡は再び指示を出す。 「次に狙われてるのは白月! 最初に仕掛けてくるのは小狐座!」 水鏡が敵の動きを感じ取れるのは、山猫座のメダルを使っているから。彼女の場合、感覚が鋭敏になり戦場の動きを悟ることができる。 問題があるとすれば、敵の動きが速すぎること。指示を出してすぐに反応しないと手遅れになりかねないこと。 「この程度で……!」 「僕の馭者座……車輪のシールド!?」 「お前に分かるまい、ぼっちを通して出るこの力(悲しみの情念)が!」 「何度もやらせるもんかー!」 時計座のメダルの力で徐々に動きを加速させる緋乃宮。泰拳士独特の動きで小狐座の牙を受け流す。 小馬座を受け持った真亡の左腕には回転する光の車輪のような物が出現、小馬座の鼻面を少しばかり削り取る。 彼が使う場合の馭者座の能力で、外側には切断効果はない。あくまで回転している内部にしか攻撃力はないようだ。 何は基礎戦闘力に不安が残るものの、瞬脚で踏み込んでからの爆砕拳などで小獅子座の進行を止めている。 神座には自動命中のアイシスケイラルがあり、小犬座に直撃しその小柄な体に氷の矢を炸裂させた。 「透夜、いけっかァ!?」 「勿論です。二頭の蛇がどう転ぶか!」 まずは敵の数を減らすこと。そして狙うべきは少しでも大柄の小馬座。それは事前に決めていた。 防御を近場にいた最小限の人数で担当してもらい、鷲尾と雪切が小馬座に攻撃を仕掛ける! 鷲尾は蛇座、雪切は水蛇座を使用している。その効果は……! 「なっ……」 「えっ……」 それは誰が発した言葉だったのだろうか。突如、雪切の周囲から渦を巻いた水の奔流が周囲にいたもの全てを弾き飛ばし、彼の周囲10mほどをクリアにしてしまった。 プラス効果なのかマイナス効果なのかは微妙なライン。 大海原にとぐろを巻く蛇の如き水流。他者を遠ざけるその渦は、アヤカシはもちろん開拓者たちも弾き飛ばしているので、そのフォーメーションはどちらもぐちゃぐちゃだ! 「ままならねェなァ……だが、たァだのガチロリかと思ったら怪我するぜェ! 前回の名誉挽回だァ!」 「汚名挽回ではなくて?」 「おめーは黙ってろ!」 各務にツッコミを入れつつ、鷲尾は魔槍砲とピストルの射撃を止め、ピストルを一旦しまい込む。 ピストルを持っていた彼の手には光の鞭。蛇の如き紫色の毒々しい光の鞭。 「『死の恐怖で絶望しろ』かァ。ハッ、イイじゃねェか! だったら俺達がテメェ等の恐怖以上の地獄って言うヤツを見せてやらァ!」 獣をしつけるのには鞭が有効。そんな道理が具現化したわけでもあるまいが、彼が蛇座を使うとこうなるらしい。 胴体を強かに打ち付けられた小馬座は、自らの身体に毒が注入されたことをすぐさま悟る……! 「畳み掛けます」 小馬座の一瞬の動揺を突き、加速した緋乃宮が天呼鳳凰拳を叩き込む。 鳳凰の翼のような炎と鳴き声のような怪鳥音。それに身を焼かれてなお、その小柄のどこにそんなタフさがあるのかと思うくらいに小馬座は立ち上がる! しかし!? 「悪いけど、君だけに構っていられないんだ!」 白梅香を発動した真亡が、手にした刀で小馬座を一刀両断していた。 星座アヤカシであっても、妙な耐性能力がないのであれば普通のアヤカシと同じ。白梅香のような強力なスキルの前では、よほどのことがない限り致命傷。 そこで素直に消滅するならまだ可愛げもあるが、生憎とこいつらにそんなものは期待できない。 「うぐっ!? この、まだ……!」 消滅することが確定していながら、首だけの状態でなお真亡の右腕に牙を突き立てた小馬座。 流石に胴体がないので食い千切られるまでは行かないが、深々と真亡の肉が抉られる……! やがてその首が完全に消滅すると、草の上に小馬座のメダルが落ちたのだった。 「天斗、その鞭人にあたっても毒喰らわせるから気をつけてね。しっかし、やっと一匹……先が思いやられるわ」 「みんな、ボクの周りに集まって! 陣形を整えよう!」 水鏡と神座を中心にして再集結する開拓者たち。一方、アヤカシたちも三匹集まって今にも飛びかからんばかりの表情をしている。 小柄な見た目に騙されると大怪我をする。まさに事前情報通りであった。 「何か決め手みたいなのが欲しいな。亜紀、牡牛座はいけそう?」 「う、ん……なんか他の皆の効果を見てたらちょっと怖くなっちゃったけど……」 さもありなん。 「でもやってみるよ。新たな知識を得る機会は逃せないもんね♪」 そう言って、神座は牡牛座のメダルを握りしめ発動させる。 前回、これを使った鷲尾は変なスイッチが入っててんやわんやになってしまったが、神座の場合は……? 「んっ……はぁ、なんだか、身体が……熱いよ……!」 「今すぐ捨てろバカヤロー」 艶っぽい声を出した神座に、思わずメダルをひったくろうとする鷲尾。 しかし神座は首を振り、待ってと静止する。 するとその手に、タウラスが持っていたのと同じ本が出現した……! 「えっと……小狐座は噛み付こうとするとき尻尾をピンと立てる癖がある。んっ……小獅子座は爪で引っかき攻撃をした後、必ずバックジャンプする。はぁ、はぁ……小犬座は目立った癖はないけどスタミナ切れが早い……だって」 「え、なにそれ。怪獣大図鑑?」 「わかんない……けど、んっ……多分、間違ったことは……書いてないと、ふあっ……思う……」 「あー、うー、その、なんだ。途中途中にエロい声を挟まないでくれないか。なんというかその……もにょる」 「ボクのせいじゃ、ないよぉ……」 「あぁ……これがお姉さまが使った時の効果なら……効果ならっ……!」 上気して涙目になる神座。どうやら彼女が牡牛座を使う場合、全知全能っぽい知識の本を得られる代わりに鷲尾とはまた違った変なスイッチが入るらしい。 ぺたんと地面に座り込んでしまい、ろくに動けなくなってしまっているようだった。 血の涙を流す各務に対し、水鏡と何はやれやれといった表情をした後、痺れを切らして駆け出した獣たちを睨みつけた。 「雫、右! 天斗、左! 透夜、中央!」 水鏡の指示のおかげで、突如ばっと散開した三匹に対し開拓者たちは的確に対応できた。牡牛座の知識と山猫座の戦場感知。かなり相性のいい組み合わせかもしれない。 「小獅子座は、爪攻撃の後に必ずバックジャンプするってかァ!」 「小狐座は噛み付きの前に尻尾をピンと立てる癖がある……!」 バックジャンプに合わせ魔槍砲の砲撃を叩き込んだ鷲尾。僅かな癖を見切り、持ってきた小袋の中身である砂をばらまく雪切。共に事前情報があったればこそ。 面制圧の要領で目潰しを食らった小狐座。そのフットワークが殺されると…… 「騎士の剣……もったいないとは思わないよ」 聖堂騎士剣。白梅香と似て非なる浄化の剣。 顔を真正面から両断され、小狐座は噛み付き反撃をする暇もなく消滅しメダルを残した。 そして魔槍砲の砲撃で怯んだ小獅子座には…… 「地に足がつかなきゃなあ!」 「あら、ふらついてますけど地面にいますわよ」 「ふらついてるのはお前もだ」 何と各務による連続攻撃であえなく撃沈、千尋の谷を登る前に消滅しメダルとなった。 残るは一匹、小犬座! 「スタミナが続かない、ですか。鍛え方が足りませんよ」 あえて攻防を繰り返し、小犬座のスタミナ切れを誘う緋乃宮。神座の言葉通り、すぐに小犬座の動きが鈍っていく。 それに対し緋乃宮は時計座のメダルで徐々に加速中。拳を叩きこむのにさして時間はかからなかったが……! 『アオォォォォォンッ!!』 狼の遠吠えにも似た咆哮。それには衝撃波が備わっており、至近距離にいた緋乃宮を弾き飛ばした。 形勢逆転、喰い殺してやる! 小犬座が緋乃宮に駆け寄り牙を光らせた瞬間だった。 緋乃宮は空中で体勢を整え、右手を地面について体を捻り足払い。 何が起こったのか分からない小犬座を尻目に、今度は両手を地面につきそのまま回転、腕の力だけで跳び……小犬座の首辺りに狙って着地した。 ボキリという鈍い音。さしもの野生も、スタミナ切れの状態で、星座の力で加速した緋乃宮の動きにはついていけなかったらしい。 泡を吹いて倒れ伏していた小犬座の身体が消滅し、小犬座のメダルが地に落ちたことでようやく決着となったのだった――― ●血戦の後 各務が腕を千切られた時の血が辺りを真っ赤に染めているが、とりあえず開拓者たちは無事勝利した。 拾い集めた四枚の新たな星の一欠片。それらをつんつんとつつきながら、神座はぽつりと独りごちる。 「一体どういう力が働いているんだろう? 気になるなぁ」 「ギルドやその他研究機関でも躍起になって探っているみたいですけれどもね……」 星の一欠片。星座の力。何故集星でしか発動しないのか、何故集星にしか星座アヤカシが現れないのか。わからないことはまだまだ多い。 分かっているのは、今回のように上手く使えれば非常に助けになることと…… 「……ピスケスもタウラスも、人の手にこのメダルが渡るのを懸念してた……ってことだよね」 これらの謎が解き明かされるのはいつの日か。星座アヤカシたちとの戦いはまだまだ続く。 「そう言えばだな……三角の思い出といえば……ぬるぽ」 ガッ。 何故か思わず七人がかりで何を殴ってしまった開拓者達であった――― |