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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「はい、お久しぶりです。今日はアヤカシハンターの依頼をご紹介しますが、ちょっと急ぎです!」 ある日の開拓者ギルド。 職員の十七夜 亜理紗が手にした依頼書は、新種・亜種のアヤカシ退治を専門に扱う主旨のものであり、これまでにも妙ちくりんなアヤカシとの激闘が繰り広げられてきた。 しかし緊急と言われたのは初めてである。何事かと、アヤカシハンターの依頼を知る者が集まってきた。 「実は神楽の都の北、そろそろ都入りだーという地点に新種のアヤカシが発生したんです。勿論旅人や商団の往来も多く、とても危険でして、一刻も早く退治したいということらしいんですね」 別に神楽の都の守備隊も手を拱いていた訳ではない。いの一番に退治に向かったが、返り討ちにあったのである。 通りがかりの開拓者たちも襲われるたび迎撃に当たったが、その新種アヤカシは獰猛にして強敵で、死者が出ていないことの方が不思議なくらいであるという。 「ちなみにそのアヤカシは、クワガタ! カマキリ! バッタ! の融合体とも言えるもので、発達したハサミというか顎、鋭い鎌、強力な脚力を備えた昆虫型アヤカシです。知ってます? カマキリが人間サイズだったら、間違いなく人を捕食するそうですよ」 タカ! トラ! バッタ! の融合体もどこかで見かけられたと聞くが、緊急性があるこちらをどうにかしないとまずい。 林に潜み、時には平原を歩いている人間を空中から強襲したりもするという昆虫型アヤカシ。名前はまだない。 「作戦の打ち合わせ期間は短いですが、連携は密に取ったほうがよろしいかと思います。神楽の都の往来を守るためにも、最低でも追い払ってくださいね!」 新種のアヤカシの脅威は、何も辺境や各国だけの問題ではない。天儀のあらゆる場所にその可能性はあるのだ。 中心都市、神楽。そこに住む人たちの生活を守るためにも、迅速に退治していただきたい――― |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
乃々華(ia3009)
15歳・女・サ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●林の死闘 「はぁっ、はぁっ、くぅっ、また跳びましたよね!?」 「あぁ。こりゃぁ、厄介だぁね」 神楽の都を目視すらできるほどの近場に、その林はあった。 真亡・雫(ia0432)と犬神・彼方(ia0218)は木を背にしながら、生い茂る木々を見上げていた。 否、正確には木ではない。木の上に姿を消した合成昆虫アヤカシの気配を追っているのだ。 戦っているのは彼らだけではない。他のメンバーも近場におり、同じように木を背にして少しでも襲われる方向を減らすのに必死であった。 「今度はこっちか。チョロチョロとよくも跳ぶ」 「あら、今回はいつもの長い前置きがありませんのね?」 「‥‥ぐ‥‥何の、話だ‥‥!」 ざざざ、という音を立てて木の上から巨大な昆虫が現れ、アッシュ・クライン(ib0456)に向かって鎌を振り下ろした。 ソードブロックで防いでもなおダメージはかなりあり、アヤカシはすぐに跳び上がってまた木々の上に姿を消す。 何やらメタな発言をしている乃々華(ia3009)も、殴りかかる暇すら無かった。 このアヤカシが林にいることを確認した一行だったが、踏み入った途端に攻撃を受けたのは少しばかりの予想外であった。 話をしている余裕もない。すぐさま戦闘開始となってしまったのである。 身体の構造的にはカマキリ色が強く、カマキリの体型にクワガタの頭が乗っかり、全体を黒い甲殻が覆っている‥‥と言えば分かりやすいか。 足は全てバッタのような逆関節のものになっており、これもまた甲殻に覆われている。 鈍重そうに見えるがバッタの脚力と特色を色濃く受け継ぎ、場所的な問題もあるが地面に居ることの方が少ないくらいの頻度で飛び跳ねるので非常に鬱陶しい‥‥! 「‥‥どこに魔法を設置したらよろしいかしら」 「僕が咆哮で呼び寄せてみますので、この辺りにでもー!」 フレイア(ib0257)に至っては、ストーンウォールもフロストマインも設置場所すらおぼつかない。 相手は真上から襲ってくることもあるので石の壁は防御手段として不安定だし、氷の罠もそこに相手が降り立ってくれるとも限らないのだ。 井伊 貴政(ia0213)が咆哮を使用し、目標を自分に向けようとするが‥‥。 「真上!? あぐぅぅぅっ!?」 「井伊君! また‥‥!」 林の中はあまりに分が悪い。こう視界の悪い相手の庭も同然の場所では、例え自分が目標になっていても上手く防御や迎撃に回れるとは限らない。 先程のアッシュはたまたま斜め前方から攻撃されたからという側面もあるのだ。 井伊を強靭な顎で捕らえ、すぐさま跳躍するアヤカシ。 その数秒後、井伊だけが放り出され地面に叩きつけられた。 「奇襲されないように注意は払っていたのですが‥‥。今からでも林を出ませんか?」 「魅力的な提案ですが、背を向けるには危険が大きすぎます。しかも相手が着いて来なければ意味がありませんから‥‥。見通しが良すぎても飛んで逃げられてしまう危険性が高くなるわけで‥‥」 息を乱しつつ、木を背にする菊池 志郎(ia5584)と志藤 久遠(ia0597)。 奇襲自体を予測していても、その後なし崩し的に敵のテリトリーでの戦いになだれ込んでしまったのは痛いと言わざるをえない。 場所を変えるために後ろを見せ、胴体を顎で真っ二つにされましたでは笑えない。 今回の依頼には回復役がいないのだ。あまり無茶な戦い方はしたくない。 「ふぅん。こりゃぁ、ちょいと覚悟ぉを決めていくしかぁないかね」 「何をするつもりですか? あまり心眼も乱用できないんですが‥‥」 「とりあえずさぁ、全員で集まぁりたいかな。話はそれからだぁね」 「りょう‥‥かいっ! 皆さん、犬神さんに作戦があるみたいです! 集合できますか!?」 振り下ろされた鎌を弾きつつ、真亡が叫ぶ。 アヤカシがまたしても木の上に姿を消したのを見計らい、散らばっていた全員が集合する。 流石に8人もの開拓者に防御陣形を敷かれては迂闊に手を出せないのか、林に少しばかり静寂が戻った。 「あら、男らしいのですね。いやぁん、私、虫、怖くて触れなぁ〜い♪ キャッ☆」 「‥‥素手で戦っているのにか?」 「私にもちゃんと武器はありますよ? 涙とおっ―――」 「みなまで言わせず。しかし、本当に可能なのですか? 犬神殿御自身も顎での攻撃は危険と分かっていらっしゃるではありませんか」 「まぁ必ずしもぉそれが来るとぉは限らないしぃさ」 「しかし、この作戦ならばアークブラストでの迎撃も可能です。少なくともバラバラに戦っているよりは全員での戦いがしやすいかと」 犬神の作戦とは、不動を使用した犬神自身を盾として攻撃を受け止めるというものだ。 アッシュでは剣での防御を加味しても心もとない。井伊も不動は使えるのだが、やはり安全性を考えると犬神クラスの防衛力が欲しい。 そうして犬神が耐えている間に仲間が集中砲火をかけ、一気に撃滅するという段取りである。 耐えるとは言っても、相手はすぐに跳ねてしまうだろう。連携と素早さが勝負の鍵である。 「それでは始めましょう。真亡さん、合図をお願いします!」 「わかりました。決めましょう!」 菊池の言葉に気持よく返事をし、真亡が心眼を発動させる。 これが全ての起点となる。反撃の狼煙は、ここから上がるのだ――― ●一気呵成 「位置特定! もう少しで犬神さんの正面に移動します!」 「わかったぁさ。虫風情‥‥アヤカシ風情に負けてぇたまるかってぇな! ガッタガッタぁクワガッタ♪」 「歌は止めておきましょう、犬神殿‥‥」 真亡の心眼でアヤカシの位置を割り出し、犬神が咆哮を使用する。 これにより真上からなどの襲撃を防ぎ、ある程度の進入角を予測することができる。 志藤のツッコミとほぼ同時に葉が大きく鳴り響き‥‥その読み通り、やや右斜め前方からアヤカシが突っ込んでくる‥‥! 「げっ、顎使う気満々だぁな。世の中上手くはぁいかないもぉんだ!」 アヤカシは強靭な顎を左右に開き、犬神を真っ二つにするつもりで突っ込んでくる。 しかし、それは咆哮で無理に引き寄せられたもの。罠であるかなどを考える知性も、やつには無い。 犬神は十字槍を構え、それをつっかえ棒のようにして奴の顎と顎の間に挟みこむ‥‥! みしみしと悲鳴をあげる十字槍。当然長いことは保たないが‥‥! 「影縛り!」 「アークブラスト!」 菊池の影が伸び、アヤカシを束縛する。 フレイアが雷の魔法を放ち、羽根を焦がして飛行による逃走の可能性を潰した。 思うように動けなくなってしまったアヤカシだが、その実力はまだまだ健在。両手の鎌を大きく開き、犬神にさらなる攻撃を加えようとするが‥‥!? 「さっさと跳べばよかったものを」 「白梅香‥‥硬くとも非物理攻撃ならば!」 アッシュと真亡はすでに準備を整えていたのだ。アヤカシの左右から挟み撃ちの要領で接近し、その足に強烈な一撃を叩きつける! 特に真亡の白梅香は通りが良い。やはり物理より非物理が有効なのか。 アークブラストで怯んでいたアヤカシに回避する術はない。切断こそされないが、6本ある足のうち左右二本が使えなくなる! しかし!? 「武器がぁ、保たない!?」 怯んで後退するより先に、アヤカシは犬神を顎で捕らえることを優先した。 ばちん、という大きな音と共に弾き飛ばされた十字槍。次の瞬間、犬神の胴にクワガタの鋭い顎が襲いかかる‥‥! 鎧を着ているからまだ何とかなっているが、その鎧の方もミシミシと嫌な音を立てている‥‥! 「新陰流、焔陰!」 「五月雨よ、降り注げ!」 一撃に重きをおいた井伊の一撃。そして、速さに重きをおいた志藤の二回攻撃。 背後からの攻撃が胴体に炸裂するが、硬いくせにつるつるした甲殻で微妙に威力が減殺される。 ギリギリギリ、と奇怪な鳴き声を発するアヤカシ。怒っているのか苦しんでいるのか‥‥あるいはその両方なのかは判断できない。 「まずい、また跳びますよー!?」 「みなさん、いっそ離れてください! 犬神さんも!」 「む、無茶だぁね。がっちり挟まぁれて動けないってぇよ!」 菊池は不知火を発動したいが、犬神が顎で捕らえられている以上、炎で相手を包み込むこの術は使えない。犬神まで丸焼きにするわけには行かないのだ。 鎧が変形し、犬神の胴を締め付ける。他のメンバーは犬神を放させるべく、再度攻撃に移ろうとするが‥‥! 「また跳びましたわね‥‥!」 「犬神さん!」 足を二本潰されてなお、アヤカシは驚異的な跳躍力で地面を蹴る。 そして、またしても木々の上に姿を――― 「りゅうせいきーっく」 ごがっ! という鈍い音と共に、アヤカシが一転して地面に落ちる。 下に叩きつけられた衝撃で顎を開いたため、犬神はやっとのことで開放された。 アヤカシの背中というか頚椎の辺りには、両手をバンザイ状態にした乃々華がポーズを取っている。 「また登ってたんですか!?」 「えぇ、登ってました。身体の正面に大きいものが付いていると、登るときに邪魔で。大きいと枝に引っかかりやすくて服もずれます」 「だったらするなとは言わん。今回はよくやったと褒めておく」 真亡のツッコミに、ビキニのずれを直しながら平然と言う乃々華。 見えるギリギリでありながらやっぱり見えないのは計算でやっているのだろうか? 要は、いつのまにやら木を登っていた乃々華が、上昇してくるアヤカシに上から飛び蹴りをかまして打ち落としたわけだ。 ムチ打ちのようになった上に地面に叩きつけられたため、アヤカシは内部へのダメージが大きいのかも知れない。立ち上がろうとするが、フラフラとおぼつかない‥‥! 「井伊さん、もう一度脚を!」 「りょーかいです。流石に二本になったらあんな跳躍はできないでしょう」 真亡と井伊が再びアヤカシの脚を挟み撃ちにし、残り二本まで減らす。 そしてフラフラと後ずさったところに‥‥。 「ごめん遊ばせ。泣きっ面に蜂とはこういう事ですわ。‥‥あぁ、蜂は混じっていないのでしたかしら」 いつのまに設置していたのか、フレイアのフロストマインが発動しアヤカシの身体を地面に繋ぎ止める。 機動力が最大の武器であった合成アヤカシ。多少甲殻が硬くとも、動きが止まってしまえば後は見えた。 「燃やし尽くしましょう。この不知火で」 「俺がポイントアタックで首をはねてからにしろ」 「俺も散々挟まれたぁお返しをぉしたいかぁね」 「援護はお任せを。五月の雨にて鎌を打ち払いましょう」 最早語るべくもない。神楽の都のすぐ近くに発生した強敵は、激闘の末討伐されたのである。 合成型のアヤカシまで出現しだしたこのご時世。いったい何が起こっているというのだろう? 次なる未知のアヤカシは、どのような姿と能力を持っているやら――― 「次は『タコ×イソギンチャク×亜理紗さん』でいきましょう」 無理です。どんなホラーですかそれ‥‥。 「では、『亜理紗さん×一葉さん×私』の方がお好みですか? 書かないでくださいね? 絶対に書かないでくださいね?」 なんか意味変わってません!? ちょっと見たいですけど! ‥‥‥‥こほん。失礼しました。 アヤカシハンター。今月今宵のお楽しみは、これまででございます――― |