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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― セブンアームズ(以下SA)との戦い‥‥即ち、彼らを騙った罪人たちを守りながらという奇妙な護送は、双方痛み分けという状態で一旦幕を引いた。 開始直後に襲撃するという奇抜な戦法。そしてやはりハンデとなる対象物の護衛が、開拓者が押しきれなかった理由だ。 しかし護送計画は頓挫したわけではなく、日を改めて再び行ない、SAたちもこれを襲撃する。これは確定事項である。 その日程が、そろそろ近づいてきたわけだが‥‥ 「‥‥私、帰ってきた皆さんの惨状が忘れられないです。血だらけで、傷だらけで、肩を貸してもらってやっと歩いてた人もいたんですよ? あんなの‥‥酷すぎます」 「‥‥SAはアヤカシ。人に害をなすアヤカシ。それが確認できただけでもよかったんじゃないの? 幸い、最悪の事態に陥った参加者はいなかったわけだし」 ギルド職員の十七夜 亜理紗と、西沢 一葉。 亜理紗は自身が開拓者ということもあり、その心中は穏やかではなかった。 自分もこういう事になるかも知れないという恐怖より、SAが歴戦の開拓者であってもボロボロになって帰って来なければならないほどの強敵であるということを思い知らされたからだ。 SAは騙りたちも容赦なく攻撃する。檻に入れ、盾や鎧で武装させても相当危険。 それを護送しながらでは、開拓者も真の力は発揮できまい。 「‥‥いっそ‥‥」 「駄目よ亜理紗。その先を言っちゃ」 「でも‥‥!」 「守ると決めたのは彼らよ。私たちがどうこう言うことじゃないの。あなたも開拓者なら、彼らの覚悟を受け取りなさい」 そう言われると亜理紗には返す言葉がない。 再び行われる奇妙な護送。また泥沼の戦いになるのだろうか。それとも、どちらかに犠牲者が出るのだろうか。 埒を明けよ。人間側の有利な方へ。 それが、今回開拓者に課せられた使命である――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
狐火(ib0233)
22歳・男・シ
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
鉄龍(ib3794)
27歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●道中 件の村を出発した開拓者一行は、一先ず無事に旅を進めている。 急げば10kmなどすぐではあるが、それは馬や朋友などをかっ飛ばせばの話。 クマ用の檻を乗せた大八車を馬に引かせた状態では、4時間や5時間くらいはどうしてもかかってしまう。 「少々やり過ぎましたでしょうか。お馬さんたちが重そうにしています」 「仕方ないだろう。生半可な補強では役に立たん。これだけやっても不安なところだ」 レネネト(ib0260)が呟いたやりすぎというのは、檻を鉄板などで補強し装甲を張り付けまくった状態のことである。 馬にも部分的に鎧のようなものを装着させ、備えている。これが行軍スピードの上がらない一番の要因といえよう。 しかしアッシュ・クライン(ib0456)が言うように、セブンアームズ(以下SA)相手にやってやりすぎるということはない。 多少時間がかかっても、護衛対象の安全面を考えるならこれが最良の策だろう。 ちなみに、二台の大八車に乗せられている檻にはそれぞれ大きな布が被せられている。 一見して中に人が入っているとわからないようにするためらしい。 「それで、今回はどう見る? 前回は村を出た直後だったけど、今回はここまで無事に来てるわ」 煌夜(ia9065)は檻の上に寝そべっている鷲尾天斗(ia0371)に声をかけた。 彼は妙にSAと波長が合うのか、連中の行動を予測するのが上手い。 鷲尾は雲が流れる空を見つめたまま、ゆっくりと呟いた。 「‥‥到着の直後は襲ってこねェだろうなァ‥‥。あいつ等の個人技量を見ればテリトリーの有利は関係ねェ。一撃離脱で潰す事は容易い。だが、あいつ等の狩りの定義はあくまでも『捕食』だ。カマしてバイバイなんて色気の無い事はしねェ。となると‥‥襲撃ポイントは行くも帰るも時間がかかる中間地点になるかなァ‥‥」 「‥‥というと、そろそろになるぞ。村を出てかなり進んだ。警戒しろということか」 「見通しがいいから、奇襲はされないと思うけどね。あ、でも弓矢は注意しないと!」 その言葉を聞き、鉄龍(ib3794)と小伝良 虎太郎(ia0375)は不意に辺りを見回してみる。 背の低いすすきが揺れる草原などが広がり、身を潜ませるには不適当な場所ばかり。 射程のある矢が飛んでくる心配はあるが、少なくとも黒マントは目立つだろう。 と、その時である。 遠くからピィー、ピィー、と呼子笛の音が届く。 偵察に出ていた狐火(ib0233)からの連絡方法だ。どうやらSAを発見したらしい。 「道の先だな。ご丁寧に待ち伏せとは恐れ入る。場所も鷲尾の読み通りかよ」 巴 渓(ia1334)は吐き捨てるように呟く。アヤカシのくせに堂々としたSAの態度が気に入らないのだろうか? それとも、もっと別な理由があるのかは分からない。 確かなのは、この先にSAがいること。 そして、狐火が危険に晒されている可能性があることである――― ●乱れ舞え 「少々、厳しいですね‥‥!」 狐火は走っていた。仲間の元へと戻る道ではなく、明後日の方向の平原を‥‥である。 一人偵察に出た狐火は超越聴覚を用いて索敵していたが、どうも敵の弓使い‥‥ダシオンの目視のほうが早かったらしい。 次々と放たれる矢は狐火の退路を断ち、仲間の方へ行くことを許さない。 仕方なく回り道をして戻ろうにも、黒マント二人が追ってきて逃がしてくれないのだ。 「くっ!?」 的確にこちらを狙うダシオンの矢。しかしそれはわざと外しこちらを追い込んでいる感がある。 村人に変装していた狐火は不意に飛んできた威嚇の初弾に回避行動を取ってしまい、一般人がそんなことを出来るわけがない、あいつは開拓者だとバレたのだった。 呼子笛で連絡はした。後は後続が追いついてきてくれればと思うが、すでに3人の黒マントに囲まれている。 仕方なく、狐火は奥の手を使うことにする。 秘術・影舞。10秒間だけではあるが、自らの姿を衣服や装備ごと透明になる術だ。 徐々に消えて行く狐火の姿。流石に黒マントたちも驚きを禁じえないようだ。 ‥‥一人を、除いては。 「このまま脱出を‥‥‥‥ッ!?」 10秒あれば包囲網は突破できる。いや、実際にした。 しかし、その狐火に迫る一本の黒い線! 右方向から突然向かってきた謎の線を叩きつけられ、狐火は再び包囲網の中に戻されてしまう! 「く‥‥くさ、り‥‥!?」 狐火をふっ飛ばした線は形を崩し、じゃらり、と音を立て地面に落ちた。 鎖鉄球使いのキュリテ。その鎖部分は伸縮自在であることはすでに周知の事実である。 鎖を伸ばし、点ではなく線で攻撃されては透明になっても意味が無い。 そして、地面に横たわる彼の見上げる先には、巨大なハンマーを振り上げるSAの姿が――― ガゴンッ! 胸辺りに巨大な衝撃を受け、狐火の意識が刈り取られる。 死んではいないようだが、到底戦闘には参加できそうにない。 と、そこに開拓者と大八車が到着する‥‥! 「狐火さん!? 遅かった‥‥!」 小伝良の呟きが聞こえたわけではない。しかしSAたちは頷きあい、こちらへ突っ込んでくる。 その数、6。パッと見では、またしてもフルメンバーではない。 「鉄龍さん、あそこの黒マント!」 「鉄球‥‥あれがキュリテか。作戦通りに行くぞ」 狐火を倒すために、ダシオン、キュリテ、シエルはすでに武器を出した状態である。 瘴気によって武器を自由に出現・解体する彼らは、フードを被ったままでは武器で判別するしかない。 そういう意味では、最初から誰か判別できたのは狐火のおかげである。 今回、開拓者はSAに対し担当を決め、一対一で対処する方針を打ち出している。 小伝良が鉄龍に声をかけたのもその一環である。 「SAね、どうせ単体ならたいしたことないんだろ?」 鉄球を持ったSAに相対し、挑発してわざと攻撃を誘う鉄龍。 それは確かに成功し、キュリテは右手に持った鎖鉄球を鉄龍に放った! 「ぬ!? くおぉぉあっ!?」 ダーククレイモアという大剣で受けた鉄龍だったが、鉄球の勢いはそれを弾き、鉄龍の身体に直撃した。 想像以上の衝撃。屈強そうには見えない黒マントの奥に、こんなパワーがあるとは思えなかった。 「その隙、逃がさないよっ!」 元々鉄龍は囮役。小伝良が接近し、攻撃するために挑発役を受けたのだ。 ダメージは甚大だが、その役目は果たしている! どうしようもないと思われたキュリテ。しかしその左手に、鎖が極々短い鉄球が出現した! 伸縮自在ということは、短くするのも当然できる。懐に入られても、こういう緊急手段があったのだ。 ズギャッ! という嫌な音が響き、地面に血飛沫が飛ぶ。 同時に、懐に入り込んだ小伝良の鉄爪による一撃が、キュリテの左脇腹辺りに直撃する‥‥! 「う‥‥ぐ‥‥っ!」 頭部を強打され、よろめく小伝良。しかし! 「ま‥‥だ、だぁっ!」 『!?』 小伝良は牙狼拳を使用し、二回攻撃を可能としていた。 一撃目が交差気味だったとはいえ、まだ動けるのだ。 破軍を重ねがけし、今度こそ無防備なキュリテの腹に鉄爪の一撃を加える! 深々と突き刺さった鉄爪。よろめきながら後ずさりし、それを引きぬいたキュリテであったが‥‥両手から鉄球を消して後退するしかなかったようだ。 それを追おうとした小伝良だが、頭から流れる血が目に入り上手く追えない。 それどころか意識が朦朧とし、最後には地面に倒れ伏した。流石に頭部に鉄球はまずかったか。 惜しいところでキュリテを逃がしてしまった後、SA全員が武器を生成する。 トンファー、槍、弓、爪、ハンマー。撤退したキュリテを除けば剣のジークがいない。 小伝良が倒れたことで、残りのSAは悠々と檻へ向かう‥‥! 「そうは、行かせるか‥‥! 剛爪のリュミエールだな、お前の相手は俺がしよう」 立ち上がり、符水で回復した鉄龍。 爪を装備したSAは一人だけ残り、彼と相対する。 一人でも檻に向かうSAを減らしたい。それは確かなところではある。 「俺も爪には自信があってな、剛爪なんておおげさな二つ名を持ってるんだ、試しに1対1で戦ってみないか?」 その言葉に、こくりと頷いて見せる。 情報通り素直というか、馬鹿正直というか。 「お前の爪と俺の爪どっちが勝るかな?」 竜人である鉄龍。今まで傷つけられたことがないという龍鱗と爪で、勝負をかける。 しばしにらみ合った後‥‥リュミエールも爪を構え、正面から爪と爪が激突する! 「なにっ‥‥ぐあぁぁぁっ!?」 鉄龍の爪は当たり負けて弾かれ、左腕の龍鱗にも大きな傷ができる。 続けざまに左の爪を振り下ろされ、胸部からも大量に出血した! このやりとりの最中も、他のメンバーは戦闘を継続中である。 「俺に勝ったら天儀一の菓子屋から取り寄せたドラ焼きと俺を食わせやるぞ! 愉しく闘おうやァ!」 いの一番に突っ込んだシエルは、狂気を張り付かせた表情で笑う鷲尾と交戦中。 ともに得物が大きいので、どうにも全力で振りきれないようだ。 「弓を鈍器に、か。武器の重さなら負けんぞ」 一番恐い遠距離攻撃を持つダシオンは、アッシュがオーラドライブを発動後、飛来する矢をソードブロックで掻い潜り接近戦へ持ち込んだ。 それだけでは倒せないのが厄介なところだが、檻や味方に向かって矢を放たれないだけマシだ。そうでなくとも、接近までにレネネト以外の全員が2〜3発貰っているのだから。 「こいつも意外と速いな。だが、槍でどこまで防げるか!」 「布と装甲化が活きましたね。あとは、退けるだけです」 ダシオンよりは射程の短いクラン。しかも元々長槍なので、巴に瞬脚で接近されると厳しい。 巴の猛攻を弾くのが精一杯で、離脱も出来ない。おまけにレネネトが奴隷戦士の葛藤という曲で防御を下げて来ているので、槍で弾き損なうとこなりのダメージになるだろう。 ちなみにダシオンは布に覆われた檻にも射撃したが、矢は鉄板によって防がれたようだ。 総じて、前回よりいいペースで戦えている。やはり『攻め』の姿勢を明確にした事がよかったのだろう。 そして、トンファーを使うSAのリーダー格、クレルには煌夜が当たっている。 しかし‥‥? 「くぅっ‥‥! ぜ、全然通らない‥‥!」 紅焔桜を発動し、能力を引き上げているにもかかわらず、煌夜の攻撃はクレルにかすりもしない。 全てトンファーに弾かれ、逆にカウンター気味の一撃を貰うなど、腕の差が明らかだ。 「うーん‥‥もう少しやるかと思ったんだけれどね。もうやめておいた方がいいわよ?」 一人だけフードを取り、苦笑いしながら煌夜に語りかけるクレル。長い銀髪に真紅の目。やはり、一見しただけでは人間と大差ない。 その言葉に悪意はなく、純粋に煌夜を心配しているように見えた。 「ご心配どうも。でも、私も退けないの。それに勝算がないわけじゃないわ‥‥!」 「そう? 前に会った私たちに似た彼ならともかく、あなたじゃ厳しいと思うけれど」 「試してみる‥‥?」 「‥‥いいわよ。そろそろ貴女を突破して檻に向かいたいしね」 頬に大きな裂傷を負った煌夜。まるで無傷のクレル。 どちらが優勢なのか明らかな中‥‥二人は同時に大地を蹴る。 煌夜はすぐさま紅焔桜を発動し、霊刀カミナギを振りかぶる‥‥! 「無駄よ。それじゃ私には届かないわ」 「どうかしら!?」 「‥‥‥‥っ!?」 一瞬、何が起こったのか分からなかった。 クレルのトンファーは間違いなく煌夜のカミナギをガードしたはずなのだ。 ところが当たった瞬間にトンファーが音もなく破壊され、クレルは逆袈裟の刀傷をその身に受ける‥‥! 「‥‥え‥‥?」 クレルがそう呟いた瞬間、傷口から瘴気が吹き出す。アヤカシにとってもかなりのダメージのように見えるのは、紅焔桜での強化も加わっているからか‥‥? 「ぐ‥‥な、なん、で‥‥!?」 「白梅香よ。この技は瘴気を浄化する性質を持ってるの。同じ瘴気で出来ていても防御用のマントはともかく、武器ならすぐに浄化できると思ったのよ。貴女は受けて防ぐタイプだし、得物が短いからすぐに身体に届く。そういう計算もあったけどね」 「やられた‥‥! だ、ダシオン君、支援して‥‥っ!?」 振り向きもせず言ったクレル。しかしその背中に、クロスボウの矢が突き刺さる。 放ったのは‥‥レネネト!? 「まさか、私のようなひ弱な者が曲以外の攻撃方法を持っているとは思わなかったでしょう?」 隠し持っていたゲイルクロスボウはこういう時のためか。 黒マントは物理攻撃を防がないし軽減すらしない。そして、SAは怪物タイプのアヤカシと違って耐久力はそれほど高くないのだ。 リーダーであるクレルの危機に、すぐさま援護に入ろうとするSAたち。しかし開拓者たちが立ち塞がりそれを許さない。 クレルはもはやマントもトンファーも維持できず、弱々しく膝をつくだけである。 「‥‥言い残すことは、ある?」 「‥‥そうね‥‥。みんな、人間を恨んじゃダメよ。油断した私が悪いんだから。私たちはこうなることを覚悟した上で、ゲームをしてたんだからね」 「‥‥‥‥ずるいわよ。最後の最後までそんな人間らしい台詞‥‥」 「‥‥人間らしいんじゃないわ。私らしいのよ」 そして煌夜は、静かに振りかぶり、クレルを袈裟懸けに斬り倒す。 瘴気となって消滅していくクレル。SA最初の脱落者は、意外にもリーダーである反棍のクレルであった。 今際の際の納得した表情は、クレル自身と煌夜しか知らない――― 「クレル!? 嘘でしょ、クレル!?」 フードを取り、必死に叫ぶクラン。しかし、巴の連続攻撃は続いている。 「寂しければてめぇも後を追え!」 「クレルッ! クレルぅ! アンタたち‥‥よくもクレルをぉぉぉぉぉッ!」 「てめぇらに喰われた人間の家族もそう思っていただろうよ!」 「それが何よ!? こっちはアンタたちを殺さないであげてたのに! この前だって、今日だって、殺そうと思えば機会はいくらでもあった! あっちでのびてる三人だってわざわざ殺しまではしなかったのに! なのに、なのにアンタたちはクレルを殺したぁっ!」 「それはてめぇらが勝手に決めたことだろ! 戦いってのはそういうモンだ。甘えんな!」 「ッ‥‥! 殺してやる! 絶対殺してやるッ!」 「だ、だめッスよクラン! クレルの最後の言葉、思い出すッス! とにかく、今日は帰るッスよ!」 「放してよ、リュミエール! 放してぇぇぇッ!」 こうして、残りのSAたちは離脱していった。 ある者は涙し、ある者は歯噛みし、ある者は狼狽えながら。 開拓者たちは怪我人を回収し、無事に護送任務を完了したのである。 しかしこの一件は、まだもう少しだけ続くような気配がしたという――― |