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■オープニング本文 天儀に数多存在する開拓者たち。彼らは時に手を取り合い、時にぶつかり合い、世の中を開拓していく。 そんな中、チームを組んで戦う開拓者も多いことだろう。拠点での仲間、依頼でよく顔を合わせる者など、形は様々だが縁が深い関係になる者たちは少なくない。 この物語は、一つのチームと邂逅する開拓者たちの記録である――― 「道に、希望、見つけ、手綱を引いたなら 僕ら、行くさ、ヤバいトラブルお任せさ 走る、五人、遠く、響く蹄鉄で、悪さなんかぶち破れ! スカイ、広がる空と、広がる台地で 街道守る 平和を守る 僕らはチーム 馬ー連団、馬ー連団、負けは許されないぜ 愛馬の轡を並べて 馬ー連団、馬ー連団、人を物を通して、天儀の流れを拓くさ 衛走戦団馬ー連団ー♪」 ある日の開拓者ギルド。 今日も今日とて開拓者でごった返すギルドの一角で、何故か拍手と歓声が上がっていた。 担当者である十七夜 亜理紗はやりきった顔をした後、ペコリとお辞儀をして何事もなかったかのように依頼の紹介へと移る。 「はい、というわけで今回ご紹介する依頼は、『戦う街道安全! 衛走戦団、馬ー連団!』の方たちからの依頼です。馬ー連団の方たちのことは皆さんご存知だと思いますが、一応説明を」 馬ー連団(ばーれんだん)とは、五人の開拓者のチームのことである。 主に街道に関するトラブルを解決してくれることで有名で、天儀のあちこちでアヤカシや野盗などを退治している。 基本的に馬で移動するが、事件現場が遠い場合は龍に乗ることもあるという。 活躍と人気ぶりから専用の歌まで作られたようで、こういった歌まであるチームは彼らだけではないらしい。 余談だが月給制である。 「最近、その馬ー連団の方たちを挑発するかのように暴走行為を繰り返す一団がいるそうなんですね。ところ構わず馬を乗り回し、時には農作物を育てている畑を荒らすこともあるとか。勿論、街道を行き来する人や物を巻き込んだ事故も起こしています」 要はチンピラが徒党を組んで、やることもないから馬で走り自己満足に浸っているのだ。巻き込まれる一般人はたまったものではない。 戦う街道安全としては黙ってはいられないとのことで、他の開拓者の力も借り一気にこの暴走族を叩き潰したいということである。 「今回の依頼では、ギルドから馬を貸し出しますのでそれに乗って馬ー連団の方々と合流してください。後は暴走族を見つけて倒すだけ。シンプルなお仕事です♪」 「質問。龍を使っちゃ駄目なのか?」 「駄目です。アーマーも駄目です。馬でお願いします」 「質問その2ですわ。なぜ『ばれんだん』ではなく、『ばーれんだん』と伸ばしますの?」 「なんとなくです!」 「質問その3だす。アーマーは、敵が芋羊羹食べた後ならOKだべか」 「んー‥‥ギリギリ許可します!」 同じ開拓者からの依頼である。出来れば協力して街道の安全を確保して欲しい。 数多い戦団の一つが、今、君の力を欲している――― |
■参加者一覧
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
月見里 神楽(ib3178)
12歳・女・泰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
春風 たんぽぽ(ib6888)
16歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●馬で行こう! 9月に入ったというのに残暑の厳しい天儀‥‥そして神楽の都。 御多分に漏れず今日も日差しが照りつけているが、そんなことは関係なしに依頼の出発日はやってくるものである。 ギルド前に集合した開拓者たちは、ギルドが貸し出してくれる馬の状態をチェックする。 まぁ可もなく不可もなくといったところか。貸出用の馬が名馬ばかりというわけにもいくまい。 そしていざ出発‥‥という時である。 「もしもしモフペッティさん、何でここに‥‥?」 「ヒーローとして馬ー連団と共闘するもふ!!」 そこにいたのはどう見てももふらである。どうやらペケ(ia5365)の朋友らしいが、自分のことをヒーローと言い張る癖があるようだ。 「‥‥‥‥」 ペケはもちろん、他の全員が見なかったことにして馬に乗る。 これを連れていってはいけない。ただでさえカオスなことになりそうな予感がするのに、こんなカオス要員を増やす訳にはいかない。理屈でなくそう感じたのだ。 そしていざ出発‥‥のはずが。 「よっ‥‥はっ‥‥うぅ‥‥み、皆さん、少々お待ちを‥‥!」 春風 たんぽぽ(ib6888)が上手く乗馬できずに苦戦している。その所作から馬に乗り慣れていないのは明らかだ。 「何をなさっているので? 置いていきますよ」 「はっはっは、あれだろ。この微妙な空気を和ませようとしてるんだろ? 心意気は買うから早く行こうぜ」 からす(ia6525)と村雨 紫狼(ia9073)が馬上から声をかけるが、春風は苦戦したまま。 やがてやたらといい笑顔で、 「実は馬に乗るなんて、はじめてなんです!」 その言葉に一同無言。その沈黙が春風には辛かったが、ややあって‥‥ 「‥‥‥‥行きましょうか」 「にゃ? だ、駄目なのですよー、たんぽぽさん置いてったら!」 「フフ‥‥仕方ないね。おいで、ボクの馬に乗せてあげよう。ついでにボクの上に乗ってくれても構わないよ」 「どこにどう乗るのかな〜? ともかく、こういうのは一人でやらせるのが本人のためだから。おーけー?」 レネネト(ib0260)の美味しいボケを本気と取ったのか、月見里 神楽(ib3178)が慌てて静止をかける。 それを面白がってフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が更にボケ、リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)がツッコむというというカオスな状況であった。 「出発する前からこんな状況で大丈夫なんです‥‥?」 カオスの発端、ペケが微妙な顔で呟く。 ‥‥ダメかも知れない――― ●衛走戦団、馬〜連団 現地近くで馬〜連団と合流した一行は、馬を走らせ暴走族が出没すると思わしき場所へ急ぐ。 彼らは常に五十人近い集団で行動するらしいので、見つけやすいは見つけやすいが手が足りないことが多くなる。故に今回の依頼が出されたわけだが。 「いやぁ、心強いなぁ。ここで一気に暴走族をやっつけちゃおうじゃないか」 赤を基調とした服装の男。彼が馬〜連団のリーダーらしい。 他にもそれぞれ緑、黄、青、ピンクが基調の服装をした面々が四人。合計五人で、『戦う街道安全! 衛走戦団! 馬〜連団!』である。 「ところで、さっき後ろを付いて来ていたもふらはなんなのでございます?」 「ごめんなさい、気にしないでください‥‥」 やたら丁寧な口調で疑問を投げかける青。 今はもう引き離して見えなくなったが、先ほどまでモフペッティが必死に後を追ってきていたのだ。 ペケはそれだけ言ってふっと後ろを見る。 すると、春風が馬〜連団の黄色とピンクに教えを請いながらもきちんと馬を走らせている姿が映った。 「そうそうその調子。なかなか上手いじゃない」 「頑張って! 慣れれば慣れるほど面白くなるから、乗馬って!」 「空に居るお母さんお父さん‥‥たんぽぽは今、風を全身で感じています‥‥。蒲公英の綿毛も、風に運ばれるときこんな気分なのでしょうか‥‥」 「って魂出かけとるやん!? なんや走馬灯見とるんとちゃんうんかこの子!?」 緑のツッコミからもわかるように、台詞とは裏腹に春風の首はカクンと右に傾いている。 初めての乗馬でこれだけスピードを出せば怖くて当然。龍に乗ったりするのとはまた違うのだ。 「‥‥心強いですか? 赤い人」 「前言撤回。悪いけどヤバい様な気がしてきた」 「意見変えるの早いね〜‥‥。素直なのか、ただの無責任なのか‥‥」 「‥‥そうかもしんない‥‥」 からすやリーゼロッテのツッコミに律儀に答える赤。 カオスにカオスを混ぜるな危険と言ったところだろうか。 と、そこに。 「みなさん、冗談はそのくらいで。暴走族を発見しました」 そういうレネネトの視線の先には、馬を走らせる男たちの集団。 全員チンピラ風味の流しの着物に、馬に妙な突起物や布などを装備させ派手な一団と化していた。 ここまでは事前の打ち合わせ通り。暴走族はこちらに向かっているような格好だ。 やがてこちらの存在に気づいたのか、暴走族たちは開拓者と馬〜連団たちと対峙する形で馬を止めた。 「何ぃ!? お前ら、助っ人を連れてくるなんてズルイぞ!?」 「五十人近くで動いてるお前らが言うな! 正義の味方は勝たなきゃ駄目なんだよ!」 そう言った赤に続き、馬〜連団の面々は馬を降りる。 「降りるのかよ!?」 村雨のツッコミは無視し、馬〜連団たちはポーズを決めながら一人ずつ名乗っていく。 暴走族たちも付き合いがよく、それを邪魔したりはしないようだ。 「赤制馬!(あかせいばー)」 「青制馬!」 「緑制‥‥おわっとぁ!?」 名乗っていた緑のすぐ足元に矢が突き刺さる。 射ったのは‥‥からす!? 「何さらすんじゃボケぇ!?」 「いや、どんな反応するかと思って。では改めてどうぞ」 「あんな、この話結構苦労して出しとんねん。権利がどうこう言うてお偉いさんがやかましいからな。せやからお約束邪魔すんのは堪忍したってや!」 「相変わらず緑さんは自重しないね。白い人の時といい」 「大人の事情なんぞ知るかい。これが俺の役どころや。赤、悪いけど最初っから!」 フランヴェルのツッコミを軽く受け流し、緑は名乗りを再開するよう促す。 赤も軽く動揺していたが、とりあえず承諾したようだ。 「お、おう。じゃあ改めて‥‥赤制馬!」 「青制馬!」 「緑制馬!」 「黄制馬!」 「桃制馬!」 『戦う街道安全! 衛走戦団! 馬〜連団!』 「弓術師のからすと言う。以後お見知り置きを」 「超精霊‥‥げほげほ、ぜぇ、ぜぇ‥‥チェルノブモぶぐふっ!」 馬〜連団に続き、ちゃっかり自己紹介したからす。そしてその直後。どこからか例のもふらが現れる。 全力で走ってきていいところに間に合ったと判断したのか、息も整わないうちに名乗りに参加した。 「‥‥えっと‥‥ペケさんのもふらだよね? 何とかして欲しいのです」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! あぁもう、ツッコミきれませんよぅ!」 月見里の言葉を受け、馬を降り高速でモフペッティを回収するペケ。それに手を出すわけでもなくしっかり待ってくれる暴走族たちは意外といいやつなのかも知れない。 「よし、じゃあそろそろ戦闘開始だ! いくぞみんな!」 「で、乗るのかよ! 忙しいなおい!?」 「俺たちの暴走行為は止まらねぇ! おめぇたち、やっちまえ!」 ペケと月見里以外の全員が馬に乗り、手綱を引く。 それぞれの得物を手に馬上での戦闘が始まった。 事前の打ち合わせで落とし穴を掘り暴走族を一網打尽にしてはという意見がからすやリーゼロッテからでていたのだが、馬〜連団の赤が『それはルール違反だ! 戦う街道安全が街道を傷つける訳にはいかない!』と猛反対したため却下となった。 後はもう実力行使しか無い。幸い、向こうは数は多いが志体持ちはあまりいないとのこと。 故に‥‥ 「今回はいやもうハーレム戦団状態やし俺ーーー! ここで女の子の為に戦わなきゃ男がすたるぜーー!!」 「にゃ! これくらいの高さなら落ちたって怪我したりしないの!」 テンションの上がった村雨や月見里に敵うはずもなく、バッタバッタとなぎ倒されていく。 開拓者も馬〜連団も、馬を傷つけるのはやめようという方針で一致している。馬に罪はないからだ。 それは術で妨害する春風やレネネトも同様である。 「アイヴィー‥‥はわっ、バインド、参ります! わわっと!?」 「馬の耳に念仏と言いますが‥‥子守唄は通用しますよね?」 よたよたしながらも術を使う春風。レネネトはいつものように何でもそつなくこなし、馬上でも気にせず歌い、馬の方を眠らせることに成功する。 「手緩いですね。あ、私は正義の味方ではないので悪しからず」 「さぁ、悪いコにはお仕置きの時間よ〜♪」 からすは容赦なく暴走族の利き腕を狙い、落馬させていく。 馬を降りたほうがいいと判断したリーゼロッテは、落馬した連中を叩きのめすことにしたようだ。接近戦が得意とは言えない陰陽師ではあるが、流石に志体を持たない連中には負けない。 順調に暴走族を倒していく面々だが、なんだか数が少ないような気がする。 「‥‥そういえばフランヴェルさんは?」 ペケが気づき辺りを見回すがその姿はない。 しかし、不意に辺りに声が響く。それは少し離れた場所にある小高くなった盛土の上で、顔の真ん中に縦書きで『BAN』と書かれた、白い覆面を被ったフランヴェルであった。 「私は惹華閃撃団行動隊長、ビッグBAN!」 「やかましいですっ!」 すこーん! といい音を立て、ペケの投げた小石がフランヴェルを直撃する。 「痛いじゃないか、子猫ちゃん」 「子猫ちゃんは月見里さんです! もうこれ以上カオスな状況にしないでくださいよう!」 「やれやれ‥‥奴らに馬の扱いは天儀で二番目だと言ってやりたかったのに」 「フ ラ ン ヴ ェ ル さ ん!?」 「わかったわかった、普通に戦うよ。それに、戦う君は美しい‥‥双丘的な意味合いで」 「‥‥もう好きにしてください‥‥」 半泣きになりながら苦無を投擲するペケ。そして覆面を取り鞭を振るうフランヴェル。この二人も参戦してはもう暴走族に勝ち目はない。 馬〜連団もふざけているように見えて開拓者。次々と雑魚を蹴散らし、志体持ちも撃破していく。 やがて30分も経たないうちに、開拓者側の大勝利で幕は閉じたのだった――― ●これからも街道安全 一網打尽にされた暴走族たちは、余罪などを調べるためにも役人に突き出された。 傷害や器物破損などはあったが、意外にも彼らの馬自体は彼らが自分で買ったものであった。それも、一人の例外もなく‥‥である。 彼ら談、『汗水垂らした自分の金で買った馬でないと、魂がこもらねぇ! 暴走する意味が無いんだよ!』とのこと。彼らなりの美学なのだろうが、暴走行為は犯罪行為である。 見事依頼を果たした開拓者たちと馬〜連団は、固い握手を交わしてお互いの発展を祈る。 「よころでさ、馬〜連団ってなんか凄い力ないのか?」 「凄い力? うーん‥‥なんだろう。そんなのあったかしら」 「街道を守ろうという心‥‥でございましょうか」 「あれちゃうか。ジェラ―――」 『それは違う』 「お後がよろしいようで」 緑のボケに全員が光速でツッコむ。 投げっぱなしのこの空気‥‥これも、馬〜連団の特徴であった――― |