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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 星座アヤカシを打ち倒し続け、人類はついに星の一欠片の実用化に成功した。 行動力と気力を消費することで発動するこのメダル。効果は様々だが、人により効果が違う上に不確定というのはやはり恐い。実際、マイナス面の効果も出始めている。 使える場所も、石鏡の国の一部、集星と呼ばれる地域内に限られているのが痛い。実験も現地に行かなければならないわけだ。 そろそろ星の一欠片の謎についても研究していきたいところだが、生憎話を聞き出せそうな星座アヤカシは黄道十二宮を模した連中しかいない。しかしそれらは例外なく強力な能力を備えているのが頭の痛いところである。 「さて今回は蝿座、ムスカの登場よ」 「蝿ですかぁ。夏とか食べ物にたかってくるんで、星座であってもあんまり良いイメージないですねぇ……って、どうかしたんですか? 険しい顔をしてますけど」 「うん……ちょっとね。キョンシーに関して良くない話を聞いたのよ」 「あぁ、一葉さん天儀ではほとんどいない道士ですもんね。そういう情報が集まるわけですか」 「これはあくまで星座アヤカシの依頼だから詳しくは語らないけど……もしかしたら別件の依頼として出されるかもしれないわね」 「…………キョンシーシリーズって確か、あんまりウケが良くなくてフェードアウト―――」 「な に か い っ た か し ら」 「………………い、いえ、何も」 一葉の顔は笑顔であったが、こめかみにくっついた怒りマークがその本心を如実に表していたのだった――― 閑話休題 さて、ギルド職員である鷲尾 亜理紗と西沢 一葉の説明を受けるに、蝿座は見たまんま普通の蝿と同じ姿であるという。 蝿と言うとあれだ。どこにでも湧いて出て何にでもたかる嫌われ者。わしゃわしゃと手をこすり合わせるような仕草をしているところを見た諸氏も多かろう。 「……先生ぇ。もしかして、大きさも……」 「察しがいいわね。そう、蝿座の大きさは普通の蝿と変わりない。ほんの小さな一寸の虫。でもそのパワーやスピードは普通の蝿を遥かに凌駕してて、体当たりで人間をふっとばすこともできるみたいよ。ちなみに一匹だけね」 おつむが回らないのは虫型でなくともアヤカシによくあることなのでどうでもいいが、これだけ目標が小さく、速いと狙いを定めるのも並大抵のことではない。 速いものは当たると脆いというが、星座アヤカシである蝿座は非常に頑丈であり、刀や銃弾の直撃を受けてもそう簡単には死なない。 それもそのはず、体当たりで人間をふっとばすためにはかなりのパワーが必要であり、そのパワーを発揮するためには頑丈な身体が必要不可欠。見た目は蝿でも侮ると殴殺されてしまう可能性もあるだろう。 「ちなみに自動命中の魔術とかについてなんだけど、まず目標にするのが難しいと思って。例え照準できても、ただ撃つだけだと蝿座は射程範囲外まで逃げてたりとかして無力化されるから気をつけて」 「なにそれ恐い」 「自動命中であって、絶対命中じゃないしね。とにかく、蝿座は人を打撃でなぶって負の感情を集めるタイプよ。その小さな身体に反して大きなパワーを誇るから、作戦は綿密にね」 虫用の罠などはあっさり突破するであろう蝿座、ムスカ。 速度+パワー=破壊力な敵を相手に、開拓者たちはどう戦うのであろうか――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●蝿の本気 季節はすっかり秋めいて、石鏡の平原に青々と茂っていた草木たちも徐々に色を黄色へ変えていく。 風も冷たさを増していく今日このごろ……季節に似合わぬ虫がそこにはいた。 いや、正確には目視で発見したわけではない。警戒行動中、リィムナ・ピサレット(ib5201)の瘴索結界にアヤカシの反応があり、彼女が『来た!』と言った数秒後、緋乃宮 白月(ib9855)が弾かれたように宙を舞ったのだ。 その時、一同は確かに聞いた。ブゥゥンという不愉快な羽音が、一瞬で自分たちの近くを通り過ぎて行くのを。 「だ、大丈夫!?」 「はい、ギリギリで急所は外しました。ふっ飛んだのも、半分は自分で飛んで威力を殺したものによります」 リィムナの言葉に、緋乃宮はケロッとした顔で応えすぐに立ち上がる。 思ったよりダメージは無いようだ。流石に命中即大怪我ほどのパワーは備えていないらしい。 だが、状況は決して良くない。リィムナの結界の中にいれば速くとも動向はわかるが、その動きが速すぎる。 加えて、蝿独特の旋回性能。目視で確認した一行も、まず追うのに苦労している。 「あの飛行音はやっぱり好きになれないなぁ。っていうか速すぎだよー!」 「毎年毎年ウザいですわ! そして旦那だ奥さんだと目の前でよくもよくも妬ましい恨めしい絶対に許さない!」 「ひっく……後半は私情入ってるぞぉ」 「そういうお前は酒入ってんじゃねェか! 酔拳っつったって役に立つんだろォな!?」 神座亜紀(ib6736)が叫ぶのも無理は無い。普段注意して見るようなものではないが、蝿というのはそもそも速い。 そのくせ運動性能もあるので、ムスカのように耐久とパワーが増すと手が付けられないのだ。 そんな中でもいつもの調子な各務 英流(ib6372)と、前回で何かが目覚めたのか飲酒しながら戦いに望む何 静花(ib9584)の姿。 鷲尾天斗(ia0371)の言うように酔拳のためとはいえ、今まで呑まなかった人間(修羅だが)が急に飲酒しだすことに不安は残る。 「くっ、やっぱり駄目だ! 小さすぎる!」 達人たる真亡・雫(ia0432)の刀でさえムスカの前では空を切る。 速いだけではなく小さいのもやはり問題。普通の蝿なら軽く真っ二つにできる真亡であってもアヤカシとなるとそうもいかないのだろう。 この一分にも満たないやりとりで開拓者たちは確信する。このままでは無理だ、殺されると。 「段々難易度が上がってる気がすんなァ」 「そりゃそーでしょ。後から出てきたヤツのほうが弱いなんてなったら拍子抜けだし……きゃあっ!?」 鷲尾のぼやきにリィムナがツッコミを入れている間にも、ムスカがリィムナの右肩に体当りし弾き飛ばした。 小さな強敵、ムスカが空を縦横無尽に飛び回っている。これを何とかせねば明日にも繋がらない。 だが、開拓者たちにも秘策がある。培ってきた経験がある。そして……奴らと同じ、星座の力がある……! 「例の作戦で行きましょう。後はこの身を、皆さんに託します」 「任せておいてください。僕が必ずお守りしますよ」 彫刻室座のメダルを手に、意を決した表情をする真亡。 その言葉に緋乃宮は柔らかい笑顔で応え、すぐそばに寄って直衛を引き受ける。 常に固まって行動している開拓者たち。後は真亡のタイミング次第! 「……今だ!」 真亡が彫刻室座のメダルを発動させると、真っ白な板が無数に出現し、彼らの周囲20平方メートルほどを瞬く間に完全に包囲し封鎖してしまった。 蟻の子一匹抜け出ることのできない密閉空間。しかも背景が真っ白いので、小さくともムスカの姿は野ざらしの状態で戦うよりよほど見やすい! ……が。 「うぅ……! や、やっぱりこれは、慣れないなぁ……!」 格好のバトルフィールドを創りだした真亡は、彫刻室座のメダルに練力やら気力やらを根こそぎ持って行かれ、疲労で立つことすらままならなくなってしまう。 そのための緋乃宮。そのための密集陣形。お膳立てをしてくれた真亡のためにも、この白い空間の中でケリを付ける! 「さて、これからが勝負か」 ギラリ、と眼差しを鋭くした鷲尾。それに続くように、開拓者たちは今日のために選んだ星の一欠片を発動させていく。 「ん!? なんだこりゃ、車輪みたいな光弾……いや、切断用の光輪を出すのかよ! 高速移動でも盾でもねェってどういうことォ!?」 「ひっく? 八つ裂き―――」 「言わせねぇよ!? くそっ、一つのメダルでどんだけバリエーションあんだよ!」 狙った効果が出るとは限らないのが星の一欠片。鷲尾もそれは重々承知だが、それが後に意外なところで活躍したりするから面白い。 やけくそ気味に光輪を発射してみるが、やはりムスカ相手では分が悪い。 「なぶり殺しによる恐怖ですと……そんな低俗な手段で集めた負の感情など、この私の嫉妬力の敵ではありませんわ!」 あまり威張れた動機ではない気もするが、各務は小馬座のメダルを発動させる。 すると、各務は自身の体が軽くなったような感覚に襲われる。 否、正確に言うなら足が軽い。まるで常時早駆を使っているかのように……! 「こ、これは!? この速さなら……!」 凄まじいスピードで飛び回るムスカ。その機動に、各務は一瞬で追いついた! 各務が小馬座を使った時の効果は、『脚力だけ』数倍に跳ね上がるというもの。なので…… 「このっ、逃げるんじゃ、ありませんっ!」 命中などの基礎力が足りていない各務では蝿座を捉えられない。逆におでこに体当たりをもらい、もんどり打って返り討ちにあってしまった。 「こんのぉ! 範囲攻撃ならどうだぁっ!」 時計座のメダルを発動させつつ、神座はブリザーストームを放つ。 点でダメなら線で、線でダメなら面でというのが神座の発想。そしてそれは大いに正しい。 野外であれば範囲外に逃げることもできようが、真亡の献身で創りだしたこの空間では逃げるにも限界がある。 猛烈な吹雪に巻き込まれ、蝿座はバランスを崩し壁に激突する! 「やったかな!?」 しかし、神座の時計座がそれをぶち壊しにした。 彼女が使った場合の効果は、『自分と敵の状態を5秒前の状態に戻す』というもの。 つまり、神座は練力を消費しなかったことになるし蝿座はダメージを受けなかったことになってしまったのである。どちらかというと自らの身に危険が迫った時などに使う防御寄りな能力と言えるだろう。 「やだ……死にたくないよう!」 突如、そんな弱気なことを呟いたのはリィムナ。普段の元気な彼女からは想像もできない台詞であるし、蒼白になったその表情からはいつものような健康的な可愛さが消えてしまっている。 ぎょっとしたのは仲間たち。つい先程までは軽口を叩いていたのに……。 「もうだめだぁ……おしまいだぁ……! 大人になったらやりたい事、いっぱいあったのにな……」 「おい、おまえ何言って―――」 鷲尾がフォローに入ろうとした瞬間、鷲尾の耳のすぐ横を蝿座がかっ飛んでいった。 蝿座は人を嬲り殺すことで負の感情を還元する。ならば怯えたり絶望したりして負の感情をまき散らしている人間によっていくのは至極当然なこと。 しかしこれは……! 「計算通り」 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべたリィムナ。彼女に突撃していたムスカが弾き飛ばされ再び壁に激突する。 唖然とする他のメンバーを尻目に、リィムナはムスカを弾き飛ばしたそれをいつもの弾けるような笑顔で自慢する。 「あたしの山猫座は、鞭のようにして使える尻尾が生えるのだ♪ 結構パワーあるんだよー♪」 「……さ、さっきのは演技だったわけですか」 『リィムナ……恐ろしい子っ……!』 少し引き気味の緋乃宮。そして何故か白目で劇画調になる鷲尾と神座であった。 だが、ムスカはこれでも止まらない。防御力もあり、一撃当てた程度でどうにかなるわけではないというのは最初からわかっていたことだ。 白い空間の中を狂ったように飛び回るが、各務が小馬座で得た脚力を用い、なんとか躱して時間稼ぎをしている。 「おほほ。捕まえてごらんなさぁーいですわ♪」 が、各務が調子に乗り始めたのを察したのかムスカはさらっと標的を変更。動けない状態の真亡へ! 恐怖はないが、動けないことへの歯がゆさを負の感情と捉えたか? 羽音を響かせ突撃するが…… 「させませんよ」 そう、真亡は緋乃宮に守られている。割って入られたムスカは仕方なく緋乃宮をぶちのめすべく速度を早めた。 その速さは緋乃宮であっても正確に捉えきれない。突き出した拳は、虚しく空を切った……かに見えたが。 振り向きざまに緋乃宮の両手から放たれた気功波。黄金の輝きに彩られた緋乃宮の身体から放たれたのは、荒鷹天嵐波なる大技である。 最初の拳は真荒鷹陣によるものであり、別に当たらなくても構わなかった。本命のこちらさえヒットすればよしと緋乃宮は考えていたのだった。 が、それは彼が思いもしなかった効果を生む。 「八匹の、大蛇?」 緋乃宮が放った荒鷹天嵐波は空中で八匹の大蛇のように分裂し、より命中精度を上げてムスカに食らいつく。 緋乃宮が使う海蛇座のメダルの効果。それは『攻撃時(物理非物理含む)、八匹の大蛇のようなものが現れ命中精度を上げる』というもの。ただし威力などは上昇しない。 大技を文字通り喰らい、さしものムスカの動きも鈍ってきた。当初から比べると大分遅くなり、充分目で追える。 が、それでも油断はできない。その脅威は開拓者たちが身を以て知っている。 「うーん、準備にちょっと時間がかかるんだよねぇ。誰か少しあいつの動き止められないかな?」 リィムナには、大物を仕留めたとある攻撃方法があるらしい。だが、それをきっちりキメるにはまだムスカは速い。 タイミングがほしい。リィムナがそう思った時だ。 「ひっく。主役は遅れてやってくる!」 先ほど鷲尾に冗談をかました何。酒を呑み呑み、ここぞとばかりに前に出る。 彼女が発動させたのは牡牛座。酔拳とともに有効な攻撃ができるか……!? 「うおっまぶしっ」 「う……僕の荒鷹天嵐波より眩しいです……」 突如、何の頭に牛のような角がニョキッと生え、全身が眩い金色に輝きだす。 が、どうも本人はまったく眩しくないらしい。敵味方共々目を晦ましてしまう……これでは黄金の駄牛である。 これが彼女が使う牡牛座の効果。『牛の角が生えて全身が激しく金色に発光する』。 勿論攻撃力はないし敵味方問わない。使い所が難しい……。 「あちょ! ねちょ! ホアチャー!」 「だーもう、動くなよ! キンキラキンの角度が変わって目がチカチカすんだよ!」 「ひっく。そんなこと言っていいのかなぁ? ホレ」 何が指差した先。眩しさをこらえて薄目でみやると、ムスカが苦しむように空中でめちゃくちゃな軌道を描いていた。 こちらに攻撃をしてくるどころではないと、その動きからすぐに察することができた。 「……虫って目ェ眩むのか?」 「なんでもいいよ! 時計座はオフにして……ブリザーストーム連打ぁっ!」 目を瞑りながら、神座は自慢の術を連発する。 吹雪によって壁にたたきつけられ、なおも冷気にさらされるムスカ。そしてそれは、機動性を売りにするこのアヤカシにとって致命傷といえる隙になった。 「おっけー、今だぁっ! 魂よ原初に還れ……連・発!」 かつて、自動命中無効の中級アヤカシすら葬ったというリィムナの超火力。いくら見た目より頑丈とはいえ、ムスカ程度のアヤカシでそれに耐えられるわけもない。 白い壁に半ば凍りづけにされていた一匹の蝿は、その身体に似つかわしくない大量の瘴気を噴出し……やがて一枚のメダルを地面に落とし消滅した。 勿論、メダルのほうがムスカの体長の何倍もある。星座の力は物理的にではなく、瘴気の中に取り込まれているということだろうか? 「ふぅ……ようやく一息つけるね」 ムスカの撃破を確認し、真亡が彫刻室座を解除する。 白い空間はバラバラと崩れ去り、平原には何もなかったように冷たい風が吹き抜けていった。 地味ではあったが、今回の勝利は真亡と彫刻室座の組み合わせがなければありえなかったであろう。 「雫さん、お疲れ様。チョコレートどうぞ♪」 「ありがとう、いただきます。体がだるくて仕方ないんだ……甘いものは嬉しい」 神座が予め用意しておいた甘味をもらい、真亡は心から喜び安堵の気を吐く。 何もなくなった平原で、何故か鷲尾と各務が…… 「最近だらしなくありませんこと? そんなことではお姉さまをお任せできませんのでさっさと返しやがれコノヤロウですわ」 「五月蝿ェよ! 第一元々おまえのじゃねェだろ! 俺だってメダルの効果さえまともなのが出たらもっと活躍するわァ! つーか蠍座の時は格好良くキメてただろ!」 「小馬座の力を得た私にはあなた程度の攻撃は当たりませんわぁ〜♪」 「……馬鹿に鋏って諺知ってっか」 「なんとでも。私に足りないもの、それはぁ! お姉様お姉さまおねえさまオネエサマ御姉様お・ね・え・さ・ま、そして何よりもぉ! 亜理紗お姉さまが足りないッ!」 平和になったはずの平原に、小馬座と馭者座が舞い踊る。 じゃれあいにも似たいつものやりとりに、他のメンバーは苦笑いを浮かべ暖かく見守るのだった――― |