【SA】決別、その後に
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/31 20:52



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

『人とアヤカシは共存できない』
 石鏡の上層部はそう結論付け、国内のとある町で自警団まがいの行動をしていたアヤカシの排除に乗り出した。
 セブンアームズ(以下SA)と呼ばれる彼らは、獲物として捕らえた町長のとっさの提案に乗り、犯罪者を捕まえて死刑囚を食べるという行動を取っていた。
 町での評判は上々。契約内容的に無闇に人を襲わないこともあり、共存は可能かと思われた‥‥が。
 結局SAにとってはお遊びのようなものだったらしく、最初はともかく長く続くその生活に嫌気を覚えるメンバーも出始めたらしい。町を出ていってくれという提案をした時のリアクションからもそれは確かだ。
「‥‥結局、どうなりますかね? やっぱり戦うことになるんでしょうか‥‥」
「多分ね。落とし前ってわけじゃないけど、SA的にも町長には責任をとってもらおうとは思うんじゃない?」
 石鏡の開拓者ギルドで話をする二人の職員‥‥十七夜 亜理紗と西沢 一葉。
 神楽の都との往復も大分慣れたが、いい気分になったことはあまりない。
 開拓者の説得で、SAに対し明確な決別を宣言することにした町長。
 同じく開拓者の説得で、町を出ていくことを7人(7体と呼称すべきとの意見もある)で検討すると答えたSA。
 誰が聞いても穏便に済むとは思えない状況であり、開拓者の協力がまたしても必要不可欠となるだろう。
「懸念事項はたくさんあるわよ。町長がSAと交渉している最中やその後の護衛、SAたちが町の人を襲いかからないか、仮に町を出たならその後の行方や行動etc‥‥」
「出ていってもらっても他所で人が食べられたら困りますしね‥‥。そもそも出ていくのを嫌がったり、交渉のために何か策を打ってきたり、問答無用で暴れられるなんていうのも想定しませんと」
「一応、SAたちが出て行った後は石鏡の上層部が警備兵を派遣して治安維持をするそうだから、事後は心配ないわ。問題は交渉。そこは開拓者さんたちに任せるしかないわね」
 ついに佳境となったSA第二の事件。
 果たして、SAはどういう結論を導き出すのか。そして、交渉の行方は?
 単純に戦うとなったとしても、彼らは強い。そういう意味でも今回の件は難しい。
 人型アヤカシとの戦い。開拓者は、その行方を開拓することが出来るのだろうか―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
斎 朧(ia3446
18歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
狐火(ib0233
22歳・男・シ
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ
百地 佐大夫(ib0796
23歳・男・シ


■リプレイ本文

●清算の時へ
 石鏡南部のとある町。すでに何度も訪れているこの町に、開拓者たちはまたしても集った。
 しかし今回は初っ端から緊張感が違う。良い目が出る可能性がかなり低い博打じみた依頼だからだ。
 人間の提案で人間の町を守っていた人型アヤカシ、セブンアームズ(以下SA)。
 その約束を破棄すると言い出したのもまた人間から。これでは人間同士でも義理が通らない。
 それでも、今回の会談は行わなければいけないのだ。例えSAが町長を喰ってやると言い出しても、それを防衛しながらSAを町から追い出さなければならないのだ。
 人とアヤカシは共存できない。少なくとも石鏡上層部の認識はそういうことなのだから。

 町に集まった開拓者たちは、まずは町長宅を訪れた。
 これからの会談のこと、会談での回答や緊急時の立ち回りの確認、そして会談場所についてなどなど。
 ここで困ったのは、郊外に使われていない一軒家があるにはあるが、緋神 那蝣竪(ib0462)が希望したような『地下室や出入り口が1つしかないなど防御がしやすい部屋がある建物』ではない。
 というか、この町でそんな建物は存在しないとの事だ。
 鈴木 透子(ia5664)もすぐに逃げ込める部屋がある建物と言っていたが、そうそう都合よくはないものだ。郊外に空き家が一軒あっただけで幸運と思うほかないだろう。
「‥‥それでは、始めるか」
「ええ。どうぞ」
 会談に臨むのは、町長とその護衛役のアレーナ・オレアリス(ib0405)だけ‥‥‥‥ではない。
 囲炉裏のそばに腰を下ろしているのは町長とSAのクレルだけだが、その後ろには開拓者一同とSA6人が勢ぞろいしていたのである。
 SAたちはしれっとした顔をしているが、開拓者たちは苦虫を噛み潰したような表情の者が多い。
 その理由は、一目瞭然であった。
「ねーねー、お菓子食べていーい?」
「お姉ちゃん、お話長くなる? 早く遊びたいよう」
 二人の幼女がSA側の手の内にあり、状況も分からず無邪気に笑顔を振りまいている。
 その表情に怯えは一切無く、慣れ親しんだ遊び相手に向ける視線でしかなかった。
「‥‥、どういうおつもりですか、その子たちは」
「べっつにー? 今日遊ぶ約束してただけだもんねー?」
「ねー♪」
 思わず笑顔を忘れそうになった斎 朧(ia3446)であったが、何とかいつもの微笑で応対する。
 クレルの後ろに控えていたクランはあぁ言ってはぐらかしたが、その視線からわざとこの日を選んで約束したことは明らかだ。
 要は町の子供を人質に取ったまま会談に臨み、代表者だけでの話し合いを拒否し全員参加でと条件付けたのもSA側である。
「おい、どういうことだよありゃあ。なんでここに来るまでに追い返さなかったんだ、コラ」
「いえ‥‥あの子達は予めここで待ってたんです。それこそ『約束』をして‥‥」
「‥‥やられました。前回撒いた不安の種のおかげで大人たちはSAと距離を置くようになっていましたが、子供まではそうはいかなかったのです。純粋故に噂に左右されない‥‥」
 小声で非難の声を上げた百地 佐大夫(ib0796)だったが、真亡・雫(ia0432)や狐火(ib0233)の落胆した声を聞いてそれ以上何も言えなくなってしまった。
 町にバラけて巡回しているSAたち一人につき開拓者一人を割り当て、必ず全員を会談する建物へ引っ張ってくるという作戦は成功した。
 おかげで会談を行っている間にその場にいないSAが大暴れ‥‥という事態は避けられる。
 また、狐火が予め仕込んでいた作戦‥‥町人への不安感の植え付けも実を結んではいたが、いい遊び相手でもあったという子供たちの行動までは縛れなかったのである。
 開拓者たちがその姿を見つけた時はぎょっとしたものだが、その隙を突いてSA側が幼女たちを確保してしまったのだ。人質の懸念はしていただけに痛い一手だ。
 厄介なのは、幼女二人に人質の自覚が無いこと。そして、SAたちがその気になれば開拓者が何かするよりも前に確実に幼女たちは喰われる‥‥ということだった。
「ようじょはぁはぁ」
「はぁはぁしないのっ!」
「冗談だって。‥‥じゅるり」
「まず鷲尾さんをつまみ出した方が良いのでは‥‥」
「わかったわかった、真面目にやるって。女の子に怪我させるわけにも行かないからな、紳士として」
 急にキリッとする鷲尾天斗(ia0371)だったが、緋神と鈴木はため息を禁じえない。
 ともあれ、SAたちが幼女二人を解放するわけもなし。一同はこのまま会談に臨むしかないのだ。
「コホン。改めまして、会談を開始いたします。まずはこちらの申し出からですわ」
 アレーナの涼やかな声が響き、今度こそ本当に会談が始まった―――

●推移
「回りくどいことを言っても仕方ない。私から正式に言おう。‥‥もう、町を出て行ってくれんかね。今までのことは感謝している。無理な願いを聞いてもらったことにも感謝している。だが、やはりこの関係は歪だ。人とアヤカシは共存できんよ‥‥」
 町長の声は重苦しい。怯えも勿論あるだろうが、心苦しいのが原因だろう。
 発端は自分。勝手に狩りの標的にされ、食べられかけたとはいえ、提案を持ちかけたのは確かに自分なのだ。
 そして予想外に受け入れられたSA。町の人間の中にもSAを憎からず思っている者は少なくない。
 それを、また自分の都合で裂く。自分が情けなくもなるというものだ。
 SA側の代表者である反棍のクレルは、その言葉を受け取った後、静かに口を開いた。
「‥‥こちらの結論を申し上げます。賛成4、反対3で町を出て行くことになりました」
「フッ‥‥最後のクレル姉さんがまさか賛成するとは思いませんでしたがね。この町、気に入っていたんでしょう?」
「しょうがないでしょ。一応まとめ役やってるんだもの‥‥SAの今後のことを考えたらその方が妥当よ。‥‥ただし‥‥」
 ダシオンの横槍に苦笑いしながら、クレルは町長に向き直った。
 来る。どんな条件を突きつけるのだろうか。開拓者たちはわずかに身を硬くした。
「ただし、なんだね‥‥?」
「町長さん、あなたには責任を取って食‥‥いえ、私たちと一緒に来ていただきます。それが最低限の義理というものではありませんか?」
 幼女二人に配慮したのか、言葉を変えるクレル。
 その長い銀色の髪に戯れている二人の幼女は、まるで近所のお姉さんとじゃれているかのようだ。
「‥‥やはりか。その条件を呑めば、町に危害は加えないと約束してもらえるのかな?」
「はい。ここは私たちにとって、良くも悪くも特別な町ですから」
 その言葉を聞いて、鈴木の脳裏に少し前の会話が蘇える。
 この会談の場までクレルとともにやってきたのは彼女であり、歩いている時に聞いてみたのだ。
『どうして人と深く関わる様な事をしたのですか?』
『わからないわ。最初は面白そうかなって理由だったんだけど‥‥段々と愛着が湧いてきちゃった』
『人にそれなりの好意をもったSAもいると聞いています。そして多分、好意を持たれた人もSAに好意を持っているのでしょう。それを裏切っても、裏切られても、良いのですか』
『‥‥酷いこと聞くのね。裏切ったのはあなたたち人間の方なのに』
 その表情に怒りは無かった。
 ただ残念であると、寂しさだけが募っていたという。
 一方、真亡の表情も複雑であった。
 彼は覇剣のジークと一緒に歩いていたが、その時の町人たちの反応が思い出されたのだ。
『あぁ、ジーク君か。君が真面目に見回りしておるなんぞ珍しいのう』
『よ、よう。お前さんだけは平気だよな? お前、面倒くさがりだもんな?』
『ジークさんはぼーっとしててよ‥‥なんか、いきなり働き出されると逆に不安だよ?』
 かけられる言葉に『へいへい』とか『はいはい』とか『そうだな』とかぶっきらぼうに返す。
 しかし真亡には、そのリアクションを単なる面倒くさがりとは思えなかった。
『‥‥町を出るつもりなんだ? だから、これ以上関わりが深くならないようわざと冷たく突き放した言い方をするんだね』
『‥‥買い被り過ぎだ。俺は面倒ごとが御免なだけでね‥‥出て行けというなら出て行けばいいと思ってるだけさ。気を回すなんざ面倒くさい』
『町の人に好かれてるのは幼い外見の子だけかと思ったけど、そうでもないんだ。やっぱり、個人の性格なのかな‥‥』
『‥‥さぁな。‥‥着くぞ。おしゃべりは終わりだ』
 いっそ、SAたちが暴虐の限りを尽くし、出くわす人間を片っ端から殺していくような連中であったならどれほど楽だったか。
 今実質的な人質にしている幼女二人でさえ、立場を安定させるための策に過ぎない。開拓者から手出しをしない限り危害は加えないだろう。
「‥‥わかった。その条件でいい」
「町長!?」
「いいんだ。他に落としどころはあるまいよ。町人たちに被害が出ないならそれが一番だ」
「ま、そうだよな。ここでごねても住人を危険にさらすだけだし、何より幼女二人が危険だっ!」
「いきなりテンション上げんなよ。あぁ、ついでなんで一ついいか? アヤカシの肩を持つ訳じゃねえが、人に害を成すのはアヤカシだけじゃねえ。罪のねえ人をコロス人や動物も居るぜ? じゃ、そういう人や動物も『全て悪』か?」
「あらあら、今更そんな道徳を持ち出されても困りますけれども‥‥あえて断じましょう。それらは『悪』です。少なくとも人間にとっては」
「んなら今の俺たちもSAにしてみりゃ『悪』だよな。鷹狩りとかも悪。猟師なんかしょっちゅう動物を殺してる極悪人だ」
 百地の言うことも正しい。しかし、斎の言うことも正しい。
 今この場で議論すべきことではないが、この場において人間もアヤカシもお互い『悪』なのだ。少なくともどちらも『正義』とは呼べない。
「それで、この町を出てどうするおつもりですの? またさすらい、新たなゲームをするのですか?」
「そういうことになるかしら。何か目的があるわけでなし」
「やはり気が向けばすぐ喰えるというのはよくない。緊張感もないし、飼いならされておるようで不愉快じゃ。今回のことでそれがようわかった」
「野に生きるものは野に在るべし‥‥ですか。しかし、あなた方は獣ではありません。もしゲームをするというのであれば、次のゲームは私達開拓者を対象にした決闘にしてはどうかと」
「ほう? そなたらが負けたら本当の意味で骨も残さんがそれでもよいのか? わざわざ決闘などと言うからには負けを反故にしたりすまいな」
「それで人々を守れるのであれば。高貴な身分にはそれ相応の責任が付いて回るものですわ」
 キュリテとアレーナのやりとりは酷く物騒だが、また自由気ままのランダムに一般人を襲われるよりはマシかもしれない。
 斎の提案として、『今後、狩りは開始を宣言することでゲームに緊張感を持たせ、宣言をしていない時は人もSAを攻撃しない』という約定を結んではどうかというものがある。
 これは石鏡の上層部に了解を取るため確定に時間がかかる。だが、不意の犠牲者を防げるものだし、依頼内で撃破できればいいわけなので悪い反応はされないはずだ。
「‥‥ん、そろそろ行きましょうか、町長さん」
「‥‥わかった」
「おいおい、お別れの時間くらいやってもいいんじゃないか?」
「これだけの覚悟が出来ていたなら今日までにやっておくべきよ。違う?」
「‥‥へいへい、ぐうの音も出ねぇよ」
 鷲尾が両手を挙げて降参する。
 幼女二人は町を出たら解放するという。流石に喰っているところを見せはしまい。
「リュミエールちゃん」
 去り際、緋神が剛爪のリュミエールに声をかけた。
 視線が交錯し、ここに来る時のことが思い出される。
『できれば最後に、リュミエールちゃんと一緒に歩きたいな』
『は、はい。構わないッスよ!』
 穏やかな日差し。他愛無いおしゃべり。暖かな時間‥‥。
『‥‥ねえ、手を繋いでもいい? ‥‥アヤカシだけど、あたたかいのね』
『緋神さんも、あったかいッス!』
 髪の色が違いすぎるので姉妹には見えないだろうが、仲のいい友達には見えたかもしれない。
 あぁ、何故この時間が永遠に続かないのだろう。何故SAは‥‥リュミエールは、アヤカシなのだろうか。緋神は涙を隠してそう思わざるを得なかった。
『‥‥私ね、貴方達のした事を、人間側として赦す事はできないけれど‥‥でも、町で会ってお話ししてる時間は‥‥嫌いじゃなかったの』
『じ、自分も緋神さんのこと、好きッスよ! あ、鷲尾さんって人も好きッス! ぬいぐるみくれたッス!』
『そう。大事にしてあげてね』
『はいッス♪』
 この無邪気な口が人を食べるなどと信じられなくて。
 リュミエールが人を食べているところを見たことがなくて。
 だから、本当はアヤカシではなく、アヤカシに育てられた人間なんじゃないかと思ったりして‥‥。
「そ、それじゃ、行くッス。ま、また、お会いしたいッス」
 でも、目の前の少女は瘴気で一瞬にして黒マントを生成し纏った。
 そんなことを人間が出来るわけが無い。緋神は自分の頭を軽く小突くと、
「そうね。その時は、お手柔らかにね」
 暗に戦うという宣言。そして、交わされた握手。
 握ったリュミエールの手は、先ほどと違ってどこか遠く感じられた。
 やがてするりと解ける二つの手。
 手を振りながら去っていくリュミエールの姿が見えなくなった時‥‥緋神は一粒の涙を零した。
「‥‥結局、町長は守りきれませんでしたか。人質さえなければ‥‥」
「そうですね‥‥後一歩詰めが足りませんでした。‥‥男の覚悟も、使わなくて良いならそれに越したことはないのに‥‥くそう‥‥!」
 変装を解きながら呟く狐火。ぎゅっと拳を握る真亡。
 繋がれていた仮初の握手は、今解かれた。
 次にSAが現れる時は、恐らく狩りの開始の宣言が行われるはずである―――