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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 長きにわたり、開拓者たちと激戦を繰り広げてきたアヤカシ集団、セブンアームズ(以下SA)。 元は七人いた彼らも、その数を四体に減らしている。いや、これだけの時間開拓者に狙われつつ半分以上残っていることを評価するべきだろうか。 人を狩り、喰らうアヤカシ。人並みの知恵があり、意思の疎通ができるが故に生じた悲喜こもごもは多い。 そして、ついに彼らの原点へと辿り着いた開拓者たちは、我が目を疑うような光景を目にした。 巨大な氷に閉じこめられた7人の男女。それは、髪の色こそ違えどSAたちと全く同じ顔をしていたのである。 そこで、SAの一人‥‥覇剣のジークは語った。長い付き合いとなったお前たちになら話してもいいと前置いて――― 今から十年ほど前、件の山に7人の開拓者たちが依頼を受け出発した。 珍しくジルベリアの人間ばかりだったようだが、それはあくまで偶然。そして、目標のアヤカシを倒し帰還しようとした時‥‥一行は雪崩に遭い、尽く行方不明となった。 行方不明のままとされたのは、遺体が見つからなかったからに他ならない。件の山も春になれば雪解けが訪れ、遺体は発見されると思われていたためだ。 しかし7人の遺体は発見されなかった。やがて捜索は打ち切られ、ギルドの記録からも正式文書としては抹消された。 真相としては、7人は雪崩に巻き込まれ、すり鉢状に崩落した洞窟の底に落ち込んでしまっていたのだ。 高さ十メートル以上落下したようだが、死因は墜落ではない。逃げようのない全方位にわたる大量の雪。身動きすら取れず、数時間も経たず凍死したことだろう。 やがて春を迎えたが、偶然が重なり7人がいた場所は天然の氷室のようになってしまったらしく、夏になっても氷が溶けきらない。 秋を過ぎ、また冬が来て、新たな雪が積もる。その繰り返しを続けるうちに、氷は分厚く濃密に7人を過去の姿のまま閉じ込めてしまったのである。 その際、彼らが所持していた武器は雪崩の際に手を離れ、何の因果か氷漬けを逃れていた。そして凍死寸前の彼らの恐怖と無念が瘴気を呼び、それらをアヤカシへと変貌させたのである。 偶然もここまで重なれば奇跡。しかし、それはあまりに悲しい奇跡の軌跡。 武器のアヤカシと化したジークたちは、己の使命も素性も分からぬまま時を過ごした。 視界に入るのは、誰とも分からぬ氷漬けの人間の骸。でもどこか懐かしい‥‥そんな気がした。 アヤカシである彼らは、人間を喰わなければ空腹になる。初めこそ氷を砕いて屍を喰らおうと考えたようだが、分厚いそれは彼らの攻撃では砕ききれない。 それでも長い間凌げたのは、彼らが残した無念が瘴気を呼びつづけるからか。それを知らずに吸収しているから生きながらえているのか。それは当のSAたちにもわからなかったという。 また時が移ろい‥‥SAたちは、いつの間にか変身能力を手に入れていた。 目の前に居る人間たちの姿をコピーし、武具に過ぎなかったはずの体を人間と変わらないまでに変身させたのだ。元に戻ったたり他の姿になることはできなかったので、変態能力と言ったほうが的確かもしれない。 髪の色は鋼を思わせる銀色だったが、SAたちは知らずにかつての主人たちの姿を受け継いだのである。それが無意識の人間への憧れだったとしたら、哀しさに拍車がかかるというものだが‥‥。 そうなると個体差も生まれ始め、腕力に秀でた者、知力に優れた者もあり性格もバラけた。 人間の姿にも慣れ、自然とリーダーとなった反棍のクレルの提案により、SAたちはついにそこを出ることを決意する。 広い世界へ。偶然が重なり生まれた自分たちは、他の何にも縛られず自由に生きていこう。それだけを目的として。 そこからまた時間をかけ、崩落した岩壁を掘り進め‥‥ついに彼らは光の下へと辿り着く。 暗く寂しい岩壁の中。そこに眠るかつての主人たちとの別れには、寂しさも募ったが‥‥未知への好奇心がそれを上回ったのだ。 そうして、兄弟ともつかない絆を持つSAたちは、自由気侭な旅へと出発した――― 語られた開拓者たちは、例外なく複雑な表情をしていた。 SAたちとの奇妙な絆があったからこそこの悲劇を知れたという気持ちと‥‥奇妙な絆を持ってしまったからこんな話を聞かされてしまったという相反する心の葛藤。 しかし、様々なことに納得はいった。SAたちがあまりに人間臭く、人間との触れ合いに抵抗がなかった理由。そして、自由を愛し自分たちのルールを貫きたいという矜持。そして、仲間同士の絆。 藁をも掴む気持ちで付喪神信仰を調べ、仲間の復活を狙うのも理解はする。理解はするが‥‥。 SAたち自身も、どうして開拓者たちにここまで心を開けるのか分かっていない。 かつての主人が開拓者だったからだろうか? それとも、自分たち自身を見てくれているからだろうか? どちらにせよ、それが新たな悲劇に結びつくことは分かっているようだ。 ジークは言った。次に開拓者が来るまで、仲間復活の儀式は延期すると。 その言葉に嘘偽りはないだろう。実際問題、彼ら自身にも儀式の成功確率は未知数だ。 別れ際、『儀式をさせてくれるか邪魔をするかは任せる』とも言っていた。選択権をくれるのも奇妙な信頼関係があるが故。そしてその答えの内容を恨まないというのも暗黙の了解であろう。 そして今回、開拓者は再びSAたちと争うことになる。 彼らの原点‥‥そしてこれまでの物語を聞いた開拓者たちは、どういう選択をするのだろうか? 開拓者の知らなかったSAの歴史。しかし、開拓者とSAの歴史は今この時にも紡がれているのだ。 確実なのは、どういう結果になるとしても‥‥終焉は近いということである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
朱月(ib3328)
15歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●結論 セブンアームズ(以下SA)たちから選択を迫られた開拓者たちは、それぞれの思いを巡らせながらも結論に達した。 それは半端な覚悟ではなく、確かな軸を持って辿り着いたもの。それに迷いはない。 一行は再び石鏡極北の山に向かい、氷漬けになった開拓者たちが眠る亀裂の前へ。 中に声をかけると、四人のSAたちがフードは被らず出てきた。 開拓者とSAたちは一定の距離を保ち、言葉を交わす。 「‥‥よう。結論は出たみたいだな。んで? どうするよ」 覇剣のジークは、あいも変わらずかったるそうに呟く。 その返答次第では穏便に済まないと知っていながらのこの態度。どこまでもらしいと言えばらしい。 それに対し、開拓者を代表して煌夜(ia9065)が一歩前に出る。 凛とした表情でSAたちを見つめ、答えを告げる。 「結論として、儀式を見逃す気はないわ。前も言ったけど、もう一度クレルを倒すような事にはしたくないから。クレルは自由な生き方を貫いて、死んだ。その死を無に帰すのは、クレルの生き方を否定してしまう気がするから」 それは充分予想していた答えなのだろう。煌夜の台詞が終わると同時にダシオンが弓を生成したが、ジークが制し、続けろと促した。 「儀式によって復活するのがどんな存在でも、それがSAだったらおいらはやっぱりなるべく苦しんだり傷ついたりして欲しくないって思った。だからその儀式は『妨害』するよ」 小伝良 虎太郎(ia0375)もまた、きっぱりと妨害を宣言する。 もう聞くまでもない。開拓者たちは全員一致で妨害すると決めているのだ。 しかし‥‥? 「同一条件ではないので同一のSAが現れる可能性がほぼ無いこと。見た目で条件が完全に同一であっても同一となる可能性は少ない。違うものが召還されたら皆が救われるでしょうか?」 「貴方達が持ち主の想いから生まれたように、同じ形の武器を儀式に選んだとしても、その結果が成功して甦るのは貴方たちの仲間ではなく、盗んだ武器の持ち主の形なのでは?」 しかしその裏には、SAへの気遣いが確かにある。无(ib1198)やレネネト(ib0260)などの正論でバッサリ切り捨てた面々でさえもそれは同じだ。 苦しい思いをさせたくない。違う存在が出てきてがっかりするは嫌だろう? そんな奇妙な気遣いである。 思えば長く運命を交差してきた。SAたちがそうであるように、開拓者にとっても彼らの存在は軽くないのだろう。 そしてレネネトが付け足したように、SAたちを逃せば罪もない人間が狩りの脅威にさらされる。それだけはお互いのためにさせたくない。 それはSAたちにも伝わったのだろう。しばしの沈黙の後、ジークが呟く。 「‥‥どういう結論にしろ、俺達はそれを受け入れるしかねぇ。残念だが押し通して儀式させてもらうぜ」 一斉に武器を生成するSA三人。ダシオンは弓を構え直す。 どうあっても退かない。退けない。退くわけにはいかない。甘い答えを望んだわけではないが、きっぱりと否定されただけ気兼ねなく存分に戦える。 開拓者たちも戦闘態勢を取るが、その中で一人、鷲尾天斗(ia0371)だけがまだ何かを考えているようだった。 結論が出たのか、驚くほど穏やかな深い瞳で口を開く。 「間際まで仲間を案じたクレル、俺に呪をかけるほど命を燃やしたクラン、そしてリュミの選んだ道‥‥あいつ等の想いはどうなる? 便利な裏技で蘇らせられるほどあいつ等の生き様、命の価値は軽いモノなのか?」 ぎくりとするSAたち。いや、表情で分かったのはキュリテだけだったが、四人とも痛いところを突かれたという雰囲気を滲ませている。 生き様。命の価値。そんなことは分かっている。しかし、それでも‥‥! 「‥‥それでも生きていて欲しいんだよ、俺達は!」 「‥‥例え確率が低くても‥‥」 「藁にでも何にでもすがってやるわ!」 「フッ‥‥笑わば笑えというやつですよ」 構えを取り、今にも突っ込んできそうなSAたち。 鷲尾は目を閉じて槍を構え‥‥次に開いたとき、そこには狂気が宿っていた。 「そんなモンじゃネェだろ! アァ!? 死から目を背けるな! 前を見て進め! そして忘れるんじゃねェ! なァ、ガキ共!」 「ガキで‥‥悪ぃかよ!」 「じゃあ始めようか‥‥交渉決裂っぽいしね‥‥」 朱月(ib3328)の台詞を合図としたかのように、SAたちは大地を蹴る。それと同時に開拓者たちも足をしっかり踏ん張り迎撃姿勢を取る。 両者の戦いは、犠牲なしでは止められない。 望むと望まざるとに関わらず――― ●交差の形 開拓者たちは、御世辞にも万全とは言えない状況であった。 メンバーの一人、ジークリンデ(ib0258)が別の依頼で大怪我をし、それが完治していないのである。 前衛である小伝良も傷は癒えているが怪我をした身。体を酷使しているのが心配だ。 とにかく、ジークリンデは術戦闘が主の後衛であっても今回は厳しい。それを護衛するため、叢雲 怜(ib5488)をはじめとする後衛四人はなるべく固まるように行動していた。 无とレネネトもすぐに合流しており、遊撃として朱月も前衛後衛を行き来することになる。 「SAの中じゃお前と一番遣り合ってるんだよなァ。だからお互い色々分かってると思う」 「まぁな。面倒くさいことによ」 「お互い、譲れねェモノは譲らない。そう言う損な性格ッつー事だ」 「そうさ‥‥面倒を押してでもやらなきゃならねぇことがあるってことだ!」 ギン、と槍先と西洋剣がぶつかり合う。 火花と共に舞い散る美しい燐光。紅焔桜によって、季節外れの桜が舞い散る。 お互い互角のやりとり。相手が有利そうなときは防御に徹し、攻撃に転じられそうなときは一気に攻める。 ここでSAたちにとって重要なのは位置取りである。開拓者の後衛、特に魂喰を持つ无と一撃が強力な叢雲に横槍を入れられるのだけは避けねばならない。 一応ダシオンが後衛をまとめて牽制しているが、達人同士の戦いでは一瞬の隙が命取りになる。 戦場に銃声が響き渡るが、それは誰にも命中しなかった。 「むー、鈎手甲で防御されちゃうのだぜ‥‥」 そう、ダシオンは鈎手甲を両腕に装備している。それを器用に使い、弾丸を弾くなり防ぐなりしているのである。 細かく移動しながら矢も発射してくるため、後衛はジークリンデを守るので必死である。 「‥‥かかりますよ」 ジークリンデがそう呟くと、ダシオンが移動した先のフロストマインが発動、彼を猛吹雪が襲う。SAたちに声をかける前に、痛む体を押して設置していたようだ。 「なんと‥‥!」 マントでダメージは無いが、一時移動が制限される。そこにレネネトの重力の爆音、 无の魂喰が続けざまに放たれる‥‥! 「フッ‥‥私の美しい筋肉の前では!」 衝撃と瘴気を喰らう術の連撃。しかし、衝撃はもろにもらいながらも魂喰の方を例の鈎手甲でガードする! 瘴気武器ではないので、マントにもダシオン本人にもダメージは届かない‥‥! 「厄介ですね。筋肉と関係ないのが引っかかりますが」 「ツッコむ所はそこじゃないのだよ‥‥」 「鷲尾さんの援護もしたいところですが、こちらも必―――」 无が言い終わらないうちに、彼の右肩に矢が突き刺さる。 カッツバルゲルでガードの姿勢をとってはいたが、彼の受けの技術ではダシオンの矢は到底防げない。 「つぅっ‥‥! やはり前衛がかかりっきりになっているのは辛いですね‥‥!」 「傷を見せて下さいまし。回復させますので」 そう、一対一で足止めを食っているのは鷲尾だけではない。 怪我人であるジークリンデに怪我を治してもらいながら戦場を見回すと‥‥ 「くっ‥‥騙し騙しね、これ‥‥!」 「‥‥この人も、厄介‥‥」 煌夜はシエルと戦闘中。相変わらずのスピードとハンマーによる打撃は脅威だが、煌夜は攻撃される直前に斜陽を使用、気脈を乱し瘴気武器を不安定にさせる。 そうして受け流すのだが、練力は永遠には続かない。こればかりではいずれ殺されてしまう。 その為、打って出るために白梅香を使用、ハンマーを浄化にかかったが‥‥!? ガギンッ! と鈍い音が響き、煌夜の刀が何かに阻まれる。 それは、シエルの左手に握られた古びたトンファー‥‥! 「浄化できない!? 瘴気武器じゃない!」 「‥‥!」 その場で右回転をし、ハンマーの柄の部分で煌夜を殴り飛ばすシエル。場所が場所だけにダメージはそんなにない。 どうやらこれもクレルたち復活のために持ってきた武具のようだ。マントの下に隠していたらしい。 「‥‥絶対‥‥生き返らせるの‥‥」 「あなたが頭からかじった人にだって、生き返ってほしいと思う人がいたのよ‥‥!?」 「‥‥!」 一瞬驚いたような顔をするシエル。やはり、言動通り精神が幼い。 なってみて初めて分かる被害者の気持ち。例えそれが生きるための捕食だったとしても、殺したことに変わりはない。 動揺するシエルと煌夜との戦いは、まだまだ終わりそうにない。 「わっ!? よっ! ほっ!?」 「おのれ、ちょこまかと!」 「当たったら痛いもん!?」 キュリテの相手をしているのは小伝良。二つの鎖鉄球を自在に操るキュリテの攻撃を、小伝良はわりと必死になって躱している。 三節棍を得物にしているとはいえ、射程はキュリテが圧倒的だ。小伝良が攻撃するにはどうしても接近しなければならない。 しかし過去にあの鉄球の鎖が長さの調節ができるということが判明している。そして、小伝良はそれで脳天を強打されたことがあり、身を以て威力を体験済みだ。 振り下ろされた鉄球を避け、鎖を三節棍で抑える。キュリテを見やりながら小伝良は呟く。 「ねぇ、覚えてるかな。二人で食事したときのこと」 「今更なんじゃ! 泣き落としか!?」 「そうじゃないよ! おいらたちはやっぱり戦うしか無いんだ。だけど‥‥この先何があっても、絶対忘れたりなんかしないから‥‥!」 「っ‥‥! こんな時に‥‥そんな言葉をかけるでないわ!」 逆の手に握った鎖を操り、横薙ぎの攻撃を繰り出すキュリテ。しかし小伝良は姿勢を低くしてそれを掻い潜り、一気にキュリテへと接近する。 それはキュリテも読んでいる。押さえられていた方の鎖鉄球を一旦消し、手元にごく短いそれを再構成! 「今度は脳天をかち割ってくれる!」 「‥‥!」 小伝良の脳天に迫る鉄球。小伝良は避けることができず、殴られた勢いで回転する‥‥が!? 「受けたじゃと!?」 「何度も同じ手で、やられるもんかぁぁぁっ!」 三節棍でガードし、逆にキュリテの攻撃の威力を利用する! 遠心力で威力を増した転反攻。それがキュリテの右腕にヒットする! 「ぐぅ‥‥!」 「謝らない! キュリテ、君にも!」 続けざまに骨法起承拳を放とうとする小伝良。させじと左腕を振るおうとするキュリテ。しかし、その左腕が妙に重い‥‥!? 「毎度お馴染みの手だけどね‥‥」 「き、貴様‥‥!」 朱月の影縛りで、いつの間にか動きが制限されていたのだ。シノビらしく目立たず、かつ的確なところで的確な仕事をする。朱月の怖さはこういうところにある。 こうなってしまっては、流石のSAも回避は難しい。目の前に迫る三節棍。そして、小伝良。 その表情を見たとき‥‥キュリテはふっと力が抜けていくのを感じた。 直後に襲った衝撃と激痛も気にならない。彼女の中で何かが解決したらしかった。 「‥‥‥‥何を、泣いておるのじゃ。これから、殺そうとする相手のために、泣く‥‥などと‥‥」 「ぐすっ‥‥! な、泣いてなんかないやい! これは汗だよ!」 地面に仰向けに倒れたキュリテ。その表情は何故か穏やかであった。 「‥‥あぁ‥‥無念じゃ。わらわたちは‥‥何のために生まれてきたのかのう‥‥」 その呟きに、小伝良は迷いなく答える。しっかりキュリテの目を見ながら。 「おいらたちに出会うため‥‥じゃ、駄目かな‥‥?」 「‥‥ふ、ふふ‥‥最低な殺し文句、じゃな‥‥。生意気じゃぞ、小僧が。‥‥だが‥‥」 そう答えてくれると確信していたのだろうか? キュリテは微笑みながら目を閉じる。 気力を振り絞った骨法起承拳。しかも朱月の影縛りで急所も外せなかった。 小伝良に手を握られながら、キュリテは瘴気となって霧散したのだった。 「キュリテ‥‥。そうかい、それがお前の答えか」 「お前はどうすンだ? って、決まってらぁな」 「理解が早くて助かるぜ!」 「ヤローの気持ちなんて分かりたかないけどなァ!」 もう数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの剣戟音。腕自体はジークの方が上だが、鷲尾には紅焔桜や白梅香があり、ジークも迂闊な攻めはできない。 激しい打ち合いから一転、お互いにらみ合ったまま動かなくなる。 「おいお前ら! 悪ぃが手助けなしで頼むぜ!」 「鷲尾のあんちゃん!?」 「あんちゃんゆーな! 此処まで来たらただ一撃で決める覚悟ってやつだ。男の勝負に水差すんじゃねェぞ!」 叢雲や朱月の援護を拒否し、ただ目の前のジークに集中する鷲尾。 そろそろ錬力が厳しい。全力をぶつけ仕留めるしかない。 「‥‥俺にもそろそろ分かってきたぜ。俺たち‥‥いや、俺の生まれた意味ってのがな」 「なんだ? 俺に出会うためだったとか言ったら吐くぞコラ」 「さぁな。俺に勝ったら教えてやらぁ」 不適に笑いあい、構える鷲尾とジーク。お互いにお互いのことしか見ていない。 そして‥‥! 「いざ」 「尋常に」 『勝負ッ!』 仕掛けたのはほぼ同時。お互いに一撃必殺の念で得物を振るう。 交差の瞬間をしっかり見ていたものはいない。それぞれ自分の戦いに必死だからだ。 「‥‥少なくとも俺は、全力で生きるために生まれてきたんだ。納得して死ねるくらい熱くなれるものを探してたんだ、きっと」 「‥‥そいつぁ見つかったのか? 面倒臭がり」 「‥‥あぁ。そいつは、凄く近くにあって‥‥それと―――」 殺し合いをするくらい、俺達のことを想ってくれている奴らもだ。そう言い残して、ジークは瘴気となって消えた。 鷲尾は空を見上げ、ポツリと呟く。 「けっ、嘘つきめ。俺に勝ったらなんて言ったくせによ」 次の瞬間‥‥鷲尾の体から、袈裟切りの軌跡に血が吹き出す! 「‥‥引き分けは‥‥俺の勝ちじゃ‥‥ねぇ‥‥ぞ‥‥」 「鷲尾さん!? みんな、鷲尾さんが!」 倒れ伏した鷲尾に小伝良が駆け寄る。 ダシオンとシエルはこの場を撤退するようで、一行も無理には追えなかった。とりあえずジークリンデの応急処置が早かったので死ぬことはないようである。 また二人逝ったSA。やはり数が不利なのに真っ向勝負はまずかったのだろう。 残るは二人だけ。決着の時は近い――― |