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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「お正月といえば初夢、夢といえば夢幻幻想符‥‥ですよねぇ!」 「なにそのスインドル(詐欺などの意)。この間ので懲りてなかったの?」 お正月といえど、3が日を過ぎてしまえば開拓者ギルドは普通に営業している。 職員である十七夜 亜理紗と西沢 一葉もご多分にもれず、火鉢で暖を取りつつ業務に従事していた。 しかし記憶喪失になってから初めて迎えるお正月とあり、亜理紗はまだまだ浸っていたようなのだ。夢を共有することのできるオリジナルの術、『夢幻幻想符』を使って他の人達にもお正月を堪能して貰いたい‥‥と言い出したのである。 ちなみに一葉が言った『この間の』とは、ハロウィンの季節に行われたこの術の実験依頼のこと。 効果は確かだったが、その夢はあまりにリアルで現実とほぼ遜色がなく、そんなクォリティで大量のゾンビからの脱出をさせられたので参加者にお仕置きされたのだ。 小一時間にわたってくすぐられ続け、大分腹筋が鍛えられたとかなんとか。 「こ、今度は大丈夫ですよ! 夢の内容はいくらでも変更できますから、今回はステキなラブロマンスを演出してみようと思ってます!」 「そのこころは?」 「見たこともないような超豪華客船に乗って、大海原をクルージングです!」 「‥‥へ、へぇ‥‥?」 「見渡す限りの海、地平線に沈む夕日! 船内で食べる豪華な夕食! 二人の距離もグッと近づきますよ!」 「‥‥質問。その船、どれくらいでかいの?」 「んーっと‥‥特に決めてませんけど、二千人くらい乗れそうなでっかいので!」 「‥‥‥‥その船、何階建て?」 「そうですねー、9階建てくらいあると色んな施設が内蔵できて良さそうです。あ、デッキは別ですよ?」 「‥‥‥‥‥‥狙ってるの‥‥?」 「にゃ? 何がですか?」 一定の空間に結界を張り、その中で寝た者全てに同じ夢を見せ、共有する術。最低でも四人以上いないと発動しない上に眠らせる効果自体はないという、戦闘では全く使い道のない術だ。 亜理紗は本気で分かっていないようだが、一葉は嫌な予感が拭えない。 沈没しそうな気がする。一葉自身にもわからないが、何故か確証じみた予感がするのだ。 「大丈夫ですよ、でっかい船なら沈んだりしませんって! そのためにもでっかくするんですから!」 「ちなみに、船に乗ったことは?」 「ありません!」 「素人以下じゃないのよ!」 「夢なんですから平気ですよぅ! 楽団による生の演奏会付きなんですよ!?」 「余計駄目でしょうがぁぁぁっ!?」 次々とフラグを建築する亜理紗だが、本人はまるで理解していない。その証拠に今回は自分も夢の中に入るという。 確かに、お正月に未知の豪華客船でクルーズする夢を見るとだけ聞けば聞こえはいいのだが‥‥。 最大の問題は、初夢には少し遅くないか? ということである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
浅葱 恋華(ib3116)
20歳・女・泰
綺咲・桜狐(ib3118)
16歳・女・陰
イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)
21歳・女・泰
ウィリアム・ハルゼー(ib4087)
14歳・男・陰
アル・アレティーノ(ib5404)
25歳・女・砲
袁 艶翠(ib5646)
20歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●夢、それぞれ 一月某日。とある宿に集まった参加者+1は、早速術の展開に取り掛かった。 それ自体はさして時間はかからないのだが、全員が就寝し切るまでが難関である。 ややあって、一同は突如意識を覚醒させる。 起床したのではない。夢幻幻想符によって作られた共通の夢の中に降り立ったのだ。 そこはまるで現実。いや、ある意味現実離れした空間。 少なくとも天儀の常識の中で、見上げなければいけないような煙突をいくつも持つ船など存在しない。 その巨大な客船の中に、仮想とは言え天儀人やジルベリア人らしき人々が確かに息づいていた。 輝く太陽。潮の匂い。吹き抜ける風。それら全てが、海の真上にいることを主張している。 夢の中の行動は自由である。甲板の感触を一頻り楽しんだ一同は、それぞれのやりたいように、のんびりと過ごすため散らばっていったのである――― ●場違い見学 「へぇ〜、こんなところまできちんと構築されてるんだ。ラッキー♪」 そこは轟音に包まれていた。目を輝かせて動きまわるアル・アレティーノ(ib5404)の呟きもあっさりかき消されてしまうほどである。 そんな特殊な楽団の中にあって、アルのドレス姿はかなり場違いである。鈍色の機械が並び、油の匂いが充満した空間には、白銀のドレスは異質そのものだ。 事実、そこにいた作業員たちは何事かと振り返るが、高級そうなドレスを目にし『金持ちの気まぐれか』くらいに思い、スルーし始める。 まぁ、客の機嫌を損ねるのも無粋だと思ったのかも知れないが。 「これが推進機関‥‥かな? すいませーん、これどうやって動いてるんですか?」 「はい? どうも何も、この蒸気エンジンとタービンでだよ。向こうのボイラー室から送られてきた蒸気の力でスクリューを回すんだな」 「蒸気? そんなものでこんなでっかい船を動かすの?」 「ははっ、お金持ちには分からないかなぁ。蒸気もね、集めればすごい力を発揮するんだよ。なんたって29基もの石炭ボイラーだ。お湯を沸かす時に出るのとはワケが違う」 どうやらアルはこの船の設備に興味があるようで、ドレスを着用しているものの機関室など普通は近寄らないところを見学している。 目を輝かせて質問してくるアルに気を良くしたのか、髭を蓄えた初老の技師がにこやかに応対してくれる。 明らかなオーバーテクノロジーの塊に、砲術師であり銃いじりが好きな彼女はいてもたっても居られなかったのであろう。 「それにしても、こんな大きな船を動かせるなんて凄い出力なんですね。あーもう、時間があったら詳しく教えてもらいたいくらい!」 「およしなさい。折角の船旅だ、お嬢さんはパーティーにでも出ていたほうがお似合いだよ」 「いいんです、楽しみ方は人それぞれ。あたしはこの辺りを見てたほうが楽しいです」 「変わったお嬢さんだ。わかった、付いて来なさい。時間の許す限り案内してあげよう」 「やた♪ よろしくお願いしまーす!」 他の作業員たちも集まり始め、灰色の機関室が華やいでいく。 楽しみ方は人それぞれ。クルーズの中で、裏方の仕事を覗くのもまた一興ということか――― ●爆発しろ? 地平線の彼方に夕日が沈んでいく。オレンジ色に世界が染まる中、豪華客船の船首に二人の男女が立っていた。 鷲尾天斗(ia0371)。そして十七夜 亜理紗。お互い意識しながら一歩を踏み出せない幼なじみ‥‥という設定でこの夢を過ごすらしい。 頬を撫でる風や太陽の光も現実とほぼ変わらない。巨大な豪華客船という現実離れしたシチュエーションも、いつかは本当に実現するのではと思わせるようなリアルさだ。 「幾ら夢とは言え此処までリアルとはなァ‥‥やっぱお前はすげェわ」 「そ、そんなことないです。まともに制御できる術はまだまだ少ないですし‥‥」 「自信持てよ。少なくともこの術は他の誰にも真似できねェだろ?」 「あ‥‥はい‥‥」 鷲尾は背後から優しく亜理紗を抱きしめる。亜理紗も頬を染めながら、抱きすくめてきた鷲尾の手に自らの手を添えた。 果ての見えない大海原を行く船の船首で、波の音だけが響き渡る。 甲板に他の客は居ない。なんだか場所に不釣合に見える亜理紗の巫女服も気にならなくなってきた。 早鐘を打つ亜理紗の心臓。そこに、鷲尾は更に追い打ちをかけた。 「なぁ‥‥亜理紗」 「ひ、ひゃい!?」 甘く耳元で囁かれ、思わず身体が硬直する。 裏返った声をからかうわけでもなく、鷲尾は続ける。 「こうしてるとさァ‥‥」 「は、はい‥‥!」 五月蝿いくらいにドキドキしている。その先の言葉に期待をしている。 真っ赤になっている亜理紗を知った上で‥‥鷲尾は言葉を紡いだ。 「『どーん』って突き落としたくならね?」 ずべっ。 抱きしめられているにも関わらず、亜理紗は器用にずっこけてみせた。 カラカラと笑う鷲尾に対し、亜理紗は真っ赤+涙目で振り返り‥‥。 「鷲尾さんの馬鹿ぁぁぁっ!」 「はっはっはー、悔しかったら捕まえてごらんなさーい」 逃げる鷲尾を追って、甲板での鬼ごっこを開始したのであった――― ●船内プール 第七層に位置する船内プールにて、二人の人影がチェアに寝そべりリラックスしていた。 船の中にプールという、これまたオーバーテクノロジーというか金持ちの発想である。 「豪華客船で優雅なお昼寝‥‥素晴らしいですね。後はハンサムな男の人でもいれば完璧なのですが‥‥」 「どうかしらね。このプールは一等客専用らしいから、人の出入りは期待できないかもよ」 ウィリアム・ハルゼー(ib4087)と袁 艶翠(ib5646)以外にプールに人は居ない。 澄み切った水を湛えた綺麗なプールなのだが、どうも船に乗ってまで濡れたくないと思う客が多いらしい。一等客の客層が影響しているのだろうか? 袁は当初甲板でくつろごうと思ったのだが、大胆な水着とわがままボディを披露したのも束の間、船員に止められてしまったのである。 元々甲板で推奨されない行為の上、他の客から主に嫉妬的な意味で苦情が来たのだとか。 「さて、そろそろ移動しましょうか。パーティーが始まる頃よ」 「ナンパとかされてみたいような気もしますけれど‥‥誰か引っかかってくれるのでしょうか?」 「からかうのはやめておきなさい、僕ちゃん」 「め、メイドという性別にしておけば大丈夫です!」 二人とも目が覚めるくらいの巨乳だが、ウィリアムのは偽物であるらしい。 水着になってすら見分けるのが難しい上にウィリアムの外見もあり、彼が男であることを見抜くのは難しい。 というか、本人も自分の性別を忘れがちである――― ●一等客室 一等客室は豪華であると、事前に聞いてはいた。しかし、実際入ってみると本当にここが船の中なのか妖しくなってきてしまうほどの内装が施されていた。 ふかふかのベッド。彫刻の施された調度品の数々。そして部屋備え付けのシャワールーム。挙句の果てには暖炉まであるという非常識ぶりである。 そして、その部屋には特別にベッドが三つ運び込まれていた。 「‥‥って、何で三人同室なのよ!? あんた達と同室なんて、落ち着いて寝れやしないじゃない!」 「うふふ〜♪ 良いじゃないの、楽しまないと損よ損!」 「ん、同じ部屋でもいいと思います‥‥。油揚げもらえるし‥‥」 イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)、浅葱 恋華(ib3116)、綺咲・桜狐(ib3118)の三名は、主に浅葱の要望で同室となっていた。 天儀の船で三人同室などしたらえらい事になるが、この船では余裕。何せベッドルーム以外にもリビングやダイニングが別室になっているので、軽い住居並みである。 「‥‥まぁ、どうしてもって言うなら、このままでも構わないけど‥‥って恋華! あんたはちょっとは離れなさいっての!」 「しかし、夢幻幻想符か〜。面白い術を考え出したものねぇ。ともあれ♪ 折角の夢なんだから、色々と楽しませてもらうわよ〜♪ んふ、んふふふふ♪」 「せっかくですし楽しまないとですよ、イゥラさん‥‥」 「ちょっとくらい釘刺しておかないとひたすら暴走するでしょ、恋華は!?」 不敵な笑みを浮かべる浅葱と、穏やかに笑う綺咲。そして、口では辛いことを言いつつ満更でもないイゥラ。 仲良し三人組で参加ということなのだろうか? 何やら友達以上という雰囲気もあるが。 時刻は午後六時。そろそろパーティーが始まる時間だろうか。 パーティーには勿論豪華な食事が出る。それも彼女たちの目当ての一つである。 そうして、獣人三人娘はパーティー会場のラウンジがある第二層へと移動していった――― ●音 ラウンジとだけ聞くと、ジルベリアなどではイメージできる人も多いだろう。しかしこの船のラウンジは規模そのものが違い、ダンスホールと言ったほうが正しいかも知れない。 どこぞの宮殿かのように柱にも彫刻が施されており、徹底した豪華主義が覗える。 白いテーブルクロスで覆われたテーブルがいくつも設置され、その上には山海の珍味がこれでもかと盛りつけられている。 ドレスやタキシードで着飾った乗客たちは、談笑しながらバイキング形式でそれを食べているようだ。 ラウンジ内には楽器を手にした人物が5人ほどおり、穏やかなBGMを演出する役目を負っているのだが‥‥今は休憩中である。 と、そこに。 「あの‥‥少々お時間、よろしいでしょうか‥‥」 シャンテ・ラインハルト(ib0069)は、龍笛を手に楽団に話しかけた。 ベテラン音楽家と言った風体の楽団員たちは、まさかこんな若い女性客に声をかけられるとは思っていなかったのだろう。一瞬ポカンとした後、椅子から立ち上がった。 「よろしければ、簡単な曲を教えていただけないでしょうか‥‥。今日という記念に‥‥」 楽団員たちが手にしている楽器は、天儀やジルベリアでも割と見かけるものだ。しかし、先程の演奏を聞いている限り曲は未知のものばかりである。 話によるとクラシックという音楽らしい。熱心に聞くシャンテに孫や子供を重ねたのか、楽団員たちは顔をほころばせて曲を教えてくれる。 難しい曲は一朝一夕で出来るものではないので、主にフルート担当の男性が覚えやすい曲を伝授してくれる。 優しい音色。草原を吹き抜ける風のイメージ。夢にも関わらず、シャンテの心には確かにここでの触れ合いと見知らぬ曲が刻まれていた。 「ほら、イゥラ。美味しいわよ、桜狐も食べなさいよ。あ〜レシピもらって来ようかしら♪」 「恋華さん、イゥラさん、お稲荷さん美味しいですよ‥‥?」 「無国籍なメニューねぇ。あぁでも、この魚料理美味しいから許しちゃう‥‥!」 気づくと獣人三人娘、浅葱、綺咲、イゥラが食事に来ていた。 ドレスに身を包んでいるので尻尾は見えないが、耳はそのままなので注目を浴びた。 まぁ、それも仮想か何かだろうと思われたらしい。周囲を気にせず、三人は料理を前に幸せそうな表情で笑いあう。 「あ、やってますねぇ。どうです、似合ってるでしょう?」 「あたしは食べるのはそこそこにしてカジノで勝負と行きたいんだけどねぇ」 会場がどよめいたかと思うと、ドレス姿のウィリアムと袁が姿を現す。 露出度が高めなそのドレスからは、これでもかと胸が主張している。 「‥‥どうもです。お二人はお食事ですか?」 「そ。シャンテはこんな時にもお勉強?」 「‥‥今しかできないお勉強、ですから‥‥」 「もったいないですよぉ。シャンテさんもドレス着て楽しめばいいのに」 軽く首を横に振ったシャンテ。袁もウィリアムも無理強いする気はないので、各々食事に向かったようだ。 そこには鷲尾と亜理紗も来ていたので、袁は主催者(?)の亜理紗に声をかけた。 「こんばんは。素敵な夢をありがとね。そっちも楽しんでる?」 「はいです。あ、娯楽室は第七層にありますので、賭け事はそちらでどうぞ」 「チェック済みよ。本当になんでもありよね、この船」 「そういうコンセプトですから♪」 「んー、美味しいですねぇ。でもこれが最後の晩餐ですか‥‥」 「はい? ‥‥あぁ、そうですね。一日しか居られないですから」 「いや、そういう意味じゃないだろ、こいつが言ってんのは」 「‥‥鷲尾さん、ウィリアムさんには興味ないんですか?」 「あん? だってそいつ男だろ」 「ゑっ!? そうなんですか!?」 「俺の勘がこいつは美少女じゃないと告げてるから間違いないぜ!」 「そ、そんな‥‥ボクが一目で見破られるなんて‥‥!?」 「ふはははは、プロのロリコンをナメるなよ!?」 「自慢にならないことを大声で叫んでるんじゃないわよ‥‥」 「油揚げパフェ‥‥斬新です‥‥」 「あー、どうしよ。フラグを折ったほうがいい気がしてきたわ‥‥主に明日の朝食的な意味で」 まるでフラグを理解しない亜理紗の応対に、流石のウィリアムも拍子抜けする。 頑丈な素材であれば船は沈まない。本気でそう思っているようである。 亜理紗もドレスに着替えており、浅葱たちも交えて華やかな一団が形成される。 むしろ一人だけ男の鷲尾のほうが浮いてしまうくらいであったという。 再開された楽団の演奏。穏やかなBGMを背に、まさに夢のような一時が過ぎていく。 心地良い喧騒。聞き知らぬ音楽。ここには、素敵な音が満ち溢れていた。 さて、パーティーが終わりに近付いてもアルの姿だけは一向に見えない。 彼女はおにぎりやサンドウィッチなどを手配し、機関室の作業員と一緒に食べていたのである。 「おぉ、船長か。お客さんの要望があってね、エンジンの出力を上げたいんだがちょいと進路を東に変えてもらえんか。なに、あとで西に戻せばいいだろう。速度調整は責任をもってやる」 「すいません、無理を言っちゃって」 「構わんよ。船長の承諾も得た。こいつもゆっくりばかりじゃ運動不足になっちまうだろうからな」 伝令菅でブリッジと交渉し、航行ルートを変更してエンジンを回転させる。別にアルは意図してやったわけではないのだが、人知れずフラグ回避は行われていたという――― ●人知れず 「いやぁ、飯も美味かったし、ベットはふかふか‥‥ホント言う事ねェや。ありがとな」 パーティーが終わり、鷲尾と亜理紗は再び甲板にやってきていた。 ドレス姿のままの亜理紗。二人は静かに見つめ合う。 「うぅ‥‥今度ボケたら流石に怒りますよ‥‥?」 「さァ、どうだろな?」 幼なじみ(という設定の)二人。 そろそろ素直になれなかった(という設定の)年月を埋めてもいいだろうか。 「『十七夜』‥‥『亜理紗』‥‥。亜理紗‥‥俺はお前の事を‥‥」 「何も‥‥言わないで‥‥」 亜理紗の影が鷲尾の影に近づき、精一杯の背伸びをする。 思えば、この術は亜理紗の願望から作られたのかも知れない。 星空の下、あと半日の夢を祝福するかのように‥‥二人の唇が重なった――― |