|
■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― パチンッ‥‥ 「話をしましょう。被害額は36万‥‥いえ、1万4千文でしたか‥‥。まぁいいです。私にとってはどちらも大金なんですが‥‥皆さんにとっては、多分‥‥はした金です。彼女には72通りの罪状がありますから、何で捜査すればいいのか‥‥。確か最初にやった罪は‥‥賽銭泥棒。そう、彼女は最初から盗人でした。真面目に働いていればねぇ‥‥まぁ、悪い人ですよ」 「長いわよ‥‥しかも何、その指パッチン」 ある日の開拓者ギルド。 職員の十七夜 亜理紗は、何故か指を鳴らしてからゆっくりと語りだしていた。 依頼の話を聞きに来た開拓者たちも何が起こっているのかさっぱりである。 どうやら何かに影響されたらしいが、とりあえず36万文は誰にとってもはした金ではあるまい。 一区切りついたところで先輩職員の西沢 一葉がツッコミを入れ、雰囲気はようやく普通に戻った。 「あは、すいません。最近腹筋が壊されっぱなしで」 「泥棒の話なのに?」 「お気になさらず。えっとですね、今回は石鏡にある結構大きな神社が依頼元なんです。場所や名前は、依頼を受けてくださった方だけにお伝えすることになります」 ギャラリーの中から機密性の高い依頼かと言う声が上がり、亜理紗は頷く。 石鏡で結構大きな神社となると面子もあろう。不名誉な件に名前はあまり出したくないようだ。 「まぁ実際にはその神社がどうこうってわけじゃないんです。その神社が、石鏡を荒らしまわる女怪盗のアジトにされている可能性があるという話なんですよ」 石鏡は比較的裕福な国と名高いが、それでも底辺の貧困層は絶えない。そんな人たちに盗んだ金を分け与える義賊を気取った女怪盗が暗躍しているのはあまり知られていない。 3年ほど前から石鏡のあちこちで被害が出ているが、取られた金持ちはバツが悪いか裏で何か悪いことでもしていたのか、あまり本気でこの女怪盗を捕らえようという話はされてこなかったのである。 しかしつい最近、その女怪盗が石鏡の神社に巫女として潜伏しているのではとの疑惑が浮上した‥‥というのだ。 「で、調査の結果、その大きな神社が怪しいと見られているわけです。何せ百人以上の巫女さんが常駐しているところですから。女怪盗をあぶり出し、取っ捕まえるのが皆さんのお仕事ですね。ただし‥‥」 一呼吸置いて、亜理紗は続ける。 「武器、防具の装備は禁止です。一般のお客さんもいっぱい来るところですし、神前ですので荒事はなるべく避けなければいけませんから。ちなみに夜でも絶賛営業中です」 巫女見習いとして潜入してもよく、その場合は巫女服の貸出もあるという。最終判断は開拓者任せだが。 義賊とはいえ泥棒は泥棒。そんな人物が巫女として神社にいるのは、まぁ不名誉といえば不名誉か。 いつもの装備が使えないのは厳しいが、ここは開拓者の知恵と力の見せどころである――― 「一応聞いておきましょう。そんな装備で大丈夫ですか―――?」 |
■参加者一覧
ロウザ(ia1065)
16歳・女・サ
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
乃々華(ia3009)
15歳・女・サ
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●巫女者代 「そんな装備で大丈夫ですかな?」 「そんな装備で大丈夫か? と言われても、一番いいのではいけないんだから仕方ない、わよね」 「一番いい巫女服を頼むぜ!」 「‥‥その手があったかぁ‥‥」 現地に到着した一行は、人知れず裏口から案内され、神主と打ち合わせを行った。 老人と言って差し支えない神主の言葉に煌夜(ia9065)は苦笑いを浮かべたが、自信満々に言ってのけたルーティア(ia8760)のセリフを聞いて天を仰いだ。 煌夜は自前で巫女服を用意してきたが、他のメンバー全員がそういう訳でもない。潜入捜査を主にすると決めた以上、巫女服を貸してもらうのは仕方あるまい。 「普段から巫女の仕事をしていてよかったというか‥‥意外なところで使えるものだ」 「わぁい☆ 私、巫女服を着てお仕事をするの、小さい頃から憧れてたんですぅ♪ ‥‥‥‥ふぅ‥‥巫女服なんて、とうに着飽きました」 「どっちなんですかい。ま、私はシノビとしてのお仕事に従事しますんで巫女服は遠慮しときますわ」 更衣室に移動し、各々着替える開拓者たち。 巫女服を着慣れているという紬 柳斎(ia1231)は他のメンバーの手伝いをしながら器用に着替える。 その際、スタイルのことでツッコミを入れてしまうのは親父気質があるからかもしれない。 最初こそはしゃいでいた(ように見えた)乃々華(ia3009)だったが、着て一分も経たないうちにため息混じりで飽きたと呟く。肌の露出が少なすぎてつまらないのだろうか。 とりあえずといった感じでツッコミを入れた風鬼(ia5399)。流石にシノビ流の諜報活動に巫女服は適さないので、彼女は普段どおりの服装で隠密活動するつもりらしい。 「準備はいいか? いつもの装備じゃないのは不安だけど‥‥まぁ、大丈夫だ、問題ない」 「わはは! ひと いっぱい! これ おまつり?」 「皆さん、羽目を外しすぎないようにお願いしますね。長丁場になるかもしれませんが頑張りましょう」 ブラッディ・D(ia6200)とロウザ(ia1065)も巫女服のレンタルを辞退したクチである。 ブラッディは神社周辺での警戒と囮、ロウザは天然キャラを活かした観光が任務だ。 後半は何か間違っているような気もするが大丈夫だ、問題ない。 レティシア(ib4475)は一番若いメンバーだが、なんだかんだと苦労しそうな予感がした。 「な、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」 と、何故かルーティアが素っ頓狂な声を上げる。 一番いい巫女服を頼んだ彼女に何が? と視線が集中する。 そこには、ミニスカート状態の朱袴とノースリーブの上着という改造巫女服に身を包んだルーティアの姿があった。 彼女の豊満な胸も手伝って、とても神職とは思えないお色気を振り撒いている。 手伝った紬は両手を上げて自分は関係ないと首を振るが、一応着たルーティアにも非はあろう。 「まぁ一般に流通してないという点では一番いい巫女服かも知れないな‥‥」 「単なるあのジジイの趣味じゃねーか! きちんとしたのに交換させるぜ!」 「あらもったいない。それはそれで注目されますよ?」 「されてどーすんだ! 目的忘れてないか!? そんなに着たきゃお前が着ろ!」 「そんな恥ずかしい格好、私には無理ですわ‥‥ぽっ」 「い・つ・も・の・か・っ・こ・う・は・な・ん・だ・固羅ッ!」 「ろうざ きるか?」 「うん、やめておきましょうねロウザちゃん。これ着てるとお客さんじゃなくなっちゃうから」 「なら いらない! ろうざ おみくじ やる!」 「あぁぁ‥‥皆さん、羽目を外しすぎないように‥‥」 「もう無茶苦茶ですな。レティシアさん、後はお任せしますんでなんとかしてくださいな」 「ちょっ、そんな!? どうしろって言うんですかぁぁぁ!?」 女三人寄れば姦しいと言うが、八人もいれば興が乗ったら止められるわけがない。 そそくさと出て行く風鬼にすがるような声を上げたレティシアだったが、彼女が騒ぎから開放されるのはもうしばらく後のことであった――― ●本題 件の神社には三桁にも及ぶ巫女が働いており、建物も寮もそれに見合った規模がある。 巫女というと女性というイメージが未だに強いが、三割は男性職員であり、開拓者たちは男性については容疑者から除外しているようだ。 一応顔くらいは確認したが、女と間違えられそうな顔・体格の男性巫女はいなかったから順当といえば順当である。 しかし残り七割が女性なわけで、年齢で除外しても五割は容疑者候補になってしまう。 開拓者たちは巫女見習いとして雑用をこなしつつ、先輩たちと交流しながら手がかりを集めていた。 「うー? おみくじ もう だめか?」 「おみくじってのは連続で引いちゃ駄目なんだよ。ありがたみがないだろ?」 「おみくじ いちにち いっかい! ろうざ おぼえた!」 「ンなことより馬の持ち主はわかったのかよ」 「もちぬし いない! おうまさん じんじゃの!」 「そんじゃ誰でも使えたってことか。ここから割り出すのも無理かな‥‥」 ロウザとルーティアは販売所から少し裏手に入り、こっそり情報共有をしていた。 大人数で集まると目立つので、こうして少しずつ調べたことを持ち寄っているのだが、どうにも犯人像が浮かんでこない。 ルーティアの提案で身元がはっきりしていたり家が裕福な人物も除外しようということになったが、それでも容疑者は三割を下回らない。 捨て子であったとか諸事情がってこちらに厄介になっているという者は意外と多いのだ。 「よっ。悪いけど水くれないか」 「ブラッディか。手水舎で適当に飲めばいいじゃん。‥‥で、そっちの首尾はどうよ?」 「どうもこうもないっての。噂を流した成果もあって俺を訝しげに思う奴は多いけど、それらしい奴は全然来ない。まぁ、そんな簡単に食いつく小物とも思えないけどさ」 「くいつく? ぶらっでぃ うまいのか?」 「さぁな。他の連中よりはまずいと思うけどな」 手をひらひらさせながらブラッディは手水舎の方へと歩いていく。 すでに滞在三日目だ。神社の施設は把握済みである。 「あ、ブラッディさん。調度良かった」 「噂の人物の登場ですな」 手水舎には他の参拝客がいたので、ブラッディは水をいただいてからすぐに物陰へ移動した。 レティシアと風鬼。レティシアが女性の巫女たちと仲良くなり、噂や物語を語って情報を引き出す係、風鬼がその話の後のオフレコ話を盗み聞きする係である。 噂のと言われてもレティシアが流したものだが、それが浸透したということなのだろう。風鬼も神社のあちこちで『最近、神社の近くに怪しい女がいる』という話を耳にしていた。 「こっちにはなんも変わりはないんだけど、そっちはどうなんだよ」 「皆怖がってしまってるようですなぁ。近づきたがらないんでしょうな」 「義賊の話と結びつけて考える人も多いみたいですが、義賊がうちの神社を狙うのか? と懐疑的な人も多いです。どこそこの町であくどい商人が、という話をしても反応は薄くて‥‥」 「仮に本物がこの話を聞いていたとして、ブラッディさんにちょっかいを掛ける旨みはないですわな。警戒はするかも分かりませんが」 長話はしたくない。風鬼もブラッディもそれぞれの行動に戻り、レティシアは社庭の掃除に赴く。 そろそろ枯葉も多くなる。参拝客が入ってこない奥まったほうだとしても放置はしておけないのだ。 すると、何やら騒がしい声がする。先客がいるようだが、その声には聞き覚えがあった。 「だから上着をはだけるな! 下に水着を着ていても破廉恥極まりない!」 「生地が厚くて、動くと意外と暑いんですもの。いいじゃありませんか、紬さんが男性だったら見物料をいただいているところですよ?」 「うむ、眼福は眼福だな。しかしそれとこれとは話が別だ。いいか、巫女が巫女服をはだけていいの以下の場合だけだ。一つ、風呂に入る時。二つ、就寝する時。三つ、‥‥す、好きな男と、床を共にするときだけだっ!」 「恥ずかしがるくらいなら最後は言わない方がよろしかったですね」 「五月蝿いぞ!」 「おの‥‥お二人ともすっかり目的を忘れていませんか?」 レティシアのツッコミでようやく落ち着く紬と乃々華。 遊んでいるようではあるが、こうやって場に馴染むのも潜入捜査には大事なことである(キリッ) 「とりあえず夜の間に動いてる人物は見受けられないな。もちろん、この広い建物や寮のことだ。すべてを把握しているわけではないが」 「あら、そんなことをなさってたんですの? 夜更かしはお肌に悪いですよ」 「ほほう。お前さんはどうしているのかな?」 「当然、夜は超熟睡です」 ごごごごごごごご! という擬音が聞こえそうなくらい空気が重くなる。 しかしそれは一瞬のことで、乃々華はさらっと続けた。 「でもですね、営業時間中に戻って来ない方がちらほらと。非番の時の行動は自由だそうですので、それだけで犯人とは言いがたいのですけれど」 「なるほど、昼間のうちから居なければ問題ないですもんね。では、年齢、家柄、身元の条件で除外していない人物は何人該当しますか?」 「そうですね‥‥九人、でしょうか」 「大分絞られたな。‥‥っと、すまない、レティシアさん、あとは頼めるか? 煌夜に呼ばれてるんだ」 その場の掃除を乃々華とレティシアに任せ、紬は本殿へと移動した。 そこには煌夜以外の誰もおらず、外の喧騒だけが聞こえている。今はお祓いの依頼などは入っていないらしい。 「あ、来た来た。乃々華さんの話は聞けた?」 「あぁ。どうやら九人まで絞れそうだぞ」 「結構減ったわね。その中にあの子がいたら‥‥」 「なんだ? 心当たりがあるのか?」 「うん、噂話の出所を探ってる子が一人。噂って普通、その内容が重要でしょ? でも、『誰から聞いたの?』って聞いてる子を見かけたのね。談笑しながらだったから、注意していないと普通は違和感に気付けないわよ」 「ふむ、面白いものだな。レティシアさんという噂の元があり、ブラッディさんという噂の具現と思わしきものがあり、ルーティアさんたちの調査が犯人を絞り込んでいく。バラバラなようで繋がっている」 「まぁ、逆に一人の行動が全体に悪影響を及ぼすこともあるけどね。問題は、その子が絞りこまれた九人の中にいたとして、その後。どうやって接するべきかしら‥‥」 捕まえると言っても証拠がない。今あるのは状況証拠に過ぎないのだ。 犯人と思わしき娘が物的証拠を持っていればいいが、そうでなければ釘を刺して終了するしかない。 一応、犯人を捕まえろという依頼ではないのでそれでもアリといえばアリなのだが。 と、その時である。 「誰だ!?」 紬が背後に何者かの気配を感じ、外に出て辺りを見回す。 参拝客の他に巫女もうろうろしている。例え誰かに聞かれていたとしてもこれでは分からない。 「風鬼さん‥‥じゃないわよね。しくじったかしら‥‥!」 「そうと決まったわけじゃない。それに、夜になっても全員集まれるとは限らなかったしな‥‥!」 辺りの気配には念入りに気を配っていたはずなのだが、相手の隠密行動技術はかなりのものらしい。 神社内での大捕物は出来れば避けたいが、今は煌夜が怪しいと見た娘の所在を確認するのが先決か。 しかし人手が足りない。この広い境内で、人ごみの中のたった一人を探しだせというのは難しい。 寮に戻ったか? それともそのまま逃走したか? どちらにせよ、この神社でその娘の姿を見ることはなかったという――― ●意外 その娘は、取るものも取り敢えず馬舎にやってきていた。 最近、神社内で義賊の話が突然増えたことで、新入りの見習いたちを警戒してはいたのだ。 加えて神社近くの妙な女の話。特定こそされていないがこの神社が怪しまれているのは明らかだった。 容疑者は大分絞られてしまったようだし、その中に自分も入っていた。別に愛着があったわけでもない。すぐにでもここを離れるべきだ。 そして、馬を一頭連れ出そうとした時である。 「おぉ? おうまさん つれてくか?」 頭上から聞こえてきた声に、思わずぎょっとする。 すると天井の梁の上に、2メートルはあろうかという大きな身長の若い女が寝そべっていた。 こんなところに開拓者がいると思わなかったのだろう。一瞬表情を崩したが、すぐに平静を装う。 「はい、別の神社から道具を借りてきてくれと言われまして。おつかいですよ」 「おつかい たいへん! がんばれ!」 「ありがとうございます。あなたも、あまりそんなところに居ない方がいいですよ? 見つかったら泥棒さんと間違われちゃいます」 「ろうざ どろぼー ちがう! でも うたがわれる いやだ!」 「そうですよね。それじゃあ帰ってきたら私がみんなに話してあげますから、とりあえずおつかいに行かせてくださいね」 「おー! いいひと! おまえ なまえは?」 「‥‥榎久(えのく)です。あなたは?」 「ろうざ は ろうざ!」 「ロウザちゃん。それじゃ、また会いましょう。‥‥できれば遠慮したいですけどね」 「おー! おー?」 最後の方は聞き取れないような小声だった。 巫女服に身を包んだ黒髪セミロングの娘は、器用に馬を操り神社の裏手から出て行ったという。 顔を覚えられてしまっただろう。これからやりにくくなるかも知れない。 神社はこの娘の記録を抹消し、何事もなかったかのように今日も喧騒の中にある――― |