シナリオ形態： ショート 危険 難易度： 普通 参加人数： 8人 サポート： 0人 リプレイ完成日時： 2011/02/28 23:55

■オープニング本文 　天儀の中心都市たる神楽の都。 　様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 　はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「‥‥と、言うわけなの」 「そうですか‥‥大変だったんですね」 「アタシのことはいいのよ。でも、あの子が可哀想で‥‥何でこんなことに‥‥！」 　ある日の開拓者ギルド。 　今日も今日とて業務に勤しむ十七夜　亜理紗のところに一人の開拓者がやってきたのは、なんということはない昼下がりだった。 　その開拓者の名前は、レイア・ジェバ。ジルベリアから渡ってきた魔術師である。 　彼女は石鏡の国のとある村に居を構えているのだが、最近自宅にゾンビ化した甲龍が夜な夜な現れるという。 　しかしそれはレイアにとっても見知らぬ相手ではなかったのだ。 　その甲龍はかつて、アヤカシとの戦いで命を落としたレイアの朋友であるらしい。 　戦いの後きちんと弔ったはずなのに、瘴気に取り込まれたのかゾンビ化。そして何故か、他の民家には目もくれずレイアの家にだけ襲いかかってくるのだという。 「新しく買った朋友の炎龍と力を合わせて撃退してるんだけど、再生力が凄いのよ。甲龍だから防御力も折り紙付きだしね。このままじゃいつご近所の家に被害が出るか分かったもんじゃないし‥‥可哀想だけど、他の開拓者にも力を借りて今度こそきちんと眠らせてあげようと思うの」 「わかりました、依頼書を作成しておきます。あの、お気を落とさないでくださいね？」 「ん、ありがとう、大丈夫。きっとあの子も苦しんでると思うから。でも、何が心残りだったのかしらね。あのアヤカシとの戦いで私を庇ったこと‥‥後悔してるのかな」 「‥‥逆ですよ、きっと。レイアさんのこと守りきれなかったんじゃないかなって心配だったんだと思います。それが瘴気のせいでおかしなことになっちゃったんだと‥‥私は信じたいです」 「‥‥だと嬉しいわ。それじゃ、お願いね」 「はいです。お任せを！」 　開拓者ギルドは開拓者からの依頼も受け付けている。レイアは手続きを済ませると、ゆっくりとギルドを後にした。 　亜理紗が最後に見たレイアの表情は、酷く辛そうで今にも泣き出しそうに見えたという。 　その時、レイアとすれ違いつつ先輩職員の西沢　一葉が亜理紗のところにやってくる。一度、レイアの方を振り返りながら。 「‥‥今の、依頼人？」 「はい。以前、自分を庇って死んだ朋友がゾンビ化してやって来るので、なんとかしてあげたいと仰ってて‥‥」 　それを聞いた一葉は、何故か怪訝な顔する。 　そしてギルドの入口の方を見やり、ぽつりと一言。 「‥‥でもあの人‥‥笑ってたわよ？」 「‥‥‥‥はい？　何言ってるんですか、見間違いですよきっと！　不謹慎ですよ、一葉さん！」 「‥‥そうよね。うん、見間違い‥‥よね？」 　違和感を胸に仕舞い込み、一葉は自分の仕事に戻る。 　兎にも角にも、レイアのご近所一帯のためにもゾンビ化した甲龍は放っておけない。 　甲龍自身のためにも、なんとかしていただきたい―――

■参加者一覧 風雅　哲心（ia0135） 22歳・男・魔 三笠　三四郎（ia0163） 20歳・男・サ 羅喉丸（ia0347） 22歳・男・泰 龍牙・流陰（ia0556） 19歳・男・サ 乃々華（ia3009） 15歳・女・サ からす（ia6525） 13歳・女・弓 鳳珠（ib3369） 14歳・女・巫 シェリル（ib5930） 14歳・女・弓

■リプレイ本文 ●疑問 「死してなお、途切れることのない朋友との絆‥‥美しいですね。という訳で、その美しい友情パワーを最大限に利用し、レイアさん『一人』で突撃して甲龍を誘い出してきてください」 「アンタは一体何を言ってんのよ」 「本気にしないで貰いたい。それより、確認したいことがいくつかある」 「そうですね。ちょっと状況が見えない部分がありますので、確認がてらに」 　石鏡南部のとある村。開拓者であり依頼人のレイア家にやって来た一行は、すぐに作戦会議に入った。 　家の周りは地面に穴が空いていたり草木が焦げていたりと戦闘の跡がそこかしこにあり、確かに近隣の家への被害が懸念される状態である。 　乃々華（ia3009）に思わずツッコミを入れたレイア。そこにからす（ia6525）がフォローを入れ、三笠　三四郎（ia0163）と共に疑問をぶつけた。 　一行は甲龍の死に疑問を持っている。いや、不審感と言ってもいい。だからこそ甲龍が死んだという時の状況を把握しておきたいと食い下がるのだ。 　が、レイアはあっさり頷くとその時の状況を語り始めた。 　ある日、村人からの頼みで山に発生したアヤカシを退治に行った。それは熊のような動物型のアヤカシだったが、甲龍ともタメを張れるほど大きな個体であった。 　レイアは魔法で攻撃を繰り返すが、どうも魔法が効きにくく消耗戦となってしまう。 　やはり一人では限界がある。相手も大分弱っているとはいえ、練力が底を付きかけ甲龍もろとも剛腕の一撃で地面に叩きつけられてしまう。 　地面に投げ出されたレイア。これ幸いと襲いかかってくるアヤカシ。 　もう駄目だと思ったその時、目の前に朋友の甲龍が立ち塞がり、刺し違えるような体勢でアヤカシの攻撃からレイアを守り、アヤカシにダメージを与えた。 　最後の力を振り絞りアヤカシに魔法を放ち、なんとか退治することに成功はしたが、甲龍の傷は深くすでに死亡していたという。 　村人にも手伝ってもらい、丁重に弔ったはずの朋友。しかし何故かゾンビ化して‥‥というのが今までの経緯らしい。 「悲しいお話ですね。できるだけアヤカシか瘴気が原因であって欲しい‥‥」 「この世への未練に瘴気が働きかけたと考えるのは難しくありませんよ」 「俺も甲龍を相棒とするものだからな。心中、お察しする」 　どうも、と目を伏せるレイア。 　完全に信用したわけではないが、シェリル（ib5930）にしろ鳳珠（ib3369）にしろ、疑っていますと言うわけにも行かない。 　それは羅喉丸（ia0347）も同じで、レイアの反応を見つつ会話するが確かに落ち込んでいるようにしか見えなかったという。 「‥‥どうにも引っかかるんだよな。普通に扱ってれば龍が簡単に死ぬはずないんだが」 「‥‥そうですね。依頼人の言葉を全てそのまま受け取っていいのか悩みまして、少し確認してみたことがあるんです」 　風雅　哲心（ia0135）と龍牙・流陰（ia0556）は、あえてレイアに聞こえないように話をしている。 　ギルド職員の西沢一葉が見たという謎の笑み。その話さえなければこんなに悩みはしなかっただろうが。 　龍牙は付近の住民に朋友絡みでレイアのことを聞いて回ったのだが、そこで妙な話を耳にした。 　レイアは甲龍の世話をしているとき、溜息をつくことが多かったという。しかし新しく炎龍を朋友としてからは笑みを浮かべるどころか鼻歌さえ混じるようになったらしい。 　ご近所では、朋友を亡くした経験からより朋友を大事にするようになったのではと言われているが‥‥。 　夕日が沈みかけ、そろそろ辺りが暗くなってくる。準備をするなら早めにしないとまずい。 　幸いゾンビ甲龍の移動ルートは割れている。かがり火を持ち出し、村外れの広場で戦うことは決定済みだ。 　かくして、すっきりしないまま戦いは始まろうとしている。 　夜の帳が、その合図――― ●真実 　すっかり暗くなった村外れに、開拓者が用意したかがり火が明かりを灯していた。 　ゾンビ甲龍が必ず通るというこの場所を戦場とすれば、村に被害が出ることもない。 　囮役を頼まれたレイアはふたつ返事でＯＫし、かがり火の中央で炎龍と共に待機している。 「‥‥あっさり引き受けましたね」 「うーむ‥‥あそこまでやれるなら本当に甲龍のことを思っているのかも知れないな」 　シェリルと羅喉丸の見つめる先では、神妙な面持ちのレイア。 　やがて、遠くからズン、ズンという地鳴りのような音が響きだす‥‥！ 「来たようだ。各方、準備はよろしいか？」 「はい。それに際して、僕と風雅さんから提案があるのでお耳を拝借できますか？」 　からすに耳打ちする龍牙。内容を聞いたからすは一瞬眉をひそめたが、自身も思うことがあるのか追求や反対はなかった。 　他の面々も話を聞かされたらしい。かがり火に照らされながら、静かに頷きあった。 　響き渡る足音はすでにかなり近い。そう思っているうちに、黒い影が闇から出現する。 　かがり火によって照らし出された甲龍は、羽はボロボロ、腹には大きな爪による抉り傷があり、肉がバックリ割れている。そして胸には致命傷となったであろう大きな風穴。 　どう控えめに見ても死んでいないほうがおかしい。彼の目玉は、腐りかけているのか瞳部分から落ち歩くたびにぶらぶらと揺れている。 　ゾンビ甲龍はレイアの気配を辿っているのか、まっすぐ彼女に向かっていく。 　ゆっくりとした足取り。レイアは構えを取ったまま、開拓者の援護を待つ。 　一歩。また一歩。ゆっくりとではあっても、確実にレイアとゾンビ甲龍の距離は縮まる‥‥！ 「ちょ‥‥ちょっと、そろそろ出てきてよ！？」 「レイア。こいつは死して尚お前に会いたいが為にこうやってきてるんだ。何とか言ってやれよ」 「言って聞くなら依頼を出したりしないわよ！」 「悲劇から目を逸らしても、余計に辛くなるだけです。まあ、誰にとっての『悲劇』なのかは、私の知るところではありませんけれど」 　風雅の提案でギリギリのギリギリまでレイアを追い詰めてみることにした一行。 　乃々華の皮肉も今のレイアには聞いている余裕はない。恨みがましく歩み寄ってくるかつての朋友に顔をひきつらせる。 「じょ、冗談じゃない！　レウス、やりな！」 　ヒステリー気味に叫び、炎龍をけしかけるレイア。 　そのリアクションで一行は理解する。彼女は嘘をついて依頼を出した。真実は別にある、と。 「本当のことを仰ってくださらないと助けられませんよ？　人間を襲うなら龍と共に生きる者として断じる必要がありますが、それはあなたにも言えることのようですね」 　三笠の台詞に、焦った顔で開拓者を見回すレイア。冷たい視線に囲まれていることを悟ったのだ。 　普通の甲龍なら炎龍といい勝負かも知れないが、ゾンビ化し再生能力がある以上一人と一匹ではジリ貧になるのは必定だ。 「アンタたちも開拓者なら依頼主を守る義務があるでしょ！」 「お前も開拓者なら虚偽の依頼で開拓者を騙すことの怖さを知ってるだろ？」 「ぐ‥‥！」 　風雅の冷たい一言にぐうの音も出ないレイア。 　歯噛みをし、半ばヤケクソ気味に叫び出す。 「あぁそうだよ、アンタたちが疑ってたとおりさ！　アヤカシとの戦いに乗じてこいつを殺したんだよ！」 「馬鹿な‥‥何故そのようなことを！？」 「気に入らなかったからに決まってるでしょ！　アタシゃ男でも動物でも草食系ってのが嫌いでね！　手違いでこいつを押しつけられてうんざりしてたのよ！」 「あらまぁ、朋友を使い捨て扱いするなんて度胸がありますわね」 「ハン、所詮はご主人様に仕えるペットでしょ！　ご主人様を守って死ねたなら本望だろうに、化けて出るなんてこいつはつくづく役立たずさ！」 「いい加減にしてください！　そんなものは傲慢です！」 「御託はいいからさっさと加勢してよね！　依頼失敗にしたくないでしょ！？」 　羅喉丸、乃々華、シェリルの言葉も届きはしない。すでに炎龍は地面にたたき伏せられた。 　爪痕も焦げも、ゾンビになってから受けた傷だけは再生していく。このまま放置すればレイアはまず間違いなく殺されるだろう。 「‥‥なんだか、依頼失敗でもいいような気がしてきましたけどね。仕方ありません、やりますか」 「ですね。ここで放棄するのはあの甲龍にとって哀れです」 「そうだな。しかし、後で覚えとれよあの女‥‥」 　龍牙、鳳珠、からすはため息を吐きながらも援護に走った。 　恨む気持ちは分かる。しかし、もう安らかに眠るがいい。そう憐れみながら。 「ごめんね‥‥ごめんね‥‥！　どうか、安らかに‥‥」 「貧乏くじを引いたものだなぁ‥‥」 　涙を流しながら強射「朔月」を叩き込むシェリル。からすと共に遠距離攻撃の担当だ。 　再生能力は伊達ではないと分かった以上、一気に押しこむ必要がある。加減は禁物だ。 「浄炎でも、焼き尽くせない。それだけ頑丈、と言う事か‥‥」 「ゾンビ化するほどの恨み‥‥せめて、忘れさせてあげましょう」 「共に生きる相棒と、どうして見てあげられなかったんでしょうね‥‥」 　鳳珠を下がらせ、三笠と龍牙がゾンビ甲龍の両足をそれぞれ攻撃する。 　ちらりと見たレイアは、やれやれと息を吐いているところだった。 「そんな姿になっても帰ってきたのも哀れ。眠れ、この一撃で。迷える魂に安息を」 　体勢を崩したところに羅喉丸が玄亀鉄山靠を叩き込む。 　甲龍が他の朋友に比べ防御が優れていると言っても、内部に衝撃を通すようなこの技の前では差など無い。 　気力を振り絞った魂の一撃に、５ｍ近い体躯の甲龍が大きく吹っ飛ぶ！ 　地面をこすり、それでも起き上がろうとするが‥‥ 「私、人の努力を無駄にするのは嫌いではありません」 　隆気撃で気を足に収束し、起き上がりざまの横っ面を蹴り飛ばす乃々華。 　そして、そこに風雅が走りこむ。 「このまま眠らせてやるよ。閃光煌く星竜の牙、その身に刻め！」 　星竜光牙斬（白梅香＋秋水）。風雅必殺の奥義である。 　瘴気の浄化は関係なくとも威力は上がっている。正確に頭を狙い、刀が一閃する。 　今までの仲間の攻撃でかなりのダメージがあったことも手伝い、その一撃は完全に頭をたたき割った。こうなると瘴気になって消滅してくれないのが逆にしんどいくらいだ。 　骸の骸となった甲龍。流石にもう動けない‥‥ 「は‥‥あははははっ、やった、これでもう安心！　ったく、どこまでもトロいやつだったわ！」 　レイアはそう言って甲龍の骸を蹴り飛ばす。そこへ風雅が掴みかかった。 「手前ぇ、朋友を何だと思ってやがる。もし駒みたいに見てるんなら、手前ぇを許すわけにはいかねぇな‥‥！」 「何熱くなっちゃってるわけ？　いいじゃないの、依頼達成は達成したんだし。アタシたち開拓者の仕事は依頼主の要望に応えること。ＯＫ？」 「間違ってはいないが、その言い草を許すほど俺は人間が出来ていないぞ‥‥！」 「鬱陶しいねぇ、アタシの勝手でしょ。さ、依頼が終わったらさっさと帰れば？」 　羅喉丸の怒りも右から左。危機が去ったら後はどうでもいいらしい。 　確かに今回の依頼は違法なことをしているわけでなし、他人に迷惑がかかりそうだからという理由としてはまっとうなものだ。しかし、その原因に吐き気をもよおすような邪悪さが潜んでいたのである。 　すたすたと村に戻るレイアと炎龍。開拓者たちはそれに目もくれず、甲龍を火葬にして弔った。 「恨むなとは申しません。許してくれとも申しません。それでも‥‥どうか、安らかに―――」 　鳳珠が舞う鎮魂の舞が、かがり火と月光に照らされて閃く。 　主を選べない朋友の悲しみが、煙と共に天に登ってゆく―――