【三魔星】現れた鬼たち
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/30 19:26



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 天儀の生活に欠かせない宝珠。様々恩恵をもたらすこれらは主に『遺跡』と呼ばれる場所から算出し、王朝が管理している。
 ここ石鏡の国で新たな遺跡が発見されるかも知れないとの情報がもたらされ、様々な人が色めき立っていた。
 新しい遺跡。未知の宝珠。それらは天儀の暮らしを更に豊かなものにするかも知れない。
 そう‥‥その日は、特別な日になるはずだった。少なくとも、作業員他たちの中では‥‥だが。
 硬い岩盤を砕き、掘り、根気強く進んだ日々。一人の作業員のツルハシが空洞に行き着いた時には、それらの苦労が一気に報われた気分になったのは確かだった。
 作業員全員に伝わる歓喜と安堵。やがて入り口を大きく拡充し、内部の調査へと発展する。
 しかし、遺跡特有の明るさがない。つまり宝珠の気配がないのだ。
 それでも奥に行けば何かあるかも知れない。ここまでの苦労が無駄に終わることなどあってはならないのだ。そんな意地とも言えるような思いで調査隊が進んだ時‥‥悪意は動き出した―――
「というわけで、命からがら逃げ出した作業員や調査隊の方の証言によると、中から鬼の骸骨のような姿のアヤカシが出現したようなんです。中に入っていた調査隊は七割がそのアヤカシに殺され、逃げた調査隊を追って地上にまで出てきてしまったんだとか」
 開拓者ギルドで依頼の解説をする職員、十七夜 亜理紗はいつになく緊張した面持ちであった。
 未来を拓く遺跡かと思って掘り進んだ先には、悪夢のような惨劇と強力なアヤカシが待っていたでは笑えない。
 勿論、遺跡にアヤカシが出現することは周知の事実。調査隊の中には腕の立つ者がかなりいたが、なまじ挑んでしまったがために彼らから先に命を落としたと言っていいだろう。
「調査によれば、確認されたアヤカシは三体。それ以上は中にもいません。それぞれ3メートルくらいの身長で、頭に角の生えた鬼の骸骨のような外見です。武装もしており、戦闘力は並大抵じゃありません。発掘現場付近からまだ動いていないようですが、彼らが人里にでも降りたら村一つくらい壊滅しかねません。迅速かつ確実な撃破を求められています」
 正体不明のアヤカシ。その外見から、『死鬼』と呼称されているようだ。
 それぞれに特徴があり、西洋剣と西洋風の盾を装備した個体、両刃のバトルアックスと刺突用に先が剣のようになっている盾‥‥ソードシールドとでも呼ぶべきものを装備している個体、そして両手に金属製の杖を装備した個体の三種類。
 知恵はそこまで高くはないらしく、会話などは不可能とのことである。
「相手の力はまだまだ未知数です。まずは死鬼の実力を測るために攻撃を仕掛けてください。倒せるならそれに越したことはないですが、絶対に無理はしないでくださいね」
 無慈悲な戦闘マシーン、死鬼。過去より湧き出した悪意との戦いが、また始まる―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
守紗 刄久郎(ia9521
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
レネネト(ib0260
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔


■リプレイ本文

●接敵
 夏がようやく終わり、秋の様相を見せてきた天儀‥‥そして石鏡の国。
 とある山間部に位置する発掘現場。遺跡を掘り当てるための場所であったが、今は道具や犠牲者の遺体が転がるだけの惨状と化していた。
 遠目からでも分かる巨体、そして頭の角。死鬼とはよく言ったもので、すっかり白骨化している頭部の瞳部分には不気味な赤い光を灯し、しきりに辺りを警戒している。
 種類も装備も報告通り。事件から一週間近くが経過しているにもかかわらず、この場に留まっているのもだ。
 奴らがどういう行動理念で動いているのかは不明だが、連中を排除しなければ遺跡(?)の調査などできはしない。今は依頼通り奴らの力を測るのが肝要か。
 死鬼たちは気配察知が取り立てて得意というわけではないようで、100メートル近く離れている現状で開拓者に気づいていない。
「まだこんな所にいるの? うーん、やっぱり声かけてみていい?」
「いいぜいいぜ、どんどんやれ。俺が許す!」
「考えなしで提案された意見ではないので私も反対はしませんが、個人的趣味で賛同するのは止めていただけませんか?」
「なんだとう。趣味じゃないぞう。ロリは正義なんだぞう」
「いや、師匠‥‥流石に俺も引き気味っすわ」
 神座亜紀(ib6736)は、死鬼が何日もこの場を動かないのを不思議がっていた。
 確かに遺跡(?)の中に閉じ込められていた間はともかく、晴れて外に出たのに移動しないのは不自然といえば不自然。
 故に、遠くからわざと呼びかけ、移動するかしないかを試したいというのが発言の主旨だ。
 それをさらりとやれやれと言ったのが鷲尾天斗(ia0371)。発言の内容より神座の意見だからというので賛成したフシのある、自他ともに認めるロリコン野郎である。
 ツッコミを入れたレネネト(ib0260)も、鷲尾と師弟の関係という守紗 刄久郎(ia9521)も呆れた表情で神座を庇った。
「相変わらずのご様子で。それはさておき、考古学的には、あの装備類はどうなんでしょうね。偶々そういうものだとは‥‥さてさて」
「不可思議なるモノ‥‥幽志のように造られし異形なのかも知れませんね」
「あ、それは僕も思いました。繋がりがあるかは分かりませんが、彷彿とさせるものがありますよね」
「鬼、ということはアヤカシですよね‥‥骨のアヤカシというと、生者が死んだ後に死体や骨に瘴気がついてなる印象があったのですが‥‥どうもしっくりきませんね」
 雪切・透夜(ib0135)は、死鬼の装備について疑問を持ったようだ。
 確かに、遺跡は遥か昔のもの。その中にいたアヤカシがジルベリア形式の武具を装備しているのは腑に落ちない。
 しかしジークリンデ(ib0258)や井伊 貴政(ia0213)には、同じように闇の底から這いでた悪意と戦ったことが思い出された。
 幽志と呼ばれた彼らとは様相は違うが、何か人為的なものを感じる‥‥そう言いたいのだろう。
 鹿角 結(ib3119)は幽志と戦ったことはないが、やはりその発生の仕方に疑問を持っている。
 考えれば考えるほど奇妙な点が多い謎のアヤカシ、死鬼。その正体を探るためにも今は戦うしかないという結論にいたり、神座は遠くからありったけの声で叫ぶ。
「おーーーい、不思議さんたちーーーっ!」
 その声に敏感に反応し、三体の死鬼が一斉に開拓者たちの方に向き直る。
 そして‥‥
「あっはっは、普通に突撃してきますねぇ」
「笑ってる場合じゃないよ! 頼りになるお兄さんお姉さん、よろしくっ!」
 しっかり準備しながら言った井伊。神座に言われるまでもなく、歴戦の開拓者たちは迎撃態勢に入った。
 これが、死鬼たちとの初戦闘である―――

●役どころ
 開拓者たちの全体の方針として、何が飛び出すか分からない杖持ちの死鬼を真っ先に狙うという作戦が設定されている。鬼が杖というのはどうにもミスマッチで怖い。
 そのため、剣と斧を抑えている間に数人が杖に接近し、後衛が援護しつつ撃破‥‥と、しっかりきっちり流れが決まっていたのは開拓者側を褒めるべきである。
 しかし、相談の時点で懸念はあった。杖持ちが『魔術師の術を使ってくる可能性』について。
 宝玉がついた金属製の杖を二本所持している死鬼は、こちらに向かいつつ杖を頭上で交差させ‥‥!
「くぅぅっ!? も、持っててよかった黒曜の盾!」
「げろ。あんなん貰ったら俺ヤバいって!?」
 先陣を切っていた雪切にアークブラストらしき術が放たれ、雪切は所持していた盾でガードする。
 同じく先陣を切っていた守紗だが、彼は素の抵抗力が低い上に盾もない。いきなり狙われなくて運が良かったと言わざるを得ない。
 もっとも、ガードしたとはいえ雪切もそこそこのダメージになっているのは痛い。剣と斧がすぐさま襲いかかってくるので、息をつく隙がない!
「ホーリースペル、終わったよ! ボクは続けてアイヴィーバインド!」
「お任せですよー」
「人知れない闇から這出た死鬼ねェ‥‥クヒヒヒ、オモシレェなァこの世はよォ」
 神座のサポートを受け、井伊と鷲尾、杖狙いの二人も駆け出す。
 杖持ちが魔術を使うのは確定。そうなると余計に早急な撃破は必須となる。
 特に上級術を使用し雪切を襲った威力を考えるなら尚更である。
 雪切が剣、守紗が咆哮も交え斧の死鬼と交戦している間に駆け抜ける井伊と鷲尾。
 後衛組は雪切たちを支援しつつ、まずは井伊たちを杖までたどり着かせることを優先する。
「まずは斧を!」
「こちらも続きます。奴隷戦士の葛藤を‥‥」
 後方から弓矢で援護をする鹿角。先即封で死鬼の隙を作る作戦である。
 そしてレネネトは術で剣と斧の防御力を削ぐ。杖は最優先で撃破したいが、後方に位置しているので仕方がない。剣と斧も撃破できるならそれに越したことはないものだ。
 そうこうしているうちに井伊と鷲尾が杖に接近する。
 いくら巨体とはいえ得物が杖で、魔術タイプ。二人が一気に攻めれば撃破は不可能ではないはずだが‥‥!?
「今日は鬼を倒す気まんまんですよー!」
「さァ、お待ちかねのパーリーを始めようじゃねぇか!」
 柳生無明剣からの鬼切。紅焔桜からの白梅香。どちらも最初から全力全開の一撃を叩き込むべく肉薄する。
 もう一息で辿り着く。しかし、杖持ちはまるでそれを読んでいたかのように術を発動させた。
 杖の宝玉が光ったと思った次の瞬間、杖持ちの周囲に竜巻が発生する。
「ト、トルネード・キリク!? ちょっ、うわっ!?」
「おいおいおい、カッコ悪ぃぞ俺らぁぁぁっ!?」
「というか、僕達も巻き込まれ‥‥!」
「術はヤバい‥‥どおぁぁぁっ!?」
 半径30メートルにもわたる巨大な竜巻。これを避けるには範囲の外に居るか、術者のすぐ近くまで接近している必要がある。
 杖が後方に位置していたのはこれのためもあったのかも知れない。剣と盾、それと戦っていた雪切と守紗も巻き込んで真空の刃と竜巻が荒れ狂う。
 風が収まった後には、盾を構えた雪切だけがなんとか立っていた。他の三人は弾き飛ばされ地面におねんね状態で、それは剣と斧も同様だった。
 しかし死鬼たちはダメージこそありそうだが何事もなかったかのように立ち上がり、仲間割れなどするでもなく、倒れた井伊、鷲尾、守紗に向かっていく‥‥!
「雪切様、一旦後退を。皆さんの傷を癒しますので」
「た、助かります。流石に傷がバカにならなくて‥‥!」
 ジークリンデの声を受け、次々と後退する前衛メンバー。当然剣と斧が追撃をかけてくるが、レネネトが重力の爆音、神座がホーリーアロー、鹿角がガドリングボウを次々と放ち足止めする。
 一番に後退した雪切が傷を治してもらい、剣と再び交戦。その間に他の面々も回復させてもらうという手順で大勢を立てなおした。
「し、しかし、一撃が重いわりに速い‥‥!」
「こっちは速くはないけど重たすぎる! 手が痺れてきたってばよ‥‥!」
 雪切も守紗も苦戦している。後衛組の支援があるので一人でも戦えているが、大技を狙うのは怖い。
 実際にバッシュブレイクからのポイントアタックで関節を狙った雪切だったが、剣がガードの姿勢を取り不発に終わる。
 逆に攻撃後の戻りを盾で殴り飛ばそうとするが、盾の攻撃を警戒していた雪切はこれを盾で受ける。
 盾の装備に盾の攻撃。雪切の死鬼に対する予感はよく的中していると言えよう。
「野郎っ! このソードシールドが厄介だぜ!」
「援護します! 一旦離れてください!」
 守紗も奮闘しているのだが、攻撃にも転用できる斧の盾に調子を狂わされっぱなしだ。
 鹿角がガドリングボウで援護するが、やはり大技で撃破にまでは移行できない。
 一方、杖担当の井伊と鷲尾は、迂闊に近づけずじりじりとにらみ合いを続けていた。
「うーん、どうします? 固まってると別の魔法で一網打尽とかされそうなんですが」
「バラバラに攻めたってトルネード・キリクだろうよ。どっちかが犠牲にってのも無理っぽいしなァ」
 仲間にジークリンデという恐るべき魔術の使い手がいるため、魔術の恐ろしさは先刻承知だ。
 味方にいると心強いが、敵に強力な魔術使いが居るとこうまで厄介なのか。
「仕方ありません‥‥やってみましょう」
「えっ、ジークリンデさんだけで!? ボクも手伝うよ!」
「神座様は剣と盾のアイヴィーバインドの維持を。レネネト様のサポートもお願い致します」
 そう言うと、ジークリンデはアークブラストの射程ギリギリのところまで杖に近づく。
 それは杖も気づいたようで、井伊たちと共にジークリンデの動きにも注意を払っていた。
 しかし、注意していてもどうしようもないことというのは存在する。
「雷帝の刃は敵を貫く」
 その手から放たれた雷光が一気に死鬼に叩き込まれる。
「深く」
 二発目。
「強く」
 三発目。
「そして疾く」
 四発目と、ジークリンデは手を休めない。
 だが、彼女の表情は冴えない。並のアヤカシならとっくに死んでいるのだが、相手は自分と同じように魔術に長けている。その分抵抗力も高いのではと踏んでいるのだ。
 その考えは正しかった。杖でガードしたとはいえ、杖の死鬼はまだまだ健在である。
「よもやここまでとは。術の威力自体は私が上ですが、耐性とのバランスが良いようですね」
 こうなれば相手が倒れるまで。そう思い構えなおしたジークリンデだったが、相手が杖を振りかざして火球を生み出したのを見て戦慄する。
 メテオストライク!? レネネトや神座を狙われたら恐らく避けられない!
 今から散るのは無理。被弾すれば大爆発し複数の後衛を巻き込む。
 妙に戦い慣れしている死鬼たち。その狙いは‥‥レネネト!
「くっ‥‥!」
 その声は誰が発したものだったのか。巨大な火炎弾がレネネトに直撃し、辺りに爆風が広がる。
 狩射の助けもあり、鹿角だけが爆風を回避することに成功したが、他の面々は見事に巻き込まれた。
 一応レネネトとジークリンデは抵抗力が高く思ったより生命力があるのでまだ動けるが‥‥
「神座さん!? いけない、傷が深い‥‥!」
 鹿角が慌てて駆け寄るが、神座はすでに意識がない。ジークリンデの術で回復させるにしても、どこか静かな場所のほうがいい。
「この骨野郎! 貴重なロリになにしやがんだコラァ!」
「師匠、怒るとこ間違ってるって!」
「おっとつい本音が。貴政、刄久郎、透夜、俺らで殿やっから気合入れろ!」
「了解しました! 支援なしでは厳しいですから当然の判断です!」
「これで洞窟からあまり離れられないとかだと楽なんですけれどねぇ!」
 しかし、井伊の希望は見事に打ち砕かれた。後衛組を逃す間、別方向に後退しながら戦っていた前衛組だったが、発掘現場から余裕で離れて追いかけてくるのだ。
 なんとか撒いた時には、すっかり森の中といった具合であったという。後の報告では、発掘現場に戻った形跡はないらしい。
 初戦は、その驚異的な戦闘力を測れただけで充分である。ここから分析し、対策を練り、次回に繋げるのが目的なのだから―――