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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「はい、皆さんこんにちは。ギルド職員の十七夜亜理紗です。今日もよろしくお願いします♪」 ぺこりとお辞儀をし、ポニーテールを揺らす少女。すでにお馴染みになった亜理紗の朝の挨拶である。 彼女目当てにギルドに来る者も少なくないようで、開店直後だというのに彼女の担当スペースにはすでに6人の野郎どもが集まっている。 「今日最初の依頼はこちらです。『遺跡』内部の調査ですね」 遺跡といえば宝珠が採れたり通常とは違ったアヤカシが出現したりすることで有名なアレだろう。天儀王朝が管理しており、無断で宝珠を持ち出すことは厳禁とされている。 「最近新たな鉱脈が見つかったとかで調査が進んでいるんですが、厄介な場所があるそうなんですね。一際大きな空洞のような場所があって、その内部は目を開けていられないくらいの光で満ち溢れているんだとか」 暗闇の先に光が見えたので調査隊が向かったところ、その空洞に出くわしたようである。 床、壁、天井、全てが眩い白い光を放つ空間。言うなれば太陽を直接見る眩しさをあらゆる方向から浴びせかけられているのと変わらない。 闇は黒いものと相場が決まっているが、全く見えないという意味ではこの部屋は白き闇に包まれていると言ってもいいだろう。 「いやー、想像したくないです。点でしかない太陽ですら直視できないんですから、そんな場所に居たら目が悪くなっちゃいそうですよね。ちなみに目隠しとかはよっぽど分厚くやらないと無意味だそうです」 単純に目を瞑ったくらいではまるで身動きがとれないらしい。しかもアヤカシも出現するらしく、向こうは眩しさの影響がないようだ。遺跡ということで倒してもいつの間にか復活しているようだし、相手は適度にしつつ光の発生源なり原理なりを解明し埒を開けて欲しいとのことである。 「そんなところです。何か御質問はありますか?」 営業スマイルで定型文じみた台詞を言う亜理紗。すると野郎どもは次々と挙手し、質問していく。 「バストはいくつですか!?」 「ウェストは!?」 「ヒップは!?」 「‥‥‥‥」 営業スマイルのままこめかみに怒りマークを浮かべた亜理紗は、しばし沈黙する。 もう大分慣れたつもりだったが、こういう質問を、しかも真剣にされるのは腹がたつものである。 そこで『帰れ!』と言わなくなったのは、亜理紗も少しは成長した証拠か。 「‥‥バストは83です。他は内緒」 「何でバストだけ!?」 「他のも教えてよー!」 「B・W・H! B・W・H!」 「五月蝿ぁぁぁいっ! 胸は自信があるから教えたってかまいませんけど他はダメです! というか、依頼に関係ない質問をするなぁぁぁっ!」 「えー。相談卓とかだと結構関係ない話とかしてるじゃん」 「さ・ん・か・し・て・か・ら・言・え!」 その馬鹿騒ぎを遠目から生暖かく見つめる開拓者たちも居る。どうやら亜理紗のリアクションを楽しみたいという面々らしい。 愛されている(?)記憶喪失娘、亜理紗。今日もまた、彼女の騒がしい一日が続いていく――― |
■参加者一覧
美空(ia0225)
13歳・女・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ
式守 麗菜(ib2212)
13歳・女・シ
宵闇之羽(ib6337)
15歳・男・シ
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
空野 蒼夜(ib6555)
23歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●光の中へ 遺跡。それはアヤカシが跋扈する奇妙な空間。 危険な場所であるにもかかわらず、宝珠が産出されるためここに挑む者は後を絶たない。 宝珠の専門家も調査を繰り返しているが、全容は解明しきれていない。それが現状である。 一行は件の白い闇が支配する空間を目指し、遺跡を進む。最近発見された鉱脈だけあって整備が行き届いているとは言い難いが、迷うことがないのは嬉しい。 細々したアヤカシの出現はあったが、それらをすべて軽く打ち倒し‥‥一行はついにその空間を発見する。 遺跡内部は照明の役目を果たす宝珠があるので基本的に灯りは必要ない。しかし遠目にも分かるほどの輝きを放つ入り口を発見し、流石にちょっと引いてしまった。 「あーあ、羨ましいほど眩しいな」 「むぅ‥‥サングラス程度でどうにかなる光量‥‥なわけ、ないわよね」 宵闇之羽(ib6337)のリアクションが最たる例である。げんなりした表情は、羨ましいという皮肉でも言わないとやっていられないという気持ちの現われだ。 鴇ノ宮 風葉(ia0799)も手で光を遮りつつ、指の隙間から入り口を見やる。 まるで太陽を見ているかのような光。漏れでている状態でこれでは中がどうなっているのか想像もしたくない。 床も含め全方向から太陽光を浴びると考えると、熱くなくとも干からびてしまいそうな気がする。 「ふむ‥‥まぁやることは変わらんだろ。索敵頼むぞ」 「お任せであります! 姉上のためにも頑張るでありますよ!」 「光の中に飛び込むなんて、そうそう出来ない体験だけど‥‥中に入ったら、そうも言ってられないか」 調査隊の話から、アヤカシが居るのは確定。ならば内部の様子を探るのは当たり前の備えだ。 一際冷静な将門(ib1770)の要請により、美空(ia0225)は瘴索結界で、真亡・雫(ia0432)は心眼でそれぞれ敵の気配や数、配置などを感知する。 二人の話を総合すると、敵は9匹で部屋の中を常にうろうろしているようだ。せっかく真亡が筆記して解説しようとしたが、突入時には配置が変わっていそうなので中止になった。 「数が分かっただけでもとても助かります。危険なようでしたら私たちが声をおかけしますから。ね?」 「厄介な依頼ですわね‥‥でもお姉様の為に頑張りますわ。そしてご褒美であんな事やこんなことを‥‥でゅふふふふ‥‥!」 「ちょっ、帰ってきてくださーい!? そろそろ本番ですよー!?」 「はっ!? ‥‥万一方向が判らなくなった時も、これを伝えば通路へ帰れますの♪」 「何事もなかったかのように話を進めましたね‥‥」 シノビである式守 麗菜(ib2212)と各務 英流(ib6372)は、暗視という術で明暗関係なく視力を発揮することが可能である。 各務はギルド職員の亜理紗がお気に入りのようで、しばしば思いを馳せトリップする。それにツッコミを入れなければならない式守は貧乏くじと言えないこともない。 同意を求めたら早速トリップしていたので、とりあえず正気に戻す。手頃な岩場にロープを巻き付け自分にも巻きつけるというのは本来の作戦なので、問題はない。鴇ノ宮など他のメンバーも同じようなことをやっている。 ちなみに一人欠席者がいる。行動にはより慎重さが求められるだろう。 「では‥‥まずは私たちが行きます」 「よろしくてよ。白―――」 「別に血継限界じゃありませんから!」 ひたすら不安な麗菜ちゃんであった――― ●光源を探せ 暗視の術により、通常と変わらない視界を保つ各務と式守。 部屋に突入した二人が見たものは、剣狼のようなアヤカシが五匹と全長1メートルはありそうなコウモリのようなアヤカシが四匹であった。 それぞれ眼の部分が奇妙に変形し細くなっている。光の中でも行動できるようになっている証拠か。 「おいおい、目隠しの隙間からでも相当な光が入ってくるぞ。目隠しがなくなったら失明するんじゃないか?」 「光りがひろがって‥‥真っ白白でありますよ、姉上」 「分かってるわよ。うー、ぎゅっと瞑ってても辛い‥‥!」 暗視を使えない面々は、自前の目隠しを装備したり目を瞑ったりしながら壁伝いで空間に入ってくる。 準備のいい将門すらドン引きするレベルだ。目を瞑るだけの美空や鴇ノ宮はかなり辛い。 「光る宝珠‥‥か。つか、俺出来る事少なさそうだな」 「そんなことはありませんよ。美空さんたちの援護、お願いします」 「あいよ。しっかし、この手拭がこんなに頼りになると思えたのは初めてだわな」 真亡と宵闇之羽も空間に入る。やはり簡単なものでも光を遮るものがあるのとないのとでは大違いで、完全に防げないまでも感覚まで鈍らされることはなさそうか。 そうこうしているうちに、ギィ、と短い鳴き声と共に真亡に剣狼が攻撃を仕掛けた。 タン、という地面を蹴った音に反応し、真亡はとっさにガードする。 「っ! 例え目が見えなくても、僕には心の眼もあるんだ!」 心眼を使用し、一瞬とは言えアヤカシの位置を確認する。 すると、さきほど攻撃してきたアヤカシとは別の方向から別のアヤカシが近づいてくることが判明する。 翼の音がする。コウモリの方か! 「当てるので精一杯か‥‥!」 当てるには当てたが手応えがまるで無かった。傷は浅いと言わざるをえないだろう。 「当てられるだけマシだ。美空、次は!?」 「んっと‥‥左斜め前から来てるであります!」 「アバウトだぜ‥‥!」 苦々しげな台詞と共に刀を構え、右に向かって薙ぐ。 しかしそれは虚しく空を切る。一応攻撃してきた相手も引いたようではあるが。 「うー、集中できない〜! ちょっと、光源はまだ特定できないわけ!?」 「さ、探してはいるんですけれど‥‥!」 「それらしい物体がございませんの」 瞼をぎゅっと閉じていても突き刺さるような光はあまり防げない。目の痛みで術に集中できない鴇ノ宮。目を開ける気にはさらさらなれない。 式守と各務もアヤカシと戦闘しつつ辺りを見回しているのだが、それらしい台座などはない。 壁は岩盤そのままだし、天井も床も同義。これでは壁に埋まっているのだとしても判別がつかない。 宝珠の形は球体と決まっているわけでもないのが頭の痛いところだ。 「こうなったら、まずはアヤカシをなんとかしましょう! 各務さん、その黒っぽい毛布で鴇ノ宮さんを助けてあげてください」 「承知いたしましたわ」 各務は宝珠を包む予定だった毛布を手に鴇ノ宮に接近、ばふっと顔をまるごと包み込んだ。 分厚い毛布レベルになれば、流石に光も大分和らげてくれるようである。 「ぶほっ!? あによ、優しくない方法ね!」 「私の優しさはすべてお姉さまのために存在してますので」 「あっそ。一応お礼は言っておくけどね。蛇神、召喚!」 鴇ノ宮の声に応え、巨大な蛇の形をした式が出現する。ご丁寧に眼を閉じているのがちょっとおちゃめだ。 しかし、攻撃対象を指定しないことには呼んだだけになってしまう。目が見えないのはやはり痛い。 「心の目に頼る‥‥なんて、オカルトもいーとこよね。‥‥って、陰陽術師が言うのも変か‥‥」 「! そのまま真っ直ぐ突進させてくださいまし!」 「っ!」 各務のアドバイスを瞬時に理解し、鴇ノ宮は蛇神を突進させる。 ズドンという衝撃音と、ずざざという地面を擦る音。どうやら剣狼あたりが吹っ飛ばされたらしい。 その瞬間、部屋の何処かでパキンという音がしたのを全員が聞き取った。更に‥‥? 「おや? 少しだけ眩しさが和らいだであります!」 「そうか? 全然変わったように思えないが。シノビのお嬢ちゃんたちはどうだ?」 「い、いえ、私たちは元々明暗の影響を受けないのでなんとも‥‥」 「俺にも感じられた。目隠しが薄かったのが幸いしたかね」 どうやら、美空と宵闇之羽は一瞬部屋が明滅したように感じられたらしい。 正確には一瞬で部屋の明度が減じたのだが、目隠しをしていたり暗視を使っている面々には分からなかったようだ。 「これは‥‥つまり、この部屋に出現するアヤカシを倒す度に部屋が暗くなっていくわけね。瘴気に反応して周辺を発光させる宝珠ってところかしら」 「で、でも、さっきのパキンッて音が気になるんですけど。何かにヒビが入ったような乾いた音でしたよね? 最終的に宝珠が砕けたりしないですか‥‥?」 「そん時はそん時だな。瘴気だかアヤカシだかに反応して発光して、瘴気がなくなったら壊れるていうんじゃ研究のしようがないからな」 鴇ノ宮の考察に、宝珠の安全を危ぶむ真亡。 一応持って帰ることが出来ればベストではあるが、この先も遺跡は続くはず。この場で行き止まりというわけにもいかないだろうし、将門の言うように壊れるならその時はその時だ。 「わかりました。麗菜さん、英流さん、敵の数を減らしてください! ある程度光量が下がったら僕たちも積極的に加われるはずですから!」 「了解いたしました。お姉さまのBWHのためにも一肌脱ぎましょう!」 「相談の時にも言ってましたけど、絶対教えてくれませんよ‥‥?」 「なら触診で確かめるまでですわ。火遁! 猛火球の術!」 「‥‥か、各務さんには触られないようにしましょうっと‥‥」 「あら、触る価値がありますの?」 「どーいう意味ですかっ!? そーいう意味ですかっ!? 持たざる者の怨念受けてみますかっ!?」 明暗の影響を受けない二人は至って普通に戦えるし会話も自在だ。 故に各務のボケが式守のコンプレックスに引っかかったらしく、火遁を放った各務に式守がずかずかと詰め寄っていく。 火遁を食らったコウモリのようなアヤカシが、反撃のために突撃するが‥‥ 「今取り込み中ですっ!」 半ギレの式守が苦無を投げ放ち、撃墜する。おかげでまた一段階明度が下がった。 「こ、怖いであります‥‥。っと、真亡さん、前に武器を突き出してみてください! 3、2、1、ゼロ!」 「せぇいっ!」 言われるまま、渾身の力を込めて刀で突きを繰り出す。すると、ずぶりという確かな手応え。高さからすると剣狼の方ではないようだ。 手応えが霧散すると、また少し空間が暗くなる。 「‥‥薄目にすれば何とか行けるか。今までのお礼をさせてもらう!」 「眼精疲労が溜まってしょうがねぇや。ゆっくり眠りたい気分だぜ‥‥」 「あたしはもうちょっと毛布が必要かも。美空、指示よろしく!」 「合点承知でありますよ、姉上!」 将門と宵闇之羽は、それぞれ目隠しを取り去り武器を構える。 まだ相当目に来るが、三匹アヤカシを倒したことで目を開けていられないというほどではなくなった。 無理をしてでも即効で数を減らしたほうが、最終的に安全だと判断したのだろう。 鴇ノ宮は美空の指示の下、蛇神を再発動しアヤカシを追い詰める。 空間にアヤカシの断末魔と乾いた音が響き渡り‥‥一際大きな破砕音が響くのに、さほど時間はかからなかったという――― ●報告 宝珠と言っても千差万別十人十色。その特性、効果は解明されていないものも多い。 今回の宝珠はイレギュラー的な要素の強い物で、有効活用は難しいとの判断となったようだ。 ちなみに宝珠と思わしきものは壁の亀裂の中にあり、パッと見では見つからなかった。 アヤカシを全滅させたことで完全に砕け散り、価値はなくなってしまったことだろう。式守が想像した夜間用の照明器具にもなりそうもない。 「というわけですわお姉様。英流、今回も頑張りましたの‥‥」 「ご、ご苦労様です‥‥」 我こそはとギルドに報告に来た各務。暗にご褒美をくれと言っているのだ。 亜理紗はじりじりと後ずさりしているが、各務は気にせず距離を詰める。 手をワキワキさせつつ、怪盗ダイブ‥‥! 「来ると思ってました! 閃光符!」 飛び掛ってくる各務に向かって、指向性のある眩い光が襲いかかった。 目を眩ませるだけの術らしいが、暗視を使っていなかった各務は落下場所を誤り地面でもがいていた。 「へぁ〜! 目がぁ〜、目がぁ〜〜〜!」 「自業自得です!」 「はぁはぁ、これもお姉様の愛なのですね! 情熱的ですわ‥‥!」 「‥‥めげませんねぇ‥‥」 兎に角、白き闇は打ち破られた。惜しいが人の手には余る宝珠であっただろう。 遺跡に眠る宝珠‥‥まだまだ底の知れない物が眠っているはずである――― |