脱げば脱ぐほど強くなる
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/04 12:53



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――


 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 黄道十二星座を模した星座アヤカシも三体目を撃破したが、あまり話を出来る状況ではなかったため星の一欠片の謎については遅々として解明が進んでいない。
 しかし、六分儀座と八分儀座という、思いもよらぬ星座アヤカシから思いもよらぬ情報が飛び出した。
 導星の社(どうせいのやしろ)。星座アヤカシ曰く、それがあるから星座アヤカシが発生するし星の一欠片の効果も発動するという。
 問題は、集星という地域にそのような社の記録はなく、また伝承も無い。今までに散々調べたのでそれは確かだ。
 無いはずの場所に無いはずのものが今もある。誰が、いつ、どこで? 手がかりは得たが、未だに謎は深い―――
「今日の星座は―――」
「竜座、ドラゴンでしょ。それ以外ないじゃないですか!」
 ある日の開拓者ギルド。
 職員の鷲尾 亜理紗は、先輩職員の西沢 一葉が星座名を言う前にそれを言い当てた。
 彼女の手には依頼書が握られており、その冒頭に『脱げば脱ぐほど強くなるアヤカシ』と書いてあったのだ。
 それでどうして竜座以外ありえないのかは分からないが、とにかく間違っていないらしかった。
「分かってるなら話は早いわ。この竜座は全身を鎧で固めたアヤカシなの。で、攻撃を当てれば当てるほど各部位の鎧が外れてくんだけど、外れれば外れるほど戦闘能力が増してくわけ」
「それだったら外れる前に一気に叩くとか、急所を狙って……とか」
「それがね……どうも鎧が外れ切らないと本体にダメージが入らないみたいなのよね。各部位に一定以上の威力の攻撃を当てて、鎧を外していく。それをやり切らないと絶対に死なないしダメージが入らない」
「でも外れたら外れた分だけ強くなるんですよね!?」
「そ。武器は持ってなくて、素手で戦う泰拳士みたいなスタイル。ちなみに盾なんかも持ってないから安心して」
 鎧が外れれば防御力は下がるが、代わりにパワーやスピードが上がるのは自明の理。
 しかも厄介なのは、鎧を外すための攻撃はどんなものでもいいというわけではなく、それなりのダメージになるものでないとダメらしい。
 加えて、外れた鎧を拾って再装着することもあるらしいので、その辺りも対策しておかないといけないかもしれない。
「ふーむ……厄介ですねぇ。あれです、装龍ヒートガンみたいなやつなんでしょうね」
「懐っ! その名前、覚えてる人どれだけいるのかしらね……。勘違いがあるみたいだけど、このアヤカシは人型で身長も150センチくらいしかないわよ。私達とさして変わらない感じ」
「へ? 竜人って感じじゃないんですか?」
「うん。黒髪ロングの可愛い女の子」
「……それを攻撃して、鎧をひん剥いていくと?」
「うん。おっぱいも結構あるらしいわよ」
「……ちなみに、鎧の下は?」
「うん。お察しの通り素肌ね」
「………………旦那様には参加しないようにお願いしようかなぁ……」
「……ま、まぁそれは夫婦で話し合って頂戴。念を押しておくけど、本当に強いからね? 外見とか脱がすことに躊躇してたらえらい目に遭うわよ」
 正味な話、どこがどう竜座と関係有るのかよくわからないアヤカシである。
 それでもその少女が竜座のアヤカシなのは確定的明らかなのだ。倒さない訳にはいかない。
 様々な面でやりにくいこのアヤカシ……果たして、無事に倒すことができるだろうか―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

●ドラゴンブラッド
 草木は色を失い、寒風だけが元気に吹き抜けていく石鏡の平原。この時期は外に行くのも正直しんどい。
 防寒対策を怠れば手が悴み、武器や盾を持つ手すら覚束なくなる。
 そんな季節の中にあって、夏場で時間が止まってしまったかのような存在がそこにはいた。
 頭には竜の顔をあしらった兜。両腕に手甲のようなもの、両足は膝ほどまであるレッグパーツに覆われ、腰には膝上30センチほどのスカートのような鎧、そしてへそ出し上等のブレストプレート。
 無論、インナーは無し。本来ならば健康的なはずの肌色も、このクソ寒い時期では寒々しいだけである。
 堂々と仁王立ちしているその少女に、鷲尾天斗(ia0371)は至って気さくに声をかけた。
「俺は鷲尾天斗。君の名前は?」
「ぃよく来たわね、命知らずの8人組よ。私の名は華龍(ファロン)。ドラゴンファロンよ。いざ尋常に勝負!」
 強い意志を感じさせる瞳。そして鍛えぬかれた武闘家であると一目で分かる闘気。
 そんな彼女の前に立ち、どんと口上を述べるものがいた。
「こちらには女性を押し倒す事に関しては無敵のプロと、女性を脱がす事に掛けては天儀一の天然ジゴロが居ます……貴方に勝ち目はありませんわ!」
 各務 英流(ib6372)はビシッと華龍を指さし、得意気にそう言ってのける。
 しかし開拓者側にはそんな人物に覚えはない。首を傾げる者が多い中、片や苦笑い、片や頬をひきつらせつつ各務に確認を取る。
「あの……もしかして後半は僕のことですか……?」
「俺がいつ女を押し倒したよォ。何時何分何十何秒、朝日が何回登った時だァ!?」
 雪切・透夜(ib0135)と鷲尾は、僅かなキーワードと練りこまれた悪意から、各務が自分たちのことを言っているのだと悟った。
 そのリアクションに各務はただただ驚き、
「……違いましたの!?」
「違います!」
「違うわァ!」
 小気味のいいボケとツッコミが繰り広げられたのであった。
 華龍は一瞬開拓者たちのノリについて行けず困惑したが、軽く咳払いをして気を取り直す。
「まず聞きたいことがある。導星の社ってのはなんなんだ?」
「っ!? 何故人間がそのことを……!?」
「どうしても何も、六分儀座と八分儀座さんたちが普通に教えてくれましたけれど」
「……あいつらぁ〜……!」
 頭を抱えて忌々しげに唸る華龍。緋乃宮 白月(ib9855)がさらっと答えたのがかなりショックだったようだ。
「まぁいいわ……バレてるなら少し教えてあげる。導星の社とはアヤカシを創り出す瘴気と人間の想いを混ぜるための装置のようなもの。私達を星座アヤカシたらしめているのは、元はあなた達人間が長い時の中で星々に馳せた想いの力なのよ」
『なん……だと……?』
 情報が聞けたらいいなくらいの感覚で聞いてみた鷲尾であったが、意外にも華龍からの答えは随分核心を突いているようだった。
 そもそもアヤカシは人間の負の感情を瘴気に還元する存在。しかし、負の感情だけではなく希望や願いといった正の感情まで取り込めたなら最強に見える。
 その模索の一環なのだろうか。ここ集星でアヤカシたちが星座をモチーフに顕現するのにはそういう理由があったのだ。
 華龍が戦闘モードに入ったのを察知し、開拓者たちもすぐさまそれに呼応する。
「燃え上がれ、私の瘴気よ! 餓山炎殺……落龍覇ぁ!」
「何か色々混ざってませんかぁ!?」
「冗談でしょー!?」
 華龍の拳から龍の形をした瘴気の奔流が放たれ、開拓者たちを襲う。
 真亡・雫(ia0432)や叢雲・暁(ia5363)を筆頭に、必死の形相でそれを回避する。
 魔術……いや、闘気に近いか。弾道の下にあった枯れ草たちはドス黒く焦げたように変色していた。
「このドラゴンの最大の奥義を躱すとは……なかなかのものね」
「いきなり最大の奥義なんですかぁ!?」
 相川・勝一(ia0675)のツッコミも、最早華龍を止めることはできない。お話の時間は終わったのだ。
 大地を蹴り開拓者に肉薄する華龍の前に立ちはだかったのは……フランヴェル・ギーベリ(ib5897)!
「フッ、照れてるのかい? 可愛いじゃないか。さあ、そんな無骨な鎧は脱いで……ありのままの自分を太陽にさらすのだ!」
「っ!?」
 華龍が繰り出した拳を盾で受け止めたフランヴェルは、身体を捻り華龍の力を受け流しつつ柳生無明剣を放った。
 華龍もみすみす喰らいはしない。左腕を差し出し、分身するかのような刀身を受け止める!
 キィンッ! と甲高い音が響いた後、華龍に装着されていた左腕のパーツがくるくると宙を舞い地面に落ちる。
「くっ……まさか一撃で私の瘴衣(ミアズマ)を弾き飛ばすなんて……!」
「黒髪美少女か……もっと幼ければよかったのに! ……いや、そうなると戦うどころではないか、フフッ」
 言動はアレだがフランヴェルは実力を備えた歴戦の勇士。その一撃は、一定のダメージを与えないと外れないという華龍の鎧を弾き飛ばすのには充分すぎる。
「ではこれも受けたまえ! ボクに力を貸しておくれ、アンドロメダ座!」
 フランヴェルは星の一欠片を手にしその効果を発動する。
 ダメージ肩代わりであったり光の鎖を出したり防御的な効果の多いこのメダル。彼女の場合は……
「なんだい……この遅い光弾は」
 黒い光弾がフランヴェルの手から放たれるが、それがまた遅い。ノロノロ空中を進む上に直進しかしないので、華龍も余裕で身をかわす。
 それが地面に触れた時……黒い光弾は無数の黒い鎖に変化し、近場にあった石を雁字搦めにしてしまったのである。つまりは『触れた相手を拘束する黒い光弾を発射する』といったところ。
 問題は……
「遅すぎるのよっ!」
「くぅっ!?」
 急接近した華龍は、フランヴェルが構えた盾の上からあえて蹴りを見舞い、空中で回転して地面に降り立つ。
 バランスを崩されたところに追撃の手が―――
「させませんよ」
「んじゃ、お互い悔いが残らねェ様にヤロォぜ!」
 緋乃宮と鷲尾がそれをカットしに入る。
 が、華龍はそれを読んでいた。……いや、見越していた?
 迫り来る二人を前にニヤリと笑い、龍の形をした瘴気を纏い突撃する!
「飢山、龍天翔ーーーッ!」
 不意を打たれたのは開拓者の方。緋乃宮はなんとか回避に成功したが、鷲尾はまともに拳を喰らってしまう!
 誰もが吹き飛ばされる鷲尾を想像する。しかし顔面に直撃を食らってなお、鷲尾はその場にドンと立ち、口の端から血を流しながらも笑って見せた。
「星の力を使えるのが自分たちだけだと思うなよォ?」
「……そうだったわね。あなたたちが星の一欠片と呼んでいるその力……厄介だわ」
 すぐさま離れた華龍。鷲尾が使用したのはテーブル山座のメダルで、その効果は『自身の重さを20倍にする』というもの。ただし、本人が動く分には重さの影響はない。
 実に1トンを軽く超える体重となった鷲尾にとっては、吹っ飛ぶ心配は殆ど無い。まぁ、ダメージが軽減されるわけではないので痛いものは痛いが。
「もし組み付かれれば抜け出せるかは怪しい……ならば!」
 さっと視線を走らせ、華龍は一番与しやすそうな相手を探す。
 そこから導き出された目標は各務……ではなく叢雲!?
「僕が一番弱そうって!? 見る目ないね〜!」
「どうかしらね! あなたが一番……火力が無さそうっ!」
「……!」
 接近戦を受けざるを得なくなった叢雲は、奔刃術を駆使し回避と同時に攻撃を行う。
 しかしそれは必殺の一撃というものではなく、継続的に攻撃をしていくための技術。
 しかも華龍は鎧が全て外れなければダメージを受けない。多少の無理は承知で強引に掴みかかってくる……!
「む〜、やるねぇ〜!」
「そしてそろそろ……二人が来るッ!」
『!?』
 再び放たれた落龍覇。獰猛な瘴気の黒龍が咆哮し、助けに入ろうとした真亡と雪切に襲いかかった。
 今回、雪切は盾を所持していない。瘴気の奔流に飲み込まれた二人は、全身を焼くような痛みを受け地面に転がってしまう!
「さっきもそうですけど……僕達の動きを先読みしている……? いや、知っている……?」
「さて、なんででしょう? 答えは冥土の土産にしてあげるわっ!」
 緋乃宮の疑問にいたずらっぽく笑ってみせる華龍。
 距離を取ろうとする緋乃宮を華龍が追おうとしたその時だった。
「せいやー!」
「!?」
 ガギィン、と重苦しい音が響き、華龍はつんのめるように地面に両手をつく。
 続けて放たれた流れるような刺突を転がって回避し、立ち上がったその時……彼女が着けていた胸部分の鎧が外れ、二つの膨らみがあらわとなる。
「な、何かアヤカシとはいえ、女の鎧を剥いでいくのは何か……何というか」
 冷や汗タラタラ、気恥ずかしさで目をそらしがちな少年。華龍に不意打ちを喰らわせたのは相川である。
 雪切と真亡の介入は読めたのに、何故相川の不意打ちはまともに受けてしまったのか……?
「く……こいつとあの女二人は読めない……!」
 左腕で豊満な胸を隠しつつ構えを取る華龍。どうやら相川、叢雲、フランヴェルのことを言っているらしい。
 が、やり辛いのはこちら側の男性陣も同じ。なまじ華龍に恥じらいがあるせいで、元々女性慣れしていないメンバーが多いため目のやり場に困る。
 いっそ見られても平然としているようならこちらも幾分か気持ちが楽なのだが……。
「再装着はさせない!」
「透夜くん、勝一くん、受け取って!」
 痛む体を引きずりながら、雪切と真亡が鎧の奪取を目論む。
 真亡はエリダヌス座のメダルを用い、『刀を振るう度に地を走る水の刃を作り出す』。
 その水の刃で転がっていた二つのパーツを弾き飛ばし、くるくると宙に舞い上げた。
 親友であったり小隊仲間ということで、三人の連携は抜群。僅かな声掛けだけで真亡の意図を理解しパーツを受け取りに―――
「させないっ!」
 地を蹴り近場の左腕のパーツを取りに行こうとする華龍。しかし……!
「お譲りしますよ」
「軽くなった分機動力は上がるのだ!」
「!?」
 雪切、相川は不意にパーツから意識を戻し、華龍への攻撃へとシフトする。
 パーツを取りに行こうとしたのは見せかけ。それに乗ってきた華龍を攻撃する事こそ真の目的!
 小狐座と小馬座のメダルが輝き、雪切の刀には鋸のような無数の光る刃が走る。
 一方、相川は空中で目に見えない何かを蹴り、立体的な機動で強襲をかけた。
「しまっ……くっ!」
 二人の攻撃で両足のパーツを飛ばされた華龍。地面を転がりながらも無理な体制で技を仕掛ける!
「餓山炎殺……八龍覇ぁっ!」
 華龍の両腕から八匹の黒い龍が現れ、開拓者たちに喰らいついていく。
 一匹一匹の威力は落龍覇の方が高いが、複数人数を攻撃できるのが強みか……!
「はぁっ、はぁっ、まだ来る……こんなに生易しい相手じゃ……ないっ!」
「……慢心もなしですか……手強い……!」
「ちょっと! 先ほど叢雲さんを狙ったのは、私が戦力外とでも仰りたいの!?」
「あら、違うのかしら!」
 緋乃宮と各務が痛む体を押して接近する。
 流石に胸を隠しながら片手で緋乃宮の相手は厳しいと踏んだのか、揺れる胸を曝け出してでも迎撃に回る。
「あ……う……」
「は、恥ずかしがらないでよ! 私のほうが恥ずかしいでしょ!」
「そ、そんなことを言われましても……!」
「こらー! 私を無視するんじゃ―――」
「五月蝿……いっ!?」
 時計座のメダルで自分の速度を徐々に上げていく緋乃宮と、魚座のメダルを使い『ヒット時に体を液体化して一回だけ物理攻撃を無効化する』各務。
「ふふーん、もう全部私一人でいいんじゃありませんこ……とぉっ!?」
 生憎連続攻撃には対応していないので二撃目の回し蹴りでふっ飛ばされる各務であった。
 しかしその隙に……
「―――行きます!!」
 気恥ずかしさを振りきって爆砕拳を放つ緋乃宮。が、それを華龍は読んでいた。
 身を屈め素早く緋乃宮に足払いをかけ、そのまま地面に手をつきもう一回転して蹴り飛ばす。
 その際、意地で放った緋乃宮の爆砕拳が頭部のパーツを飛ばすがそれに留まる。
「そして真亡、鷲尾の追撃!」
「また読まれた!?」
「名前までバレてんじゃねェですかァ!?」
 再び落龍覇を放ち、真亡を吹き飛ばす。踏みとどまった鷲尾もダメージで膝をついてしまう。やはり脱げば脱ぐほど強くなるという話は伊達ではない。
「隙ありだ! 全力全開、この一撃を食らうがいい!」
「その秘密の花園、見せてもらおうじゃないか!」
「くっ……!」
 どうにも解せないのは、相川とフランヴェル、叢雲については全く読みが発動しないこと。
 気配で攻撃してくることくらいは察知しているが、迎撃まで完璧にこなすレギュラー陣とは余りに対応力が違う。
 二人の攻撃で右腕と腰の部分のパーツを弾き飛ばされ、ついに華龍は一糸まとわぬ姿になってしまった。
 体の構造は人間と全く同じ。両腕で何とか隠しているが、お子様には刺激の強すぎる格好だ。
「……よくも私をこんな……! でもその強さに敬意を表して教えてあげる。あなたたちのことは、星の一欠片を集めてるっていう人間から聞いたのよ。強くて倒しがいのある奴らが来るってね。戦法や傾向と対策も含めて」
「ごほっ……いるいるとは聞いてたが、そんなことを始めやがったのかよ……!」
「もしかして漁夫の利狙いってこと〜!?」
「さぁね。もう一つ……『タイムリミットは近い』わよ。気をつけることね」
 開拓者たちのダメージも馬鹿にならない領域だ。それに対し華龍はようやくダメージを与えられるという段階。
 裸であるにもかかわらず構えを取り、大技を以って開拓者殲滅に動く……!
 その眼前に立ちはだかったのは……叢雲!
「嫉妬の対象、即ち今回の目標であるドラゴン! テメーだ!」
 何故か自分も裸になり寒風に身を晒す叢雲。
 正直危険な賭けだ。自身のダメージもあるが、頼みの綱の蠍座のメダルは彼女が使った場合の効果が判明していない。
「僕等が研鑽と修練と妄想と欲望を重ねても脱いでる状況よりも適度に武装した方が強いのに、そっちはそーだなんてヒジョーにウラヤマシーぞコンチクショー!!」
「知らないわよ! 禁じ手……餓山炎殺、滅龍覇ぁぁぁっ!」
 華龍を中心に広がる瘴気の爆発。すべてを飲み込む黒龍の渦。
 それを斬り裂き、叢雲が華龍の眼前へ……!
「どうして……!?」
「蠍座の導きだよ〜!」
 叢雲の放った延髄斬りが華龍の頭部に直撃し、その生命ごと意識を刈り取る。
 滅龍覇は諸刃の剣。自分の生命力も減少させてしまうので、それを無効化してきた叢雲の一撃だけで決着がついてしまったのだった。
 あっけない、とは言うまい。今原野に立っているのは裸の叢雲だけ。他のメンバーはなんとか生きているというレベルだ。
 叢雲が使った時の蠍座の効果は……『嫉妬している相手が放った範囲攻撃を一回だけ無効にする』というもの―――