僵屍、猛る
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/06 06:39



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 ある日の開拓者ギルド。
 蝉が鳴き始めた今日この頃、神楽の都、開拓者ギルドでも暑い日が続いている。
 そんな中、応接室で職員二人‥‥十七夜 亜理紗と西沢 一葉が、黙ったまま向い合って座っていた。
 あれこれあって聞く機会を逸してしまったが、再び僵屍(キョンシー)関連の依頼が来たことを機に、一葉に事情の説明をしてもらおうということになったのである。
 今だ謎の多い存在、キョンシー。それに妙に詳しい一葉は、『道士』という家系の落ちこぼれであると告白していたが‥‥。
「‥‥何も聞かないのね」
「‥‥なるべく言いたくないことなのはわかりますから。一葉さんのタイミングをお待ちします」
 以前、とある開拓者の言葉に心を動かされ、キョンシーとの戦いを助けることを決意した一葉。
 しかし、彼女はごく普通の一般人である。志体はなく、戦闘力は開拓者に遠く及ばない。
 一葉にできるのは知識面の補助。アヤカシとは別種、ケモノでもない、謎の存在への知識が武器となる。
 やがて息を大きく吸って吐き、覚悟を決めたように口を開いた。
「‥‥道士っていうのは、対キョンシーの専門家と言ってもいい存在よ。キョンシーも道士も元々は泰国が発祥の地で、独自の術や対処法を確立して行ったと言われているわ」
「それが何らかの理由で天儀にも現れるようになった、と‥‥。そもそもキョンシーってなんなんですか?」
「人の遺体が瘴気の影響を受けて変化するモノ‥‥としか言いようがないわ。これは道士でも分かっていないことなの。驚異的な防御能力を持ち、凶暴化すると人に噛み付きキョンシーにしてしまう力を備えるわね」
「じゃあ、凶暴化しない、していないキョンシーも居るんですか?」
「そう。穏やかなキョンシーは人を襲わないし、何かの拍子に噛まれてもキョンシー化しない。それに、道士の使うお札で動きを制限し自由自在に操ることもできるわ。まぁ、私にはできないけれど」
「‥‥キョンシーの弱点ってあります?」
「日の光が苦手だけれど、別にそれで死ぬわけじゃないし‥‥多分無いんじゃないかしら。ただ、武器の攻撃より素手での攻撃のほうが効果がありそう、というのは眉唾ものだけど道士に伝わる言い伝えね」
 一葉の家系は、昔に泰国から渡ってきた道士の家系らしい。
 しかし当時、天儀にはキョンシーが存在していなかったため、道士の仕事はすぐに廃業。それぞれ天儀の文化に馴染み、現地の仕事を糧として生きてきたのだ。
 ちなみに一葉の代となると、泰国の血は薄まり純粋に天儀に住む人々と変わらないレベルになっている。その辺りも一葉が落ちこぼれと言われる所以なのだろうか?
 一応、彼女の父親は道士としての才能を普通に受け継いでいたらしいのだが‥‥?
「とりあえず、今回の依頼のターゲットのキョンシーは、見た目ですでに凶暴な感じらしいんですけど‥‥対処法は?」
「最大の特徴、噛まれたあとのキョンシー化は、解毒の術で治せることが確認されてるわ。逆に言うと薬なんかは無いから、解毒の術が用意できない場合、道士に伝わる解毒法に頼ることになるわね。それ以外は‥‥私の立場からは頑張って、としか」
 高火力を以てすれば倒せないことはないと証明済みだが、その防御能力は半端なものではない。
 人肌に見えて鋼鉄の剣をも弾くその防御をどう打ち崩すのかが問題となるだろう。
「凶暴化は生前の恨みが大きく影響してる。でも、その恨みを晴らしたからと言って成仏するわけでもない。アヤカシと同じで、キョンシーも凶暴化してしまったものは共存不可能、見敵必殺がベストよ」
 増えつつあるように思える天儀のキョンシー。
 被害の拡大を防ぐためにも、早期の撃破が求められる―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
禾室(ib3232
13歳・女・シ
マハ シャンク(ib6351
10歳・女・泰


■リプレイ本文

●道士の知識
 八月某日、依頼の参加者たちは現地に出発する前に、開拓者ギルドのある人物を訪ねた。
 西沢 一葉。道士の家系に生まれたという彼女はキョンシーに対する知識などが豊富であり、天儀ではまだよく知られていないそれを相手取るには重要な存在なのだ。
 個室に通された開拓者たち。ややあって一葉も室内に入り、座る。
「では早速質問させてもらうのじゃ。キョンシーは『人の遺体が瘴気の影響を受けて変化するもの』‥‥なんじゃよな。条件がある程度わかっとる以上、例えば人妖のように人工的に作り出す事も可能なのではと思ってしまったのじゃが、そういう事は有りえるのじゃろうか」
「難しいですが、できないことはないです。陰陽師が式を創りだすのと似ていますが、単純に遺体を瘴気に晒せばいいというわけでもないので、腕のある道士でもそう簡単には行きません」
 禾室(ib3232)の問いに、一葉はしっかりと答える。もう以前のような動揺はないようである。
「では、素手以外に有効な攻撃手段はありますか?」
「それは私も知りたいです。幼少の頃聞かされた、糯米や鶏血の有効性をはどうでしょう?」
「糯米や鶏血は、一定の効果はあるとだけ。しかしそれはキョンシーを退治しきれるものじゃありませんし、多分思っているほどの効果は得られないと思います」
 発祥の次は対策。佐久間 一(ia0503)と趙 彩虹(ia8292)は、打撃攻撃以外の攻撃方法を模索する。
 どうやら泰国で伝わるキョンシー対策の道具などは少し誇張されているらしく話ほどの効果はないようだ。
「幾らなんでも、今回のは不自然ですよね。気になるのは一年前の遺体が何故、という点。流石に白骨化してるでしょうし‥‥骨が瘴気を受けてキョンシー化ってあるんですかね?」
「いえ、キョンシーは白骨化していては発生しません。おそらく今回の場合、亡くなった後、遺体が白骨化する前にキョンシー化していたものと思われます。それが何らかの拍子で外に出る機会に恵まれた‥‥と見るのが正しいかと思います」
 雪切・透夜(ib0135)の疑問はもっともである。流石に骨から肉体を再生というわけにもいくまい。
 埋葬の仕方にもよるが、埋められた後に遺体がキョンシー化していても気づくものはいないだろう。今回はたまたま外に出られたのか、そうでないのかは別にして‥‥。
「ふーむ‥‥私も専門の道士に聞いたわけではありませんからね。ところで、西沢様のお父様にお話は伺えませんか?」
 趙は予め一葉の父に話を聞きたいと打診していた。しかしそれは叶わず、一葉が応対することになったのである。
 何故か。一葉は悲しそうな顔をした後、少しの間黙ってしまう。
 と、そこに。
「ごめんごめん、ちょっと遅れたぜぃ!」
 何しかしらの理由で少し遅れていたルオウ(ia2445)が戸を開け、個室に現れる。
 それまでのやり取りを知らない彼は、微妙な空気を感じつつも質問をした。
「ん〜‥‥なんか話難い事情あるみたいだけどさ、キョンシーの事、聞いていいかな?」
「‥‥えぇ。今の私にはそれしかできませんから。まず‥‥私の父は、いません。父は‥‥私と母を捨てたんです」
 一葉の父は、どんどん血が薄まる中、道士としての才能に溢れた人であった。その実力は全盛期の‥‥天儀に馴染み西沢という姓となる以前のご先祖様たちに勝るとも劣らないとさえ言われていたらしい。
 しかし、だからこそ許せなかった。我が子が一族きっての才能なしであったこと。そして、妻がそんな子供を産んだことを。
 一葉が幼少の頃に、父は家を出て泰国に渡った。自らの腕を更に磨くため‥‥そして、キョンシーに苦しめられる人間がより多いであろう泰国へ。
 一通りキョンシーの知識、道士の技を教えられていた一葉。しかしそのどれも、父親が満足できるレベルに達することが出来なかった。
 自分のせいで父は出ていき、母は泣き、女手ひとつで自分を育ててくれたのだ。一葉がキョンシーのことに触れたくなかったのはこういう経緯がある。
「‥‥いいんです。今更言っても始まりませんから。どうぞ、質問を続けてください」
「んっと‥‥一つは事件のあった村付近に道士ってのがいないかって事。もう一つは意識的にキョンシーを生み出したり凶暴化させることが出来るかどうか、かな」
「一つ目の答えは、わかりませんとしか。道士は泰国ですら数が少ないので、天儀土着の道士は私の家の他にあるのかすら‥‥。最近渡ってきたという可能性もありますが、道士の服でも着ていないとわかりませんしね」
 二つ目の質問については、先に禾室が聞いていたので割愛。
 無理矢理凶暴化させる方法だが、これが意外なことに今のところは無いらしい。
 キョンシーとなった時点で凶暴かそうでないかに分かれ、それが変わることはない。凶暴だったものが無害になったり、無害なものが凶暴になったりはしない。これもメカニズムが解明されていない点だ。
「ん、ありがとっ! 後は頑張って倒してくるぜぃっ! あ、最後にこれ関係ない事なんだけどさ、一葉ってキョンシー見た事あんの?」
「ありますよ。子供の頃に、父に退治に連れていかれました。‥‥それが、父との最後の思い出です」
「え‥‥あ、ごめ‥‥べぶっ!?」
「ほら、いきますよ。まったく、デリカシーのない」
「だ、だって俺、知らなくて‥‥ごべっ!?」
「この際、知っていたかどうかは関係ないのじゃ!」
 佐久間と禾室にどつかれながら、ルオウは退席する。
 一葉が息を吐くと、まだ目の前にマハ シャンク(ib6351)だけが座っていたことに気づく。
 しばしの沈黙の後、マハは口を開いた。
「‥‥おぬしの言うおちこぼれ。それにどんな意味があるというんだ?」
 一葉は答えない。
「自分が不出来だ。そう思い込むのは簡単だ。誰にだって出来る」
 違う。実際に才能がなかったんだ‥‥!
「その無力感を踏み潰さんと出来る事をやってきたのではないか」
 そう。だから早く就職した。この開拓者ギルドに。
「無力感を抱えて生きる辛さはもう十分味わっただろう?」
 母は私に辛く当たったことは一度もない。それが逆に、辛かった。
「自分が、自分だけのやれる事が今まさに目の前にある」
 知識‥‥? いや、きっと‥‥それだけじゃない。
「それを放って置いて後で自分は後悔しないのか?」
 ‥‥わからない。私は‥‥どうすればいいの‥‥?
 一葉は何も答えることが出来ず、頭の中でぐるぐると考えがめぐる。
 ふと気づくと、マハはすでにその場にいなかった。
 西沢 一葉。泰国でも珍しい、道士の家系。そして、道士の技と知識を継ぐ者―――

●恨み、辛み
 夜の帳が降りた村を、篝火や松明の火が照らし出す。
 人通りはない。開拓者たちが外出を禁じたためであるが、そうでなくともキョンシーに怯え夜に出歩こうという者は殆どいなかったが。
 鷲尾天斗(ia0371)の発案でキョンシーとなった人物の墓を見に行ったが、そこは中から這いでたように内側から破壊されていた。少なくとも、そう見えた。
 村人に最近噛まれた者が一人いたので、禾室が大急ぎで解毒の術で治療した。
 肌が青白くなり、目の下にくまのようなものができ、夏だというのに寒がる。もう少し彼らの到着が遅かったら危なかったかも知れない。
「自身を媒介に次々に感染と‥‥疫病だな、まるで‥‥」
「悪意の伝染か‥‥怖い怖い♪ 発生するのは構わないけど、他人を巻き添えにするのは感心しないかな」
 雪切が呟いた疫病というのは言い得て妙かも知れない。
 瘴気という病魔に侵され、それを他人に感染させていく不治の病。鬼灯 恵那(ia6686)としてはキョンシーは斬る対象だからいいが、それが命を代償に増えていくのはよろしくないらしい。
 と、その時である。
「しかし、アヤカシとは別種でケモノでもない。そして斬撃系が効かず打撃系のみとはねェ‥‥。マジでオモシレェなァ、この世は。たまらんなァ」
 クヒヒ、と笑い、槍を構える鷲尾。その視線の先から、ドン、ドン、という独特の足音‥‥!
 それに気づき、他のメンバーも一斉に戦闘態勢に入る。
 篝火に照らされたその表情に、一行は思わず息を呑んだ。
 以前のキョンシーは無表情に近く、それと戦った者は特に驚きが大きい。今回のキョンシーは常に憤怒の形相で、牙をぎらつかせているのである。
 獲物を見つけた。そう感じたのか、グルル、と獣のように唸りだす‥‥!
「さァて、パーティーを始めようかァ!」
 どちらも殺る気満々だ。にらみ合うようなことは一瞬もなく、口火が切られる。
「斬撃は効かねェならまずは」
 いの一番に槍を突き出した鷲尾。しかし、ガキィンというおよそ人体を突いたとは思えない音がしてあっさり止められてしまう。
「ほんじゃ、コレはドウよ!」
 紅焔桜を発動させての平突き。防御を低下させての技であるが、これも多少後ろに跳ねさせたくらいで効果が薄い!
「確かに、アヤカシとは少し違う‥‥様な気もします」
 続けて佐久間が攻撃に入り、刀と木刀で秋水を仕掛ける。
 神速の斬撃。その速さは血飛沫すら起こさせないという。
 しかし‥‥防御力を大きく削ぐこの技であっても、刀で相手を『叩く』結果にしかならなかった。
 斬れない。はじき飛ばしたし、ダメージはしっかりあるのだろうが普通の生物なら即死クラスであってもキョンシーには効果が薄い。まるで鋼鉄を叩いたようだという比喩は間違いではなかった。
 逆に‥‥
「はぁっ!」
 ごきん、と嫌な音が響き、キョンシーがギュルギュルと回転し地面に伏せる。
 すぐさま起き上がったが、同じ秋水使用なのに木刀のほうが一目瞭然で効果が大きく見える。
「次はコレだァ! 斬撃は効かねェんならよォ、砕くって言うのはどうかねェ!」
 雷鳴剣を放った後、槍の柄での打撃に移る鷲尾。
 意外と抵抗力もある。雷鳴剣での一撃は、多少痺れた程度であまり効いていない。そして、打撃はキョンシーが振りかぶった腕と激突し弾き返されてしまった。図らずも受けさせられた格好か。
 その馬鹿力はやはり凶悪。そして、表情と同じく攻撃性が高い!
 両足ジャンプで意外なほど俊敏に動き、佐久間に急接近し、牙を剥く!
「くっ!」
 虚心を発動していなければ危険なレベルだったが、なんとか回避! 距離を取ろうとするも、しつこく食い下がってくる‥‥!
 その時、雪切と鬼灯が拳をキョンシーに叩き込んだ!
「次は僕達が!」
「さしずめ今回は剣鬼じゃなくて拳鬼ってことで♪」
「恵那さん、私を忘れてもらっちゃ困ります! 私のほうが本職なんですよ!」
 趙を含め、素手、及びそれに準じる格闘攻撃を仕掛ける三人。雪切も本来は武器を使うが、わざわざ徒手空拳を選んだのである。
「ふっ! でやっ!」
 しかし、それは正解と言えた。本来なら無意味な行為かも知れないが、キョンシーに関しては効き目がある。
 ダメージが爆発的に増えるわけではないが、少なくとも隙ができる。特に、相手は殆ど避けないしガードもしないので面白いように攻撃が決まる。
「ぐ‥‥あっ!」
 ただし、流石に防御が手薄になるのは否めない。
 キョンシーの剛腕を受け防御した雪切は、大きく弾き飛ばされ地面をこする。
 戦えなくなるほどではないし、禾室が回復してくれたので大事はない。
「彩虹さん、送るぞ!」
「おまかせです!」
 鋼拳鎧という武装でキョンシーを殴り飛ばす鬼灯。よろめく先には趙。
 蹴りを腹に決め、桶の山に叩きつけ盛大な音とともにそれが崩れる。
「ふぅむ。どうもふっ飛ばしたり隙を作ったりはしておるが、ダメージはさほど無いように見えるのう」
「そりゃ素の火力が低くなるしなぁ。それにあいつ、硬い上にタフなんだよな」
「なら動かなくなるまで殴るまで」
 禾室を守っていたルオウとマハも戦闘に参加することにする。
 キョンシーは瞬脚のような一瞬で相手に近づくような挙動をしないし、基本的に近くの相手を狙うこともわかったからだ。
 桶の山から何事もなかったかのように起き上がるキョンシー。その表情は恨み辛みを叫んで隠さない。
「木刀は効くんだもんなぁ。変なやつだ‥‥ぜぃっ!」
「良い位置だ。褒めてやるぞっ!」
 ルオウが木刀でのタイ捨剣を放ち、大きく吹き飛ばす。頭が下がったところにマハが回し蹴りを叩き込む!
 しかしキョンシーもやられてばかりではない。そのタフさを武器に、すぐさまマハに反撃に移る。
 なんとか回避しようとするが、攻撃時の動きは鋭い。両肩をがっちり掴まれ、首筋に噛み付かれる‥‥!
「がっ‥‥ぐぅっ‥‥!」
「何羨ましいことしてんだコラぁっ!」
 鷲尾が槍の柄でキョンシーの側頭部を叩き、引き剥がす。
「‥‥羨ましいっていうのはなにか違いませんか、鷲尾さん」
「俺はロリコンだからな! 幼女の首筋に噛み付くなんて羨ましいじゃないか!」
「‥‥雪切、鬼灯。仕置きして、おけ‥‥!」
「了解です。とりあえず早く治療してもらってくださいね」
「ちょっと叩くけど、まぁ壊れてもかまわないよね♪」
 佐久間のツッコミにも悪びれなかった鷲尾の末路は放っておくとして、禾室に解毒してもらうマハ。やはり解毒の術を使える者がいるのは非常に心強い。
「やっぱりきりがありませんね。ここは一つ大技でいきましょう。援護、お願いします!」
 趙が桃木剣を取り出し、力をためる。
 鷲尾を殴り終えた雪切と鬼灯が素早くキョンシーに接近し、その両腕を全力で抑えこむ!
「な、なんて馬鹿力! 速く!」
「行きます!」
 百虎箭疾歩で姿勢を低くし一気に接近、桃木剣に破軍を限界まで重ね、みぞおち辺りを突く!
 雪切、鬼灯もろとも吹き飛ぶキョンシー。二人はすぐさま腕を離し、なんとか着地する。
 そしてその横を、何かが凄まじいスピードで通り過ぎた‥‥!?
「お礼はしてやらんとな?」
 マハが瞬脚+百虎箭疾歩で、まだ吹き飛んでいる最中のキョンシーに相対速度を合わせる。
 そこから繰り出される泰練気法・弐‥‥!
 新たな衝撃を受け、キョンシーは木に激突し‥‥その木をへし折った。
 地面に倒れ伏すキョンシー。しかし、それで油断してはいけないことを知る者も多い。
 そこで、ルオウ、鬼灯、佐久間、禾室がキョンシーの四肢を抑えこみに入る。
 案の定まだ動けたキョンシーは、幾分弱々しくだが四人を振りほどこうともがくもそうもいかない。
「『モノ』なんて、好きでなったでもないだろうにな‥‥。せめて、安らかに」
 雪切が油を借りてきて、頭から焼いていく。
 火達磨になったキョンシー。離脱してその姿を見つめる開拓者の中には、また倒しきれなかったと思う者もいる。
 実際、ダメージではなく最終的に火葬頼り。まだまだキョンシーには手を焼きそうだ。
 とにかく、撃破は終了。後に残るのは、黒い灰と風の音だけであったという―――