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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― セブンアームズ(以下SA)。主に石鏡の国で活動する七体の人型アヤカシである。 それぞれ得意とする武器を用い、人と変わらぬ容姿と知恵を合わせ持った強敵。そしてどこかやりにくい相手。しかし今はメンバーの二人を失い、五人構成となっている。 リーダー格を最初に失った彼らは、どんな行動に出るか分からない。かと言って倒せるときに倒しておかなければ、ずるずると決着が先延ばしになり一般人に被害が出続けるだろう。 前回、とある町の橋の上で悩み続けるSAの一人、リュミエールと話をした開拓者たち。彼女は『アヤカシであること』と『SAであること』の間で悩み、何が正しいのかわからなくなってしまったのだという。 リュミエールがどういう答えを出すにしろ、開拓者は助言しか出来ない。決めるのは人間に限らず、いつでもどんな存在でも自分自身にほかならないのだから。 親切にしてもらって嬉しいと微笑み、土産として手渡されたぬいぐるみを抱いて帰っていった少女。 贈った開拓者も分かってはいるはずなのだ。いずれは倒さなくてはいけない相手なのだ、と。 しかし、狩り宣言を出すと言っていた割にまたしばらく音沙汰が無いのはどういうことだろうか。関係者各位が気を揉んでいた、そんな時だ。 「別にお正月だから空気を読んでいたというわけでも無いでしょうけど‥‥SAから狩り宣言の予告が出されました。出されたんですが‥‥妙な注文がくっついてます」 SAの件を任されている開拓者ギルドの職員、十七夜 亜理紗。依頼書を微妙な表情で見つめながら、言葉を続ける。 「えっとですね‥‥『この間リュミエールと話したという橋に来い』っていう要求が来てるんです。伝言を頼まれた人の話では、『まったく、リュミエールに何を吹き込んだのじゃ‥‥!』っていう独り言を言ってたとか」 話から察するに、開拓者たちと話したことでリュミエールが何かしらの答えを導き出し、実行に移したというところか。 仲間の反応から察するに、それはSAにとってあまり気持ちのいい決断ではないらしい。 「とにかく、狩り宣言ということは下手を打つと死人が出てしまうということですので、気持ちを切り替えてお願いします。あと、『これからは本気で狩りにいく。殺せる場合は容赦なく殺す』という発言もあったそうなので、今まで以上に注意をしてください。‥‥例えSAを倒せても、皆さんに犠牲者が出たら意味ないんですからね?」 揺れていたリュミエールの出した結論とは? そして、わざわざ呼び出しをした理由とは? まずはこの呼び出しを受けるかどうかを決めることから、物語は続いていく――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
无(ib1198)
18歳・男・陰
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●にゃあ 「来たわよ、キュリテ! お望みどおりにね!」 「それは結構! しかし遠いわ! もっと近くに来てから言えばよかろう!」 石鏡西部、件の町。前回も来た町であり、橋であるので迷うことはなかった。 橋の上に黒いマントを羽織った人物が三人いるのを確認した煌夜(ia9065)は、奇襲の可能性ありと見て百メートルほど離れた場所から橋に向かって呼びかけたのだ。 黒マントの一人がフードを取り、素顔を晒す。 銀色で、髪型はボブ。真紅の瞳は少しキツそうな印象だが充分美少女と呼べる彼女は、開拓者に呼び出しをかけた張本人、操球のキュリテである。 「向こうの人数もたりませんね。まずは合図を送ることにしましょう」 「何にせよ今は話を聞きに行くしかあるまい。ここで誰かが転進は無用な騒動の火種になる」 小振りなメガネの位置を直しつつ、无(ib1198)は狼煙銃を放ち空へと光弾を打ち上げる。 昼間なので明るいのがネックだ。別働隊にきちんと見えただろうか? 兎に角、アッシュ・クライン(ib0456)の言うとおりだ。一行は周辺に気を払いつつも移動し、橋の真ん中まで進んだ。 そこにはキュリテが腕組みをして待ち構えており、その後ろにはフードを被ったままのセブンアームズ(以下SA)が二人控えている。 「ふん‥‥世界の歪みは正さんとな。俺の主張はブレ―――」 「ヤッホ〜、元気してたかァ?」 「てめぇ、いきなり雰囲気ブチ壊して楽しいか? あ?」 「シラネ。つーか見廻組に行ってやれよ、人数足りてねぇんだし希望出してなかったんだしよォ」 まみえるなりいきなり凄んだ巴 渓(ia1334)だったが、横から無防備に歩み寄る鷲尾天斗(ia0371)に調子を崩された。 SAの案件に時間がかかりすぎていることは確かだし、憂う気持ちは分かる。しかし鷲尾にも考えはあるのだろうから今は煌夜のガードに徹してもらおう。 「内輪もめは後にせい。話というのは他でもない―――」 一つため息を吐いた後、キュリテは後に控えていた黒マント一人の首根っこを掴み、開拓者たちに向かって突き出した。 まるで猫を掴むような扱いで襟を持たれ、フードがずり落ちリュミエールの顔があらわになる。 「に、にゃあ。ど、どうもッス‥‥」 「ちょっとちょっと、ずいぶんな扱いじゃないの。彼女がどうしたの?」 「どうもこうもあるか。こやつ、『もう人間は食べないッス』などと抜かしだしおったのじゃ。おぬしらが何か吹き込んだのであろうが!」 「ご、誤解ッスよキュリテ。自分は―――」 「おぬしは黙っとれ!」 「特別なことは何も。どのような想いを持っているか、事実を知りたかったし、迷いが晴れればと話しただけですよ」 煌夜や无に限らず、リュミエールが何かしら考え方を変えたのではとの予想は少なからずあった。 故に開拓者たちはそんなに驚かなかったし、動揺せず返答ができたのだが。 「よいか、わらわたちアヤカシにとって人間は米やパンに等しい。口にしなくとも死にはせぬが、主食を欠いたバランスの悪い食生活を続ければどうなるかくらい想像ができよう。間食だけで生きて行くのは辛く苦しいのじゃ!」 「‥‥そこまでの覚悟を決めたということだろう。自由を愛するのではなかったのか、SAは」 アッシュにリュミエールを擁護するつもりはない。しかし、どういう内容であれ決断したことはしたことである。 もう命を奪わないと決断したのなら、それは尊重され――― 「あ、申し訳ないッス。自分、狩りは止めないッスよ?」 『は?』 アッシュの表情から考えを想像したリュミエールは、苦笑いしながらもキッパリ言った。 キュリテも含め彼女以外の全員が同時にポカンとなる。 「自分はもう人間は食べないッス。でも、自分の分も他のSAの皆が食べられるよう努力するッス。それならSAとしての矜持にも反しないし、アヤカシとしての存在意義も維持できるッスよ」 「あ‥‥アホかぁぁぁっ!? 腹を空かせておる仲間の横で喰う飯が美味いとでも思うてか!? いいから喰え! 大人しく喰え!」 「い、嫌ッス〜〜〜!」 「はっ、とんだ茶番だな。結果的に何も変わらない。カードとしてくらい使えるかと思ったが、なんてことはない。所詮お前も抹殺対象だしな!」 いい加減我慢の限界だったのか、巴が瞬脚でキュリテの側面に回る。 キュリテも何も知らず開拓者を呼びつけたのだろう。あれが演技なら役者になれる。 どちらにせよ、巴がその拳を叩き込もうとした瞬間‥‥背筋に冷たいものを感じ飛び退く! しかし回避しきれず、脇腹を斬られた。巴の行動は予測されていたということか。 「ちっ、惜しい。まぁいいや、どっちみち同じことだ」 武器ですでに分かったが、フードを取り三人目のSAが改めて正体を表す。 覇剣のジーク。何やらフードを取った瞬間身体の縮尺がさっきと違うように見えるが気にしないでおこう。 「‥‥どういう意味?」 「分かってるんだろ? お前たちにしちゃ数が少なすぎる。開拓者が動くときは最低八人から十人くらいはいる。いい加減学習するさ」 「まァ、俺的には街の人間はどーでもイイ訳だがよォ、狩りの宣言が始まってんだろォ? コッチも仕事だからそれなりの準備はするさァね」 「いいさ、それも想定の範囲内だ。お前たちはこっちに来た時点でアウトなんだからな」 「どういう意味じゃ?」 奇しくも煌夜と同じ言葉で疑問を投げかけるキュリテ。 それで煌夜は理解する。ジークはリュミエールの本音を知った上でキュリテを炊きつけ、自分たちを呼び餌にした。そしてその上で‥‥! 「しまった! やっぱり囮‥‥!」 「この場に居ないメンバーはダシオンとシエル。両方狩り向きなのがまたなんとも‥‥!」 无もすぐに理解するが時すでに遅し。町に見回りで三人が散っているとは言え‥‥! 「そう‥‥正義の味方はいつだって手が足りない。‥‥だろ? クレル」 「ちっ。ならば貴様達をなぎ倒して合流するまでだ」 「背を向けないだけおりこうさんだが、逃がすと思うのかよ。あわよくば死んでもらうぜ、面倒だがな」 「クレル‥‥逝ったあとも、こんなにもSAに影響を与えられるのね‥‥!」 一気に場が緊迫し、全員が戦闘態勢に入る。 SAにとっては町の人間だろうと開拓者だろうと一人でも狩れれば目的は達成できる。ならばこの場は時間稼ぎして他の二人が狩ってきてくれるのを待つのが賢明。 全員で町に散るべきだったか。いや、それでも手は足りない。 むしろ全員で橋に来ていたのなら、この場の一人くらいは倒せただろうに‥‥! 「お前さァ、『殺していいのは殺される覚悟がある者だけ』って言ったろ? だから此処で教えるよ」 不意に、鷲尾が狂眼を向けキュリテに告げる。 「クランの命を狩ったのは俺だ。やっぱそこら辺はちゃんとしねェとなァ」 「っ! ‥‥よかろう。敵が増えただけのこと。全員叩き潰せば結果は同じよ!」 乗ってこない。一瞬ボルテージを上げたが、すぐに思い直した。 クランのように冷静さを失わないのが、開拓者にとって厄介だ。 「行くッス! SAとしての自分、アヤカシとしての自分、自分としての自分のために!」 この時、開拓者の誰もが確信じみていたものを持っていた。 例え勝利したとしても、人命の犠牲は免れないと――― ●不足 无が放った狼煙銃の光は、町の見廻組もきちんと確認していた。 しかし、その色は赤。橋に現れたのは5体未満という合図でもある。 村規模ならともかく、町規模となると三人では到底カバーしきれない。かと言ってバラバラになれば開拓者から犠牲を出しかねないのも事実。 正義の味方は常に人手が足りていない。まさかそんな台詞を吐かれているとも知らず、見廻組は警戒を強める。 ‥‥が。 「ちょっ、ちょっ、なんでみんな普通に出歩いてるのだよ! SAが狩りを始めたって通告したのだぜ!?」 「避難所の製作や補強も行われていないようですが‥‥仕方ありません。町規模ともなると、一日でも機能を止めると損失が大きいですので」 「くっ‥‥呑気な。自分だけは襲われないと思っているんですか‥‥!」 叢雲 怜(ib5488)、レネネト(ib0260)、トカキ=ウィンメルト(ib0323)の三名が町を見回りSAに対処する役目を負っているのだが、事前通告をしたにもかかわらずかなりに人間が出歩いているし商店も営業中である。 SAの狩りは一日では終わらない。不確定に何日も家に篭ったり営業停止していられるかというのもあるだろうが、そうでなくとも旅人などが普通に行き来するのである。 これでも普段より人気はかなり少ない。それでも、出歩かれるだけ被害確率が増加し手の差し伸べようがなくなるのだ。 狼煙銃の色で町をSAが移動している可能性が高まったというのに‥‥人は、一度痛い目をみないとわからないのだろうか。 「怪の遠吠え、やってみましょうか?」 「駄目ですよ、開拓者がいると教えるようなものです。音源から遠ざかって人を襲われては目も当てられません」 「じ、じゃあどうするのだぜ? こんな広い町じゃ探せないよ!」 本気で狩りをすると言った以上、わざと姿を表す可能性は低い。開拓者を避けても獲物はいくらでもいるわけで、隠れてそれを取っ捕まえればいい。 しかも遭遇したら遭遇したで困る。巴がこちらに来ていないということは見廻組に前衛担当が居ないということであり、仮に瞬鎚のシエルが相手となれば死人が出ないほうがおかしい。 苦虫を噛み潰したような表情をする三人。その時、右手に方にある細い路地で悲鳴と共に何かが倒れたような音がする。 どさりという感じの音。少なくともすぐには動けなさそうな気配だ。 「‥‥行く‥‥んですよね?」 「こうなったら破れかぶれなのだよ! もう何も怖くない!」 「いや、マスケット銃を持ってその台詞は危ないのでは‥‥」 三人は覚悟を決め、路地に侵入する。 慎重に気配を探りつつ角から先を見ると、一人の青年が両足から血を流して倒れているのが見て取れた。 青年以外には誰もいない。傷の原因は何だ‥‥? その時。 「フッ‥‥他愛もない。狩りに専念すればこんなものですか」 屋根の上から男の声。わかめのような髪型にメガネ。SAの一人、零弓のダシオンだ。 彼が矢を射かけ、青年の両足を射抜いた。後は担いで連れ去れば狩り終了というわけか。 できれば今すぐにでも飛び出したいが、ダシオンは弓使いにも関わらず接近戦もこなす筋肉馬鹿である。現状の戦力では恐らく厳しい。 SAは生きたまま人間を連れ去る必要があるため、まだ青年は殺されないだろう。ならば青年を運ぼうとする時が唯一のチャンスか。 叢雲の銃には予め弾が込められている。音もなく狙いを定め、その隙を待つ‥‥! 「‥‥‥‥フッ」 突如、ダシオンが跳躍する。 空中で姿勢を変え、民家の壁を蹴ってこちらに突っ込んでくる! 「気づかれてた!? このぉっ!」 弐式強弾撃を放つが、弓で弾かれてしまう。 代わりに弓も砕けたが、SAの場合すぐに再生成が可能だ‥‥! 「させません!」 レネネトが重力の爆音を使用し、ダシオンを弾き飛ばす。 ダメージそのものはマントに防がれているが、押さえつけは有効である。眠るか分からない夜の子守唄よりはこの場合確実だろう。 「まさか出くわしてしまうとは、私も運がない。クレルさんの敵も居ないようですしね。‥‥最早続けますかとは聞きません。死んでいただきましょう」 言うが早いか矢を射かけてくるダシオン。 番えるのが速い上に一気に二本発射し、レネネトと叢雲を貫いた。 二人は後衛。一撃が致命傷になるのは本人たちも重々承知だ‥‥! 「‥‥おや、あなたは見たことがないですね。どなたです?」 「‥‥一応名乗っておきますね、魔術師のトカキです。もう会いたくは無いですけどね‥‥」 「大丈夫です。あなたも餌になるのですから」 そう言って、ダシオンは地面に倒れ伏した叢雲の首根っこを掴んで持ち上げる。 「が、はっ‥‥! や、やめ‥‥!」 そして、真正面から顔を見たまま口を開け――― 「傷つき疲弊するものに加護を与えたまえ‥‥プリスター」 「っ!」 キン、カシンッ、ガゥンッ!! 流れるような一連の音と共に、叢雲のマスケットから銃弾が発射される。 トカキの術で傷を癒された叢雲は、単動作で瞬時に弾を装填しダシオンの腹に叩き込んだのである。 魔術師と聞いて攻撃魔法しか警戒しなかったのか。それとも叢雲の銃は装填に時間がかかると思ったのか。あるいはその両方か‥‥! 「くっ‥‥私の肉体美がなければ危なかったですね。しかし、狼狽え弾などでは―――」 「紅き裁きを‥‥エルファイヤー」 言い終わらないうちにトカキの術が炸裂する。 できれば細い路地で火柱を立てるこの術を使うのは遠慮したかったが、そうも言っていられない。 巻き起こる火柱。しかしダシオンはそれを平然と抜け出し、青年を拾って跳躍する! 「またマントで!? いやはや‥‥これはきついですね」 「覚えておきますよ、お三方。私の肉体美を傷つけたことをいずれ後悔させてあげます。とりあえずは無力感に苛まれていただきましょう」 「く、くそう! 待て! 待つのだよ!」 屋根から屋根に器用に飛び移り、あっという間に姿を消すダシオン。 追うことは不可能。トカキはレネネトの傷を癒しつつ歯噛みする。 後に、もう一人町から行方不明者が出たことが知らされた。恐らくシエルも動いていたのだろう。 橋の方は痛み分けに終わったようだが‥‥狩りを成立させてしまった以上、負けに等しいか――― |