|
■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 数々の星座アヤカシを打ち倒してきた開拓者たちの前に突如示されたもの。それは導星の社(どうせいのやしろ)と呼ばれる謎の施設の正体である。 竜座ドラゴン曰く、 『導星の社とはアヤカシを創り出す瘴気と人間の想いを混ぜるための装置のようなもの。私達を星座アヤカシたらしめているのは、元はあなた達人間が長い時の中で星々に馳せた想いの力なのよ』 とのこと。 そんなものを人間が創りだすとは考えにくい。創り出せるとは考えにくい。よって、導星の社とはアヤカシが建造なり建立なりしたと考えるのが妥当だろう。それならば現地の人間が誰もしらないのも、記録に残っていないのも頷ける。 アヤカシが創りだしたと思わしきより強力なアヤカシを作るための設備が、星の一欠片という力を人類に与えたのは皮肉という他ない。 しかし、それはどこにあるのだろうか? 集星のどこかには違いないのだろうが、そんな建造物は知られていない――― 「今回のアヤカシは水瓶座アクエリアス。久々の黄道十二星座ね」 「おおう……強敵の予感。今度はどんなアヤカシなんですか?」 「瓶」 「はい?」 「だから、かめ。まん丸い、水を貯めとくあのかめ。あのまんま」 「和菓子……じゃなかった人型じゃないんですか!?」 ある日の開拓者ギルド。 今日も今日とて星座アヤカシの依頼を担当するのは、西沢 一葉と鷲尾 亜理紗の二人組。 今までの黄道十二星座は、魚座も人魚という点を考慮しなければ基本的に人型であり会話が成立した。 しかし今回の水瓶座は全くの物品系。大の大人が三人位集まってようやく持ち上がるかと言った大きさで、人間くらいならすっぽり中に入れてしまう。下から炊き上げれば風呂にもなるかもしれない。 とある川原にある日突然出現したその瓶は、近づいた人間に中から無尽蔵の水を湧き上がらせ攻撃する。 しかも一気に殺さず、水を操り瓶の中に引きずり込んで溺死させるのが主なパターンらしい。かなりえげつない。 「ちなみに飛ぶから。速度はゆったりだけど、空中から攻撃してくることもあるから注意すること。今は石鏡の軍が人里に近づかないように押し留めてくれてるけど、被害も馬鹿にならないみたいだから急いでね」 「はい、質問です! 手足とかも生えてないなら、ゆったり飛ぶしか回避行動取れないんですよね?」 「そう。だから攻撃を当てること自体は難しくないわ。……水の防壁を突破できればね」 「おぅふ……」 「無尽蔵の水を巧みに操り、攻防一体の攻撃を仕掛けてくる。しかも本体も結構頑丈だから始末に負えない。加えて目で物を見てるわけじゃないから、物理的な視覚もない。黄道十二星座は伊達じゃないってことね」 「水を操る可愛い女の子とかならウケもよさそうなのに」 「……あなた、最近旦那さんに毒されてきてない?」 「そ、そんなことないですよぅ!?」 冷や汗をかきながら目を逸らす亜理紗。自分でもヤバい傾向だなと思っているのかもしれない。 「ところで、この前ちょっかいをかけてきた白い翼が生えた忍者装束のことを調べてみたんですが……」 「何か分かったの?」 「いいえ。平坂空羅という人との接触の記録どころか、シノビの専門家に聞いたらそんな忍ぶ気のないシノビなんて存在するわけがないと笑われました。多分、正式なシノビの訓練を受けた人じゃないんでしょうね」 というより、人間ですらあるかどうか疑わしいという説が急浮上している。 知恵の回るアヤカシが自分の利のため人間を騙したり人間に手を貸したりすることもあるにはあるそうだが……? 「とりあえず今回のアヤカシは話が通じそうにないから、前回に引き続き情報漏れはないでしょ。介入にだけ注意してもらいたいところね」 何れも強敵揃いだった黄道十二星座。水瓶座もそのご多分に漏れることはなかろう。 凍えるような真冬に水を被ることになるのかと思うと、気の滅入る話である――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●本日の気温1℃ 2月も中盤を折り返した今日このごろ、石鏡もまた冬が深まってきていた。 特に今日はぐっと冷え込み、ただ立っているだけでも凍えそうなほど寒い。 そんな中、開拓者たちは一旦石鏡軍と合流し、情報交換などの引き継ぎを終えてから件の川原へと足を向ける。 山に群生する杉林を抜けた先。大量の小石が転がる川原にそいつは居た。 巨大な大瓶。何人分の水を貯めておけるのかと呆れてしまうような台所の定番が、そこにはある。 開拓者たちは分散し敵を取り囲むように配置。それに対し水瓶座は表情がないのも相まって不気味な沈黙を保っている。 川原に降りてくる段階で、瓶の中にはなみなみと水が湛えられていた。油断すれば即水が飛んでくることだろう。 「なんて違和感のある光景……川原に風呂釜、だと……。見てくれはつまらないけど、攻撃さえしなきゃ希儀にでも設置したい一品だよな、あれ」 「アレって、水がお湯だったら温泉だよなァ……銭湯を想像しながら戦闘か……」 「おい、審議するから全員集まれ」 「折角展開した陣形を崩すような真似すンじゃねェ!」 軽口を叩いた鷲尾天斗(ia0371)に対し、同じく軽口を叩いたはずの何 静花(ib9584)が非情なリアクションを取る。勿論、他の面々は集まったりはしなかったが。 包囲が完了し、ジリジリと距離を詰めていく開拓者たち。すると、各務 英流 (ib6372)が先手必勝とばかりにアンドロメダ座のメダルを発動させた。 「くくく、これでキサマは手足を縛られたダルマも同然なのですわーッ!」 どんな効果が現れるかはすでに実験済み。彼女がアンドロメダ座のメダルを使った場合、『手から鎖を出す』という至ってシンプルなもの。 以前にも似たような効果を発動した人物が居たが、その人物が使った時は黒い光球が発生しそれをぶつけると拘束という流れだったし、各務の場合は自動で拘束できないのでわざわざ自分で巻きつけないといけないという欠点がある。 もっとも、それは拘束以外の用途にも鎖を使えるという利点にもなりえるのだが。 流石に自分の近辺に鎖などを伸ばされると危険を感じたのだろう。水瓶の中から水流が飛び出し、まるで刀のような形に凝縮して鎖を断ち切ろうとする。 「まったく……きちんと打ち合わせ通りにタイミングを合わせてください」 「ま、まぁ物怖じしない勇気はいつもながら感心します」 「あーゆーのは蛮勇というのです」 動きを開始した水瓶座に合わせ、緋乃宮 白月(ib9855)、真亡・雫(ia0432)、レネネト(ib0260)も行動を開始した。 そもそも、初手は取り囲んで多方面から同時攻撃と決めていた。同時に『水瓶座が攻撃と防御を同時に行えるのか?』という疑念もあったので、この際結果オーライということにしておこう。 「吹き飛べやァァ!」 「空波掌!」 「瞬風波!」 「重力の爆音なのです」 「小熊にシンパシーの欠片も無いけど期待してるからな!」 各務を除く五人が同時に攻撃を仕掛けていく。 鷲尾のヒートバレットや真亡の剣技、緋乃宮の拳法、レネネトの演奏に何の星の一欠片と、実にバラエティに富んだ攻撃が水瓶座を襲う。 ちなみに何が小熊座を使った時の効果は『石や岩を持ち上げるときにだけ腕力が数倍になる』というもの。それを活かし、川原に落ちていた全長1メートルほどの岩を投げつけたのであった。 迫り来る五種類もの攻撃。水瓶座は急遽鎖に向かっていた水の刀を崩壊させ、代わりに中から多量の水を噴出、上から竜巻を叩きつけるような形で水の防護壁を張った。 高速回転する分厚い水流の壁。普通の防壁と違ったのは、攻撃を防ぐのではなく弾き返せることにあった。 『なっ!?』 流石に正確に相手に跳ね返すことはできないようだが、全力で放った攻撃が明後日の方向へとねじ曲げられ炸裂するのは見ていてあまりいい気はしない。 やがて水竜巻は川原に染み込み、ただの水と化す。足元がビチャビチャになってしまったものの、あれだけの同時攻撃を何事もなかったかのように切り抜けた敵は……恐い。 「奴は……エースだ!」 「流石黄道十二星座、人の想い満載だなァ。だァがしかし! そんな想いごと吹き飛ばしてやらァ!」 元より一斉攻撃だけで倒せるとは思っていない。というより、それで倒れるようなら黄道十二星座を名乗る価値なしとすら開拓者たちは思う。 作戦の第二案。包囲しての攻撃がダメなら、一方向からの連続攻撃はどうか!? 「ペネトレイターを砲撃だけだと思うなァ!」 先陣を切り、魔槍砲を構えて突撃する鷲尾。だが水瓶座もただ座してはいない! 先ほどあれだけ大量の水を使って水竜巻を使ったにも関わらず、再び大量の水を吐き出す。 しかし今度は竜巻ではない。広範囲を目標とした、まるで投網のような水の軌跡。 当然、威力としては完全にお察しなのだが……鷲尾はその水をひっ被った瞬間、足元から崩れ落ちてしまう! 「鷲尾さん!?」 「ぐっ……つ、冷てェ……!」 戦場で何を馬鹿な、そんなもの我慢しろと言う人も居るかもしれない。しかし、今鷲尾がひっ被ったのはマイナス30℃の冷水。 普通なら凍結してしまうはずの水温でも、水瓶座にかかれば流水として使用できる。そしてそれは、人の体温を一瞬で奪い無力化することも容易なのだ。ここで彼を責めるのは酷である。 「世話が焼けますわね!」 倒れた鷲尾に各務が鎖を巻きつけ、多少乱暴にだが仲間の元へ引き寄せる。 宙を舞い、地面に叩きつけられた鷲尾。しかしそれに対し文句を言う余裕も今の鷲尾には無い。 「足場が悪いのが少し気になりますけど……僕達でやるしかありませんね」 「防寒機能があるまるごとりゅうでも、ずぶ濡れになったら意味が無いからな……。風邪引くなよ!」 瞬脚を持つ緋乃宮と何は機動力に富むため、二人同時に水瓶座に向かえば撹乱することが可能かもしれない。 同時に駆け出した二人に対し、水瓶座は水流をまるで二本の鞭のようにして振り回し始める! 「井戸要らずで場所を選ばない……いや選ぶか、星座のアヤカシだもんな」 「狙いはそれほど正確じゃない……なら」 回避だけでは勝負には勝てない。緋乃宮は襲い来る水の鞭を回避した直後、竜座のメダルを発動させる。 彼が地面を叩くと『龍の形をしたオーラが地面から吹き上がる』。 あの重そうな水瓶座を軽々と空中に放り上げた座標指定の攻撃。しかし、攻撃力自体はさほどないのが残念か。 空中でピタリと止まり、落下することを食い止める水瓶座。飛べるという事前情報があったので驚きはしないが……! 「爆ぜろよ!」 小熊座のメダルを再び発動し、巨大な岩を投げつける何。しかし水瓶座もさる者、口を岩の方に向け、水流を放ち岩を迎撃する。 駄目か……! 何が歯噛みをした次の瞬間。下方から全長1メートルはあろうかという火球が水瓶座を捉え大爆発を起こした。 やったのは……真亡! 小獅子座のメダルを用い『武器や小型の盾では受けられない火球攻撃』を行ったのである。 墜落し鈍い音を響かせる水瓶座。これで割れないのは流石と言おうか。 「もう一撃!」 再び火球を作り出す真亡。この火球は自動命中ではないのできっちり狙わなければならず、素早い相手には使いづらい。そういう意味においては水瓶座との相性は良い。 とはいえ黄道十二星座。同じ手を何度も喰らいはしない。 接近する火球に対し、同じサイズの水の玉を生成しぶつける。 「やべェ!」 瞬間、二つの玉は空中で大爆発を起こし周囲に濃霧をまき散らす。 いや……これはただの霧ではない。先ほど鷲尾を襲ったマイナス30℃の水から生み出された、凍えるような霧……! 「無機質なようで意外と考えていますね」 「か、感心している場合ではありませんわ。こ、これは流石に……!」 ガチガチと歯を鳴らす各務と、あくまで冷静なレネネト。このままでは凍死しかねない。 それを打ち破ったのは、やはり星座の力。鷲尾が鳳凰座のメダルを発動し、全身に炎を纏うことで霧を晴らしていく……! 「リア充水蒸気爆発しろ」 「人を焚き火みたいに扱っといて言う言葉かァ?」 鷲尾が纏う炎は自身には影響を及ぼさない。よって実はまだ低体温状態が回復していないのだが、鷲尾は体に鞭を打ちつつ水瓶座に突っ込んでいく。 霧が晴らせるということは、ヤツの使う水に少なからず鳳凰座は対抗できる。 本当はわざと中に取り込まれてから発動させたかったが、まずは濃霧を晴らさないことには敵に有利過ぎる。 水瓶座は近づかせまいと、鋭い水の刃を複数飛ばしてくる。 今の鷲尾は武器が持てない。いくら鳳凰座の炎を纏っていても、自信満々でその刃を受けられるかと問われると……NO。 それを救ったのは、後方から双方の間に投げ込まれた巨大な岩! 当然、何の仕事である。 水の刃をやり過ごした鷲尾は、その岩を踏み台にしてジャンプ。水瓶座の中に飛び込まんばかりの勢いで肉薄する。 その意図を察したのかどうか。水瓶座は鉄砲水かと思うほどの膨大な量の水を口から噴き出し、鷲尾を弾き飛ばした! 「チッ……! 後は任せる!」 「お任せを」 その声は水瓶座のすぐ近くから響いた。 最初の一斉攻撃の時、各務が伸ばした鎖を切ろうとした水の刀。水瓶座はそれを消してから水竜巻の防壁を張ったのを開拓者たちは見逃していない。 つまり、攻撃と防御は基本的には同時に行えない。ならば鷲尾に目立ってもらい、あわよくば撃破、そうでなくとも引きつけ役になってもらおうというわけだ。 緋乃宮の渾身の力を込めた天呼鳳凰拳。 弾き飛ばされたはずの鳳凰は、別の鳳凰に使命を託し今度こそ水瓶座を捉えた。 しかし……! 「硬い……! くっ!」 その強固な装甲に阻まれ、水瓶座の体にはヒビすら入っていない。 迎撃用の水のカッターが飛んできたので、緋乃宮はすぐさま瞬脚で退避。 振り出しに戻ってしまったか。誰もがそう思った時だった。 「……いえ、確実に効いています。先ほどまでなかった弱点が今は見えます。あえて見えなくしているようですが、ヒビも多数入っているようですよ」 レネネトがそう断言するのは、顕微鏡座のメダルの力があるから。 彼女が使った場合『あるならば対象の弱点が赤く光って見える』という効果を得る。ただし、他の者とは共有できないので別途弱点を伝える手段が必要になるか。 「そういうことならお任せですわ! キミがッ! 割れるまで! 殴るのを止めないッ!」 アンドロメダ座のメダルで出した鎖を更に伸ばし、先ほど緋乃宮が殴りつけた場所に叩きつける。 すると一瞬水瓶座が震え、バキンという音と共に側面に拳大の大穴が開いた。 水を自由に操れるはずの水瓶座。開いた穴から多量の水が流れだしてしまうのは、最早自分が水瓶足り得ないと無意識に悟ってしまったからだろう。 ややあって、穴から全体にヒビ割れが伝播し……ついに水瓶座は砕け散ったのであった――― ●連戦!? 黄金のメダルが地に落ちた後も開拓者たちは息をつけない。 真亡がメダルに向かって駈け出し、手に取る直前……それはすさまじいスピードで真亡へと蹴りを入れていた。 もっともそれは真亡も予測済み。刀でその蹴りを受け止め、弾き飛ばし、素早くメダルを回収する。 翼をはためかせて地面に降り立ったのは、以前と同じ白い忍者装束に身を包んだ、翼を持った少年……! 「……来ると思ってましたよ。苦しい思いや寒い思いをしてやっと倒したんです……横取りなんてさせません」 少年は答えない。しかしその瞳を見た時、真亡は『悲しそうな瞳だ』と感じたという。 「……教えてもらえませんか? 何故君は平坂空羅という人に力を貸すんですか? 人の物を横取りしようなんていう真似をする人に正義があるとは思えませんけれど」 何が悲しいのかは分からない。しかし、真亡はなるべく相手を理解したいと穏やかに言葉を紡ぐ。 それを少年がどう受け取ったのかは定かではないが……彼は、初めて口を開いた。 「……滅びの時が近づいている……。僕はそれに対抗しうる英雄を探している。それだけ」 「英雄……!? 平坂空羅が英雄だって言うんですか……!?」 「……彼には素質がある。星の力を使う才能と素質が。そして……暴君でもある」 「僕には、暴君と英雄は正反対の存在だと思えますけど……」 「それは違う。暴君であるからこそ英雄足り得る。小事に拘る君達では、滅びは止められない……」 少年からは邪悪な印象は受け取れない。だが1ミリたりとて譲る気はないという信念は伝わってくる。 やがて翼を広げた少年忍者は、現れた時と同様、凄まじい勢いで空中へと飛び上がり姿を消したのだった。 「……平坂空羅。一度会ってみる必要があるかもしれませんね……」 ふわふわと舞い降りた白い羽を手の平で優しく受け止め……真亡は複雑な表情で呟くのであった――― |