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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― セブンアームズ(以下SA)。主に石鏡の国で活動する七体の人型アヤカシである。 それぞれ得意とする武器を用い、人と変わらぬ容姿と知恵を合わせ持った強敵。そしてどこかやりにくい相手。 その数はまたしても一体減り、残るは四体。リーダー格を失い、更に仲間を減らしていく彼らはどのような行動を取るのだろうか? 一連の流れを報告書にまとめてきた職員の十七夜 亜理紗は、担当机で何故かぬいぐるみを二つ抱いていた。 「こーら、職場にそんなもの持ってこないの。‥‥って、もふらととらのぬいぐるみって‥‥まさか」 「‥‥はい。野ざらしにしておくのも可哀想だと思って、取ってきました」 「あなたねぇ、あの辺りはまだSAがうろついてるのに。いくら狩り宣言が出てないからって一人で行くなんてどうかしてるわよ?」 「‥‥はい‥‥」 生返事しかしない亜理紗。ぎゅっとぬいぐるみを抱き、思い悩んでいる。 その様子だけで、声をかけた先輩職員、西沢 一葉にはなんとなく亜理紗が考えていることがわかってしまったが。 「‥‥リュミエールのこと‥‥気になってるのね」 「‥‥はい。最後にこのぬいぐるみのところに戻って‥‥誰に会いたかったのかなって。仲間のSAだったのか‥‥それとも‥‥」 それは本人にしか分からない。開拓者の一人にプレゼントされた二つのぬいぐるみを大層気に入っていたリュミエールは、最後の最後をこのぬいぐるみの元で迎えることを選んだ。 いくら人間味があろうが相手はアヤカシ。その死で悩むことなど馬鹿げていると人は笑うだろう。 「‥‥ごめんね亜理紗、追い打ちをするようだけど石鏡上層部からまた依頼よ」 「え‥‥でも、狩り宣言が出たなんて話は‥‥」 「やつらがあの町を狙ってる間に拠点としてる場所がわかったの。ようやくイニシアチブが取れそうなんだけど、やっぱり慎重論はあってね。開拓者に選択してもらおうということになってるわ」 一つ、すでに狩り宣言を受けたと嘘を言い先制攻撃する。 二つ、そもそも問答無用で撃滅に回る。 三つ、狩り宣言は関係なく決闘及び犠牲者の弔い合戦という理屈で戦いを求める。 「そんな‥‥汚い‥‥!」 「聞いて。前回はなんとか防いだけど、また狩り宣言を待ったら、次は守りきれないかも知れない。すでにいっかいあの町で二人の人間が犠牲になってるのよ?」 「私が言ってるのは、選択の内容じゃなくて‥‥!」 「犠牲者を出したいの? ‥‥そして、これいじょう犠牲者を出させたいの?」 言いつつ、一葉はもふらのぬいぐるみを撫でた。 元より許される相手ではないが、SAたちにこれ以上の罪を重ねさせるな。暗にそう言っているのだ。 それを理解してしまったら亜理紗は何も言えない。 開拓者の選択は、果たして――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
无(ib1198)
18歳・男・陰
朱月(ib3328)
15歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●思い 行動は慎重を要する。今回のような隠密性の高い依頼の場合は特に顕著である。 いくら相手の拠点が割れ、そこに赴くのだとしても途中で相手に見つかりましたでは洒落にならない。 もっとも、歴戦の勇士である彼らにはそんなことは言わずもがなだろうが。 しかし、彼の空気は重い。それは緊張感以上にやるせない気持ちが強いからであろう。 「所詮この世は弱肉強食‥‥『だが戦うとなったら容赦はしない』かァ。割り切っているつもりだったんだがなァ‥‥クソッタレが」 悪態を吐いてはいるが、鷲尾天斗(ia0371)の瞳には覇気がない。 懐には亜理紗から受け取ったとらのぬいぐるみが一つ。 リュミエールと仲の良かった彼にとっては、その最後の場に立ち会えなかったことも後悔の一端なのかも知れない。 「‥‥リュミエールは、最期までリュミエールだったよ」 「‥‥そうか」 「気持ちは分かるわ。でも悩んでいて倒せるほどSAは甘くない‥‥でしょ?」 実質、リュミエールを倒したと言ってもいい小伝良 虎太郎(ia0375)は、見かねて鷲尾に声をかける。 最後を看取ったわけではないが、死力を尽くした相討ちでの決着を経てなお、リュミエールは彼女らしい行動を選んだ。それだけは確かなのだ。 煌夜(ia9065)も悲しい思いをした一人故に、鷲尾の気持ちがよくわかるのだろう。 もしSAがアヤカシでなければ良い友だちになれたかも知れない。しかし、SAがアヤカシだったからこそ邂逅があったのもまた事実。 一行には、運命に恨み節を叩きつけるくらいしかできることはない。 「奴らが大人しく応戦に回るか、それとも何か策を講じてくるか、か‥‥」 「先手とはいえ、ねぇ」 「‥‥俺は戦るって決めたら戦るだけなのだぜ」 アッシュ・クライン(ib0456)はリュミエールに止めを刺した男だが、思い悩む様子はない。 しかし彼を冷たいというのは筋違いである。戦士としてより正しい思考なのだから。 相談でやると決めた以上、无(ib1198)も叢雲 怜(ib5488)も腹は決めている。 割り切れない気持ちは口だけ。生きるために、守るために剣を取り銃を取る。 「そろそろ着くんじゃないかな。待ち伏せ班はこの辺りで待機しよう」 「SAが外にいる様子はありませんね。洞窟は‥‥あそこですか」 今回、開拓者たちは二班に別れて行動することにしている。 洞窟に入ることも辞さない前衛班と、洞窟の入口を監視し状況に対応する待ち伏せ班である。 朱月(ib3328)の提案により、入り口が一望できる藪に身を潜める人数は三人。 ここには銃での狙撃を担当する叢雲も含まれており、砲術士としての腕の見せ所である。 レネネト(ib0260)の視線の先には、歪な形をした洞窟の入り口が見て取れた。 その付近には、どう見ても天然で転がったのではないであろう岩や石がごろごろ転がっている。 「え、何あれ。まさか本気で岩盤を繰り抜いて洞窟作ったのかしら‥‥」 「自然破壊だな。悪だ」 冷や汗混じりの煌夜と、疲れたようなため息を吐くアッシュ。どういう経緯にしろ、あまり見たくなかった光景である。 ここでこうしていても仕方ない。一行は意を決して、作戦行動へと移っていく――― ●悩 小伝良が用意してくれた松明に火を灯し、一行は洞窟の内部を進む。 鷲尾の心眼により奥にSAの反応が二つあること、それが動く気配がないことが判明したので、仕方なく侵入せざるを得なくなったのだ。 内部の岩肌は御世辞にも整備されているとは言えず、今にも崩れそうな気配すらする。 もっとも、SAにとっては所詮仮の拠点なので適当でも構わないのだろう。 と、奥から開拓者以外の足音が響いてくるのが聞こえ始めた。 数は二つ。鷲尾を見やると、こくんと頷いてみせた。奥にいた連中ということなのだろう。 一同は一旦その場で止まり、足音の主を待つ。やがて、松明の火に照らされたのは‥‥ 「ん‥‥おまえらか。なんだ、よく此処が分かったな」 「フッ‥‥しかし完全武装とは、どうも穏やかな話では済みそうにありませんね」 覇剣のジークと零弓のダシオン。SAの男二人組である。 フードこそ被っていないが、マントに武器も生成済みと準備は万端のようだ。 「で? 開拓者が出てくるからにゃまた面倒くせぇことなんだろ?」 「まぁ、ね。以前、クランが暴走して狩り宣言が出ていないときに被害が出たことがあったでしょ? 人間の中にそれが不服だって言う人達がいてね」 「今更かよ。あれは悪かったとは思うが、ルールを破った時点でクランはSAを除名されてる。その証拠に手助けもしなかっただろーが」 「仰ることは分かりますが、それでは後出しジャンケンです。そちらに非があっても『もう除名した』で済まされては困ります」 「‥‥そう言われると辛いがな‥‥。じゃあどうしろっつーんだ?」 「狩り宣言とは関係なしに一度戦え。お前たちにとっても仲間の敵を取るチャンスかもしれんぞ」 煌夜、レネネトの押しに続き、アッシュが畳み掛ける。 ジークは眉をひそめ、思案していた。 考えることはだいたい分かる。ゲリラ戦法がお家芸のSAにとって、数が減った現在で真正面から殺り合うのは得策ではない。 かと言って開拓者の要求は不当なものでもない。かつての仲間に落ち度があったのは事実だ。 ルールある狩りで人間を食す。それがSAの矜持であり、仲間と誓った約束。 それを反故にしましたでは、散っていった仲間たちも浮かばれない。アヤカシにもあの世があるなら、クランはずっと悩み続けるかも知れない。 様々な葛藤をするジークのフォローをすべく、ダシオンが口を開いた。 「しかし、人数が少ないですね。ひいふうみい‥‥5人だけですか?」 「開拓者の中でも、この作戦には意見が割れたんだ。ルールに抵触するから。そっちは4人、こちらは5人。人数的にはそう無茶じゃないと思うけど」 「‥‥ふぅん? ちょっと失礼‥‥」 そう言って、ダシオンはジークの耳元で内緒話を開始する。 外にいる朱月にも、超越聴覚で聞こえてくれていればいいが‥‥? 「‥‥わかった、戦おう。シエル、キュリテ、ちょっと来てくれ。面倒だがいつもの連中が戦えとよ」 「先に外に行っていてください。洞窟の中では戦いにくいでしょう?」 ダシオンが松明を見ながら笑ったので、小伝良は慌てて松明を低く持つ。 予想通り、SAは暗闇でもどうということはないらしい。一行は大人しく引き返し、洞窟の外へ向かう。 そして、外の光が見えたその時――― ●状況判断 「うぐっ!?」 「うあっ‥‥!?」 「な、何!?」 突然、最後尾にいたアッシュと煌夜が声を上げた。 振り返った小伝良が見たのは、背中に矢の直撃を受けた二人と、矢を放った体勢のまま不敵に笑うダシオン。そして剣を片手に突っ込んでくるジークの姿! 二人も警戒は怠っていなかったのだが、弓のくせに準備から攻撃までが早い! 「ンだと!?」 背後からの突然の攻撃に、鷲尾が飛び出しジークの剣を槍で受け止めた。 「狩りじゃないってことはルール無用ってこったろ。どうせお前らだって外に伏兵でもいるんだろーしな」 「違ってたらどうすンだよ!」 「前にも言ったろ。お前らはだいたい8人以上で行動してる。それ以下の人数だったら何か企みがあるんだ。そうじゃなきゃ、反対意見でも全員揃って来るのが誠意だろーが!」 ギン、と重い音がして再び槍と剣がぶつかり合う。 その間も、鷲尾の心はまだモヤモヤに苛まれたままだった。しかし‥‥! 「ガ‥‥ああァァァ!?」 煌夜が言っていたように、そんな心持ちでSAと戦えるわけがない。平常時ですら油断ならない相手なのだから。 左肩に突きを入れられ、抉られる。しかし、衝撃で一瞬意識が飛んだ鷲尾の脳裏に昔の記憶とリュミエールがフラッシュバックする! ダメージは大きいはずなのに、鷲尾の目は今まで以上の光と狂気を取り戻していた。 「‥‥最近ボケてたが、イイの喰らって目が覚めて思い出したよ‥‥初心ってヤツを」 「いいツラじゃないか。嫌いじゃないぜ」 「野郎に褒められても嬉しかないが‥‥一応アリガトなァ。‥‥悪党に相応しい最悪な気分だ。もう大丈夫‥‥迷いは無ェ。徹底した『悪』の糧になれ」 「支援いたします。ご無事で」 紅焔桜を発動し、燐光をまとった槍を構える鷲尾。 このやりとりの隙に他のメンバーは外へ。それを確認した鷲尾もレネネトの重力の爆音による援護を受けつつ下がるが、ダシオンの矢を何本も受けてしまう。 転がり出るように洞窟を抜け、じりじりと後退する。 そして、ジークが洞窟から出た次の瞬間。 ガウンッ! という轟音の直後、ジークは問答無用で洞窟内に叩き戻された。 待ち伏せ組である叢雲の、狙いすましたヘッドショット。彼はこの一撃を虎視眈々と狙っていたのだ。 最初仲間が出てきた時慌てて撃ち間違えそうになったが、なんとか思いとどまれたのは幸いであった。 朱月が超越聴覚を使えたなら洞窟内のやりとりも聞こえたかも知れないが、生憎活性化させていなかったので目視しか判断材料がない。 「やったか!?」 ややあって、洞窟から歩み出てきたのは‥‥ 「そんな!? 頭に鉛玉喰らったのに平気なの!?」 「さ、流石に平気ってわけじゃないけどな‥‥人間と違って急所じゃないから即死はしないさ‥‥!」 「ちっ。煌夜、鷲尾を連れて无に回復してきてもらえ。俺と虎太郎で抑える」 「お願いね!」 「お任せ!」 比較的ダメージの低いアッシュと、松明から解放された小伝良が立ちふさがる。 レネネトも最初は木を盾に援護をしようと考えていたが、思った以上にダシオンが狙ってくるので素直に下がった。 岩陰に隠れて叢雲の銃弾をやり過ごしているジークとダシオンは、例のテレパシーもどきで会話し新たな作戦を立てているようだ。 何発目かの銃弾をやり過ごすと、ダシオンはすぐさま矢を番え弾が飛んできた方向へ射撃する! 二本同時に放たれた矢は、運良く当たらなかったとはいえ正確に叢雲たちのそばに突き刺さっていた。 「ボクが撹乱してみます。その隙に无さんは他の方の回復を!」 「わかりました。死なない限りは治してみせますので頑張ってください」 「はは‥‥頼もしいなぁ」 ざ、と藪をかき分け走りだす朱月。 開拓者とSAは、言わば攻と攻。当たったほうが大きく不利になる仕様だ。 ジークは死んでいないだけでかなり動きが鈍くなっている。自慢のマントも物理攻撃は防がない。例えフードを被っていても結果は一緒だっただろう。 「逃がすわけには行かないんだよね、通さないよ」 「ちっ、流石に手が足りないぜ。まだか、二人とも‥‥!」 飛来する矢を匍匐前進で掻い潜り、无は煌夜と鷲尾に合流する。 治癒符で回復中、ゴギギギギと珍妙な音が響く。 見るとアッシュが、あらぬ方向から飛んできたトゲ付き鉄球をソードブロックしているところであった。 「待たせたのう。準備完了じゃ」 「助かる。流石にしんどくてな‥‥!」 操球のキュリテは洞窟の中ではなく、横の脇道から現れた。 ということは、洞窟内に反応がなかった残り二人は別の場所に行っていた‥‥? 「く、くそっ! 向こうもリロードが早いのだよ!」 「フッ、私の肉体美を以てすれば矢を最速で番えることなど容易い事」 「筋肉の使い方、間違ってますよねぇ!?」 藪を移動しながら撃つ叢雲を正確に狙い撃つダシオン。 朱月がフォローに入るが、ただでさえ命中が高い弓使いに馬鹿力と接近戦も危険。 小伝良も瞬脚で懐に入りたいが、キュリテが横薙ぎで鉄球を振り回すためなかなかタイミングがない。 「おぬしを潰さんといくらでも復活しそうじゃのう!?」 「回数に限りはありますが、ね!」 キュリテは鉄球を二つに増やし、器用に片方で无を狙った。 しかし无は魂喰をぶつけ、鉄球部分をいともたやすく食いちぎらせる。 「これか、シエルが言っておったのは。面倒な奴め‥‥!」 「いえいえ、あなた方に比べればとても」 鎖の延長、鉄球部分の再生は朝飯前。しかしこれが瘴気の武器であるがゆえに魂喰や白梅香に引っかかるのだから一長一短か。 朱月が奔刃術、小伝良が瞬脚で鎖を抑えに行くが、消してまた出すということも簡単なため効果は薄い。 どうもSAたちは積極的に殺しに来ていない。レネネトがそう訝しんでいたところで、じわじわと三人は集合しだし洞窟内部へと逃げこんだ。 「何のつもり?」 「逃げるに決まってんだろ。そこのちっこいの、銃使いっていうんだろ? 覚えとくぜ‥‥!」 「待ちなさい! まだ戦いは‥‥!」 「狩り宣言時じゃないならいつ止めるのかも自由だろ。これでチャラだ!」 言って、ジークは剣で洞窟の入口を切り崩した。 あっという間に岩盤に埋もれ、洞窟の入口は完全に塞がれてしまう。 「やられた! きっとシエルが奥で洞窟を掘ってたんだわ。どこに出てくるかわからない‥‥!」 「瞬鎚の帰還を待たずに入り口を塞いだのだから明らか、か‥‥」 「相変わらず豪快な戦中だぜ、まったく。普通洞窟掘って逃げるなんて考えてもやらねェよ」 洞窟を掘って作ったのなら更に掘り進んで出口を作ることも容易かろう。いや、ひょっとしたら地下を掘り進んで移動している可能性すら笑い飛ばせない。 作戦としては悪くなかったはずなのだが‥‥やはり人数が足りないことに注目されたのがまずかったか。最初から8人で行っていれば、あるいは‥‥? 「これで狩りのルールが崩れなければいいけれど‥‥」 「狩りという行いは終わらせなければいけないと思いますが、野放しだけは認められませんからね‥‥」 「‥‥今日の様子からすれば大丈夫だと思うがな」 煌夜とレネネトの懸念に、アッシュはポツリと呟く。 「そのこころは?」 「やつらは悪だ。だが悪なりの美学を持った悪でもある。いずれ潰すことに違いはないがな」 納得、といった表情で肩をすくめる一行。 SAからしてみれば、生きるためであり存在意義の捕食行動。 ルールで自らを縛ってまで狩りをすることが、彼らの矜持と意地――― |