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■オープニング本文 ※このシナリオはハロウィンドリーム・シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「新しい術を開発しました♪」 「ふーん」 「‥‥‥‥せぇんぱぁい!? 聞いてくださいよぉう!?」 ある日の開拓者ギルド。 職員の十七夜 亜理紗は、休憩時間になった途端そう切り出した。 しかし先輩と呼ばれた職員‥‥西沢 一葉は、机に向かったまま亜理紗に一瞥をくれることすらなく流す。まぁ、彼女の方はまだ仕事時間中なのだから無理からぬ事だが。 「あなたねぇ、偉い陰陽師さんから『あんまり妙な術を開発しないように』って言われてるでしょ? それ以前にきちんと既存の術を覚えなさいよ。今使えるのいくつ? 2つ? 3つ?」 「うぅ‥‥3つです‥‥」 「‥‥そんなしょぼくれた顔しないでよ‥‥私が悪者みたいじゃないの。わかったわよ、聞くから」 お説教をしていたはずなのだが、なんだかんだ言って一葉は亜理紗に甘い。 仕事を一時中断して亜理紗の頭を撫でてやるが、内心『年齢、ほとんど違わないんだけどな‥‥』とため息を吐く。 一応開拓者でもある亜理紗の今後が、一葉には心配でならなかった。 「今回の術は珍しくきちんと制御できるんですよ。名づけて、『夢幻幻想符』です」 「あやしい‥‥。あと、幻って字が二つ続いてるのがセンスないわ」 「いいじゃないですか!? 別にいいじゃないですか!?」 「はいはい。で? その効果は?」 「要は人に特定の夢を見せる術なんですが、人を眠らせる術ではないんです。一定の空間に術を発動して、その中で寝た人全員が同じ夢を共有しながら見られる‥‥という画期的な術です♪」 「‥‥依頼では役に立ちそうにないわね」 「ですよねー‥‥。でもとりあえず効果は間違いないんで、開拓者さんに試していただきたいなぁ、と」 「夢の内容は変更できるの?」 「勿論です。素敵なラブロマンスからスリル溢れるアクション、ピンクなアダルティーまで何でもござれです!」 「最後のはどんなお茶よ‥‥。で、今回試してもらうのは?」 「ホラーです」 「要は自分が試したくないものを他の人にやってもらうってわけね!?」 「私がおばけの類駄目だって知ってるじゃないですかぁ!?」 閑話休題。 今回の夢の内容は、とある広大な建物の最上階からスタートし、その敷地内を脱出するというものである。 問題は、その建物は無数のゾンビで埋め尽くされているということ。内部も、敷地内の屋外にもゾンビがうろついている。 しかも特殊なルールがあり、一度でも噛まれるとゲームオーバーで即起床となってしまうのだ。 他にも、『空を飛ぶことができない』『建物を破壊することができない』『事前に建物の構造を知ることができない』『正門と裏門以外からは脱出できない』などが注意事項として挙げられる。 「全員で固まって出るも良し、グループに分かれるも良し、とりあえず脱出できればOKです。これはあくまで夢なので現実には何の影響もありませんが、イメージトレーニングくらいにはなるかと」 「建物に仕掛けやトラップは無いの?」 「流石にそこまでは。ただ、迷路みたいになってますので一筋縄では行きませんよ」 トンデモ陰陽師の亜理紗が開発した、集団で夢を共有する術。 夢の中とはいえ様々なシチュエーションが体験できるのは面白いかも知れない。 それが楽しいものでないのは気になるが‥‥興味がある方、いかがだろうか――― |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
澄野・歌奏(ia0810)
15歳・女・巫
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
朧月夜(ia5094)
18歳・女・サ
ワーレンベルギア(ia8611)
18歳・女・陰
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●夢幻黙示録DOTD 「なん‥‥だと‥‥? なんだこれは‥‥‥‥!」 思わず呟いた紬 柳斎(ia1231)。口に出さないまでも、他の7人もあたりを見回し息を呑んだ。 この時、まだ誰も思いもよらなかったのだ。 この夢の世界が、最初から終わっていたということに――― ちゃららーらーらーちゃーらっちゃっちゃー、ちゃららーらーらーちゃーらっちゃっちゃー‥‥ 「主題歌はカットで。むしろ雰囲気がぶち壊しになりますよ」 雪切・透夜(ib0135)の冷静なツッコミに、彼らの頭の中だけに響いていた音楽がピタリと止まる。 やれやれと肩を竦める一行であった。 気を取り直して、一行は再び辺りを見回してみる。 開拓者ギルドの仮眠室を借り、全員が就寝したことで術が発動し、この世界に放り込まれたのは予め聞いていたとおりなので驚きはしない。 場所は、どこかの建物の屋上。見たことも聞いたこともない様式の建築物で、いくつかの棟に分かれているのが見て取れた。 それよりも‥‥それよりもだ。この建物は無事だが、それより外側に広がる町のあちこちから火の手や煙が上がっているのが見て取れる。 そしてここ、見晴らしのいい屋上からは、建物の敷地内をうろつく多数のゾンビが確認できる。 「どういう状況なんでしょうか‥‥。ここは砦のようなものだったのかな?」 「もっと平和なものの方がいいですけど、人がいっぱいよりは、いいかな、なんて‥‥」 「うひゃあ、いっぱいいるねぇ。外にあれだけいるなら、中にも結構いそうだね」 真亡・雫(ia0432)は、ここがゾンビに占拠された砦では、と考えた。 確かに元は人が大勢いた場所ではあるが、外からの侵入が容易なので砦ではない。 ワーレンベルギア(ia8611)にしても澄野・歌奏(ia0810)にしても、見える範囲だけでも100は下らないゾンビの数に呆れ顔だ。 しかもあちこちに血飛沫が飛び散っており、なんらかのトラブルがあったと考えるのが妥当だろう。 「‥‥妙だな。ゾンビどもの格好が同じものばかりだ。多少違うのも居るようだが、男と女で分かれているだけというのが多い」 「おやまぁ本当だ。というか、ゾンビというからどんなグチャグチャな感じかと思ったら意外と人間のまんまだな。あぁ、あの娘可愛いな。惜しいなぁ、ゾンビでなければなぁ」 「し、仕方ないんじゃないかな。オイラにとっては好都ご‥‥いやいや、やりづらいけどさ!」 朧月夜(ia5094)の指摘通り、同じような服装のゾンビがあまりに多い。 黒い上着に、同じく黒い長ズボンが男。ヒラヒラしたスカートと、薄そうなネクタイ付きの上着が女。あとは、白い半袖の服に下着紛いの紺色の布を履いた女が少々か? とりあえず服装や建物から感じられるのは、天儀の歴史や文化とは全く異質の世界ということか。 水鏡 絵梨乃(ia0191)の言葉からして、主に若い男女が多いのは気になるが。 血塗れであるとは言えゾンビになって間がなさそうであり、原型を留めているのは小伝良 虎太郎(ia0375)のようなホラーが苦手なタイプにとっては救いである。 「さて‥‥そろそろ行こうか。どうやら待ちくたびれて向こうからやってきたようだぞ」 紬の言葉の直後、バタンと大きな音を響かせて屋上への扉が開く。 男女混合のゾンビの群れがゆらゆらと屋上へ侵入し、じわりとこちらに近づいてくる。 「いやはや、ゾンビと素敵なラブロマンスになりそうです」 苦笑いする雪切。しかし、その手にはしっかりと斧が握られていた。 言わずとも戦闘準備を始める一行は、予め決めておいた前中後の陣形を組んで備える。 「さてと、これ以上変なのが出てきても困るから、まず結界張っちゃうよー」 「まずは肩慣らしですね。建物に入らないと話が始まりませんから!」 澄野の索敵を頼りに、真亡、紬、雪切を前衛に配置し‥‥いざ、スタート――― 「うーわー‥‥下の階にもうようよいるぅ。あ、右方向気をつけて。部屋の中に五体くらい居るよ」 屋上のゾンビを斬り倒した一行は、階段を降りて屋内へと入った。 建物内も血に塗れており、ここで何があったのかますます気にかかる。 血は凝固しきっていて、かなり時間が経っているようだが‥‥? 「まずはこいつらを叩っ斬るのが先だ!」 「こいつめ! こいつめぇっ!」 朧月夜がゾンビの脚を斬り、転倒させる。 連中には痛覚がないらしく、地面に這いつくばってもずるずる這いずってくるのが非常に怖い。 そこを小伝良が爪で頭部破壊、といった具合だ。 前衛も後衛もとりあえず休む暇はなさそうである。 屋上での戦闘で判明したのは、ゾンビどもは首を落としてしまえば‥‥というか、頭部が破壊されると動かなくなる。逆に言えば心臓を突こうが胴が離れようが動き続けるのだ。 話通り、あまり広いとは言えない建物の通路。朧月夜が使う偃月刀は取り回しに苦心する。小伝良と役割を分担するのは良策と言える。 「はいよっ! ひっく‥‥ほろ酔いくらいがボクの真骨頂なんだな、これが」 襲いかかるゾンビの腕をするりと回避し、倒れこむと思いきや反転して蹴りを叩き込む。 ゾンビの回避能力はほぼゼロ。しかも頭も悪い。水鏡に吹っ飛ばされたゾンビにより、ドミノ倒しのように次々倒れる。 そこへ朧月夜が偃月刀で頭部を突き刺しトドメ、という姿もよく見られた。 「妙な部屋、ですね‥‥小さな机と椅子らしきものが、並んでいます‥‥。その奥の部屋も‥‥あ、その奥の部屋も、です‥‥」 天道虫の形をした式‥‥人魂の術を駆使し、先行偵察をするワーレンベルギア。 ゾンビは式には反応しないようなので、澄野の索敵が届かない範囲は勿論、部屋の内部の詳細も把握できるのは心強い。 もっとも、何のための部屋なのかは誰にもわからなかったが。 「突き当たりに、階段です‥‥。下に、降りられますよ‥‥」 「目的はあくまでも此処からの脱出であって、敵の殲滅じゃありません。避けられる戦いは避けましょう」 「賛成だ。夢と分かってはいるが、感触や情景が現実的すぎて怖いくらいだ。むしろここまでの世界を構築できるこの術の方が怖いぞ、拙者は」 「はは‥‥今度は素敵なラブロマンスをお願いしてみたらいかがですか?」 真亡の意見に反対する者はいない。一行は一気に廊下を駆け抜け、下の階を目指す。 屋上から見た限りだと、ここは四階に当たる。まだまだ先は長い。 斬り伏せるゾンビの感触はあまりにリアルで、辺りに充満する血の匂いも咽そうになるほどだ。 紬と雪切のやりとりは亜理紗の優秀さより特異性を際立たせることにしかならないだろう。 一行が廊下を突き当たり、階段を降りようとする頃には、部屋の中にいたゾンビたちが廊下に出てきてこちらへ向かってきているところだった。 「もたもたしてると囲まれるな。早く行け」 階段の踊場にもゾンビが二体ほどいたが、真亡と雪切による飛び降りざまの唐竹割りで倒れ伏す。 澄野とワーレンベルギアはさながら騎士に守られるお姫様であるかのように、楽々と階段を降りた。 「あれっ、階段続いてないんだ? 一気に一階まで行ける構造にしといてくれればいいのに〜」 「いやぁ、迷路みたいって言ってたからそれはないんじゃないですかねぇ‥‥」 「ぶぅ。ねぇ水鏡さん、芋羊羹食べて巨大化してどーんとか出来ないかな?」 「出来るかっ! ボクと芋羊羹を何だと思ってるんだ!?」 「ダメかぁ。夢ならありかなぁと思ったんだけど」 「どこの夢なんですか‥‥」 何故かツッコミ役になってしまう雪切。こういう付き合いの良さも女難の原因の一つだろう。 三階に降りてもゾンビの数は減らない。むしろ増えている。 その事自体は澄野の索敵で予め判明しているので驚くことではないが、やはり実際に数押しされると厳しい。 三階に降り立った一行の方を、ゾンビの集団がほぼ同時に振り向く。 統率されてもいないというのに、これは怖がりでなくとも引き気味になる。 「チマチマ進んでも始まらん。ここは突破あるのみと思うが?」 「そうしましょうか。騒ぎを聞きつけて集まられても厄介です」 紬と真亡が頷きあい、雪切も盾を構えてそれに続く。 中衛のワーレンベルギアも雷閃で前方のゾンビの頭を吹き飛ばしつつ進む。 討ち漏らしを後衛の水鏡、朧月夜、小伝良が処理し澄野とワーレンベルギアを守る。 一気に駆け抜ける八人は、さながら怒涛の如き勢いであったという――― 「うそ、でしょう‥‥?」 やっとの思いで一階に降り、玄関と思わしき場所から外に出た一行。 真亡が思わず吐き出した言葉は、現実を変えてはくれなかった。 ワーレンベルギアの人魂による偵察で、袋小路に追い込まれゲームオーバーという事態を避けられたのは幸運だったが、そうでなくともこの夢はスタミナを要求するのだ。 脱出の条件は、正門か裏門から敷地外へ脱出すること。しかし、土地勘が全くない一行にはどの方向に正門と裏門があるのかも分からない。 そして建物の外には、あーうーと言葉とも言えない呻きを漏らすゾンビゾンビまたゾンビ、である。 「くっそう‥‥亜理紗のやつ、調整しくじってないか‥‥?」 「それとも、ただSなだけかも、しれません‥‥」 「はは‥‥これも女難に含まれますかね‥‥?」 大分息が上がってきた水鏡、ワーレンベルギア、雪切。 幸い、まだこちらに気づいているゾンビは少ない。 それを静かに始末し、ゆっくりこっそりと敷地内を進む。 どうやらゾンビは音でこちらを認識しているようだ。開けた場所なら、建物内とは違って避けながら進むことも不可能ではない。 何かの道場らしき建物。 金網に囲まれた、中央にネットのような物がある区画。 巨大な水槽。 白い柱が特徴の巨大なネットが対になるよう置かれた広い更地。 建物やその内部の部屋もそうだったが、敷地内にあるものも何の用途があるのかさっぱりだ。 「抜き足‥‥」 「差し足‥‥」 「忍ぶ雨‥‥」 「意味わかりませんよ!」 『しー!』 澄野のボケに思わずツッコミを入れてしまった雪切。幸いゾンビは気づかなかったようだ。 ボケた本人もよくわかっていないだろう。これも夢の影響なのかも知れない。 「見えた! 正門か裏門か分からないが、あれが出口だろう?」 「うぅぅ、いっぱいいるよぅ!? 別の門の方がいいんじゃないかなぁ!?」 「またこそこそしながら戻るのか? 無理だろ‥‥」 紬の言葉に一瞬表情を輝かせた小伝良だったが、付近のゾンビの数を見て一気にテンションダウンする。 申し合わせたかのように出口に集まるゾンビたち。全く以てタチが悪い。 「ここまで来たら全員で無事に帰還し十七夜 亜理紗を小突きたいところだな」 朧月夜の意見に反対する者は当然いない。 あと少し、覚悟を決めるしかあるまい。一行は再び陣形を整え、突撃する! 「退いてもらおうか!」 わらわらと押し寄せるゾンビたち。如何せん数が多すぎる。 無理に突破しようとするが、一体倒す間に二体が寄ってくるのでは話にならない! 「へっ!? わわっ!?」 倒したかと思ったゾンビがまだ動けた! 不意のことで対処できず、澄野が足首を掴まれて転倒する。 当然、他のゾンビたちが澄野を餌食とすべく魔手を伸ばす‥‥! 「させるかいっ!」 瞬脚を使用した水鏡が割って入り、澄野を抱いて跳躍し危機を脱する。 しかしそれは陣形を大きく崩す結果となり、二人は孤立したままゾンビの只中に‥‥! 「ご、ごめんなさいです、巻き込んじゃって‥‥」 「いいって。女の子を庇って消えるなら、ボクも本望だからな」 それは水鏡の本心である。 他のメンバーに先に行けと叫ぶ水鏡の姿は、飄々としていながら実に輝いていた。 しかし。 「‥‥問おう。この中で二人を見捨てて脱出しようという者はいるか?」 「まさか。それこそ夢見が悪くなりますからね」 「こういう事態は慣れました。逃げられないことにも、ね」 「こ、こうなったらとことん付き合うよっ!」 「ふっ、死亡ふらぐ? そんなものはへし折るためにあるものよ!」 「えっと‥‥ここまで一緒に来た、仲間です、から‥‥」 「その意気やよし。あたしも自分の騎士道のために、引く気はない‥‥!」 一人称を『俺』から『あたし』に変えた朧月夜。それに気付いたものは誰もいない。 それよりも、ゾンビどもをなぎ倒し、仲間を救い出すほうが先だからである。 「そっちからもこっちに近づけ! 最後まで諦めるなよ!」 「まったく、お人好しだな。こう熱くちゃ酔いも冷めちまうよ‥‥!」 出口を目前にした一行。そこで訪れた最大のピンチ。 戦力比、8対121。果たして、開拓者たちの運命は――― 「あ、みなさん、おはようございます。どうでした、夢幻幻想符は?」 「‥‥感想の前に一発殴らせろ」 「はい!?」 「次は見てただけの亜理紗にも付き合ってもらうよ」 「ふえっ!? ちょっ、真亡さん、雪切さん、助けてください!?」 「すみません、今回はちょっと‥‥」 「ですよね。擁護できないかなって‥‥」 「私が何をしたっていうんですかぁぁぁっ!?」 効果は抜群なれど封印推奨。夢幻幻想符はそう結論づけられた。 全員無事に脱出できたどうかは‥‥本人たちだけが知ることである――― |