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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― セブンアームズ(以下SA)。主に石鏡の国で活動する七体の人型アヤカシである。 それぞれ得意とする武器を用い、人と変わらぬ容姿と知恵を合わせ持った強敵。そしてどこかやりにくい相手。しかし今はメンバーの二人を失い、五人構成となっている。 リーダー格を最初に失った彼らは、どんな行動に出るか分からない。 ずるずると決着が先延ばしになりつつあると言う者も居るが、そんなにあっさり倒せるなら世話はないのも事実である。 さて、悩んだ末に『自分は人間を食べないって決めたけど、仲間が食料を確保できるよう人間狩りを続けるよ』という答えを出したSAの一体、リュミエール。 そのリュミエールに関する話をすべく向かった橋は囮であり、SAは残り二人を本命に据え狩りを成功させた。 町から二人の人間が消え、犠牲となった。その悲しみが癒える間もなく、SAは再び狩り宣言を出す。 「‥‥というわけで、またしても同じ町でSAが狩り宣言を出しました。しかも今回は呼び出しもないので、ヘタをすると五人全員で町に散っている可能性もあります‥‥」 状況を説明する職員、十七夜 亜理紗は、複雑な表情で依頼書を握っている。 本来、狩りとは対象に『狩るよ』などとは告げない。そういう意味では温情のある方だが、前回のようなゲリラ戦法を行われるとどうしても手がまわらないのだ。 前回SAの一人も言っていたが、正義の味方は常に人手不足。町の規模も仇となり、遭遇するだけでも運を要するのに隠れながら移動されると難易度は更に増す。 町の人間も流石に危機感を覚えたのか、狩り宣言の間は外出を自粛するつもりのようである。 「前回のSAの動きで、石鏡上層部に『いい加減軍を動かすべきだ』って言う意見が出始めたみたい」 そう言いながら現れたのは、亜理紗の先輩職員、西沢 一葉である。 メガネをクイッと直すその仕草の後には、深い溜息が続く。 「これで開拓者さんも楽になりますかね?」 「そうもいかないわね。大勢は慎重論だもの」 「どうしてですか!? 人手が足りないなら人手を補充すればいいだけなんじゃ‥‥」 「補充する人手の質が問題でしょ。軍って言っても全員が開拓者ほど強いわけじゃないのよ? 町に軍を駐留させても、兵士が食べられて狩りを成立させたら目も当てられないわ」 今のところは、開拓者の要請があるなら人手は出すとしているが、本格出動にはまだ早いと思われているらしい。 そして、気になる情報も入っている。 「リュミエールの目撃情報?」 「はい。郊外の一本杉にもたれ掛かって、辛そうにへたりこんでたそうです。息も荒く、最初は旅人が行き倒れてるのかと思われてたらしいんですが‥‥」 「SAだと分かって大慌てで逃げた、と」 「です。何があったんでしょうね?」 「キュリテの言葉を信じるなら、SAは餓死することはないはずなんだけれど‥‥病気かしら」 「試験もなんにもなさそうな感じがしますけどね」 犠牲者を増やすSAの狩り。それを止めるにはSAを倒す他はない。 言葉は尽くした。決意は固まっている。後は、撃破するためにどんな作戦を立てるかだけである。 一対一ではかなり危険。さて‥‥どう生き延びるかな―――? |
■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
无(ib1198)
18歳・男・陰
朱月(ib3328)
15歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●機動力 ピィー! ピィー! ピィー! その日、石鏡西部にあるとある町では、呼子笛の音があちこちから反響していた。 SAの狩場指定を受け、二人の犠牲者を出したことに恐怖を覚え、流石に往来に人の姿はなく商店の戸も固く閉ざされている。三日の外出自重や業務自粛で命を守れるなら安い物。ようやくそのことが分かったらしい。 しかし、状況は芳しくない。石鏡の軍の一部が開拓者に協力するために派遣されてきたので彼らにも町の哨戒を頼んだはいいが、救援を求める笛の音が同時多発してしまうのだ。 一般人よりはマシとはいえ、軍人も全員が全員猛者というわけではないのである。 「お待たせ! SAは!?」 「いない‥‥くっ、また逃げられた!?」 開拓者たちは二人一組で行動し、小隊を組んでいる軍人とは別行動をとっている。 叢雲 怜(ib5488)と煌夜(ia9065)が一番近場と思われる笛の音の出処に到着したときには、すでにSAの姿はなく‥‥武装した兵士三人だけがその場に残されていた。 そして、すぐまた別の場所から笛の音。 「く‥‥絶対全員で動いてるわね、これ。よく聞かないと合図間違えちゃいそう」 「えっと‥‥一回だったら軍人さん、二回だったら開拓者が救援求む、三回だったら増援いらないだっけ? む〜、似た方向から出たら困るのだ」 狩りというのは、わざわざ相手に姿を見せる必要がない。相手が強敵だと分かっているなら尚更である。 今までの決闘紛いから本気の狩りにシフトしたなら、こういうゲリラ戦法は至極当然と言える。 勿論、駆け回っているのは二人だけではない。 「ちっ、また一足違いか。瞬脚を使えれば間に合うかもしれんのだがな」 「嫌味を、言えた、立場‥‥ですかっ。ごほっ、ごほっ!」 巴 渓(ia1334)とレネネト(ib0260)もまた、SAの動きとあちこちから響く笛の音に引っ掻き回されているクチである。 どうしても後手後手に回ってしまうのは仕方がない。SAは物陰に隠れて開拓者をやり過ごすだけでもいいのだから。 先にこちらから発見する手段がなければ、自慢の戦闘力も振るいようがない。かと言って仲間を置いて独断専行→狩られましたでは話にならない。そう考えれば、今回の巴の行動は至って正常である。 「バリケードは‥‥無意味ですか。あっさり跳び越えられてしまうようですね」 「それくらいできるようでなければこれほど長期化せんさ。さ、次の悲鳴が聞こえてきたぞ」 「は、走るのは、得意ではないのですが‥‥」 組む相手を間違えたかも知れない。ひしひしとそう感じるレネネトであった。 そんな中、開拓者の中で唯一攻勢に出られたのは‥‥ 「‥‥見つかっちゃった」 「見つけてしまったね」 「やれやれ‥‥上手くいかないものですね。よりによってあなたですか」 朱月(ib3328)と无(ib1198)が発見したのは、瞬鎚のシエル。 朱月の超越聴覚により、シエルが他のSAと連絡を取っているのを聞きつけられたのである。 喋らなければいけないという弱点を抱えたSAの擬似テレパシーには、このスキルがよく刺さる。 「‥‥ぞろぞろいると困る。みんな手間取ってる。倒すね」 そう言うと、ハンマーを出現させ恐るべきスピードで突っ込んでくる。 「くっ!?」 振り下ろされた一撃を回避した朱月だが、シエルはお構いなしに无へ狙いを変更する。 避けるのも受けるのも無理だ! 朱月はそう思ったが、无が放った術によりハンマーが抉り取られる‥‥! 「‥‥?」 「やってみるものですね。武器に通用したということは‥‥!」 きょとんとするシエルに対し、无は畳み掛けるように魂喰を発動する。 当然のようにマントを構えるシエル。しかしその術はマントをやすやすと食い破り、シエルの身体に食らいつく! 「っ!?」 たん、たんと小刻みにバックステップし距離を取るシエル。大穴の開いたマントと无を見比べていた。 白梅香とは少し毛色が違うが、瘴気を喰らう性質上SAの装備には非常に効果が高い。 その隙に三角跳で空間攻撃を狙う朱月。しかし、ボケているようでシエルはしっかりとそれを把握しておりその場を飛び退く。 飛び退いた場所にまた魂喰。避けることも防ぐことも出来ないと判断したシエルは、傷を追いながらも屋根にジャンプしすぐさま撤退する。 深追いは出来ない。してはいけない。もっとも、朱月の耳にはシエルの去り際の言葉が聞こえていたので無理をする必要はないのだが。 『‥‥ヤバいのがいる。ごめん、逃げる』 こうして、散々振り回された開拓者たちではあったが、軍人にも一般人にも被害者を出さずに済んだのは僥倖と言えよう。 しかし集合した面々の表情は明るくない。 「これを何度もやられると死ねるわね‥‥今回は昼だったからまだしも」 「今回は運が良かったってこと? いや、前回もあの人が居なかったら今頃俺は‥‥」 「建物を破壊して侵入という最終手段もありえます。もう少し上手い手はないものでしょうか‥‥」 「こっちに向かって来ざるをえない何かがあればな。リュミエールあたりを人質にしてもいいかもな」 「出来るのであれば、ね。彼女も黙って人質にはならないでしょう」 「そうだね‥‥どちらにせよ、あの二人の結果に全てがかかってるわけだ」 町はなんとか守り通した。あとは、別行動を取っている二人次第だ。 煌夜は空を見上げ、一抹の不安を口にした。 「‥‥無理してないといいけど‥‥って、私が言えた義理じゃない、か‥‥」 憎しみに身を任せて戦えるのならどんなに楽だろう。煌夜は、もう何度も繰り返してきた自問自答を繰り返すのであった――― ●風、一陣 さて、舞台は町中だけではない。件の開拓者のうち二人は郊外に向かっていた。 小高い丘に一本だけ立つ立派な杉の木。ここでの目撃証言を信じて歩を進めた彼らの目に、遠目にも目立つ銀のツインテールが飛び込んでくる。 背をもたれ座り込み、息も荒い。パッと見で具合が悪そうに見えるが‥‥? 「っ!?」 気配に気づいたのか、リュミエールはバッと立ち上がる。 そしてその正体に気付き、あぁ、やっぱりという顔をした。 「一体何があった。アヤカシが不調をきたすとは思えんが」 「ここに居るって聞いてさ。色んな意味で‥‥会いに来たよ」 アッシュ・クライン(ib0456)と小伝良 虎太郎(ia0375)。リュミエール自身、見られたという認識はあったのだろう。だから開拓者が来ることも不思議ではなかった。 脂汗の浮かぶ表情を苦笑いに変えても、警戒は解かない。 「あ、あはは‥‥どうもッス‥‥。自分、今回は狩りに不参加ッスよ‥‥?」 「お前もSAだろう。参加不参加などあるものか。誤魔化さずにここに居る理由を言え」 アッシュに言われ、リュミエールは観念したような表情になる。 「‥‥やっぱり、不自然ッスよね。アヤカシが人間を食べたくないなんて。最近自分、変なんッス。食べたくないのに食べたくて、食べたいのに食べたくなくて。気を抜いたら目の前が真っ赤になって、人間なら誰でもかれでも食べたくなっちゃって‥‥。今もお二人を食べたくて食べちゃ駄目で、食べタクて、たベタくテ、タベタクテ‥‥!」 「リュミエール! しっかりしてよ!?」 「あ‥‥ご、ごめんなさいッス‥‥! こんなんだから、皆に心配かけちゃうッス‥‥」 不意に顔を抑え瞳をぎらつかせたリュミエールに、小伝良は思わず声をかけた。 すぐに元の表情に戻ったが、かなり深刻なのは言われなくても想像がつく。 『食べたいのに食べられない』のと『食べたいのに食べない』のでは意味合いが大きく違う。 特に人間の恐怖を喰らい、瘴気に還元するのがアイデンティティとも言えるアヤカシにとっては、断食は自らの存在を否定するに等しい。 「お、お願いします‥‥帰ってくださいッス。でないと自分、お二人を‥‥! 勝手な言い草だとは思うッスけど‥‥!」 「‥‥甘えるな。それがお前の選んだ道だろう。最後まで人を食わないことを貫いてみせろ」 「謝りはしないよ。今のおいらは狩りの邪魔をする開拓者。邪魔者を目の前にして、SA・剛爪のリュミエールはどうする?」 二人は武器を構えるが、いきなり襲いかかったりはしない。 別にリュミエールが弱っていそうだからここに来たのではない。彼女が壊れかかっているのではという予測のもと、彼女が彼女であるうちにと思ったのである。 それはリュミエールにもすぐに伝わる。 そして、それが‥‥辛い。 「お二人の優しさ‥‥すごく嬉しいッス。これが‥‥自分が求めて、自分を苛む感情ッスね‥‥」 苦痛に歪む表情を隠そうともせず、リュミエールはマントと両手に鈎手甲を生成する。 理性を失えば弱るどころか全力全壊の勢いでアッシュと小伝良を喰らいにかかるだろう。そうなってはいけない。そうしてはいけないことを、彼女は選んだのだ。 「‥‥そうだ、それでいい。せめてもの情けだ、苦しまずに逝かせてやる。お前の思いは、俺たちが背負っていこう」 「そうだよ。どんな時だって、最期まで足掻けるだけ足掻くんだ!」 「楽になろうなんて思わないッス! 自分の思いは、自分自身で守るッス!」 だんっ、と同時に地を蹴った小伝良とリュミエール。その爪先が激突し、火花を散らす! 弾くと同時に下段回し蹴りに移行するリュミエール。しかし小伝良はそれを読んでおり、右回転しつつ跳んで鉄爪を振り下ろす! 「っ!」 地面に手を付き、とっさの判断で回転蹴りに移行する。しかし小伝良もよく反応し、リュミエールの足に手を付き反動で後退する。 リュミエールが体勢を戻したときには、アッシュのダーククレイモアが振り下ろされんとしているところであった。 すんでのところで横っ飛び回避をするも、今度はまた小伝良が接近している! 「SAは連携してこそ真の力を発揮するんだ! いくら強くっても、おいらたちも連携すれば!」 「この組み合わせなら後衛を狙われる可能性もないからな」 「そんな理屈‥‥!」 パワーだけならリュミエールはアッシュさえも凌ぐ。しかし、スピードなら小伝良に分があるし‥‥ 「くっ、硬いッス!?」 「守りの大剣を舐めるなよ。虎太郎!」 「任せて!」 防御力ならばアッシュに分がある。そして何より、二人には連携がある。 負けたくないという想い。自分が自分であるために、自分を心配してくれる仲間のために。それは、どちらも同じことが言える。 「思ったり重いッス!? カウンターッスか!?」 「くそっ、当てさせてくれない! やっぱりずるいよ、その強さ!」 「自分、アヤカシッスから!」 転反攻で命中と攻撃を上昇させているにも関わらず、小伝良の攻撃はどれも受けられてしまう。 一進一退の攻防。SAを二人だけで相手できていると言うべきか、二人いるのにSA一人に苦戦していると言うべきか判断に迷うところだ。 「ちっ、オーラドライブも無限に使えるわけじゃない。早めにケリをつける」 お互い距離を取り、一旦仕切りなおしとなった状況で、アッシュは呟く。 と、不意にリュミエールが胸の辺りを抑えて苦しみだす‥‥! 「はぁっ、はぁっ、ぐっ、はぁっ‥‥!」 「負けちゃ駄目だ、リュミエール! おいらたちにも、自分自身にも!」 「お、お二人にも、なんて‥‥変な、こと‥‥ぐぅぅっ‥‥! あぁぁぁっ‥‥!」 「謝らない‥‥謝らない、謝らない! リュミエェェェルッ!」 「うわぁぁぁぁぁっ!」 最初の時と同じように、同時に地を蹴った二人。 しかし今度は、お互いの爪がお互いの胸を刺し貫いていた‥‥! 「虎太郎ッ!」 アッシュの声もどこか遠い。二人は刺し合ったまま、何故か微笑んでいた。 「さ、最初から‥‥相討ち狙いだった‥‥ッスね」 「無茶しないと、厳しいって‥‥煌夜さんが、教えてくれたし、ね‥‥ごほっ!」 先に崩れたのは小伝良。岩をも砕く一撃を胸部に貰ったのだから当たり前か。左胸だったら即死だったかも知れないが、それでも肋骨も肉もグシャグシャだ。 しかし‥‥! 「最後まで、諦めない‥‥ッスか‥‥。や、やっぱり‥‥気合の差‥‥ッスか、ねぇ‥‥」 突如、傷口から大量の瘴気を噴出するリュミエール。カウンター攻撃に加え、ありったけの気力を注ぎ込んだ小伝良の一撃は、流石に大ダメージだったらしい。 そして、ガクリと膝をつき息を荒げるリュミエールの前に、アッシュが立つ。 もうマントを維持できない。それでも、二つの痛みを耐えて構えを取る。 「‥‥俺は悪人に人権はないと思っている。だから何の罪もない人々を喰らうアヤカシを、お前たちを許しはしない」 「‥‥許されようとなんて、思ってないッス‥‥! 自分も‥‥クレルたちも‥‥!」 「だが、剛爪の。漆黒の牙で、お前の苦しみを穿ち砕いてやる!」 「最後まで‥‥最後までぇぇぇっ!」 無理な体勢から放った一撃は、アッシュの一撃を止めるには至らなかった。 腹部に爪を受けてなお、アッシュはリュミエールを肩口からバッサリ斬り倒す。 激痛によろめいたアッシュが見たものは、這いながらも一本杉を目指すリュミエールの姿。 何を‥‥と思ったのも束の間。すぐにその意味を理解し、アッシュは背を向け小伝良の救出に向かう。 「い、いいの‥‥放っておいて‥‥」 「どのみち致命傷だ。それに‥‥最後の時を邪魔するほど無粋でもない」 アッシュは小伝良を抱え、痛む腹を気にしつつ町へ戻った。 めぐる想い。何のために生まれてきたのか‥‥その答えを、今リュミエールは悟った。 今までの、全てと出会うため。敵も味方も、この傷も‥‥この場の死さえ、生まれてきた意味なのだ。 やっとの思いで辿り着いた木の下には、二つのぬいぐるみ。それを抱き寄せ、顔を埋める。 「もふ‥‥もふ、ッス‥‥。‥‥最、後‥‥に‥‥会いた‥‥かった―――」 ざぁっ、と風が吹き抜けた後には、ぬいぐるみだけが残された。 あるのであれば‥‥もふらは、アヤカシの魂をも天国へ連れていってくれるのであろうか――― |