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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「こんにちはー!」 「こんにちはなのです」 「……こんにちは」 「こんにちは。あなたが亜理紗さん?」 ある日の開拓者ギルド。 何の変哲もない昼下がり、開拓者ギルドに元気な声が響いた。 ギルド職員の鷲尾 亜理紗のところにやってきたのは、10歳くらいの少女たちである。 「え、はい、こんにちは。何の御用かな?」 「あれ、一葉さんから聞いてない? わたしたち、神楽駆逐隊よ」 そういえば何日か前に、先輩職員の一葉から『近々、アイドル開拓者たちから依頼があるから覚えておいてね』と言われた気がする。 神楽駆逐隊。少女四人で構成されたグループで、これでも立派な志体持ちの開拓者である。 かくいう亜理紗も知り合いに彼女たちくらいの年齢の開拓者の友人を持っている。別に彼女たちが開拓者だと言われても驚きはしない。 ロングの子がリーダーの暁 翔子 帽子を被った、かったるそうなセミロングの子がエコー・トラスト 一番元気なセミロングが御神槌 世 ちょっとおどおど気味のポニーテールが稲妻 菜乃葉 綺麗な黒髪で統一された美少女四人組。実は結構知られている女の子たちである。 彼女たちがアヤカシたちと戦う姿は一般人に勇気を与えるらしく、固定ファンもいるのだとか。 「えっと……確かこの辺りに……。あったあった。要塞タートルの撃破支援……なるほど」 亜理紗が引っ張りだした資料には、神楽駆逐隊と協力し要塞タートルを撃破して欲しいと記載されていた。 要塞タートルとは、背中に多数の砲身を持ち、近づくものに砲撃してまわる厄介なアヤカシである。 タートルというだけあり動きは鈍重だが防御能力が高く、パワーもある。神楽駆逐隊だけでは危ないと判断されたのだろう。 「あたしたちはまだまだ未熟者だから、自分たちだけじゃ倒せないアヤカシも多いのよね!」 「で、でも、神楽の都だけじゃなくて、色んな国の人達のために、少しでも役に立ちたいのです」 「……アイドルとか担ぎ上げられているのは知ってる。でも、それに胡座をかくつもりはない……」 「わたしたちの活躍でみんなが嬉しくなってくれるならそれに越したことないわ。立派な開拓者としての姿、見せてあげる」 真剣な四人の瞳。決して遊びでやっているわけでもなければ、戦いを強制されているわけでもない。 傷つくことも痛いこともあったろう。それでも彼女たちは人々のために戦いへと赴く。 そんな彼女たちの戦いを、是非助けてやっていただきたい――― |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲
コリナ(ic1272)
14歳・女・サ
武 飛奉(ic1337)
14歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●移動要塞の脅威 その日、神楽の都近くの平原には爆音が轟いていた。 普段静かなその場所は、断続的に起きる爆発とそれに伴う爆音、爆煙で支配され、さながら戦場のようであったという。 ……否、そこはまさに戦場。開拓者たちが命を懸け乱舞する戦場そのものだ。 「ちっ……なんて火力だ。おまけに硬いときてる」 「もー、銃じゃ全然傷つかないじゃないのー!」 津田とも(ic0154)と共に簡易的な塹壕に身を潜めるのは神楽駆逐隊の御神槌。 二人は砲術士であり、敵の砲撃にも劣らない射程の持ち主ということもあって、近接戦闘を仕掛ける味方への援護射撃などやることは非常に多い。 だが要塞タートルの甲羅は非常に硬く、放たれた銃弾はそれこそ牽制程度の効果しか得られない。それでも有るのと無いのとでは他の開拓者たちへの負担が段違いなのだが。 「同志の卵と言ったところか。守ってやらねばなるまい。小さき衛兵よ、共に参ろうぞ」 「小さいは余計よ! レディになんて言い草かしら!」 「(アイドル開拓者か何だか知らないけど、ボクだって長い黒髪が自慢だしアヤカシとの戦闘経験だって豊富なんだから!)」 北条氏祗(ia0573)と共に要塞タートルの頭部を目指すのは暁。 二人は大回りしながら接近するため少々時間がかかる。そこを援護するのは、重傷の身でありながら健気に魔術を連発する神座亜紀(ib6736)。 どうやら歳が近く、アイドルと持て囃されている神楽駆逐隊の面々に対抗心を燃やしているらしい。 「中々の敵だ。殴り甲斐がある。……しかし、女子供ばかりがぞろぞろと……全くなっておらんな」 「フフ……随分と時代錯誤なことを言うじゃないか。君には見えないのかい!? この桃源郷のような世界が!」 「興味ない」 「あぁ、なんて嘆かわしい! いいかい、ボクは女だがあえて言わせてもらうよ! 幼女や少女や童女にはね、その時その時にしかない美しさが有るのさ! そう、まさに一瞬一瞬がきらめくダイアリー! それを愛でずして何を愛でると言うんだい!? ねぇ!?」 「いや、私に同意を求めないでください。来ますよ!」 要塞タートルの正面180は、敵の視界が良好であることも相まってか非常に火線が激しい。 地面に着弾し炸裂する砲弾を避けて回っている武 飛奉(ic1337)たち前衛陣だが、どうやら武は持ち前の女嫌いもあり今回の面子に不満がある模様。 ただでさえ多い女性参加者に加え、神楽駆逐隊の四人が加わるのだから無理もないが。 しかし、爆撃の中でも拳を握り幼女や少女や童女の素晴らしさを説くフランヴェル・ギーベリ(ib5897)にとっては、このシチュエーションは涎が出るほど美味しいものである。 爆撃の中突然話を振られた三笠 三四郎(ia0163)は、さらっと質問を流して回避行動を取る。いや、流さざるを得ない。 要塞タートルの砲塔は、射角の変更こそできないものの、身体のあちこちに付いており曲射用の砲身すら有る。ヤツは体勢を変え巧みに三笠たちへと発射してくるのだ。 しかもどうやって感知しているのか、視線が届かないはずの北条たちの方まで断続的に弾は発射される。 まさに移動要塞。爆風を伴う砲弾は、紙一重での回避もできず開拓者たちの進軍を大きく妨げていた。 「ボクが君達の盾となろう! 任せたまえ……フッ……」 「……いい。自分の身は自分で守れる」 「あぁんもうエコーちゃんはつれないなぁ! 稲妻ちゃん、傷ついたボクのブロークンハートを癒してくれないかい!?」 「え、えとその、余所見してると危ないのです」 「いいや違うねッ! 今のボクはいつにも増してハートが震えている……飛んでくる砲弾くらい―――」 フランヴェルは、飛来する漆黒の砲弾を見もせずに盾でガードした。 炸裂するその威力を完全に殺し、ぽかんとしたままの稲妻に向かって微笑む。 「君のために、心の目で防ぎきってみせるよ」 何このフランヴェル無双と言われんばかりの動きを見せ、同じく盾でガードを試みているエコーすらカバーに入る。まさに水を得た魚、猫にマタタビ、フランヴェルにロリっ子である(何) 「す、すごいのです……」 「……認めざるをえないね……」 「あぁ……! ボクは今頼られている! 多数の少女たちに羨望の眼差しで見つめられている! かつてこれほどの幸福があっただろうか!? いや無い! ったく、駆逐隊は―――」 最高だぜ―――そう言いかけたフランヴェルの体を爆風が吹き飛ばし、数メートル先の地面へ叩きつけた。どうやら調子に乗り過ぎたらしい。 慌てて駆け寄り、回復を試みる巫女の稲妻。 「す、すぐに治しますね。ナノハノホンキヲミルノデス」 「い、稲妻ちゃん……あんまり回復しそうな気がしないんだけれども……」 「女のくせに女に現を抜かしているからだ阿呆が」 「まぁ、口調はきついですが概ね同意ですね。エコーさん、こちらの守りはお願いします。津田さん、援護を!」 「任せておけ! 御神槌、別の塹壕に移動しつつ射撃! いいな!」 「任せなさい! まったく、あたしたちがいないとダメなんだから!」 フランヴェルはさておき、三笠の指示が矢継ぎ早に出され戦場が慌ただしさを増す。 鈍足である要塞タートルが近づく前にいくつも塹壕を用意しておいただけあり、津田と御神槌は囮も兼ねてわざと移動、射撃し要塞タートルの注意を自分たちに向けさせる。 そうすればいくら全方位に砲弾が飛ばせるステキ仕様とはいえ、メインとする方角よりかは弾幕が薄れる。知ってか知らずかの時間差砲撃も、注意すればなんとかならなくもない。 そしてそれを証明するかのごとく、三笠や武とはまた違った方向から一つの影が疾風の如く敵に近づいていく。 北条と暁ではない。あれは――― 「戦闘は、敵の懐に飛び込んでやるものですよ」 今まで姿勢を低くし機を伺っていたコリナ(ic1272)だ。彼女は両手持ちで一振りの魔剣を抱え上げ、砲撃の緩いところを見極め接近したのである。 勿論、彼女一人だけでは無理な芸当。津田たちの援護、三笠たちの回避やフランヴェルの尊い犠牲(笑)があって初めて成し得たこと。 「後れをとるわけにはいきません。……全力で行きます」 渾身の力で放った両断剣。その華奢で細身な身体のどこからそんなパワーが出るのか……要塞タートルの太くて硬い砲身の一つを、コリナは文字通り両断したのだった。 砲身にも痛覚はあるのだろうか。要塞タートルは大きく吠え、二歩三歩とよろめき、コリナの方へと向き直る。 このアヤカシに限らず、砲戦・銃撃をする者にとって接近されるということほど困ることはない。 要塞タートルと人間が違うのは、その耐久力と巨体。接近されても体当たりだけで人など軽く吹っ飛ぶ。 「くぅっ……!」 ドゴン、という音が三笠たちのところまで聞こえてきた。コリナは要塞タートルの思いもかけないタックルの直撃をもらい、地面を数メートルも転がった。 肋に鋭い痛みが走る。あれだけの大質量だ、骨の数本逝っていてもおかしくはない。 そして畳み掛けるように、敵の前面に付いた二門の砲塔がコリナに照準を定め――― 「やぁー!」 「頭がお留守だぞ!」 ここで、大回りしていた北条と暁が要塞タートルに到達、予定通り頭部への攻撃を敢行する。 鼻先と首筋に斬撃をもらい、コリナを狙っていた砲が発射の寸前に浮き、彼女の頭の上数十センチのところを通過し後方で爆裂した。 「畳み掛けるよ! 本当はララド=メ・デリタが使えればよかったんだけどね……!」 北条たちの援護を終えた神座もまた、痛む体を押してアイシスケイラルで攻撃。今度は牽制ではなく撃滅目当て。 重傷でなければ大技も使えるのだが、今はこれが精一杯……! 「ですが、それが重要な事もあるのですよ」 「殻は堅かろうと内部はどうか?」 「コリナたん大丈夫かい!? 玉のお肌に傷でもついたら大変じゃないか! 暁ちゃんもそこの無骨な男に妙なことをへぶし!?」 「口よりも手を動かせ」 ついに三笠、武、回復してもらったフランヴェル、稲妻を守りつつエコーも合流し砲の嵐を抜けてきた。 要塞タートルの砲は射角の変更ができず、正確に狙うには身体の位置そのものを変えるしか無い。 しかしそれも複数人数に取り付かれてはままならない。その巨体と全身の砲は重量をかさませ、回避や離脱などとは無縁。 だから――― 「関節を潰せれば!」 三笠は精霊槍を突き出し、亀の右足関節部を深々と抉る。 ガクンとバランスを崩し巨体が右側に沈むが、多数の砲とそれによる反動をもを支えてきた足だけに即移動不能とはならないようだ。 「ならば倒れるまで打ち続けるのみ……!」 「フッ、ボクは攻撃にも長けているのでね! 美少女は……世界の宝なんだー!」 至って真面目に亀の顎下を蹴り上げる武と、よくわからない主張をしながら頭を切りつけるフランヴェル。 「神楽駆逐隊の力、見せてあげるわ!」 「この機を逃すな!」 暁と北条が左の前足に攻撃し、要塞タートルは前のめりに地面に突っ伏すような形となる。 流石にまずいと判断したのか……あるいは苦し紛れか。亀の特性を生かし、手足や頭を甲羅の中に引っ込めてしまう。 問題点があるとすれば、このままでは移動もできないということ。それも引っ込めた手足の再生が終わればなんとかなる……仮に要塞タートルの思考を代弁するならこんなところか。 だが……! 「よう。引きこもった気分はどうだ?」 「あたしたちのこと、忘れてた?」 最後に悠々と近づいてきた津田と御神槌。頭を引っ込めた穴から二丁の銃が、要塞タートルの頭に突きつけられていた。 これ以上頭は引っ込められない。まともに動く後ろ足を外に出すより先に撃たれることくらい流石に分かる。 絶体絶命、確実なる死。もう要塞タートルからは戦意は感じられない。 やがて二発の銃声が響き渡った後……爆音轟いていた平野に、静けさが戻ってきたのであった――― ●幼きアイドルたち 戦闘が終わった後、怪我をした者は稲妻に回復してもらい、恙なく任務は終了した。 アイドルなどと持て囃されている神楽駆逐隊であったが、それなりの実力はあるし先輩開拓者たちによく追従して戦ったものである。駆逐隊だけで動きたいといったワガママがなかったのもポイントが高い。 「喜ぼう! ボクは色んな意味で嬉しい!」 「ありがとう。……お礼はちゃんと言えるし」 「……ん……いい経験になったよ」 「もぉ、フランヴェルさんってば甘えん坊ね。あたしがいないとダメなのかしら!」 「でも、本当に助かったのです。私達だけじゃきっと勝てなかったのです」 「あぁ……至福……! 今ボクは桃源郷に居る! 美少女四人をこの胸に抱きしめているこの幸福感……世界中の皆に分けてあげたいくらいだ! いややっぱり独り占めしていたい!」 感謝の気持でフランヴェルのハグに応えていた神楽駆逐隊の四人だったが、流石にそろそろヤバい雰囲気を感じ始める。 それを遠目に眺めていた神座は、ふぅ、と息を吐く。 「ふーん、なかなかやるね。ちょっとは認めてあげてもいいかな」 ちょっと年上のお姉さんとして、腕組みをしつつぷいっとそっぽを向く。 まぁ、神楽駆逐隊も自分たちからアイドルを自称したわけでなし……彼女らの存在を利用して少しでも人々の心を勇気づけようという善意なのだから邪険にするのも忍びない。 今日を生き延び、神楽駆逐隊は明日も征く。 時に先輩たちの手も借りつつ……願うは人々の安寧と、少しでも平和な世界――― |