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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 メダルの数もそろそろ40に届こうかという昨今、狼座によって新たな事実が判明した。 普通のアヤカシは闇雲に負の感情を瘴気に還元していることが多いが、どうやら星座アヤカシたちはとある目的に添って行動しているらしい。意志があるなしに関わらず……だ。 その目的とは、最強の星座を蘇らせること。導星の社はそのためにアヤカシが建造したものと思われる。 ハッキリ言ってどの星座が最強なのかというのは全く不明。現時点では黄道十二星座の一つではないかとささやかれているが……? 「今回のアヤカシはコップ座クラテル。意外と強敵みたいよ?」 「コップってコレですよね? これがどうして星座になったのかも釈然としませんが、これが強いアヤカシになりますかぁ?」 ある日の開拓者ギルド。 職員の西沢 一葉がいつものように星座アヤカシの説明を開始すると、後輩職員の鷲尾 亜理紗は近場においてあったコップを手に取りしげしげと眺めてみせる。 物品系の星座のアヤカシということで、また巨大なコップが相手だとかそんなところだろうと踏んでいたが、一葉は眉を寄せながら首を振った。 「大きさは成人男性より少し大きいくらいで人型。正確に言うなら人型サイズのアーマーみたいなアヤカシだと思っていいと思う。重装甲で、何らかの索敵手段があるのか隠れてる人間でも平気で見つけ出しちゃうとか」 「……それのどこがコップ座なんですか?」 「身体のあちこちに銃器類を仕込んでるらしくてね……会話は殆ど成り立たないんだけど、口癖は『ホールドアップ』」 「それ違うコップーーー!?」 先の巨嘴鳥座もそうだが、だんだん星座のイメージと離れていっている気がする。 これからは音とかイメージが似ていればそういうアヤカシになるかもしれないと警戒しておいたほうがいいだろう。 「ちなみに胸の装甲の中に愛用のクリスタルのコップが入ってるんだって」 「申し訳程度のコップ座要素ー!?」 「ダジャレみたいに聞こえるけど、実際に戦うとかなり強いらしいわよ? 金属製の装甲だから白梅香や魂喰みたいな対アヤカシ用の技は通用しないし、火炎や電撃にも耐性があるみたい。上手く戦わないと危ないかもね」 銃火器を多用する人型サイズのアーマー。それがどうしてコップ座として顕現したのかは分からない。 ちなみに、スタイリッシュな動きはしない古き良き感じの動作である――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)
48歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●さぁ、戦いだ! 件の山へ到着した開拓者たちは、何度も来ていることもあり迷うこと無く山中を進む。 そして木に身を隠しながら進んだ先に、山に似合わぬメタリックな姿をしたアヤカシが一匹……いや、一機? 考えている間もなく、コップ座はこちらの存在を感知したのか無言で向かってくる。かなりの距離が有る上に障害物でこちらの姿は見えないはずなのだが。 聞いていたとおり、コップ座は動きはさほど速くなく、しかも硬い。脚を出す度、腕を出す度、ウィーンウィーンと妙な音を立てていてスムーズな動作とは言い難い。 レネネト(ib0260)は真っ先に仕事に入る。顕微鏡座のメダルを使い『あれば相手の弱点が赤く光って見える』ようにする。 すると彼女は、思わずぽかんと口を開けたまましばし固まる。そこを狙ったかのように、腿の右側辺りからハンドガンを取り出したコップ座が威嚇射撃もなしに発砲した! 「危ないっ!」 真亡・雫(ia0432)がレネネトを引っ張り、木の影に引き戻す。すると先ほどまでレネネトが顔を出していた辺りの幹が弾け飛び、大きく抉れていた。 「どうしたんですか、ぼーっとして。弱点はありました?」 「いえ……まぁあったはあったのですが。右肩の関節部分、主に脇の辺りと左腕の肘辺りの関節。あと、胸の辺りに真っ赤な反応が」 「え、それってもしかして……例の胸の中にあるっていうコップのことですか?」 「そうでしょうね。見ただけで重装甲という風体のあの胸部が弱点とは思えませんし」 「こ、壊さないまま終わったら負けな気がするとは思ってましたが、本当に弱点だったんですか……」 顕微鏡座の力をレネネトが使ってくれなければ分からなかった事実である。 真亡も相川・勝一(ia0675)もなんだか複雑な表情を浮かべる。方針が決まったのはいいが、これはこれでバカにされたような気がするからだろう。 が、コップ座は至って大真面目。ハンドガンを構えたままノシノシと進み、弾丸を連発する。 「愛用のコップって言う情報があったけど、アレで何を飲むんだ? 奴は……」 「フフフ……私の読み通りでしたわね。でもあの威力はハンドガンではなくハンドキャンクラスじゃありませんこと!?」 「つーかホールドアップはどうしたあの野郎ォ!?」 何 静花(ib9584)や各務 英流(ib6372)は一見のんびり会話しているように見えるが、彼女らが隠れている木々は凄まじい勢いで削られていた。 樹齢何十年……いや、百年にも届こうかという大木でも平然と砕き、貫通せしめようとするコップ座の銃は、開拓者が使う拳銃とは威力があまりにも違う。 相手の銃を奪って……と一瞬考えた鷲尾天斗(ia0371)だったが、そのプランはすぐに放棄。これだけの威力を出す拳銃など、人間が撃ったら手首のほうがやられてしまう。 ガションガションと音を立て進んでいたコップ座が、開拓者たちの十メートルほど先で一旦止まる。 『ホールドアップ』 「さんざん撃っておいてそれかっ!?」 天河 ふしぎ(ia1037)が抗議するのも無理は無い。いくら言葉の意味を理解していないとはいえ、ホールドアップは普通撃つ前に言うものだ。 しかしそんな不条理を真正面から受け止め、叩き伏せようとする猛者が居た。 「……ホールドアップ? 愚か者め、わしは誰の言葉にも従わぬわ、コンボイ!」 彼の名は鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)。 「というか、コンボイって何さ?」 「なに……せいぜい可愛らしいコップ坊や、コップボーイと遊んでやろうと思っておったのだが、それでは呼び難い。コップボーイ、縮めてコンボイとしたのだ」 「『ン』はどこから来たよ!?」 「愚か者めが! そんなことはどうでも良いのだ! デストゥカス軍団、アターック!」 「うぅ……なんとなく逆らえない威厳を感じる……」 テラドゥカスの号令に応じ、天河を始めとする面々は仕方なく攻撃を開始する。 会話の最中、コップ座はハンドガンを一回収納し背中に背負った箱のようなものから筒状の火器……バズーカを取り出した。 それが何であるか詳しいことは分からないが、開拓者たちは一瞬で理解する。アレはヤバイと。 「お前の相手は、こっちだ!」 「まずは腕を落として火力を削ぎます!」 天河と真亡がわざと大きな声を出し、コップ座の注意を引く。 散開しているとはいえ、あの携帯大筒でレネネトを狙われた日にはひとたまりもなかろうということで、機動力の高い二人が囮役を買って出てくれたのだ。 読み通りコップ座は二人を優先的に狙おうとバズーカを構え……有無を言わさず発射した。 「なっ!?」 その弾道は明らかに真亡の機動を予測したものであり、動いた先を見据えての射撃。 言語は理解しないが、コップ座の頭の中には演算できる何かが詰まっているのかもしれない。 ドガァァァン! と爆発音が響き爆風が木々を揺らす。撒き散らされた土砂が降り注ぎ、山に爆煙が立ち込める……! 「あ、危なかった……狼座のメダルがなかったらどうなっていたか……」 真亡はとっさに狼座のメダルを発動させ『一度だけ攻撃を無効にし5m離れた場所に出現する』という、空蝉の術にも似た効果を得ていたおかげで無傷で済んだようだ。 「野郎ォ……なんて火力だ! 勝一、援護すっから近づけェ!」 「り、了解っ!」 「打撃か砲撃が有効ってんならァ魔槍砲の独壇場だろォ!」 鷲尾が魔槍砲による砲撃を連打し、その隙に相川が懐に飛び込む。 「ともかく、紛らわしい台詞と外見なアヤカシはさっさと倒すのですよー。紛らわしく無くてもアヤカシなら倒すことには変わりませんけどっ」 相川は小馬座のメダルを発動し、『空中で見えないない足場を蹴り多段ジャンプができる』ようにする。これにより予想できない立体機動が可能となる。 爆煙を切り裂き手にしたハルバードを叩きつけようとした瞬間。相川は自分の眼前にバズーカの砲口が突きつけられていることを認識した。 隠れている相手をも見つけられるコップ座の索敵能力を以ってすれば、爆煙の中にいる相手の動きも手に取るように分かる。ならばどんなに予想外の軌道で来ようがそれに合わせて砲火を合わせるなど簡単なこと……! 「クリスタルボーイ! ……間違えたッ!!」 「うむ。コップボーイだな」 「クリスタルのコップボーイ、略してクリスタルボーイじゃ駄目か?」 何とテラドゥカスが横から拳と蹴りを見舞い、コップ座を弾き飛ばして相川の危機を救う。もしあのままバズーカが炸裂していたら相川の首が無くなっていたかもしれない。 しかしコップ座はほとんどダメージを受けていない。例によってウィーンウィーンと音を立てて起き上がり、バズーカを発射。 何は瞬脚で離脱できたが、テラドゥカスはあえてそうしなかった。ここで回避することは逃げるのと同義と感じたのだろう。 真正面から叩き伏せてこそというこだわりがあるのかもしれない。 その時! 「どぅわ〜っはっはっは! 破壊大帝メダルスドラゴンテラドゥカス誕生だ! お仕置きしちゃうよぉん?」 テラドゥカスはとっさに竜座のメダルを発動させていた。彼が使用した時の効果は『全身が鋼鉄製のドラゴンのようになり防御・受防を400アップする』というもの。 何やら口調や声が変わっているようだが気にしたら負けだろう。 何事もなかったかのように立ち上がるコップ座。しかし背後から、真亡と各務が近づいてきている! 「腕が一本なくなれば火器の扱いが難しくなるはず!」 「女子力(物理)をお舐めでないですわーッ!」 敵の姿も確認せず振り向きざまにバズーカを放つコップ座。しかし真亡は狼座のメダルで空蝉が可能ということを忘れているらしい。 爆発の直後、コップ座のすぐ後ろに現れた真亡。刀を切り上げ、レネネトが見つけた弱点の一つ、左腕のヒジ関節を叩き斬る。 くるくると空中で回転し地に落ちるコップ座の左腕。そこに、バズーカを早駆で回避していた各務が追撃をかける! 「愛の力は無限大なのですわーッ!」 各務が放ったのはただのパンチ。スキルも何もない。 しかしコップ座は大きくふっ飛ばされ、背後にあった木を二本もへし折ってようやく止まった。 各務が乙女座のメダルを使った時の効果は『一戦闘につき一回だけ自身の攻撃を1000固定にする』というもの。素手でこの威力を出せるのは化物以外の何物でもない。 起き上がったコップ座だったが、胸部装甲が大きくひしゃげている。 そこに現れたのは…… 「今は技を封印してしまってるけど、シノビだった事もあるから……時を駆ける技、見せてやるんだからなっ!」 天河が時計座のメダルを発動させ突っ込む。コップ座は右手で背中のコンテナからガトリングガンを取り出し天河に向かって乱射する! 「クロックアップ☆」 そう呟いた天河は、飛来する無数の弾丸を両手の魔槍砲で全て弾き返していく。 当てずっぽうではなく、全ての弾道を見切りそれに対応出来るだけの身体能力を得ている。纏めるなら『敵の攻撃を遅く認識できそれを打ち払える』能力か。 ちなみに攻撃には転用できず複数の敵には対応できないようなので注意である。 弾切れを待つまでもない。ガトリングガンの弾を弾きながら天河はゆっくりと近づき、攻撃に転じようとした。 「今僕は蒼き流星になる! これで、止めだぁぁ」 しかし! 「ダァブルアクセルゥ!」 「僕を踏み台にしたぁ!?」 「ロンリーウェーイ!」 天河の肩を踏み台にし鷲尾がジャンプ、コップ座の真上へ跳ぶ。 すかさずテーブル山座のメダルを発動し『自身の重さを20倍にする』効果を得て自由落下。砲火を続けるコップ座にのしかかる形で自身を叩きつけた。 すかさず魔槍砲を胸部に突きつけヒートバレット+セフル・ザイールのコンボで零距離射撃! トドメとばかりにパイルバンカーすらも撃ち込み、鷲尾の攻撃は終了する。 キューン……と何かが静まるような音がして、コップ座は動かなくなった……かに見えたが。 「くっそ! 手応えが無ェ!」 『!?』 鷲尾が離脱しようとするより速くコップ座が再起動、鷲尾の左手を掴んで軽々とぶん投げる。 立ち上がったコップ座の身体はあちこちに火花が散っているが、胸部装甲は完全に貫けてはいない。鷲尾のあの攻撃でそうなので、各務の一撃がどれだけだったのかが分かる。 『ガガッ……ホールド、アップ』 言いつつ放ったのは、パイナップルのような形の小型の物体。それが何を意味するのか開拓者たちにはわからない。 しかしロクなものではないと判断した天河が時計座のメダルを使用、一気に近づいてバッティング。その数秒後、それは大爆発を起こし木々をなぎ倒す。 「な、なんですかあれは。あんなものに巻き込まれたら……」 「ならば頑丈さが売りの俺様がギッタンギッタンにしてやろう! いくぞコンボイ! あちょー!」 天河がドン引きしている間にもテラドゥカスがコップ座に突っ込んでいく。 さしものコップ座もこれまでに蓄積されたダメージは決して軽くない。今度は背中のコンテナからハンドガンを取り出そうとするが…… 「させません!」 「そこ、この一撃で破壊しますよー! 鬼切……っていうか、鬼突きー!」 真亡と相川がカットに入り、真亡が脇の下から切り上げ、相川が肩の上から突きを入れ右肩を破壊、右腕も斬り飛ばした。 ウィーンウィーンと首を回し、初めて動揺らしきものが見て取れる。そこにテラドゥカスと、瞬脚で合流した何が襲いかかった。 片やヴァイブレードナイフで。片や彫刻具座で出したノミで、ガタガタになりかけているコップ座の胸部装甲を穿つ! 「次回からは俺様が主役だ!」 「ハンマーヘル!」 何が彫刻具座を使った時の能力は『トンカチとノミを出し彫刻するときだけ対象の防御力や硬さを無視する』というものだが、どうやらコップ座を攻撃することは彫刻とみなされなかったらしく防御無視は発生しなかった。 とはいえ、テラドゥカスのナイフと合わせ歪んだコップ座の胸部の隙間に差し込むくらいはできる。 何はすぐさま身を翻し、コップ座の背後へ。同時にテラドゥカスはダンッと大地を踏みしめ玄亀鉄山靠を使用、背中から体を叩きつけることで突き刺さったままのナイフとノミを更に押しこむつもりだ。 裏に回った何はコップ座の背後から回し蹴りを敢行し、同時攻撃で衝撃を内部に集中させる! 周囲に静寂が訪れ……コップ座の内部から、カシャンという硝子が割れるような音がいやに大きく響く。 ガクリと力が抜けたようにその場に跪くコップ座。滅びるのは時間の問題であった。 そこに、何がゆったりと声をかける。 「マンモス哀れなやつ。私が餞のモノマネを贈ってやる。『コンバンハ、豊臣秀吉デス』」 『誰だよ!』 その豊臣秀吉というのが誰だかしらない上に、やけに上ずったような籠ったような言い回し。そんな口調の人間いるか? と皆から総ツッコミがかかった。 が。 『似テンダカ似テナインダカ全然ワカンナイノニ……満点ダ』 そう言い残し、コップ座は爆発四散した。あとに残されたのは黄金のメダルのみ。 何は悠々とそれを回収し、こう高らかに宣言したのだった。 「これで私が星の一欠片のニューリーダーだ!」 「愚か者めが! お仕置きっ!」 「お許し下さいテラドゥカス様ぁぁぁっ!?」 よくわからないが邪魔してはいけないテンプレのような気がして、他の面々はあえて二人の追いかけっこを止めはしなかったという。 今回の教訓。ダジャレのようでも強い奴は強い――― |