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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「さて、今回は恒例行事の『ホモォ』撃退依頼よ」 「え? な、なんですって?」 「だからホモォ。夏と冬に大量発生するアレよ。今年の夏だってやったでしょ?」 「知りませんよ! 私、そんな依頼担当したことないです!」 ある日の開拓者ギルド。 職員の西沢 一葉がさも当然のように語りだした依頼を前に、後輩職員である鷲尾 亜理紗は初っ端から混乱させられていた。 一葉の口ぶりから察するに珍しいアヤカシではなく、よく発生するものらしい。しかも季節まで決まっているというのであれば亜理紗も担当したことがありそうなものだが、彼女にはそんな覚えはないらしい。 「あら、そうだったかしら。まぁ難しい依頼じゃないし、これからまたやることもあると思うから覚えていたほうがいいわね」 そう言って、一葉は手元にあった資料をぱさりと亜理紗の前に置いた。 そこには白い楕円形の胴体に人間のような手足が生えたよくわからない生物が描かれている。 「……なんですかコレ。なんで笑ってるんですか?」 「さぁ? こいつらの名前は『ホモォ』。夏と冬に活性化して具現化することが多いけど、基本的に一年中出没する。戦闘能力は低くて一般人でも武器さえ持ってればまぁ負けないわね」 「そんなのに開拓者さんたちを駆り出す理由は?」 「活性化するって言ってるでしょ。夏と冬、特にお盆と年末になると戦闘力が激増するのよ。最大の特徴として、『その場に男性が多ければ多いほどパワーアップする』っていうのがあるわ」 「……はい?」 「好みは個体差があるみたいだけど、基本的に美少年が参加してると強くなるわね。中にはロンスグレイなおじさまやマッチョ専門みたいなのもいるから注意すること。某Mさんとか某Yさんみたいに妄想力を掻き立てるようなコンビが参加してると目に見えてやる気が違うみたいだから気をつけて」 「……あの……アヤカシなんですよね?」 「それ以外の何かに見える? 聞こえる? ちなみに『ホモォ……』とか『ホモクレェ……』って鳴くわ」 「…………」 もうツッコむ気力もない亜理紗であった。 一葉は手馴れている模様でテキパキと依頼書を作成していくが、初めて担当する亜理紗は色んな意味でどうしたらいいのかわからない。 だからとりあえず諦める。諦めて筆を走らせつつ、ふと疑問に思ったことを口にする。 「……一葉さん。ホモが嫌いな女子なんていないと思います?」 「思わない。私、嫌いだもの」 「ですよねー。私は否定はしないけど関わりたくない派です」 「男と男、女と女なんて不健全よ。男女の恋愛こそ王道にして至高。異論は認めない」 ちょっと頭が硬い気もするが、一葉にそっちの趣味がなかったことに安堵する亜理紗であった――― |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
葛野 凛(ic1053)
16歳・女・泰
九朗義経(ic1290)
17歳・女・ジ
宮坂 咲渡(ic1373)
26歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●深き業 「ふふん、アヤカシ風情が! この私の大剣、喰らわせてくれようッ!」 そう息巻いていたのは、確かラグナ・グラウシード(ib8459)だったか。 寒風吹き抜ける冬の林を進んでいた開拓者たちは、特に苦労することもなく目標のアヤカシ……即ち、ホモォを発見した。 楕円形の真っ白い体に人間のような手足が生えた四つん這いのアヤカシ。特徴的なのはその表情。 「何だ!? 何故、奴らは笑っている!? くっ、こざかしい……余裕のつもりか!」 「いやいや、そんないいものじゃないですよ」 「あれがホモォか……笑顔なのは何か意味でもあるのだろうか?」 「楽しいんじゃないですかねぇ。妄想なら自由ですからねぇ」 『……?』 ラグナの憤り、葛野 凛(ic1053)の観察がてらの疑問に、篠崎早矢(ic0072)はテキパキハッキリと答える。二人は何か疑問に思ったようだが。 遠目から見ていても分かる。とにかくキモいアヤカシであるところのホモォから、風に乗って『ホモォ……』とか『ホモクレェ……』という声が常に漏れでていた。 ちなみに声には個体差があり、妙に可愛らしい声だったり妙にイケメンボイスだったり妙にダミ声だったりするようだがあまり気にしないほうがいいだろう。 「……妹に『いい加減、仕事してこい』ってニートみたいな扱いをされたから依頼を受けてみたけど、何この……何?」 「ぼ、僕も似たような感じです! 僕にピッタリの依頼があるから参加しておいた、とか言われたんですけど……どこがぴったり!?」 「いやぁ、お二人共ぴったりだと思いますよー。うんうん、いい反応です」 『……?』 冥越之 咲楽(ic1373)と相川・勝一(ia0675)は、実際に目にしたホモォにの姿にげんなりしきり。そこに満面の笑顔でフォロー(?)を入れたのはやはり篠崎。ここでも二人は疑問に思ったようだ。 「儀にはこうしたものが沸いて居るのか……世は無常よの」 「そうですか? 私は絶好の戦闘調整対象だと思いますけどね。女ですし」 「ところでだ。あやつら、凄まじい速度で近づいてくるようだが大丈夫か?」 九朗義経(ic1290)はからくりである上に、外見上男を模しているのか女を模しているのかイマイチ判断がつかない。 ペケ(ia5365)は言うまでもなく女性なのでホモォの興味の対象外だと思われ、これまた気楽だ。 しかしそんな弛緩した雰囲気を北条氏祗(ia0573)の何気ない言葉がぶち壊す。 近づいてくる? 何が? もちろんホモォだろう。 凄まじい速度で? あんな歪な形のアヤカシが? またまたそんなこと……と目をやると。 『ホッ、ホッ、ホモォォォォ!』 『ホモクレェェェ!』 例の12匹ばかりいるホモォが、ゴキブリかと思わせるような速度と動きで突っ込んでくる。その速度たるや、馬くらい楽勝でぶっちぎるレベルであった。 『大丈夫でない、問題だ!』 かなり距離を置いていたから油断した。どうやってこちらを察知したのかは分からないが、開拓者たちはとにかく迎撃体制を取る。 笑顔のまま突っ込んでくるホモォたち。そのまま突撃・強襲をかけてくるのかと思いきや、開拓者たちの十メートルほど前で急ブレーキをかけて止まってしまった。 「……な、何よ。私達に御用?」 「僕は虎、僕は虎。だからきっと大丈夫!」 冥越之は化粧をし女物の着物に身を包んでいるが男である。 相川はまるごととらさんを着こみ虎の面を被っているが男である。 そして、ホモォたちの視線は間違いなくその二人に注がれている……。 ちなみに開拓者たちには分かりようもないが、ホモォたちの脳内ではこんなやりとりが展開されていた。 『ウフフ……可愛いわね。お兄さんが君の新しい世界を切り開いてア・ゲ・ル♪』 『はわわ……! ま、待ってください……僕、まだ心の準備が……!』 『大丈夫よ……準備なんて忘れちゃうくらいの甘ぁ〜い世界だから……♪』 ぞぞぞ、と冥越之と相川の背筋に極寒とも言うべき悪寒が走った。 あの笑顔の奥で自分たちがひん剥かれて思いもかけない台詞を言わされているような気がする。 それだけならまだしも、このままにらみ合いを続けていたらその妄想が加速して――― 「あ、相川・勝一、参る!」 「じょ、冗談じゃないわよ!」 冥越之はともかく、相川は顔すら見えないのに、ホモォたちの妄想恐るべし。どうやら彼女たちの中では面を取れば間違いなく美少年という意識が確立しているらしい。 二本の槍を手にホモォたちに突撃する相川と、それを弓で援護する冥越之。だがそれがまたホモォたちを活性化させるとは本人たちは気づいていない。 「……ところで、『ほもくれ』とは何だ? 何なんだろうな、なぁうさみたん」 「む。うさみたん殿は御存知なのか。是非御教授願いたい」 「え……。その……『わ、ワタシは知らないうさー(裏声)』」 「そうか……残念だ。だが我が友うさみたん殿のためにもあやつらは斬り伏せねばなるまい」 「『頼りにしてるうさー(裏声)』……というか、あいついつからうさみたんの友達に……?」 九朗が刀を抜いてホモォたちに向かっていくのを見やりつつ、ラグナはポツリと呟く。 その背後にすすすと忍び寄った篠崎は、 「ちょっとお耳を拝借」 とラグナにホモクレの意味を耳打ちで教えた。 「ふ、ふーん? 男性の、同性愛のことか。まあ私には関係ないな! 私は美しい女性が好きだ! 胸が大きくて賢くて―――」 「いいから戦え! 手数が足りないんだ!」 「おっと了解! さぁ覚悟を……って……?」 すでにホモォと交戦し蹴り飛ばしていた葛野に叱咤され、ラグナは気を取り直した。 しかしその彼をジーっと見つめる二匹のホモォ。 『よ、よせっ、そんなところ……!』 『何を言っている……身体は正直なものよ。そら、いくら口では女が良いなどと言いつつも……』 『これは違う! あっ、そんなっ、助けてうさみたーん!』 「ってお前らが止せぇぇぇっ!」 「いかがわしい妄想に拙者まで巻き込まないでもらおう……!」 ラグナと、たまたま近くにいた北条で妄想をしていたホモォ。彼らも悪寒を感じ剣と弓で応戦にかかる。 「気味の悪い化物めッ! 一刀両断だあああッ!!」 ラグナが振りかぶった魔剣の一撃。しかしホモォはそれを真剣白刃取りで受け止める! 「なっ!?」 『ホモォ……』 「う、うわーッ! うさみたんだけは、うさみたんだけは手を出すなーッ!」 空いた口から巨大な舌が伸び、ラグナをペロペロしはじめる。正直壮絶な光景である。 背中に背負ったぬいぐるみだけは守ろうと、ぎゅっと抱きしめ守ろうとする。 だが、それでは当然応戦はできない。ラグナのもとに、2匹目3匹めのホモォが群がり始める……! 「今助ける! 喰らえ、旋風脚ッ!!」 「あらあら、もう少し頑張ってもらわないとですよ〜」 葛野とペケが援護に入り、ラグナ(とうさみたん)を救護する。 ホモォの唾液でベトベトになってしまっているラグナがとても気の毒である。 「あーもう何やってるんですかー! 助けに入るなら北条さんでしょ!? なんで女性のお二人が助けちゃうかなぁ! 分かってませんねぇ!」 そこに篠崎がやってきてわけのわからないことを言う。そして彼女の後ろにいたホモォたちからも、笑顔は崩さないながらもぶーぶーというブーイングが飛ぶ。 「知らんわっ! こっちはうさみたんを守るので必死だ!」 『ホモォォォ! ホモクレェェ!』 「まったくだ!! もっと言ってやれ! ホモクレエ!」 「お前は一体誰の味方だ!?」 「決まってるじゃあないですか。私は私の味方です」 「なんで格好よさ気なんじゃぁぁぁっ!」 キリッとキメ顔でかっこよさげな事を言う篠崎に、ラグナは思わず地団駄を踏む。 というか、いつの間にか篠崎とホモォが同盟を組んでいるような気さえするのは気のせいだろうか……? と、そこに。 「感染症であったか……斬らねばならぬ、許せ」 「うひゃぁぁっ!? ちょ、危ないじゃないですか!?」 完全フリー状態の九朗が刀を抜いて篠崎に斬りかかった。 「……む? 貴殿は敵に回ったのではないのか?」 「ち、違います! そりゃまぁ彼女らの思想は理解しますが、所詮人間とアヤカシは相容れないのです!」 「そうか。紛らわしいな。まぁいい……この九朗義経、叩ッ斬る!」 切り替えが早い九朗は、篠崎のことをすっぱり忘れホモォ討伐に戻る。 しかしどうも腕が足りていない。というより、流れるように戦うのはいいのだが舞を踊っているような風味が強く、活性化しているホモォ相手にかなりの苦戦を強いられる。 ホモォの方は、九朗のことは完全に眼中にない。本能で九朗が人間ではないと悟っているのだろう。 邪魔だとばかりに繰り出されたホモォの拳が九朗を捉えようとした時……! 「疾っ!! このようなアヤカシ、私の弓の前では的にすら劣る!」 「それを最初からやっていればややこしい話にならなかったものを」 「……だが私は謝らないのです」 篠崎と北条の放った矢がそのホモォを貫き、九朗を援護する。本人はまるで気づいていないが。 北条の嫌みは思いの外グサッと来たのだろう。言葉はあれだが渋い顔をする篠崎であった。 「あぁっ、この笑顔が腹立たしいっ!」 「お化粧が剥がれちゃうから近づかせないで頂戴!」 ホモォは男にばかり寄るので相変わらず相川や冥越之は大人気である。 お互い離れていたほうが良いということで合意したので、相川はペケと、冥越之は葛野と組んで交戦中。やはり男のペアより見るからにホモォたちのやる気が下がっている。 だが、モチベーションが下がる中に光明を見出すのが高い妄想力。あえて顔を隠している相川の素顔が見たいと思う個体が増えてきたのか、急に相川にホモォが殺到しだす! 隠されたものが見たい。隠されれば隠されるほど知りたい。そう思うのは人間も同じだが……。 「くっ……何かある前に一気に決めさせて貰う! さっさとやられるがいい!」 仕方なく、まるごととらさんと虎の面を素早く脱ぎ去り天高く放り投げる相川。 敵の注意を引き、その隙にホモォ一体を打ち倒すが……まるごととらさんの下は褌一丁であったため、その可愛らしい容姿が判明したこともありホモォたちが大歓喜状態になってしまった。 『ホモォォォ!』 『ホッ、ホッ、ホァーッ!』 「何か別の混じってません!? しまった……何か余計に状況が悪化したような気がしますー!? く、舐めないでくださいー!?」 この寒い中で褌一丁。しかしホモォの舌は意外と暖かくて逆に腹立たしい相川であった。 「仕方ない、ここは一旦全員固まろう!」 「露払いは私とペケでやる。どうやら女からの攻撃はダメージが増し増しのようだから……なっ!」 「うふふ〜、いいですねぇ。いい感じに数が揃っていて、程々に弱くて、でも無抵抗ってこともなく。全く危機感を感じさせないし、どんなにボコッても不思議なくらい良心が痛まないと言う♪」 「えっと……男の私たちはすんごく辛いんだけど。のっけから視姦だしね……?」 葛野、ペケがホモォを蹴散らしながら道を開き、そこにラグナ、北条、冥越之、篠崎が走りこんで相川を救出する。九朗は相変わらずのフリー状態。 今回、依頼に参加した男性は4名。元々は一般人でも勝てるはずのアヤカシにしてはパワーアップし過ぎなのではと思う。 もし8人全員男だったらと思うと笑えない一同であった。 「……もし九朗さんが男性を模したからくりだったなら……それはそれでカップリングに加えるのもアリだと思うんです」 「……また斬りかかられるぞ」 「……ほ、ホモイラネェ……」 ところどころで本音がポロッと出る篠崎。いちいちツッコんでくれる北条は面倒見がいい。 「何かないのか? この状況を打破できそうな作戦は」 「と言われましてもですねぇ……。……あ」 ぽん、と手を打った篠崎は、徐ろに北条に抱きついてみる。 するとホモォたちは一瞬ビクリと震えた後、軽く肩を落としたように見えた。 「やっぱりこれですか……。うぅ、胸が痛みますが……葛野さん、ペケさん、それぞれ相川さんと冥越之さんに抱きついてください!」 大体察した葛野とペケは、言われるまま……ペケはイタズラっぽい笑みを浮かべて、男性陣に抱きついてみる。 するとやはりホモォたちは一瞬震え、気配でやる気が削がれていくのが分かる。 「なぁ早矢たん早矢たん。俺の相手は?」 「うさみたんと九朗さん、お好きな方でどうぞ♪」 「……りあじゅうどころかにせじゅうにもなれないのか俺は……。うわぁぁぁん、うさみたーん!」 大の大人が憚りもなくぬいぐるみに抱きつき泣き言を言う。それがダメなんじゃあないか? とは思っていても言えない一行であった。 ……と。 「何を遊んでいる。終わったぞ」 『へ?』 不意にかけられた九朗の言葉。見ればホモォたちは一匹残らず斬り伏せられ、順次瘴気に還っていた。 男女のカップリングを見せつけられやる気を削がれたホモォを殲滅するのには、九朗一人でも充分だったのである。 念の為に記しておくが、男女が仲良くしていたからやる気を失くしたのではなく、男同士のカップリングを邪魔されたから萎えたのだ。似ているようで微妙に違う。 九朗は舞台の締めとばかりに、刀を高く掲げこう宣言するのだった。 「この九朗の雄姿、焼きつけよ!」 しかしこのホモォたちが最後であるはずがない。 来年の夏も、冬も……世に男の在る限り、第二第三のホモォたちが――― |