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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 生存本能が最優先となり、作成者の命令すら聞かなくなったアヤカシ兵器、獣骨髑髏。 パーツ状に分かたれた自らの体を求め、石鏡の空を駆け巡るこのアヤカシに、開拓者はもちろん石鏡上層部も頭を悩ませていた。 先日の戦いはパーツを復活させることもなく、初めて完全なる防衛を達成した。しかし、相手のパーツの数を減らしたわけではなく、相変わらず油断はならない。 前回判明したこととして、獣骨髑髏の体は宝珠に封じられており、パーツを破壊(?)しても一定時間が経つと宝珠の色が戻るとともに復活する可能性があるということ。 そして、両腕を失った獣骨髑髏は戦闘力が減退したこともあり、より慎重な戦法を取るようになったということか。 「開拓者さんの要請を受け、石鏡は宝珠の回収に乗り出した‥‥かと思ったんですが、なんやかんやで拒否されました」 「理由は聞くまでもないわね‥‥回収して獣骨髑髏に襲われたらたまらないんでしょ。私だって嫌だもの」 ギルド職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉。石鏡の対応について話しているのだが、事情が事情だけに責める気にはなれない。 強力なアヤカシが狙ってくるかも知れない宝珠など、誰も保管したがらない。寺社仏閣に任せると言っても完璧ではなかろうし、それらが破壊されても困る。もちろん、石鏡の城や砦などでも同様だ。 「一応、前回守った宝珠で色々試してはみたそうなんですよ。浄炎を放ってみたり、お祓いにかけてみたり。どれも効果はなかったみたいですけど」 「色のついた状態の宝珠はパーツが入ってる証拠じゃないの?」 「宝珠自体は瘴気じゃありませんから、それが邪魔しちゃってるんです。球体型の小物入れに入ってるようなものらしいですね。砕いてみてはという意見も出たみたいですけど、それで復活! とか言われても困りますしねぇ」 「なるほどね。で、今回の依頼の主旨は?」 保管もダメ、破壊もダメ。では、残る手段は? 「前回守った宝珠を使って、獣骨髑髏をおびき寄せて倒せ‥‥ということみたいですよ。現在判明してる三箇所以外、宝珠がありそうな場所が判明していないのも原因です。今回は宝珠を持って上空まで上がっていただき、そこでの戦いが推奨されてます」 「今までの苦戦は場所が悪かったっていうのもあるものね。でも、上空は獣骨髑髏の得意分野なんじゃ‥‥」 「開拓者さん達にとって不利な場所でないだけマシかもしれませんよ? 人的被害なんかも気にしなくて済みますし」 「雲は? 雲に隠れられて何度も逃げられてるでしょ」 「‥‥つ、突っかかりますねぇ」 「開拓者の安全が優先よ。要は誘き出して倒してしまえっていうことなんだから、場所は開拓者の人たちに決めてもらいましょう」 「私に異論はありませんけど‥‥」 苦笑いする亜理紗。確かに依頼書には推奨とあり、絶対に上空で戦えというわけではない。 より良い選択肢があるならそれを選ぶべきなのは当然である。 と、そこで亜理紗が何かを思い出したようだ。 「そういえばですね、例の獣骨髑髏の図解を見てて気づいたんですけど‥‥」 「洞窟で見つかったやつよね。何か発見したの?」 「いえ、気になった程度なんですけど、獣骨髑髏ってどうやってパーツをコントロールしてるのかなって。分離しても元に戻れるのは、司令塔となる何かがあるからだと思うんです。それを破壊してしまえれば、実質勝利と言えると思います」 「なるほど‥‥道理ね。パーツ一つ一つに意思があるならともかく、そういうわけじゃなさそうだし。見当は付いてるの?」 「頭か胴。それ以外はありえません」 「随分絞れてるわね!?」 「破壊されたり、封印されていたりしていた箇所は除外していいと思います。他のパーツに指令が出せないわけですから。後はもう頭か胴かしか残ってないじゃないですか。まぁ、へっぽこ陰陽師の見立てですけど‥‥」 自分で言って落ち込む亜理紗。しかし、あながち見当はずれというわけでもあるまい。 折角攻勢に出られそうな今回‥‥司令塔の存在も気にしてみては如何だろうか――― |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
贋龍(ia9407)
18歳・男・志
龍馬・ロスチャイルド(ib0039)
28歳・男・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
メイユ(ib0232)
26歳・女・魔
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●空へ 獣骨髑髏との戦いは、ついに終局へと向かうのか。開拓者たちは朋友を駆り、初遭遇と同じ高空へと舞い上がる。 石鏡上層部から託された一つの宝珠。これは前回守り通した再輝の宝珠と呼ばれる物であり、獣骨髑髏のパーツが封じ込められていると目されていた。 開拓者の一人、朽葉・生(ib2229)と相棒のボレアが管理し、囮役となっておびき寄せるようだ。 天気は、雲一つないとまでは言えないが晴れ。幾分かは安心である。 地上を飛び立った八人は、神経を集中して周りを警戒する。 相手が巨体なので見つけられないということはないはずだが、念には念をということなのだろう。 「ヤツは必ず現れます。生存本能が肥大し、体を取り戻すことを目的としている以上、必ず来ますよ」 紅龍という朋友に乗る龍馬・ロスチャイルド(ib0039)。その言葉に疑いを挟むものはいない。 そして待つこと30分ばかり。 「来たっ! 来たのだぜ! あっちの方向!」 叢雲 怜(ib5488)とその相棒、姫鶴が見つめる先には、青空の中に不気味に浮かぶ白のコントラスト。 不完全な体でありながら開拓者を悩ませる巨大なアヤカシ‥‥獣骨髑髏。警戒するように低い姿勢を保ち、滑るようにこちらへ向かってくる。 「あれが‥‥。うーん‥‥とても強敵のようですね」 「素直かつ的確な感想ですわ。何にせよ、頭を潰して終わりにしましょう」 贋龍(ia9407)でなくとも、初見で危険性を察知するものは多い。厳かに笑うメイユ(ib0232)。その提案通り、さっさと片付けてしまいたいところではある。 有言実行というところか、メイユはすぐに相棒の炎龍(未命名)を移動させる。贋龍と鋼牙もそれにならい、側面から近づけるような配置を試みる。 しかし陣形を広げようとした瞬間、獣骨髑髏がその場で急停止した。 ヤツのテリトリーというか有効射程からはまだだいぶある。二人の動きを見て警戒したと見るのが妥当だろうか? 距離を詰めようとしても、一定の距離を保ち後退する。やはり慎重になっているようだ。 「本能で危険を察したか。厄介だぞあぁいうのは」 「先刻ご承知です。しかし折角撃破できそうな機会が回ってきたからには、多少の無茶を交えてでも」 オラース・カノーヴァ(ib0141)がリンブドルムの手綱を握りつつ呟くと、帝釈に乗った井伊 貴政(ia0213)が不敵に笑って見せる。 流石にもう何度も戦ってきた面子は腹が据わっている。それが油断でも不遜でもないことをオラースはすぐに感じ取った。 故に、なおのこと気を引き締める。この面子にそこまでさせる相手なのだと。 「慎重な獣骨髑髏のことですし、前回の経験からあまり防衛をガチガチに固めると、早々に諦めて引き返してしまう気もするので‥‥ここはあえて手を緩めるのもありかも知れませんよ」 ガイロンを前に出しつつ、真亡・雫(ia0432)は皆に提案する。 さもありなん、と苦虫を噛み潰したような表情をするメンバーたち。 折角攻勢に出たはいいが、相手がその勢いにビビってしまって逃げてしまいましたでは話にならない。それでは結局今までと変わらないのだ。 危惧すべきこと。それは、 一つ、パーツを復活させてしまうこと 二つ、パーツを破壊できぬまま取り逃がすこと 三つ、味方に深刻な被害者が出ること 以上の項目を満たさなければ依頼は成功だ。攻勢に出ている今回は、これくらいはやり遂げたい。 八人は頷き合うと、一箇所に集まり獣骨髑髏を迎え撃つよう見せかける。 宝珠を守る朽葉だけは下がらせつつ、包囲戦は状況次第で。そんな塩梅か。 その流れを察したのか、あるいは覚悟を決めたか。獣骨髑髏が再び前進しだし、徐々に加速。 「いい加減腐れ縁を切りたいところでしてね!」 「我が盾は、守り、砕くためにあり! ‥‥なんてね」 いざ、激突の時――― ●頭部をねらえ! ぐんぐんスピードを上げた獣骨髑髏は、先陣を切る井伊や贋龍とすぐに接敵‥‥しなかった。 ある程度近づいたところで口から無刃という衝撃波を撃ち出し、遠距離攻撃をしつつ距離を保ち旋回する。 贋龍はそれを虚心で察知し、鋼牙に駿龍の翼を使わせ回避する。宝珠を持つ朽葉もまた、回りこまれないように獣骨髑髏とは逆方向に移動、一定の距離を保つ。 獣骨髑髏は動きを止めず、かと言って近づかず遠距離から無刃を放ち続け削りにかかっているようだ。 「なかなかどうして、頭がいいな。アークブラストも届かないところから遠距離攻撃とは」 「非物理攻撃ということでっ! 僕なんかは大したダメージにはならないんですけどねぇ」 オラースが呟く間にも井伊に向かって無刃が飛んできていたが、井伊はあっさりガードする。 腕力はあっても非物理攻撃はさほどではない獣骨髑髏。しかし、それも延々と繰り返されると塵も積もればなんとやらになってしまうだろう。 「困りましたわね。無刃はこちらの術の最大射程を超えていますし、練力を消費しないのか無尽蔵に撃ってきています。このままではジリ貧というやつですわ」 「そんな時には俺なのだぜ。銃の射程距離なら大丈夫なはずなのだ!」 「しかし、他の人の追撃ができませんよ? 失礼だとは思いますが、流石にお一人では倒しきれないでしょう」 「ぐぬぬ。それを言われると辛いのだぜ‥‥」 メイユが考えているところに叢雲が手を上げて元気に寄ってくる。 しかし龍馬にツッコミを入れられ、しょぼんとなってしまう。何故ならそれは叢雲自身も危惧していたことだからである。 一人だけ攻撃を当てられても、ヤツの硬さと再生力は侮れない。更に、一人だけ突出するわけにもいかないので他の面々が狙われては本末転倒だ。 侮りがたしと認めてくれるのは結構だが、まさか全く近寄らない戦法を取ってくるとは想定していない。正直勘弁して欲しいと誰もが思う。 「防いで、ガイロン! ‥‥あの様子だと、突っ込んでもバックして逃げ撃ちするんだろうね。同速だと駿龍でも追いつけはしないから狙い撃ち‥‥か」 真亡の指示により、ガイロンは防御姿勢を取って無刃をガードする。 開拓者たちは一箇所に固まって対策を講じようとするが、その間も獣骨髑髏は八人と八匹の周りをぐるぐる旋回し無刃を吐き出し続けていた。 全部回避出来ればいいが生憎そうもいかない。現状はヤツの目論見通り(?)じわじわとダメージが蓄積されていっている感じだ。 「このままでは埒があかない。向こうが狙えるのは一人までだろうし、威力も致死量というわけではないようだから、タイミングを合わせて複数で仕掛けてはどうでしょう」 「いいアイデアだが、逃げ撃ちの危険性が拭えていないな。空の追いかけっこは遠慮したいんだがね」 贋龍の提案もオラースの正論でお流れとなる。 現状では、できるだけ盾で仲間のフォローにも回ってくれている龍馬と紅龍の負担が大きい。できれば早めに結論をつけたいところであるが‥‥? 「‥‥分かりました。では、あえて私も前に出ましょう」 「えぇっ!? いや、確かに釣れるかも知れませんがリスクが大きすぎませんか?」 朽葉の言葉には、井伊でなくともぎょっとした。 ぎょっとはしたが、すぐにそれが最も効果的な流れであろうことに考えが行き着く。 駿龍を相棒にしている面子は、高速飛行を用いれば追いつくことは可能だろう。しかし突出は駄目と結論が出ているので却下。このまま機を見るというのも、相手が近づく気配が全く無いので却下。 ならばもう相手に近づかせるようにするしか無い。それには朽葉の持つ宝珠を囮に、少々危険な賭けに出るしかあるまい。 「勿論、パーツを復活させてしまうほど近づかせはしないつもりです。獣骨髑髏の行動原理が生存本能が第一というならば、パーツを復活させることへの欲求が慎重さを上回るでしょう。前回もそんなフシがありましたし」 「なるほど、確かに。‥‥分かりました、いざとなったら僕とガイロンでぶつかっていきますよ」 八人は頷きあい、無刃に耐えながら陣形を組み直す。 そしてタイミングを測り、朽葉、真亡、井伊、贋龍の四名がゆっくりと前進した。 それを見た獣骨髑髏は、回転し体勢を整えると朽葉たちと同速度で後退を始める。 物言わぬ獣の骸。獣の骸骨。その顔の中に、宝珠への欲求が確かにちらついたのを一行は見逃さない。 「さぁ‥‥どうです。これが欲しいのではないのですか?」 色鮮やかな宝珠を、朽葉はよく見えるように掲げてみせた。 あれがあれば体の一部が復活する! 完全な体に戻れる! あぁでも、危険な気配が拭えない‥‥! そんな葛藤が滲み出るように、獣骨髑髏は真紅の眼光を泳がせる。 ジリジリと距離が縮まる。獣骨髑髏の後退速度が遅くなっているのだ。 やがてその距離が50メートルばかりになったとき‥‥! 「来るっ!」 もう我慢できない! 獣骨髑髏が口を利けたならそんな台詞が出たかも知れない。 真紅の眼光を輝かせ、予備動作なしで全速前進! 一目散に朽葉とボレアへと突撃する! 「引っかかったのだよ!」 「やれやれ。獣は獣か‥‥」 叢雲のブレイクショットとオラースのアークブラストが頭部に直撃し、大きくのけぞる獣骨髑髏。しかしのけぞりながらも速度は落とさず、前進を止めない!? 「ここは通さない! ガイロン、硬質化を!」 「磐石の守護騎士の名の下に! 紅龍、スカルクラッシュ!」 ガイロンと紅龍、二体の朋友が体全体でぶつかっていき、獣骨髑髏を押しとどめる。 その隙に朽葉は後退。獣骨髑髏は口を大きく開き、紅龍に噛み付こうとするが‥‥! 「へへーん、もう一発同じところに!」 ガウンッ! と銃声が轟き、獣骨髑髏の鼻っ柱に二発目の銃弾が撃ち込まれる。 カザークショットで弾道を変えたブレイクショット。ただでさえ無機物の接近に鈍い獣骨髑髏は、避けようもなかった。 砕け穴の開いた鼻部分。痛みを主張するかのように、吠えるような仕草をするが‥‥! 「よくやりますよね、それ。隙だらけなんですよっ!」 「鋼牙‥‥全力で飛べ。こんなもんじゃ無いだろう、君の速さは」 井伊と帝釈、贋龍と鋼牙がそれぞれ上側から交差するように攻撃を仕掛ける。 またしても頭部に狙いを絞っており、頬骨や目の辺りが大きく砕けた。 危険だと思ったのか、一時頭部を切り離そうとする獣骨髑髏。しかし‥‥! 「残念ですがそうは行きません」 いつの間にか近づいていた炎龍とメイユが獣骨髑髏付近に姿を現し、ブリザーストームを叩き込む。 頭部と胴体が凍りついて離れない。慌てて後退しようとするが、遅い! 「バッシュブレイク!」 「白梅香!」 龍馬が凍りついた頭部を盾で殴りつけ、砕く。そして真亡が白梅香で横一文字に斬り裂いた。 「もう一つ‥‥オマケぇ!」 グレイヴソードを発動し、獣骨髑髏の眉間に剣を突き立てる龍馬。 確かな手応えの後、頭部はふっと消えてしまう。その消滅の仕方は明らかに不自然なものであったが、どこに行ったのかまでは分からない。 「やったか!?」 贋龍たちが息を飲んで見つめる獣骨髑髏の体。まだ胴体と腰、右足は宙に浮いたままだ。 やがて、それがぐらりとバランスを崩し‥‥自由落下を始める。 一応、下は平原になっている地域の上空を選んだ。落ちても問題はないだろう。 「やった‥‥やりましたよ! ははっ、ようやく決着がつきましたねぇ!」 「はぁ〜、しんどい相手だったのだよ。これで天儀の空も安全になるのだぜ」 長い間追った末だけに、一行の安堵の息は深い。 と、緊張を緩める一行にオラースが釘を刺した。 「安心するのもいいんだがね、とりあえずきちんと撃破の確認をした方がいいと思うぜ」 もっともだったので、一行は朋友に指示を出し地上へ。 青い空から緑の大地へ。草原に墜落した獣骨髑髏を見つけるのはさほど難しいことではなかった。 軽いクレーターのようなものが出来ている。それはかなりの勢いで墜落した証拠であり、獣骨髑髏はぴくりとも動かない。 「うん、賭けに出ただけの価値はありましたね」 「そう言っていただけると、提案した甲斐もあるというものです」 贋龍と朽葉が笑いあう。しかし、オラースとメイユは何やら引っかかることがあるようだ。眉をひそめて微妙な表情をしていることからもそれは明らかである。 「どうかしたんですか? お祝いにお料理でも振る舞いますので、帰りましょう」 「それは嬉しいですね。でも‥‥何かおかしいと思いませんか?」 井伊のお誘いにもメイユは煮え切らない態度のまま。 流石に戦勝ムードも鎮まり、動かなくなった獣骨髑髏を見下ろす一同。 「アヤカシっていうのは倒したら瘴気になるもんだ。それがなんで原型を留めてるんだ?」 「えっと‥‥司令塔を潰したとは言え、パーツそれぞれは独立した状態なんじゃありませんか? 独自には動き出さないけど、一つずつ破壊する必要があるとか」 「‥‥だといいんだがねぇ」 真亡の言葉に、オラースは右手を獣骨髑髏に向ける。 とりあえずアークブラストを叩き込んでみよう。そう思った次の瞬間、突如獣骨髑髏の体が跳ね上がり、全速力で離脱をかける! 『なっ!?』 地面すれすれをカッ飛んでいく頭なし、両腕なし、左足なしの骸骨。最早完全なホラー状態だ。 一瞬ぽかんとしてしまったのが災いし、初動が遅れた。全速力で追撃するが、駿龍でも追いつくのは難しい。 しかもヤツが向かった先は雑木林。翼で飛行する龍たちでは追撃できない‥‥! 「あ、あいつ‥‥死んだふりしてたのか!? ずっこいのだぜ!」 「いえ、死んだふりは動物や虫もします。とはいえ、すっかり騙されました」 メイユは目をつぶって思わず天を仰いだ。 確かに頭部を失って自由落下し、地面に激突まですれば倒したと思うのが普通だろう。 亜理紗が言っていた司令塔説が間違っていたのだろうか? はたまた頭部ではなく胴体を狙うべきだったのか。 確かなのは、重要なパーツを減らしたとは言えまたしても逃げられてしまったということ。 勝利には違いないが、あと一歩届かなかったというところか。 無刃も牙も失った獣骨髑髏。決着は、次の機会に持ち越しするしかない――― |