|
■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「はい、お久しぶりです。新種のアヤカシあるところにアヤカシハンターあり‥‥ということで例の依頼ですよー」 ある日の開拓者ギルド。 職員の十七夜 亜理紗が手にした依頼書は、新種・亜種のアヤカシ退治を専門に扱う主旨のものであり、これまでにも妙ちくりんなアヤカシとの激闘が繰り広げられてきた。 昆虫型、獣型、鳥型、人型。果ては幽霊型やゾンビ型など、アヤカシの種類は多岐に渡る。 一般にも知られ数の多いタイプならまだしも、まだ数が少なかったり新種だったりすると熟練の開拓者であっても対応に苦労するものなのだ。 そういった新種・亜種などを専門にするのがこのアヤカシハンターという依頼群である。 「もうそろそろハンターがいっぱい増えそうですが、今この瞬間にもアヤカシは発生し続けています。常に戦っているよく訓練された皆さんなら、どんなアヤカシが出てきても大丈夫であると私は信仰しています♪」 よく分からない理屈を吐きながら、亜理紗は依頼書を開いてみせた。 そこには、『六本の角を撃破せよ』という文字が。 「えっとですね‥‥石鏡の国の中央あたりって広い平原になっているのはご存知ですか? その大草原の一部分に、3体の馬みたいなアヤカシが発生したようなんですね」 その3体が馬と違うのは、それぞれ一本、二本、三本の角を生やしていることに尽きる。 ジルベリアから来た目撃者は、ユニコーン、バイコーン、トライコーンと呼称していたようだが、アヤカシには違いないためロマンチックな展開は期待できないだろう。 性格はどれも獰猛で、角を構え獲物を突き殺して喰らおうと突進してくるらしい。 その速度は馬以上。また、スタートダッシュというか初速も馬をはるかに凌駕するという。 「しかも、どれも雷を操る事ができるみたいなんですよ。角から電撃を発射したり、電撃を纏って突進してきたり。耐久力はそこまで高くないと思いますが、スピードと電撃に要注意ですよっ」 3体仲良く群生しているという馬のようなアヤカシ。速いこれらに対し、どう対処するのだろうか。 石鏡の平原にて‥‥狩猟、解禁――― |
■参加者一覧
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●白馬と踊れ 石鏡の国は気候風土に恵まれた国である。そしてその中央部は広大な平原や草原が広がっており、牧畜なども行われているという。 その一部‥‥正確には左側辺りになるが、そこに出現した新種のアヤカシを狩猟するため、開拓者は数多くの草を踏み越え現場に到着した。 見渡す限りの大草原。遮蔽物が全くないここは、敵も味方も見通しが良すぎるレベルである。 探し始めてわずか三十分ほどで目標のアヤカシは発見された。 白い三頭の馬。しかしそれは頭部に角を生やしており、遠目から見てもただの馬でないことは容易に判別できたのだった。 呑気に草を食むアヤカシ。しかしその身体は、ところどころ拭いがたき赤に染まっている。 「‥‥犠牲者が出てるということですよね。どうものんびりしている暇はなさそうです」 「風がいい具合に吹いてるのだよ。風上だから察知もされにくいんじゃないかな」 「弓でもブレずに矢を放てそうです。機運は味方してくれていますね」 一番にアヤカシを発見したのは雪切・透夜(ib0135)である。そして、体色により誰かが喰われてしまったのだろうということも。 それは人間ではないのかも知れない。だが、例え牧畜の動物だったとしても被害者にはとんだとばっちりであることに違いはないのだ。 迅速に排除しなければならない。そう確信した一行は素早く準備に入り、叢雲 怜(ib5488)とコルリス・フェネストラ(ia9657)による遠距離攻撃を待つ。 この二人の攻撃でアヤカシを引き寄せ、前衛六人が寄ってきた相手を倒す‥‥という流れだ。 アヤカシはまだこちらに気づいていない。コルリスの弓はとっくに射程内だが、叢雲のマスケットはまだ射程内ではないのでもう少し近づかなければならないだろう。今回は射程を重視した銃を用意したほうがよかったかも知れない。 とはいえ、射程ギリギリまで進んでも向こうは気付く気配がない。全員姿勢を低くしているからなのだろうか? それとも‥‥ コルリスと叢雲、二人が射撃体勢に入り身を高くした瞬間。 「やっば、気付かれた! 撃て! もう撃っちまえ!」 「くっ!」 「‥‥失敗でしたね」 ブラッディ・D(ia6200)に言われるまでもなく、二人は同時にこちらを睨みつけたアヤカシたちと視線を交わしている。 このまま突っ込まれれば後衛組の二人は危ない。特に砲術士でありまだまだ未熟な叢雲は即死につながる。 真っ直ぐ突っ込んでくるユニコーン、バイコーン、トライコーン(全て仮称)。 それに対し、銃と弓が唸りを上げて肉薄する‥‥! 一番近かったバイコーンを狙ったコルリスの矢は、アヤカシの鼻先に直撃した。 激しく暴れ、突撃を中断するバイコーン。しかし叢雲の放った弾丸は、ジグザグにぴょんぴょん跳ぶユニコーンに回避されてしまう! 「はいはい〜、コルリスさんと怜さんは下がってね。あとはお姉さんたちの出番よ」 「八部衆にも役割は重要です。接近戦はお任せください!」 「自分たちをずいぶん大きく例えたな」 「な、なんとなく言ってみただけです。深い意味はありません」 「門がないのが残念だ」 嵩山 薫(ia1747)はおっとりとしながらも優雅な仕草で後衛組を下がらせ、自身は前に出る。 志藤 久遠(ia0597)と琥龍 蒼羅(ib0214)もそれに続いて前に出ていく。 「お二人は機会があれば援護をしてください。なるべく通さないようにしますが、危険だと判断したら各自緊急回避をお願いしますね!」 できれば一斉に突撃されるのは避けたかったが、今更言っても仕方ない。 真亡・雫(ia0432)も直ぐに頭を切り替え、後衛二人組に指示を出す。 恐らく乱戦状態になる。味方に後ろからズドンでは困るのだ。 開拓者たちは素早く陣形を立て直し、事前の作戦通りに戦うと決めた相手に向かっていく。即ち――― 志藤とブラッディがトライコーンに。 雪切と真亡がバイコーンに。 嵩山と琥龍がユニコーンに当たり、撃破を目指す。 「角が1本だろうが何本だろうが、狩られるのは変わらないってな!」 「これも、ジルべリアでいうフォア・ザ・チーム、皆の勝利の布石なれば!」 どうやらブラッディと志藤には日頃から付き合いがあるようで、そのコンビネーションは即席のものではなかった。 ブラッディが百虎箭疾歩で脚を攻撃すれば、志藤は五月雨で角をへし折りにいく。 しかしトライコーンの身体は外見からは想像できないくらい硬く、ブラッディの剣+拳の攻撃が思ったよりも効果を発揮しない。 逆に目立つ角はそうでもないのか、志藤の攻撃に対し慌てて受け行動を取るトライコーン。 角を斬られるのは避けたいらしく、なんとか一撃目は弾いたが‥‥! 「もう一撃!」 五月雨は二回攻撃をする技である。二度目の攻撃は三本角の右側を切り落とし、トライコーンは慌てて走りだす。 「くっそぉ、やっぱ速ぇなぁ。久遠ねぇ、俺が瞬脚で追うぜ!」 「いえ、待ってください。‥‥来ます!」 逃げ出したのかと思われたトライコーンは、反転し全身に電撃をまといながら突っ込んでくる。 晴天の草原に降り注ぐ青白い雷。それはトライコーンの軌跡とともに移動する‥‥! 「うわっと!? 面倒な奴だ‥‥! 久遠ねぇ、ダイレクトアタックできないのかよ!?」 「私の武器は薙刀なもので‥‥。しかし、手はあります」 一旦回避した二人であったが、志藤は武器を構えたまま薙刀を構え、足をとめる。 それを見逃すバイコーンではなく、再び電撃を纏って志藤を貫こうと試みる‥‥! 「久遠ねぇ!?」 「ぐぅぅぅっ!」 武器と角が激突し、志藤が大きく後退させられる。 相手は電撃をまとっているので、ダメージは甚大‥‥と思われたが? 「今です! 援護を!」 「銃は角よりも強し‥‥なんてね!」 「お任せを。朧!」 志藤は苦心石灰を使い、元々高かった抵抗力をさらに上昇させていた。 それより電撃のダメージを抑え、相手の動きを止めて叢雲とコルリスに撃たせたのである。 無謀に見えて、かなり計算されていた‥‥ということか。 「さっすがだぜ、久遠ねぇ! 濡れるッ!」 「い、意味がわかりませんよ!」 命中精度は低いが威力は高い叢雲の一撃。そして、朧月と鷲の目を加えた正確無比な一矢で目を射抜かれ、トライコーンはその場で暴れだす。 しかし、その隙をブラッディは逃がさない。瞬脚で一気に加速し、角を狙って百虎箭疾歩を突き出す! 残りの二本の角を叩き折られ、ゆっくりと地面に倒れ伏すトライコーン。 もう動けはしないだろう。特別報酬が出ないのは残念である。 さて、少し時を戻しバイコーンに当たっていた雪切と真亡に視点を移そう。 この二人もよく知った仲であり、その動きには無駄がない。 「盾、か。騎士には御誂え向きですね。しっかりこなしますよ」 「なら僕は矛かな。お互いぶつからないようにしないとね!」 バイコーンはどちらかというと電撃を主体に戦うタイプのようで、二本の角から雷光を発射して雪切と真亡を狙撃する。 まぁ、その鼻先にコルリスの放った矢が刺さっているのが笑えるといえば笑えるが。 「ぐっ‥‥! す、すいません雫くん! あまり保ちそうにありません‥‥!」 「透夜くん! 急がないといけないのに‥‥!」 一定の距離を保ち、角から電撃を発射し続けるバイコーン。 雪切が大剣でガードしているが、そろそろ手が痺れてきている。 身体に何度も電撃を通せば当たり前のことではあるが、オーラだけでは威力の差をまかないきれない。 白梅香も使える真亡なら、恐らく近づければバイコーンを倒すことは難しくあるまい。しかし、雪切の後から出た瞬間に狙い撃ちされるのは目に見えている。 手詰まりか。そう、二人が思っていた時である。 ズドン! という大音響が響き、続いてチュインという小さな音。 どうやら叢雲の攻撃のようであるが、バイコーンは危険を察知し回避している。 「ちょろちょろ動かないで欲しいのです!」 フェイントショットを混ぜても回避されてしまう。バイコーンが完全に止まっていないと当てるのは厳しいか。 すると、バイコーンはくるりと向きを変え、後衛二人組の方へ角を向けた。 その角に今までにない規模の電撃が集中し、一つの光球のようになっていく‥‥! 「まずい! で、でも、足が‥‥!」 すでに雪切の足は麻痺しており、思うように動いてくれない。 このままではコルリスと叢雲が危ない! そう、思った時だ。 「間に合えぇぇぇッ!」 雪切の横を真亡が駆け抜けていく。 今まで雪切に守ってもらい、後衛組に隙を作ってもらったのだ。ここでやれなければ男が廃る! 直径一メートルほどに成長した雷球を発射すべく、バイコーンが前足を上げた! そこにッ! 「いけぇぇぇッ!」 紅椿と白梅香を同時使用し、バイコーンの右側の角を攻撃する真亡。 手応えあり。見れば、バイコーンの角は回転しながら空中に高く舞い上がっている! 「やった! これで‥‥ッ!?」 その時、耳をつんざくような音が響き辺りが閃光に包まれた。 どうやら電流のバランスが崩れ、バイコーンが準備していた雷球が爆発したようだ。 バイコーン自身もそれに巻き込まれ、慌てて明後日の方向に走り去ってしまった。 そのスピードには追いつきようがない。角を片方折ったとはいえ、残念である。 一方、こちらはユニコーン担当の琥龍と嵩山の二人組である。 バランスのトライコーン、電撃のバイコーンとするなら、ユニコーンは格闘戦に長けたタイプと言えた。 それも機動力を活かした格闘戦であり、歴戦の開拓者である嵩山も琥龍も予想外に苦戦中だ。 「くっ‥‥あの雷を纏ったジグザグ走行はなんとかならないのか‥‥」 「うーん、横に回り込んでも、それを予想したかのように上手く離脱するのよねぇ。多分天性のセンスの良さがあるんじゃないかしら」 カウンター攻撃を決めたい琥龍だが、避けにくいステップを多用して体当たりし、電撃の追加効果を狙うユニコーンには手裏剣や苦無を当てるだけでも一苦労である。 また、当てても効いているのかいないのかわかりにくい。明確にひるむ様子がないのだ。 当たれば大ダメージは必死であろう嵩山の絶破昇竜脚。嵩山自身、それを狙い幾度も脚部に赤い雷光を迸らせてはいるものの、ジグザグステップ→直進など動きをランダムに変えまくるユニコーンには歯がゆい思いをしている。 「向こうは体当たりをするだけでダメージというのが卑怯だな」 「アヤカシなんていうのは理不尽なものよ。さて、どうしたものかしら‥‥」 回避行動を続けると言っても体力には限界がある。それに、琥龍は嵩山ほど回避が上手くない。 時間が経てばダメージが増えるだけ。かと言って他のメンバーもこの時点では戦闘中である。 と、そこに。 「援護いたします。朧!」 コルリスがこちらの援護に回ってくれるようだ。 彼女の矢は恐ろしく正確だが、威力は足りない。そこを知覚攻撃として補うのだ。さしものユニコーンもこれには注意を割かざるをえない。 更に‥‥! 「ならば獅子王の力を見せてやろう」 装備を太刀に変更し、ユニコーンに向かって駆け出す琥龍。 これなら当たればそこそこダメージが通るだろう。追い込むようなコルリスの射撃に合わせた攻撃が、ユニコーンを狙う! しかしまたしても嫌な予感を感じたのか、振り下ろされた太刀を角で受ける。 こいつは角が弱点ではないらしく、太刀を完全に防いでいる‥‥が。 「うん、いい感じ。二段構えの囮ね」 ひゅん、という風切音を残り、ユニコーンの前に姿を表す嵩山。 琥龍もユニコーンの勘がいいことは認めている。だから攻撃が素直に通るとは思っていなかった。 その代わり、自分がコルリスと合わせて二重に気を引けば嵩山が何とかしてくれると信じていたのだ。 そして彼女はその期待に答え、瞬脚から絶破昇竜脚を発動。 真紅の雷光をまとった後ろ回し蹴り。踵の部分がユニコーンの顎に直撃し、粉砕する。 流石のユニコーンもこれには怯む。慌てて離脱しようとするが、足が笑っているのか先程までのスピードが影も形もない。 「さて‥‥ここまでか。手を焼かせてくれた」 琥龍は逃げようとするユニコーンの前に立ちはだかり、太刀を鞘に収めて構える。 それでも突破しようと角を振りかぶり、突き出したアヤカシだったが‥‥ 「この距離は‥‥、俺の間合いだ。見切り、断ち斬る‥‥。抜刀両断」 交差する角と太刀。カウンターであるその剣閃が通った後、ユニコーンはその場に崩れた。 まだ消滅こそしていないが、止めを刺すのは容易だろう。 結局、相性が悪かったバイコーンは逃がしてしまったが、ユニコーンとトライコーンの撃破に成功した。依頼は成功と言っていいだろう。 逃げたバイコーンは石鏡の役人が追うとのことだし、充分と言える。 仲良く発生した白馬のようなアヤカシより、開拓者のチームワークと地力が勝ったということである――― |