【幽志】群れなす怨念
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/16 19:34



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「いーやーでーすー! ホラーな話題は勘弁してください〜〜〜!」
「駄目。報告書まとめるのは私だけど、あなたにも手伝えって指示が来てるでしょ。お仕事と割り切りなさい」
「そんな簡単に割り切れるならえっちな声をあてるお仕事したほうがマシです!」
「じゃあどうぞ。やってみて」
「‥‥ぁ‥‥ぅ‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥ひーん!?」
「出来ないなら最初から言わなきゃいいのに‥‥」
 前置きが長くなったが、ある日の開拓者ギルド。
 職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉は、新たな事態へと発展した幽霊騒動の依頼書制作にかかっていた。
 ホラーが苦手な亜理紗は手伝いを嫌がったが、嫌な仕事を嫌で済むほど社会は甘くない。
 本当は一葉もあまり関わらせたくはなかったのだが、一人で抱え込むには少々厳しい事件なので仕方ないのだ。
「くすん‥‥。えっと‥‥? 幽志(ゆうし)って呼称することになったんですか、例の幽霊さんたち」
「そう。幽霊のような志体持ち、略して幽志。幽開よりはいいでしょ」
「ラブロマンスの果てかと思ったらとんだ斜め上でしたよねぇ‥‥。私だったら、恨みがましい表情した人たちがぞろぞろ現れたらその場で失神してますよ‥‥」
「そりゃ私だって恐いけど‥‥」
 石鏡南部に位置するとある山で、連日の雨により崖崩れが起こった。そんな自然災害はよくある話だが、今回はその後に妙な現象が起こりだしたのである。
 現場付近に半透明の開拓者の幽霊のようなものが二人出現し、徘徊しているから何とかしてくれという付近の住民の依頼を受けた開拓者たちは、早速退治に向かった。
 志士とシノビの幽霊。身分違いの恋に身を焦がしたかと予想した開拓者たちであったが、その表情を見て甘い考えが一気に吹き飛んだというのは記憶に新しい。
 そして、駆け落ちでないまでも供養をしてやりたいと崖崩れの現場を掘り返していた時に事件は発展した。
 崩れた崖には空洞のようなものがあり、その奥から別の開拓者の幽霊がぞろぞろと這い出してきたのである。
 いずれも恨みがましい表情をしており、問答無用で襲いかかってくる。これは先に退治した二体と同じだ。
「でもこの人たち、アヤカシなんですよね? 人の魂ってそんな簡単にアヤカシにはならないと思うんですが‥‥」
「同じ場所に集まりすぎてるのも気になるわね。まさか、アヤカシが発生する穴とか言わないでしょうね‥‥」
「魔の森が地下に発生してるとか?」
「恐いこと言わないでよ‥‥。とりあえず石鏡の上層部はじっくり調査することにしたみたいだから、時間はあるわ。まずは表に出てきてる幽志たちを排除して、穴の奥への道を切り開いて欲しいとのことよ」
 崖崩れから始まり、幽志、謎の洞穴と発展した幽霊騒動。
 開拓者たちの善意を飲み込むかのように、暗い穴は今日も口を半開きにしたままである―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
明夜珠 更紗(ia9606
23歳・女・弓
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
ルー(ib4431
19歳・女・志


■リプレイ本文

●忘却
「確か、場所は『忘れ去られたような場所』‥‥そんな多数の開拓者が命を落としたなら、果たしてそれだけの事件が忘れられる?」
「普通はないな。しかし亜理紗嬢に駄目元で、過去に現場周辺で開拓者が関わった案件がなかったか調べてもらったが‥‥結果は梨の礫だったようだ」
「むしろ‥‥忘れ去られた場所だから、そこを利用していた‥‥? 崖崩れで隠匿されていたその『利用』が、暴かれたとか」
「一般的な条件でいうなら、それこそ地下に魔の森大発生を第一に疑うが‥‥自動で瘴気を収集・幽霊精製を行う何かがあるとか。そして幽霊は奥にある何かを守る為に設置した守護者的な『式』説。‥‥かなりぶっ飛んだ妄想なのは自覚してる」
 石鏡南部のとある山。目的地であるここに到着した一行は、幽志の行動範囲に入る前に現在の情報を確認・推理していた。
 確かに幽志は脅威であり、排除すべき目的だ。しかしその発生原因が分からなければ続々と発生されるかも知れないし、対抗策も取りやすいかも知れない。
 明夜珠 更紗(ia9606)やルー(ib4431)はギルド職員の亜理紗に過去の依頼を調べてもらい、この近辺の依頼で依頼中に開拓者が行方不明になったことがないか確認した。
 ここ数十年、この近辺で依頼はあったが行方不明者は出ていない。しかし、石鏡の依頼全般でとしてみると、十年ほど前にやたら行方不明者が多い年があったという。
 石鏡の国全体に広がっている依頼で見ればなので、今回の話と関係があるかは不明だが‥‥。
「うーん、とりあえず行ってみるしかないですね。案内は僕たちにお任せを」
 立ち上がり、伸びをしながら言う井伊 貴政(ia0213)。
 明夜珠やルーの推理は、魔の森の可能性を否定するなら良い線を突いている。
 あれだけの開拓者が本当にアヤカシになっているのであれば、何者か、何らかの力が働いていると考えるほうが自然だ。
 結局は今回の依頼の趣旨‥‥露払いを完了させ、洞穴の調査を行うしかないわけだが。
 一行は頷きあい、井伊たち前回も参加したメンバーの案内で森を進む―――

●理性なき幽志
「‥‥こんな未開の道のりなんですか。こんなところで襲われたら事ですね」
「彼らの行動範囲がどこまでかは分かりませんが、十分注意を払いましょう」
 井伊たちの案内により迷うことはないが、劉 星晶(ib3478)が呟くように道は恐ろしく悪い。
 伸び放題の草や道とも言えないルート。鬱蒼と茂る木々は周囲の風景を隠し、敵の接近や監視をも覆い隠してしまうのである。
 ルエラ・ファールバルト(ia9645)も発端となる依頼に参加した人物であるが、戦った幽志たちがどこまでの行動範囲で動いているのかは判明していないのだ。
 全員で固まって移動する開拓者たち。相手はどれも気配察知に長けているというのだから仕方あるまい。
「‥‥駄目です、反応がありません。そろそろ瘴索結界は止めておかないと、回復のための練力が残りません」
「もう一時間近く歩いているからな。決め付けるのは早計だが、少なくとも出発から三十分の範囲は安全と思ってもよかろう」
「あとはルエラさんの心眼に頼りましょう。効果は一瞬のはずですので、錬力にお気をつけください」
 鳳珠(ib3369)は索敵しながらここまで歩いてきたが、十回も瘴索結界を使用してなお幽志たちの反応は引っかからない。
 オラース・カノーヴァ(ib0141)とジークリンデ(ib0258)も嫌な気配は肌で感じているが、敵の行動範囲を知る上でも今回の行軍は意義深い。
 あとは索敵の範囲や効果時間を上手く使うことが、敵の早期発見の決め手となるか。
「そろそろ崖崩れの現場に着いちゃいますねぇ。みなさん、注意してください」
 そう井伊が言った瞬間である。
 風切り音すらなく、一筋の線が井伊の眼前を通り過ぎた。
 後には風も残さない。音もなく木に突き刺さっている‥‥!
「矢!? 察知されてる!?」
「心眼で感知できません! 範囲外なのか、抵抗されてるのかも不明です!」
 飛んできたのは崖の方向だ。弓術師の射程なら索敵の範囲外からも射ることは可能だが、これは厳しい。
「しばしお待ちを。実験してみます」
 ジークリンデがストーンウォールを使用し、石の壁を構築する。
 断続的に飛んでくる矢。狙いは正確ではあるが、あっちの方向に敵がいるからとりあえずといった感がある。少なくとも目標をしっかり捕らえた射ち方ではない。
 その矢は、ストーンウォールに阻まれ壁に突き刺さる。どうやら有効なようだ。
「‥‥で? 一先ずの安全は確保できたがこれからどうする。矢を掻い潜って進むか?」
「木を盾に進めば大丈夫だとは思うが‥‥弓術師として意見するなら、矢の支援があると確定しているところに敵の前衛を捜索、戦闘するのは利口とは言えないぞ」
 オラースも本気で言ったわけではないが、明夜珠の言うことはもっともである。
 恐らく相手の矢が尽きることはない。このまま壁の後ろに縮こまっていても幽志を倒せるわけで無し、何か打開策を打ち出さなくてはならないが‥‥?
「っ! 左右から別の反応が近づいてきます! 数は一つずつ!」
「‥‥こんな動きの取れない状況で‥‥?」
 ルエラの叫びに、思わず劉が本音を漏らす。
 とてもではないが現状では戦いにならない。こちらを守るのは壁一枚だけなのだ。
「ならば壁を増やせばよいのです」
 ジークリンデはストーンウォールを連続使用し、隙間のないように壁を並べていく。
 森の中に突如現れた石の壁の列は、飛んでくる矢を完全にシャットアウトしている。敵の弓術師がよほど近づいてくるか高台にでも登らない限り矢の心配はないだろう。
 そして、左右から姿を現す新たな敵。
 いかつい鎧に身を包んだ金髪の男の騎士と、ローブに身を包んだ魔法使いと思わしき女。そのどちらもがダメージを負ったような様子で半透明。そして、恨みがましい見開かれた目で仲間を欲する‥‥。
「‥‥なるほど。これは怖いですね。‥‥足はあるんですか」
「感心してる場合じゃありませんよ! 鳳珠さん!」
「は、はい!」
「援護する!」
 魔術師の火力を甘くみると死につながる。井伊が真っ先に駈け出し、鳳珠に補助魔法を要請。明夜珠が矢を番えるが‥‥!
「間に合わん!」
 敵の魔法の発動の方が速い! オラースの叫びも虚しく、井伊の頭上に渦巻く炎が出現する!
 エルファイヤーの炎が井伊を包み、激しく燃焼する‥‥!
「ぐぅぅっ‥‥!」
「少々冷たいですが御容赦を」
 ジークリンデがブリザーストームを井伊に向かって放ち、消火する。
 延焼したまま放置するよりはマシだが、ブリザーストームも充分ダメージだ。
「単体魔法は失敗だったな!」
「人に仇なすアヤカシが‥‥! 半端なことはせんぞ!」
 明夜珠の狩射+会のコンボが唸りを上げ、魔術師の女に直撃する。
 後衛は攻撃を貰えば脆い。自身もそうであるからと言っていた明夜珠の推論は正しかった。
 矢を眉間に直撃させられ、声無き絶叫を上げるように痙攣する。
 そこにオラースが追撃をかける。轟く雷を手負いの魔術師に解き放ったのだ。
 確かに抵抗力は多少高いが、オラースレベルの魔術師のアークブラストを受けて無事に済むわけがない。
 電撃に撃ち抜かれた幽志は、足元から消滅し完全に消えてなくなった。
「かはっ‥‥! い、意識が‥‥!」
「ルエラさん、手伝うわよ!」
「‥‥なんとまぁ、硬いお相手です‥‥!」
 当然のことだが、金髪騎士の幽志も待ってはくれない。
 ルエラは盾で攻撃を防ごうとしたが、半透明の騎士の剣は意外なほど強力な衝撃を伴いその盾を弾き飛ばしてしまう!
 ガードブレイクでも使ったのだろう。ルエラはそのまま剣を受け、気力や精神力をごっそり持って行かれた!
 追撃を許すまいとルーが隼人で急接近し、剣を振るう。
 劉も雷火手裏剣で援護するが、半透明の癖に相当防御力があるのかまるで堪えていない。
 ルエラを回復させたいが、鳳珠は井伊の回復にかかっていて動けない。そうでなくとも索敵で練力を消費しており、余裕はないのだが‥‥。
「‥‥やはり、若輩者にはきついですね」
「ならどうするの? 諦めるのかしら?」
「‥‥御冗談」
「結構! 彼らだって人を傷つけるために力を得たわけでは無い筈だから!」
 劉とルー。シノビの敏捷性と隼人の技。スピードで撹乱すべく、二人は二手に分かれ挟撃する。
 騎士は狙いを劉に定め、剣を振りかぶるが‥‥!
「こっちを狙いなさい!」
 ルーの咆哮に気を取られ、わざわざ狙いを変更する。
 そんな馬鹿げた挙動は生前なら取らなかっただろう。魔術師の女にしても、後衛担当がむざむざ最前線に出たりはしなかったはずだ。
 スキルを使えても、本能で戦えても所詮はアヤカシ。理性を以ての戦いなどできないようだ。
 身を翻し、スピードで撹乱するルーと劉。明らかな時間稼ぎだが、騎士はそれに気付かない。
 そして‥‥!
「お待たせしました! 燃え上がれ、焔陰!」
 回復を終えた井伊が肉薄し、焔陰で騎士を攻撃する。
 騎士は剣で受ける形となり、ダメージをかなり抑えた。
「これは‥‥駄目です、私の術ではルエラさんは回復できません」
「どういうことなのですか?」
「幽志たちの物理攻撃は精神的なものにダメージを与えています。生命力を回復させても意味がありません」
 鳳珠の頬を冷や汗が伝う。横では石の壁からパキパキと嫌な音が聞こえ始めている。どうやら断続的に射ち込まれる矢に壁が悲鳴を上げているらしい。
 ジークリンデに再構築してもらえば問題ないが、速く決めるに越したことはない。
「戦塵‥‥烈波ぁ!」
 井伊は非物理攻撃に切り替えてみるが、思うようにダメージが通らない。戦塵烈波は攻撃力が下がってしまうため、焔陰で攻撃するのと大差が無くなってしまうのである。
「おっと!?」
 ただでさえ幽志の攻撃を受けまいと防御に神経を注がなければいけないのだ。無謀な攻撃はできない。
 一応、武器同士なら斬り結ぶことが可能。理屈はわからないが。
「後は狙い撃ちに致しましょう」
「魔術師の魔法にも涼しい顔でいられるか?」
 こちらにはジークリンデとオラースがいる。彼らの魔法を連続で撃ちこめば、騎士ではほぼ保たない。
 ホーリーアローとアークブラストが騎士を捉える。必死に反撃しようとする騎士だったが、
「おとなしくしていろ。もう抵抗は無駄だ」
 明夜珠が放つ矢により上手く行動できない。後はもう語るべくもなかった。
 しかし、まだ敵には厄介なのが残っているし、ルエラのことも気になる。
 二体倒すだけでも相当体力と精神力を消耗した一行は、無理をせず撤退することを選択した。
 精神にダメージを与える攻撃。今のところすぐに回復させる手段はない。
 これへの対策も、練っていかねばなるまい―――