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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「ちょっと緊急の依頼が入ったわ。亜理紗、質疑応答の準備お願いね」 「はい? それは構いませんけど、一体何があったんですか?」 ある日の開拓者ギルド。 通常通りに営業し、そろそろ業務終了かと思われた時刻になって、職員の西沢 一葉は一枚の依頼書を片手にやって来た。 後輩職員の十七夜 亜理紗は訝しむ。いくら緊急と言ってもこんな時間に依頼書が回されてくることはあまり無かったからである。本島の本当に緊急事態ということかも知れない。 「手短に説明するわよ? 五行の国で厄介なアヤカシが発生したの。それが大挙して五行の首都に押し寄せようとしてるから、何とかして欲しいっていうこと」 「うわ‥‥つ、強いんですか、そのアヤカシ」 「いいえ、全然」 「あれっ!?」 「外見は真っ白くて可愛い子猫みたいで、攻撃方法も噛み付くだけ。しかも甘噛みみたいな威力で一般人でも『痛い痛い』くらいで済んじゃうらしいの。勿論死人は出てないわ」 「そんなの、いくら発生しても問題ないのでは‥‥」 「そうもいかないの。そいつら、物理攻撃をしかけると分裂するのよ。しかも可愛い声で『僕を右ストレートでぶっ飛ばしてよ!』とかわざわざ攻撃を誘ってくるんだって。ちなみに会話はできないわ。一方的に喋るだけみたい」 可愛い外見に攻撃を躊躇する者も多数出たそうだが、流石に何十匹何百匹となると笑えなくなってくる。 かと言って耐えかねて攻撃すれば分裂。しかも一般人が叩いたり石を投げたりしても分裂するというのだから厄介だ。 今回の依頼には、魔術師などの広範囲術攻撃を持つ開拓者が向くだろう。 「一応、白梅香とか炎魂縛武、精霊剣なんかの『武器に術的な効果を帯びさせた物理攻撃』では分裂しないことが確認されてるわ。やっぱり術そのもののほうが確実だけれどね。一応対応リスト作っておくから、参加者さんに質問されたら分裂するしないを答えてあげて」 「了解です。‥‥ってこれ、相談期間短いですね!? 二日だけですか!?」 「だから緊急なのよ。もう首都の結構近くまで来てるの。もし人口の多い首都クラスの町に連中が入ったらどうなると思う? 振り払おうと叩くだけでも分裂するんだから、ねずみ算式に数が増えていずれは天儀中に広がっちゃうかも知れないでしょ」 「本当に魔術師さん大活躍の予感ですね‥‥」 強さではなく、数そのものが驚異となる新種のアヤカシ。 いくら可愛い外見でも‥‥いや、可愛い外見だからこそ恐怖を呼び、それが力となるのかも知れない。 普通の物理攻撃では倒せないどころか分裂し数を増やす。さて、みなさんはどう戦うのでしょうか――― |
■参加者一覧
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
ワーレンベルギア(ia8611)
18歳・女・陰
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
宮鷺 カヅキ(ib4230)
21歳・女・シ
リオ・オレアリス(ib5389)
17歳・女・魔
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●アヤカシじゃなかったら嬉しいなって 今更ではあるが、アヤカシというのは多種多様な外見を持っている。 人類の敵であるという共通点は変わらないが、中にはとてもやりにくい外面のものも存在していたりする。 それが顕著なのが、今回のアヤカシたちである。 「何て可愛い猫達。あれを倒さなければいけないなんて!」 「‥‥可愛い。可愛すぎます。これでアヤカシなんで反則です。凶悪です」 白い毛並みの子猫の姿をした件のアヤカシたち。 街道を進む彼らの姿は、猫愛好家なら悶死してもおかしくないほど愛らしい。 現に各務 英流(ib6372)やエラト(ib5623)のように心奪われる者も少なくはないのだが、アヤカシである以上戦わざるをえない。 しかし? 「目の前にするとなんと言いますか‥‥煽られるまでもなく殴りたくなる方も出てきそうな。不思議な感覚ですね」 「『右ストレートでぶっ飛ばしてよ』‥‥ですか? 出来るなら 叶えてやりたい その願い」 「しかしあれだ‥‥可愛いな‥‥! これがアヤカシでなければ全力でついていってもよいくらいなのに‥‥! 世は無常であるな‥‥あぁ勿体無い‥‥」 可愛いのは認めているのだが、何故か敵意というか胡散臭さを感じているメンバーも居る模様。 斎 朧(ia3446)や宮鷺 カヅキ(ib4230)がその筆頭であり、紬 柳斎(ia1231)もわざわざ特別な衣装を来ての参戦である。 こんなに可愛いのにそんな反応をする。わけがわからないよ(何) 「紬さんのウサミミ、可愛いです‥‥。服も可愛めの物で統一されてますね‥‥お、お好きなんですか?」 「いや、これは‥‥」 「うーん、可愛いのは確かですけれども、正直少し似合わないような‥‥」 「じ、自分で着て来たんじゃない! 友人に無理矢理だな‥‥!」 「紬さん、戦闘前ですよ。ファッションショーは終わった後にねっとりと‥‥いえ、しっかりと」 「私か!? 私が悪いのか!? しかも微妙に台詞を言い直したよな!?」 紬は巷で噂という魔法侍絵巻(?)を意識した可愛い格好をしている。 女性ばかりの参加者たちにはわりと好評で、ワーレンベルギア(ia8611)は目を輝かせているし、朽葉・生(ib2229)はツッコミを入れつつも嫌いではなさそうだ。 リオ・オレアリス(ib5389)だけがズバッと冷静に批評するも、ここは一旦仕切りなおしたほうが良いだろう。 閑話休題。気をとり直した一行は、街道を進むアヤカシたちへの対策を実行に移し始める。 遠くで左折し、あとはこちらに真っ直ぐ向かってくるアヤカシたち。このままでは、何百という子猫ちゃんたちに囲まれることになるが‥‥? 「よし、いくぞ! 囮になる者は拙者に続け!」 紬の号令の下、朽葉と各務、宮鷺が懐から一斉に何やら取り出す。 それは‥‥猫じゃらしやら魚やら―――! ●そんなの私たちが許さない 「僕をかかと落としで粉砕してよ!」 「僕を肘鉄でぶち砕いてよ!」 「僕を張り手でたたき潰してよ!」 アヤカシたちは街道を逸れ、川辺を走る開拓者四人を追いかけている。 高温の可愛らしい声で、口々に自分たちに危害を加えるように言うアヤカシ。意思の疎通ができないらしいのでただ決まった台詞を言っているだけのようだが、意外とパターンがあるようだ。 「流石猫、こうかはばつぐんですね」 「叩いては駄目だと分かっていますが‥‥自分の鉄壁の理性でもやはり腹が立つ‥‥!」 「可愛いのに口が悪い‥‥ギャップ萌えですね」 「いや、あれは口が悪いというのか‥‥?」 アヤカシたちを先導するため、必死に予定のポイントまで走る四人。 しかし、意外と連中の足が速い。人を見つけると全力疾走でもするのか、街道を進むだけの時より確実に速くなっている。 あと少し、もう少し。先回りした残りの四人の姿が見えてくる‥‥! 「皆さん、先に行ってください! 私一人の犠牲で街が助かるなら‥‥!」 と、各務だけが立ち止まってアヤカシたちと対峙する。 確かに最後の最後に足止めする役が入れば助かるといえば助かるが、それはそれで問題もあるのだが‥‥。 「ちょっ、おまっ!」 「駄目です、紬さん。走ってください」 「‥‥彼女、猫と戯れたかっただけなんじゃ‥‥」 ツッコミを入れる間もなく、各務は軽く三桁を越えるアヤカシたちに飲み込まれた。 ふわふわの毛や肉球が引っ切り無しに各務をもみくちゃにしている。 「僕をストンピングで踏みにじってよ!」 「僕を手刀でたたき割ってよ!」 「僕をアイアンクローで握りつぶしてよ!」 口々にドMっぽい台詞を吐きつつ、各務に噛み付いていくアヤカシたち。 しかしそれはまるで甘噛みで、痛気持よくすらあるからたちが悪い。 「あ‥‥そこはダメッ‥‥お願い、もっと優しく‥‥」 ドォンッ! という重低音が響き、各務とその近辺にいたアヤカシたちが纏めて吹っ飛ばされる。巻き添え覚悟だったろうから、各務に文句はあるまい。 術の範囲にいたアヤカシたちはあっという間に消滅する。やはり耐久力もまるで大したことはない。 攻撃したのはエラト。重力の爆音の発生源に気づき、アヤカシたちは次々にエラトの方に顔を向けた。 「うう〜ごめんなさい。これも依頼なんです。ああ、そんなつぶらな瞳と声を私に向けないで下さい〜」 幸せを満喫した各務から、エラトたち待ち伏せ組の方へ突撃していくアヤカシたち。 それを許すまいと、宮鷺は巨大な猫じゃらしを振ってアヤカシたちの注意をひく。 「ねこじゃら師‥‥いや、何でもありません」 その隙を突き、アヤカシたちの前方に朽葉が作ったアイアンウォールが出現。その行く手を阻んだ。 壁は一つだけではなく、次々と出現していく。完全に囲いきるのは無理なようだが、前方〜側面は完全に塞いだ。迂回するような知恵もないようだし、これで充分か。 そして回りこんだ開拓者たちは、渋滞を起こしているアヤカシたちに満を持して魔法攻撃を仕掛けていく。 「どこかの引きこもりの王様が絡んだ式とかじゃないんですよね? 五行の首都に向かってるのは関係ないんですよね? あれはアヤカシ、あれはアヤカシ‥‥」 「よりどりみどりというやつですね。はい」 「逃がしませんよ。取りこぼしは私にお任せを」 ワーレンベルギアが火炎獣、リオがブリザーストームで一網打尽にしていく。 悲鳴すら上げず消滅していくアヤカシたち。たまたま範囲に入らず攻撃してこようと突っ込んでくる個体も、斎が浄炎で潰していく。 「今度産まれて来る時は、アヤカシではない普通の猫に生まれて来なさい‥‥」 「いや、今更格好付けてもねぇ」 共に火遁で攻撃に加わる各務と宮鷺。確かに子猫を虐殺しているようで気分がいいとは言えないが、少なくとも猫は『僕を右ストレートでぶっ飛ばしてよ!』などとは言わない。 「もっと違う形で出会いたかったものだ‥‥このような存在でなければ契約と言うものを交わしてもよかったのに‥‥」 足元に寄ってきた一匹を、試しにポカリと叩いてみる紬。 すると、ポンッと言う音と共に全く同じ白い子猫が分裂して現れる。 お互いが小さくなっているわけでもなく、どういう理屈かは不明だ。しかしこの程度の衝撃で分裂されるのではやはり放置しておくわけにはいかない。 一匹一匹は弱くとも何千何万になられては困る。現状ですら駆除しきるのに苦労しているのだから。 分裂させたアヤカシを戦塵烈波で葬った紬に、ブリザーストームで掃討戦を行っていた朽葉が声をかけた。 「紬さん、大分数も減ってきました。今こそ『焙烙爆殺』の出番です」 「‥‥さっきから思っていたが、おまえさん淡白そうに見えて結構可愛い物好きなのか‥‥?」 言われるまま用意してきた焙烙玉を取り出す紬。 着火しようとしたところで、今度は斎から声をかけられる。 「あら素敵。ポーズも期待してよろしいのでしょうか」 「するな!」 「か、可愛いは正義ですから‥‥是非‥‥!」 「可愛い猫さんたちを倒すのですから、やっぱり可愛い手段も欲しいです!」 「いや そのりくつはおかしい」 「大丈夫です、私も手伝いますのでダブル必殺技で。あぁ、私はポーズはしませんけれど」 「おィィィ!? あぁもう、こうなれば自棄だ! もう何も怖くない!」 ワーレンベルギアとエラトも加わり、何故か紬包囲網が出来上がる。 赤面しながらもビシッと何かのポーズを取り、ウサミミを揺らしながら焙烙玉を投擲する紬。 背後〜側面までをアイアンウォールで塞がれているため、爆発から逃げることができないアヤカシたち。 すでに火炎獣で焼かれ、ブリザーストームで凍死し数を大きく減らしていることもあり、ダメ押しの攻撃で勝敗はほぼ決した。 ざっと見で残りは50匹いないだろう。あとは一匹も逃さないよう掃討するだけだ。 後詰の陰陽師部隊は、もう必要ないだろう――― ●本当の気持と向き合った結果がこれだよ! 「というわけです、亜理紗お姉様! 私英流は、見事やり遂げて参りましたっ!」 「ご、ご苦労様です。というかですね、各務さんの方が年上ですよね‥‥?」 「年齢も性別も、愛と運命の前には関係ないですよね、お姉様‥‥」 「関係ありますよぅ!?」 自分が報告に行くと言って聞かなかった各務は、ギルドに戻り亜理紗を前にして目をキラキラさせていた。 前に見かけて運命を感じたそうなのだが、亜理紗の方は各務のことをよく知らない。 「あぁお姉様、英流は大層なことを望んでいるわけではありませんの。どうか苦労を労い、褒めてくださいまし! それだけで英流は満足ですわ! ‥‥今は」 「今『は』!? えっと‥‥その、ほ、褒めてあげます。いい子いい子‥‥」 「はぁぁぁん! おねえさまぁぁぁん!」 「うぅ‥‥わりとついて行けないテンションです‥‥」 亜理紗に頭をなでられ、夢見心地の各務。 新たな出会いと、ちょっぴりの羞恥を生み出しながら、増えるアヤカシの物語は幕を閉じた。 流石に、いくらでも代えがあるというわけではあるまい――― |