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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 数々の星座アヤカシを打ち倒してきた開拓者たちの前に突如示されたもの。それは導星の社(どうせいのやしろ)と呼ばれる謎の施設の正体である。 竜座ドラゴン曰く、 『導星の社とはアヤカシを創り出す瘴気と人間の想いを混ぜるための装置のようなもの。私達を星座アヤカシたらしめているのは、元はあなた達人間が長い時の中で星々に馳せた想いの力なのよ』 とのこと。 そんなものを人間が創りだすとは考えにくい。創り出せるとは考えにくい。よって、導星の社とはアヤカシが建造なり建立なりしたと考えるのが妥当だろう。それならば現地の人間が誰もしらないのも、記録に残っていないのも頷ける。 アヤカシが創りだしたと思わしきより強力なアヤカシを作るための設備が、星の一欠片という力を人類に与えたのは皮肉という他ない。 しかし、それはどこにあるのだろうか? 集星のどこかには違いないのだろうが、そんな建造物は知られていない――― 「さて、今回の星座アヤカシは何でしょう?」 「いや、わかりませんよ。依頼書の冒頭に『んんwww』しか書いてないんですもん。で、なんですかこの……記号? 草?」 「草でいいと思う。どうやら笑ってることを表現してるみたい」 「どちらにせよ、これだけじゃどの星座かわかりませんって」 ある日の開拓者ギルド。 お正月気分もようやく抜けて、いつものように仕事に精を出す西沢 一葉と鷲尾 亜理紗。独り身の一葉と違って既婚の亜理紗は家庭の仕事も色々大変なのである。 依頼書の冒頭に書かれた見慣れない記号に困惑する亜理紗。一葉は当然だなと思いつつ話を続けた。 「今回は顕微鏡座ミクロスコピウム。……と、それに協力する人間かしら」 「もしかして、例の星の一欠片を集めてるっていう……?」 「そう。調べたところ、集星に拠点を置く平坂 空羅(ひらさか くうら)っていう名家の当主が星の一欠片を集めさせてるみたい。買い取った物を含めて、現在21種所持してるみたいよ」 「なんだ、それっぽっちですか。こっちはもう30枚オーバーですよ♪」 「だから対抗心燃やされてるの。それに、今のところ黄道十二星座のメダルを持ってるのはギルドだけ。直接言ってきてはいないけど、人を通じて何度も売ってくれって言ってきてるみたいよ」 「冗談じゃありませんよ。黄道十二星座は開拓者さんたちにとっても思い出深い強敵たちです。おいそれと譲れません」 「まぁね。だからこそ変な横槍で取られたりしないようにしなきゃってこと」 気を取り直して、一葉は顕微鏡座の説明に入る。 顕微鏡座はどうやら人型で、口ひげを蓄えた老人の姿らしい。 学者、とでも言うのだろうか。白衣を着て、ジルベリアの医者風味にも見えるらしい。 問題となるのはその戦闘力よりも能力の方にある。 「顕微鏡座は回避力に優れていて、のらりくらりと避けつつ『んんwww 〇〇はありえませんぞwww』とか言ってくるらしいの。すると言われた方は何故かその攻撃方法が使えなくなってしまう。他にも『んんwww 〇〇以外ありえないwww』とか言われると、強制的にその攻撃方法を取らされちゃうみたい」 「……それ、要は嘲笑いながらってことですよね?」 「そ。鬱陶しいでしょ。ちなみに本人に攻撃力は殆ど無いから、基本的には同士討ちを強制させることが多いみたいね」 「先生質問! どの辺りが顕微鏡座なんですか? そもそも顕微鏡って何ですか?」 「えー、あー、私もよく知らないんだけど……なんか望遠鏡の逆で、近くのものを大きく見るための道具だとか。とりあえず一般人には馴染みがないわね。どの辺が顕微鏡座なのかは……私に聞かないで頂戴」 「ですよねー。とりあえず、今回もその平坂空羅って人がこちらの情報を教えてて妨害してくるってことは確実なわけですよね……。でも、どうして平坂の手の者は星座アヤカシに襲われないんでしょう?」 「さぁ……有益な情報を提供してるからなのか、他に何か理由があるのか……。とにかく気をつけてもらいたいわね」 またしても現れた星座アヤカシと、それに開拓者たちの情報を流し開拓者の隙を伺う平坂空羅なる男の存在。 新年が明けて、不意に大きく動き出した星の一欠片の物語。その行く末は如何に――― |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
トゥルエノ・ラシーロ(ib0425)
20歳・女・サ
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
不散紅葉(ic1215)
14歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●知という言葉 「んんwww 来ると思っていましたぞwww」 集星にある件の林。 顕微鏡座がいるとされる場所に到着した途端、開拓者たちはその姿を確認した。 立派な口ひげを蓄えた白衣の老人。一見するとジルベリア風の医者にも見える。 情報通りとはいえ、いささか拍子抜けする。少なくとも強そうにも回避が得意そうにも見えない。 だが、油断は二重の意味でできない。目の前のアヤカシの他にも、平坂空羅なる人間が暗躍しているのだから。 「とりあえず心眼「集」の範囲には反応ありません。皆さん、迅速に!」 「フッ……遅いな。こちらはすでに配置を終えているぞ?」 「もう、せっかちは嫌われるわよ?」 「その通りですなwww 素早さ至上主義とかありえないwww」 「そのせっかちじゃないわよ!」 真亡・雫(ia0432)によって、とりあえず近場に別の脅威がないことを確認した一行は、すぐさま顕微鏡座の包囲へと動く。 瞬脚を使用できる何 静花(ib9584)などはすぐさま相手の背後へ回り、退路を断つ。 トゥルエノ・ラシーロ(ib0425)などの近接戦闘組がしっかり相手を取り囲み終えてなお、顕微鏡座は余裕な態度を崩さない。むしろトゥルエノの方が煽られてペースを乱されてしまっている。 「ふむふむ、知らない顔がひぃふぅみぃwww 見せ合いなしなど運ゲーですが、必然力でカバーですなwww」 「予想以上にうぜェ……」 「同意するけど少し我慢してくれ。どうやら手の内を読まれてなさそうなメンバーは半々ってところだな」 「しかし危険ですわ……私以外全員特殊な性癖の持ち主だと見抜かれてるとは!」 『んんwww それだけはありえないwww』 「敵味方もろともツッコミですかー!?」 今にも魔槍砲をぶっ放しそうな鷲尾天斗(ia0371)を、水鏡 絵梨乃(ia0191)が制止する。 相手の能力が能力だけに短期決戦を挑みたいのは山々だが、無策で突っ込むのも危険だ。 せめて相手がこちらのメンバーの誰のことを知らないのかということは把握したい。 各務 英流(ib6372)のナイスジョーク(笑)で場も和んだところで、顕微鏡座はあることに気づいた。 開拓者たちの包囲から少し後方に、一人だけぽつんと立っている者がいる。 ゆったりとしたマントにフードを深く被っており、その素顔を窺い知ることはできない。 それはより広範囲を警戒中のレネネト(ib0260)。彼女は基本後衛である上に、味方が混乱した際の立て直し役も兼ねている。直接包囲に加わる必要などない。 「んんwww 役割を持てない開拓者などゴミですなwww」 「なら……あなたをゴミにして、あげる、の……」 的はずれな発言をした顕微鏡座に向かい、不散紅葉(ic1215)を始めとするメンバーが踏みだそうとする。 しかしそれより速く、顕微鏡座は言い放った。 「んんwww 一斉攻撃はありえませんぞwww」 『!?』 その言葉が響いた途端、最初に踏み出していた不散紅葉以外の身体が硬直する。 確かに一言につき相手一人にしか影響がないという情報はなかった。 そして自分の能力をよく知り頭の回る顕微鏡座が、一斉攻撃という不利な状況を見逃すはずがなかったのである。 大切な人から貰ったという不散紅葉の刀。それが空を裂き閃いても、顕微鏡座はのらりくらりと器用に避ける。 勿論速いが、速いというより巧い。外見に似合わぬそのステップは、口調と合わせて非常に腹立たしい。 「くっ……なんて能力! は、腹立つ老人ね……!」 「我の戦術は完全無欠ですからなwww まぁ貴殿は役割を理解した防御捨ての格好で何よりですなwww これで技がフルアタなら貴殿も立派な信者ですぞwww」 「え? 何? 露出高過ぎですって? お、大きなお世話よ! 一緒にするなこらぁ!?」 次いで動けるようになったトゥルエノが攻撃を始めるが、やはりその剣閃も顕微鏡座を捉えられない。 それどころか、 「んんwww 後方に倒れこむ以外ありえないwww」 「えっ、な……」 不意にずるっと足を滑らせ、トゥルエノが剣を上段に構えたまま後方に倒れこむ。 そこには先ほど攻撃を終えた不散紅葉が固まっており、右肩を剣で強かに打ち付けられた。 「ご、ごめんなさいね!?」 「……ん、大丈夫、だよ」 これでは囲んだ意味が無い。連続で一対一というのでは明らかに不利が過ぎる。 攻撃し終わればしばらく固まったままであり、今の二人のように意図しない同士討ちをさせられてしまう。 顕微鏡座が自分で攻撃しないのは、単に自分の火力の無さを分かってのことか……? 「攻撃したら固まるってンならよォ……一発馬鹿でけェのをぶち込みゃいい! オーバードライブだァァァ!!」 蠍座のメダルを連続使用し、効果を上乗せしていく鷲尾。 例え手の内が知られていたとしても、使ったことのない星の一欠片を使用するなら先読みのしようがない。 それは開拓者側にとっても博打だが、鷲尾が蠍座を使った時の効果は……! 「ホッwww ヨッwww ハッwww んんwww ダメージレース的にこんな技はありえないwww」 地面から無数の蠍の尻尾が突き出し、顕微鏡座を貫こうと交差していく。 しかしそれらすらテクニカルに回避した顕微鏡座は、華麗に地面に降り立ちドヤ顔を決める。 「さあ、ひよこの選別をする作業に戻るんだ」 「んんwww 顕微鏡がなければ選別できないなどありえないwww」 「ならば顕微鏡とやらがあっても選別できないようにしてくれる! 吠えろ、龍の一撃! 爆砕、龍撃拳ーーーッ!」 「むぉっ!? 今のは少々肝が冷えましたぞwww」 何が使用したのは竜座のメダル。 彼女が使った時の効果は『放った技に竜型の波動を付加し、射程を1スクエア分伸ばす』というもの。 流石に射程が伸びるのは予想外の攻撃だったのか、左腕を掠めて、微小ながら初のダメージとなる。 「……なるほど。大体わかりました」 後方で戦況を観察していたレネネトが何かに気づき、ついに行動に移る。 それを目の端で見ていた真亡は、魚座のメダルを使い見目麗しい乙女の姿へと変身した。 長い銀髪に、美白のへそ出しルック。それはメダルによる魅了の力も相まって、アヤカシですら注意を引きつける。 「次は僕の番です。僕の役割が読めますか?」 「本来、無償降臨を許す補助技はゴミですがwww 流石にその美しさは例外です……なッ!?」 真亡に注意を向けていた顕微鏡座が不意に地面に膝をつく。 周囲に響き渡り、顕微鏡座を襲った重低音……これは、レネネトの重力の爆音! 「あなたの言霊の範囲外にいた私には一斉攻撃不可の枷はありません」 「うはwww 我としたことが役割を見誤りましたかなwww」 「更に言うなら、あなたは『誰が誰に何をする』といった具体的な命令ができない。そして……星の力を使われると、言霊の制限に綻びが生じる」 レネネトが何を言っているのか、一瞬味方ですら理解できなかった。 しかしレネネトは見ていたのだ。まだトゥルエノが攻撃している最中に、鷲尾が蠍座の連続発動を始めていたことに。 「だとしても我に攻撃を当てるのは容易なことではないですなwww」 「確かに」 「でも」 「これなら、どう?」 攻撃ターンである真亡は勿論のこと、大熊座を発動させた各務、小犬座を発動させた不散紅葉が攻撃抑制を破り同時攻撃を仕掛ける。 真亡の剣閃は、事前情報もありなんとか回避。しかし『両腕にオーラで出来た巨大な鉤爪手甲(盾機能あり)を装備』した各務の一撃は無傷とは行かず、左頬にざっくりと傷が入る。 地面に手をつき側転しながら体制を立て直そうとしたした時、不散紅葉が『口から指向性のある見えない衝撃波を叩きつける』。 なんとか体勢は戻したものの、まさか自分が直撃をもらうとは思っていなかったらしい。一瞬だけだが、顔が忌々しそうに歪んだ。 「んんwww なるほど、これは確かに厄介な勢力になりつつありますなwww 星の力を人間ごときがこうまで使えるとは思いませんでしたぞwww」 「星の一欠片なんてありえない……じゃなくてか?」 流石に水鏡ももう気づいている。顕微鏡座の言霊は星の力は対象外。抑制も、封印も出来はしない。 それを肯定するように、顕微鏡座は黙ったまま。頬を伝う冷や汗はそれを確信へと変えるに充分。 「ではお見せしようじゃないか、私の星の一欠片も。どんな効果が出るか確認していない、私にとっても博打だ」 「んんwww 異教徒に必然力は働きませんぞwww」 「試してみるか? いくぞ孔雀座。勝負の時間だ!」 物言わぬ黄金のメダル。しかし水鏡は、『応』という返事を聞いたような気がした。 顕微鏡座の回避力なら水鏡の命中力と充分渡り合えると思われる。顕微鏡座自身も、水鏡の情報はあまり聞いていないが回避できないことはないと高を括っていた。 水鏡の背後に、一筒にも似た無数の紅い孔雀の羽が展開されるまでは。 「……どうやら、こちらの必然力の方が勝っていたようだな」 「んんwww 一撃必殺技の使用は認められませんぞwww」 「一撃じゃないさ。……ロン。紅孔雀……」 その一言を合図にしたかのように、孔雀の羽は一斉に顕微鏡座へと殺到する。 ぶつかっては小爆発を繰り返したその効果は、纏めるなら『14枚の紅い孔雀の羽が一斉攻撃する。ぶつかると小爆発を起こすが、威力自体は14枚で通常攻撃一回分』といったところか。 だが、それで充分。特殊な言霊と回避能力に特化したせいで、攻撃・防御があまりに低い。 言うなれば、彼が論じる『火力こそ正義』とは全く逆の存在が顕微鏡座なのだった。 「う、うはwww こ、こうなれば、奥の手を出すしかありませんなwww」 あくまで口調を崩さない顕微鏡座。彼が片眼鏡のようなものを取り出し自らの右腕にかざすと、その腕が何十倍もの大きさに膨れ上がる……! 「あいつっ! まだあンな手残してやがったのか!」 「顕微鏡にちなんだ、まさに奥の手ですか……! 皆さん、回避を!」 白梅香で浄化するにも質量が大きすぎる! そう判断した鷲尾と真亡の合図で、開拓者たちは一斉に散開する。 ……トゥルエノだけを除いて。 「受け止める気ですかな?www 防御なんて意味はありませんぞwww」 「やってみなさいよ……このトゥルエノに対してッ!」 「んんwww ぶっ潰れると良いですなァーーーッwww」 勢い勇んで振り下ろした巨大な拳。 重苦しく響いた打撃音と木々がへし折れる音、そして大地を揺るがす地響き。それらを引き起こした拳が……! 「ギャァァァッ!?」 剣閃が二回ほど走ったかと思うと、巨大な拳が三分割に斬り裂かれ、大量の血液に塗れたトゥルエノが姿を現した。 ニタリと笑うその表情に、さしもの顕微鏡座も口調を忘れて――― 「……!? はぁっ、はぁっ、い、今のは……!」 ふと我に返ると、手は斬り裂かれてなどいない。というより、巨大化すらしていない。 林にも破壊の跡はなく、例の片眼鏡のようなものもまだ自分の懐の中……。 「……フッ、どうしたの? 悪夢でも見ていたのかしら……?」 「な……なにィ……!」 どこからが幻でどこまでが真実だったのか。それを詮索する余裕は顕微鏡にはもうない。 本物のトゥルエノがすぐ後ろにいて、首に剣が充てがわれていることを悟ったからである。 言うなれば『ダメージはないが相手に幻を見せ精神的に疲弊させる能力』か。現実では数秒もないが、幻を見ている方はそこそこ長い間に感じているらしい。 「んんwww 信仰があるかぎり、我が敗北することなどありえ―――」 「るのよ。これがね」 目いっぱいの力で剣を引き、顕微鏡の首をはねるトゥルエノ。崩れ落ちた顕微鏡座の体は瘴気に返り、黄金のメダルだけを残して消滅したのだった――― ●横槍 「風切音……!?」 「……来る……」 常に超越聴覚を使っていたレネネトは勿論のこと、戦闘が終わった瞬間、不散紅葉は心眼「集」を発動させ周囲の警戒に回った。 結果的にこれが功を奏した。いや、二人の行動がなければ危険だったと言うべきか。 そこには先程まで確実に付近にいなかった存在が感知されたのだ。 しかも、尋常ならざる速度で近づいてくる……! 来ると思わしき方向に番天印を投擲する不散紅葉。しかしそれはあっさりと弾かれ『そいつ』が姿を現す。 それは背中に天使のような翼を持つ、白い忍者装束の少年……? 「あなた……人間じゃ……ない、ね」 「そりゃ羽の生えた人間なんていないだろ。……お前、平坂空羅の手の者か?」 白い忍者は黄金のメダルにちらりと視線をやると、不散紅葉と何を交互に見つめる。 そしてやれやれとばかりに軽く頭を振ると、翼を広げ一気に上空をへと姿を消したのだった。 「なんですの、あれは……。でも、あれが私たちを監視して隙を伺っていたことだけは確かですわね」 「もしあれが平坂とやらの一味なら、平坂はアヤカシを従えているとでも言うのか……?」 水鏡の疑問に答えられるものはいない。今開拓者たちにできるのは、回収した顕微鏡座のメダルをしっかりギルドに届けることだけ。 とりあえず膨大な量の草から解放されたことを喜ぶとしよう――― |