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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 長きにわたり、開拓者たちと激戦を繰り広げてきたアヤカシ集団、セブンアームズ(以下SA)。 元は七人いた彼らも、その数を四体に減らしている。いや、これだけの時間開拓者に狙われつつ半分以上残っていることを評価するべきだろうか。 人を狩り、喰らうアヤカシ。人並みの知恵があり、意思の疎通ができるが故に生じた悲喜こもごもは多い。 しかし、最後に姿を現した彼らは今までと少し様子が違った。 今までは術のダメージを防ぐ黒いマントを身に纏い、フードをすっぽり被って素顔を隠していたSAたち。それなのに、とある神社にマントもフードもなしに現れ、文献などを盗み見していたのである。 その内容は、付喪神信仰について。七つの武器を自在に操るからセブンアームズとはいえ、それが何を意味するのか当初は分からなかった。 様々な予想と談義がなされ、その中に『SAは武器のアヤカシであり、それが人間形態に変化したのではないか』『付喪神信仰の概念を以て死んだ仲間を生き返らせようとしているのではないか』など、それらしいものも散見された。 あれからなかなか姿を現さなくなったSAたち。しかし、ついにその足取りが知らされたのである。 「SAたちらしき姿が目撃されたのは、石鏡極北の山岳地帯です。もうギリギリ国境っていうくらいの」 開拓者ギルドの職員、十七夜 亜理紗は、依頼書を手に説明を行う。 石鏡の猟師が見かけたという山中の黒マントたち。素顔でいても銀髪に赤い瞳の集団は目立つだろうが、黒マントの集団となると最早言い訳ができないレベルだ。 SAたちは迷っている感じはせず、きちんとした目的地があるように思われたという。 「とりあえず、SAの一人が槍を持っていたことだけは確認できたそうです。槍を使うSAだった撃槍のクランはすでに撃破されているので、何らかの意図があって所持しているんでしょうね。石鏡からの依頼の趣旨は、SAの追跡及び必要と有らば攻撃、です」 仮に仲間の復活を目論んでいるのだとしたら、到底看過できるものではない。今までの苦労を水の泡にするわけにはいかないのである。 終焉へと向かう予感のするSAたちとの戦い。真実と戦いの行方は、開拓者のみが導けるのである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
朱月(ib3328)
15歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●雪山にて 四月。春が訪れ、日増しに暖かくなっていく季節の変わり目である。 しかし標高が高い山ともなれば、未だ雪化粧のまま冬の様相を残しているものも多い。 石鏡にあるこの山もその一つ。開拓者たちは上空から一頻り銀世界を眺めた後、龍たちに指示し地上へと降りていく。 相手の遠距離攻撃を警戒し、龍を使うのは麓までということにしたらしい。先に進めば進むほど着陸や待機をさせる場所もなくなっていくだろうから、この判断は妥当と言える。 ざく、と小気味よい音。麓の方にもまばらではあるがまだ雪がある。 一行は頷きあうと、すぐさま登山を開始する。セブンアームズ(以下SA)たちは、何日も前に山に入るところを確認されている。追いつくためには一刻も早く進む必要があるのだ。 「あいつらホントに只のアヤカシなのかネェ‥‥」 「そうね‥‥会話ができる、という時点で珍しい部類に入るのは間違いないけれど‥‥」 「人間臭すぎるって言いたいんでしょ? 分かるよ、アヤカシじゃなかったら友達になれそうだったもん」 周りへの警戒は怠らずに進む一行。そんな中、鷲尾天斗(ia0371)が不意にポツリと呟いた。 それに応じた煌夜(ia9065)と小伝良 虎太郎(ia0375)は複雑な表情をする。SAとも付き合いの長い面々だけに、思うことは色々あるのだろう。 『何のアヤカシか』というのも定かではないSAたち。笑い、泣き、怒り‥‥仲間との絆を大事にする。それはまるで開拓者のようでもある。 違うのは、人を食すること。故に、共存できようもないということ‥‥。 「付喪神信仰などを持ち出したからには、やはり武具のアヤカシなのでは?」 「その可能性は高いでしょう。しかし、それが何故人の姿をしているのか‥‥」 「私は彼らについて皆さんより疎いのですが、何かしらの必然性があったからあの姿になったのでしょうね」 无(ib1198)の発言は、以前にも議論されていたことである。それが付喪神信仰を調べていたということで濃厚になってきたというところだろうか。 付き合いの長いレネネト(ib0260)にも、久々にSAに関わるジークリンデ(ib0258)にも、SAの起源や今回の行動については大まかな予想しかできない。 隠密行動が得意なはずのSA。それが見つかるヘマまでして何を急いでいるのか。 急ぐ理由が仲間の復活なのだとしたら、やはり彼らは武具の――― 「ふぇっくしゅっ! うぅ、やっぱりまだ寒いですねぇ」 「そりゃ雪山だもんよ。準備不足なのだぜ!」 ずず、と鼻をすすりつつ朱月(ib3328)は自分の腕を何度も擦る。 えっへんと胸を張る叢雲 怜(ib5488)に限らず、朱月以外のメンバーは全員何かしらの防寒対策をしてきていた。 真冬ではない分いくらかマシとは言え、防寒着がないとやはり寒い。登っていけば更に顕著になるだろう。 朱月には超越聴覚で頼りにさせてもらうことになるので、できれば集中出来る環境であって欲しかったが‥‥。 「まぁ、考えても答えは出ないか。それにどんな答えだろうとヤル事は変わらんしなァ」 結局、そう締めるしか無い。議論は大切だが、解は本人たちに聞きでもしない限り分かりはしないのだ。 まぁ、それでつけられる心の整理もある。そう、皆の空気が弛緩した時だ。 「止まってください! 足音が聞こえます。あっちの方向、数は2」 小刻みに震える朱月が、とある方向を指さしてそう呟く。 SAがうろついていることは近隣の人間も知っているはず。素人がふらついているというわけではないだろう。 ならば開拓者か? いや、それも否だ。SAの相手を一人で出来ると豪語できる人間が世界に何人居るのやら。 一行は頷きあうと、朱月が示した方向へと駈け出して行く――― ●屁理屈 「‥‥‥‥!」 そこには、黒いマントで体をすっぽり覆い、フードを目深に被り顔すら見えない人影が二つ。 今更確認するまでもない。誰かは分からないがSAのうちの二人だ。 SAたちは一瞬どういう行動をとろうか迷った後、何故かフードを取り顔を見せることを選んだ。 「キュリテにシエル。こんなところで何をしているの?」 「何をとは白々しい。わらわたちを追ってきたのであろうが。それこそよくもこんなところまで‥‥!」 「その様子ですとよほど私たちに来てほしくなかったようですね。これは当たりかな」 煌夜の問いかけに、操球のキュリテは苦々しそうに応える。 もう一人、瞬鎚のシエルは感情少なげに沈黙したままだったが、キュリテの反応だけで无には充分だった。 今までは開拓者とかち合っても余裕があったSAたち。だが今日のキュリテは明らかに不愉快だという顔をしている。つまり、顔見知りで強いと分かっている開拓者たちが来ることで目的の邪魔をされるのではないかと思っているのだろう。 そしてそれは、どうしても邪魔をされたくないのだということにも繋がる。 「まさか本当に死んだ仲間の復活を? だとすれば、許すわけには参りません」 「‥‥な、なんのことかのう。わらわにはさっぱりわからんぞ」 「ふーん。じゃあ何で槍とか持ってたの? 見られてたんだよ、君たち」 「んなっ‥‥! そ、その、登山用の杖がわりにじゃな‥‥」 「‥‥キュリテ、嘘下手」 「やかましい! お前はいったいどっちの味方じゃ!?」 レネネトの言葉に、あからさまに視線を背けるキュリテ。小伝良が駄目押しの情報を突きつけると、最早見ているこっちが恥ずかしくなるようなリアクション。 兎にも角にも、SAたちが仲間の復活を試みようとしていることはほぼ確実となったわけだ。 「邪魔する前に一つだけ聞かせてくれや。‥‥お前等は、誰かに作られたのか?」 「‥‥そういうわけではない。まぁ、少々特殊だとは思うがの。閑話休題、邪魔をするじゃと? 今度はそちらからルール違反するつもりかえ?」 「うんにゃ、ルール違反にはならないのだ。俺達は『盗まれた武具の奪還・破壊』を請け負ってきたのだぜ」 「素直に返していただけるのであれば戦闘にはなりませんが‥‥いかがでしょうか?」 「ぐぬぬ」 鷲尾がきっぱりと邪魔をすると宣言し、叢雲とジークリンデに畳み掛けられキュリテは言い返すことができない。 やはり付喪神信仰の神社で供養待ちの武具を盗んでいたらしい。今は所持していないようだから、他のメンバーが預かっているのだろうか? 「ちっ‥‥ジーク、ダシオン―――」 キュリテが何やら呟こうとした時、その着物の袖をシエルがくいっと引っ張った。 そして目で訴える。よせ、と。 「‥‥‥‥そんなの、知らない。濡れ衣」 「オイオイ、嘘はダメだぜシエル。キュリテはもう白状したようなもんじゃねェか」 「‥‥知らない。しつこいと、ドラ焼きの人でも、怒る」 そう言って、身の丈ほどもある巨大なハンマーを出現させるシエル。やる気ということか。 ちらりと朱月の方を見るシエル。どうやら耳が良いやつがいると分かっていたらしい。 SAの特殊な遠距離会話は口に出さないと効果がない。よって、小声ではあっても聞き取れさえすれば内容を把握できるのだ。 つまり、キュリテが言おうとしていたことは開拓者に聞かれたくないこと‥‥ということになる。 「い、意外と頭がイイんだね。けど、ボクたちもはいそうですかと退けないんだ」 「‥‥キュリテ」 「わかったわかった。おぬし、いつになく必死じゃな」 朱月に限らず、開拓者に退く気はない。それを感じ取ったキュリテもまた、シエルと同じようにトゲ付き鎖鉄球を出現させる。 雪のせいで足場は悪い。だが、それはお互い様であり条件は同じ。 キュリテが鉄球を投げつけてくるのが、戦闘開始の合図となった――― ●命の重み 「今迄君らが食べてきた人達も、誰かにとっては『復活させたい程大事な人』だった。だから許せない。君らも、守りきれなかった自分自身も」 「体から離れて間もないならともかく、魂が還った後に呼び戻す? それは許しませんよ。その魂のためにも」 「わらわたちはアヤカシじゃ。アヤカシに生まれてきたことが悪だとでも言うか。人を喰う前に死ねばよかったのか? 勝手なことを言うで‥‥ないわ!」 鎖を巧みに操り、横から薙ぎ払うように鉄球を振るうキュリテ。小伝良はそれを器用にしゃがんで躱して見せる。 親しかった人を生き返らせる方法があるなら、誰でもそれを試してみたい。可能性にすがってみたいと思うのはアヤカシでも同じらしい。 「一応、お前たちの邪魔をするのが目的だがよォ。チィっと間違って倒しちゃったらゴメンなァ!」 鷲尾の武器が桜色の燐光を纏う。言葉の割に殺る気満々である。 その剣閃を、シエルはハンマーで受ける。そして受けたと思ったらもうすでに移動し次なるターゲットに攻撃をしかけている! 「くっ! 速い上に重いとか‥‥!」 「‥‥ちょっと、本気」 煌夜は振り下ろされたハンマーを、白梅香を発動した刀で受ける。 即浄化されバターを切るかのようにハンマーが両断される。そうなることはシエルも予想していたのか、すぐに離脱してハンマーを再生成した。 「うーん? これってどういう理由で戦ってるのだぜ?」 「おそらく、あちらとしては『武具を盗んだという因縁をつけられた』ということにしているのかと。もっとも、SAが武器を持ち出したのは確実でしょうからこちらに退く理由はありません」 「そっか。なら‥‥狙い撃つのだぜ!」 ガウン、と叢雲の銃が文字通りに火を噴く。 しかしキュリテはそれを見越しており、手首のスナップで鎖を操りその部分で弾丸を受け止める! 「撃たれると分かっておればこういう対処もできる。いつまでも銃とやらがアドバンテージになると思うでないわ!」 「ならこういうのは如何でしょう。朱月さん」 「ふえっくしゅ! り、了解です。あんまり、忍術って得意じゃ無いけど‥‥これくらいはね」 ジークリンデと朱月が何やら術を発動する。すると朱月の影が伸びると同時に、地面から蔦が出現し伸びていく。影がキュリテを、蔦がシエルをそれぞれ絡めとる! ジークリンデの知覚は凄まじいレベルであり、とてもではないが抵抗などできはしない。まぁ、どちらの術も全く動けなくなるというわけではないのだが。 「くっ、鬱陶しい! そこまで邪魔をしたいか!」 「当たり前でしょ。今でさえひいこら言ってるのに、また復活なんてされたらたまったものじゃないわ。‥‥それにね」 煌夜は、鋭かった戦う表情を緩めた。それは、その言葉が本心から出ているからだ。 その顔は、今にも泣いてしまいそうで――― 「それに‥‥もう一度クレルを倒すのは、ごめんよ‥‥」 「な―――」 感情があるから、煌夜が本気で言っていると分かってしまう。それで苦しい思いをすると分かっていても止められないのだ。 「おいらもだよ。‥‥二度も殺したくない、苦しい思い、させたくないよ」 小伝良もまた、悲しそうな顔をする。SAだけではない、開拓者もまた人間的すぎるのだ。 それでも許しておけない‥‥黙ってはいられないのが、人間とアヤカシとの溝。 「‥‥っ!」 突如、耳障りな雑音がシエルを襲う。レネネトのスプラッタノイズである。 黒マントでも防げない混乱を誘発する術。逃がすまいとするための方策であったが、それは予想外の結果を生んだ。 「あ‥‥あぁぁぁっ! クレル‥‥クラン! リュミエール! 戻ってきて‥‥戻ってきてよぉ!」 『!?』 突如、感情を爆発させるシエル。歳相応の少女のように泣きじゃくる。 「うぁぁぁ! ジーク、ダシオン、キュリテぇ! 助けて‥‥私を助けてよぉ! みんなで一緒に居たいよぉ! うわぁぁぁん!」 「し、シエル!? こやつ、混乱すると本音をいうタイプかえ‥‥?」 誰もがその光景を信じられず呆然としていたが、叢雲が一番先に我に返る。 そして、後ろめたい気がしつつも銃を構え‥‥ 「‥‥そんなに都合良くはいかないか」 すぐに照準をシエルから切り替える。遠くから二人の黒マントが駆けてくるのが見えたからである。 二人とも武器を出しており、一人は矢を引き絞った状態で疾駆している。シエルを撃っていたら叢雲も貫かれていたことだろう。 キュリテたちもそれに気がついたのか、増援を待ちつつじりじり後退する。 「ったく、遅いと思ったらこういうことか。面倒くせぇなぁ」 「ひっく‥‥ひっく‥‥ジークぅ。クレルは? クランは? リュミエールは?」 「‥‥まだだ。なかなか上手くいかなくてな」 「ジーク。ごめ‥‥ううん、邪魔しに来たよ。武器を取り返しに来た」 誤魔化しても無駄だと悟ったジークは、シエルの頭を撫でてやりながら小伝良を見やる。 調べ物の内容を知られてしまった時点で、追われるのは覚悟していたのだろう。出来ればもう少し時間が欲しかったというのが正直なところか。 「どうします、ジーク。この状況ではあの方々も退かないと思いますが」 ダシオンは弓を構えたままそう進言する。それはジークも重々承知しているらしい。 しばし考えた後、意外な言葉を口にした。 「‥‥お前ら、今日は帰ってくれないか? もちろん、ただで帰れとは言わない。儀式の場に案内してやる」 「‥‥どういうつもり?」 「そうでもしなきゃお前ら納得しないだろ。俺達もお前らになら見せてもいい‥‥いや、見る権利があると思ってる。それじゃダメか?」 煌夜はジークの目をまっすぐに見る。 嘘を言っているようには見えない。罠にかけるにしてももう少しいい方法があるだろう。 そして‥‥SAたちも自分たちを特別だと思っていたことに、少しだけ嬉しくもあった。 一行は、素直にジークたちの後を付いていく。もちろん、念のため警戒しながら。 開拓者たちがシエルたちとやりあった場所から更に上り、山の八合目辺り。そこには大きな亀裂がある岩壁があり、ジークたちはそれに入っていく。 人一人がようやく通れるくらいだが、中は意外と広い。そして、やたらと寒い。 音が大きく聞こえる静寂の中‥‥一行が辿り着いた先には。 「こ、これは‥‥!」 「‥‥なるほど。これがあなた達の起源‥‥」 そこには、巨大な氷に閉じこめられた7人の男女の姿。そのどれもが見覚えがある顔だ。 髪の色こそ違うが、セブンアームズと同じ顔‥‥! 「儀式は次にお前らが来るまで延期する。信じるか信じないかは自由だ」 人とアヤカシ。命のやりとりを続けてきたが故の奇妙な絆。 ジークが語ったSAたちの真実は、今までの開拓者たちの行動があったからこそ知れたものである――― |