【SA】ところ変われば
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/27 08:39



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「セブンアームズ‥‥? あの連中、セブンアームズって言うの?」
「多分。報告書纏めてて気づいたんですけど、例の筋肉わかめメガネさんが『セブンアームズの一人』て言ってるんですよ。要はアホですね」
 神楽の都にある開拓者ギルド。今日も人でごった返すこの場所で、職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉はある事件の資料をまとめていた。
 先に石鏡で起こった一連の黒マントとの攻防は、黒マントたちが獲物を捕食し移動してしまったことで終わりを迎えた。
 それを受け、神楽の都のギルドと石鏡のギルドを行ったり来たりしていた二人の役目も終了したのである。
 そこで話題に持ち上がったのが黒マントたちの呼称。
 全員が銀髪に赤い瞳を持つという共通項があり、七人で全員と名言もしていた。
 それぞれが異なる武器を瘴気から実体化することを考えれば、七つの武具で『セブンアームズ』というのも頷ける。
 と、ここで新たな情報が二人にもたらされた。
「ま、またセブンアームズですかぁ!?」
「そうみたいだけど‥‥変ね、これ。なるべく内密に話を進めて欲しいって‥‥」
 一葉が首を捻ったのも無理はない。セブンアームズはすでに人を喰らうアヤカシと噂が広がっているからだ。
 にも関わらず、今回の指示書の冒頭には内密希望と書き込んである。
 詳しく読み進めてみると、以下のことが分かった。

 一つ、セブンアームズが石鏡の別の町へ移動したことが確認された。
 二つ、行方不明者は出ていない。
 三つ、以前のように散発的に姿を見せるのではなく、町中を普通に闊歩している。
 四つ、住民たちは怖がるどころか、セブンアームズたちに気軽に挨拶までする。
 五つ、依頼はその町の町長かららしいが、できれば依頼人も匿名ということにしておいてほしいとのこと

「ど、どういう状況なんですか‥‥」
「何で内密とか匿名にこだわるのかしら。まさか突然オトモダチになんてことないでしょうし‥‥」
「ふぇぇぇん、また石鏡との往復ですかぁ?」
「ギルド間で跳ばしてもらえるんだから文句言わないの。徒歩とかってわけじゃないんだから」
 セブンアームズを巡る新たな事件の発端。それは非常に解せない状況から始まった。
 住民と仲良くするセブンアームズというのは、彼らの性格を考えると微妙に想像できるから恐い。
 果たして、件の町で何が起こっているのか。まずはそれを確かめていただきたい―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ
百地 佐大夫(ib0796
23歳・男・シ
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓


■リプレイ本文

●調査中
「おんやまぁ、こんにちは。今日もいい天気だねぇ」
「黒マントさんこんにちはー!」
「えーっと? 中身は‥‥まぁ誰でもいいか。いい魚が入ったんだ、よかったら寄ってくれや!」
 石鏡南部、件の町。
 以前の村より規模も大きく、人の往来も多いこの町で、一人の黒マントが歩いていた。
 いや、正確には『セブンアームズ(以下SA)と同じ格好をした開拓者』である。
 ジークリンデ(ib0258)は一計を案じ、わざとSAの真似をして歩きまわり、町の人々の反応を探っているのである。
 そこでかけられる声には、怯えも畏怖もない。まるっきり気さくに、老若男女問わず声をかけてくるのが奇妙といえば奇妙だった。
 声を出すとまずいので軽く会釈して応えるが、町人たちのリアクションからしてSAたちもそうしているのであろうことが覗える。
(それにしても奇妙なこともあるものですね。人を喰らうアヤカシと分っていて仲良くする人がいるなんて)
 そう、SAがアヤカシであることは石鏡内ではかなり噂になっているはずなのだ。
 それでもなおSAが受け入れられている理由はなんなのか。
 ジークリンデは何か裏があるのだろうと踏んでいるのだが、これといったヒントは得られていない。
 と、そこに。
「あ‥‥!」
 ジークリンデは、角を曲がってきた一人の少年と危うくぶつかりそうになった。
 しかし少年は素晴らしい反応速度で大地を蹴り、バックジャンプして距離を保つ。その動きは洗練されていて、素人のそれでないのは明らかだ。
「‥‥誰か分からないけど、おいらのこと覚えてる?」
「御安心ください。ジークリンデですよ」
「よ、よかったぁ‥‥! 見つかったと思って寿命が縮んだよぅ」
 ジークリンデは軽くフードをめくり、少年に顔を見せた。
 小伝良 虎太郎(ia0375)。彼もまた開拓者であり、SAとは因縁ある人物だ。
 SAたちに顔を見られたことのあるメンバーは、ジークリンデのように顔を隠すかSAから身を隠しながら聞き込みを行っている。
「で、首尾はどうですか?」
「どうもこうも‥‥受け入れられてるのはジークリンデも分かったでしょ? でも聞いて回ったら何とびっくり、あいつら自警団みたいなことしてるんだって!」
「‥‥はい?」
「みんなあっさり話してくれるんだよ。何でも町長が町に招いて、犯罪者を捕まえて貰ってるんだってさ」
「ただし、極悪人の末路は‥‥というお話は御存知?」
 大通りから路地に入って話していたジークリンデと小伝良に、どこからか声がかかった。
 しかし二人は慌てない。聞き覚えのある声だったし、何より純白の日傘が見えたからだ。
 アレーナ・オレアリス(ib0405)。彼女も顔を知られていないことを武器に聞き込み調査に回っていた仲間の一人だ。
 ドレスに日傘で旅人を演出したのだが、誰も彼女がSAのことを調べに来たとは思うまい。
「極悪人って‥‥どういうこと? おいらは捕まえるっていうとこまでしか聞いてないや」
「例えば殺人や強盗などの分かりやすいものは勿論、泥酔しての暴力やひったくりなども対象になり得るそうです。要は、迷惑行為も度を過ぎると‥‥ということでしょうか」
「‥‥そういう『極悪人』は、捕まえたら人気のないところに連れて行ってがぶり‥‥ですか」
 ジークリンデの言葉に、思わず声を漏らす小伝良。
 アレーナの無言の肯定が事実を物語っている。
「なるほど‥‥それならSAたちはそこそこ定期的に餌を取れますし、犯人を捕まえるという行為は軽くゲームじみておりますわね」
「町の人たちは犯罪が減って万々歳って!? そんなのってアリ!?」
「個人的にはナシだと思いますが、この町の人達にとってはアリだったんでしょうね。悪いことさえせず危害が及ばないのなら‥‥という大衆根性でしょうか」
 そうなのだろうか。本当に、そんなことで人喰いであるアヤカシと共存できるのか。
 本当に、喰われるのが犯罪者だけなら割り切れるというのだろうか‥‥?
「でもそうすると変だよね。町長がSAを呼んだのに、町長が依頼を出してきたなんて‥‥」
「そうですね。町長殿に話を聞きにいくのもいいかもしれません」
 そう言って、アレーナはドレスの裾を翻しどこへともなく姿を消した。
 ジークリンデもまたフードをかぶり直し、すたすたと歩いて行ってしまう。
 残された小伝良だけは、神妙な表情をしていたという。
「‥‥もう二度とあんな結末になんてさせない。犯罪者って言っても、やり直す機会もなく食べられていいわけがないよ‥‥!」

●遭遇
「こんにちは。暑くないんですか、その格好」
「‥‥‥‥」
 銀狐の耳と尾の神威人‥‥鹿角 結(ib3119)。
 彼女も面が割れていないメンバーだが、彼女の調査の切り口は非常に鋭かった。
 即ち、旅人を装って直接話を聞いてみようというのである。
 目の前のSAは答えない。フードを被っているからだが、特に警戒している様子もない。
 普通の人間が話しかけるよりは、獣人の方がアヤカシとしても幾分か話しやすいかも知れない。
 するとSAはフードを取り、笑顔で応じた。
「見ない顔ね。旅人さん?」
「はい。道すがら何人か同じ格好をした方々を見ましたが、流行っているんですか?」
「そういうわけじゃないんだけどね〜。まぁ、制服みたいなものよ」
 予め聞いて知ってはいたが、鹿角は内心舌を巻きっぱなしだった。
 人と同じ容姿。たおやかに笑う大人びた少女は、ロングの髪と今までの情報から察するに反棍のクレルか。
 鹿角に敵意がないことを見抜いているのか、あまりに無警戒だった。
 大きな道だったので周りに他の通行人も多い。しかし、その誰もが『あぁ、クレルさんだったのか』『今日もご苦労様』といった和やかな言葉を残し通りすぎていく。
 分かってはいても、目の前の銀髪赤目の少女がアヤカシとは思えなくなってしまう。
「悪い人には見えないけど、一応覚えておいてね。この町で悪いことしちゃ駄目よ。多分、他所とは比べ物にならないほど厳しい罰が待ってるから」
「お、脅かさないでください。そんなに厳しい町なんですか、ここって」
「ん〜、なんて言うか‥‥。最近厳しくなったっていうところ。悪いことしたら擁護しないけど、そんなに厳しいとは知らなかったっていうのも可哀相だものね。教えられる範囲には教えてるの」
「具体的には、どれくらいのことをしたらどうなるんですか? あなたが厳しい罰を与える人なんですか? その基準は?」
「あらやだ、随分熱心ね。そんなに興味が湧いたの?」
 笑顔で応対するクレルには、悪意は感じられない。
 だが待って欲しい。もっともらしいことを言っているが、彼女はあくまで人喰いのアヤカシであり、これまでも多くの人々を食ってきたはずだ。
 どの面下げてそんなことを、と被害者の遺族が聞いたら思うことだろう。
 くすくす笑ってはいるが、急ぎすぎたか。鹿角がそう思った時。
「すいません、あたしも興味あります。商売上、知らずに揉め事に巻き込まれることもありますので‥‥」
 横槍を入れたのは、薬売りに扮した鈴木 透子(ia5664)である。
 彼女も面の割れていない開拓者の一人で、変装してSAのことを探っていたのだ。
 途中で鹿角と合流していた彼女は、雰囲気がまずくなったら助けに入るという役回りを担っていた。
「あらやだ、可愛いお嬢ちゃんね。んー、とりあえず行商の人への縛りはなかったと思うわ。悪いことって言っても、泥棒とか人殺しとか、普段の生活していればしないことばっかりよ?」
「そうですか。それなら安心です。たまに『誰に断ってここで商売しているんだ』とか言われることがありますので、気になったんです」
「なるほどね。うん、頑張ってね」
 なんだろう。とても釈然としない。
 お前はどうなんだ? お前は悪いことをしていないのか? そんなことを言う資格があるのか?
 鈴木は頭を撫でられながら、漠然とそんなことを考えてしまっていた。
 人喰いの化物。それがそんな優しく笑い、人を心配するようなことを言うのは偽善ではないのか。
 鹿角もまたわからなくなる。何故SAたちはこんなことをするのだろう。
 少なくとも今まで聞き込みをした中には、彼らがこの町にこだわらなければならない理由はないはずなのだが‥‥?
「よう、あんたこいつのお仲間かい? このバカ何とかしてくれよ‥‥」
 と、そこに現れたのは百地 佐大夫(ib0796)であった。
 彼は聞き込みというより、SAを尾行しその様子を探っていた開拓者である。
 それが何故堂々と姿を現したのかというと‥‥
「ふっ‥‥バカはバカでも筋肉馬鹿ですがね‥‥!」
 百地の後ろにいた銀髪赤目の眼鏡男を見て、クレルは軽く目眩を覚えたようだ。
 マントを脱ぎ去り、上半身裸で惜しげもなく肉体を披露しまくっていたからである。
「ダシオン君‥‥またユーなの? いい加減不用意にマントを脱ぐのやめなさいって‥‥」
「何、彼が怪しい動きをしていたのですよ。私の後ろをちょろちょろと‥‥よほど私の肉体美に興味があると判断したまでです」
「おかしいでしょ! ごめんなさいね、よく言っておくから」
「いやまぁ、分かってもらえりゃいいんだがよ。俺も飯の種になりそうだからってこそこそしすぎたところもあるからな」
「あら、かわら版屋さん?」
「‥‥に、ネタを提供するなんでも屋ってとこだ」
「ふぅん? まぁ、頑張って。ほらダシオン君、もう行くわよ!」
「承知しました。あなたたち運が悪かったですね。もう少し時間があればもっと私の肉体美を―――」
「いらねぇよ! 帰れっ!」
 カオスな状況になりながらも、クレルとダシオンはその場を去っていった。
 開拓者だと悟られてはいまい。しかし、何故突然百地が出てきたのかは気になる。
 別に本気でダシオンをなんとかして欲しかっただけではあるまい。
「あぁ、実はな‥‥あいつらの根城らしきところを突き止めた。何人か黒マントが出入してやがったから間違いはないと思うぜ」
「お手柄じゃないですか。どこなんです?」
 鹿角の期待を込めた視線を浴びつつ‥‥一呼吸置いて、百地は言う。
「‥‥町長の屋敷だ―――」

●あなたとお茶を
「俺? 今は依頼の帰り道で美少女と楽しい時間を過ごそうかなぁと思ってなぁ」
「私も同じ依頼の帰りよ。いいじゃない、貴方の事が忘れられなくて‥‥♪」
「は、はわわ! そ、それじゃ、自分でよければお供するッス‥‥」
 そんなやりとりをしたのはつい十分ほど前のことである。
 鷲尾天斗(ia0371)と緋神 那蝣竪(ib0462)、そして剛爪のリュミエールの三人(?)は、近場にあった茶店に立ち寄り、店先の席でのんびりお茶を啜っていた。
 正確に言うとリュミエールだけはバリバリに緊張していたようだが、性格によるものらしい。あちこちに視線をやるので、トレードマークのツインテールが常に揺れていた。
「あら、リュミエールちゃん人間の食べ物も食べられるのね」
「は、はいッス。自分たちは有機物なら基本何でも美味しく食べられるッス!」
「それに俺達も含まれてるのがなんだかなぁ。動物ばっかじゃ駄目なん?」
「だ、駄目ってわけじゃないッスけど、動物はあんまり怖がってくれないッス。恐怖の感情と一緒に食べるのが一番美味しいんッスよ‥‥」
「‥‥正直に言ってくれるのは嬉しいけど、物騒な会話ね‥‥」
 面が割れているのを逆手に取り、知人として接触を試みた鷲尾と緋神。
 普通に団子を頬張るリュミエールを見て何気なく始まった会話だが、何気に重要なことを聞いてしまったような気もする。
 二人が最初に見つけた黒マントの中身がリュミエールだったのはとても運が良かったと言える。これがジークだったりしたら鷲尾のテンションがダダ下がりだっただろう。
 今だけなのかも知れないが、SAは基本的に敵意を向けてこない。だからこちらも敵対行動はしない。
 もしかしたら、鷲尾がよく言う『自然の摂理』というのは重要な考え方かも知れなかった。
「って言うか、何でお前らが普通にこの街に溶け込んでる。見た所、町の連中もお前ら怖がってねぇし」
「ま、まぁ色々ありまして‥‥。で、でも、変なことはしてないッスよ! ホントッスよ!」
「ま〜た、変な遊び思いついたんじゃねぇだろうなぁ。普通に狩るのが飽きたからとか」
「そ、そういうんじゃないんッスけど‥‥お願いされたっていうのもありますし、こっちもわりと面白くなっちゃったんッスよねぇ‥‥」
 この時、鷲尾たちはまだリュミエールたちが自警団まがいのことをしているとは知らない。また、町長がSAたちに頼んだということも知らない。
 だから意味が分からず、不穏な想像しかできなかったのだろう。
「はぁ‥‥でも、SAのみんなは本当にカッコよくて可愛いわねぇ‥‥」
「ぶふぇっ!? げほっ、がほっ!? お茶がっ‥‥!」
「これでアヤカシでなければどんなに‥‥。うーん、ぎゅってしちゃう♪」
「わわっ、く、苦しいッスよぉ〜! おっぱい大きくて苦しいッス!」
「あら、息しないと死んじゃうの?」
「い、いえ、全然。で、でも、なんていうか‥‥は、恥ずかしいッス‥‥」
「大丈夫よ。恥ずかしいのは最初だけ‥‥♪」
「うわーん!?」
「‥‥‥‥‥‥いい‥‥!」
 じゃれあう緋神とリュミエールを見て、サムズアップと共に暑苦しい笑顔を見せる鷲尾であった。
 とりあえずこのままじゃれ合っていてもこれ以上の情報は得られまい。
 あまり根掘り葉掘り聞くのも、長居をするのも依頼帰りという設定を疑われてしまうだろう。
「そんじゃ、そろそろ帰るかぁ。また機会があったら会おうや。男連中はいらねぇけど」
「で、できれば今回みたいに戦わずに済めばいいッスね!」
「‥‥お前がそれを言っちまうのか」
「はい?」
「いんや、なんでも。んじゃな」
「それじゃ私も御暇するわね。‥‥ところで、貴方ここで『食事』しなくても大丈夫なの?」
「してますから大丈夫ッス!」
「っ‥‥!」
「それに、自分たちそんなに頻繁に食べなくても平気ッスから!」
「‥‥そう。じゃあ、またね」
「は、はいッス!」
 なるべく平静を保ちつつ、二人は茶店を後にした。
 ふと振り返ると、リュミエールがマントとフードを羽織り直しているところであったという。
「‥‥あのまま、マントを着なければただの美少女‥‥ってわけにもいかねぇもんなぁ」
「さっきの返事からすると、この町ですでに『食事』は行われてる。なのに移動しないのは何故‥‥? リュミエールちゃん‥‥」
 様々なことが分かった今回の依頼。出だしとしては上々だろう。
 あとはここからどうするか。開拓者の腕の見せどころである。
 まずは、町長とSAの関係をはっきりさせるのが先決であろうか―――