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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 長きにわたり、開拓者たちと激戦を繰り広げてきたアヤカシ集団、セブンアームズ(以下SA)。 残りは零弓のダシオン、ただ一体のみ。戦いの終焉はすぐそこまで来ている。 所在不明となっていたダシオンであったが、どうやら自ら石鏡にコンタクトを取ったらしい。神楽の都の開拓者ギルドにその報がもたらされたのは、暑さの厳しくなってきた7月上旬のことだった。 「というわけで、ダシオンは開拓者との完全決着を願って決闘を申し込んできたみたい。それを倒せっていうのが依頼の趣旨ね」 「はぁ。潔いと言いますかなんと言いますか‥‥勝ち目ゼロでしょう? 一対八ですよ?」 SA関連の依頼を担当してきた職員、西沢 一葉と十七夜 亜理紗。説明を受ける亜理紗は首を傾げるばかりだ。 それもそのはず。いくら強敵と言っても開拓者八人を相手に勝ち目があるとは思えない。 「ただし、条件があるわ。ダシオンは『マントも弓も使わない』から、開拓者も体一つで掛かってくること‥‥だって。原文ままを引用すると、『ふっ‥‥私の最後を飾るのならば、やはりこの美しき肉体美を存分に披露しなければなりませんからね』だって」 「文章にも頭に『ふっ‥‥』をつけなきゃ気が済まないんですね‥‥」 メガネをかけた優男。わかめのようなクセッ毛。外見だけならとてもそうは見えないのだが、マントも服も脱ぐとそこには鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体があるのがダシオンである。 今までも、弓使いのくせに弓を鈍器がわりに使い、接近戦をこなしてきたのは周知の事実。 この条件を石鏡は飲んだ。なぜなら、拒否してダシオンにゲリラ活動をされるのはまずいから。 弓という得物で逃げ隠れされると被害は甚大なものとなる。しかし‥‥ 「えっ、何勝手に条件飲んでるんですか!? 戦うのは開拓者さんたちなのに!」 「もちろん、フォローも考えてくれてるわよ。場所は指定されてるから、当日、一軍を以て場を包囲。開拓者たちが敗れたり、ダシオンがルール違反をするようなら矢や銃弾が雨あられと彼を襲う手筈みたい」 「‥‥汚い‥‥」 「一応、当日の対応は開拓者さんに任されてるわ。ルール無視で完全武装で倒すもよし、あえてルール通りに戦うもよし。どちらにしろ逃げられないと本人も分かってるんでしょうし」 「‥‥それが、ダシオンなりの生きてた意味なんでしょうか。そう思うと、筋肉がどうとか馬鹿にもできないですね」 ちなみにダシオンから出されたルール通りで戦うとなると、以下のことが禁止される。 一つ、武器の使用 二つ、防具の装備(一般的な服ならよし) 三つ、魔法の使用(式なども含む。格闘戦用の技はOK) 四つ、瘴気武器の使用 五つ、魔法を防ぐマントの使用 以上、完全に拳と拳でやりあえと言っているようなものである。魔法職がまるで役に立たなくなる気がするがそれも見越しているのだろう。 遠距離攻撃を気にせず、己の肉体の限界を引き出したい。鍛え抜いた筋肉を活かしたい。それがダシオンの望み‥‥。 「常連さんの後衛タイプの人たちは、有事の際に備えて待機しておくっていうのでもいいかもね」 「最後のSA‥‥彼も、納得して死ねますかね‥‥?」 最後に残ったSAが最後に望んだのは、意外(?)にも筋肉祭りであった。 果たして、開拓者たちはどう応えるのか。あえて火中の栗を拾うのか‥‥それとも――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
朱月(ib3328)
15歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●最終決戦、至る セブンアームズ(以下SA)最後の一体、零弓のダシオン。彼が最後に選んだのは、腐れ縁とも言える開拓者たちとの変則決闘であった。 それを、賛否両論あれども引き受けることにした開拓者たち。双方は石鏡極北の山に集合し、決闘場所と定めた場所でその時を待つ。 周りには、弓や銃で武装した石鏡の軍団。ざっと数えると三桁に登るかも知れない。 しっかりはっきりと包囲された中心点に、黒マントにフードのアヤカシが静かに立っていた。 開拓者たちはその姿を認めると、通称筋肉祭りに参加する者だけを前に進ませた。 余計な話し合いは必要ない。そう考えたのだろうか? 「ふっ‥‥ようこそ。感謝しますよ、提案を受けてくださって」 「‥‥ナンでこーなった。俺ァ真っ平御免だったんだけどなァ、話の流れで仕方なく」 「ダシオン、あなたらしいですが。肉体って‥‥」 鷲尾天斗(ia0371)や无(ib1198)など、受けたはいいが乗り気でない者も多い。 それはそうだろう、ただでさえこのルールはダシオン有利な物。状況が上向いている以上、開拓者にこれを受ける義務はなかったのだから。 それに、无の中にはわだかまりもある。人間側の被害者やその遺族のことを考えると、ダシオンの自己満足に付き合うことに抵抗もある。それは彼に限らず、開拓者全員の中にあるだろう。 「勝っても負けても死ぬつもりの戦いなんて、普通なら応じるのは趣味じゃないんだけど」 「なんというか‥‥本当にバカっぽいけど‥‥。ま、ボクも付き合ってあげるよ。短い付き合いだったけど色々とね‥‥思うところもあるしさ」 「ふっ‥‥これはあなた方のお言葉とは思えない。他の開拓者は知りませんが、少なくともあなた方は『自らの矜持』を大事になさる方々でしょう? だからこそ、今この場に居てくれる。それで充分なのですよ」 そう言われてしまうと、煌夜(ia9065)も朱月(ib3328)も返す言葉に困る。 被害者の無念は分かる。SAを許しておくつもりもない。『しかし、それでも』。そうしたスタンスが彼らとSAたちとのデフォルトだった。 「以前助けられなかった人達の仇を討ちたい気持ちは本当。けど、SAの皆がなんだかんだで好きだったのも本当。‥‥初めよっか。先延ばしにしてもいいことないもんね」 小伝良 虎太郎(ia0375)は、そう言いつつ着ていた道着を脱ぎ、放り投げた。 そこには、若干十五歳とは思えないほど鍛えた見事な筋肉。それを合図に、やれやれとした表情で鷲尾も上半身を空にする。 「さァ、筋肉祭だろうがナンだろうがこの際関係ねェ! ドーンと行ってみようかァ! ほれ、煌夜もドーンと!」 「流石に私は上半身裸はやらないわよ、問題になるから」 「ちぇっ、密かな楽しみだったンだが。ほれ、おまえらは言い逃れさせねェぞコラ」 「なんで上半身裸なんですか。ダシオンはともかく此方は必要無いでしょうに。え、私もです?」 「ボクも? ‥‥まぁここまで来たら付き合うよ。空気は読まないとね」 元々前衛である鷲尾は、意外とがっしりした筋肉を持っている。 一方、小伝良や鷲尾に比べると、流石に无は一般的と言わざるを得ない。一般人よりは多少マシなのだろうが、やはり後衛職と前衛職では違いは歴然だった。 朱月はしなやかな体つき。元シノビということもあり、力よりも速さに対応した筋肉なのだろう。 煌夜は普通に服のまま徒手空拳の構えを取る。その姿は銀色の髪と相まって非常に流麗だ。 「どうしたら一番いいのかなっておいらなりに沢山迷って、考えて、それで決めた。『全力でダシオンの望む戦いをして、犠牲になった人達の仇を討つ』。それは両立出来る筈だから、闘う事にはもう迷わない」 「結構。では参りましょうか‥‥美しき私の筋肉を今こそ披露いたしましょう!」 小伝良の決意を受け、ダシオンはフードとマントを一気に脱ぎ去る。 そこには、古の彫刻に刻まれたかのような見事な筋肉。 上腕二頭筋。 僧帽筋。 胸筋。 腹筋。 背筋。 それらが全て調和し、芸術のような肉体を形成している。 下半身は脱いでいないが、それでも分かる。行き過ぎた筋肉は人に嫌悪感をもたらすが、そうでないギリギリのラインをダシオンは追い求めたのだと。 戦う立場の開拓者たちでさえ、その姿に一瞬我を忘れて見入ったほど。ダシオンの上半身はこれまでにも何度か見ていたはずだが、本気で満ち満ちたそれは初めて見る。 「ふっ‥‥あなた方の筋肉も中々の物。ですが私には到底及びません。さぁ、筋肉祭りの始まりですよ!」 ダシオンが宣言に続き、大地を蹴る。 肉体と肉体のぶつかり合い。あえて不利な条件を飲んだ開拓者に勝ち目はあるのか――― ●筋肉の辿り着く場所 零弓のダシオン。今更説明するまでもないが、弓を使うくせに後衛職と言い張りさえしない前衛型である。 そのパワーは、リュミエールやジークに及ばない。そのスピードは、シエルやクランに及ばない。その駆け引きは、クレルやキュリテに及ばない。要は器用貧乏な存在なのだ。 しかしそれはオールマイティということでもある。そして彼が他のSAの誰にも負けていなかったもの。それが‥‥ 「せぃやっ!」 「オラァ!」 「ふっ‥‥ヌルいですよ!」 「ぐほっ‥‥! や、野郎っ!」 命中力。そして防御力。素手であっても、一応弓使いであるためその命中精度に曇りはない。そして、見事な筋肉に覆われた身体は他の誰よりも強靭。 小伝良の拳と鷲尾の蹴りを同時に受けてなお怯まず、そのまま反撃できるほど。 「しっ!」 「はぁっ!」 无が脇腹に蹴りを、煌夜が肘で腹を強打するも、ダシオンは進撃を止めない。 振り上げられた拳は无に叩きつけられ、数メートルも転がしてしまう。巴を使っていても避けられなかった‥‥! 「ほう? 陰陽師だったと記憶していますが、なかなかどうして格闘を嗜んでおられるご様子」 「ま、色々有りまして。ほら、ぼーっとしていていいんですか?」 「っ!」 苦痛に顔を歪める无。彼の言うとおり、ダシオンのすぐ背後には鷲尾と朱月が迫っていた。 特に朱月は状況に溶け込むのが上手い。それはキュリテが倒されたときに証明済みだ。 「アルデバラン‥‥!」 「平突応用、男のドストレートッ!」 共に防御を減少させて仕掛ける格闘技。勿論ルールには抵触しない。 ダシオンは避けない。あえてそれを受けることで、自らの筋肉の高みを誇示するようだ。 「く‥‥! しかし!」 「っ!?」 朱月の腹にダシオンの拳が食い込む。痛いことは痛いが、一撃で倒されるほどではない。 ダシオンはそのまま連撃に移る。それほど速くはない。なのに避けられない。拳や足という矢が、ダシオンという弓全体から放たれているかのよう。 一撃喰らったからと言って戦闘不能ということはまず無いが、やはり武器が使えないのは開拓者には痛い。 しかし‥‥! 「隙ありっ!」 ひゅっ、と風を切る音がしたかと思うと、煌夜と小伝良がダシオンの両腕に組み付いていた。 そして体重をかけて地面に大の字に寝かせ、肘関節を極めようと腕を取る‥‥! 「む‥‥ぅっ‥‥!」 繰り返しになるが、ダシオンにパワーはそこまでではない。そして身長も普通の人間と大差ない。だから二人がかりで組み付かれると少々厳しいのである。 筋肉の力だけで耐えるダシオン。しかし、耐えるだけでは状況は好転しない。 「まさか‥‥この人数相手に勝てると思ってるのかな」 「筋肉の効果が薄い人体の弱点。それをお忘れで?」 ダナブ・アサドを組み込みつつ、全体重を乗せて腹に膝蹴りを落とす朱月。そして、貫手で喉元に鋭い一撃を加える无。致命傷にはならなくとも、それは確実にダメージとして蓄積される! 「ぐ‥‥おぉあぁぁぁっ!」 全身の力を開放し、極められたまま両腕を振り上げるダシオン。そしてそれを大きく地面に叩きつける! 「がはっ‥‥!」 「うぐっ‥‥!」 思わず掴んでいた腕を離してしまう煌夜と小伝良。強かに背中を打ち付け、一瞬呼吸ができなくなってしまったのだ。 しかし、二人は聞いている。ダシオンの腕から聞こえた、ボキリという鈍い音を。 その証拠に、ダシオンは両腕をだらんと下げたままである。 「どうだ、もう勝負あったろ。この糞暑いのにこんな暑苦しいことさせやがって!」 「ふっ‥‥そ、それはどうでしょうかね」 すると、ダシオンは折れているはずの左腕で右腕を掴み、ゴキンという鈍い音と共に元の位置に戻したらしい。次いで、直した右腕で左腕も同様に同じ位置に戻す。 「か、勘弁してよ‥‥自分で骨折治す? 普通‥‥」 「見ているだけで気分が悪くなりますね‥‥」 「あ、生憎、骨くらいならすぐにくっつけられるもので。‥‥さて、そろそろでしょうか」 その表情が苦痛に歪んでいる。骨がくっついたと言ってもダメージが回復したわけではない。 それよりも、開拓者たちはダシオンが言ったそろそろという言葉の意図が分からず、迅速に警戒態勢を取った。 何かを待っていた? 援軍? 自然現象? それとも、たった一人で仲間復活の儀式でも行ったか? どちらにせよこちらに有利なことではあるまい。 そう思っていたのだが‥‥特に何が起こる気配もない。 ‥‥と。 ガウンッ! 銃声が鳴り響き、ダシオンの胸に直撃する。血こそ飛び散らないが、その身体が大きく揺らぐ‥‥! 「誰が撃ったのだぜ!? まだ勝負は終わってない!」 叢雲 怜(ib5488)が銃声のした方へ銃を向ける。しかし彼が見たのは、その声を全く無視し銃を次々と構える兵士たちの姿だった。 警告しようとしたときにはもう遅かった。石鏡の兵たちは我先にと銃弾を放ち、ダシオンを撃ち抜いていく。 「ばっ‥‥馬鹿ぁぁぁっ! 止めてよ、ねぇ!」 小伝良は必死に叫ぶが、待機組だったジークリンデ(ib0258)もレネネト(ib0260)も兵士たちを制止しようとはしない。叢雲だけがどうしたら良いか分からず銃をうろうろさせていた。 「ねぇ、聞こえてるでしょ!? ねぇってば!」 「‥‥私自身は決着までは待とうと思っていましたが‥‥こうなっては致し方無いでしょう。もし、貴方の大切な方がSAに喰われたとしても、同じように綺麗事をいえるのですか?」 「因果応報だと思うのです。少し作為があるのは気に入りませんが」 レネネトは、戦いが始まる前から取り囲んでいる兵士たちに話を聞いて回っていた。 見えてきたのは、ここに居る兵士全員が正規兵というわけではなく、全員SAの被害者遺族だということ。 そうなれば当然、ジークリンデが言ったように綺麗事など冗談じゃないと思う者が大半なわけだ。 勿論、偶然に遺族だったわけではない。わざわざ遺族に声をかけ急造した部隊、ということになる。 そうこう言っているうちに、今度は大量の矢が降り注ぎダシオンに突き刺さっていく。 ダシオンは避けようともせず、仁王立ちでそれを受けるのみ‥‥! 「くっ‥‥気持ちはわかるけど、これじゃルール違反よ! あなたたちはアヤカシすら守ったルールを守れないの!?」 「煌夜の言うとおりなのだぜ! せめて決着がつくまでは‥‥!」 煌夜の声も叢雲の声も兵士たちには届かない。彼らの目はすでに復讐心に燃えたぎっていた。 最初の一発で堰を切ってしまったらもう遅い。仇を討つ! ヤツが生きていようがいまいが、一矢でも一発でも報いなければ収まりがつかないのだ。 ルール? 知ったことか! そんなものはお前らが勝手に約束したことだろう! 口にはせずとも、彼らの怒りのオーラが雄弁に物語っている‥‥! ‥‥やがて矢や弾丸が尽きたのか、辺りに静寂が戻ってくる。 そこにはハリネズミのようになり、全身に矢を受け銃傷を刻んだダシオンの姿があった。 メガネは粉々になり、頭部にも矢は突き刺さっている。 「‥‥くそったれ! 確かに野郎の裸なんざ不快だが、誰が矢の服を着せろっつったよ!」 「でもこれが、被害者の正しい感情なんだよ。気持ちは分かる。責めるのは筋違いかな‥‥」 鷲尾も朱月もやりきれない思いがする。 長々と戦ってきた結末がこれか。背後で湧き出した歓声がそれを助長する。 勝った。仇を討った。ざまぁみろ。そんな熱狂の中‥‥! 「ふ‥‥ふふふ‥‥どうです、か‥‥。これが人間の、本性‥‥ですよ‥‥」 熱狂がどよめきに変わる。どよめきが恐怖に変わる。あの銃弾と矢の雨霰を受け、ダシオンはまだ死んでいない!? 「わ、わたしの、美しき肉体、は‥‥矢にも、銃とやらにも、負けて‥‥いません‥‥!」 「‥‥まだ動きますか。せめてもの情けです。一撃で消滅させてあげましょう」 「駄目だぁっ! ジークリンデさん、そんなこと‥‥これ以上は許さないっ!」 「あなたは、まだそんなことを‥‥!」 「いいですか、この戦いは、最期までダシオンさんらしいというか、とどのつまり自分勝手なんです。結局リュミエールさん以外は理不尽なルールで狩って奪った命のことなんて何とも思っていないんですよ」 「だからって‥‥だからってぇっ!」 小伝良の叫びに、ジークリンデもレネネトも引かない。 そこに、ダシオンが言葉を続けた。 「‥‥な、なら‥‥あなたがた人間は、なんなのです? 面白がって殺した虫は、いないのですか? 食べる目的以外で、狩った、動物は? 食事のために、殺した動物にも‥‥家族がいて、悲しんだかも、知れない。畜生共は、自分たちのために死んで、当然で‥‥自分たちが、殺されるのは、我慢ならない‥‥と?」 「‥‥! まさか、あなたは‥‥!」 「こうなると分かった上で、あえて‥‥!?」 もう表情も上手く作れない顔で、ダシオンは続ける。その口元が、僅かに釣り上がった気がした。 「復讐、結構。怒り、結構。しかし、怒りに任せて、復讐を実行するのでは、クランと‥‥アヤカシと、変わりません、よね‥‥? 自らを勝手に、生態系の、上位に‥‥定義する、愚かな種族‥‥!」 誰も動けない。満身創痍、全身に矢を受けたアヤカシ一匹に気圧されている。 復讐心を糧に、どうにか心を奮い立たせ矢を番えた兵士がいたが‥‥。 「弓を下ろすのだよ。でないと腕を撃ち抜くのだぜ」 「あそこまで言われて撃ったら、あなたはアヤカシ以下っていうことになるわよ。それでもいいの‥‥!?」 「‥‥ふ、ふふふ‥‥どうです? 後味が悪い、でしょう? これが‥‥私に出来る、復讐。仲間を、殺された‥‥命を奪わない、個人的な‥‥ふく‥‥しゅう‥‥」 徐々に身体が薄れ、瘴気となっていくダシオン。バラバラと矢が落ちて行く中、最後までダシオンは仁王立ちのままだった。 これが、結末。最後のSAが選び、目論見通りに運んだ結末。 後に残されたのは、嫌な空気に包まれた人間たちと‥‥SA発祥の地の問題だけである――― |