|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「さてさて、幽志の件です。前回までに弓術師以外の幽志は全て撃破し、やりやすくなってきましたね。帰還した開拓者さんのお話を伺うに、真相は何やらキナ臭くなってきましたが」 「偶然が重なった一度限りの奇跡って感じだけれどね」 ある日の開拓者ギルド。 幽霊のような志体持ち‥‥略して幽志。 最近存在が確認されたものだが、要はアヤカシである。 とある洞窟から這い出てその近辺をうろうろしていたのだが、開拓者の活躍もあり後一体だけを残し撃破された。 残っているのが一番厄介なクラスであるとは言え、一体だけならばやりようはいくらでもあろう。 それよりも気になるのは、前回の参加者の一人が体験したという幽志の記憶のフィードバックだろうか。 走馬灯というスキル自体は発動すらできていなかったが、それを所持していたからこそ起こった奇跡か。はたまた、たまたまその開拓者と巫女の幽志との相性が良かったのかは不明である。 「陰陽師としての意見はどう?『アヤカシとして生き延びられる』っていうのは、やっぱり陰陽師の術か何かで魂を式としてこの世に繋ぎとめてたとか‥‥」 「可能性はゼロではないです。人は死ぬと魂になって、その魂が消滅することで完全に死亡する‥‥って習った気がします」 「気がしますって、記憶喪失になる前ならいざしらず、陰陽師の研修してた時のことでしょ? 半年やそこらで忘れないでよ‥‥」 「いや、その‥‥興味がない話題だったもので。霊とか魂とか怖いじゃないですか?」 ギルド職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉。 亜理紗は開拓者の陰陽師でもあるが、ホラーな話題が苦手なせいか曖昧な答えしか帰ってこなかった。 石鏡の上層部の指示として、今回は洞窟内の調査を義務付けている。 敵が更に洞窟から増える様子もなく、残りは一体だけ。そろそろ核心に迫りたいということなのだろう。 入り口は未だ半分ほどが土砂に埋もれたままとはいえ、滑りこむくらいは余裕でできるが‥‥? 「参加者の何方かが言ってました。もしかしたら、幽志の人たちも犠牲者だったのかも知れないって。なんというか、本当になっちゃいましたね‥‥」 「それでも戦わないわけには行かなかったでしょ、襲ってくるんだし。いつまでも意に沿わない戦いをさせられるくらいだったら、倒して成仏させてあげたほうが彼らにとっても救いよ。多分ね」 「はい‥‥。私も知りたくなってきました。洞窟の奥に何があるのか‥‥」 自然災害‥‥崖崩れから始まり、十一年前の扉が開いた。 悲しくも厳しい戦いを乗り越えて、今、原因の洞窟へと足を踏み入れる――― |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
明夜珠 更紗(ia9606)
23歳・女・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●心行き さて、例の崖崩れ現場までの道のりも恒例となりかけた今日この頃。開拓者一行は荒れ放題に荒れた森の中でも迷うこと無く進んでいる。 それは何故かと問われれば‥‥ 「よし、目印は残ったままだな。後は時間さえ気にしておけば大丈夫だ」 「迷うことがないのは嬉しいですね。しばらくはのんびりできそうです」 「あはー、油断は禁物ですよ? 今までのはあくまで体感時間ですから。迷わなくなったから進軍速度が上がって、思ったより早く敵の射程に‥‥なんていうのは困りますから」 そう、前回、明夜珠 更紗(ia9606)が木々に付けて行った白墨の目印があり、それを頼りに進めばここはもう未開の森ではないのだ。 そうでなくとも大分慣れてきた感はあるが、しっかりした目印はやはり心強い。 とはいえ、劉 星晶(ib3478)の台詞を井伊 貴政(ia0213)はやんわりと諌める。 別に劉も本気で言ったわけではないが、警戒するに越したことはない。 「そうだな。敵はとうとう最後まで姿さえ確認出来ていない弓術師だ」 「流石の私たちの魔法も、弓と比べてしまうと射程で劣りますから‥‥」 「負傷しましたら無理せず私のもとへお戻り下さい。可能な限り治します」 オラース・カノーヴァ(ib0141)とジークリンデ(ib0258)の二人は、火力という面で重要な立ち位置にある人物である。 しかし、どちらの魔法も相手の場所がわからなければ当てようがない。弓はそれを可能にしながら一方的に攻撃してくる厄介な相手と言える。 今までも一番苦労し、翻弄されてきた弓術師の幽志。今回こそは倒してしまいたいが‥‥? いざとなれば鳳珠(ib3369)が癒してくれるとのことだが、何か大事なことを忘れているような気がしないでもない。 と、一人、深刻そうな顔で森を歩く人物がいた。 いつもの明るさや奔放さは鳴りを潜め、サングラスで表情を隠している。 「‥‥どうかなさいましたか?」 「‥‥別に。ちょっと思うことがあっただけ」 「‥‥あまり、思いつめないほうがよろしいかと思います。どこまでも共にというのもまた執念。それに凝り固まり、心を壊してしまうことも‥‥あるかもしれませんから」 「‥‥ありがと。でもさ、人の頭の中に勝手に映像映して過去回想するなんてっ‥‥御蔭で他人事じゃなくなっちゃったじゃない‥‥!」 鴇ノ宮 風葉(ia0799)は前回、巫女の幽志と接触し、何かの拍子で彼女の過去を垣間見た。 そして幽志たちが被害者であったこと、何者かの黒い念がこの事件に絡んでいることを告げたのだ。 アドバイスした志藤 久遠(ia0597)であったが、それは本当に鴇ノ宮に向けての言葉だったのであろうか? もしかしたら鴇ノ宮に、普段自分を軽視してしまう己の姿を知らずに重ねていたのかも知れない。 そうこうしているうちに、危険区域と思わしき場所の目印を発見する。確か前回は、この目印を付けて少し進んだら矢が飛んできたはずだ。 一行は頷きあい、事前の作戦通りに隊形を組み直すのだった――― ●スナイプ 唯一残った幽志。今更言うまでもなく弓術師である。 音もなく飛来する無限の矢。確かに幽志として一番相性のいい職業だろう。 それを倒し、安全を確保するために一行が取った作戦は‥‥ 「‥‥射って来ませんね‥‥」 「‥‥ですね。皆様、洞窟まで急ぎましょう!」 盾を装備した井伊と志藤が前衛として立ち、一行を牽引していく。 今までの経緯から、幽志たちの攻撃は武器や盾は勿論、壁などを透過できずそこで止まる。 ならば最初から受け止める作戦を取り、相手の場所を把握しつつ護衛も‥‥ということなのだろう。 幽志の気配察知能力はかなりのものだ。どう控えめに見てもすでに勘づかれているはずだが‥‥? 一行は森を抜け、過去にジークリンデが作り出したストーンウォールの壁も越え、崖崩れの現場に出てしまう。背後から矢が飛んで来る様子もない。 「‥‥妙だな。罠としても、連中にそこまでの知恵や理性があるのか?」 「探ってみます。少々お待ちを」 オラースの呟きを受け、鳳珠が瘴索結界を発動する。 しかし弓術師の反応はなく、半ばくらいまで口を開けた洞窟の中にも反応は感じ取れなかった。 「‥‥のんびりしているというわけでもないはずですが‥‥」 「どういたしましょう? このまま突入してしまいますか? それとも、弓術師幽師を探しますか?」 劉とジークリンデも警戒しながら辺りを見回す。 洞窟に入った後に後ろから迫られても困る。だからこそ先に撃破してしまおうという段取りになったのだが、相手が見つからないのでは話にならない。 要らない時には出てくるくせに探すと居ない。かなり迷惑なタイプだ。 と、その時である。 「う‥‥!?」 ぐら、と志藤がふらつく。盾を地面に突き踏み留まるが、その肩に半透明の矢が‥‥! 「この刺さり方‥‥上から!? あによ、そんなのアリ!?」 「これは‥‥曲射か!? 鳳珠、手当を!」 空を見上げると、弧を描く矢が次々と発射されてきているところだった。 気力を持って行かれた志藤。鳳珠は治療のため恋慈手を発動するが、全く効果がない!? 「肉体的ダメージではなく、精神的なダメージ、ですからね‥‥!」 「これでは防ぎきれません! 洞窟の方へ!」 必死に矢盾を掲げ、矢を防ぐ志藤。しかし上からの矢を全てカバーできるほど、彼女と井伊の盾は大きくない。 一人だけ余裕なのは、鉄傘を装備している劉。矢の雨を悠々と凌ぐことができる。 「仕方ない、洞窟の辺りまで走れ! 矢は洞窟の上から飛んできている!」 明夜珠の指示で、一行は洞窟の入り口付近に集合する。 どうやら洞窟がある崖の上の、さらに遠くから射っているらしい。鳳珠の探知魔法に引っかからないことからもそれは確かだ。 となれば、相手はこちらを正確には狙っていない。気配を察知し、曲射で適当に狙っているだけだ。 崖の下に潜り込めば敵の攻撃はやり過ごせる。しかし、それはこちらも攻撃ができないということである。 このまま洞窟に突入してしまいたいという思いが一行の胸に去来するが‥‥。 「‥‥井伊、志藤、例の盾持ち、何人までならカバーできる?」 「恐らく一人が限界ですね。上からでなければまた話は違ったとは思いますが‥‥」 「‥‥彼も救いたいということですね?」 「か、勘違いしないでよね! アタシが敵を取ると決めたのは巫女の分だけ! あいつは邪魔だから倒してほしいだけよ!」 「ここは同業者の意見を聞いてはどうだ? あぁ言う射ち方をしている弓術師は、どういう流れになれば顔を出す?」 オラースの言葉を待っていたかのように明夜珠が口を開く。 その瞳には強い決意と確信に満ちており、何か作戦があるように見えた。 「獲物がどうしても矢が届かない場所に移動したというのは奴も察知したはずだ。ということは、こちらを射れる場所まで移動するのは時間の問題だな。井伊、志藤、手伝ってくれ」 そう言うと、返事も待たずに矢を準備し弓を上に向かって引き絞る。 ということは‥‥? 「おや‥‥上から覗き込んでくるんですか? 移動しないとは面倒臭がりですね」 劉の言葉にも反応しない。鏡弦を使用しつつ、相手の位置を大まかにでも把握していく。 崖下に居ることは知られている。曲射で届かないならまずは上から射ってくるはずだ。 同じ弓術師同士だからこそ予想できる流れ。明夜珠は、刹那の瞬間のために意識を集中する。 そして‥‥ 「無念だろうが、私にはこれしかお前を解放させる術がない‥‥許せ」 許せと呟いた直後に矢は放たれた。 『強射「朔月」』と『会』を組み合わせ、気力を振り絞った憐憫の一矢。 その矢が放たれるのと、幽志が顔を出し明夜珠に向けて矢を放ったのはほぼ同時。 明夜珠に放たれた矢は‥‥! 「間に合いましたね」 「まったく、無茶ですよー」 井伊と志藤が盾を重ね、防いでくれていた。 一方、顔面を射ぬかれた幽志は崖を転がり落ち、地面に激突する。 消滅する気配がないということはまだ動けるのだろう。止めを刺すのならば今か。 「どうぞ安らかに。‥‥おやすみなさい」 そうと思い立ったら劉の行動は速かった。他の幽志が居ないこともあり、一気に肉薄し刀で仕留める。 ゆっくりと消滅した弓術師。散々苦しめられた相手だが、不思議と怒りは湧かなかったという――― ●闇の中の闇 「‥‥罠の類は見受けられません。安全ですよ」 「あによこれ。天然の洞窟じゃないけど、人が作ったにしては雑ね?」 鴇ノ宮が夜光虫で洞窟の奥を照らし、劉が忍眼で罠の探知を行った。 どうやら普通に歩いて入れるようだ。少なくとも入ったら幽志の仲間入りというようなわけではないらしい。 中はゴツゴツとした岩肌が壁も天井も覆っており、きちんとした工事はされていない。 しかし何らかの手が入っているのは明らかである。 漆黒の肌寒い内部は、夜光虫およびランタンに照らされ少しだけ熱を持ったように見えたという。 「あぁ、地下ですか。だから瘴索結界も機能しなかったのかも知れません」 「そういえばその術は地下までは感知しないのでしたわね。今はいかがですの?」 「今はまだ‥‥」 鳳珠の言葉からも分かるように、洞窟は緩やかなカーブを何度も描き地下へ地下へと続いている。ジークリンデが解説してくれたが、瘴索結界も万能ではないのだ。 盾を構えて進む前衛の井伊と志藤も緊張が高まっていく。 今のところ分かれ道などは存在していないが‥‥? と、そんな時である。 「しっ。止まってください」 夜光虫に照らされた先に分かれ道が見える。 井伊は全員を一旦止め、慎重に進んでいく。 すると‥‥? 「落盤か。片方は塞がっているな」 「こんなこともあろうかと、強力を用意してきましたよ〜」 凄まじい力で岩を除去していく井伊。その作業に5分もかからなかった。 そして、夜光虫と井伊、志藤が先行した先には――― 「こ、これは‥‥!」 「なんということを‥‥」 「どうしたのよ!?」 「心臓の弱い方は来ないほうがいいですよ。夢に出かねません」 今更ではあるが、井伊がそこまで言うからにはとんでもない光景が広がっているのだろう。 恐る恐る、全員が広まった空間に足を踏み入れる。そこには‥‥! 「う‥‥ひ、酷い‥‥!」 「‥‥こんなのんびりは遠慮したいものですね‥‥」 「‥‥この鎧は例の騎士の幽志か。あちらは志士、あっちは魔術師‥‥おのれ、ふざけた真似を‥‥!」 そこは正に地獄絵図だった。 夜光虫とランタンの光に照らし出されたのは、何十という打ち捨てられた死体・死体・死体。 どれも完全に白骨化しており、装備も風化してボロボロ。それでも、どの遺体がどの幽志だったのか‥‥戦ってきた面々には想像がついた。 「あの奥の‥‥あれが、あの娘‥‥?」 鴇ノ宮は、奥まった方の壁にもたれかかるようになっている朱袴の白骨を見つける。 十一年の時を越え、繋がった刹那の絆。その巫女のなれの果てが、そこにあった。 ただ置いただけなのだろう。遺体を放置したときのずさんさが目に見えるようだった。 と、その巫女の亡骸の懐に丸めた紙のようなものが見て取れる。 鴇ノ宮はそれを回収し、遺体に優しく声をかけた。 「あなたの伝えたかったこと‥‥受け取るから」 風化してかなりボロボロになっているが、何かのヒントになるかも知れない。 暗いこともあってかすぐには読めない。帰ってから鑑定にでも回すしかないか。 「こんなの、人間のやることか‥‥! 全員、十一年前の行方不明者か!?」 「‥‥数が合います。恐らくそうなのでしょうね‥‥」 「では、外にいた以外の、ここにいらっしゃる方々の幽志も‥‥?」 ぽつり、と志藤が言った瞬間。 壁から白い鬼火のようなものが出現し、どんどんその数を増やしていく‥‥! 「こ、これは!?」 「ちっ! なぎ払ってくれる!」 「待って! ここじゃあの娘たちの遺体が壊れる! これ以上傷つけるのは止めてあげてよ‥‥!」 「くっ‥‥承知。俺もそれは望まん!」 オラースも魔法を控え、一旦後退する。 しかしそうすると狭い洞窟の途中で戦うしかない。武器は振れるが、動きはかなり制限される! 襲いかかってくる鬼火は、たまに人の顔のようなものを炎の中に揺らめかせるが‥‥? 「まさか、幽志の失敗作!?」 鴇ノ宮の言葉を肯定するかのように、鬼火たちは燃え盛りながら突っ込んでくる。 そして前衛の志藤の直前までやってきて‥‥自爆した。 「ぐぅぅっ!?」 「そ、そんな!? 命を、魂を使い捨ての武器みたいに‥‥うわっ!?」 壁をすり抜けてくる鬼火たちは、中衛や後衛にも余裕で攻撃を仕掛けてくる。 いや、攻撃ではないか。生あるものに近づき自爆するだけの存在。それが、この鬼火たち‥‥! 「閃癒が、間に合わない‥‥!」 「み、皆さん、耐えて、ください! 数は、無限では、ありません‥‥!」 狭い洞窟内で次々と起こる自爆劇。洞窟が崩落しないかも心配だが、一行は闇のなかで一気に生命力を削ぎ落とされていく! 前情報から考えれば鬼火は三十体近くいるはず。それを耐え切るまで、一行の体力が、鴇ノ宮と鳳珠の練力が保つかどうか‥‥! ‥‥‥‥ややあって、漆黒の闇に静寂が戻ってきた。 もう鬼火はいないのだろう。後には地面や壁に身体を預ける開拓者だけが残されていた。 「‥‥あ、アンタたち‥‥い、生きてる、でしょうね‥‥?」 「か‥‥必ず、治します‥‥から‥‥」 回復術が使える二人は、痛む体に鞭打って仲間を回復させていく。 おかげで練力はすっからかんになってしまったが、ほぼ完全回復まで持っていくことができたようだ。 流石に前衛の二人はそうもいかなかったようではあるが。 「幽志の次は自爆する霊だと‥‥!? くそ、どこまで私たちを馬鹿にするつもりだ!?」 「お気持ちは察しますが、ここは退いたほうがよろしいでしょう。回復役のお二人がもう術が使えない上、奥にまだ何か居る可能性もあります。仮にまた鬼火の大群に襲われたら、今度こそ私たちも死体となってしまいます」 ジークリンデの提案で、一行は退くことにした。 闇の中に広がった地獄絵図。そして、その中から見つけた死者のメッセージ。 崖崩れから始まったこの一件は、いよいよ最終段階へ入ったようである――― |