【SA】内情と実情
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/31 19:58



■オープニング本文

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 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「はい、一葉さん! 異議があります!」
「どうしたの急に」
「セブンアームズ(以下SA)のことですよ! 行方不明者は出てないって前回言われましたけど、SAたちは、その‥‥ひ、人を食べたって‥‥!」
「そ、それは私に言われても。でも、嘘ではないわよ。『行方不明者』じゃなくて『処刑者』っていう扱いだもの‥‥」
  神楽の都にある開拓者ギルド。今日も人でごった返すこの場所で、職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉はある事件の資料をまとめていた。
 神楽の都のギルドと石鏡のギルドを行ったり来たりし、SAの事件の担当を続行している二人である。
 全員が銀髪に赤い瞳をの人そっくりのアヤカシで、七人構成。
 それぞれが異なる武器を瘴気から実体化させる能力を持つ、どこかズレた性格の連中だ。
 前回の依頼で全員で調査に回った開拓者たちは、件の町でSAたちが自警団のような真似事をしており、凶悪犯罪者を処刑の名のもとに食べているということを突き止めた。
 しかし、町の人達はそれをどこまで知っているのか、SAたちに実に好意的なのである。
 更に、前回開拓者を匿名希望で呼び寄せた町長の屋敷をSAたちが拠点としている事実も判明し、謎が謎を呼ぶ状況となっていた。
「でも、随分間が空きましたね? 何かあったんですか?」
「さぁ? 上の考えは末端の私たちに伝わらないこと多いしね」
 確かなのは、例の町長から再び匿名で依頼が舞い込んだことである。
 亜理紗も一葉も、その依頼を達成させるために努力することしかできない。
「どういうことなんでしょう? 何かの罠なら前回開拓者さんがSAたちと接触したときに襲われてるでしょうし、無理矢理支配されてる町だって感じは無かったはずなんですけど」
「分からないわね‥‥町長は敵? 味方? SAを町に呼んだというのが彼なら、SAを何とかするために開拓者を呼んだのも彼‥‥」
「直接聞くしかありませんよねぇ‥‥。SAの目を掻い潜って、町長さんだけに会えますかね?」
「案外、頼めばあっさり町長さんと話させてくれたりしてね」
「うわぁ‥‥ありそうで嫌ですねぇ‥‥。その場合、話を聞いた後どうするかも考えないといけませんね」
「丁度、ギルドの上層部からも町長を問い詰めてこいって話が出てるわ。実情にどこまで迫れるかしらね‥‥」
 町人との関係は友好。しかし、その友好はどこか歪んでいる。
 犯罪者なら喰われてもいいのかという疑問。犯罪者とはいえ人間を喰うアヤカシと仲良く出来る疑問。それはもしかしたら、戦う力のない者たちにしかわからない心理なのだろうか。
 SAは人に限らず、生物を喰らう。もしかしたら、その根源から探らねばならないのかも知れなかった―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
斎 朧(ia3446
18歳・女・巫
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ
百地 佐大夫(ib0796
23歳・男・シ


■リプレイ本文

●実情
「あぁ、ここは前は治安がよくなかったのさ。神楽がすぐ近いわけでもなく、かと言って石鏡の中央部からも遠い。野盗やガラの悪い武芸者モドキなんかがよく暴れてたもんさ」
 件の町に着いた開拓者たちは、各々思い思いに行動を開始していた。
 今回初めてこの件に関わる真亡・雫(ia0432)は、面が割れていないこともあって聞き込み調査を行っている。
 町長の評判も良好。初めは『アヤカシを呼び込むなんて』と思われていたそうだが、セブンアームズ(以下SA)が想像以上に働き実際に治安が良くなったので、気にならなくなってしまったらしい。
「そうですか。ところで皆さんは、処刑の方法って知ってるんですか? 死刑が増えているのは、まぁ仕方ないとしても‥‥どうして処刑人と親しくできるのかな、って」
「そりゃあんた、悪いことしてなきゃ処刑人に処刑されることないもんよ。処刑方法は‥‥まぁ実際見た奴はいないが、大体想像はつくさ」
「では何故‥‥」
「首を斬るのも磔にするのも処刑には変わらないだろ? それらはよくて食べられるのは駄目なんて偽善者の言う事さ。SAさんたちはきちんとルールを守ってこの町にいる。なら、人間の中でルールの守れない奴なんざ知ったこっちゃないね」
 首を振りながら言う町人に対し、真亡は何も言えなかった。
 罪人を裁くことは必要だ。彼も自分の手を汚したこともある。
 しかし、町人たちの危機意識の薄さも問題な気がするのだ。
 仮にSAたちが暴走したら。そういう懸念はどこに行ってしまったのだろうか?
 結局、真亡はSAとかち合うこともなく、調査を終えるに至った。

 友好というなら先にSAが今までに行ってきた行為を裁かれるのが筋である。
 アレーナ・オレアリス(ib0405)はそう考えながら日傘を差し、ドレス姿で優雅に聞き込みを行っていた。
 近年稀に見る勢いで死刑が行われているというところに着目した彼女は、市街地の住民には勿論、遺族にも話を求めたのである。
 そこで得られたのは、元々犯罪が多かったこと、処刑された者の多くはよそ者であるということ。
 野盗の一団がそっくり捕らえられ、死刑待ちであるということは町の中では有名な話らしい。
 勿論、町の住民の中にも死刑囚は居た。しかし、その遺族はこう呟いた。
「そりゃあね‥‥出来が悪いとは言え息子ですから、抵抗はありましたよ。でもね、酔って暴れて人を三人も刺し殺しちゃ弁解はできない。仕方なかったんですよ‥‥」
「それでよろしいのですか? 更生への道も‥‥」
「お嬢さん‥‥あんた、由緒正しい家の出だろ? 雰囲気でわかるよ。わしら庶民の風は意外と冷たいところがあってね‥‥犯罪者は勿論、その家族まで冷たい目で見る者は多い」
「でも、暖かく声をかけてくれる方もいらっしゃるのでしょう?」
「確かに。でもな、わしらの方が耐えられんのだよ。息子がこんなことをしでかして申し訳ないと、家族の心が先に折れてしまう。いっそはっきり死刑を突きつけられたほうが、息子との軋轢も無くなって済む‥‥」
 重いため息を吐く初老の男性。名家の出身であるアレーナには理解出来ない世界だ。
 だが、犯罪者の方の家族にも色々あるのだと‥‥それだけは分かった。

「ちょっと待って。お話、できるかな?」
 町を歩く黒マント‥‥即ちSAの一人を呼び止めたのは、小伝良 虎太郎(ia0375)である。
 黒マントの中身は、多少身長差はあるがフードを取るまで分からない。中身が誰であるかは半ば賭けだが、目当てがいるわけではないので良しとしよう。
 というより、一人でも足止めするのが彼の目的である。
「おや‥‥いつぞやの小僧か」
 フードを取って出てきたのは、ギリギリセミロングにならないくらいのショートボブの少女。
 操球のキュリテ。小伝良とはあまり縁のない相手だ。
「何しに来た? またわらわたちとやりあうつもりかえ?」
「そういうわけじゃないよ。噂を聞いて確かめに来ただけ。自警団みたいなことしてるって」
「あぁ、なるほどな。別に咎められるようなことはしておらんぞよ」
「らしいね。立ち話も何だからさ、何か食べる? 人間の食べ物でよければ奢るよ」
 近場の飯屋に入った二人は、それぞれ注文して料理に手をつけた。
 小伝良が焼き魚定食、キュリテは焼肉定食である。
「奢った見返りってわけじゃないけどさ‥‥聞きたいことがあるんだ」
「構わん。よきにはからえ」
「君らはどうやって犯罪者を見つけてるの?」
「わらわたちがどうして町をうろついておるか分からんのか? 事件があればそこにすっ飛んでいく。地道な足での警備じゃ」
「‥‥あんまり乗り気じゃないみたいだね?」
「当たり前じゃろう。犯罪者が出るまで待つなどわらわの性に合わん」
「もし‥‥もしさ、街から一人も犯罪者がいなくなったら、その時君らはどうするの?」
「さてな。死刑になるような輩が一人も出なくなればお役御免じゃろうて。その時はまた獲物を求めてさすらう。というか、その方が正しい姿じゃがな」
「‥‥町の人に手を出す気はないの?」
「獣程度の知恵しかない下級なアヤカシならともかく、我らは無駄に貪ったりせぬ。獅子という動物もそうであろう? 喰う分だけ殺す。無駄な殺生は自らの餌を減らすだけよ。‥‥ん、馳走になった。また奢らせてやってもよいぞ」
 食べ終えたキュリテは、軽く微笑んで席を立つ。
 小伝良は慌ててそれを追い、質問を交えながら世間話をして時間を稼ぐのだった。

「おっとそこ行くお嬢さん‥‥で、いいよな? お話できないかな」
 壁にもたれかかっていた鷲尾天斗(ia0371)は、目の前を通りすぎようとしたSAに声をかけた。
 中身は不明だが、身長からして男二人の可能性は低い。
 まぁそれ以前に、鷲尾の美少女に対する鼻の良さが発揮されているらしいのだが。
 しかし、フードを取ったSAの中身を確認し、鷲尾は思わず身体を強ばらせた。
 長い銀の髪。つまらなそうな表情。
 以前、鷲尾たちの目の前で人を喰ったSA‥‥シエルだった。
「‥‥あちゃー、リュミエールに会いたかったんだが、人違いだったか。外したなぁ」
 すぐにいつもの軽い調子に戻したが、一瞬の動揺に気づかれただろうか。
「‥‥何か用?」
「美少女ならお前さんでもいいや。どうだ、時間の許す限りデートしよう。出来れば朝まで」
「‥‥嫌」
「バッサリだなおい!?」
「‥‥お腹すいたから、もう帰る」
「んなら俺が奢っちゃる。つってもメシは人間の物を食おうな。流石に俺はおまえさんと一緒の物は食えんし」
 それでも構わないのか、シエルはこくりと頷いて鷲尾の後を付いて来る。人間だったら逆に危険なくらいの無防備さである。
「それじゃ何喰う? 朝までは長いぜ?」
「‥‥朝までは無理。門限、ある」
「あんのかよ!? なんでそんなキチッとした生活してんだ‥‥」
「‥‥よく分からない。でも、つまらないから好きじゃない」
「あー‥‥まぁ、堅っ苦しいのは確かだろうなぁ、おまえさんには」
「‥‥ドラ焼き」
「へ?」
「‥‥ドラ焼き、食べる」
「(扱いづれぇー‥‥)わかったわかった。なんでもいいさ」
 所詮、この世は弱肉強食。弱者は強者の糧となるのが自然の摂理と鷲尾は言った。
 そしてこの町はそれにしたがっているように見える。とんだお笑い種だと思う。
 シエルの足止めはできたが、結局目的のリュミエールには会えなかったという―――

●内情
 ここ、町長の屋敷では、開拓者四人と町長が直接顔を合わせているところであった。
 SAは全て出払っており、帰ってくるまでには時間があるとのこと。
 唯一、シエルだけが腹が減ると不意に帰って来ることがあるらしいが、鷲尾が足止めしてくれているからその心配もない。
 一行は緋神 那蝣竪(ib0462)の手引きにより、安全を確認した上で屋敷に入ったのだった。
「よく来てくださいました。心から感謝いたしますぞ」
「説明はしてくれるんだろうな? こっちはわかんねぇことだらけで振り回されてんだ。何でSA呼んだあんたが俺達まで呼ぶ?」
 百地 佐大夫(ib0796)のダイレクトな質問に、町長は眼を閉じる。
 その質問は当然だと言わんばかりの表情からは、悩んでいるのが見て取れた。
「実は‥‥SAを呼び寄せたというのは方便なのです。私は、望んでいなかった」
「それはつまり、SAたちがあなた様を脅して無理にこの町に居座っているということでしょうか?」
「いいえ、それは違います。話を持ちかけたのは確かに私なのですから」
「意味が分からないのだけれど。つまり‥‥どういうことなのかしら?」
 ジークリンデ(ib0258)の言葉はさらっと否定された。
 望んでいなかったのに話を持ちかけたというのはどういう事か。緋神でなくとも混乱する。
「つまり‥‥『望んではいなかったが持ちかけざるを得なかった』というわけですね?」
 常に微笑んでいる斎 朧(ia3446)の、穏やかながら鋭い切り口の一言。
 その笑顔に後ろめたいものを感じたのか、町長は思わず目を逸らした。
「なるほど。仮にSAたちがこの町に来て初めて狙った獲物が町長様だったとします。そして町長様は苦し紛れに『この町を守ってくれたら効率的に人が食べられる』と交渉を持ちかけ、事なきを得た‥‥そういうことでしょうか」
 流石に斎もジークリンデも知恵が回る。あっという間に状況を理解し、ズバリ言い当てた。
 町長の無言が、それを肯定している。
「んで? 元々治安が悪かったってのもあって、意外にも町人たちに人気が出ちまったってわけか」
「彼らは普通に会話できるし、契約上この町では無闇に人を襲わない。しかもフードを取れば中身は人間と区別がつかないわ。そういう要素もあってのことなんでしょうけれど‥‥」
「‥‥私も現状が良いとは思っておりません。しかし、なまじ実績があるだけに無理に追い出すわけにもいかんのです。今更出て行けなどといえばどうなるかわかったものでもありませんしな‥‥」
「別にいいんじゃねぇの? 大勢が納得して上手く行ってんならそれでもよ」
「そうも行きませんよ。この町から、犯罪者が消え、処刑されるべき者がいなくなった時、アヤカシはどう動くと思われますか?」
 斎の質問に、町長は再び黙った。まさにそれを懸念している。そんな風に見える。
 それは斎にとっては少しばかりの安心につながった。この町長は何も考えていないわけではないらしい。
「‥‥現に犯罪率は急激に減り始め、噂を聞いた野盗や無頼の輩は近づかなくなりました。それだけに、後々のSAの反応が恐い。いつ『話が違うじゃないか』と言われるのか‥‥」
「かと言って、SAたちを追い出せても元の木阿弥になっては困る‥‥と? それは少し欲張りが過ぎるのではないでしょうか」
 ジークリンデの言葉は正しい。正しいがゆえに町長に突き刺さる。
 自らの命を守るためとは言え、とっさに出た一言がここまですんなりいくとは思っていなかったのだろう。そしてすんなりいった後の収集の難しさも想像以上だったのだ。
 現状維持にも問題有り、かと言って追い出すにも問題有り。はっきり言って町長だけではもうどうにもならないから開拓者に助けを求めたのだろう。
「‥‥あまり長居するのもよくないでしょう。判断の責任は、自分で取るものですよ?」
 そう言って、斎は立ち上がった。
 何かの拍子にSAが帰ってきても困る。そろそろ立ち去ったほうがいい。
 緋神が連絡手段を提案し、町長と確認し合ったので、次からは連絡自体は滞りなくできるはずだ。
「あぁ‥‥私はどうすれば‥‥」
「今の町の状況は、アヤカシを討つのに向いていないことも分かるでしょう。アヤカシを利用し、次に私達を利用する気ならば、徐々にでも人々の気運を変えるぐらいの仕事は、求めて良いですよね?」
「おいおい、倒すの前提かよ。顔に似合わずきついな」
「必要なら、ということよ。まぁ、流石に正直に話しても理解は得られないでしょうけどね‥‥」
 考えさせてくれ、という言葉を最後に、町長は押し黙ってしまった。四人も人目を忍んで裏口から屋敷を出たため、それ以上の追及はできなかったのだが。
「瓢箪から駒、嘘から出た真‥‥ってか? それはそれで収集つかなくなるわけか」
「生き延びるための足掻きを否定する気はありませんが‥‥事が大きくなりすぎましたわね」
 普通に考えれば追い出すべきだし、相手はアヤカシなのだから討ち滅ぼしてしまえばいいとも言えるが、どっちみち開拓者の協力がなくては不可能だ。
 そして、討伐には町人たちの世論が邪魔となる。なんとも難しい話だ。
 どちらにせよ、戦うのは開拓者となるのは確かなのだ。
 決定権は、開拓者にあるのかも知れない―――