何かっぽく
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/04 07:07



■オープニング本文

 天儀の、中心都市―――
 それは、神楽の都であった。
 様々な人が、行き交う、この都に―――開拓者ギルドは、存在するのである。
 さて。
 今日は、どのような、依頼が、舞い込むやら―――

「たまには―――」
 少女が、口を開いた。
「たまには、気分を、変えませんか―――」
 それを聞いた、先輩職員は、思わず眉をしかめた。
 何を―――
 何を言うのか。
 気分転換。それ自体は、どこにでもある。
 自分も、よくやることだ。
 しかし―――
「報告書で、それをやるの―――」
 すでに、始まっている。
 何かが、おかしい。
 慣れたはずの、開拓者ギルドの喧騒が、遠く感じられた。
 西沢 一葉の中にある、何か恐いものが、ざわりと騒いだ
「そりゃあ―――」
 そりゃあ、文体は、指定されていない。
 報告書を書くのに、形式は無意味だ。
 人によって、書き方は違う―――
 当たり前のことであった。
 しかし―――
「わざわざ、いつもと違うことをして―――いいことはあるわけ―――」
「実験です」
「実験!?」
 にぃっ。
 と。少女が笑んだ。
「えぇ、実験ですよ―――」
 十七夜 亜理紗―――西沢 一葉の、後輩である。
 やるのか。
 やれるのか。
 やってしまうのか。
 普段の、書き方を変え、何かっぽく書くというのか。
 自分には、恐ろしくてできない―――
 そう、思った。
「丁度、簡単そうな、依頼がありまして―――」
 さっ。
 亜理紗は、得意気に、紙を差し出した。
 依頼書―――ギルドでは、当たり前に存在するものであった。
 骨鎧。
 そう呼ばれる、アヤカシを退治する―――そういう内容であった。
 石鏡の、とある森に、骨鎧が、数匹うろついている―――
 旅人が、目撃したのである。
 それを聞いた、付近の村から、退治の依頼が来た―――よくある話であった。
 なるほど―――
 確かに、小難しい話ではない。
 やろうと思えば、作風の変更も、可能かもしれない。
 しかし、それには、亜理紗自身にも、多大な負担が伴うのではないか。
 いつもより、余計に、時間がかかってしまうのではないのか―――
「遊び心ですよ―――」
 にぃっ。
 亜理紗は、再び笑んだ。
 馬鹿だ。
 馬鹿だが―――
「―――やって、みなさい」
 可能性を探る―――それは、悪いことではない。
 例え、これ一回きりで、力尽きても。
 他の作風を、やってみるにしても。
 まずは、やってみなければ、何も始まらないのである。
 それを聞いた、亜理紗は、ぐっと拳を握ると、口を開いた。
「駄目そうだったら、手伝ってください―――」
「嫌」
 たまらぬ職員たちであった。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
バロン(ia6062
45歳・男・弓
鳴神・裁(ib0153
13歳・女・泰
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
卜部 美羽那(ib2231
10歳・女・陰
セリエ(ib3082
17歳・女・シ


■リプレイ本文

●静
 石鏡の、森である。
 石鏡という国は、気候風土に優れている―――それは、自他共に認めるものであった。
 故に、珍しくない。
 このような街道沿いの森など、ありふれたものだ。
 国の西部に、位置する森。
 青々と生い茂る緑の葉が、彼らを待ち受けていたのだった。
「ここですか―――」
 そろり、と真亡・雫(ia0432)は口走る。
 ここ―――そう、ここが、事件現場である。
 旅人が、骨鎧というアヤカシを見かけた現場―――
 念のため、真亡は、情報提供者に確認を取っていた。
「骨鎧。基本的には、大した相手ではありませんが―――」
 ―――アヤカシに不確定要素は付き物だ。
 言われるまでもない。
 朝比奈 空(ia0086)に言われるまでもなく、皆、分かっていた。
 アヤカシは、個体により、強さが全く違う。
 例え同じように見えても、それは判断材料にならない。してはいけなかった。
 骨鎧。骨が、鎧を着ているのだ。
 戦場で、発生したのか。
 どこからか、鎧を引っ張り出して来たのか。
 どちらにせよ、武装した骸骨―――それに違いはなかった。
「敵は、六体―――確認したであります」
 ざんっ。
 と。軽快な音を立て、戻ってくる。
 セリエ(ib3082)。偵察に出た、忍者であった。
「一先ず、任務を果たしたところで」
 すっ。と、セリエは右手を差し出した。
「何か、食べさせて欲しいであります―――」
 鳴っていた。
 いや、鳴いていた。
 何が?
 腹の虫が、である。
 なんという―――
「なんていう、燃費の悪さだい。さっき食べたばかりじゃないか―――」
 北條 黯羽(ia0072)が呆れるのも、無理はなかった。
 しかし、甘かった。
 呆れる対象は、まだいたのだ。
「まあ―――強い坊や嬢が多いしのお。ババは大人しく、後ろにおるぞ―――。というかだな‥‥、敬老精神じゃ」
 何を―――
 何を言うのか。
 卜部 美羽那(ib2231)は、小さい。
 外見も、体型も、子供のそれだ。
 それが‥‥ババなどと!?
 仲間たちの中の、何か恐いものが、ざわりと騒いだ。
「美羽那様―――御冗談を」
「冗談に聞こえたか」
「聞こえました」
「別段、かまわぬが‥‥おぬし、頭より乳に栄養が行き過ぎているのではないか」
「よいレシピを、お教えしましょうか。きっと、すくすく育ちますよ―――」
「ぬぅっ!」
 ブローディア・F・H(ib0334)は、卜部の言葉を、華麗に受け流した。
 子供体型の卜部と、ブローディアとでは、あまりに差があった。
 ボンッ。
 キュッ。
 ムチッ。
 自称58歳とは別次元であった。
 微笑ましい呆れ―――それが、救いだった。
「話が、進まないね」
「あぁ。進まぬな」
「初依頼、なんだけどな」
「初依頼か」
「初依頼だよ」
 鳴神・裁(ib0153)とバロン(ia6062)は、一歩引いて、仲間のやりとりを眺めていた。
 その様子は、少し歳の離れた、親子のように見えなくもない。
 まだ若い鳴神は、緊張しているのかも知れなかった。
 だから、熟達の自分が助けてやるべきだ―――
 バロンは、そう、思った。
「そろそろ、行こうではないか」
 野太い声が響き、辺りにぴんとした空気が走る。
 入る。森に踏み入り、骨鎧と戦う。
 戦う、だけではない。
 勝利するのだ。完膚なきまでに。
 それが、街道を往来する人々の、安全になる。
「ゆくか」
「そうですね」
「ゆこう」
「ゆこう」
 そういうことになった。

●おきゃぁぁぁっ!
 かしゃん。
 かしゃん。
 かしゃん。
 骨が、歩いていた。
 鎧が、歩いていた。
 いや―――それらが一つになっていた。
 瞳に、不気味な紅い光を灯し―――死者が、うろついていた。
 問答は無用だった。
 する必要がなかった。
 ただ、斬り伏せる。
 ただ、吹き飛ばす。
 ただ、射かける。
 そういう相手だった。
「いけない。いけないな。こんな綺麗な森に、おまえたちは似合わない―――」
 真亡が、疾る。
 前衛の中で、一番の手練だ。
 その彼が、ゆらりと言葉を吐いて、疾る。
 ―――瘴気が、具現化したものにしろ。
 ―――死体に、アヤカシが取り憑いたにしろ。
 この場に残しておくわけには行かなかった。
 骨鎧が、気づく。わらわらと、迎撃に入る。
『邪っ!』
 振り下ろす。
 手に持った刀を、振り下ろす。
 ―――ぬるい。欠伸が出そうだ。
 ぎぃんっ。
 弾く。
 真亡は、自らの刀でそれを容易に弾いた。
「甘いんじゃあないかな―――」
 がつんっ。
 鈍い音がして、骨鎧の顔の上半分が、無くなっていた。
 兜ごと、一刀両断であった。
 だが、動く。骸骨は、この程度では滅せない。
「させぬ」
 ひゅかっ。
 空気を裂き、一本の矢が、骨鎧に追撃をかけた。
 それは肩口に当たり、骨鎧をもんどり打たせた。
 弓を使う身でありながら、前に出て戦う。
 回避に自信があるからこそできる、バロンの芸当。
 たまらぬ熟練者であった。
「伊達に―――」
 避。
「伊達に前に出ておらぬよ」
 避。
 射。
 避。
 バロンの、後衛職とは思えぬ立ち回りに、前衛組の中に、熱いものが込み上げてくる。
 止まらない。
 止まらない。
 この熱いものを止めることができない。
「自分も―――」
 未熟さは百も承知だった。
 だが、やる。
 やるために来たのだ。
 打剣による、手裏剣の連射。
 刀を振り上げようとする骨鎧を、狙っていく。
 言わば、中衛。攻めも、守りも担う‥‥重要な立ち位置であった。
「やるであります―――ご飯のために―――」
 ぐきゅるるる。
 たまらぬ腹ペコ忍者であった。
「ボクのスピードについて来れるかな?」
 ―――疾風脚で瞬速の蹴りを入れ。
「倒れな」
 ―――空気撃で蹴り倒し。
「その隙、もらった!」
 ―――骨法起承拳で弱点をつく。
 鳴神は、そういう戦い方であった。
 しかし、未熟。
 空気撃の後に、少しの間が、できてしまうのであった。
 行動力を伸ばすべきである。
 がごんっ。
 弱点と思われる腰骨辺りを、殴る。
 足りない。
 足りない。
 骨を砕くのには、まだ足りない。
『邪っ!』
「ぐうっ!?」
 熱い。
 熱い血潮が、右腕から湧き出る。
 別の骨鎧に斬られたのだった。
「やってくれたね―――」
 ぱちん。
 と。乾いた音がした。
 その直後、鳴神を斬った骨鎧が、腰から真っ二つになった。
 北條の斬撃符であった。
「止めるなよ」
「はい!?」
「不用意に足を止めるなよ―――」
 乱戦時なのだ。いつも味方が援護できるわけではない。
 そういう甘い考えは、早めに断ち切っておいたほうがいい。
 北條は、鳴神の今後のために、言ったのだった。
「傷は‥‥そこまで深くはありませんね」
 巫女袴をふわりと翻し、朝比奈が鳴神に近づいた。
 派手に血が出たが、思ったより軽傷のようだった。
「今すぐ治します―――」
 そう、朝比奈が言ったが。
「待ってください!」
 腕は?
 上がる!
 拳は?
 握れる!
 足は?
 蹴れる!
 問題ない。何も、問題はない。
 一体、何の不満があるというのだろう。
 これから先、傷を受けることは無数にあるだろう。
 その度に、仲間に癒してもらうのを待つというのか?
 否!
 つい先程、甘えるなと言われたばかりなのだ。
「こんな傷より、少しでも数を減らしてください」
「―――良いのですか」
「応!」
「―――良い、覚悟です」
 なんという―――
 なんという、心地良い熱さか。
 駆け出し開拓者の意気込みが、熱が、朝比奈にも力を与える。
「精霊よ―――その力を以て、眼前の敵を―――」
 ごうっ。
 清浄なる炎。
 木々や草花には、全く影響のない炎である。
 その炎が骨鎧を包み込むと、骨鎧は身じろぎする一呼吸で崩れ去った。
 不浄の存在であるアヤカシが、朝比奈程の術者が放つ浄炎に耐えられるはずがなかった。
「むにゃあ。わしは可愛いみう・にゃん、なのじゃ―――。ごらあ!」
(原文:むにゃあ〜わしはラブリーみう☆にゃん、なのじゃごらあ!)
「美羽那様。その台詞―――報告書では、まるで可愛気が無くなるでしょうね―――」
「ぬぅ、ケチな。みう・にゃんは、お怒りじゃ―――」
(原文:ちぇ〜ケチ〜。みう☆にゃんぷんぷんじゃ)
 卜部とブローディアは、共に後方から術を放っていた。
 真空の刃が飛ぶ。
 聖なる矢が飛ぶ。
 骨鎧は、二人に近づくことさえできない。
 当たり前だ。
 真亡が。
 バロンが。
 鳴神が。
 セリエが。
 慣れていようとなかろうと、仲間を守るために凌ぎを削っているのだ。
 後衛組は、安心して術を放てる。
 それが、前衛の助けになる。
 いざという時のための、朝比奈という回復役もいる。
 理想的な戦いであった。
 骨鎧は退かない。
 骨鎧は恐れない。
 ただ、アヤカシとしての本能に従う。
 逃げ出さないのは、開拓者にとってはありがたい話であった。
 そして、残り一匹まで数が減った。
「これでしまいじゃ!」
 斬。
 卜部が、斬撃符で右腕を斬り飛ばす。
「戦闘は血が滾る。要するに、戦闘は―――良いものだ―――」
 斬。
 北條が、斬撃符で左腕を斬り飛ばす。
「最後の最後まで、油断はせぬ―――」
「お土産であります!」
 射。
 バロンとセリエが、胴体を射ぬく。
「踊るのもいいですが、的には適しませんね」
 縛。
 ブローディアが、ブリザーストームで足を固定する。
「叩き割る―――!」
 砕。
 鳴神が、骨法起承拳で顔面を砕く。
「―――撃ち抜きましょう」
 轟。
 朝比奈が、精霊砲で顔を吹き飛ばす。
 そして―――
「静かなる森に彷徨う、異形の魂を―――この白梅香の白刃が、浄化する―――」
 断。
 真亡が、豆腐でも斬るかのように、真っ向両断する。
 首の骨から腰骨まで二つに分かれた。
 それでも、倒れることはできなかった。
 ブローディアによって凍らされた足が、負けを表現することすら許さなかった。
 後は、立ったまま無様に瘴気となって消えるしか無かった。
「終わったか」
「終りましたね」
「あぁ、終わったさね」
 完全勝利であった。

●終
 かくして、骨鎧は全滅した。
 開拓者たちの活躍により、事件は無事に、終わりを迎えたのであった。
 どこにでもある、小さな事件。
 だが、小さいからと放置するわけにも行かないのである―――

 って、もうそろそろいいですかぁ? 流石にしんどくなってきちゃいましたよぅ。
「言いだしっぺはおぬしじゃろうが。キリキリ書けい!」
 ひ〜ん! なんで卜部さんがギルドに来てるんですかぁ!?
「ウザ企画の発案者の顔を拝みに来てやったのじゃ」
 頼んでないです‥‥。
「何か言ったか☆」
 いいえ、何にも! あ、皆さん作戦卓にでも感想をお願いしますね? 実験なんで。
「どうしよっかな〜、なのじゃ。わしのラブリーさを表現してくれんかったからのう」
 ひーん!?
 開拓者ギルドは、一部今日も平和であった―――